2009年6月3日リリースのファーストアルバム。
世間の評判は知らないが、かなり気に入って繰り返し聴いている。今さら「証言」もないだろうとM11を飛ばすと正味たったの42分24秒。その短さも理由のひとつだが、もっと大きな魅力はDJ YASのトラックのかっこよさだ。2000年以降は本国アメリカでも日本でもサンプリングより打ち込みのトラックが主流となり、ド派手なものが多いが、最初に聴きかじったヒップホップが90年代前半の音だったせいか、シンプルなループミュージックが耳にしっくりくる。
RINOの昔語りの裏でビートとフルートループが渾然一体となり、闇の奥に引きずり込もうとするM2「Droopy Drawers」、DJ YASのMySpaceで聴いた瞬間から虜になったM3「響言」。かつての「証言」と同じようにこれからの日本語ラップを担う若手を集めたつもりなのだろうが、格に歴然とした差がありすぎて、比較されてしまう彼らが不幸。ただ、SIMONだけが飛び抜けて良くて、少々見直した。M4「ある愛の行方」もM5「Sign」もいいし、ひとつひとつ挙げていくと切りがない。全てが良いといって過言ではない。
一方、リノには取り立てて思い入れがないので、過去と比べて劣化したのかどうかは分からない。辛うじてリアルタイムで聴いたファーストアルバムは期待はずれだったが、それ以前の作品にしても、2000年以降の日本語ラップを親しんだ耳では、彼のラップにまとわりつく当時の評価は過大評価にしか思えないのだ。
誰でも生き続ければ歴史はあるもので、M2は面白く聴けた。M3と同じようにMySpaceで聴いて一発で気に入ったM4は、決して巧いラップではないものの、どの貧民街にも当たり前のように転がっている不幸話をリノのどこかラテンノリのカラッとした声がラップすることで、何度繰り返しても飽きの来ない魅力が生まれる。客演陣はHAB I SCREAMやABUを筆頭にリノを引き立たせようとしているのか一様にアレな出来だが、M7「The Word Tour」でのCOMA-CHIは久しぶりに聴き応えのあるラップを披露している。それと、DABO、DEN、ダースレイダーと共にマイクを回すM9「D.D.D. (Da Deadly Drive)」もいい。DENが足を引っ張ることなく、反対にタイトに牽引していくぐらいの勢いがあって、SIMON同様に評価を上げた。
音楽性という意味では満足できたわけだけど、姿勢という点では疑問を持たざるを得ない作品だったことも事実で、「響言」が「響言 ~Version 2~」であり、D.Oを抜いたバージョンだったことが非常に残念だ。D.Oはどうしようもない事件を起こしたことは事実だが、だからといって彼が創り出したものに罪があるわけではない。こんな事態はもちろんよくあることで、D.Oのソロアルバムもお蔵入りになったし、岡村靖幸だって槇原敬之だって最近でははっぴぃえんども似たような状況になった。
けれど、本作はインディーズからのリリースであり、何より"同志達よ これは革命だ"と威勢良く叫んでいる作品の中で、自分たちがいち早く長いものに巻かれることは、それこそ同志たちにとって裏切りでしかないのでは。そもそもリノが扇動しようとする革命自体に実態が見えてこない。革命を起こして何がしたいのか。ヒップホップを広めることを革命と呼ぶなら、客演しているダースレイダーほど偉大な革命家はいない。1000円シリーズは画期的だったし、月刊ラップも面白い企画だった。"日常にヒップホップを"というテーマをまさに実践行動している。勇ましい言葉を発することで自分に酔うのは結構だが、今はやりの言葉を使えば、芋を引いた本作は何とも情けない。