神門&レイト@渋谷o-nest

術ノ穴主催による神戸のラッパー・神門のワンマンライブに行ってきた。直前まで予定が読めず、前売り券も買えなかったのだけど、当日券があるとの案内をTwitterで知り、初ワンマンとなる記念のライブをこの目でどうしても見たく、渋谷に向かった。18時半過ぎに渋谷o-nestに入ると、フロアはそれほど混雑しておらず、ステージ前に4列ほどできているだけだったが、次第に込み始め、前座のレイトが始まる頃にはちょうどいい感じに埋まった。
【レイト】 19:01~19:20

ワンマンライブに前座がいることがいまだよく理解できないのだけど、ともかく約1年ぶりのレイトのライブだ。先月リリースされたミニアルバムは、結局視聴機止まりで買うまでには至らなかった。今回はバンドセットでのライブと聞いていたが、実態はベース、ギター、ドラムといったバンドをバックにラップするわけではなく、DJの他にギターがひとりいるだけだった。
幕開けはファーストアルバム『明日など来るな』の1曲目「馬鹿な奴」。声がよく出ている。続く3曲は新譜からのもので、ギターを導入したことに納得の曲調だった。ギターを大胆に取り入れるのはLil Wayneの話題の新作でもなされているようだが、レイトの場合はフックでビジュアル系のそれのように開放感や叙情性を伴った歌メロに変化する。
喉を押し潰したデス声も加わり、声色が以前よりも多彩になった上に、ラップの聴き取りやすさも向上している。しかし、吐き出される言葉は呪詛だったり、恨み言、悪態等々の彼らしさは変わらず、ポップなフックがありながらも暗黒空間を作り出していた。もちろん彼なりの一筋の希望も歌われはする。けれど、圧倒的な負の言葉の連なりの中に飲み込まれてしまっていて、印象に残らない。
ギターや歌メロの導入により、普通のヒップホップとは異質な方向にさらに突き進んでいて、人によってはこのジャンルの中には入れられないと考える人もいるかもしれない。ただ、ライブパフォーマンスとしては迫力のあるものだった。
1年前のライブでは全くなかったMCを短いながらもしていて、最後には"ありがとうございました"とフロアへの感謝の言葉まで述べていた。
1.馬鹿な奴
2.鴉
3.さよなら昨日
4.巨人
5.過去の人
舞台転換中のDJタイムには、4月にようやくのファーストアルバム『音楽ワルキューレ』をリリースするDOTAMAがマイクを握り、短い時間ではあったけれど前日に金曜ロードショーで放映された『崖の上のポニョ』や朝青龍ネタで盛り上げた。
【神門】 19:40~21:52

"渋谷Oネスト、神門2時間ワンマンライブ!"の第一声でスタート。1曲目は自身の決意を明確に述べる「表明」だった。最後まで持つのか心配になるぐらいに最初から全力疾走で、少しも手を抜かない。MCなしでそのまま2曲目に突入。RADWIMPSの「ささくれ」にそのままラップを乗せた「J-Popより愛を込めて」。この曲はどんなにすばらしくてもネタがネタだけに音源化は不可能だろうし、DARTHREIDERの「HIPHOP hiphop」のように無料ダウンロードにすればいいのにと思ってしまう。
3曲目は初めて聴く曲で、"思い出します まっすぐな気持ち"で始まるラップをミュートしたトランペットのループの上に乗せ、クラブに行き始めのころの心境を綴る。
ここでひと息ついて、MCタイムに。ワンマンも初なら、2時間という長丁場のライブも初めてだと話す。聴き手と歌い手の双方のことを思えば、90分ぐらいのライブがちょうどいいのだろうけれど、"2時間後にはひと回り大きくなった人間がステージに立っていると思います"と力強く宣言し、さらには、"2時間というと聴いている方も相当な体力を使うと思うので、気軽に肩の力を抜いてって敢えていわず、集中切らさず2時間気合い入れて付いてきてください"とフロアを強気に鼓舞。
観客からひときわ大きくかぶせる声が響いた「宝石」を歌い終えた後に、再び長めのトークタイムを設け、今回のライブのテーマを説明。"この2時間で僕が見せたいのはひとりの人間の人生です。この2時間のための23年間でした。時間を自由に行き来しながらひとりの人間が歩いた道程を表現します"。ステージの後ろに掲げられた4つのホワイトボードに"2005"と書き加え(その後、"2006"、"2007"と書き換えられていく)、"まずは自分が初めてステージに立ったときまで時間をさかのぼり、自分のラッパー人生を語る上で外すことのできない出来事と遭遇します。「ノルマ地獄」!"
いよいよワンマン本編が始まる。
チケットノルマで苦しんだ曲の後は、なじめなかった大学生活を歌った曲が続く。ヴァースで"人見知り aka 無愛想"とラップし、フックでは、"人生というショーケース 燃やす情熱 高みへの挑戦"のラインが印象的な楽曲だけど、聴くのは初めて。
2006年。ラップも学生生活も決して順調ではなく、がむしゃらにもがいてはいたけれど、見るもの全てが新鮮で楽しくもあり、前へ前へと進むことだけに必死だった神門青年の人生を一変させ、後にファーストアルバム『三日月』を作らせることとなる女性との出会いがあった、との語りに続いて始めたのが「裸部ソング」。
ファーストヴァースは鍵盤による上音のみ。後半はアカペラ。そのまま「重い出」のイントロ飛ばした"両想いじゃなかったのは淋しいけど"へと繋ぐ。この2曲に込められた神門の想いの深さ、不器用さには目頭を熱くさせられて困った。だいぶ年の離れた男に泣かされるとは、と理性では思うのだけど、やるせない言葉を真摯に紡いでいく姿にもう少しで防波堤が決壊するところだった。
その相手に思い切って気持ちをぶつけたものの、見事に玉砕。当然好きという気持ちをだらだらと引きずり、ようやく立ち直れる兆しが見え始めた半年後に、"なにげなしに電話をしてみた"とのイントロでスタートしたのが「やくそく」。なさけないまでに相手の言葉にすがる男を描写したリリックは秀逸。再び涙腺が緩みそうになる。
しかし、しかしだ。こんな大恋愛、ではなく大片想いをしていた男が次のMCで話したのは、"実はこの2日後生まれて初めての彼女ができました"との告白。ちょっと笑ってしまった。まあそういうものだとは思うけど。
さすがの神門青年はここでも期待を裏切らない。"右も左も分からず幸せのど真ん中にいながら苦悩の毎日でした"と独白、相手との距離感をつかめずしつこくしすぎたらしい。用もないのに彼女の家に遊びに行けば、何しに来たのとすげない態度を取られ、何日も電話に出てもらえない日々が続き、彼は"考えに考えた夜道で考えがループして前向きになれたときに空を見上げたら遠くからこんなメロディが流れてきたのでした"とロマンティックに語り始めたのが「時雨」だった。
初ワンマンということで、曲順がよく練られたライブだったし、練習のたまものというべきDJとの良好なコンビネーションが見られ、大きく歌詞が飛ぶこともなかった。曲間のMCも同様で用意されたネタはどれも関西弁による軽妙さが伴った面白いものだった。
「時雨」の後のMCでは、平井堅のシングル曲「僕は君に恋をする」のサビがどれだけすごいかを、アカペラで歌ってみせながら深読みに深読みを重ねてしばし力説。平井堅もびっくりな作り手の気持ちの汲み取りようだったが、最後のオチも最高だった。
その曲のサビの解釈は次の曲への導入部であり、この日のために他ではやらずに取っておいたという新曲「信信」が披露された。トラックはバックDJを務めたDJ KENGO。積み重ねられた鍵盤が麗しいラブソングで、ひたすら後悔し、自分にいい聞かせる内容。"信じる心を持つより、疑う心を捨てれば良かった"。
やって来た別れの4月。エレファントカシマシの「月夜の散歩」を下敷きにラップしたのは『三日月』の特典CD-Rに収録されていた「これから」。ファーストヴァースはそのままだったが、セカンドヴァースが一新されていた。続く「辛≒幸 (成長II)」も最後以外のフックが差し替えられていた。
神門は"2007"まで進んでいた時の流れを"1996"に戻し、「陽だまりのうた」をラップ。
終えると得意そうに持ち出してきたのは、1996年に作られた小学校3年生のときの文集だった。「グッピーのお祭りだ」、「ローラーブレードをした」、そしてダントツの出来に神門が大賞を贈った「お母さんのお年玉は品物だった」の3作が読まれた。ライブで作文を、しかも自作ではなく他人のを朗読するのを見るのはさすがに初めてだった。面白かったけれど。
前半戦の最後は「黄昏」と「家族」。「家族」の焼肉を食べるシーンにもじわじわと熱いものがこみ上げてきた。
80分強の前半と後半との間に3分ほどのインスト時間があり、灰色のTシャツに着替えた神門が戻ってくると、まずはホワイトボードを"2010"に書き換えた。
"昔の恋人に捧げる!"との勇ましいかけ声で始めたのは「HERE IS HAPPINESS」。人気曲だけあって歌っている人も多い。
いつまでもあり続けると思っている場所でもそこに当たり前のように存在しているわけではなく、失わないように愛情を注いで上げてくださいとの言葉を前口上に、昨年の3月29日に閉店した神戸のクラブpi:zに向けて歌った曲が披露された。
続いて、"下を向いてばかりいてはいけません"と始めたのは成長シリーズの新作「成長V」。"もっと上もっと上もっと上"の連呼が印象に残る。リリックからも彼の視野がどんどん広くなっていることがうかがえる。最後には、"俺はラッパーのままで死ぬ"と華麗に見得を切ってみせた。
今回のライブにおける桑田佳祐(水の補給)や美輪明宏(ステージ衣装。計3回Tシャツを変えた)の影響について笑いを取った後に、長渕剛が10時間ライブをやったとき、体力の限界をはるかに通り越し、疲労困憊の彼が最後の曲に選んだのは持ち曲の中でも最も長尺な曲だったという男気溢れるエピソードを披露して、自分もそれに倣って選んだ曲ですと始めたのはセカンドアルバム『こころ』の一番最後に収録された約8分半の「さて、どう生きようか?」。
今回のワンマンはゴールでもスタートでもなく、途中であり、"これからも応援いただければ嬉しい限りです"と決意を述べてスタートさせた最後の曲は「成長IV」。"音源が生んだ儲け"は今では少しずつ下ろして使っているらしい。ラストヴァースでの"そいつは半袖の神門だ"をかぶせるフロアの声の大きさにまたまたジーンと来てしまった。彼が懐にトリスを忍ばせ、出来合いのリリックでフリースタイルをしていた昔から知っているわけではないけれど、彼のひょろっとした容姿や赤裸々に内面をさらけ出しすぎるリリックからも、これまでのラッパー人生色々あったことは容易にうかがい知れるわけで、今ではワンマンでフロアを満員にし、みんなが"そいつは半袖の神門"にかぶせるのだ。全く関係ない赤の他人でも嬉しくなってしまう。
そして本当の最後。ここまで2時間ぶっ続けでライブしてきたとはとても思えないような声の強さでアカペラでのフリースタイルをかました。「TERIYAKI BEEF」動画が出回ったときにクラブの中ではその話題で持ちきりだったけれど、ひとたび外に出ればSEEDAの名前さえ知られていない現実がある。なのにいまだヒップホップは内々で線を引き、あれはヒップホップだとかこれは違うだとかいい合っている。もうそんなことは止めにしよう!、という非常に熱いものだった。何台かカメラが入っていたが、あの1分にも満たないフリースタイルだけでもYouTubeにアップして欲しい。パソコンの小さなモニター越しであっても、あの熱くたぎる想いの強さは偏狭な気持ちで自分の愛するヒップホップ観にだけ囚われている人の心をも融かせるかもしれない。
特大の感謝を述べ、BUMP OF CHICKENの「プレゼント」が流れる中をやり切ったふたりが退場。曲が途切れると、フロアから神門を求める野太い声と拍手が湧き起こる。
実はアンコールの準備をしていたというふたりが出てくるが、曲はもうやらないけれど少し話させて下さいとワンマンまでの道のりを語り出し、やがて自分の目標に話が移る。最近の軸となる目標は友達の自慢になりたいということらしい。その友達というのは、近しい人はもちろんのこと、この日に遠くから足を運んでくれた客も含め、自分に関わった人全てであり、それらの"単純に自慢できる友達の自慢になりたい"。例えばミュージックステーションに出ることであり、そうすればこいつ知ってる奴なんだよといわれるわけで、そういう存在になりたいと真っ直ぐに語っていた。
"クラブ・ピーズと今までの出会い別れ、そして今日の日に捧げます"、と野狐禅の「さよならの唄」を流し、神門はステージを後にした。"スゲー良かったよ"と口々にいいながら出口に向かう人たちの上を心打つ歌声が響く。"今までぼくらが交わしてきた 色とりどりのさよならを~"。
すごくいいライブだった。上述したように構成が非常によく練られていて、テーマに沿った曲順、また挿入される曲説明も人柄の良さが滲み出たMCのおかげでくどさをやわらげていたし、意図がはっきりしているために分かりやすかった。持ち前の明瞭なラップは、リズム感の良さとも相まって、言葉を心地良く耳に運んでくる。新曲であってもトラックのノリの良さではなく、内容で盛り上がらせる力がある。ラップを始めて10年というMCはごろごろいるのだろうが、2時間のライブをやりきれる人は少ないだろう。彼はたった5年でここまで来た。最後に語ったミュージックステーションへの出演という目標も単なる夢ではなく、本当に実現できるのかもと思い始めてしまう。こうした想いの伝染力の強さも彼の魅力のひとつだと思う。
最初はステージに立ってラップをしたいという目標だったが、音源を出したい、ワンマンをしたいといった具合に目標をひとつひとつ達成していくことで反対に次に何がしたいのか迷うときがあると、最近の目標を語る前に話していた。
聴き手として、小さなクラブに出ていたころからその活躍を見ていたラッパーがメジャーな音楽番組に出ることはすごく嬉しいことだが、その前に完璧な1枚のアルバムを聴きたい。たった10曲でいい、40分にも満たない作品でいい。そこに「重い出」や「成長」シリーズ、あるいは「表明」、「○月×日」「HERE IS HAPPINESS」、「さて、どう生きようか?」、「大丈夫」、「手」、「夜汽車」といったこれまでの重量級の楽曲に匹敵する曲だけを詰め込んだアルバムが聴きたい。リリックの良さは折り紙付きなわけで、あとはトラック。それと同じぐらいに重要なのは、ライブでの熱量をそのまま音盤に写し取れる優秀なエンジニアの手で音の処理がされることだ。神門の作品は音が薄い。ライブで聴いてしまうと、作品を聴くときは生だったらきっとこうだろうなと耳が補正しながら聴いてしまう。
「表明」の中で神門はいう。"「アルバム一枚通して聴きやすいように」なんて考えてない / 一曲をループして聞き込んでくれ んで、次の曲にいってくれ"。その通りなのだけど、ひとつの作品の中に曲が詰め込まれるほど、1曲への集中力が薄れるのも事実だ。楽曲の質が高ければ、収録時間の短さなど気にならない。反対に何度も繰り返せるから、全ての曲に愛情を注ぎ込める。
各々が抱える現実をはぎ取り言葉にするのはどのラッパーもやっていることだが、今の国産ヒップホップの中でも最も鋭利なナイフを持ち、己をえぐり続けている神門だからこそそういった完璧なアルバムを期待したい。



1.表明2.J-Popより愛を込めて
3.?
4.宝石
5.ノルマ地獄 remix
6.?
7.裸部ソング
8.重い出
9.やくそく
10.信信(新曲)
11.これから
12.辛≒幸 (成長II)
13.陽だまりのうた
文集の朗読
14.黄昏
15.家族
16.HERE IS HAPPINESS
17.pi:z
18.成長V (新曲)
19.さて、どう生きようか?
20.成長IV
フリースタイル
アンコール
語り







1.?

