すばらしくてNICE CHOICE

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B.I.G. JOE『COME CLEAN』

2008年10月4日リリースのセカンドアルバム。

太平洋を隔てた有袋類の大陸オーストラリアの監獄に囚われた、北海道のラッパーB.I.G JOEが刑務所内のレコーディングスタジオでラップを吹き込み、仲間のDJ DOGGのもとに送り、日本有数のトラックメイカーたちによって音を付けられたのが本作。

すばらしいなと思える曲やグッとくる曲に出会えたことは嬉しい。が、6年間の異国での服役という苛酷な経験を経て、自由な身となり、ふるさとの街を眺め、強い絆で結ばれた仲間と飯を食い、愛する人との再会を喜び、塀の外に生える緑の息吹を感じた結果、生まれてくる言葉を聴きたいと強く思った。


この作品に収められた曲の多くは生々しい。獄中だからこそ記録できたものであり、これこそが「リアル」だと評価する視点を分からなくはないが、言葉とフロウの迫力でもって作り話に固唾を飲まさせるTHA BLUE HERBの「路上」の方が、M2「D.D.D」やM6「MURDERER」よりも圧倒的に上質だ。本作は生々しさだけなのだ。

麻薬の売人が売り物に手を付けて、にっちもさっちもいかなくなり困窮したところに、親分が与えてくれた密輸仕事も見事に失敗しておきながら、はめられたとわめくのはどうなんだろう。麻薬組織の親分としては末端に組の金(薬)を使い込まれ、さらに外国で下手打たれて組が大損したということなのに。

そういった長年囚われた生活を送っているが故の精神状態の不安定さがリリックによく表れている。論理の飛躍が多く、かえって曲におかしな説得力が生まれている面も否定はできない。ただ、それが昇華されているかといえば、そんなことがないために、前半の曲は特に居心地が悪い。

雑誌やライターに対して痛烈な批判を口にするM7「UN, DEUX, TROIS...」にも彼の不安定さがよく表れている。"お前みたいな奴がココにいたらよ 女々しすぎて二日でカマ掘られて 三日目の朝冷たくなって死んでるぜ"と凄んでみせる。あなたほどのドジではないから、そんなところに6年間も収容されることはないよと思わず返答したくなる言い草だ。

ブルーハーブのIll-Bosstinoとの一件も含めて、あまり考えなしに思っていることを口にしてしまうところが彼の魅力なのだろうと思いつつも、"最悪の場所でも学ぶべきものがある"と前向きなラインを生み出した同じ口が吐く言葉とも思えない。


アルバムの後半は犯罪や牢屋での愚痴から離れ、人生や生き様、自身のラップへの確信など肯定的な曲が増えていく。特に最後のM16「HEARTZ OF MEN '08」では、余分な客演が邪魔ではあるものの、"人生の苦汁を味わった後はその手で世界を抱き締めるのだ"とすぐそこまで迫った自由への瞬間を明るく描写する。

冒頭にも書いたすばらしい曲というのは、表題曲でもあるM11。一人称が"オレ"から"僕"になり、彼ほどの苛酷な経験をしたことのない人間にも分かりやすい、抒情的な歌詞が切々と重ねられ、奥深いところまで入ってくる。Michitaのトラックともこれ以上ないぐらいの結びつきで、前半の流れがハードだっただけに余計に染みる仕組みだ。

また過去を振り返るM15「A TIME TO REMEMBER」は、馴染みのない北の街の話なのに、グッときてしまう。B.I.G JOEの語り口のうまさが際立つ。


今しかできないラップであり、獄中での言葉を薄めることなく音源として留めることができたのは幸運に違いない。またラップがあったからこそ想像も及ばない長年に亘る獄中生活に耐えられたのだろう。そういったことを理解した上でもやはり渦中の言葉よりも、抜け出た後の喜びに溢れたそれを聴きたいと思ったのだ。


【追記】2008.12.24
MJPのHPに載せられているインタビューを読んで驚いたのは、彼が33歳だってこと。ボスより年下なんだ。もっと上だと思ってた。


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2005.12.23 1st AL『THE LOST DOPE』
2006.03.24 1st SG『Midnight Express』
2007.11.23 【B.I.G JOE -N- EL SADIQ】mini AL『2 WAY STREET』
2008.10.04 2nd AL『COME CLEAN』
2009.08.16 mixCD『No Ordinary Joe -Mixed By DJ KEN-』
2009.09.16 2nd SG『Almost Dawn / One Love Pt.2』
2009.11.25 【B.I.G. JOE, INI, DJ KEI】mixCD『PASS THE BACK WOODS』
2010.03.10 3rd ALRIZE AGAIN
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2008.12.23 Tuesday 23:59 | 音楽 | comments(9) | trackbacks(0)
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2017.10.17 Tuesday 23:59 | - | - | -
コメント
定期的に拝見させて頂いておりますが、書き込みは初めてです。

>あまり考えなしに思っていることを口にしてしまうところが彼の魅力なのだろう

同感です。それに限らず、随所に見られる誤謬、論理の飛躍・破綻が、かえって彼のラップの説得力を強化しているようにさえ思えます。YOU THE ROCK★にも通じる「ヘタウマ」の醍醐味、とでも言いましょうか。いや、ジョーはラップ自体は巧すぎるほどに巧いと思うんですが。
ボスが「歯にコロモ着せず」と言った途端に、作品全体が胡散臭いものに見えてしまったこととは対照的ですw

これは、おそらく、ジョーは「社会不適合者」として、ボスは(本作でも語られていたように)「若者のカリスマ」として、それぞれラップしているという、立場の差から来るものなんでしょうね。ボスはもはや導師のようだし、かたやジョーは「俺みたいにはなるな」と繰り返す。
そう考えると、あのビーフは必然だったようにも思えてきます。
djtl | 2008.12.25 Thu 17:37
実に賛否両論あるアルバムですね。
BOSSに客演断られたというのも十分理解できる内容だし、かといえばバカ売れしてるのも納得できる内容で。
なんだかんだ言いながら今年一番聴いているラップのアルバムだったりするんですが。
不安定さや孤独や葛藤や弱さや何やら全て含めて、BOSSに対する畏敬の念とは違った人間味を感じると行った所ですか。

個人的に一つ素晴らしいと思う所は、言葉がちゃんと聞き取れて理解出来る所ですかね。1stの電話越しレコーディングでさえ、録音は最悪ですがちゃんと理解出来るし真摯さが伝わって来る。この点は日本のガナり系ラッパー達には見習ってほしいと思う程です。
出所してからの活動が楽しみです。
holly | 2008.12.25 Thu 19:49
djtl様

こんばんは。
はじめまして。

> ジョーは「社会不適合者」として、ボスは(本作でも語られていたように)「若者のカリスマ」
> として、それぞれラップしているという、立場の差

そうですね。聴き比べるとふたりのスタイルは大きく異なることがわかります。でも、B.I.G JOEの語彙のなかにはIll-Bosstinoが使う言い回しと似通っていたり、韻の踏み方がそっくりだったりするのは興味深かったです。ボスがジョーと同じステージに立っていたのはもう10年以上前のことになるわけで、影響は薄まっているとは思うのですが、それでもまだまだジョーの強い影響下にあるのか、それとも実は逆なのか、気になるところです。




holly様

こんばんは。

> BOSSに客演断られたというのも十分理解できる内容だし、
> かといえばバカ売れしてるのも納得できる内容で。

このあいだタワレコで、日本語ラップを普段は聴かなそうな女性が本作を買っていたので、ちょっと驚きました。

> 不安定さや孤独や葛藤や弱さや何やら全て含めて、BOSSに対する畏敬の念とは違った
> 人間味を感じると行った所ですか。

そこですね。私は最初聴いたとき、愚痴だらけのラップに、麻薬の密輸というその国に最悪をもたらす大罪を犯していながら、即日死刑にならなかっただけめっけものなんだぞとちょっと怒りながら聴いてたんですけど、次第に人としての弱さを赤裸々に語る内容に、確かに人間味を感じてきて、ちょっといいかもと思い始めました。

出所は2月でしたっけ。楽しみですね。獄中で書いたリリックは全て捨てて、外に出た喜びを綴ったアルバムが聴きたいです。そうしないと、外国で6年間刑に服したことを売りにすることになり、ただのギャングスタと変わらなくなりそうで、そこで勝負しなくてもやれる感性を持っていると思うんですよね。まあいずれにせよ、楽しみです。
gogonyanta | 2008.12.26 Fri 00:14
D.D.Dは100%ノンフィクションではありません
ア | 2009.05.24 Sun 15:54
ア様

あらあら。
このブログは100%真実に基づいて書かれているものではありません。
gogonyanta | 2009.05.26 Tue 01:26
・・・言っちゃった
ア | 2009.05.26 Tue 16:32
いわされちゃった・・・。
gogonyanta | 2009.05.27 Wed 02:08
BIG JOEってラップ下手なのに出てくるまで
噂が噂を呼んで、すげえ大物扱いされてたイメージ。
ちんたろ | 2013.06.29 Sat 16:48
ちんたろ様

こんにちは。
コメントありがとうございました。
4枚目になる最新作も良かったですよ。お勧めです。
gogonyanta | 2013.06.30 Sun 11:53
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