一昨年ぐらいから再び漫画を読み始めている。一時期は気に入った作家の新刊ぐらいしか追えずにいたが、そうした期間がしばらくあると不思議なもので漫画のコマを読むことに苦痛を覚えるようになる。とはいえ、一度乗れるようになった自転車と同じで、少しのリハビリで脳は漫画のルールを思い出す。当時何がきっかけで漫画読みを再開したのかもう忘れたが、勧められたり、新聞で紹介されている作品を中心に色々手に取り、この1年もよく読んだのでランキングを付けてみた。
漫画と一口にいっても様々なジャンルに分かれているし、以前とは違って今はウェブ誌もあるわけで、膨大な量の作品が発表されている。今は雑誌を全く読まず、単行本で読んでいるため、その星の数ほどありそうな作品の中から目を通しているのはほんのわずかだ。それなのにランキングというのはおこがましい話だが、まあそこは個人ブログの特権。私が今年読んだ中で面白かったという一点を基準に選んだ。
1位 大童澄瞳 『映像研には手を出すな!』
文句なしにコレ!アニメ制作に取り組む女子高生3人の青春物。妄想/空想世界に飛び込んでいく時の描写がすごく素敵で、性格も育ちも違う3人がクラブを作り、念願だったアニメに打ち込む様子は痛快でもある。決して巧い絵でもないけど、いい意味での省略や割り切りが逆に絵の魅力になっていて、静止画であるのにキャラクターがやたらと動いているのも良い。
2位 出水ぽすか (原作:白井カイウ) 『約束のネバーランド』
テレビ番組「アメトーーク!」で広瀬すずの姉が確か
紹介していて試しにと買ってみた作品。そしたら当たりだった。孤児院で暮らす少年少女たちがある秘密を知り、逃げ出すことを決意するという"脱獄ファンタジー"。当初は『
わたしを離さないで』を元ネタにしたのかなと思ったものだけど、そこから次第に離れ、世界観が壮大になっていくとこれが本当に「週刊少年ジャンプ」で連載されているレベルなのかと驚くばかり。院を脱出した彼らに待ち受ける更なる試練は今も続行中。刊行ペースがさすが少年誌で怖いほど速い。コンスタントに新刊を読めるのはなんともありがたい話。
3位 板垣巴留 『BEASTARS』
オスのハイイロオオカミを主人公にした動物学園物。これも映画でいえば昨年ヒットした『ズートピア』を連想させる。同じように肉食獣と草食獣の共存した世界が描かれ、そこには襲う本能のある者と襲われる者との葛藤がドラマになるわけだけど、『ズートピア』ほどは寓話にせず、共生する動物界を舞台にした青春物語にしている点が反対に面白くさせている。最新刊では"犬"の誕生の経緯が描かれたりしてユニーク。「週刊少年チャンピオン」連載。
4位 相澤いくえ 『モディリアーニにお願い』
東北の美術大学を舞台にした男子3人組の青春物。『映像研には手を出すな!』の女子高生3人組とは異なり、こちらは夢/やりたいことと現実との間でもがくさまが描かれる。きれいごとだけでは片付かない外の世界を横目で見ながら制作に打ち込み、時に残酷にして素早い現実に飲み込まれ、それでもあがこうとするさまはとてもエモい。2014年末から連載が始まり、ようやく第2巻が出たところ。もっと読みたい気持ちもあるが、作者はかなり自分をすり減らして描いてる印象を受けるので妥当な刊行ペースなのだろう。
5位 竹良実 『辺獄のシュヴェスタ』
これはトゥイッターで教わり、5巻までようやく揃えてまとめて読んだ直後の12月に出た第6巻で終わってしまった作品。魔女狩りが行われていた16世紀のヨーロッパを舞台に、育ての親を魔女として処刑された少女エラが修道院に送られ、復讐を誓う話。馴染みのない設定であるわけだけど、グイグイ読ませるハリウッド映画のようなストーリー展開でこれが新人の作品なのかと驚かさた。しかし、意図せずにだけど、ここまでの5作全てが作者のデビュー作になっているのに今気づいた。
6位 小林有吾 『ショート・ピース』
現在『アオアシ』というサッカー漫画がヒットしている作者による映像制作物語。天才だけど変人というよくあるキャラクター設定ではあるものの、映画やドラマへの周到な下調べ等が醸し出す説得力に、心に響く良い話がプラスされることで実に読ませる物語になっている。
7位 冬目景 『空電ノイズの姫君』
ギター天才女子高生と謎多き黒髪ロングの同級生というフックに、カリスマ的ボーカルを失い空中分解寸前のロックバンドに加入するという設定やキャラクターはありがちと思わせつつも楽しく読ませるところが冬目景らしさか。とはいっても、『
イエスタデイをうたって』しか読んだことないのだけど。また長い連載になるのだろうか。
8位 桜井亜門 『亜人』
今年実写映画化もされた人気作。シリーズが長くなると、物語の持つ当初のテンションが大幅に下降することは往々にしてある。ストーリー漫画であるならば程良い長さでクライマックスに向かってグッと盛り上げ、潔く終わらせるのがベストだと、『ドラゴンボール』や『キン肉マン』を読んで育った身としては思うわけだけど、本作はそのクライマックス的な高まりを生み出しながらも、それがただのひとつの峠でしかなく、さらに先があり、それはもっと面白いと思わせる物語作りがなされてるところに強く惹かれる。
9位 沙村広明 『波よ聞いてくれ』
なんといっても会話劇の妙。当意即妙なやりとり、切り替えしは読んでいてひたすら楽しい。「アフタヌーン」誌を定期購読していた時は、『無限の住人』をだらだら続けている作家という印象だったのだけど、なかなかどうして愉快な漫画を描ける人だったよう。嬉しい誤算。
10位 都留泰作 『ムシヌユン』
沖縄・八重山を舞台にした昆虫SFエロ絵巻。前作『ナチュン』はあまりに肌の合わない絵柄さに途中で挫折したのだけど、今回その画力にはやはり上達が見られないものの、設定自体の荒唐無稽さに毎回よく分からねー面白いんだかつまらないんだかもよく分からねーでも読む!みたいな感じになっている始末の悪い作品。
上の10作から漏れたとはいえ十分良かった作品。
・九井諒子 『ダンジョン飯』
これも『亜人』と似ていて、当初の目的が達成し終わらせてもいいようだけど、そこから新たな展開が始まってそれがただの延命措置ではなくしっかり面白くなっているという意味ですごいとなった。
・羽海野チカ 『3月のライオン』
前作『
ハチミツとクローバー』は好きだったし、このシリーズも
第1巻だけは読み、そのままにしていたのをようやく集めて最新刊まで一気読みした。いや、面白い。さすがは羽海野チカ。しかも物語作りの点で進化してる感はすごい。
・近藤聡乃 『A子さんの恋人』
好きな作品。だって人間だものといった雰囲気がとても良い。
・佐々大河 『ふしぎの国のバード』
これもなかなか新刊が出ないけれど、楽しみに待ってしまうシリーズ。
・ろびこ 『僕と君の大切な話』
高校生カップル版の『セトウツミ』かと思いきや第2巻で趣向を変えたことに違和感を覚えはしたけれど、先月出た第3巻になると、周りのキャラクターに愛着が出てきたこともあり、なんだか物語がいい感じに回り始めた印象がある。