すばらしくてNICE CHOICE

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無料配信ミックステープ4月号(2012)
2012年4月にアップされた国産ヒップホップ・フリーダウンロードミックステープ一覧。JPRAP.COMに、2Dcolvics、そして@KSK1988さんのおかげで今回も様々な作品と出会えることができました。毎回簡単に済ませていますが、本当にありがとうございます。それと、素晴らしい楽曲にも関わらず無料でダウンロードさせてくれるアーティストにも大きな感謝です。


てっとり早くお勧めを教えてくれという方には上の3枚!左は最近活躍が目覚ましい1988年生まれの東京在住のトラックメイカーXenRoNによるJay-Z『Black Album』のリミックスアルバム。かなり短時間で量産しているにもかかわらず、多彩な音を生み出している。すごい。真ん中は西東京を拠点にするKOOGIのトラックメイカー名義で仲間と共に出したミックステープ。前作同様に安定した品質で楽しめる。右端は今回初めて知った埼玉のラッパーで勢いのあるラップを堪能できる。ジャケットクリックでDLリンク先へ。


【△】VA『GOLDEN DEMO 2』
2012.04.01 / 全14曲44分 / 160kbps / HP
快進撃を続けるLOW HIGH WHO? PRODUCTIONに送られてきたデモ音源をまとめたもの。第1弾はずいぶんと楽しんで聴いた覚えがあるが、今回は小振りな才能が多い印象だ。LHW?に送られたものだけあって、レーベルカラーにあった楽曲が並ぶのだけど、その中で蝦夷の剛腕フロウは目立つ。他にも知っている名前がちらほら見られるが、各人とももっといい曲があったはずだ。ひとりポエトリーリーディングだった近藤孝次は雰囲気があって良い。でも何といってもY-クルーズ・エンヤが全てをかっさらっていく。LHW?に送るということは広く聴かれるということで折角のチャンスなんだからもっと気合の入った曲を送るべきだと思うよ。M13は突飛なテーマだけではなく、メロディもあるからこそ耳を惹く。


【◎】絶招×Kerberos『Remixed EP』
2012.04.01 / 全7曲17分 / 320kbps / bandcamp
配信終了。HAIIRO DE ROSSI主宰レーベルforteに所属するトラックメイカーKerberos(Pigeondustの別名義)が、昨年10月に出されていた絶招のフリーDLミックステープ『DEMO EP』の収録曲をジャジーな音でリミックスした作品。原曲を聴いた時はそれほど良いとは思わなかったラップがこれほどまでにかっこよく聴こえるようになるとはかなりの衝撃。リミックスとはこうあるべきという模範のような作品。


【○】ジャスタウェイ『Jazzical』
2012.04.04 / 全10曲37分 / 192kbps / YouTube
配信終了。夢僧とKing-jの2MCに、CLOWNの1DJによる名古屋のグループ。洒脱なジャズトラックの上に乗せられるラップの大半がそうであるように、ラップだけを取り出すとそれほど特徴はないが、ジャズを基調にしたヒップホップは最近では珍しく、音の雰囲気を壊さないラップといえないこともない。もちろんラップが下手なわけではない、ただ目立ったのが10曲の中で唯一挑発的な言葉を投げかけるM5というのは彼らにとってはきっと不本意だろうが、まあ耳を素通りするタイプの言葉の羅列になっているので仕方のない話。


【△】Shintalow『What You Here Is S』
2012.04.04 / 全7曲19分 / 160kbps / Twitter
NIHA-CやDJオカワリがいる名古屋の國枝URBAN CAMPに所属する3人組Ethnic Blendから、まずはラッパーのシンタロウがソロ作を発表。昨年末にフリーDLで出した「Gloria」(YouTube)の出来が本作への期待値を分不相応に上げてしまう。本隊と同じようにジャジーな音の上に真面目さが伝わるラップ。悪くはないし、伝えたいことも確かにあるのだろうが、言葉が上滑りし、結局何がいいたいの?となる。致命傷はファイル名にも曲名にも曲順が埋め込められていないため、正しい順番が分からない事。内容で勝負するアーティストにはとても大事なことだと思うのだけど。


【○】KILLASUGA『Sugar Free Vol.1』
2012.04.06 / 全7曲24分 / 192kbps / Twitter
"俺がキラシュガァ 今日もどでかく稼いでるぜぇ"で始まるラップは誇大妄想気味のラッパー特有のそれであるが、"現場"という価値観がいまだ重視されているヒップホップにおいて実戦で盛り上がるならそれは正義なのだろう。使われている洋物トラックともよく合っている。池袋のクラブbedを中心に活動しているF.E.S(FarEastSiders)というクルーに所属しているそうだ。


【○】Radoo『Sky Berry』
2012.04.08 / 全11曲39分 / 192kbps / Twitter
ラッパーのBBとDJのWarkarと共に大阪でGhost Dogというグループを組んでいるラドゥのソロ作。直前の1週間に毎日1曲ずつ配信することで期待を煽り、米国産のように裏ジャケまで用意し作り込んでいる。オリジナルトラックを揃えた意欲作だし悪くはないが、大阪らしいアクの強さが消臭されているためか、渋谷宇田川辺りのすかした印象を受ける。音も派手だし、フリーだからという安っぽさがないのに、もったいなさは最後まで残る。


【△】DJ 49『Da Cypher』
2012.04.09 / 全28曲53分 / VBR / Twitter
配信終了。2004年のリリースパーティ時に配布されたミックスCDをアップしたもの。1997年から5年間に渡りJ-WAVEで放送された「J-Wave Hip Hop Journey -Da Cypher-」(詳しくはここ)から、Shing02に始まり、KREVA、ラッパ我リヤ、K.O.D.P、K DUB SHINE、ニトロ勢などがゲストで来た際に録り下ろしたフリースタイルをミックス。当時のCMをスキットに挟んだり、感動的な最後の挨拶なども収録されていて、国産ヒップホップの歴史を感じさせる。が、現在のフリースタイル技術の劇的な向上を考えると、ここで聴けるそれはあまりに化石然としていて(シンゴ2に至っては黒歴史)、歴史的価値以上のものは見出せない。懐かしい人にはたまらないだろうけど。


【○】Jay-Z『The Black Album XenRoN Remix』
2012.04.09 / 全14曲51分 / 192kbps / Twitter
これはちょっとすごいね。オリジナルを聴き込んでいないこともあるのだけど、こんなトラックが並ぶなら一発で気に入る。耳を惹きつける明るい旋律の脇をいくつも補足するラインを走らせたりして、音を追う耳の心地良さといったらない。音をいくら飾リ立てても、ラップそのものに華やかさがあり、過剰だということにはならないが、抜くところではしっかり抜くし、そのメリハリも含めて、ここ数カ月でいきなり登場したトラックメイカーとは思えない。


【○】Jay-Z『American Gangster XenRoN Remix Tape』
2012.04 / 全15曲54分 / 128kbps / Tumblr
猛烈な勢いで洋邦問わずリミックスを発表し続けているシェンロンによる、こちらはジェイZの2007年のアルバム『American Gangster』の全曲リミックス作。聴き手を飽きさせない音で構築され、全く琴線を震わせなかったオリジナルよりもずっと楽しめる。ただ、上記のブラックアルバムはラップに力があるため、本作よりも上に思える。


【△】歪瞳『サ行LP bootleg』
2012.04.11 / 12曲32分 / 128kbps / Twitter
配信終了。ワイドウと読むニコニコ動画で活躍するソロラッパーの海賊版ミックステープ。直前のツイートに、"勝手に動画から音源ブッコ抜いて勝手に解説つけてZIPにして横流しする"とあったので、詳しくは不明だが、出す出す詐欺に憤った友人が発表したもののよう。私がイメージするニコ動ラップそのもので誉める点を探そうにも見つからない。まさに肉。曲名だけユニーク。


【△】SNEEEZE『Humility』
2012.04.13 / 全20曲30分 / 320kbps / Twitter
2月の『Feel So Good』、3月配信限定アルバム『DEVICE』に続く4本目のミックステープであり、本日(30日)配信のミニアルバム『MIND』の露払い的作品でもある。まあよくリリックを書いている。ただ、少々飽きてきたのも事実で、目立つのはアルバムにも収録されていたM11ぐらい。客演が必要かも。あるいはSALUの『In My Shoes』の丸々リミックスとか。同時期に出てきて、似たようなスタイルで、互いに思うところはあるだろうし、同じビートに乗っかり自分がどれほどやれるのか、リリックでは勇ましいけれど実際に証明できる良い機会かと。


【○】NORI aka Takachang『a multiple personality』
2012.04.13 / 全20曲35分 / 128kbps / blog
東京のラッパー兼トラックメイカー。昨年9月にソロ名義で最初のミックステープを発表し、本作でついに3本目となる。その間、クルーのN.R.Bでも1本出し、仲間のMI'zの作品では大半のトラックをプロデュースした。本作はリミックスを主体に例のぬめったラップを聴かせる。お世辞にも巧いとはいえないし、ミックスも微妙で、狭い日本語ラップ界隈でも話題にならないのは仕方ないにしても、二十歳前の若さでこれほどの行動力は評価できる。


【○】KO35H32『RONIN BEAT TAPE PT5』
2012.04.10 / 全10曲33分 / 320kbps / HP
大阪のトラックメイカーのシリーズ最終章となるビート集。情感豊かな和のテイストをしっかり重いヒップホップビートに落とし込んでいるのが面白いし、短編小説のようなさらりとした展開にも妙味を覚え、私のようなインストが苦手な耳にも物語を感じさせる音がある。ただ、はまらないのはそれはもう単純に相性の問題だろう。


【○】れと『FANCY for REAL+2 〜INST〜』
2012.04.13 / 全7曲24分 / 256kbps / Twitter
配信終了。れと名義の1月の7曲入り初ミックステープ『FANCY for REAL』から、栃木のトラックメイカーAhosによる5曲と、彼がリミックスしたMIDCRONICA「rust」のインストや番crewの楽曲のリミックスインストの2曲を加えた、いわばアホスのインスト集。1月にも書いたようにビートはあっけらかんと軽快に打ち鳴らされる。強い個性があるわけではないが、小難しいことを考えず、まず音を作ってみよう出してみようという姿勢が吉と出ている。


【×】C.W.C『DEMO』
2012.04.12 / 全6曲25分 / 160,VBR / Twitter
配信終了。C.W.Cは"Castle West Crew"の略で、茨城県は龍ヶ崎のグループだそう("城西"由来かと思ったらそういうことでもないのか。あの辺の人たちが好きそうなネーミングだけど)。確かに常磐線周辺な90年代ニューヨーク好きです武骨ですみたいな雰囲気を醸し出している。今もまだこんなグループがいるのね、温故知新って素敵と思えるのは耳が復活したからで、曲順は振られていないし、何より音量調整最大値という罠にはまり、鼓膜直撃を食らった。作品として最悪。


【○】釈迦坊主『中二病 LP』
2012.04.14 / 全9曲34分 / 192kbps / HP
東京在住のラッパー兼トラックメイカー。レイトのような不幸ラップを得意とするようだが、彼は世界の不幸を自分に引き寄せていたのに比べると、釈迦坊主は伝え方がイマイチなため(ビートを強調しすぎて、音のバランスがラップと対等になっている)、どこにでも転がっている不幸物語で終わってしまっている。言葉やテーマが重要になってくるスタイルだけにビートを従とした方がいいし、できない早口ラップも同じ理由から止めた方が良い。


【○】Beats Zan『Beats Zan Remixies Vol.3』
2012.04.15 / 全12曲49分 / 320kbps / YouTube
2月のVol.2は洋楽リミックスだったが、第3弾の今回は日本のヒップホップやR&B編。しかもKREVAやm-flo、RHYMESTER、安室奈美恵、AIと大物を手掛けている。NORIKIYOファンも存分に楽しめる。原曲から大きく改変しているわけでもなく、雰囲気を大事にしているのでどの曲も違和感なく聴けるし、もしかしたらこっちの方がいいかもしれないという曲もある。


【○】VA『Japanese Lyrics VS Underground Musics』
2012.04.15 / 全10曲48分 / 320kbps / Tumblr
ネットレーベルedsillforRecordingsがアップしたコンピ。IDMやブレイクコア(前者はインテリジェント・ダンス・ミュージックの略で、後者はウィキによると、"高速ブレイクビーツにディストーションをかけたスネアキック"を特徴とする音楽ジャンル)に分類される作品を出しているレーベルで、今回は日本語ラップを題材に大幅に改変していて面白い。NMRをネタにしたM7なんてまず曲名が秀逸すぎる。少し前に話題になったミルクラッパーの曲も登場したりするが、基本的には日本語詞に対していい意味で敬意を払わず好き勝手やっているので、新鮮な驚きがある。


【○】Kicker & Reason『1986: The EP』
2012.04.20 / 全8曲24分 / 320kbps / bandcamp
岐阜のヒップホップクルーBEAT CONNECTION CREWに所属するラッパー・キッカーと、思い出したように木曜日にフリーDL曲を発表していた名古屋のトラックメイカーReezy"B"によるコラボ作品。リリックの内容自体はたいしことはなく大方は麻についてで、重心を後ろにややずらしたフロウで聴かせるスタイルのキッカーのラップがソウルフルな音の上に乗る。平坦になりがちなラップを多彩なトラックで支えている感はなきにもし非ず。


【○】ILL BLOCK CORNER MUSIC『NATURAL RE:BORN』
2012.04.20 / 全15曲40分 / 192kbps / Tumblr
Greedy、Khaos、Hadesという3MCのグループ。インパクトのあるジャケットそのままの不良ラップ。こういう機会でもなければ聴かないたぐいのスタイルであり、笑ってしまうのは事実だが、フリーDL界隈にこの手のラップはまだまだ少なく、幅が広がるの良いことだ。しかもノーDJ版だけではなく、BEERTMAN JUNIORがホスト役をしている版や1枚ファイルになっているものまで3種類も仕様があるのは見かけによらず聴き手に優しく、見習うべきことが多い。


【○】RUMCHOP『Play Ya Color』
2012.04.20 / 全20曲54分 / 192kbps / Twitter
ラッパー・コージのトラックメイカー名義ラムチョップが西東京の仲間を集めて作った2本目のミックステープ。さしずめ上のIBCMが成長したらこうなるといったスタイルだが、M2でいきなり社会派の側面を見せたりしているのは興味深い。1年前の1作目(DL先)同様によくまとまっている1枚で、M8での和みやコージのM14はかなり聴かせる。女性ラッパーMIChinoも良いアクセント。地味に人気のある元ICE DYNASTYのKNZも参加している。


【○】CORVET『BEAT COMPANION SERVICE』
2012.04.20 / 全13曲29分 / 320kbps / bandcamp
"遂にMPCと結婚しちまったイカしたトラックメイカー"と刃頭も注目する大阪在住のコルベットのミックステープ。マイケル・ジャクソンで遊んだM1で始まり、軽やかにポップでお洒落らしさも演出され、外に向けられた音が並ぶ。が、曲自体は短いにも関わらず単調であるためにやや飽きが来やすいのだけど、鍵盤が小気味良いM8から尻上がりに良くなる。


【○】XenRoN『KREVA Remixes&Instrumentals Mixtape』
2012.04.22 / 全5曲17分 / 192kbps / Tumblr
聴きやすさと同時にアクの強いクレバのラップにいささかも負けることなく渡り合っている音作りは立派。リミキサーの個性だけを全面に押し出すことで曲に新しい表情を付けるのもリミックスの面白さだが、素材となるラップの良さ(クレバだから可能という一面もあるが)を引き立たせつつ同時に音の構築の妙も表現。残念なのはサウンドクラウドで連日発表してきた曲だけをまとめているため新作がなく、逐一チェックしている身には物足りないこと。


【○】KITAKANTO SKILLZ『URAKANTO -CHOPPED & SCREWED mix-』
2012.04.22 / 全18曲72分 / 128kbps / blog
昨年最も勢いがあったとされるヒップホップクルーSIMI LABよりも衝撃だったとの声も聞かれる北関東スキルズ。そのファーストアルバム『BUFFALO REPORT CODE:』以前に自主流通させていた3枚からなる「ILLAKANTO」シリーズの曲をチョップド・アンド・スクリュードさせたのが本作。韻踏合組合が『紫盤』を先日発表していたが、いまいちこの改変の面白味が分からない。ただ、何か1曲でも引っかかると意外に楽しめてくるのはいつものことで、M7での間延びしたラメラメに不思議な酩酊感を覚えるとその後の数曲がいいなと思えたので、聴き込めばはまるのかも。


【△】Sweet William『WILLDONE BEATSTRUMENTAL FOR DANCERS』
2012.04.22 / 全7曲12分 / 160kbps / HP
配信終了。今月上旬に出たシンタロウに続き、名古屋のエスニック・ブレンドから今度はトラックメイカーのスイート・ウィリアムがソロ作となるビート集を発表。"FOR DANCERS"となっているわりには全くもってグルーヴを感じさせない。作り手の部屋の中だけで完結してしまっていて、頭を振ろうという気にもならないが、もしかしたらヒップホップよりも電子音楽好きに好まれる音なのかもしれない。


【○】trinitytiny1『wasted wasted wasted wasted』
2012.04.23 / 全19曲78分 / 320kbps / bandcamp
タイで広告マンとして働く日本人ツイッタラ―・trinitytiny1の初音源。ERAのスクリュー版や旧来の意味でのミックステープを昨年辺りから精力的に発表する一方で、少しずつ出していたオリジナル作やリミックスを新曲と共にまとめたもの。最近はやりの薄く引き伸ばしたような音を特徴とし、前半こそはその眠気の前に屈服してしまうものの(M2は別)、M9からの3曲のチキチキに覚醒させられ、次第に心地良くなる。


【○】Boz Bug & PEACE『Starter』
2012.04.25 / 全12曲40分 / VBR / YouTube
配信終了。ボズバグとピースによる福岡のヒップホップデュオ。ふたり共高校3年生とのこと。ボズバグについては2月に発表されたフリーDLのシングルやノリ aka タカチャンのミックステープで見かけたが、まあふたりともお世辞にもラップがうまいとはいえない。ただ、"やりたいことをやる、ただそれだけ!"との意気込みは立派だし、なにより"全曲ビートジャック、レコーディングはアイフォン"という行動力は賞賛に値する。


【○】Nasty Ill Brother S.U.G.I.『BOREDOM EP』
2012.04.25 / 全13曲23分 / 320kbps / bandcamp
神奈川のトラックメイカーILL.SUGIが別名義(?)で出したビート集。後半3曲はRapper Big PoohやJ-LIVEといったヒップホップの良心ともいえそうな良質ラップのリミックス。M7を頂点にしたキラキラさと、音の黒さのバランスが素晴らしく、それぞれの曲自体は短いにも関わらず、自分の美学をきっちり表現できているものだから、短くとも確かな聴き応えがある。


【○】Naoto Taguchi『Nameless.Ep』
2012.04.26 / 全8曲11分 / 320kbps / bandcamp
福岡Oilworks Rec所属、東京在住のトラックメイカーが2枚同時に発表したビート集の1枚。1分半前後のそっけないビートが並ぶ。M4のように分かりやすいメロディがあると楽しめるのだけど。


【○】Naoto Taguchi『Anticlocks.Ep』
2012.04.26 / 全8曲11分 / 320kbps / bandcamp
もう1枚が本作。こちらは歌ものであり、その波状攻撃ともいえるエディット(?)具合にはよく利いた低音のおかげもあり、悪酔いしそう。



【○】Osurek Bertop『THE OSUREK SHOW Vol.1 Nepal Invasion』
2012.04.26 / 全11曲22分 / 320kbps / bandcamp
上に書いたケルベロスと同じく、ハイイロデロッシのレーベル・フォルテ所属のトラックメイカーのビート集。そのハイイロのリミックスではダークなトーンを基調とする音を浮遊させていた。その印象が強かったので、ネパール・ポップスを全面使用することで異国情緒を醸し、同時にどこか日本の歌謡曲っぽさも忍ばせ、明るく開放的な音になっていることに驚く。外国の濃厚な音を使っても安易に染まらず、冷たさを含ませている辺りは先のリミックスに通じる。


【○】JUSTY ACE a.k.a JA飛龍『JUSTY ACE -street album-』
2012.04.27 / 全12曲45分 / 192kbps / Twitter
SIMON JAP a.k.a KAMIKAZ、GRACE a.k.a 竜巻G、DJ HIROTO a.k.a DJ犬神の3人組グル―プによる2008年までに収録され、お蔵入りとなっていた音源。さんピンCAMP直系の悪ぶったラップだが、2007年、2008年といえばSEEDAの『花と雨』に始まるもっと真実味のあるワルを詩情豊かにラップするスタイルが一世風靡した時期であり、この古臭いラップを世に出さなかったのは賢明な選択だった。それから4年の月日が流れ、シーダ達にかつての勢いはなく、また英語風の発声を取り入れたフロウ重視のスタイルが流行となっている中で、あえてこの塩漬け音源を出すことは、それが手垢まみれのライムや声音であっても、さんピンのスタイルは日本のヒップホップの源流でもあるわけで、変わることのない普遍のスタイルとして今だからこそ素直に受け入れられるのかもしれない。


【△】Uncle Texx『Route 23 EP』
2012.04.29 / 全6曲20分 / 320kbps / blog
最近よく目にするJuke/Footworkと呼ばれるシカゴハウスを源流に持つダンス音楽を制作する三重のトラックメイカーの音源。この直前に短い紹介動画を見て知った気にはなったものの、実際は理解していない例のパターンに陥っている。動画での本場の音は間断なくチキチキが鳴らされ激しい踊りとの相性の良さが納得できたが、本作はそうではない。色々あるのだろう。それはともかく日本でこの音がはやったらみんなあのダンスを踊るのかな。


【○】himeshi『KURAYAMI NIRAI KANAI ep』
2012.04.29 / 全6曲21分 / 320kbps / bandcamp
埼玉は浦和のソロラッパー・ヒメシ。初めて聴くのだけど、こんなかっこいいラップをする人と容易に出会えるのだから、現在のフリーダウンロードブームは素晴らしい。M3のようなグライムも良いが、M2やM4、M6のどこかTAK THE CODONAを思わせる若干スピードを落としつつも前に出てくる毒のあるスタイルはラップの素直なかっこよさを体現している。いい。


【○】soakubeats『粗悪忠臣蔵』
2012.04.29 / 全13曲40分 / 320kbps / bandcamp
我慢しきれなくてやはり出してきたソアクビーツの20本目となるビート集。前半のイケイケドンドンなビートが好みだが、今作は日本人にお馴染みのあの物語を音で綴った一大音絵巻であり、最後の一音が鳴りやんだ時、粗悪内蔵助、あなたがいたことを私たちは忘れないと呟いてしまうコンセプチュアルな仕上がりこそを楽しむべきだろう。いつも以上に音を読み解く一助となる歌詞欄の言葉が面白い。人気役者・今夜が田中もカメオ出演!


【△】VA『Urban Sampler Session #7』
2012.04.29 / 全34曲101分 / 320kbps / bandcamp
与えられたお題インストを使いわずか3日間(72時間)で曲として完成させるという恒例企画の第7弾。どうにも面白味を覚えずスルーしていたらもう7回もやっていて驚く。32人もトラックメイカーが参加しているということで、収録時間が長いのも敬遠してしまう要因のひとつ。EeMuやogopogoといったLHW?勢からフリーDL界隈でよく耳にする人たち、あるいは九州の奇才leeに至ってはラップを乗せているのでそれだけでも聴く価値はあるかも。




【△】MI'z『Nervous System In Brain』
2012.03.30 / 全13曲38分 / 128kbps / blog
配信終了。本作の大半のトラックを手掛けているノリ aka タカチャンの作品や彼を中心としたヒップホップクルーN.R.Bの一員としても活躍するラッパーみっづの初ソロ作。大事なことを教えてくれる作品。素晴らしすぎてただで落とすことが申し訳なくなるようなミックステープが当たり前のように発表されている中で、でも同時にこのネットでの無料配信はラップ素人たちの腕試しとしての場でもあるわけだ。本作はそのことをとくと思い出させてくれる。


【○】VA『HAPPY BOOTLEG PARTY vol.1』
2011.12 / 全12曲65分 / 320kbps / Tumblr
高校生トラックメイカーHerrokkinのアカウントを見ていて存在に気づいたコンピ。昨年クリスマス頃に発表され、今の季節とは合わないが、オザケンリミックスがなかなか楽しい出来栄えだったり、続く竹内まりやのも悪くなく、パブリック娘。のリミックスまであるので紹介。ヘロッキンは坂本龍一の例のクリスマス曲を手掛けていて、良い仕上がり。ただ、次曲も同じネタでずいぶん酷な印象もあるが、雰囲気が異なる改変具合で反対に面白い。




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<まとめ>
2010年〜2011年1月〜8月分 Tegetther
2012年1月分 blog
2012年2月分 blog
2012年3月分 blog
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2012.04.30 Monday 23:59 | 音楽 | comments(1) | trackbacks(0)
無料配信ミックステープ3月号(2012)
2012年3月に無料配信された国産ヒップホップのミックステープ一覧(聴き落としも当然たくさんあるだろうけど)。JPRAP.COMと、2Dcolvics@KSK1988さんには本当に感謝です。おかげで今月も色々聴くことができた。


2012年3月のこれを聴いとけば大丈夫という3枚は上の3作品。左端は神奈川県は相模原のふたり組LowPassが打ち出したアルバムの販促としても有効なアイディア賞もののミックステープ。真ん中は女性ラッパーMICHOの多少路線変更をして聴きやすさが増した作品。最後のはkobori akiraというトラックメイカー兼ラッパーのもの。フリーDLの楽曲を漁る理由のひとつはこうしてまだ広く知られてはいない才能と出会える楽しさを味わえることだ。ジャケットクリックでDLリンク先へ。


【○】Do or DIE『Do you remember』
2012.02.29 / 全7曲23分 / 192kbps / Twitter
東京のリアルゲトー国立を代表し、1月にフリーDLミックステープを発表したばかりのヒップホップデュオ金持ち兄弟のDo or DIEのソロ作。ただ全曲プロデュースが相棒のGOD-machineなわけで、実質金持ち兄弟の作品のようなものなのだろうか。マリファナ、コカイン、暴力、ビッチ。具体的な名称が使われ、より劇画色も強まり、前作よりパンチラインが増したハスリンラップ。M6でのジャジー路線も頼もしい。ここまでいくと楽しくなる。


【○】BGY『根我tive QUEST』
2012.03.01 / 全11曲27分 / VBR / blog
長野のラッパーBGY。最近の活きの良いラッパーのフロウの影響を如実に受けていて、誰々風といえてしまう一面はあるものの、日本語の本来のイントネーションを大事にするという意識はあるようだし、またトラック選びのセンスは悪くなく、最も大事な自分が何をラップしたいのかということに対し、自覚がしっかりあるようだ。自分ならではのフロウをどう身に着けるのか楽しみ。


【○】Punkish B『Nip Hop』
2012.03.01 / 全10曲31分 / 320kbps / bandcamp
東京在住のトラックメイカー・パンキッシュBによるインスト集。初音源らしい。とても良い。昔ながらの太めのビートに、サンプリングがもっと大事にされ(今は安易にできないだけだが)、様々な才能がそこかしこで花開いていた頃を思い出させる。やや単調になるループもあるが、M1、M5、M8、M10といった曲には豊かな世界が広がっている。アーティスト名から想起する音とは違い、とても上質だ。


【○】atturussn'.....『march one day』
2012.03.01 / 全20曲57分 / 320kbps / bandcamp
リンク先のバンドキャンプでの名義は"atturussn'....."とあるが、ファイルには下でも紹介している西ノ森楽団のDJ Soul Funkyman名義であり、作り手がよく分からないのだけど、芯のあるビートとセンスの良い音使いのインスト集。曲名に"s.l.a.c.k.聴いてくれよ"とあったりして、そっちでも楽しませてくれる。


【○】腹巻『The EP 街と人』
2012.03.02 / 全8曲27分 / 160kbps / SoundCloud
NORIKIYO的に街の裏通りを活写するスタイルのラッパー。いるのかどうか分からないけれど、t-Ace好きも気に入るかも。大半のビートのをslepttとENOという人が手掛け、LIGHTの音も1曲あるし、相模原周辺のラッパーなのかもしれない。M4に参加している女性ラッパー(ギロチンが名前でいいのかな?)が気になるし、ENOのフロウも興味深い。ナンバリングはM9まであるが、M7がないために、実質8曲入り。


【○】西ノ森楽団『BEATを得たMC』
2012.03.06 / 全16曲47分 / 320kbps / bandcamp
2008年に一度リリースされた作品を無料で配信ということらしい。西ノ森楽団とは現在は東京で活動している鹿児島出身の男爵SHIGETINOとDJソウル・ファンキーマンを中心としたグループのよう。GAGLEのHUNGERの劣化コピーを目指すも挫折したのが男爵シゲティーノのフロウであり、ラジオ番組風演出のスキットを聞く限りでは人間性に好感を持てるが、肝心要のラップで損をしている。トラックはそれなりに面白いし、作品1枚としては十分楽しんで聴ける仕上がり。


【○】tajima hal『butter effect tape』
2012.03.08 / 全22曲32分 / 320kbps / bandcamp
インスト集。これは良い。冒頭に挙げている3枚に入れようかどうか最後まで悩んだ。心地良い音の連なりで穏やかに別世界に誘ってくれる。曲がそれぞれ短いので、ちょっと飽きそうかなと思った瞬間にすぐに切り替わり、そのタイミングがまた絶妙なのだ。反対にもっと聴きたいのにと思わせておいてさらりと次に進んでしまうといういけずさも悩ましい。聴いて損なし。


【○】aRo『TapeMPC201203』
2012.03.09 / 全6曲24分 / 320kbps / Tumblr
インスト集。本来そのままを愛でても十分楽しめジャズの流麗な旋律に、ノイズやドラム各種の音が差し込まれ、美を壊していく。そこには美しいものを虐げるというほの暗い愉悦があり、確かに魅入られる。


【△】irish『what we almost lost』
2012.03.10 / 全9曲53分 / 320kbps / bandcamp
"自分の故郷をテーマにしたアルバム"とのこと。PCの中で完結している音にしか聴こえず、その想いを共有はすることは難しいが、制作者がそう述べるからにはそういう作品なのだろう。M4が良かったぐらい。


【○】HIFANA『スネ夫Japan自慢 for 2011.3.11』
2012.03.10 / 全10曲9分 / 320kbps / SoundCloud
Twigy版を聴いた時ずいぶん巧みなマッシュアップだと思ったけど、このために録り下ろしたラップだったのか。しかもハイファナ仕事だったとは・・・。確かにスネ夫が鼻高々に自慢話をする時のメロディにラップを乗せてしまうユニークさは彼ららしい。インストとツイギーのアカペラもある。


【△】Yasaka Smith『TELEPHONE BOX』
2012.03.10 / 全11曲31分 / 192kbps / blog
同年代なのかなと思うほどに、かつては身の回りでよく目にしたが、今ではとんと見る機会の減ったなつかしい名称を曲名に盛り込んでいるインスト集。ただ、肝心の音にそこまでの面白さがなく、残念な仕上がり。M2やM11みたいなキャッチーさがもう少しあれば良かったかも。"メガタゾ"だけ分からず。


【○】MINT『MMMM (MOTTO MINT MEGA MIX) Edited & Mixed By PsycheSayBoom!!!』
2012.03.10 / 1枚ファイル21分 / 320kbps / blog
去年の『MMM』に続き今年も、ミンちゃんとサイケセイブーム!!!のふたりが"ミントの日(3月10日)"にその第2弾を届けてくれた。今回は東京で本作のリリースパーティが開かれ、先行視聴の形でクラブの爆音で聴くことができた。貴重な体験だった。ヘッドフォンで聴いてもその辺の音よりも十分鋭角的なビートを味わえるが、クラブで浴びたあの暴力的なとがり具合はすさまじく、その衝撃を自宅の音環境で再現できない物足りなさから前作ほどには聴けていないのだけど、それでもミンちゃんが楽しんで作ったリミックス曲を中心にしたメガミックスなわけで、4月発売のセカンドアルバムとはまた違ったラップを聴くことができる。


【○】MC松島『Swagger Like 松 Vol.2』
2012.03.12 / 全11曲18分 / 320kbps / Twitter
1月に発表された1作目がそれはまあひどい出来だったのだけど、そのリベンジを誓い、"とりあえず歌詞を書いて"録音されたラップ曲が並ぶ。フリースタイラーとして名前を馳せているそうだが、その手の遊びに興味はなく、彼の実力の程をよく知らない(呂布カルマを東京本戦で破ったということで覚えている程度)わけだけど、本作を聴けば、さんピン以降のラップスタイルをも自分の物とし、多彩なフロウで魅了するラッパーであることを証明する作品になっている。汚名返上はなされている。中盤に挟み込まれるスキット(クイズ)も面白い趣向で作品としてもしっかり楽しめる。フリースタイラーとして終わるつもりはないだろうし、表現したいことがあるならば、残り95%の力を発揮して商業盤を出すべきだとは思う。


【○】WARUSHI『WARUSHI Joints』
2012.03.12 / 全5曲11分 / 256kbps / blog
昨年後半辺りから単発で発表してきた自作曲をタイトにリミックスしてまとめた作品。先月アップしたインスト集よりもラップの方にずっと才能を感じる。今回はビートを意識した仕上がりになっているが、原曲はソウルフルなトラックだったものが多く、それほど声に華のないラッパーとしては後ろの音は華やかな方がいい。現に、名曲ともいえる「帰り道」は以前発表されたバージョンの方がすんなりと耳に溶け込む。


【△】soakubeats『私はいかにハリウッドで10000作の音楽をつくり、しかも10セントも損をしなかったか』
2012.03.13 / 全7曲18分 / 320kbps / bandcamp
遊び心のある曲名やジャケットでも毎回楽しませてくれるソアクビーツの19本目のミックステープ。流通盤を制作中につきフリーDLを一時取りやめると宣言していたが、多作家らしく自ら反故にし、早くも新作だ。タイトルはB級ホラーの巨匠ロジャー・コーマンの自伝をリミックス。一方のジャケットはそのコーマンが製作総指揮として携わったカルト映画をリメイクした『ピラニア3D』のまんま使い。音はやや大雑把な作りだが、制作の息抜きだろう。


【○】Z.I.O-RAMA『月詠』
2012.03.15 / 全9曲28分 / 192kbps / Twitter
1983年生まれ東京在住のソロラッパーの作品。やや劇場型の文系ラップであり、PENAというトラックメイカーが大半の曲でトラックを担当しているが、1曲だけTAK THE CODONAのビートがある。ノリだけを大事にする最近のスタイルとは違い、テーマを考え、自分なりの言葉を絞りだし、表現を工夫し、真摯に取り組んでいることは伺える。しかし、ラップそのものに力がなく、真面目さしか伝わってこない。


【○】HightBeatz『BOUDER LINE』
2012.03.16 / 全5曲15分 / 320kbps / blog
新潟のラッパーの2本目のミックステープ。ノリキヨをベースに今のスワッグスタイルや音を取り入れ、"青春"でうまいこと包装したラップ。新しい何かを生み出しているわけではないが、ラップする意味や必死さが伝わってくるし、同時にポップさもあるので聴きやすく、同年代からの共感を得られそうだ。


【△】おちやめ『まゆまっしゅ』
2012.03.17 / 全8曲31分 / 320kbps / YouTube
ネットレーベルStudio Cocoonに所属するおちやめによる同レーベルから配信されたラップを使ったマッシュアップ集。駄ラップであっても、トラックを差し替えたり名曲トラックに乗せ換えたりすることでよもやの新しい可能性が見えてくるのがリミックスやマッシュアップの楽しみなのかもしれないが、これだけ巧みに合わせる術があるならば、レーベル縛りなどしないで、もっと自由な掛け合わせで楽しませて欲しい。


【○】Gesu B『Title undecided』
2012.03.17 / 全12曲42分 / 320kbps / blog
いつの間にか名義をGESUBEATZからGesu Bに変更していたトラックメイカーの3本目となるミックステープ。大雑把に分けると、フリーDL中心で活躍するラッパーに提供した曲と、勝手にリミックス(LBやAKLO、mikE maTida等)曲をまとめたものでいわば最近のお仕事まとめ集。先のワルシのミックステープではリミックスが収録されていたが、ここで2曲オリジナルが聴ける。アクロのはL-VOKALの新譜に参加した曲とDIORIとのコラボ曲が収録されていて、改めて彼のファーストソロアルバム待望熱が高まる。


【△】katafuta『23』
2012.03.20 / 全11曲33分 / 320kbps / bandcamp
三重のトラックメイカー・カタフタが24歳の誕生日を目前にして発表したミックステープ。2曲あるラップ曲(片方にはジェット・シティ・ピープルのコンピ盤でも活躍していたJEVAが客演!)ほどにはインスト曲に惹かれない。全くダメかというとそういうわけでもない。2曲のラップ曲には声なしのインストバージョンも収録されていて、はっきりしているのはラップの乗っている方が魅力的だということ。残り7曲もラップがあればまた別な印象になるかもしれない。


【△】katafuta『STOCK BEATS』
2012.03.20 / 全11曲35分 / 320kbps / bandcamp
上記の『23』と同時に発表された昨年制作されたビートを集めたインスト集。今回はラップ曲がなく、従ってお手上げ。派手に攻撃的だったり、飽きのこない展開があったり、親しみのあるメロディでもてなしてくれるなどの分かりやすさがないと私のお子様な耳では太刀打ちできない。


【○】XenRoN『I'm YELLOW JEAN PAUL HEVIN Vol.1』
2012.03.21 / 全10曲38分 / 128kbps / SoundCloud
1988年生まれ東京在住のトラックメイカー・シェンロンの初作品集。これまでに発表したリミックス(B.o.BやJay-Zといった外国勢からKOJOE、KEN THE 390等まで)のインストという既発ビートと、4曲分の未発表トラックを収録。今年2月頃からフリーDLでかなり精力的にリミックスを発表していて、平均点は高いものの、飛び抜けた当たりがまだないわけだが、こうしてまとめて聴いてみるとそのセンスの高さに驚く。新曲のM4とM5が特にいい。


【○】MICHO『The Album』
2012.03.21 / 全15曲55分 / 320kbps / blog
先日SEEDAにブログで"ビートやばい"と賞賛されていたJOE IRONが全面的にバックアップしている女性ラッパー・ミッチョの3本目のミックステープ。前作を聴いてないので比較できないが、ジャケットからして南部意識が強かった1作目と比較すると格段の成長がみられる。イケイケドンドンな派手なだけのトラックを排し、歌を意識したラップスタイルはCOMA-CHIを彷彿させ、聴きやすさが増し、おかげでラップスキルも上達したように聴こえる。


【○】MOMENT『Season Of Love』
2012.03.22 / 全7曲21分 / 128kbps / Twitter
韓国から大阪大学に留学し、日本語、英語、母国語の3ヶ国語を扱える韓国人ラッパー・モーメントが豪勢にも2本同時に発表。しかも、今月頭にはJPラップコムのbenzeezyさんが立ち上げたレーベルrev3.11から5曲入りミニアルバムをリリースしている。それもこれも徴兵制により4月から2年間の兵役に就く彼の置き土産であり、心して聴きたい。"愛の季節"のこちらは主にメロウな曲調に感謝の言葉が述べられる。


【○】MOMENT『Season Of Fever』
2012.03.22 / 全7曲23分 / 128kbps / Twitter
上の『Season Of Love』と同時にアップされたこちらは、比較的攻撃的なリリックのラップが収録されていて、タイトル通りに"熱さ"がある。また、客演ラッパーでも楽しめる。彼は3ヶ国語できるということで、リリックが時折ちゃんぽんになる。もちろん違和感なくフロウされてはいるのだけど、リリックを楽しむ身としては1曲のうちではどれかひとつの言語に統一してくれた方がラップに集中できて良いのになと思うことがある。


【○】LowPass『Interludes from "Where Are You Going?"』
2012.03.22 / 全7曲24分 / 320kbps / YouTube
SIMI LABと同郷ということで彼らを紹介する際にどうしてもその名前を出してしまうが、昨年末のアルバム『Where Are You Going?』はシミラボ本隊のファーストアルバムよりも繰り返し聴いている作品であり、ハッタリやケレン味に薄く目立っていないが、なかなかどうしてQNに負けずとも劣らない才能を持ったふたり組だ。本作はそのアルバムのインタールードを本来の長さにしてラップを乗せてしまったというとてもエコな作品になっている。アルバムにインタールードなんてあったかなと思ったら、それぞれの曲の最後30秒ほどに別のビートが挟まっていて、曲数としてはカウントされないものの、確かに曲間を繋ぐいかしたビートがあった。本作を聴けば一目(聴)瞭然なようにかなり質の高いサンプリングトラックであり、それすらも曲間の繋ぎとして機能させているわけで、ならば本採用トラックの出来はさらにその上というのは推して知れようものだ。アルバムは買って損なし!


【○】Sim-Panella『de la xxx』
2012.03.23 / 全9曲29分 / 320kbps / bandcamp
名古屋を飛び出しそろそろその名前が全国区になろうとしているラッパー・カンパネルラが昨年7月に出したミックステープ『DETOX』(DL先)をYukutake"Kato"Shimpeiが全面リミックスしたもの。名義も"Sim-Panella"になっている。宣伝ツイートでタイムラインを淀ませるよりも、定型の宣伝文で無駄にブログを長くするよりも、こうして常に新しい音を提供し続けることが一番効果があると思う。『DETOX』のアカペラ→DL先


【○】TAKANOME toxicates CAMPANELLA『RETOX』
2011.12.25 / 全9曲31分 / 320kbps / bandcamp
『DETOX』のリミックス集といえば、昨年クリスマスに発表された本作も。名古屋のレーベルJET CITY PEOPLEを呂布カルマと共に立ち上げたトラックメイカー鷹の目の初めてのまとまった作品でもある。彼はラッパーを鋭く刺しに来るリミックスに定評があるが、カンパネルラのラップの図太さは相当なものでかなり味わい深い闘いを繰り広げている。AK-69やSEAMO、ウェッサイだけではなく、名古屋には独自の音を出すヒップホップが根付いている。


【○】C.O.S.A.『REPLICAS』
2012.03.23 / 全16曲44分 / 320kbps / bandcamp
COSAPANELLA名義でカンパネルラとのコラボ作品もリリースしている名古屋のトラックメイカーC.O.S.A.の3本目となるインスト集。違う世界を見せてくれる音の連なりがあるにはあるが、曲数や時間と比例させるとやや打率が低い。ボーナストラックとして収録されている最後のラップ曲が良い。


【○】NIHA-C『The Lantern』
2012.03.24 / 全9曲26分 / 192kbps / YouTube
次も名古屋から。若手ヒップホップグループ國枝UrbanCampに所属するラッパー・ニハCの3本目となるミックステープ。全ビートを手掛けるのは、昨年のフリーDL曲「Brown Long Hair」(YouTube)でちょっとしたリミックス祭を生み出したラッパー兼トラックメイカーのist。その彼の引き出しの多さは確認できるけれど、ニハCのラップとの相性はどうだろうと疑問に思っているところで登場するスキットになんだかほっこりさせられ、その後もイストの才能を上手に活用できていないように思えはするものの、M7での気持ちの乗せ方はいい具合だし、M9はエンディングも含め、気持ちの良い終わらせ方をしている。


【○】kobori akira『Who's Dope?』
2012.03.25 / 全7曲16分 / 320kbps / HP
1989年東京生まれのトラックメイカー兼ラッパーのコボリ・アキラ a.k.a. privatebeats。これまでにKREVAやtengal6のリミックスでその名前を見かけたことはあったが、これほどの光る才能があるとは思わなかった。タイトル曲M2では安藤裕子の楽曲を使ったトラックの上にオートチューンをまぶしたラップが乗り、ラップ自体は決して巧いものではないのだけど、クレバの「瞬間SPEECHLESS」を彷彿させるメロウなメロディを生かした仕上がりで聴きやすい。すでに発表済みのM6を始めとするインストにも瑞々しい感性に満たされ、しかもそれが決して感覚だけで制作されているのではなく、やや頭でっかちな印象を持つ辺りもかなり好みだ。もっと聴きたくなり、ホームページサウンドクラウドに上げられている無料配信のリミックス曲やシングルを慌ててダウンロードした。


【○】ピヨピヨブラザーズ『ピヨバム』
2012.03.26 / 全13曲52分 / 160kbps / ニコニコ動画
ラップミュージックではあるけれどヒップホップではないというものいいをよく聴く。そういった差別化を図る人間にとってはこの音楽はまさにラップミュージックなのだろう。しかし、ラップとヒップホップはいい換え可能な便利な言葉として捉えている身にはどうでもいい話ではある。ただ、口ずさみやすいメロディを備えたフックと比べるとヴァースの魅力は絶望的で、そこはかとなくファンクでソウルなグルーヴを忍ばせていながら、音質が全く持って最悪な点はいかんともしがたい。もったいない。市販を考えていないフリー作品であっても、これだけ色々出てきる中で少しでも人に聴いて欲しいと願うならば、もっと気を使うべきだ。それとタイトルが壊滅的にださい。


【△】FATIGUE『FAREWELL』
2012.03.26 / 全9曲34分 / 128,320kbps / ニコニコ動画
基本的にニコニコ動画を主戦場にラップしている人たちには否定から入る。けれど聴き進めるうちに評価できる点を発見し、貶められない悔しさを味わう。が、本作ではそういった思いをせず、一貫してダメだったので、やっぱニコ動だしねと溜飲を下げることができた。めでたし。ラップは童子-TやK.Jのスタイルを継承するもので、それまでは一体誰が評価しているのか不明だったが、こういう人たちがいるのかと納得できたのも収穫。


【○】XenRoN『The Se7en Deadly Sins Remix Tape』
2012.03.28 / 全7曲23分 / 128kbps / Twitter
昨年4月に行われたJPラップコム企画の『The Se7en Deadly Sins』の全7曲をシェンロンがリミックス。当時はまだまだ無名だったが、今では若手の筆頭に躍り出たSALUや、ミックステープ攻勢をかける実績のSNEEEZE、ファーストアルバム発表間近のKOJOE、たった1枚のミックステープしか出してないのに依然として軽やかで自信満々な足取りが頼もしいKLOOZと活きの良い若手が揃う。全7曲のアカペラのDLはDR.PAPから。


【○】thamesebeat『Portopia '81』
2012.03.28 / 全8曲19分 / 128kbps / HP
"テムズビートは僕の大学の同級生です"とのひと言と共にtofubeatsがDLリンク先を紹介ツイートし、その直後にはネットレーベルMaltineRecordsからトーフビーツの紹介文付きで再配布されたラッパー兼トラックメイカーの作品。iTunesをよくよく見てみると彼が以前に配信したフリーDL曲2曲を持っていたが、記憶になかった。トーフビーツにも似た柔らかい感性を覚えるが、評価はもう少し色々聴いてから下しても良さそう。


【△】DJ D-LYTe『FAVORITEZ vol.9 -REPRESENT TSUYAMA JYO KA-』
2012.03.28 / 1枚ファイル57分 / 320kbps / blog
岡山県津山市産ヒップホップのみで作られた作品。本来的な意味でのミックステープは取り上げないのだけど、津山のラップを聴く機会はあまりないわけで面白い試みだ。最近のラップに付いていけないとの声を耳にするが、そうした人たちには馴染みやすいラップがここにはある。古き良きスタイルが津山に眠っているともいえるかも。唯一の聴きどころは中頃に登場するAnty The 紅乃壱のヴァース。大海を知る蛙はさすがに貫録がある。


【△】親指フリック×ダナルDドック『踊る電波男』
2011.03.29 / 全11曲39分 / 320kbps / blog
ニコニコ動画ラッパーたちの曲をダンスビートにリミックス。ダブルネームになっているが、大半の曲をダナルDドックが手掛けている。M1の軽薄で下世話なラップと分かりやすいビートにLMFAOのような展開を期待するも、M2からはいかにもなニコラップが始まり、げんなりさせられる。そんな中でVACONというラッパーが面白い。SOUL'd OUTのDiggy-MO'が急ぎ過ぎて言葉を落としてしまったようなラップをする。もっとまじめにラップをしている曲を聴いてみたい。ほとんど登場しない親指フリックがM8で全部持っていくのはずるいようにも思う。しかし、本当の聴きどころは"オマケ"として収録されているSPEEDや工藤静香のリミックスかもしれない。


【△】吉沼『EXTRACKS (2009-2012)』
2012.03.30 / 全6曲18分 / 192kbps / bandcamp
2009年からの3年間で制作したリミックス集。原曲のラップにある程度魅力がなければ、いくら音を尽くしても改善するのは難しいわけで、先月リリースしたミックステープでは生き生きとした才気を発揮させていた吉沼でもここでは苦戦している。サックスの響きに引き込まれるM4や郷愁をかき立てるM5にしても、この音の持つ力を倍増させるラップが他にもっとありそうだ。


【○】WARUSHI『I'm alone (Free Demo EP)』
2012.03.30 / 全6曲20分 / 256,320kbps / blog
今月2本目のミックステープ。既発曲が2曲(「帰り道」が収録されている!)に、新曲が3曲。内面を素直に言葉にした低音ラップはなかなかかっこよく、少なくなりつつある文系ラッパーのひとりとして頑張って欲しいが、真面目なテーマや言葉をいくら真摯に綴ろうとも、くだらない曲から飛び出してくる強烈なパンチラインには敵わないわけで、もう少し耳に引っかかる言葉が欲しいところではある。




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<まとめ>
2010年〜2011年1月〜8月分 Tegetther
2012年1月分 blog
2012年2月分 blog
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2012.03.31 Saturday 23:59 | 音楽 | comments(2) | trackbacks(0)
書籍(3月分)
東直己『旧友は春に帰る』

読了 2012.03.01
☆☆☆/5点中

シリーズ2作目が北海道出身の俳優大泉洋を主演に昨年映画化されたススキノ探偵シリーズの2009年に上梓された9作目。1作目の『探偵はバーにいる』に登場した高級コールガールの"モンロー"(当然覚えていない)が北海道に戻ってきて、四半世紀ぶりに主人公の"俺"に連絡をよこしてくるところから始まる。助けてくれとあるので、彼女の潜伏先の夕張に迎えに行くも、そのホテルはすでにヤクザたちに見張られていた。元自衛隊でゲイのアンジェラの助けを借り、なんとかススキノに戻ってこられるが・・・。

このシリーズはもはや物語自体を楽しむものというよりも作者の東と同一視しても良さそうな"俺"の言葉だったり思想、あるいは思い込み、偏見を愛でるためのものであるが、今回は帯で"渾身の傑作"と煽っているだけのことはある力作だ。かつてはススキノの街を肩で風を切って歩いていたモンローが年を取り、それでも過去の栄光にすがり、幸せな人生を送ることのできる可能性がありながらもそれができない哀しい性。それが語られるケラーのカウンターでの最後の余韻など最後まで楽しく読める。

恒例の登場人物たちの近況。"俺"は52歳に。前作と同じように携帯電話を嫌悪し、自宅の固定電話か公衆電話を利用。パソコンも自分のかネットカフェのを使う。松江華との付き合いは続いている。ひとり息子は北大を来年卒業予定で、友人の高田はミニFMでのDJを続け、ケラーもバーテンダーふたりも健在。"俺"より10歳年上のヤクザの桐原は62歳となり、相田の病状は変わらず。退職した警官・種谷とは飲み屋の甲田で時々会い内部情報を仕入れ、北海道日報の松尾(離婚した)も、人生研究所の濱谷も、聞潮庵のふたりのおばあちゃんも元気だ。ススキノの古株ポーター・アキラは2年前に引退し、今は立ち飲み屋の親父になっている。

ファンへの義理で今この馴染みのキャラクターが登場しているのだろうなと思う場面も確かにあるが、でも顔を見せないと読んでいる方もさびしい気分になるし、シリーズが長くなると仕方ないのだろう。

1982年にレコードデビューした札幌出身の歌手、佐々木好の「ドライブ」(YouTube)と「雪虫」(YouTube)。Third Ear Band「Mosaic」(YouTube)、The Pentangle「Cruel Sister」(YouTube)。どれも初めて聴いた。佐々木好が好きという人間が1960年代後半に登場した英国プログレバンド、サード・イアー・バンドの音を立て続けに聴いたという設定は、字面だけで読むと特になんとも思わないが、こうしてユーチューブで視聴してみると興味深い。

翡翠、麒麟、鳳凰についてはこっち


大石直紀『グラウンドキーパー狂詩曲(ラプソディー)』

読了 2012.03.04
☆☆/5点中

文学賞を受賞しデビュー作からベストセラーを放った作家がやがて鳴かず飛ばずとなり、恋人も離れ編集者からもちやほやされなくなり、失意の下郷里へと戻り、スポーツ公園管理事務所で働くことに。そこは公務員たちの天下り先であり、小さいながらも不祥事の温床でもあるが、同僚の片山や北村と共にもっと大きな巨悪をとっちめる話。日本ミステリー文学大賞新人賞を始めに他にもいくつかの賞に輝いている著者自身を反映させているわけではまさかないだろうけれど、最近は以前のような骨太の冒険小説ではなく、ノベライズ本中心に執筆しているようで色々あるんだろうなと思わせる感じではある。本書は携帯サイトで連載していたものに大幅に手を加えたものらしい。手軽に読めはするけれど、グッとは来ない。


道尾秀介『背の眼 上・下』

読了 2012.03.11
☆☆/5点中

2004年に第5回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞し、著者のデビュー作となった作品。1月読んだ『骸の爪』の前作に当たり、作家の道尾とその同窓生で今は霊現象探求所を営む真備が福島県の山間の村・白峠村で起きた児童失踪事件の謎を解く。

『骸の爪』では張り巡らせた伏線を一気に回収するという荒業に出ていたが、本書ではオーソドックスな怪奇ミステリーであり、しかも読み込んだ資料を盛り込みすぎて説明過多になりすぎの嫌いがある。デビュー作の熱やそれ故の構成のいびつさもある。


樋口有介『窓の外は向日葵の畑』

読了 2012.03.18
☆☆☆/5点中

東京・佃島で暮らす父と息子の親子が謎を解くミステリー。息子は高校生。3年前に亡くなった幼馴染の幽霊を見え話せる。一方、父親はかつては警察官で今はハードボイルド作家を目指すかたわら、おかしな名前の飲料水の販売で儲けている。

なぜ舞台が佃島かといえば、多分著者が数年前から手掛け始めた時代小説に出てくる土地にほど近く、書きやすかったからだろう。新しいといえば、ふたつの視点を盛り込んでいるのも樋口作品では初かもしれない。男子学生の息子と父親という中年男性からの視点。それが交互に描かれていく。それと幽霊が登場するも珍しい。視点についてはどちらも著者が得意とする年齢であり、大きな違和感はないものの、ひと粒で二度おいしいとならなかったのは残念。

夏の下町ということもあり、ヒロインの眼鏡っ子との青春要素を多めに加えながら、高校生視点一択で展開した方が良かったように思う。また、事件の真相のネタは確か初期作品にもあって、その時はリーダーとなる女子高生が自ら運営していた。今回はもう少し大がかりにさせているが、でもやはりかぶっている感じは否めない。


道尾秀介『ソロモンの犬』

読了 2012.03
☆☆/5点中

夏休みに自転車便のアルバイトに精を出す秋内は、その仕事中に、大学で教えを受けている助教授のひとり息子で知り合いでもある陽介少年が突然飼い犬に引きずられて通りに出てしまい、運が悪いことにやってきたトラックにひき殺される瞬間を見てしまう。その直前にちょうど向かいのファミリーレストランから出てきた学友でいつもグループを組んでいるひとり、京也がその事態を引き起こしたのではないかと疑うが・・・。

犬の習性が事件を解く鍵ということで、大学の動物生態学の間宮助教授が登場し、彼がホームズ役となり、解決させていくわけだけど、なかなか奇抜なキャラクターで1作だけの起用というのはもったいない気もする。

ただ、展開そのものはラストで二転三転させ魅せるものの、序盤からいかにも伏線ですよというヒモが見え見えな様子で垂れ下がっている文章にはさすが鼻白む。気になる箇所にはページの角を折り曲げ(ドッグイア)ながら読むために、読了後は本来の厚みよりもずいぶんと幅が出ていた。

巧みな伏線だろうと見え見えだろうと上手に回収されれば不満はない。『骸の爪』のごとくこれは一挙に回収型かな、映画でいえば『ユージュアル・サスペクツ』タイプかとワクワクしながら読み進めたら、小さな伏線をちびちびと小さく集め始め、爽快感などあろうはずもなく、ただ意味のない謎っぽさを作り出す文章の不自然さだけが際立ってしまっている。


樋口有介『刑事さん、さようなら』

読了 2011.03
☆☆☆/5点中

昨年2月に上梓された書下ろし作。前作に当たる『窓の外は向日葵の畑』と同様にふたつの視点で展開するミステリー。そのふたつとは埼玉県本庄市の刑事課所属の須貝と西川口の焼き肉店で働くヨシオで、交互に描かれていく、著者にしては珍しく硬派な印象を抱く警察小説でもある。樋口作品には欠かせない美女も登場するが、今回はいささか控えめな活躍だ。

正月早々に起きた介護苦による殺人、本庄署の警官の自殺、そして利根川河川敷に遺棄された身元不明の男の死。その事件を追う中で警察内の問題もまた深く関わってきて、なかなか読ませる展開だ。確かに佐々木譲の警察物に比べるとゆるさはあるが、警察社会で生きるために清濁併せ呑まざるを得ない男を自然に描き、おかしな潔癖さが排されているのは好感が持てる。

そして樋口作品でこのラストは想像していなかった。現実を描くとなるとこのラストしかないのだろう。
2012.03.31 Saturday 23:58 | | comments(0) | trackbacks(0)
無料配信ミックステープ2月号(2012)
先月からブログでまとめるようにした国産ヒップホップの無料配信ミックステープ早見表の2月分。情報をネット上から集めてくださるJPRAP.COMと、2Dcolvics@KSK1988さんに感謝!


てっとり早く良作3枚聴きたいという人は上の作品がお勧め。左端は向こうの今の流れに沿う音とラップ。真ん中はCherry Brownのトラックメイカー名義でのリミックス集。彼の底力が分かる。右側は多分新人なのかな、よく分からないけれど、とにかく芯のある魅力的なラップをする。ジャケットクリックでDLサイトに飛べます。


【○】BUN『カヤベ』
2012.02.01 / 全14曲54分 / 320kbps / bandcamp
B.I.G. JOEや環ROYにトラックを提供し、OLIVE OIL主宰レーベルからもフルアルバムをリリースしている東京のビートメイカーによるインスト集。どんなジャンルといわれても分からないのだけど、この人の音を聴くといつも思い浮かぶイメージは様々な表情を見せる都会の夜のサウンドトラックというもので、今回は序盤にクラシック音楽や賛美歌が加わり、荘厳度がやや高い。この質のものを無料で配布するとは本当に太っ腹。取り逃す手はない。


【○】4TUNE『2ND』
2012.02.02 / 全12曲40分 / 320kbps / bandcamp
愛媛の4人のトラックメイカーasamiya(LHW?所属)、eNcbeats、SHINJI、ハイパーのんMCの曲をまとめた作品集第2弾。1年前の前作では洋楽ヒット曲のリミックスも収録されていたが今回はオリジナル作だけで勝負。それとインストだけではなく客演にDisryやKAI、MMTY、Pistraといった同郷のラッパーが参加している。やはりasamiyaの音が首ひとつ抜きん出ている。


【○】Y.G.S.P×SIMI LAB『Y.G.S.P Page 1: ANATOMY OF INSANE REMIXES』
2012.02.04 / 全13曲41分 / 192kbps / blog
ICE DYNASTYのセカンド『C.O.L.D.』を丸々リミックス(直リン)したSchumaとYossieによるプロデューサーチームが今度は相模原の注目クルーSIMI LABのファーストアルバムを全面改築。すでにオリジナルを聴き、彼らの魅力を知っている人であれば、さらに楽しめる仕上がりになっているが、反対に本作で初めてシミラボを聴くとなるとその良さが正確に伝わるかどうかはかなり疑問といった具合にずいぶんと遊んでいる作品。一番楽しめたのはM3。


【○】パブリック娘。『パブリック娘。セット vol.1』
2012.02.04 / 全9曲42分 / 192,256,320kbps / Twitter
今春卒業の大学生3人組ヒップホップグループ。2010年のシングル『SummerChance』と昨年の3曲入り『初恋とはなんぞや』を中心にリミックスやインスト、アカペラまでも封入した便利セット。ラップが下手と切り捨てることもできるけれど、そうした価値観だけではこぼれ落ちてしまい、非常にもったいないことになる青春時代の妄想やバカ騒ぎ、寝汗や手汗といった今この時にしか生み出すのが難しい感覚を言葉にしている。ラップの技術よりも大事な、ラップをしたい、人前に立ちたい、目立ちたい、もてたいというあまりに素直な行動原理の上に立っていて清々しくもある。最新シングルはこちら→bandcamp


【○】N.O.R.I. a.k.a Takachang『Pastel Black』
2012.02.04 / 全17曲53分 / 128kbps / blog
昨年9月にミックステープを発表し、本作の数日後にもクルー名義のテープを配信し、ネット上で活発に動いている印象のあるラッパー。ラップ自体はうまくないが、ねばりつく声質に特徴があり、しかも口の中でこねくり回すものだから生理的に受け付けられないが、ただ時々M11のようなハッとさせられるフロウ(トレースしてるだけだとしても)があって、徹底的に気持ち悪くなるのもキャラかもしれない。トラックはリミックスと自作が半々。ミックスが粗い。


【○】Yuuyu Aensland『Reeemix EP』
2012.02.06 / 全14曲51分 / 320kbps / blog
ラッパーCherry Brownがトラックメイカー時のユーユ・アーンスランド名義で昨年からユーチューブにアップしてきたリミックスをまとめたもの。彼のラップも音も好きで、これまでもフリーDL曲やミックステープを楽しんできたけれど、もしかしたら自分の中で侮っていたかもしれないと思わされる目の覚めるようなクオリティの高いリミックスが並ぶ。RUMI、TOKONA-Xに始まり、Pimp CやWaka Flocka Flameと来て、そのままAKB48の板野友美のソロ、きゃりーぱみゅぱみゅ、有象無象のアイドルグループ曲へと連なっていく。そんな多種多様なアーティストたちが集められているにも関わらず、違和感なく聴けてしまう。同じ音の質感で統一するという安易なものではなく、飽きさせない趣向を凝らした音作りがなされているわけで、素晴らしいとしかいいようがない。


【△】JinY『AIR JinY pt.2』
2012.02.09 / 全13曲21分 / 256kbps / Twitter
神戸のヒップホップデュオKs.da SquadのJinYによる昨年5月の『AIR JinY』に続く第2弾ミックステープ。"すわっぎーラッパーの2軍"と前回書いたのだけど、その印象は変わらず。自分のものにできない憧れのフロウに翻弄されている。


【○】ayge×N坊『N/A』
2012.02.09 / 全6曲16分 / 256, 320kbps / HP
ネットを活動の拠点にしているソロラッパーとトラックメイカーによるコラボ作。"明日になれば忘れられるようなラップはしたくない"と冒頭で宣言されるが、残念なことにそれほど心に残る強い個性の持ち主ではない。が、耳馴染の良いラップであることは確か。日常のよしなしごとをフロウに乗せ、違和感なくラップすることはできているわけで、そこに"表現"が生まれれば面白い。どちらかといえば、N坊のスムースなループが耳を惹く。


【△】NOIZE『NEXT』
2012.02.11 / 全13曲40分 / 256,320kbps / Twitter,blog
ニコニコ動画を主戦場にしている北海道在住の20歳のラッパー。絶招もいるPrefab Sound Pro.所属。昨年夏前にはLHW?に抜擢され、フリーDLミックステープ『GOLDEN DEMO』に3曲収録される。勢いのあるラップや人の彼氏を嘲笑するテーマの面白さなどいわゆるニコ動ラッパーとはひと味違う才能を感じさせ、かなり気になったが、今回こうして音源をまとめて聴くとRAU DEFの二番煎じさが全面に出てしまい鼻白む。若さを考えればこれから独自性を獲得していくアーティストだろうし、今のありがちなテーマのラップにも広がりが生まれるに違いない。期待したい。


【×】狩音とchappo『バルス!!』
2012.02.12 / 全9曲25分 / 320kbps / ニコニコ動画
ファイルの文字化けはともかくiTunesに入れても曲名が同じように文字化けのままで、曲順も表示されずアルファベット順となる。これは内容を判断する以前の問題で、人に聴かせる代物ではない。無料とはいえ大切な作品だと思うなら徹底的にこだわるべきだ。


【○】HIGH5『#MAJI超!』
2012.02.14 / 全11曲49分 / 320kbps / Twitter
山口県岩国市を拠点に活動する4MC1DJのグループ。年末にリリースされたセカンドアルバムからのリミックスやオリジナル曲を収録した、今のヒップホップの最新の音、でいいのかな。スワッグなラップってリリックに内容がないし、ケツの事しか歌ってないじゃんという批判があるとするならばごもっともと思うし、返す言葉もないが、この手のラップはそこを楽しむのではなく、ビートの選択やそこへの言葉の乗せ方を楽しみ、それぞれがリラックスして気持ち良くなればいいのだと思う。宇多田ヒカルをサンプリングした「Local Distance (Iwaaklyn Remix)」は今の気分/状況を巧みに掬い上げている。

2月22日に2曲増量されたデラックスエディションとして『#MAJI CHO! (World CHO! Edition)』が発表されている。今落とすならばお勧めはこちら→Twitter


【○】ERA『3 Words His World』
2012.02.14 / 全12曲39分 / 320kbps / blog
評価がうなぎ上りのERAのファーストアルバム『3 WORDS MY WORLD』。その作品にも関わっていたDJ HighschoolやBushmindを中心に全曲リミックスしたのが本作。MASS-HOLEによるリミックス集も発売されているので、これで3パターンの音で彼のラップを聴いたわけだけど、より都会的な装いをまとった本作が一番いいかもしれない。


【○】だてる〜にゃん presents The LASTTRAK『No HAIFU.EP St.Valentine Edition』
2012.02.15 / 全13曲54分 / 320kbps / SoundCloud
ラッパーMINTとのコラボでも知られる、アニメ主題歌をダンスミュージックに仕立て上げてしまう兄弟ユニットの既発曲をまとめたもの。1日限定配信のため現在は終了しているが、彼らのサウンドクラウドで視聴できる。昨年新宿歌舞伎町のど真ん中で行われたフェスで観客を盛り上げているのを見ているので、分かってはいたつもりだけど、こうしてまとめて聴くとアニメの主題歌だろうがなんだろうが、乗せられてしまう。語りの入る曲の最後でOSUMIがラップし出すM1には吹いた。テーマとも合っているし、面白い。環ROYに提供するはずだったというM7は完成形をぜひとも聴きたいものだけど。


【○】DJ souchou『rkst E.P.』
2012.02.15 / 全6曲24分 / 320kbps / Twitter
"らき☆すたにハマってて投稿動画サイトに上げてた時期の作品集"。そのアニメを見ていないので、半分も楽しめていないのだろうが、あの有名曲とこのアニメ声がミックスされてるとか、メテオの不思議なコラボとか、レゲエの神様との奇跡の邂逅とか、珍品かもしれないが、門外漢にもそれなりに楽しめる楽曲が揃っている。


【○】Lil'諭吉『FewScoops』
2012.02.15 / 全10曲32分 / 320kbps / blog
こっちはCherry BrownのLil'諭吉名義によるサンプリング物のビート集。宇多田ヒカルの「SAKURAドロップス」に始まり(わずか1時間で組み上げた曲)、ミンちゃんもラップを乗せていたPerfume使いの「Disscoh」、AraabMuzikに触発されて作ったというM8や多分Clams Casinoの影響下にあるM2など聴きどころたくさん。先のユーユ名義のに比べると統一感はないが、そこを狙って作られた作品ではないだろうし、まとめて聴けるのが嬉しい。


【○】Beats Zan『Beats Zan Remixies Vol.2』
2012.02.17 / 全7曲23分 / 256kbps / Twitter
昨年10月のVol.1に続く第2弾。Dilated PeoplesのEvidenceに始まり、The GameやLil Wayne、T.I.、Nellyといった少し前の洋楽ヒップホップのリミックス集。オリジナルを親しんでいる人には思うところが出てくるかもしれないが、そうではない身には楽しめた。音としては指ぱっちんアレンジのM4が楽しい。T-Painは新譜もさすがの出来だったけど、メロディメイカーとしての才は本当にすごいと改めて思った。


【○】NARAPAGOS productions『TRIAL BREAKS』
2012.02.17 / 全16曲43分 / 320kbps / Tumblr
奈良のレーベルNARAPAGOSが発表した"グライムビート集"。主宰のふたり(ラッパー兼トラックメイカーのRITZZZとRYUHEYXXX)と、同じ奈良のBANZAI PLATE主宰のT2Rに、ILL DE CABEZAの4人が各4曲ずつ持ち寄ったインスト集。序盤のリツの音は優しく、グライムと聞いて連想する音ではないのだけど、リュウヘイトリプルエックスによる7曲目辺りからアドレナリンを刺激し、猛々しい気分になれる音が飛び出し始める。M5にbeyondとdekishi、それにリツの3人がラップを乗せたのがこれ→SoundCloud


【△】N.R.B『日本語ラップバカ』
2012.02.17 / 全14曲49分 / 128,192,256,320kbps / blog
N.R.Bはクルー名でいいのかな。上でも紹介しているN.O.R.I. a.k.a Takachangを中心にしているようだけど、ネットでの繋がりなのか、地域性なのかは不明。10人ほどが参加しているが、まあ良くてギリギリ及第点のレベルが数人いて、それ以外はクルー作品だし、ヴァースも短いし、参加して場数をとりあえず踏んでみようというぐらいの実力。時間に余裕がある人向け。


【○】クラモトイッセイ『Something Warm On The Street』
2012.02.18 / 全12曲16分 / VBR(m4a) / blog
2分にも満たないビートを集めたインスト集。打ち込まれた音が淡々と鳴らされ、生ドラムや鍵盤も入るも、熱を帯びることなく不思議と低温のまま不思議な冷ややかさだけを抱えて進行していく。普段から電子音楽を好む人には楽しめるのかもしれないが、グルーヴや踊れる音を期待する向きには戸惑うかもしれない。


【○】Artbakely『Vol.1』
2012.02.19 / 全11曲40分 / 320kbps / bandcamp
昨年1年間で少しずつ制作し、サウンドクラウドで発表してきた既発リミックス曲に、新作数曲を加えてまとめたミックステープ。RHYMESTERやMIDICRONICAといった有名グループからネット上で活躍する若手、HAIIRO DE ROSSIやFIND MARKETといった注目の実力派、あるいはSUIKAや不可思議/wonderboyなどジャンル的には端っこにいる人たちまでをジャズ色に染め上げている。ボーナストラックまであり、かなりおすすめ。


【○】AYUKAT..ダ 宇宙脳 & シュウヤ・ドウガン『どらまちっくカガヤキぶるーす』
2012.02.19 / 全9曲24分 / 256kbps / Twitter
ラッパーのAYUKAT..ダ 宇宙脳と、トラックメイカーのシュウヤ・ドウガンによるユニット。サンプリングではなく直弾き主体の、やや調子外れなトラックの上で、語彙もあり、人とは違うことをしっかり意識し心掛けようとしているラップが乗る。MC名を見るまでもなく独自性はあるが、聴いた人が楽しめるところまで降りてきてくれるとありがたい。


【○】Chocue『Fellow The Impressive』
2012.02.20 / 全7曲30分 / 320kbps / bandcamp
ラッパーChocueの詳細は不明だが、TOSHI a.k.a 美濃の蝮が参加していることからも岐阜かあるいは東海の人なのだろう。スケートボーダーらしく、滑走している音が挿入されてもいて、その纏う空気感はスタイルこそ違うものの、S.L.A.C.K.のそれに似ていないこともない。ブルーズを宿らせた音も面白いし、実直でしっかり自分の足で立っている感のあるラップも悪くない。何周しても飽きない良さがある。


【○】MASA the RAD BONEZ『NIGHT CRAWLER』
2012.02.21 / 全7曲19分 / 320kbps / Twitter
宇都宮のラッパー。Beastie Boysを連想させる高音に最近のスワッグらしいさを取り入れつつ、ロック調のトラックの上で快活に暴れまわる。目新しい音ではないけれど、最近では新鮮でなかなか面白い。


【△】OYSTAR『OYstrumental Biz vol.3』
2012.02.22 / 全21曲51分 / 192kbps / HP
SDJ、SIMI LABと来て注目が集まる土地・神奈川県相模原のラッパー兼トラックメイカーのビート集第3弾。1曲だけ収録されている彼のラップを聴くに、まだラップの方が本業らしさがあり、トラックメイクの腕はラッパーの余技としての習作レベルにしか感じられない。本シリーズの最後にいつも収録されているリミックスは今回はサ上とロ吉の「ちゅうぶらりん feat. 後藤まりこ」。


【○】SNEEEZE『Feel So Good』
2012.02.22 / 全20曲27分 / 320kbps / datpiff
新レーベルrev3.11から第1弾として配信限定アルバム『DEVICE』が3月5日にリリースされるスニーズがまたまたミックステープをアップ。これで3ヶ月連続だ。曲自体はほぼ1ヴァースで1分前後と短く、リミックス主体のお手軽なもので、テーマも自画自賛か女性といつものラップだが、それでも飽きさせずに聴かせるフロウや語彙がある。かなり調子が良さそうで、アルバムも楽しみ。願わくば、フリーだといいのに売り物になるとダメだよねというところまでは向こうのマネをして欲しくないが・・・。


【○】OMSB'Eats『地獄』
2012.02.25 / 全10曲23分 / 320kbps / Twitter
SIMI LABのラッパー兼トラックメイカーのOMSB'Eatsが、"ゴミビーツを集めたビートテープをアップしました。どうせ誰にも使われないと思うので、供養します"との言葉と共にアップしたビート集。そんなに卑下するほどではないが、彼が時々かっ飛ばしてくれるホームラン級のトラックは確かにここにはない。シャキッとしないボトムを特徴とする最近の音が詰め込まれている。M7「幽体離脱」が良かった。ラップが乗ったら印象が変わるのかもしれない。


【○】Prefab Sound Pro.『Prefabric』
2012.02.26 / 全8曲26分 / 192,320kbps / ニコニコ動画
上でも取り上げたNOIZEや絶招が所属するクルー名義でのテープ。詳しいことは知らないが、参加しているラッパーは6人。ニコニコ動画というとらっぷびとがしていたような歯切れの良いフロウのイメージがあるが、彼らは"普通"の日本語ラップでニコ動の印象を改めるスタイルではある。ただ、6人いながらもキャラ立ちが弱く、誰が誰なのかすぐには分からないのが難点。M2のフックでの歌メロや最初穴に思えたSIMON似のKidが意外に魅力を放っていて、聴き込むほどに面白くなる。


【△】スティ『クレーター』
2012.02.28 / 全7曲19分 / VBR / HP
"せかちゃんくるー"というネット上のヒップホップクルーの一員とのこと。2ちゃんねるのDTM板にあるスレッド"みんなでラップミュージックをつくろう"に集うひとりという認識でいいのかな。上でも紹介したaygeもその仲間らしい。本作のジャケットが素晴らしいのは彼のラップや音を集約させた絵になっているから。ひたすら自画自賛するがこれでは井の中の蛙。ミキシングも酷い。




【○】WARUSHI『Lost Black (Instrumental Album)』
2012.01.19 / 全12曲38分 / 192kbps / blog, 直リン
大阪は堺市の弱冠20歳のラッパー兼トラックメイカーによるビート集。素材の味を生かした音作りであり、耳馴染は良い。が、もうひと味、あるいはふた味不足気味。ビートも強いのが欲しいところ。M4とM12が楽しめた。ラップしている方がかっこいい→「帰り道(DEMO)」(YouTube)


【△】CHESTNUT『Party Box E.P』
201.12.27 / 全9曲27分 / 256kbps / blog
23歳のソロラッパー。ニコニコ動画を中心に活動しているのかな。詳しい経歴は知らないが、ともかくポップなラップを聴かせる。下手と切り捨てられるほどではないラップと単調な歌メロのあるフック。どーぷなヒップホップを指向する向きには失笑が漏れるだろうが、今の日本で売れるヒップホップとは本作の曲調に専業作家が親しみやすいフックを付け、ブラッシュアップさせたものと考えれば、彼の歩いている道はあながち間違いではない。




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<まとめ>
2010年〜2011年1月〜8月分 Tegetther
2012年1月分 blog
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2012.02.29 Wednesday 23:59 | 音楽 | comments(0) | trackbacks(0)
書籍(2月分)
米澤穂信『儚い羊たちの祝宴』

読了 2012.02.07
☆☆☆☆/5点中

これは面白い。昨年ようやく米澤の『ボルトネック』と出会った3、青春ミステリが好物なのに今さらという感がぷんぷんするのだけど、今になってお宝を発見し読むことのできる作品がまだまだたんまりあるというのは幸せなことだ。ただ、シリーズ物が多いので、古本屋の百円棚を中心に渉猟している身には順番通りに入手できず積読状態が高くなりつつあるのが残念。

それはともかく本作は魅力的だ。お嬢様方が集う大学の読書サークル"バベルの会"がどこかしらに登場する連作短編集であり、切り口が少しずつ異なりながらも、どの1編も丁寧に紡がれた文章で伏線もしっかり張られ、こう来るのかというオチが待ち受ける。「玉野五十鈴の誉れ」と表題作が特に良い。


中山七里『おやすみラフマニノフ』

読了 2012.02.09
☆☆☆/5点中

2010年の第8回「このミステリーがすごい!」大賞で大賞に輝いた筆者の第2弾。1作目の『さよならドビュッシー』と同じようにピアニストの岬洋介が謎を解き明かす役を担う。前作はピアノ奏者を主人公にしたが、本作は音大に通うヴァイオリニスト視点となる。冒頭に前作の主人公がちらりと出てくるなど、同賞出身で一番大きくブレイクした医療ミステリ『チーム・バチスタの栄光』シリーズの前例に倣ったようだ。そういえば受賞作はどちらも黄色を基調にしていた。

音楽ミステリとなるが、まあ「チーム・バチスタ」シリーズもそうだけど、ミステリとしては弱く(推理小説を読んでいても犯人捜しをしないし、流れるままに読み進める私でも今回は序盤で犯人この人でしょと分かるほど)、学生たちが将来について悩む青春小説としての色合いが強い。文章自体はまだ不安定さを残すし、物語の作りもいささか不恰好な嫌いはあるものの、演奏シーンの熱い書き込みが帳消しにする。映画化も面白そうだ。


東山彰良『ライフ・ゴーズ・オン』

読了 2012.02.15
☆☆☆☆/5点中

『ジョニー・ザ・ラビット』以来読んでいなかったので、久し振りの東山作品。やっぱりこの人の書く文章は好きだ。本書と同じ出版社から上梓していた『ジョニー・ザ・ラビット』は、双葉社からの発表ということもあるのか、ウサギを主人公にしたユニークなハードボイルドで、実験的な設定でも面白く書けるものなんだなと感心していたが、その翌年に発表された本作はこれまでの真正ヴァイオレンス路線とは違い、真っ当な青春小説になっていてさらに驚かされた。しかも、ホールデン・コールフィールドの系譜に連なりそうな少年期から青年期にかけての思春期の懊悩を描いたものになっている。『ライ麦畑でつかまえて』を例えに出したけれど、実際に読んだのは20年も前の話でよく覚えていないし、その影響下にあるといわれる作品を読んだ時の印象との比較でしかなく、非常に危いが。

大田区平和島に生まれ育った少年・雅治は、すぐに暴力を振い、昼間から寝転がっている父親とお花畑が頭に広がる母親との間に生まれた3人兄妹の次男坊として、まるでゲトーのような環境の中を自分だけがまともだと自覚し、あるいはそう思い込ませながら成長していく。

何が良いとはっきり書けないのだけど、少年の目を通した景色はとてもクリアで、自分がその世界にはまり込んでいるような感覚すら抱く。決して幸せな話ではないし、厳しい環境でのサバイバルでもあり、この界隈で育ちたくはないなと思うが、そこで健気に生きる雅治から片時も離れなくないと思うほど魅力的な世界であることも事実で、最後のページが来ることが悲しかった。雅治に幸あれ。


伊坂幸太郎『オー!ファーザー』

読了 2012.02.25
☆☆/5点中

伊坂幸太郎といえば、00年代では一番ぐらいに好きな作家で出る作品のほとんどが当たりという驚異の打率を誇ったのだけど、最近はちょっと離れていて久し振りに読んだ。なのだけど、どうにもページをめくる手が遅い。端的にいえば面白くない。ユーモアあふれる会話文に、巧みな伏線が売りだったのにどれももたつく。帯にある"「えっ、これも伏線だったの?」と、すべてが繋がる技の冴え。"は本書に贈る言葉ではない。あとがきを読むと2006年3月から翌年12月まで新聞連載されたものを2010年に上梓したとのことで、時期的には面白いはずだし、ひとりの母親に4人の夫がいて、その高校生の息子を主人公に共同生活を送るという設定は悪くなく、キャラクターも立っているのに、最後まで物語が弾まなかった。
2012.02.29 Wednesday 23:58 | | comments(0) | trackbacks(0)
エイリアン2 ディレクターズ・カット / Aliens

78点/100点満点中

「エイリアン」シリーズの2作目。1986年製作のSFアクション。監督2作目の『ターミネーター』(1984)で大ヒットを飛ばし、今や『タイタニック』や『アバター』でも知られるジェームズ・キャメロンが監督脚本。主演は前作そのままにシガニー・ウィーバー。アカデミー賞で視覚効果賞と音響効果編集賞を受賞。製作費1850万ドル。

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ノストロモ号の唯一の生存者・二等航海士リプリーを乗せたシャトルは57年後にようやく発見され地球圏に戻ることができた。ハイパースリープから目覚め、所属するウェイランド社にエイリアンの存在とその危険性を訴えるも精神の変調を疑われる。なぜならエイリアンと遭遇したあの惑星LV426はアチェロンと名付けられ、いまや数十家族が移り住む植民惑星となっていたからだ。しかし、アチェロンからの連絡が途絶える。リプリーはアドバイザーとして宇宙海兵隊と共に再び向かうことに。
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リドリー・スコットによる1作目が1体のエイリアンが民間人に襲い掛かるSFホラーだったのと比べると、複数形となっている原題やキャッチコピーの"This time it's war.(今度は戦争だ)"が端的に物語るように、今回はうじゃうじゃと現れるエイリアンたちを職業軍人たちがばったばったとド派手に撃ち殺していくSFアクションとなる。キャメロンの意地なのか前作を意識したカットがほとんどなく、でも本格SFとしての体裁を疎かにすることもなく、今回もワクワクさせる仕上がりになっている。シリーズ物の続編はたいていポシャるが、「エイリアン」だけは有能な監督を起用していることもあり、その轍を踏まない。

ベトナム戦争の記憶がまだまだ生々しく残っていただろう1986年に作られたわけで、得体のしれない敵がいる星に赴くのは正規軍の海兵隊だ。撃っても撃っても反抗が止まらないエイリアンの姿はまさにアメリカン兵が見た北ベトナム軍のそれであり、だから彼らは細い道を伝って忍び寄る。一方で2009年のキャメロン作品『アバター』では地球からはるか遠く離れた惑星の資源を略奪するべく企業が送り込んだのは傭兵部隊となる。70年代と00年代でアメリカの戦い方が様変わりしているのが汲み取れる。本作でジェニット・ゴールドスタイン演じるバスクエスと、『アバター』でミシェル・ロドリゲスが扮したパイロット。どちらにも男勝りの女性兵士がいて目立っているのも面白い。

今回見たのは、公開時にカットされた17分をキャメロン自身が追加・再編集した完全版であり、137分でも十分長い映画が2時間半越えとなる154分となっている。いささか冗長に感じられるのは否めない。付け加えられたシーンは、重宝している映画情報サイトallcinemaの説明をそのまま引用すると、"57年の眠りについていた間に死亡したリプリーの娘や、エイリアンに襲われる直前の植民星、対エイリアン用として基地内の通路に設置されるセントリー・ガンのエピソード等"であり、"細部のセリフもいくつか追加され、全体的にはリプリーとニュート、ヒックスの交流が明確に"なった。

リプリーの娘が帰還の2年前にすでに亡くなっていたと知らされるシーンがオリジナルになかったのは驚きだ。実の娘に精一杯の愛情を注げなかった代わりに基地の唯一の生き残りの少女ニュートを必死に守ろうとするわけで、さらにいえばその母性をエイリアンたちの母クィーンと互いに認め合う場面もある(ニュートが眠りにつく際にリプリーに問いかけた質問という伏線も)。クィーンとリプリーが対面した際、両者の間にある種の交流が一瞬あり、彼女は挟撃を受けることなくニュートを連れて退くことができた。ただその後、安全を確保したと確信したリプリーは、クィーンの前で彼女が腹を痛めた子供たちを、生みたての卵もろともにいきなり火炎で虐殺するという暴挙に出る。実にアメリカ的であり、ソンミ村が頭をよぎる。『アバター』を見る限り、キャメロンの米軍批判はかなり意識的であることからもここでもそういう意図があったのかもしれない。
2012.02.27 Monday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
エイリアン / Alien

86点/100点満点中

1979年のSFホラー。監督は2作目の作品となるリドリー・スコット。主演シガニー・ウィーバー。1980年の第52回アカデミー賞視覚効果賞受賞。製作費1100万ドル。

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地球への帰還の途中で宇宙貨物船ノストロモ号は謎の救難信号を受け、未知の惑星に降り立つ。異星人の船の残骸が残され、その船内には無数の卵があった。孵化した奇妙な生物が顔に貼り付いた航宙士ケインを回収し、ノストロモ号は再び帰路につくが、彼の体内にはすでに異星生物の幼体が育ちつつあった。そして、ケインの胸を突き破り姿を現したエイリアンは脱皮を繰り返し成長していく。
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一度見た映画を見返すことはほとんどないのに、エイリアンシリーズは時々無性に見たくなるから不思議。4作とも監督が違うことでそれぞれの味があり、なおかつ傑作であることも大きいのだろうが、やはりエイリアンの造型が素晴らしく、ハードSFでありながらもそんじょそこらのホラーよりも恐ろしいのも気に入っている。

リドリー・スコット監督によるシリーズ1作目は救難信号に導かれ降り立った惑星で発見する化石化した巨大な異星人(スペースジョッキー)や宇宙船の残骸が映されたり、貨物船ノストロモ号船内での生活の様子などを丁寧に描いたりすることでSF要素に比重が置かれる。もちろんエイリアンが人間の胸を食い破って出てくるという衝撃的なシーンが前半にあるし、後半は広い船内で完全生物体エイリアンの殺戮ショーが繰り広げられ、ホラーの色合い濃くなるわけだが、エイリアンはいってみれば1体の凶悪な殺人鬼であり、その脅かし方は非常に古典的だ。

SFとホラーを見事に表している本作のキャッチーコピーが秀逸。"In Space, No One Can Hear You Scream. / 宇宙では、あなたの悲鳴は誰にも聞こえない)"。

今年スコット監督は本作の前日譚を描くとして始まった企画『プロメテウス』の公開も決まっていて楽しみだ。
2012.02.25 Saturday 23:59 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
夕陽のガンマン / Per qualche dollaro in più

76点/100点満点中

1965年製作のマカロニ・ウェスタン。監督セルジオ・レオーネ、主演クリント・イーストウッド、音楽エンニオ・モリコーネによる"ドル箱三部作"の2作目。製作費60万ドル。

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早撃ちのモンコと初老の狙撃手モーティマー。腕の確かなふたりの賞金稼ぎが最初は牽制し合いながらも、凶悪なインディオ率いる荒くれ一味を捕えるべく協力し、追い詰めていくが・・・
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西部劇の本場アメリカではなく低予算のために外国で製作され、内面よりもガンアクションをより派手により扇情的に描き、新人俳優の起用やオーケストラではなくエレクトリックギターを使った音楽などを特徴とするマカロニ・ウェスタンを世界的に認知させた1964年の『荒野の用心棒』の製作メンバーで作られた作品で、話自体は繋がっていない。撮影も同じスペインのアルメリア地方。

前作は夜陰に乗じてというシーンが多く、何をやっているのか分からない場面が多かったが、今回は前回に比べ約3倍の製作費が下りたためか、画面が非常に明快で見やすくなり、なりよりプロットがバディ物で分かりやすく、インディオと呼ばれる残忍な賞金首が統べる強盗一味をひっ捕らえるという一本道の物語になっているために、今回は楽しんで鑑賞できる。

早撃ちガンマン役には我らがヒーロー、イーストウッド。当時35歳だけど、どこか幼さが残る顔で前作でのすさんだ顔とはずいぶんと印象が異なる。一方の離れた場所からの狙撃を得意とするモーティマーは日本人の俳優・椎名桔平に似た顔立ちで、同じようなニヤっとした笑いを見せる。演じるのはリー・ヴァン・クリーフという人で西部劇では悪役をこなすことが多かったそうだ。敵のインディオは前回も悪役ラモン・ロホスを演じていたジャン・マリア・ヴォロンテ。今回も狂人じみた横顔を見せる一方で、どこか憂い帯びた表情を垣間見せる演技を披露し、主演のふたりも含めた他のキャラクターに比べひとりだけ陰影がある。

オープニングをかっさらうのはイーストウッドではなく、モーティマーの方で、大胆にして繊細に目的の賞金首に迫っていく。馬の横腹に結わえ付けたバッグのひもを解くと、ズラッと銃が並び、そのうちの一丁を選び、狙いを定めて打ち抜くシーンや、使いやすいように改造された銃で独特の射撃フォームがあるなど、こだわりを持つ知的なキャラ設定は魅力的だ。一方のイーストウッドも容赦のない早撃ちを今回も決めて見せ、そのふたりがどう互いを認め合い、共闘することになるのかが前半の肝となる。

馬、乾いた大地、ガンショット、ソンブレロ、ポンチョ、悪党の高笑いといったマカロニ・ウェスタン要素に、何度も繰り返されるエンニオ・モリコーネによるもの悲しい映画音楽には今回オルゴール付きの懐中時計からのメロディが加わることでより一層メランコリックな様相を帯び、今の時代でも十分楽しめるエンタメ作品になっている。
2012.02.25 Saturday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
死霊のはらわたIII/キャプテン・スーパーマーケット / Army of Darkness

73点/100点満点中

1993年のサム・ライミ監督脚本作。コメディホラーアクション。『死霊のはらわたII』の続編。主演は当然ブルース・キャンベル。製作費1300万ドル。

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前作の最後で中世イギリスにタイムスリップした主人公アッシュは、同地でアーサー王と出会い、彼に従う賢者から"死者の書"を探し出して来れば、現代に戻る方法が分かるはずと教えられる。
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アメリカホラー映画の金字塔のひとつに数え上げられる『死霊のはらわた』の発表が1981年。1985年にロバート・ゼメキスが「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズの1作目を大ヒットさせ、その2年後ライミ監督は10倍の製作費にあたる350万ドルをかけてセリフリメイクしたのが『死霊のはらわたII』であり、さらにその6年後、1300万ドルに膨らんだ製作費を使い、スプラッタホラーからいつのまにかタイムスリップコメディになっていたシリーズを、ライミの中学時代からの親友ブルース・キャンベルと共に完結させたのが本作。

死者の書によってよみがえったホネホネ戦士たち(原題は"Army of Darkness")と戦う体裁を取るホラーアクションの側面もあるが、強く印象に残るのはキャンベルがそれこそジム・キャリーかと思うようなコメディアンぶりを見せるシーンだ。そのドタバタ喜劇には笑うしかないし、シリアスよりも笑いを狙ったカメラワークもまた楽しい。クライマックスには人間対闇の軍隊の一大決戦が描かれるも、前半は丁寧にホネホネ戦士たちをコマ撮りするのに、後半には予算の都合か時間の短縮のためかコマ撮りの束縛から解き放たれ元気に動き回る戦士たちが出てくるなどとてもほほえましい。お金をかけた仮面ライダーや戦隊物などのヒーロードラマを楽しむ感覚で見るとより楽しめる。

1作目であれだけの本当に怖いホラーを撮っておきながら、シリーズ完結作でここに至るのは普通に考えればどうなのよとクレームのひとつも付けたくなるが、下手に拡大再生産するよりは趣向を変えて、オチを付けた本作の判断は間違っていないとはいえる。単純に楽しめたわけだし。

ディレクターズ・カット版を鑑賞したので、最後は近未来に飛ばされ、文明の崩壊を目の当たりにするアッシュというブラックなエンディングだったが、劇場公開版のオチ――スーパーマーケットが闇の軍隊の襲撃に遭う――の方がバカバカしくて好きだ。店員役でサム・ライミの弟のテッド・ライミも登場するし。
2012.02.23 Thursday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
神々と男たち / Des hommes et des dieux

77点/100点満点中

2010年の第63回カンヌ国際映画祭でグランプリ(審査員特別グランプリ)を受賞したフランス映画。1996年にアルジェリアで起きた武装イスラム集団によるフランス人修道士誘拐・殺害事件の映画化。最高賞のパルムドール候補にもなっていたが、この年の受賞作はタイの『ブンミおじさんの森』。製作費400万ユーロ。

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1995年。地中海を挟みフランスの対岸にあり、かつて仏植民地でもあったイスラム教国アルジェリア。その山間の小さな村に立つ修道院(シトー修道会)では、カソリック修道士たちが厳しい戒律を守りながら質素にして穏やかな共同生活を送る。1992年に始まるアルジェリア内戦が激化し、武装イスラム集団のテロによる犠牲者が村の周辺でも出始める。修道士たちは避難すべきか村に留まるべきか話し合うが、修道院長クリスチャンにもすぐには結論が出せない。ついに、フランス政府から修道士たちへの帰国命令が出されるが・・・。
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カンヌが評価する作品は概して文学性が高く高尚であり、言葉の使い方は間違っているが、敷居が高く、見終えた後にやっぱり映画を楽しく見るならアカデミーだよねと通俗的に思うことが大概なわけで、しかも本作のように扱うテーマが宗教となると、鑑賞する前から埋め込まれもせずにその辺に放置され積み上げられている地雷が容易に見つけられる作品となるのだけど、しかしこれがなかなか真摯な作品で、最後の最後まで静謐に張りつめられた緊張感が途切れることなく、心地良い厳粛さを抱えたまま見終えることができた。しかもクライマックスでの「白鳥の湖」の使い方にはあやうく涙まで出そうになった。

カソリック修道士たちの敬虔さと布教への不屈の勇気は、日本のキリスト教伝来の歴史を思い出してみても明らかで、そこに政治的な思惑があるにせよ、末端の修道士たちにとっては神の教えそのものだろうし、貶める必要もない。が、実際に殉教する身になってみれば、信じる神に帰依したとはいえ、様々な葛藤が芽生えるのは人間なら当然であり、その揺れる感情をハリウッドでは考えられないぐらいに長い尺を使い綴られていく。

オープニングから30分弱の間、彼らフランス人修道士たちがどれほどイスラム社会の村に溶け込み、村人に心を砕き、神への祈りを捧げ、畑を耕し、皆で質素な食事を取るのかという修道院での共同生活の様子を映し出す。日頃アメリカ映画に慣らされている身はそのフィルムの豊かな使い方にドギマギする。ただ、その神への真摯さをしっかり描いたからこそ、その後の武装イスラム集団とのやりとりに意味が生まれるわけで、何も起きない最初の30分が無駄になることはない。


強引に押し入ろうとする武装集団に対し、修道院長のクリスチャンが読み上げる一節にキリスト教との融和が図られる教えが説かれていて少し驚いた。

"信仰者に一番親愛の情を抱くのはキリスト教徒達である。それは彼らの間に司祭と修道士がいて彼らが高慢でないためである"。

コーランの中の「食卓章」にある文章らしい。しかし、本作中では触れられていないが同じ章には、"ユダヤ人やキリスト教徒を、仲間としてはならない。かれらは互いに友である。あなたがたの中誰でも、かれらを仲間とする者は、かれらの同類である。アッラーは決して不義の民を御導きになられない"ともあるそうだ。難しい。
2012.02.22 Wednesday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
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