すばらしくてNICE CHOICE

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般若『HANNYA』

2009年6月24日リリースの5枚目のアルバム。

般若ももう5枚目か。1年にほぼ1作のペースで作り続け、しかもサードアルバム以降は客演ラッパーなしで完成させているわけで、現在日本で一番のラッパーはといえば彼の名前を挙げざるを得ないだろう。言葉の選択の巧さ、語り口の軽妙さ、鋭い毒の入れよう、楽しませようとするユーモア精神とその過剰さ、ラップ・生き様の真摯さ。全てにおいて日本で最も輝いている。強いて欠点を挙げるとするならば、トラック選びとアルバムジャケット。

ジャケが悪いと書いたが、本作は5枚目にしてようやくいいじゃんこれってな出来で、何度見ても楽しい。日本刀持ってたり、3億円犯を模したり、安っぽく白衣を着たりとイマイチなものが多かっただけに今回のはラップ同様に思いっきり楽しんだ。

さて、中身はといえば3作目『内部告発』から顕著になった内省的な曲がアルバムの骨格を担うのは変わらずだが、ユーモアに溢れる曲が幾分増えた印象だ。『おはよう日本』収録の「カメラ」では監視カメラの視点で街を描いたように、M8「ケータイ」では浮気夫や女子高生の携帯電話になりきった愉快なリリックが楽しめるし、「やっちゃった」の続篇のようなM5「天使と悪魔」、大阪までの車中を描いたM12「のぞみ」でも冴えたストーリーテリングぶりが味わえる。

M11「最ッ低のMC」やM14「いつでも」、あるいはM2「やってやる」やM3「フェイク」といった曲では日本語ラップと正面から向き合い、現状をしっかり理解した上で、ドン・キホーテのごとく振る舞う威勢の良さがある。

しかし、何といっても今の般若の魅力は、ままならない人生を受け入れつつも、自分のものにしようと懸命に生きる様を綴ったリリックである。誰にでも分かる簡単な日本語の連なりは、ブルーハーツのそれのように平易で、だからこそ普遍性がある。中でもM13「ゼロ」は格別だったが、他にも"カラスが俺のGPS"とうそぶくM4「空」、"ポッケに現実 それがチケット"のパンチラインが輝くM9「ボタンひとつ」等々、どの曲にも地に根を張った揺るぎない言葉が紡がれている。それと、M10「世界が終わるその前に」のようなラブソングを硬派とされるラッパーなのに書いてしまう辺りも般若らしい。

不満がないわけではない。上述したトラックの問題は本作でも同様で、ホームページ上で募集した一般公募のトラックは全て安っぽい。ただ、プロのタイプライターの音だって似たようなものであり、そういう音を好む般若に原因があるのだとは思うが。良かったのを挙げる方が少なくて済む。BUZZER BEATSによるM12はブリッとしたベースが良かったし、CAMELのM13は三線の鳴りが心地良かった。

トラックの不満は毎回といってしまえばそれまでだし、そういうものだとも思っているので、般若のラップを邪魔しなければそれでいい。もう少し大きな不満は、般若が更新しているフリースタイル形式のブログがあるが、あれの延長でしかないような曲が増えたのが気になった。威勢はいいが練り込まれていないリリックで、分数だけを稼いでいる曲が少なからずあり、不満を覚えた。


自らの名前を冠したアルバムを同時期にリリースしたSEEDAと比べると、向こうは引退という2文字でよりドラマ性を帯びさせた作品になったこともあり、風格すら漂っていた。しかし本作はそこまで重さを意識したアルバムではなく、般若という一表現者が前作のリリース後の約1年の間に考えたこと、感じたことをまとめた作品になっているため、比較してしまえばやや物足りなさがある。まあ、セルフタイトルのアルバムが同じ頃に出たからといって、傾向の違うふたりを同列で考えることに無理があるのだが。


【追記】2009.07.08
7月6日付けオリコン週間アルバムチャート。
初登場第23位。初動5876枚。初動は前作より343枚増。

7月13日付けオリコン週間アルバムチャート。
50位圏外のため不明。
2009.07.03 Friday 23:59 | 音楽 | comments(7) | trackbacks(0)
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2017.07.31 Monday 23:59 | - | - | -
コメント
いいラップするラッパーってのは何か皮肉ったりする時の声色の具合とか
小ネタが上手いもんだと思ってるんですが近頃の般若の
ゲロ音やら狂人じみたうめきは鬱陶しくてたまんないです。

>フリースタイル形式のブログがあるが、あれの延長でしかないような曲
一回目聞き終わった時に同じこと思いました。

しかし初めのころはここでそんないいフロウやっちゃうのかよ。勿体ないし凄いなあ、ってほどで今でも口ずさめるほどなのに今のは一回聞いたらもう聞きなおすことは無いです。
ゲロ音やらうめきもたまらないんで。

ただ毎回、良質なトラックを使ってくるのでいい勉強になってるとこはあります。
僕のような世代はこっちのHIPHOPがあれば今更向こうのは面倒だなあと思ってたので。
2ばん | 2009.07.06 Mon 23:17
こんばんは。暑いですね本当に。網戸になりたい気分です。

あのサやまたねはいかがでしたか?私はあの様な日記じみた曲が大好きでして。本人的に狙ってる感は否めませんがそれを把握した上でトラックもツボです。
szk | 2009.07.07 Tue 00:26
2ばん様

こんばんは。
コメントありがとうございます。

真逆ですね。フロウにしろ、ギミックにしろ、2ばんさんが抱かれたような違和感は全く覚えなかったのですが、記事でも書きましたようにトラックですね。毎回のことではありますけど、今回は特にどうなんだろうというのが多くて、気になって書いてしまいました。般若がサンプリング重視の90年代のようなトラックをアルバム曲で使うというのも、想像つかないですが、安易に打ち込みで作って、安手のストリングスをかぶせた曲まであると、どうなんだろうって思ってしまいます。


szk様

こんばんは。
暑いし、蒸すし、アイスが美味しいです。

「あのサ」は般若らしい冗談まじりの曲ですよね。どちらかというと、「またね」が楽しめました。クロージングラップもさることながら、タイプライターのトラックが愉快でしたね。

> 日記
そうなんですよね。日記だと思います。作品がそうであることは全然悪いことではないですし、その感覚って大事だと思うんです。でもブログとの差別化となると、もう少し降り下げ、あるいはフックでのキャッチーさがあってもいいのかなと思いました。それだけブログの試みが面白いということなんですけど。
gogonyanta | 2009.07.07 Tue 02:28
私もトラックが毎回不満ですね。
blogのHip Hop Classic Beatの上でラップする般若がカッコよすぎて、タイプライターやBuzzer Beatsの作るポップなだけの凡庸なトラックでは個人的に物足りないです。
1stの羅生門を製作したDJ 刃頭のようなRawなトラックメイカーを起用して欲しかったりします。
blackin | 2009.07.07 Tue 14:51
blackin様

こんばんは。
コメントありがとうございます。

> 1stの羅生門を製作したDJ 刃頭のようなRawなトラックメイカーを起用して欲しかったりします

それはよく分かりますね。今主流の電子音の重ね着というか、足し算の音が好みでないということもあるのですが、もう少し骨格だけのトラックでも般若のフロウならかっこよく決まると思うんですけどね。
gogonyanta | 2009.07.08 Wed 00:48
おっそいコメントすみませんm(_ _)m

近頃ずっと金がなくて、ホントになくて昨日やっと「HANNYA」を購入したので投稿しました。。。

好きなアルバムですけど、物足りない点もかなりありました。
ただ、個人的にはストレートな「最ッ低のMC」が好きすぎてそれだけで許せてしまっています。

明るいというか、柔らかいトーンの曲も思ったよりすんなり耳に馴染みました。

ただ、gogonyantaさんの指摘通りトラックですね。もうちょっと音に厚みというか奥ゆきが欲しい。

そのなかにあって、BUZZER BEATS/タイプライター/Mr. BEATSのトラックはチープであってもわかりやすくかつ楽しめて、やはり第一線のトラック・メイカーは違うな、とも感じました。

いろいろ言ってきましたが、トラックの欠点を補って余りある(いい過ぎでしょうか)般若のラップに耳を奪われていたのは否定しがたい事実なので、やはりシンプルに「好きなアルバム」ですね。

まとまりのない文章すみません。それでは。
尻Ass | 2009.09.18 Fri 10:15
尻Ass様

こんにちは。
おひさしぶりです。

> トラックですね。もうちょっと音に厚みというか奥ゆきが欲しい。

書いて以降もアルバムを聴いたり、ライブに行ったりして思ったのですが、自分のラップを目立たせるためのひとつの手なのかなとも思えてきました。俺の作品ではトラックではなく、俺の言葉こそが主役なのだ!、と。だからこそ、

> トラックの欠点を補って余りある般若のラップ

となるのかなって思いました。私も全く同じように感じましたから。何にせよ、1年に1枚ペースで良作を出し、かつ数字もそれなりに取れているラッパーは少ないわけで、これからも目が離せないです。
gogonyanta | 2009.09.19 Sat 14:00
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