2009年6月10日リリースのファーストアルバム。
1995年結成。紆余曲折を経て、現在のメンバーは6人──AU、WHATSMAN、ROOTS2、YURA、KAIMANENT、DJ A──に、準メンバーのONO-GOD、DJ TOMONOHがいる(帯参照)。そのうちラッパーはAUとホワッツマン、ルーツ、ユラ、カイマネントの5人。
長らく待たれていたフルアルバムであるため、いやがうえにもハードルは高く設定されたのだろうが、巷の評判を聞けば、彼らは軽やかに飛び越えたようだ。私もそうした声に促されるように本作を購入し、ここ1週間ほどずっと聴き続けている。が、どうにもこうにも天の邪鬼な気質がむくむくと顔をもたげてしまい、困ってもいる。
音、つまりトラックはすこぶる良い。春に出たJUSWANNAの
アルバムと同じく、00年代もそろそろ終わろうとしている2009年、彼らは誇らしくも嬉々として90年代中盤のNYヒップホップを引きずる。アルバムタイトルや彼らのロゴから分かるようにWU-TANG CLANの文字がさんぜんと輝く音だ。不穏な雰囲気を漂わす上音に、どこまでしつこく後を付けてくるビート。これでもかとコスられるスクラッチ。ワンループの美学をとことんまで磨き上げ、これをヒップホップといわずして何をヒップホップと呼べばいいのか分からないような純度100%の音が詰め込まれている。
外部プロデューサーたちもまた渾身のトラックを提供している。OLIVE OILは総天然色仕上げを施し、全ての楽曲の中でもひときわ派手に鳴らされているし、DJ DOGGの吟味し尽くされたビートはかなりの男前でかっこいい。そして同じ福岡天神のINNOのビートの無骨なまでのストイックさ。素材が良いからこそシンプルに味わうべしといった調理人の心持ちが推し量れる。いつまででも食べていたい逸品だ。
問題はラップにある。決して下手ではないし、それぞれキャリアを感じさせるラップを聴かせてくれはするのだが、幾分スタイルが似すぎていて、誰が誰だか判別つかないのだ。声質に大きな差異はなく、また内容にも極端な違いがあるわけではない。
ホワッツマンが執筆するブログ(最近は更新が滞っているようだが、町田康の文章(昔のしか知らないけれど)を読んでいるようでクソ面白い)によれば、"カイマが現場隊長、ユラがILL、俺(WHATSMAN)が構成作家兼サブキャラ、ルーツがすべてを補佐し、AUが総括"と役割分担が述べられているが、この中でラップスタイルにまで反映されているのはユラの"ILL"ぐらいか。
そうはいってもしばらく聴いていると少し分かってくることもある。ユラはその自由なラップに風格すら漂うのでどうにか判別がつく。かたや、ルーツはややラップに難があるのである意味分かりやすい。残り3人。ちょっと鼻にかかった声のラップが聴こえてくれば当てずっぽうではあるがAUと推測してみる。あとは消去法で、高くも低くもなく太めの声がホワッツマン、残りの硬質な声を出すのがカイマネントかなと判断できないこともない。
それと、ビートに対して総じて前のめり過ぎるきらいがあり、ひとりだけでも違う色を出せていれば、マイクリレーの印象がずいぶんと変わるのにと残念に思うことが多々あった。良くも悪くもみんな同じようなうまさがあるともいえるのだけど。
不満もあるものの、歌詞カードがないおかげで普段以上に聴覚を研ぎすまして聴いているせいか、耳に飛び込んでくるパンチラインの破壊力がすごい。曲順通りに羅列。
"魂の解放同盟"(ユラ)、"賛成派は円楽の笑いよりも高笑い""MCは考える葦である"(カイマネント)、"閃きを鷲掴み"(ホワッツマン)、"見栄で汚れた財布と1日が始まる""ほどけたアディダスに吹きかける溜め息"(カイマネント)、"13歳より20代後半でのハローワーク"(ルーツ)、"言葉が主役という特殊音楽"(AU)、"アンタもこっち側にこれたらいいけどな"(ホワッツマン)、"社会人ヒップホップ"(ホワッツマン)、"量産型ワンパターンとはわけが違う"(AU)、"アイドルのマイク狩り進行中"(カイマネント)、"路地裏発のノンフィクションライター"(ホワッツマン)。
特にM12「街角の月の下で」ではDJ DOGGのトラックの上でハードボイルド風味が濃厚なラップが味わえ、さらにパンチラインの雨あられに狂喜乱舞だ。"和にこだわったアングラ美食家に完熟の言葉を一房"(AU)、"しがらみの闇を飲み込んでいったアスファルト 明日への足跡を刻み込んだ親不孝"(ホワッツマン)、"酒の肴にもならないキャッチをやりすごし向こう岸に渡る""空っぽの時間は気づけば膨大な後悔へ"(カイマネント)。かっこいい!
ラッパーのキャラ立ちが弱いと注文を付けながらも、反対にTHINK TANKの魅力と同じように誰のラップであるかが重要なのではなく、ほの暗いビートの底から立ち上るラップそのもののかっこよさに焦点が絞られていて、そこにこそこのグループの良さがあるのだろうと想像してみる。そう考えれば、キャラクター性に頼ることを潔しとしない姿勢は次第に好感が持ててくる。
数年後もだらだら聴いてそうだ。
1.INTRO (produced by DJ A)
2.バンパイア (produced by YURA)
Hook(KAIMANENT)→YURA→AU→ROOTS2→KAIMANENT→WHATSMAN
→Hook→ROOTS2→WHATSMAN→KAIMANENT→YURA→AU→Hook
3.EVA (produced by KAIMANENT)
KAIMANENT→Hook→YURA→Hook
4.WPSJ ~FUNK & 5MIC楽団~ (produced by OLIVE OIL)
KAIMANENT→Hook→ROOTS2→KAIMANENT→Hook→ROOTS2→Hook
→AU→Hook
5.鷲掴み feat. YAGGIE9 & GENOCIDE CANON(INNO, DAM & 脳発火 a.k.a
(produced by INNO) BRAINHACKER)
WHATSMAN→ROOTS2→YURA→YAGGIE9→?→?→?→KAIMANENT→AU
6.人間交差点 (produced by DJ A)
KAIMANENT→ROOTS2→KAIMANENT
7.親不孝三十六房 ~五節棍 VERSION~ (produced by KAIMANENT)
Hook→KAIMANENT→ROOT2→YURA→Hook→WHATSMAN→AU)
8.ANTARES (produced by DJ A)
9.AU vs WHATSMAN (produced by DJ A & DJ SHONO)
WHATSMAN→AU→WHATSMAN→DJ A→AU→WHATSMAN→AU
10.FUNKY LESSON (produced by CHAF)
WHATSMAN→KAIMANENT→Hook→ROOTS2→AU→Hook
11.ALL TIME KILLING ~ORIGINAL VERSION~ (produced by DJ A)
AU→Hook→KAIMANENT→Hook→ROOTS2→WHATSMAN→Hook
→YURA→Hook
12.街角の月の下で (produced by DJ DOGG(MIC JACK PRODUCTION))
AU→WHATSMAN→KAIMANENT
13.OUTRO (produced by DJ A)
Bonus Track
14.OL TIME KILLIN' ~DEMO VERSION~ (produced by YURA & KAIMANENT)
AU→Hook→KAIMANENT→WHATSMAN→Hook→YURA→Hook
15.親不孝三十六房 ~ENTER THE N9N REMIX~ feat. RAMB CAMP(MC FREEZ &
MC BIG FACE), CUBE c.u.g.p(NUFFTY, NUTS & ARAI a.k.a 一雷) & K-BOMB
(produced by KAIMANENT)
?→?→KAIMANENT→Hook→ROOTS2→?→?→YURA→Hook→WHATSMAN
→?→AU→K-BOMB→Hook
2009年5月23日に福岡天神CLUB BASEで行われたリリースパーティでのライブ映像がYouTubeにアップされている。#1から#11まであり、時間にして44分21秒。ノーゲストな上にルーツが欠席であり、また暗い照明でよく見えなかったり、音がかなり酷かったりするが雰囲気は味わえる。#3(http://www.youtube.com/watch?v=nvSY8aj-u_0)で見られる「AU vs WHATSMAN」の冒頭の寸劇が面白かった。
#1「バンパイア」、#2「WPSJ」、#3「AU vs WHATSMAN」、#4「人間交差点」、#5「親不孝三十六房 ~五節棍 VERSION~」、#6「街角の月の下で」、#7「FUNKY LESSON」、#8「EVA」、#9「鷲掴み pt.1」、#10「鷲掴み pt.2」、#11「ALL TIME KILLING ~ORIGINAL VERSION~」
*********************
2008.04.20 1st SG『親不孝三十六房』(12inch)
2009.06.10
1st AL『親不孝三十六房』
*********************