GAGLE『3 PEAT』

2007年6月27日リリースのサードアルバム。
何だよ、これ。目茶苦茶いいじゃん。去年聴いていれば、「勝手に年間ランキング」に入れてたかもしれない。1曲目の「GAGLE、が来る」なんていう下手くそな駄洒落に惑わされてはいけないなぁ。実に聴き応えのあるアルバムだ。
ちょっと前に、今さらだけどファーストアルバムを聴き、Hungerってすごくない、というホント今さらの評価をして、今回セカンドアルバムも聴き直したら、これまたトラックが最高で、どうしてあんなにこき下ろしていたんだろうという具合に簡単に手のひらを返してみた。
そうはいっても、この3枚目では1枚目にあったハンガーの鮮烈で躍動感に満ちたラップを聴くことはできない。あれは処女作にのみ宿る魔法だった。M9「LISTEN」を聴けばそれがはっきりと分かる。2002年のファーストアルバムのM6「ONE SHOT 1斬り」で、ハンガーはDABOと共演し、圧倒的なレベルの違いを見せつけたものだけど、同じようにダボが客演した、このM9ではどうだ。良くいえば「調和」という技を覚えたのかもしれないが、ダボと同じレベルでラップをしている。M5「黒フェッショナルMC」でもそれが分かる。昔の勢いを取り戻さんばかりにアグレッシブなラップを吐き出し、決して悪い曲ではない。だけど、あの頃に比べれば、明らかにキレが不足している。
ただ、ラップが下手になったわけではない。瞬発力だけが命だったラップに持久力がつき、60分という決して短くはない収録時間を最後までだれることなく聴かせるラップに変わった。また、滑舌の良さだけではなく音に融け込むラップをするようになったことも今作がいいと思える要因のひとつかもしれない。特に犬式の三宅洋平が参加したM13「千年愛」以降の4曲にその変化が顕著で、聴いていて気持ちがいい。
MITSU THE BEATSのトラックメイクはさすがのひと言。前作はメロウな方向に流れ過ぎ、ラップよりもトラックの自己主張が強い作品だったけれど、今作ではタイトで深みのあるビートがラップを引き立たせつつ、トラックもいいというバランスの良さがすばらしい。M3「ONE LOVELY DAY」や、深いところで色々な音が蠢くM6、M9のベースラインの男前さは格別だし、その上に乗る客演ラッパー・COMA-CHI、DABO、MUMMY-Dはいい仕事をしている。M13も三宅の声に圧倒されるけれど、よく聴けば、ボーカルをくっきりと浮き立たせるシンプルで奥行きのあるトラックだ。インストだけのも聴いてみたくなる。
M4「BAAH SHOW 鷹」、M7「ノーサイド」、M10「スパイダイサクセン」の3曲で外部プロデューサーを導入している。それぞれgrooveman Spot、Budamunky、Super Smoky Soulが担当しているのだけど、ビートっていうのは人によって違うのだなぁと当たり前のことをしみじみと思った。M4やM10には何とも思わなかったし、当たりの弱いビートに不満さえ感じたけれど、M7は違った。アルバム発売に合わせたインタビューを読むと、ミツ・ザ・ビーツにはない音のトラックを選んだとのことだけど、Budamunkyの音はミツ・ザ・ビーツに近い音を出す。若干ラフに音を組み立てるあたりに違いがあるかなとは思うけれど、いずれにしろ好みの音だ。
DJ Mu-Rによるスクラッチも小気味いいし、ミツ・ザ・ビーツのトラックだけ、ハンガーのラップだけではない、三者の味がうまく調和してきた作品。すごくいい。