2009年9月2日リリースのサードアルバム。
オリコンの2009年9月7日付アルバムチャートが発表されたとき、日本語ラップファンなら誰もが目を疑ったと思う。第10位にランクインされていたのが本作だったからだ。ZEEBRAやKREVAなら分かるが、"どりゃ"だとか"~だて"とラップしている名古屋人ラッパーが前作よりもさらにその数字を伸ばし、10位以内に食い込んだのだ。快挙とはまさにこのこと。春先に、インストジャムバンドSPECIAL OTHERSが『PB』で同じく10位になったときよりも驚きは大きかった。
というわけで、AK-69はすごい。リリックでも、"テメーを信じた俺が勝者"と自画自賛しているように、どれだけ中身がなく通り一遍のラップであっても、CDの売上が軒並み減少している中での初動1万5千枚は立派。立派すぎる。このアルバムを買った人たちが1万5千人もいたという事実が本当に衝撃。実に夢がある話だと思う。
1万5千枚という数字がどれほどすごいのか他のラッパーの売上と比較してみれば一目瞭然だと思い立ち、ネット上に転がるデータを参考に、2007年から今年にかけて発表された主要なアルバムの初動枚数を調べてみた。あくまでもオリコンが集計している、発売週の売上枚数であり、累計枚数とは異なる。また、日本語ラップの場合は宣伝等がしっかりなされていない場合がほとんどで、発売されてからしばらく経って購入することの方が多いと思う。よって最終的な売上は実際の数字とは異なるだろう。というか、異なって欲しい。
なお、思ったよりもリストが長くなってしまったので、俗にラップはするけれどもヒップホップではないとされるポップグループはこの記事の最後にまとめた。日本語ラップ村の売上とは数字が違いすぎて悲しくなるほどだ。
63,414枚 /
童子-T 『
12 Love Stories』(3位) 08.10.06付
cf. 『
ONE MIC』 4,951枚 (33位) 07.09.10付
48,464枚 /
RIP SLYME 『
JOURNEY』(4位) 09.06.22付
cf. 『
FUNFAIR』 69,484枚 (2位) 07.12.10付
『
EPOCH』 78,012枚 (5位) 06.12.11付
『MASTERPIECE』 162,726枚 (2位) 04.11.15付
46,896枚 /
KREVA 『
心臓』(4位) 09.09.21付
cf. 『
クレバのベスト盤』(best AL) 58,226枚 (4位) 08.03.31付
『
よろしくお願いします』 77,061枚 (6位) 07.09.17付
『
愛・自分博』 97,461枚 (1位) 06.02.13付
『
新人クレバ』 62,017枚 (4位) 04.11.15付
44,207枚 /
DJ KAORI 『
DJ KAORI'S JMIX II』(邦楽) (5位) 08.11.10付
cf. 『DJ KAORI'S INMIX IV』(洋楽) 18,045枚 (9位) 08.12.15付
『DJ KAORI'S PARTY MIX』(洋楽) 18,583枚 (8位) 09.06.08付
26,300枚 /
TERIYAKI BOYZ 『
SERIOUS JAPANESE』(3位) 09.02.09付
cf. 『
BEEF or CHICKEN』 54,171枚 (4位) 05.11.28付
22,262枚 /
SEAMO 『
SCRAP & BUILD』(10位) 08.12.08付
cf. 『
Stock Delivery』 10,241枚 (20位) 08.06.30付
『
Round About』 56,109枚 (2位) 07.11.12付
20,963枚 /
RHYMESTER 『
メイドインジャパン』(best AL) (6位) 07.02.12付
cf. 『
HEAT ISLAND』 13,832枚 (21位) 06.03.20付
15,319枚 /
AK-69 『
THE CARTEL FROM STREETS』(10位) 09.09.14付
cf. 『
TRIUMPHANT RETURN』 3,813枚 (34位) 08.02.04付
14,753枚 /
LGYankees 『
NO DOUBT!!! -NO LIMIT-』(8位) 08.09.29付
14,062枚 /
ZEEBRA 『
The Anthology』(best AL) (9位) 08.09.29付
cf. 『
World Of Music』 11,747枚 (11位) 07.10.29付
『
The New Beginning』 36,956枚 (6位) 06.02.27付
12,859枚 /
THA BLUE HERB 『
LIFE STORY』(15位) 07.06.04付
cf. 『
STRAIGHT YEARS』(SG) 3,426枚 (35位) 09.06.01付
『
PHASE 3』(SG) 4,383枚 (31位) 07.04.02付
『
SELL OUR SOUL』 10,090枚 (29位) 02.06.03付
9,784枚 /
DJ PMX 『
THE ORIGINAL』(23位) 08.07.07付
cf. 『ロコハマ・クルージング 002 mixed by DJ PMX』 6,245枚 (22位) 09.03.30付
8,198枚 /
N.M.U. 『
NITRO X 99-09』(best AL) (11位) 09.08.17付
cf. 『
BACK AGAIN』(miniAL) 9,612枚(2週分) (46位) 08.12
『
SPECIAL FORCE』 14,642枚 (10位) 07.11.19付
『
STRAIGHT FROM THE UNDERGROUND』 50,141枚 (4位) 04.09.06付
7,046枚 /
DS455 『
CHECK THA NUMBER』(18位) 09.08.10付
cf. 『Risin'To Tha Sun』 7,418枚 (25位) 07.07.16付
6,527枚 /
マボロシ 『
マボロシのシ』(25位) 09.04.06付
cf. 『
ラブシック』 5,531枚 (37位) 07.11.26付
5,994枚 /
Micro 『
SPACE RHYTHM 1』(miniAL)(16位) 09.05.18付
cf. 『「青い糸 / カモミールの糸」SPACE RHYTHM 1.5』 3,929枚 (29位) 09.07.13付
5,876枚 /
般若 『
HANNYA』(23位) 09.07.06付
cf. 『
ドクタートーキョー』 5,533枚 (34位) 08.08.04付
4,215枚 /
COMA-CHI 『
RED NAKED』(34位) 09.02.16付
cf. 『
LOVE ME PLEASE!』 4,022枚 (35位) 09.06.22付
4,207枚 /
Shing02 『
歪曲』(42位) 08.06.30付
3,681枚 /
スチャダラパー 『
11』(47位) 09.04.06付
cf. 『
CON10PO』 3,925枚 (34位) 06.11.13付
3,650枚 /
DABO 『
I'M THE BEST』(bestAL) (44位) 09.02.09付
3,470枚 /
MICROPHONE PAGER 『
王道楽土』(39位) 09.02.02付
3,382枚 /
Miss Monday 『Love & The Light(w/a white lie)』(23位) 09.04.20付
cf. 『KISS THE SKY』 1,066枚 (197位) 07.12付
3.277枚 /
DJ BAKU 『
THE 12JAPS』(44位) 09.08.03付
3,134枚 /
SEEDA 『
SEEDA』(33位) 09.06.01付
cf. 『
HEAVEN』 2,825枚 (66位) 08.02.11付
3,105枚 /
WISE 『
LOVE QUEST』(40位) 09.06.08付
cf. 『
太陽の子供』 3,231枚 (56位) 07.10.22付
2,826枚 /
ANARCHY 『
Dream and Drama』(59位) 08.09.22付
2,803枚 /
LITTLE 『
"Yes"rhyme-dentity』(44位) 08.05.19付
cf. 『
LIFE』 5,683枚 (45位) 05.07.04付
2,750枚 /
MCU 『
SHU・HA・RI ~STILL LOVE~』(59位) 09.03.23付
cf. 『A.K.A.』 10,112枚 (15位) 07.07.02付
2,427枚 /
らっぷびと 『
RAP MUSIC』(68位) 09.03.23付
cf. 『
RAP BEAT』(miniAL) 3,746枚 (37位) 08.08.18付
2,172枚 /
"E"qual 『
TV Crushman & Radio Jacker』(91位) 08.12.08付
1,634枚 /
NORIKIYO 『
OUTLET BLUES』(87位) 08.09.01付
リストを作ってみて、色々思うところはあるけれど、気づいたことを簡単に。童子-Tの『
12 Love Stories』は6万からスタートして結局20万枚突破したわけで、ロングで売れたということは日本語ラップ村の住人がいくら批判しても、世間からは支持された格好だ。リップスライムの落ち込みようは酷いが、稼ぎ頭のクレバやシーモも売上を落としているわけで、音楽業界全体の低迷と同期しているのだろう。
ライムスターの2万枚はベストアルバムだからこその数字であり、オリジナル作品だと1万枚レベル。ザ・ブルーハーブやジブラのオリジナルも現在はこの辺りと考えると、日本語ラップは売れても初動1万枚台と考えた方がいいのかな。今回の主役AK-69もこの域に達したわけで、1流の仲間入りだ。
選曲内容までは知らないが、邦楽をミックスさせたDJ KAORIのミックスCDの売上は驚異的。洋楽のミックスにしても数字を伸ばしているわけで、人気DJのようだ。一度も聴いたことないけれど。ここには書かなかったが、DJ Lily名義で同じようにミックスを出しているDOUBLEもそれなりの数字を上げている。コンピ物は以前から売り上げがいいわけで、その層がついているのだろうか。
いわゆる"ウエッサイ"と呼ばれる人たちは結構売り上げていると聞いたことがあるが、初動枚数だけ見れば、それほど際立っているわけではない。DJ PMXの
ファーストソロアルバムが本隊DS455よりも売上が良いのはKayzabroの心境やいかにといったところだが、それでも1万枚には到達しなかった。
メジャーであれインディーズであれ、日本語ラップ村出身という出自のしっかりしたラッパーたちにとって、このリストを見る限りでは、"売れた"とする水準は3000枚レベルだろうか。ダボ、スチャダラパー、シーダ、DJバクといった名前が並んでいる。そんな中で5千枚後半を叩き出した般若はひとり飛び抜けている。シンゴ2よりも売上の良かったコマチはこうして見てみるとよく健闘している。
しかし、3000枚前後の売上では、諸々のマージンがさっ引かれるメジャーにいるのと、インディーズのままでいて売上即収入になるのとどちらがいいのだろう。
リトルのアルバムは
良盤だったが、数字は良くない。それもよりも下のMCUは前作との差が激しすぎる。AK-69と同郷のイコールはずいぶんと水をあけられたものだ。最新作の『
DOPE BOY』は順位が低すぎて調べられなかった。
さて、AK-69のアルバム。とはいえ、ここまででかなり長い記事になってしまっているので簡潔にいきたい。
全18曲収録されて約70分。数字を見れば長いように感じるが、3分前後の曲が多いためにサクサクと進んでいく、またトラックが総じて華やかで、かつフックではラップでのだみ声とは違い、甘い歌声を披露してくれるため、スムースに聴ける。よってアルバムは思ったよりもすぐに終わってしまう印象だ。
内容は、
前作の成功に裏付けされた成り上がり節全開で相変わらずオレがオレがである。ジブラでも最近は描かなくなった豪勢に浮かれ騒ぐ曲もあり、アナーキーの成り上がり妄想曲とは異なり、実績がある分説得力がある。貯蓄しておけよとは思うけど。ARIAを招いたM17「The Last Song」ではそんな柄かよとは思うものの、ドンファンを気取ってみせて、微笑ましい。
定番の地元讃歌では名古屋のヒップホップ的名所を案内してくれているらしい。ヒップホップとは関係ない「矢場とん」しか分からなかった。AK-69を腐す"ヘイター"もののM8「They Don't Know」は、そのヘイター視点で描かれているのがユニーク。もう少しストーリーテリングの実力があれば、AK-69本人とヘイターとの違いがくっきりと分かれて面白かっただろう。
パーティでのひと目惚れを描いたM6「WAYA」は、KREVAの「瞬間speechless」と比べれば、その品の違いがはっきりする。ひょっとしたら売上の差はそこにあるのかもしれない。ただ、彼の場合は下世話さが売りだろうから、そこを変えるのは難しいだろう。品の悪さを生かしたM3「FXXk Off」やM11「C・H・A・B・A・N」はノリが良く、楽しめた。特にM3のフックは一緒に歌ってみたいほど。"Fuck off!"
派手な毎日を送ってるぜと演出する一方で、M12「ダッチ」では地に足をつけた生活を推奨している。続くM13「Skit ~追憶の夜~」では赤ん坊の元気な泣き声がかぶせられ、M12の主人公ダッチが結局彼女と結婚し所帯をもったかのように思わせる。そのままM14「And I Love You So」では、AK-69の一人称視点で描かれるも、若いときはむちゃもしたけれど、今はまともになって最愛の彼女と暮らし、"二人でおりゃあ そこは雨のち晴れ"などとお寒い言葉をひねり出す、どこにでもいるようなヤンキーカップルの幸せが歌われる。
EXILEがどうしてあれだけ売れるのか実際に聴いてみてもさっぱり分からなかったのだけど、AK-69のアルバムも全く同じだ。1万5千人もの人が手に取ったわけで、何かしらの魅力があるのだろう。童子-Tのように甘いだけではなく、威勢のいい曲もある。ただ、M14を聴いていると、これで感動したり、共感できる人間が聴いているんだろうなとは思う。
何にせよ、武器である柔らかい歌声を効果的に使い、時には歌謡曲かと聴き間違うような旋律も大胆に取り入れ、またオートチューンでコミカルさを生み出したり、曲のメリハリ、アルバムの構成の良さも相まって、聴きやすいことは事実だ。
【参照】
452,258枚 /
GReeeeN 『
塩、コショウ』(1位) 09.06.22付
cf. 『
あっ、ども。おひさしぶりです。』 377,070枚 (1位) 08.07.07付
『
あっ、ども。はじめまして。』 130,361枚 (2位) 07.07.09付
432,841枚 /
ケツメイシ 『
ケツノポリス5』(1位) 07.09.10付
cf. 『
ケツノポリス6』 261,510枚 (3位) 08.07.07付
85,927枚 /
m-flo 『
Award SuperNova -Loves Best-』(best AL) (1位) 08.02.25付
cf. 『m-flo inside -WORKS BEST III-』 9,170枚 (19位) 09.03.30付
84,234枚 /
湘南乃風 『
湘南乃風 ~JOKER~』(1位) 09.04.20付
cf. 『湘南乃風 ~Riders High~』 219,602枚 (1位) 06.09.11付
80,302枚 /
FUNKY MONKEY BABYS 『
ファンキーモンキーベイビーズ3』(1位) 09.03.16
cf. 『
ファンキーモンキーベイビーズ2』 59,429枚 (5位) 07.12.24付 付
73,880枚 /
BENNIE K 『
BEST OF THE BESTEST』(best AL) (2位) 08.05.05付
cf. 『
THE WORLD』 46,381枚 (3位) 07.06.04付
40,398枚 /
Lil'B 『
今、キミへ…』(2位) 09.02.23付
25,107枚 /
HOME MADE 家族 『
"Thank You!!"』(best AL) (5位) 08.02.18付
cf. 『FAMILIA』 30,473枚 (?位) 07.03.14付
23,749枚 /
SOUL'd OUT 『
ATTITUDE』(7位) 08年2月4日付
cf. SOUL'd OUT 『ALIVE』 58,002枚 (3位) 06.03.20付
SOUL'd OUT 『To All Tha Dreamers』 122,126枚 (2位) 05.02.14付
Diggy-MO' 『
Diggyism』 7,929枚 (21位) 09.04.06付
12,135枚 /
twenty4-7 『
PROGRESS』(11位) 09.03.02付
9,165枚 /
CLIFF EDGE 『
to You』(14位) 08.05.26付
cf. 『VOYAGE』(miniAL) 3,092枚 (42位) 09.06.22付
3,373枚 /
nobodyknows+ 『
best of nobodyknows+』(best AL) (48位) 09.03.23
cf. 『vulgarhythm』 6,706枚 (32位) 07.09.03付 付
『5MC & 1DJ』 37,975枚 (8位) 05.11.14付