すばらしくてNICE CHOICE

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キリコ『BLAST』

2008年11月8日リリースのセカンドアルバム。

ファーストアルバム『僕は評価されない音楽家』が出た直後に、インストアという形ではあったもののライブを見ることができた。山彦タイプのフロウを音源同様に使いこなしていて、実戦でも使えるんだと感心したものだが、昨年宇都宮の小さなハコで目撃したときはそのフロウがどんどん崩され、聴き取り難くなっていたので、今作ではその点が一番の不安だった。

が、杞憂だったよう。最初こそ何をいっているのか分からない箇所がいくつもあったのだけど、繰り返すごとにキリコの主張が嫌でも耳に飛び込んでくる。ながら聴きができない押しつけがましさ。耳元でささやくようなラップや、むかつくガキのような声でのラップが新しいフロウなのかな。これらがライブでも聴き取りやすいといいのだけど。

トラックはフロウに合わせたのかファーストほど自己主張の強いものはなくなり、またFRAGMENTは16曲中3曲(うち1曲はラストの短いインスト)と大幅に減少し、masa-oldfashionも同様に3曲と少ないのは寂しい。ただ新たな有望株も現れている。B.Galloだ。4曲で提供している。分かりやすいアブストラクトといった感じでどれもいい。他にはDJ DUCTが2曲、DJ KIYO、Curse ov the Kaigen、生中、北関東スキルズのDUFFらがそれぞれ1曲ずつといった具合で、身内で固めた前作とは違い、ばらけてはいるものの唯一無比のキリコのラップが乗れば、どれも同じ色に染まるので不思議と統一感はある。

前作はいってみれば卑屈な愚痴が多かった印象のリリックだが、売上の数字は良かったらしく、表題とは異なり一定の評価を得られたという自信からか、愚痴よりも日本語ラップの現状を憂え、こうしていこうよと前に出るラップが増えた。このため幾分開放的になり聴きやすくもなった。


2000年以降の日本語ラップの流れをざっと辿りながら、同時に自分の立ち位置を確認するM1「ブラスト創刊」に始まり、M2「RECORD SURPLUS」では、HUNGER(GAGLE)のソロ曲「Choice」と同じく、DJたちはアナログ文化を滅ぼす気なのかと憤る。M3「ミュージカル演劇部」は、B.Galloの手によるものでファーストの曲調に近い。ファンタジーMCたちへの喝。もう全面的に同意。もっといってやって思う。最近のTHA BLUE HERBのIll-Bosstinoが1ヴァース目のいくつかのラインと重なり、ファンとしては辛いところだ。

そのボスとShing02への変わらぬ(変わりたくない)愛を綴ったのがM4「手も足も出ず」。これは皮肉というよりも偉大なままでいてというメッセージだろう。冒頭のメテオのセリフに、"針は変えたんだろうな"とキリコがかっこつけるところに失笑。声の重みが違いすぎる。でもこういう小ネタは好き。2ヴァース目はおそらくシンゴ2の新譜が出る前に録音されたものなのだろうが、聴いた後のリリックで聴きたかった。それとも聴いた上でのリリックなのか。また、私にはフックが、"ほんとに2人とも タイのMCと比べても ほんとにヤバイMCですよね"と聞こえてしまう。皮肉と捉えるのもアリなのかも。

M5「JAZZMATAZZ」は客演に長野のMC・YARMAを迎えた曲。BOY-KENにも似た粘着質なフロウで苦手といえば苦手。前作の「freedom jazz dance」と同じ路線。フックが単調。

で、最高に笑えたのがM6「ブラスト廃刊」。いいねぇ、この曲。ヒップホップ専門誌BLASTへの愛憎というか、自分のことを黙殺した雑誌への憎しみがほとばしり、嘲笑するかのようなフックが笑える。休刊してザマーミロというのがよく伝わってくる。私は読んだことがないので雑誌の傾向を知らないのだけど、キリコのファーストを取り上げなかった時点で専門誌を語るのはおこがましい。

2ヴァース目の、"ライターの後押しがないと安心して購入できないヘッズ"のラインはある意味で真理だろうが、聴き手がその権威付けを気にしなくなった、あるいは信用しなくなったことが休刊に繋がったという一面もあるのかもしれない。雑誌なんかなくてもヒップホップは現にあるのだ。精一杯の自己表現をする作り手と、それを楽しむ聴き手がいればそれで十分。ここでもB.Galloが秀逸なトラックを提供。

何だか全曲紹介になってしまいそう。

フラグメント・トラックがようやく顔を出すのが7曲目の「MCバトルを観て思うこと」。フラグメントは環ROYとのコラボ作『MAD POP』でみせたハイテンションさとは打って変わってスムースさを優先。最後のライン、"作品がダメだっていいんじゃないのかな"で効かせる皮肉具合が好き。

生中によるM8「ORIGINAL MC」は真っ当なジャジートラック。ファーストではMadlibの名を出していたけれど、ここではFunky DLを腐し、また自分のフロウに影響を与えた国内外のラッパーの名を挙げていく。このつんのめったようなフロウはキリコのラップの中でも一番アブノーマルで、ライブで聴くには辛そうだ。

M9「鏡に映る現実」はトラックはDJ DUCT、客演はRUMI。これはいい。狭い世界で角を突き合わせている日本語ラップ村にいい加減仲良くして一緒に盛り上げようよと、キリコが昔のYOU THE ROCK★ばりに熱く語れば、RUMIもキリコに引けを取らない我の強さを発揮し、すばらしいラップを披露。今さらだけどRUMIがいいことに気づく。アルバムを聴いてみようかしら。キリコのラップがしだいにうまく聴こえてくるのは、慣れなのか事実なのか。しかしRUMIが客演とは想像もしなかった。この伝手でそのうちDJ BAKUがトラックを、とかもあるのか。

M10「耳を貸すべきMC達」では、日本語ラップ村の中でキリコが気に入っているグループ、ラッパーを挙げていく。MSC、KAN、BIG JOE、Shuren the Fire、Hisomi-TNP、なのるなもない、ダースレイダー、メテオ、dotama、北関東スキルズ、SUIKA、Ni-YANG(確かに俺の眼鏡はいい曲だ)、RUMI、武藤正幸(1枚だけ聴いたけどはまれなかった)、Kensho Kuma(知らん)、Kaigen、鬼、ガグル、ハンガー、Mitsu the Beats。この曲のトラックはmasa-oldfashionで、猥雑なジャジートラックが最高。

M11「M●XI症候群」は名前の通りmixiについて自虐ネタでラップ。トラックも微妙だが、内容もイマイチ。

アングラ賛歌のM12「UNDERGROUND MC」を経て、いよいよ13分47秒と長尺のM13「ありがとう。名無しの2チャンネラー諸君」。トラックはフラグメント。当然期待通りの音。でも主役はキリコ。涙なしではとてもではないが聴き通せないリリックのオンパレード。特に父親から"ちゃんと韻を踏まないとだめだよ!"といわれるところが悲しい。とはいえ、良いこともたくさんいっていて、ファーストの時の記事のように全てのパンチラインを書き抜きたくなる。

趣の変わったM13「1時なのに虹が架かってるよ」はB.Gallo製。内省的なリリックも書けるんだという軽い驚きを味わえる1曲。これもいい。

M15「HIPHOP JUNKIE」はこれまでの主張を1曲に薄くまとめたような曲で別になくてもいいのでは。で、最後は今作では唯一のインスト曲「ENDROLL」。フラグメントがきれいにアルバムを締める。


なんだ。結局全曲やってしまった。最後の方は疲れて駆け足だったけれど、それもご愛敬。ファーストでいいたいことを全て出し切ってしまい、ネタがもうないのではと少し心配もしていたのだけど、意外にも真っ向勝負できて、確かに似たようなネタはあったけれど、2ちゃんねるについての曲という変化球も織り交ぜつつ、M9でRUMIと共に新しい視点を盛り込み、さらにはM13ではパーソナルな路線も打ち出し、最後の最後まで楽しんで聴けた。日本語ラップの最後の良心だね。

こうなると3枚目にも期待してしまう。でもその前にインドにでも旅してきてはどうだろう。で、人生と愛について語り始めると。まあ何にせよ次も楽しみ。
2008.11.12 Wednesday 23:59 | 音楽 | comments(4) | trackbacks(0)
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2017.04.19 Wednesday 23:59 | - | - | -
コメント
良かったっすね!
タワレコでもツタヤでも
「衝撃の問題作!」みたいな
ポップが貼ってて、これは
ネットでもヤバいだろ〜と思ってたんですが
全然話題になってないんすね
僕は前作よりもハマりました

インタビューはご覧になりましたか?
このインタビューで1曲かけそうなくらい
秀逸です
とくにFUNKY DLについて聞かれた時の
キリコの返しには爆笑でした
http://compass-web.net/interview/200811/kiriko.html
what's? | 2008.11.14 Fri 05:16
what's? 様

こんばんは。
インタビューは読みました。頭の良さがうかがえるインタビューでしたね。的はずれな質問や愚問を一蹴する姿勢はいいです。日本人ラッパーのなかでも頭脳派のひとりだと思いました。ダースレイダーとの対談とか面白そうです。

前作よりもはまったというのもよく分かります。あの怪作を超えることはかなり難しいと思っていましたが、あっさり超えて、何だが色物扱いしている人たちを見ると怒りすら湧いてきますね。
gogonyanta | 2008.11.15 Sat 02:05
どうもこんにちは。

COMPASSでメールインタビューをキリコさんにさせて頂いた否と申します。見ていただいてありがとうございます。いつもgogonyantaさんのレビューには感服させられます。

今後の参考にお聞かせ願いたいのですが、的外れや愚問とおっしゃっていた質問とは一体どのような質問でしょうか。自分も質問の内容がまだまだ未熟だと感じているので是非教えていただければと思います。

ちなみに2ndもかなり良かったと自分自身も感じましたが、未発表音源集というものもライブなどで売られており、それも面白い内容なのでお勧めしたいです。

gogonyantaさんとは行くイベントがかなり被っているのでいつか会ってごあいさつさせていただきたいです。ありがとうございました。
| 2008.11.15 Sat 07:37
否様

こんばんは。
以前SSWSの記事で間違いを指摘してくださった覚えがあるようなないような。ともかく、はじめまして、ですね。

> 的外れや愚問とおっしゃっていた質問とは一体どのような質問でしょうか。
ああ、不快に思われるのも当然ですね。これは当ブログでよくある筆(指)が滑ったというやつです。申し訳ないとしかいいようがないです。

ただ、Funky DLについての質問はいわずもがなですよね。影響を受けてきた海外のラッパーの名前を同じ形式のリリックでどんどん挙げていき、最後で落とすためのFunky DLであり、ただ彼をおとしめたいだけにあの1ヴァースがあるとは思いませんでした。2ヴァース目では国内で影響を受けたラッパーを挙げていくわけですから。まあ本当に嫌いなのも事実でしょうけど。

そして否さんも真ん中辺りに位置するあの質問は、ちょっと下世話な感じで箸休め的効果を狙ったのかもしれません。でもキリコというアーティストが真摯に考え、発言するアーティストであるならば、その質問の前後にある、彼の姿勢や思想に深く切り込んでいく質問と同じような問いかけをして、その答えを知りたかったなとも思いました。

でも、インタビューは面白かったです。メールで行われたのですか。では、得られた返答につっこんだ質問をかぶせることもできないわけで難しいんでしょうね。

> 未発表音源集
ボリュームいくつかは分かりませんが、家にあります。今度聴いてみます。買ったまま放置してました。女性ラッパーへの"辛辣な意見"があるのですね。楽しみです。

最初に謝罪しましたが、もう1回、実は謝らなければいけないことがあるんです。ちょっと前に書いたYOU THE ROCK★の昨年のアルバムの記事で、コメント欄がいい感じに盛り上がったのですが、そのことについて書かれた否さんの記事についてです。

私が気づいたときにはもう話が佳境に入っていて、今さら口出ししてもなんだしと思い、見て見ぬふりをしてしまいました。あの時は本当にごめんなさい。興味深い話ではあったし、うずうずしてもいたのですが、正直めんどくさ! と思ったのも事実でして、あの折は失礼しました。

あ、ブログの再開を楽しみにしています。
これからもよろしくお願いします。

ではでは。
gogonyanta | 2008.11.16 Sun 03:41
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