すばらしくてNICE CHOICE

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母なる証明 / Mother

93点/100点満点中

殺人の追憶』『グエムル -漢江の怪物-』のポン・ジュノ監督最新作。2009年公開作品。

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静かな田舎町。漢方薬店で働く母とふたり暮らしの生活を送る知恵遅れの青年トジュン。母親にとってトジュンはかけがえのないひとり息子であり、悪友のジンテと遊んでばかりことに心配する毎日だった。そんなある日、町一番の高台で女子高生が殺される事件が起き、容疑者としてトジュンが逮捕されてしまう。
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これはすごい映画。年末に毎年作っている年間ランキングでも必ず上位に食い込むはず。全てのポン・ジュノ監督作品を見たわけではないけれど、傑作だった『殺人の追憶』を軽く越えているわけで、すばらしい完成度だ。

オープニングのシーンからして圧巻。枯れススキ(でいいのかな)が風でなびく広々とした大地が映し出され、老女と呼ぶにはまだ早い女がよろめくように奥から手前に歩みを進め、突然音楽に合わせて踊り始める。一瞬隠した顔の下半分からこぼれ出る白い歯が笑っているようにも嘆いているようにも取れる。両目が隠されているので、表情が分からないのだ。背景の荒涼たる景色といい、カメラのアングルといい、滑稽にも思えるダンスといい、強烈なインパクトを受ける導入部だ。そして、ここのシーンにこそ本作の全てが凝縮されている。

トジュンの母親を演じたのは、"韓国の母"ともいわれているキム・ヘジャという女優だ。TVドラマを中心に活躍しているようだ。129分の上映時間の間、彼女はひたすら息子トジュンへの心配をし、愛情深く接し、無実の罪に囚われた彼のために真犯人を見つけ出すべく奔走する。

トジュンは知恵遅れ(差別用語のよう。allcinemaでは"子どものような純粋無垢な心を持った青年"と紹介されているが、それもまたもって回ったいい回しだし、かといって日常生活を送るには不便がない程度なわけで、知的障害と堅苦しく書くほどではないようにも思う)であり、記憶の引き出しが上手に開けられないのだが、ふと思い出した記憶から母と息子との間に横たわる暗い過去だったりと、ひとつひとつのエピソードは多く語られないものの、ちょっとした仕草でそのキャラクターの性格を如実に表すなど、計算された演出がすばらしい。日本の何でも説明したがるテレビドラマとは大違いだ。

失望しながら雨に打たれ帰宅する母親が、リアカーで粗大ごみを回収する男から傘を買う場面が印象深い。すれ違ったリアカーに突き出ている傘を見かけ、思わず引き抜く。ボロボロの傘だ。男は抜かれたことも気づいていないわけで、そのまま告げずに貰ってしまうのかと思ったら、彼女は男を呼び止め、2枚の紙幣を渡そうとする。しかし、男は何もいわず、そのうちの1枚だけを手にし、再び重いリアカーを引き始める。先入観として、薄汚い格好で仕事柄がめついのではないかと思ってしまうのだが、そうではなく良心的な価格で取引に応じる態度から、実は誠実な人柄なのだと推察できる。一方の母親も同じだ。差しても濡れてしまうようなオンボロ傘でも対価を払って手に入れようとする。

いくつものこうしたエピソードを経て、ついに事件の真相が語られ始めると、驚愕と共に猛烈な空虚感に苛まれる。その落とされた穴のあまりの深さに改めて気づき、ポン・ジュノ監督恐るべしとなるのはエンドロール後に館内が明るくなってからだ。何本もの伏線が巧妙に張り巡らせてあったことにも驚く。

母の無償の愛情とその表裏の関係にある狂気。作品を貫くその縦軸と、韓国の問題という横軸もしっかり描かれている。地方にも浸透してしまった女子高生の援助交際、携帯電話の普及、老人介護、貧富の差等々の問題がさりげなく散りばめられていて、物語に説得力を与えている。もちろん容赦のない暴力も。

やがて母親は荒野に足を踏み入れる。本当は天国の花畑をふたりで手を繋ぎ歩くはずだったのに、ひとり冬枯れの草原に足を踏み出すのだ。

そして、ラストシーン。オープニングはすごい迫力だったが、エンディングは狂気に彩られたもの悲しさに包まれる。あのツボはどんな効用があるのか。母親のいう通りなのか、それとも息子トジュンが危惧した通りなのか。あの吹っ切れたダンスの果てに何があったのか。私には任意に選んで消せるほど便利なツボなんてあるとは思えないし、後者だと思ってしまう。


どんな映画なのか予備知識なしで、ただポン・ジュノ監督の新作というだけで見に行ったので、いきなりの流血シーンには怯えさせられたし、母親が出ずっぱりな上にサスペンス調の演出が続き、心臓にも悪く、どうなることかと思っていたけれど、オチを見てしまった今ではどのエピソードも全て意味があるものだったと納得できる。この監督は本当にすごい。

最後に。邦題ってたいていはどうしようもないのが多いのだけど、今回は大成功だと思う。まさに母なる証明を果たす映画だ。
2009.11.01 Sunday 23:57 | 映画 | comments(4) | trackbacks(7)
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2019.09.18 Wednesday 23:57 | - | - | -
コメント
どうもお久です。
最近、私のヒップホップ離れが顕著でコメントしづらくなってしまいました・・・。

いや〜、観たんですね。ポン・ジュノ監督の新作を!
私はまだ観てないんですけど、早く観たくてしょうがないです!


パク・チャヌクといいポン・ジュノといい韓国映画の凄さを
見せ付けられますね。


ちなみに川本真琴すごくうらやましいです!
1/2とかもう才能飛び散りまくりで凄すぎてボクは好きなんですけど
gogonyantaさんはあまり好きじゃなさそうですね・・・。

まあとにかく川本真琴は潰れちゃったって事ですよね〜。
残念。
ピクニック | 2009.11.12 Thu 09:16
ピクニック様

こんばんは。
お久しぶりですね。

> 最近、私のヒップホップ離れが顕著でコメントしづらくなってしまいました・・・。

分かります分かります。ひとつのジャンルを飽きもせず掘り下げて聴き続けられる人ってすごいですよね。私はヒップホップだけが好きなわけではないので、色々聴きますし、何かありましたらお気楽にコメントいただければ嬉しいです。

> パク・チャヌクといい

『オールド・ボーイ』の監督ですね。あれはホントにすごかったですね。韓国は暴力描写にためらいがないから好きです。とはいえ、お涙頂戴的なやつやメロドラマ映画は見たことないんですけど。

> ちなみに川本真琴すごくうらやましいです!
> 1/2とかもう才能飛び散りまくりで凄すぎてボクは好きなんですけど
> gogonyantaさんはあまり好きじゃなさそうですね・・・。

彼女はデビュー作の印象が強すぎるんです。あんなに岡村靖幸に近づける人間がいるのかとホント驚いたものでした。正直なところ、「DNA」や「1/2」はあまり覚えてなくて、名前を挙げなかっただけです。

法政ではやらなかったですけど、彼女は今も「愛の才能」や「1/2」をライブで歌うみたいです。潰れっちゃったというよりも、もうチャートとは関係のないところで音楽を楽しんでいるのかなと思いました。
gogonyanta | 2009.11.14 Sat 01:17
100点です

nyantaさんにとって
何が7点足りなかったのか
気になるところですが
僕にとっては、一点のミスもない
まごうことなき100点です

前評判の高さは知っていたのですが
逆に期待を裏切られるのが怖くて
観るのが遅くなりました

久々に
ハンマーを頭で殴られたような
どーしょうもない気分にさせられる
傑作でした

韓国の警察には指紋をとる鑑識は
いないのか?
という、野暮な突っ込みが頭をよぎりましたが
映画の力でねじ伏せられました
そんな事どーでもいいんですね

母親が真犯人に面会に行くシーンは
反吐が出るほどムカつくし
やりきれない悲しみに満ちた
映画史上に残る名シーンだと思います

ラストも素晴らしく
マジでどこが7点減点なんだ!って感じです


余談ですが
明晰夢ご覧になりました?
僕は未見です





what's? | 2009.12.03 Thu 23:18
what's? 様

こんばんは。
いつもありがとうございます。

what's? さんの鼻息が電線伝ってここまで届きそうです。7点の減点はなんだろう。ちょこちょこと星を減らして結果的にという感じですね。ただ、音楽はちょっとアレかなと思うところがあったのは覚えています。

志人とドルビーの『明晰夢』はちゃんと出たみたいですね。私もまだ現物を見ていないので、半信半疑のところがあるのですが、Twitterでお店で売ってましたよと教わりました。あと、調べてみたら、吉祥寺のJar-Beat Recordで買うと、「志人の朗読CD-R」と「季節の実(!)」が付いてくるようですね。http://jbr.shop-pro.jp/?pid=16931757
gogonyanta | 2009.12.04 Fri 01:24
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