遠藤武文『トリック・シアター』
読了。
☆☆/5点中
2009年『プリズン・トリック』で第55回江戸川乱歩賞を受賞しデビューした作家の受賞後第1作。単行本は2010年刊行。
"2010年3月21日の同時刻、奈良と東京でふたりの人間が殺害された。容疑者は被害女性の夫であり、被害男性の大学時代のサークルの先輩・富樫長道。しかし、同一人物が500キロ離れた場所で同時殺人は可能なのか。警察庁「裏店」のキャリア警視正・我孫子弘が捜査の指揮をとることに。やがて、富樫が所属していた映画サークルの仲間4人も年は違うものの3月21日に事故/自殺で死亡していたことが明らかになる。"
もうだいぶ前のことなので内容は忘れてるけど、受賞作『プリズン・トリック』が面白かったので百円棚から拾ってきた。前作も刑務所内でのありえない殺人ということだったが、今回もいくつものありえないを解決していく。今回ほぼ名前だけで登場し、でもなかなか重要な役どころの戸田という男は『プリズン・トリック』の首謀者だったらしい。
無駄に飾ることをしない文章は基本的に読みやすく、我孫子のキャラ立ちもよく、すいすいとページがめくれていく。そしてお待ちかねクライマックスでの謎解きはミステリ的には素晴らしいのかもしれないが、だからどうしたと思うほど机上の空論でリアリティに乏しく、結局は電車本程度。シリーズになっているかは知らないが、我孫子と戸田の直接対決が行われるようだ。図書館にあったら暇つぶしで読むかも。
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遠藤武文
1966年、長野県生まれ、安曇野市在住。早稲田大学政治経済学部卒業。
2009年、『三十九条の過失』で第55回江戸川乱歩賞受賞。
2009年 『プリズン・トリック("三十九条の過失"改題)』(講談社)
→講談社文庫
2010年 『トリック・シアター』(講談社)
→講談社文庫
2011年 『パワードスーツ』(講談社)
2011年 『デッド・リミット』
2012年 『炎上 警視庁情報分析支援第二室〈裏店〉』(光文社)
2012年 『天命の扉』(角川書店)
→角川文庫
2013年 『原罪』(祥伝社)
2014年 『龍の行方』(祥伝社)
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深町秋生『ダウン・バイ・ロー』
読了。
☆☆/5点中
2004年の第3回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞しデビューした深町秋生が2012年に文庫書き下ろしとして発表したクライムサスペンス。
"大型ショッピングモールが進出し、貧困と荒廃がますます進む震災後の山形県南出羽市。女子高生・真崎響子がいつも小遣いをまき上げていた幼馴染の堀田遥が目の前で線路に飛び込む。猛烈なバッシングを受ける彼女だったが、小さな町では幼児の惨殺死体が発見され、さらに実力者の飼い犬が殺される怪事件が続く。"
現在3冊出ている「組織犯罪対策課八神瑛子」シリーズは好調のようで、発行部数が34万部を突破。今夏には米倉涼子主演でテレビドラマ化され、さらにはデビュー作『果てしなき渇き』が『告白』の中島哲也監督によって『渇き。』として映画となり同時期に公開予定だそうだ。
人気となっている八神瑛子シリーズは最初の2冊を読んだ限りでは、キャラ立ち優先で書かれた安易さが悪目立ちするもので、そっちに行くのかと残念に思える出来だったが、本作の前半は冷え込む地方経済と心まで凍てつく東北の情景を織り込み、地元の利を生かし真実味を持たせた雰囲気で嫌な気持ちにさせる彼の独特な良さが残っている。今時の女子高生が何だかんだいいながらも事件の解決に向かう展開も面白い。が、少年探偵団が現実の大人の暴力の前には屈せざるを得ないのは仕方ないにしても、謎の新聞記者が正体を明かしたぐらいから、サスペンスからアクションへと移行し、尻すぼみ感が否めない。だいたい自殺に走る動機が弱い。掴みのインパクトにしたいという理由以上のものをそこに見出せない。理屈的にも惨殺事件が起きたことでより後悔し、飛び込むといった方が自然に思える。これも結局は手軽に読める電車本。
米沢穂信『氷菓』
読了。
☆☆★/5点中
今年の第27回山本周五郎賞を『満願』で受賞した米澤穂信の2001年のデビュー作。第5回角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞を獲得したそう。青春ものが好きなはずなのに、なぜか読んでこなかった作家で、『犬はどこだ』『ボトルネック』『インシテミル』『儚い羊たちの祝宴』『春期限定いちごタルト事件』と数冊試してみたらモロ好みでどうして読まずにこられたのかと自分でも不思議になった。本作は古典部シリーズとして続巻され、今のところ5冊出てるそう。
"海外旅行中の姉から母校・神山高校に進学するなら古典部に入部しなさいと手紙をもらった折木奉太郎は、同じく入部希望者の千反田えるや、以前から交流があった福部里志、伊原摩耶花も入ることになり、いつのまにか密室になった教室やなぜか毎週必ず借り出される図書室の本、あるはずの文集をないと言い張る上級生、『氷菓』と名付けられた文集に秘められた33年前の真実など日常の謎を解いていく。"
少し時代を感じさせる文章や言葉の選択、箱庭的世界観など気になる点は多いが、登場人物のキャラ立ちの良さで読ませる。千反田えるの失踪した伯父の謎を縦糸にして展開させる連作短編形式になっているのも読みやすい。"氷菓"の名前の由来やそう題せざるを得なかった心境などは読み解けなかったが、ただヒップホップグループSoul Screamを好きなだけにたいした驚きはなかった。
岡崎琢磨『珈琲店タレーランの事件簿 - また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を』
読了。
☆/5点中
2011年の第10回『このミステリーがすごい!』大賞で最終選考まで残ったものの受賞には至らず、その後加筆修正され"隠し玉"として2012年に発表されたデビュー作。帯によると60万部を突破し、シリーズにもなり3冊出ている。
"京都でひっそりと店を構える珈琲店タレーラン。恋人と喧嘩したアオヤマは偶然入ったこの店で、長年追い求めていた理想の味と出会う。女性バリスタ切間美星と親しくなるうちに、持ち込まれる日常の謎を鮮やかに解き明かす彼女に惹かれていく。"
文章が非常に苛立つ。音楽CD同様に、今の時代に書籍で60万部もいくというのは相当な人気作なわけだけど、この文章でよくいったなと思う。馬鹿丁寧な言葉使いで行う会話なら、そういうキャラクター設定なのだと諦めもするが、たいした内容でもないのに地の文までその手の長々とした文章になっていて疲れる。確かに改行だらけでページ数を稼いでるとしか思えない小説が横行しているのもどうかと思うが、言葉を多く詰め込んでも空虚なだけの文章ではげんなりさせられるだけだ。
それでも内容が良ければいいだろうと我慢に我慢を重ねて読み進めたところ、サッカー少年の話はなるほど悪くない。連作短編の全体を通して叙述トリックになっているのもうまいとは思う。デビュー作だから文章がこなれていないのは仕方ないが、しかし何がヒットするか分からない世界だ。
伊坂幸太郎『オーデュボンの祈り』
読了。
☆☆☆/5点中
伊坂幸太郎の処女作。本作で2000年第5回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞し作家デビューとなる。最近は新作も読めていないのでアレなのだけど、好きな作家だったのになぜか本作だけは読み逃していてようやく読めた。
"コンビニ強盗に失敗した伊藤は目覚めると見知らぬ島にいた。そこは宮城県・牡鹿半島をずっと南にいったところに浮かぶ、江戸以来外界から遮断された荻島だという。嘘しかつけない画家や、殺人が許された男・桜、ビッグな女性ウサギと、妙な人間ばかりが暮らすその島の住人に頼りにされている未来が見えて人の言葉まで話せるカカシが殺される事件が発生する。"
会話文でのセンスの良さに以前から村上春樹っぽさがあったが、このデビュー作では全体からもらしさが横溢していて興味深い。でも内容自体は以降の作品と比べてもミステリー度が高いし、しかもメタ探偵小説の様相でもあり、今のエンタメな路線とはまた違った意欲作になっているのは面白い。ここから読み始めた方が良かったと後悔している。
左:John James Audubon "Billing Passenger Pigeons"
右:リョコウバトの大量虐殺。この
HPから。
恩田陸『ロミオとロミオは永遠に』
読了。
☆★/5点中
これもずっと気になっていたけれど、読めていなかった2002年発表の恩田陸作品。作家デビュー10周年記念作でもあったそうだ。
"日本人だけが地球に居残り、膨大な化学物質や産業廃棄物の処理に従事する近未来。エリート層への近道は大東京学園の卒業総代になることだった。苛酷な入学試験レースをくぐり抜けたアキラとシゲルを待ち受けていたのは、前世紀サブカルチャーの歪んだ遺物と閉ざされた未来への絶望が支配するキャンパス。学園からの脱走に命を燃やす新宿クラスと接触したアキラは、学園のさらなる秘密を目の当たりにする。"
ネタとしては面白いのだけど、文章がライトノベルをかなり意識しているようで、人物が記号でしかなく、恩田らしい読み応えに欠ける。オチは良い。