2008年7月30日リリースのベストアルバム。
昨年のアルバム『
PLAY』のヒット、シングル『
60s 70s 80s』の大ヒットに続けとばかりに発表された、この6年間の安室奈美恵の軌跡が辿れるシングルベスト。
シングルのA面曲を安直に並べただけだとか、新曲が良くないだとか、『
60s 70s 80s』から3曲とも収録されていやがるとか、色々いいたいことはあるのだけど、最も大きな不満は楽曲的にもビジュアル的にも安室奈美恵の格好良さが薄れてきていることだ。
「NEVER END」再びを狙ったかのような2002年の「Wishing On The Same Star」(M2)からM5「SO CRAZY」までは6枚目のアルバム『STYLE』の収録曲。課外授業のSUITE CHICで学んだハイファイなサウンドを自身の作品に反映させたものの、まだ小室プロデュース期のポップさを残していた。
安室の発表するシングル曲がチャートに昇る他の楽曲と明らかに異質な音を奏でるようになったのは、M6「ALARM」(2004年)からだ。M8「GIRL TALK」と両A面扱いだったが、今作では収録されなかった「the SPEED STAR」は確かに安室の冷ややかな歌声が乗ってはいるものの、チャートに全く馴染まないトラックが何とも格好良かった。そして極めつけのM9「WANT ME, WANT ME」。それらを収録したアルバム『Queen of Hip-Pop』の音の斬新さはとても元アイドルが作り出したものとは思えなかった。
10曲目の「White Light」からは、8枚目のアルバム『
PLAY』期のシングルから。M10自体はアルバム未収録だったので、今回初めて収録されることになって嬉しい。Nao'ymtのメロディセンスが冴える1曲だ。M12「Baby Don't Cry」も同様で、この手の曲をNao'ymtに書かせたら名曲必至だ。だからこそ新曲のM1「Do Me More」は中途半端で残念だと思ってしまうのだけど。
M14「NEW LOOK」からの3曲は、上にも書いたようにシングル『
60s 70s 80s』からの曲で、いわゆる企画物であり、プロデューサーとのマッチングやら雰囲気を楽しむ音になっている。
新しいスタイルへの挑戦があり、それが頂点に達し、刺激的な曲を多く生み出せるようになり、やがて安定したクオリティを保ちつつ、再びのブレイクという現在に至る。
さて、冒頭にも書いた不満というのは、メジャーで活躍するアーティストの半歩先を歩んでいた格好良さ(音のチョイスという意味で)が最新シングルや今作の新曲を聴く限り薄れ始めていることだ。音への冒険が停滞してしまっている。
それとビジュアル面では、どんなに短いスカートで踊ろうとも、男に媚びない強さが好ましく感じていたのだけど、本人がいうところの"誘い系"も演出し始めて、どうも違和感がある。はっきりいえば、本作のジャケットはださい。
タイトルも疑問。本人がインタビューで語るところによれば、"最近やってきたものって、最高のフィクションだなっていう気がするんですよ。(中略)小室さんのときの曲は、フィクションよりもノンフィクションって言うほうが近いと思うんですね。(中略)小室さんから離れてからは、「こういう人がいたらかっこいいな」とか、私がイメージする強い女性像を作り上げてきてる感覚があるから"、ということらしいが、シングルの軌跡を辿れば、小室期を脱した後の楽曲の試行錯誤にこそノンフィクションな趣があって、ここでも違和感を覚える。
まあ、何にせよ、前作の『
PLAY』の売上をすでに突破したらしいし、売れて良かったねとは思うのだけど。