すばらしくてNICE CHOICE

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t-Ace『孤高の華01』&『孤高の華02』

左:2008年6月25日リリースのサードアルバム『孤高の華01』
右:2008年10月8日リリースの4枚目のアルバム『孤高の華02』
t-Aceは1981年、水戸で生まれる。幼い頃、父とふたり遅くまで起きて母の帰りを待つよなことがたびたびあった。その母親は見知らぬ男の肩にもたれて帰ってきた。そんな時は遅くまで怒鳴り合うふたりの声が聞こえてきて、t-Aceは小さな両手で耳を塞いだものだった。まだ年端もいかない子供なのに両親ですら困らせないように人の顔色をうかがっていた。

4歳の時に両親が離婚。粉雪が舞う日に母親は出て行った。父親とのふたり暮らしが始まるが、寝物語をよくしてもらった母親の温もりを思い出してはよく泣いていた。父親からの虐待も始まる。こぶしで顔や体を殴られる痛みよりも恐ろしさに震える毎日だった。そんな日々の中で、祖母の家だけが唯一子供に戻れる場所だった。酔いつぶれ泣きながら、t-Aceを殴り蹴りつける父親だったが、幼いt-Aceにとってはたったひとりの肉親であり、嫌いにはなれなかった。妻に逃げられ、身内に騙され、借金を背負い、仕事も失った父親。酒に走り苛立つ理由を知っていたからだ。早番のため父親が早くに家を出て行くときは狭い家なのに広く感じた。作り置きしてくれた朝食は例え一週間ずっと同じ目玉焼きでもおいしかった。

やがて、男親だけの環境に無理が生じ、父親とは別れて暮らすようになり、t-Aceは親戚中を転々とした。嫌な顔をされるので夜中に逃げ出し怒られたこともある。父親には2週間に一度だけ会えた。その時だけが嬉しかった。しかし父親は"信じるのは自分だけでいい"が口癖になり、変わっていった。金をうらやみ、女をあさり、自分のことだけを考えて生きる人間になってしまった。本当に大切なものを手放してしまったのだ。父はt-Aceに謝罪の気持ちからか愛情の代わりにお金をくれることがあった。おかげで金銭感覚が狂い、またそんなあぶく銭が長く続くことはなかった。

小学校に入学してからも年に何回も転校するような生活が続く。授業参観日に親が来ないことは平気だった。反対に、悲劇の子供のようにt-Aceを扱う先生にうんざりしていた。

父と再び暮らすようになったある日、新しい母親がやって来た。若すぎる母親に戸惑うも、しばらくして弟が生まれた。しかし、半分だけ血の繋がった弟とはうまくいかず、ひとり部屋で孤独に過ごすことの方が多かった。父親からの暴力も続いていて、一方で継母からはご飯を出してもらえないというネグレクトを受けていた。そんなときに逃げる場所はやはり祖母の家で、ずっとここにいてもいいのよという言葉に涙しながらガツガツとご飯を食べた。

ある年の4月。妙に懐かしく感じられる町に戻ってきた時、孤児院育ちの奴と出会う。互いに親がいなかったこともあり、ふたりはすぐに仲良くなった。彼は中学校を卒業すると六畳一間のアパートを借りてひとり暮らしを始めた。そこに出入りしていたt-Aceも盗んだ米とツナ缶で腹を満たし、朝から晩まで一緒に遊んだ。高校に進学したt-Aceが中退を決意し人生に混乱していた時期も、彼が日雇い仕事を紹介してくれたりと支えてくれたおかげで、何とか自分を取り戻せた。今でも感謝している。

その頃は週末ともなれば、距離にしてたかだか100km、車を飛ばせば1時間で着く憧れの東京に繰り出し、渋谷ハーレムで遊んだものだ。この時期にふたりの男と出会い、運命が大きく変わった。年がひと回りも上の彼らは何が正しくて何が悪いのかという価値観をt-Aceに教えてくれた。彼らに出会えたから、どうにか生きてこられたのだと思う。

父親からは母親の悪口を吹き込まれ育ったが、20歳の時に実母と再会する。待ち合わせ場所のファミリーレストランに行くと、4歳の時に別れて以来の対面だったが、すぐに母親と分かった。まともに目も見られず鼓動だけが高鳴った。自分が捨てられた理由を聞きたかったけれど、切り出すことはできず、敬語で話し続けた。

1997年のあるクラブの真夜中過ぎ、大切な仲間がヤク中に刺され死んだ。紙とペンと未来への絶望はあの頃と変わらない。天国はどうなんだろうか。彼はいないけれど、t-Aceはひとりでも行く。

大事な彼女もいたけれど、別れてしまった。別れの日に、斜めに差し込んでいた夕日をよく覚えている。思い出せないのは彼女の笑顔で、思い出すのはせつない顔ばかり。女ひとりも幸せにできなかったと強がってみたものの、辛いから写真と指輪はすぐに捨てた。

今t-Aceは職業ラッパーであり、時計はロレックス、リングにチェーンを身に付け、見た目は輝いている。でも夜が怖くて目が閉じられず、泣きたい夜が多いのは変わらない。ラッパーとはいえ、保証されている未来は2日であり、飲めもしない酒を無理にでも喉に流し、ゲロと不満を一緒に飲み込み、眠るだけだ。

父親と継母、壁のある弟は今では東京に住んでいる。学生時代の仲間も半分は東京に出て行った。t-Aceは生まれ育った水戸で生きている。今いる場所よりももっと上の景色が見たいと願う日々を送っている。日本語ラップの現状を見るにつけ、アメリカの真似事ばかりで心がないと腐すこともある。仲良しクラブごっこも気持ち悪く、ださい奴が多すぎる。DJには日本語ラップを回せといいたい。

秋頃に父親が鬱で入院した。父親の生き方に反発していた頃もあったけれど、会わなくなり、年齢を重ねたためか、いつの頃からか認めだしていた。街がクリスマス一色になった頃、病室で会った。腕の傷、白い髭。今までいえなかったありがとうがいえた。

大切な仲間のひとりが父親になるので、結婚式を挙げることになった。少し寂しくもあるが、一生を供にする奥さんを大切にして欲しい。

そんないい話もあれば、仲間に裏切られゲロと涙で全てを笑い、死ぬほど泣いた夜もあった。夜中に今でもひとり涙を流すこともある。もう死ぬをほど誰かを恨みたくないから、笑っていたいからひとりでやるつもりだ。笑っていたいからt-Aceは今日も歌う。

水戸のソロラッパーt-Aceは前編後編に分けた2枚のアルバム──ボーナストラック含めて全22曲収録時間93分8秒──で自分の半生を赤裸々にラップしている。そこで描かれた彼の人生を再構築し時系列に並べたものが上の文章になる。できるだけリリックに忠実に書き記したつもり(生まれた年だけはリリックになかったので彼のブログから引用した)だが、もし事実誤認があるならば、もちろんそれは事実をしっかり伝えきれなかったt-Aceに責任がある。

スタイルの好き嫌いは別にして、ひとついえることは、20数曲もあればラッパーは自分の人生を語ることができるということが分かった。もちろん全てを語ったわけではないだろうけれど、どういう痛み・苦しみを抱え、いかなる哲学を持ち、どんな出会いがあったのか、それをリリックやトラック、フロウという全てを使って伝えている。そして、それを語ることで初めて前に踏み出せるのだろう。

何かを成し遂げたわけでもないのに自伝を著すラッパーもいるが、ラッパーならまずラップで語るべきだ。活字にするなんて作業は20周年記念にでも行い、小遣い稼ぎの足しにすればいい。まずラップだろう。


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2005.12.23 1st AL『THE TRUTH NO.X』
2006.08.02 【SLASH SPIT SQUADRON】1st SG『Merry-Go-Round』
2006.10.25 【SLASH SPIT SQUADRON】1st AL『SLASH SPIT SQUADRON』
2007.07.25 2nd AL『THE TRUTH 11 HEATBLUCE』
2008.06.25 3rd AL『孤高の華01』
2008.10.08 4th AL『孤高の華02』
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2009.01.07 Wednesday 23:59 | 音楽 | comments(2) | trackbacks(0)
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2017.07.31 Monday 23:59 | - | - | -
コメント
はじめまして^^
明日、君がいない。ユメ十夜。それでも僕はやっていない。
見てみたいと思います!本も参考になるものが多くおもしろかった
です!小川洋子「博士の愛した数式」おもしろいですよ!
字は大きいですがアレックスシアラー「青空の向こう」もよかったでです。
映画は「パコと魔法の絵本」泣けました。
最近「ラースとその彼女」をすごく見たいと思うのですが
私の県での上映はされないらしく残念です。
見ることがあったら感想よろしくお願いします。
文章のなってない文ですみませんでした!
失礼します!
唄 | 2009.01.09 Fri 21:28
唄様

こんにちは。はじめまして。
なんだかお褒めの言葉が多くて恐縮です。そんな大層な感想は書いていないのですが、もしご覧になっていい時間を過ごしていただければ幸いです。つまらなかったらすみません。

> 「ラースとその彼女」
そうなんですよね。結構高評価で、最初見る気はなかったのですが、見ようかなという気になり始めたところです。時間があれば何とか足を運ぶつもりです。

ではでは。
gogonyanta | 2009.01.10 Sat 13:06
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