すばらしくてNICE CHOICE

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THA BLUE HERB『LIFE STORY』

2007年5月23日リリースのサードアルバム。

荒涼とした北の大地を吹きすさぶ北風の音が幕開けを告げる。
14曲で73分16秒。
"未使用なライム"をじっくり語り聞かすようにラップするILL-BOSSTINO。
さらに凄みが増したように思う。
先行シングル『PHASE 3』で少し不安を覚えたO.N.Oのトラックだったが、
表層のなだらかな音と鋭く深く重いキックのギャップがすばらしい。
M2の女性コーラスの所なんて鳥肌ものだ。

この作品を紹介するある音楽雑誌の冒頭で、
"ザ・ブルー・ハーブが長期の不在で長らく空位が続いたけれど、
その座を奪えるMC、グループはひとつも出てこなかった"というような事が書かれていた。
2002年5月にリリースされた前作からちょうど5年。
それだけ長い年月が流れたのに、彼らを超える才能は現れなかった。
5年前のアルバムは今でも何の遜色なく聴くことができるクオリティーを保っているが、
今作でさらにその上を行く新しい音と言葉を繰り出してきた。
素直に驚く。
"長い冬が明けていく"のが肌で、耳で感じる作品だった。

1曲目から6曲目までは、これまで通りのTHA BLUE HERBがいる。
その存在を高らかに歌い上げる曲も当然のようにあるし、
「未来は俺等の手の中」の次の段階をラップしたM4「SUPA STUPID」などもある。
ディスについての曲「D.I.S. (DO IT SIMPLY)」や、実際にディスしているのもある。
M5「HIP HOP番外地」では
"部活じみたラップ愛好クラブ"や、
"果ては芸能界 アパレル商売 はした金の代わりに引いちまったジョーカー"、
"ビッチしか踊らぬ淫らなHIP HOP"、"アメリカナイズなガキをたぶらかす"、
と聴いて思い当たる人へ向けて、言葉の弾丸をぶっ放している。
ただ、最後に
"俺等は 陰に捨てられた 人の世の性をここで歌ってくだけさ"
とラップされる。この辺りが少し変わってきているのかもしれない。

また、静かに決意を語るM12「MAINTAIN」や
熱くこれからの進撃についてラップするM14「MOTIVATION」、
ファーストアルバム収録の「あの夜だけは」のパート2のようなM11「この夜だけは」もある。
この曲の出だしのスキットだけは正直いらないと思うけれど、
2ヴァース目のラスト辺りはよく知らないのに涙が出そうになる。

M9「WE MUST LEARN」は中東に派遣された米軍兵士視点で描かれる。
「路上」のようなストーリーテリングな曲だが、あの曲よりもいい。
悲哀が伝わる。
この現実から何を"学ばなければならない"のかを突きつけてくるリリックがいいのだ。

前半と後半では、リリック面で大きく変わったところはあまり感じられない。
音はかなり変化したけれど。
第3幕になったと分かるのは、M7からだ。

ピアノのフレーズが印象的な7曲目「I FOUND THAT I LOST」は、
ラップというより、ポエトリーリーディングだ。
思えばファーストアルバムではM8で「孤憤」、セカンドではM6「路上」と、
アルバムの真ん中辺りで、それまでの音を変えるアクセントを入れてきた。
今回のその役割がM7なのだろう。

そして、M8「Such A Good Feeling」。
新しいボスがいる。
エゴ・ラッピンの中納良恵にフックを歌わせるこの曲は、
トラック自体が目茶苦茶かっこいい。
このアルバムの中で一番好きかも。

"罵り合っているだけじゃ先がない あの俺が言うんだから間違いない
 それじゃ交わらない それだけじゃない 優しさとは決して弱さじゃない
 俺は一生食うに困らぬ言葉 手ぶらで持ち運べる男だが
 それじゃ愛は喜ばない その先が言葉にならない何かってことさ"

"言葉にすると不確かな何か"を表現できるのが音楽の素晴らしさで、
ラッパーであるボスがライムで挑むが、やはり言葉で表現しようがない。
そんな崇高なものをラップするようになったこと自体、大きな変化だと思う。
ただ、"愛"もその「とても素敵な感情」のひとつなのだろうから、
最後のラインで"愛"と言ってしまうのはもったいない。
そこを"愛"と言い切るのではなく、
"涙が 音もなく表した 言葉にならない確かな何か"と中納が歌うように、
外枠から表現するのがいいように思う。

前奏だけで3分20秒もある、叙情的なM10「Tenderly」。
この曲でもボスの新しい思想が伺える。

"心の表情は実に限りない 当然同じ人間なんていない
 異なる事が自然の理だ それが宇宙を秩序立てる鍵だ
 お互いが補い合い 私達は初めて人の名に恥じない
 私から見れば 私が正しいが あなたから見てそうだとは限らない
 立場 価値観超えた高みから 俺は俺が為すべき事を探した
 主義や理想が混ざり合っているのが ありのままのこの地球の模様さ
 違いを違いのままにしておく事が 共有点を見つけるヒントだと思うんだ"

ここには偉ぶり、高ぶるボスの姿はない。
結婚し世界を見てきて辿り着いた今の結論なのだろう。
続けて、
"行き着く所は 学ぶべき事とは 見返りを求めずに与える事だ
 つまり受け取ってもらったこっちの方が 感謝するという心の状態
 口にするのは簡単だと思うが 少しずつやってみようと思うんだ"
と率直に語る。

"俺はもうずっと前からこっち側さ 悪ぶり 毒づくだけの怒りはない"
という歌詞もあった。

大人になったと言ってしまえば、それまでだし、丸くなったと批判もできる。
語っていることは至極真っ当なことだ。
それが大事なのは分かっている。
けれど、私がボスに期待していたのは、丸くもならず、いつでも臨戦態勢で生きる、
まったく新しい哲学を見せてくれることだった。
王者なのは変わりないし、今回の初防衛戦は勝利を収めたと思う。
けれど、ボスならではの勝ちパターンを吐き出して欲しかった。
去年流行した言葉で言えば、ボスの変化は想定の範囲内に過ぎない。
凡人の想定を超える思考の変化が見たかった。
その点がこのアルバムの残念なところである。

ただ、ボスのラップが聴けるのは喜びだ。
前線に戻ってきたのは本当に嬉しい。
パンチラインもたんまりと詰まっている。

"青コーナー 成功リセットして陣取る フレッシュな緊張 挑戦者の心境"
"生き長らえた 哀れな理由が メガヘルツの結晶となって表れた"
"ギミックが売れない時代の真犯人"
"君に足りないのは説得力"
"ゲームセット後の握手は後味が濁る"
"悪いが参加賞止まりのラップは 聴く暇は無いんだよ"
"ガス欠のベテラン勢はムカつけ"
"卒業アルバム作りの様な シャバい無欲さじゃ ラップゲームは酷だ
 締め切り一つ守れんなら商売ならない それが仕事ならば基本さ
 ロスタイムはない 責任を負うのさ 通帳に数えさせる人の評価"
"欲しいのは金だ 食ってく為さ"
"日本独自のHIP HOPの道は必ずある"
"銃刀法扱いのライムで理論武装"
"本命の出番 留守中を御苦労さん"
"輪郭と違う人格"
"漱石の前じゃちっぽけな少年"
"初めて補助輪外した瞬間とかはぶっ飛んだ 二度と来ない 究極の無重力さ"

聴き続ければ、もっとたくさんの進化と深化に気づくことのできる作品かもしれない。
そして、ひとつの作品を聴いてこれだけ思いを馳せることができるアーティストも希有だ。


特典CD。
THE TRAVEL JAM (3 CITIES JUMP)
8分34秒。
あまり良くない。
長いだけ。
2007.05.24 Thursday 00:00 | 音楽 | comments(7) | trackbacks(0)
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2017.05.21 Sunday 00:00 | - | - | -
コメント
このアルバムで初めて聞きましたけど、THA BLUE HERB
良かったっすね
僕はPVを先に見ていたので「この夜だけは」の頭は気になりませんでした
PV見ました?バーから始まり、おそらく札幌の吹雪の夜を映し出していて
無駄がなく、歌の感動が歌わる(ちょっとセンチメンタルすぎるか?)
いいPVでした

でも僕はHip Hopを聞き始めて間も無く、降神、groupinouなどから入ったので
THA BLUE HERBのこのアルバムは良いのだけれど、どのトラックも同じに聞こえて
(これがTHA BLUE HERBのスタイルだと言われればそれまでですが)
少し単調に感じてしまいました。ボスへの思い入れもそんなに無いし・・・
THA BLUE HERBのどの辺りが降神と引き合いに出される所なんでしょうね?
もし聞いといた方が良いアルバムがあれば教えて下さい
whats? | 2007.05.29 Tue 15:36
特典CDがあまり良くないって、わかってないな〜。

>>whats?
セカンドとか聞いてみたら?
| 2007.05.29 Tue 23:32
whats? 様

こんばんは。
またまたコメントありがとうございます。嬉しいです。

> 僕はPVを先に見ていたので「この夜だけは」の頭は気になりませんでした
> PV見ました?
そうなんですか。知らなかったです。
YouTubeで探してみます。
絵がなくて、声だけだとどうも下手くそな演技に聞こえてしまって。

> どのトラックも同じに聞こえて少し単調に感じてしまいました。
確かに今回のはそうですね。
上ですでに名無しさんが書かれていますが、セカンドアルバムやファーストはちょっと違います。
私はセカンドの音の方が今回のアルバムより好きですね。

> THA BLUE HERBのどの辺りが降神と引き合いに出される所なんでしょうね?
どんな話の流れでの指摘か分かりませんので、一概には言えませんが、
他の誰とも違う、あるいはまねできない音楽という点で、両者は似ていると思います。

> もし聞いといた方が良いアルバムがあれば教えて下さい
ヒップホップ全般ででしょうか。
Takatsuki周辺の音は楽しいですね。SUIKAやソロ作品、あとはSMRYTRPSの2枚目まで。
あと、Shing02もいいですし、韻シストも楽しいですね。
あ、スチャダラパーの『5th WHEEL 2 the COACH』『fun-key LP』『THE 9th SENSE』や
ソウル・スクリームのサードもいいと思います。
すみません。メジャーどこしか申し上げられず。
group_inouがお好きでしたら、もっとキッチュでポップなザマギもいいかもです。
あと、ロックバンドですが、54-71とかも。54-71はザ・ブルー・ハーブと対バンをやったはず。

what'sさんのオススメ音楽(ジャンル問わず)を教えて下さると嬉しいです。



名無し様

こんばんは。
重ねてのレスですみません。

> 特典CDがあまり良くないって、わかってないな〜。
そうですか。
LPで聴くと違うのかも知れませんが、CDで聴くと
「THE TRAVEL JAM (3 CITIES JUMP)」だけが、異色では。
ピーンと張りつめた14曲とはテンションが異なり、外して良かったなと思います。
gogonyanta | 2007.05.29 Tue 23:58
「この夜だけは」のPVは
スペシャのHPで見れますよ
http://www2.spaceshowertv.com/DAX/

「ザマギ」全く知りませんでしたが聞いてみます
お勧めは、高校の頃からフォローし続けている
small circle of freindsという男女2人組ユニットです
特にメッセージ性とかは無いので、お気に召すか
分かりませんが・・・
機会があれば是非。一番新しいアルバム「special」が聞きやすいかと思います
whats? | 2007.05.30 Wed 21:44
whats? 様

こんばんは。
ありがとうございます。
スペースシャワーTVのあのサイトは時々チェックしますが、
いつのまにかザ・ブルー・ハーブ特集をやってたんですね。
見ました。
CDの出だしのスキットが入るのかと思っていたのですが、違ったのですね。
しっかし、男臭いですねぇ。すごい。

> Small Circle of Friends
私も聴きますよ。『SPECIAL』については、1年ぐらい前に書きました。
新しいのは買おうかどうしようか迷い中です。
1000枚限定プレスとか書かれていると、ついつい手が伸びてしまいます。
http://www.towerrecords.co.jp/sitemap/CSfCardMain.jsp?GOODS_NO=1525020&GOODS_SORT_CD=104
もう聴きました?

ザマギは2枚アルバムを出しているのですが、2枚目の方が好きです。
参考になるか分かりませんが、2枚とも感想を書いてますので、検索してみてください。

いつもコメントをありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
gogonyanta | 2007.05.31 Thu 00:26
すいません、CDの出だしのスキットの件につきましては、
PVの映像や、あのバーにボスがいる雰囲気が頭にあったので、
CDの出だしのスキットを苦にならずに聞く事ができました。
という、意味です。面倒臭がりなもので、言葉足らずですいません。

あとザマギを聞きました
僕的にはgroup-inouの方が好きでしたが
良かったです。1stも聞いてみようと思います
それに、ジャケットに知り合いの子が起用されている
という、超偶然も重なり得した気分になりました
色んな仕事してんな〜

タケイフミラは、もちろん買いました
タケイフミラと名前は変えてますが予想通り
ほぼscofと変わりませんでした
でも大好きなので最高です!

今回は以上です

whats? | 2007.06.04 Mon 23:42
whats? 様

こんにちは。
お返事ありがとうございます。
PVの件も了解です。

> ジャケットに知り合いの子が起用されている
時々バラエティ番組にも出てますよね。
私もザマギの子だと思ってみています。

> 僕的にはgroup-inouの方が好きでしたが良かったです。

確かに何かが足りないんですよね、ザマギは。
私が知っている中で、group_inouに一番近いタイプのを申し上げたのですが。。。
まあ、曲数でそれをカバーしているのかな。

> タケイフミラは、もちろん買いました
ストーリー仕立てで、探偵ものなんですよね。
買うしかないですね。
gogonyanta | 2007.06.05 Tue 10:58
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