すばらしくてNICE CHOICE

暇な時に、
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勝手な感想を書いていきます。
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2021.02.10 Wednesday | - | - | -
ZEEBRA、THA BLUE HERB、般若&MSC@恵比寿LIQUIDROOM

「LIQUIDROOM 6TH ANNIVERSARY presents DREAM MATCH」に行ってきた。ZEEBRAにTHA BLUE HERB、般若、MSC、ついでにSHINGO☆西成、山仁までが一堂に会するというのだ。名前はださいが"ドリームマッチ"のイベント名にふさわしい布陣であり、行かないわけにはいかないだろう。

当初リキッドルームのHPにアップされた告知記事ではジブラよりもブルーハーブが先にきていて、それはなかなか衝撃的な絵面だった。インディーズのままでライブを相当数こなし、作品の売り上げでもメジャーアーティストに負けないだけの結果を残し、実力・作品の質・人気の点でもはや日本語ラップの頂点に立っているのではと思わせるブルーハーブを前に、"日本のヒップホップに対する責任感は誰にも負ける気がしない。ていうか、それしか考えてない"とTwitterで呟かせるほど日本語ラップ界の王として長らく君臨してきたジブラがどう立ち向かうのか、そこが一番の楽しみだった。


18時5分過ぎにフロアに入ると、ちょうどステージを去っていくラッパーの後ろ姿だけが見えた。少し明るくなった場内を見回すと驚いたことに、人が少ない。これだけ豪華なラインナップなのに、前方はともかくとして後方には空間がかなりある。おかげでゆったり見られたのは良かったけれど、ちょっと問題な感じはした。

「Beamer, Benz Or Bentley」のアウトロが流れていたのでさっきのラッパーはSIMONだったのかもしれない。後でチラシを見たら、ライブ開始は17時半だった。でも、隣にいたふたり組は、"誰だアレ?盛り上げもしないで"と憤慨していたから、まあ見ずとも良いライブだったのだろう。


【YAMAZIN & SAGARAXX】 18:15〜18:56

一番手は山仁。ずいぶん前となるアルバム『愛(LOVE)』やその前に在籍していたヒップホップバンドLoop Junktionは聴いたことあったものの、生で見るのは初めて。期待するものがあったのだけど、あっさり裏切られた40分間だった。

最初に出てきたときは言葉のキレが悪く、リキッドルームの音の良さがなければ、聴いていられなかったのだが、尻上がりに調子を上げていった。そうなるとその強烈な詩世界がものすごい体臭を伴って立ち現れ、言葉と音のみの徒手空拳で闘う姿にはもっと高く評価されても良いのではと思わせるものがある。しかし、その表現が心の深いところで面白いと思うかどうかは別問題であり、感銘を受けることはなかった。

中盤で披露された、小学生から中学生ぐらいまでの体と心が弱かったころの自分を綴ったラップというよりはポエトリーリーディングにはかなりの熱量が感じられ、すごく良かった。会場の鳴りの良さもあったのだろうけれど、生音で聴きたい音だった。



【SHINGO☆西成】 19:01〜19:32

RUMIのリリースパーティと同じく、SEは「Empire State of Mind」のリミックス。フリーダウンロードさせないのだろうか。そのままQUEENの「We Will Rock You」で観客に手拍子させ、スニーカーをまとったお馴染みのファッションで登場。

"ブルックリンとブロッコリぐらい違うねん"やら"事務所で聴くジム・ジョーンズ"といった駄洒落ともライムともつかない思わず笑ってしまう軽妙なMCを交えつつ、いざ曲になると熱いラップがほとばしるという具合に進行のメリハリが良い。テーマのあるラップをするという揺るぎのない土台があるからこそ、トークも冴えるし、どんなとぼけたことをいってもかっこよくなる。お笑いの本場大阪生まれの生粋のエンターテイナーだ。

他流試合を多くこなしていることで育まれた場の読みも的確。目当てが自分でないことは分かってんねんとMCするほど、フロアは最初引き気味ではあったのだけど、知らなくても一度聴けば覚えてしまう魅力的なフックがある「諸先輩方からのお言葉」ではしっかり歌わせていたし、ルミのリリパのときのようなコール&レスポンスが少ないからと何度も繰り返させる強気な姿勢は控えていた。しかし、38歳というのには驚き。

フック部分だけチラッとやった「UYC」では、すぐに着ていた黒の"UYC"Tシャツを脱ぎ捨て、下に着込んでいた同じく黒の"AKY"Tシャツに変身。"あえて空気読みませ〜ん"とやったから、東京だしひょっとしてルミが客演かと思ったらそれはさすがになかった。

最後は、L-VOKALと鎮座DOPENESSを呼び寄せての「Beamer, Benz Or Bentley」のリミックス「SHOCHU, ROOBEE, SAKE」。交通事故で怪我をしたLボーカルは腕を包帯で吊っていて痛々しそうだった。各人の色の違いが如実に出る上に、笑えるリリックが楽しめるこの曲をまさか生で聴けるとは思わなかった。

この後の般若のライブ中に、LIBRAから般若の昭和レコードへの移籍の発表があり、11月にはニューアルバムをリリースするとの告知まであった。ライブラは腰の重いレーベルであり、身内であってもなかなか作品を出せず、ましてや外様は飼い殺しに近い状況に置かれてしまうわけで、新天地・昭和レコードでの活躍が楽しみだ。


1.We Will Rock Youの替え歌
2.大阪の男
3.Ill西成 Blues
4.諸先輩方からのお言葉
5.パーティーといてまえと私
6.?
7.SHOCHU, ROOBEE, SAKE
Ft.L-VOKAL&鎮座DOPENESS



【MSC】 19:38〜20:46

まずDJ琥珀が15分セットでフロアを温め(たのか、冷ましたのか不明だけど)てから、太華が重いヒューマンビートボックスを繰り出した。これまで何回か彼のビートボックスを聴いたことあったけれど、今日ほどの音環境の良い場所で体感したことはなく、目から鱗なほど強烈なビートを味わい、ようやくこれが本物の人間が作り出す生の音の迫力なのかと理解した。顔の様々な箇所にマイクを当てることで音色を変えつつ、リズムはキープし、体を揺さぶる。余技程度に思っていたパフォーマンスだったが打ちのめされた。

ラッパーで口火を切ったのは、勢いよく飛び出てきたTABOO1。短く2曲かました後にPRIMALにバトンタッチ。ソロアルバムの1曲目「武闘宣言」。「神田川」で登場したO2は、"被害者面のニート野郎"と「神田リバサイ」。"都営団地出身の奴どれだけいるんだよ"と手を挙げさせてから始めたのが「団地 Back In The Day」。

ついで真打ちMC漢が登場。刺激的な言葉を振り込みながら、意外なほどスキルフルなラップで東京・新宿の闇を垣間見せる。かと思えば、1曲終えた後に、"なんかおかしいと思ったら口の中に飴が入っていた"と笑わせるエンターテイナーぶり。

最近は名前を見ないGOはともかくとして、一軍メンバー4人がステージに揃い、MSCとしてのライブがスタート。太華のビートの上で漢がフリースタイルしたまま突入したのがタブーとのユニットILL BROS(発表当時はMIC SPACE)名義での「新宿U.G.A」。続いて、タブーの10月のファーストアルバムに収録されているというイルブロスの新作も披露。"人を恨む前にまずテメーで変われ 無理なら人里離れて暮らせ!"。プロデュースはDJ BAKU。

「音信不通」のフックから「宿ノ斜塔」へと繋げ、"お呼びでない契約社員が握るゼブラのボールペン"のラインがあるO2のヴァースで締めた。直後に彼はMCで、ジブラの自伝本を持ってきたから後でサインをもらうつもりと話していた。あれはフォローだったのだろうかと"勘ぐってみる"。

パトカーのサイレン音をバックに、"この音がないと眠れないんだよ 静かすぎて"とうそぶきスタートしたのは漢のソロアルバム(2枚目はタブーのアルバムの後とのこと)に収録されたMSC名義の「巡回」。

"直接関与したあの事件以来俺たちは職質も回避してる 勘違いならまだいいが、これ以上勘ぐるな、ボケ! 曖昧な感情移入は今のうちによしとけ もし東京でブリったらファブリーズを撒け **** 今日は羽振り良く遊べ"

曲終わりの漢の即興。自分でもいってたが、"名司会"っぷりを曲間のトークでいかんなく発揮していた。マイクを持ちすぎて、結婚式では嫌われそうなタイプにも見受けられたが、シンゴ☆西成に負けず劣らずの笑いを取っていた。

アルバム単位でMSCを良いと思ったことはない。けれど、今回初めて彼らのライブを見て、実力はもちろんのこと、持ち時間を大幅に超えたとはいえ、魅せるパフォーマンスをすることに驚いた。そこにはラップの技術だけではなく、トークの面白さがあり、だからこそ、彼らが垣間見せる都会の闇の怖さだったり、胡散臭さ、小便臭さが反対に際立つのだ。作品になるとそのユーモアセンスが欠けてしまい、強面の部分だけが前面に出てしまうのがもったいない。

技術については、実際にライブを見てみると、やはり漢が文句なしに巧く、次はプライマルかと思っていたが、二番手はタブーだった。やや下がってプライマル。O2は残念な感じ。タブーのアルバムに入るという曲はどれも良さそうだったので期待したい。

MSCの新曲は、フックで、"まだ行けるか? まだ行けるぜ!"というコール&レスポンスになる曲。ここでも曲間に漢のトークが挟み込まれた。時間も押しているというのに、彼の舌はますます滑らかになっていき、ついには新宿区議を目指しているとかいう与太まで飛び出す始末。一応時間を気にしてはいるらしく、"そういうときはクソッたれといってくれいいんぜ"とはいうものの、さすがに漢に向かってそんな声が飛ぶはずもなく、他3人も特に急き立てることなく、4分ぐらい話していた。MSCもライブラも永遠に不滅らしいが、彼は新しいレーベルを作るとのこと。

ようやく新曲が終わったと思ったら、裏道人生を何だか妙にかっこよく仕立て上げた「決断」で最後を締めた。

長かった。DJ琥珀のDJプレイを入れれば1時間超。それを抜きにしても50分越えだったわけで、各々持ち時間は40分だったらしいが、余裕でオーバーしたことになる。ただ、ライブ自体はすごく良かった。漢やタブーのラップの良さ、トークの面白さ、MSCに期待するえげつなさといったものをエンターテインメントにしっかり昇華させ、なおかつ曲になるとそれがダンスミュージックだったのがすばらしかった。


<ソロ>
1.DJ琥珀・DJプレイ
2.太華・ビートボクサー
3.? / TABOO1
4.? / TABOO1
5.武闘宣言 / PRIMAL
6.神田リバサイ / O2
7.団地 Back In The Day / O2
8.? / MC漢
<MSC>
9.きたない哲学者 / SIDE RIDE
10.新曲 / TABOO1
11.新宿U.G.A / ILL BROS
12.新曲 / ILL BROS
13.音信不通 〜 宿ノ斜塔
14.巡回
15.新曲
16.決断



【般若】 20:54〜21:31

安っぽいギターリフが鳴り、正面から観客を射るリキッドルーム特有の照明が両目を貫いた直後、マイクスタンドを握りしめた般若がステージに立っていた。1年前に見たワンマンのときよりも肩や両腕に筋肉がつき、ひと回り大きくなった印象だ。

「ボタンひとつ」、「夢の痕」、「路上の唄」と一気に駆け抜けた。笑い要素一切なしで、直前のMSCとは対照的に混じりけなしの真剣さを打ち出す。"ハッスルハッスルハッスル 何だか知らぬが天下取った気分だよ〜"とクレイジーキャッツの歌が流れたところで、オッいつもの般若らしいユーモアが発揮されるのかなと期待したが、続く「やっちゃった」での冒頭だけラップするも、フロアのレスポンスが小さいから怒って帰るという寸劇はいつになく本気っぽく、以前はあった柔らかさが圧倒的に不足している。

ようやくスタンドからマイクを外した「やっちゃった」、ついでシリアスな「ゼロ」とこなした後に、"さてと新曲でもやろうかな"とやっとMCを短く挟んだ。披露されたのは「日本人ラッパー総選挙」(10月にR-RATED RECORDSから発売されるSKI BEATZのアルバムの日本人版に収録)。般若がこの題名で歌うとなるとかなり挑発的なリリックを期待してしまうが、意外に真っ当な仕上がり。

KREVAやHilcrhyme、SEAMO、TERIYAKI BOYZ、THUG FAMILYの並びでRIP SLYMEといった名前が顔を出すが、それは日本で活躍するベテランから新人まで、インディーズからメジャーで活躍するグループまで万遍なく名前を挙げていく中のひと組でしかない。歌詞カード片手に深読みすれば印象は変わるのかもしれないけれど。面白かったのは、"K DUB SHINE自主規制してもされても余裕で行く姿勢"とケーダブシャインへの言及や、"辞めることはねえだろ、YOUちゃん"といったリリックぐらいか。曲終わりに、フロアから"般若に一票"の声が上がるも、"俺、篠田麻里子に一票です"とつれない答え。

昭和レコードからデビューする大型新人と般若が紹介し、ステージに現れたのはシンゴ☆西成。ふたりで社歌のような曲を歌う。

長渕剛の影響を色濃く受けた「やってやる」はさすがにショートバージョンに変更され、流れを切らさずそのまま「スーパースター」へ。

「やってやる」での観客に何度も拳を振り上げさせる演出はフロアの前方でしか起きておらず、やりにくさを感じたのか、「理由」の直前のMCでは、"今日のお客さん真面目だね。やっぱり蹴っとけば良かった。俺の地元じゃないっぽい"と弱気な発言が飛び出した。最後はセカンドアルバム『根こそぎ』からの「サイン」だった。


ファースト以外の4枚のアルバムから万遍なく選曲され、新曲まで披露されたライブだった。しらけて見ている観客もいたが、般若がステージから放出している熱は相当な量だった。が、鼻白んでしまうのも分かる。筋肉に覆われた体から生み出されたラップは非常に逞しいものになっているのだけど、以前にあったしなやかさは影を潜め、「やってやる」での恒例の長渕剛ばりの盛り上げ方に象徴されるように、ロックになっていた。上音の派手さだけが目立つトラックにも同じことがいえる。今回見た6組の中で一番低音が薄く、体を躍動させない音だった。

2007年にブルーハーブのライブをこのリキッドルームで見て、その圧巻のパフォーマンスに感銘を受けると同時に違和感を覚え、それ以降の彼らの音源には批判的になった。個人的な因縁でしかないが、今回の同じリキッドでのライブを見て、般若への評価が180度変わりそうだ。


1.ボタンひとつ
2.夢の痕
3.路上の唄
4.やっちゃった
5.ゼロ
6.日本人ラッパー総選挙
7.? feat. SHINGO☆西成
8.やってやる
9.スーパースター
10.理由
11.サイン



【THA BLUE HERB】 21:38〜22:18

まずは電車の車内放送のSEでスタート。悠然と現れた北の男は最前列とガッチリ握手。歌舞伎役者が見得を切るがごとくかっこよく決めて、いい放つ。"ドリームマッチ セミファイナリスト 帰還 THA BLUE HERB"。この日一番の大歓声が湧く。さすがに後ろの方まではギュウギュウにならなかったものの、フロアはそれまでの出演者のときよりも詰まっていた。

1曲目は「COAST 2 COAST 2」。曲の終わりでは、"すぐに認めることになる オ・レ・た・ち・をぉぉぉぉーー・・・・・・ジャパニーズアンダーグラウンドヒップホップスティルオンリーワン その名もTHA BLUE HERBご一行様とな!"。やんややんやの大盛り上がり。ただ、私自身は周囲の盛り上がりとは反対に冷めていくばかり。"ご一行様"って・・・。

「MAINLINE」や「C2C4」と"フェイズ3"の楽曲が続く。ここぞというところで、声にディレイを利かせ、微妙にビブラートも取り入れ、表現に幅をもたせる。「野良犬」の最後でも"ドリームマッチを北から野良犬のようにかっさらう"でフロアがどっかーん。今さら野良犬でもあるまいに。

「北風」はフックだけの披露。懐かしい音で思わず嬉しくなった。フルで聴きたい。

"ついにこのときがやって来た。心と体をがっつり解放してくれ!君が分かる言葉でしゃべってる。君がいわれて欲しい、君が言葉にならなかった想いを言葉でしゃべってる。だから心を開いて、がっつり札幌訛りの日本語でシンクロしながら、こっから冥王星の彼方までぶっ飛んで遊ぼうぜ〜〜〜(ディレイ)"

2ヴァース目を抜かすアレンジに変更された「JAPANESE HIPHOP AND ME」の後は原曲通りのトラックで「BOSSIZM」をフルヴァース。かっこいい!名曲!! 今のILL-BOSSTINOに足りないのは、MCやリリックではたびたび言及している札幌訛りの言葉やフロウだ。長年続けていく中で変化は必要なことではあるけれど、もう一度札幌訛りのフロウを取り戻すべきだ。

どの曲も最終ラインが油断ならない。「SUPER STUPID」では、"1999年にいったろ!必ず時代は変わるといったろ!"。すかさずそこにかぶさるのは路上録音のフリースタイル「孤憤」。決まりまくりの演出。役者イルボスティーノの見せ場はまだまだ続き、フロアを釘付けにする。

"マジで洒落にならない修羅場ばかりだったぜ ワンゲームでも落としたら真っ逆さまの 結局ただの大馬鹿野郎 そうだと知ってていってんだよ そうだと知ってて般若とジブラの間でやってんだよ!!"。怒号ともいえるほどの大歓声。決めどころを心得ている男である。血の滲むような練習の成果だろう。

Commonの「Be (Intro)」に乗せた「BROTHER」。"リキッドルームにブルーの花を咲かせ"ていた。「THE WAY HOPE GOES」の後には最後に使ったディレイをかけたままドリームマッチの出演者の名前をひとりひとり挙げていく。締め曲は2ヴァース目から始めた「未来は俺等の手の中」。フロアはかなり後方まで手を突き上げていた。

日本のヒップホップの可能性について一席ぶった後に、"ここから俺らの散り際を見届けてくれ"と男前のセリフを吐き捨て、諸々に感謝を捧げていくなか、後ろでは徐々に音圧が高まっていく。"最後の言葉を捧げるぜ 受け取ってくれ!"。音は爆音となりさらに上昇を続け、リキッドルームの緊張が頂点を極めた次の瞬間、音が解放された。そして、ボスはVの字を作った腕を高く掲げ、ひと言。"ピース"。


きっちり40分間のパフォーマンス。魅せるという点においては完璧。ここまで完成度の高いライブをする日本のヒップホップアーティストはほとんどいないのでは。ワンマンではなく、イベントへの出演ということで短い時間ではあるものの、選曲に偏りがなく、しかも物語まで持たせ、ミスらしいミスもない。すごいと思う。

しかし、楽しんだかといえばそうではない。チクチクとツッコミを入れてきたように、イルボスティーノ主演の舞台はその完成度に賞賛の声を贈ったとしても、それ以上の何かを得ることはできなかった。ブルーハーブとして何かを作り出すライブというよりも、イルボスティーノが自己陶酔にひたり、ファンたちがあがめたてまつる場としか思えなかったのは残念だ。2007年のワンマン同様今回もMCで話していた"ヒップホップをガキのおもちゃで終わらせてはいけない"という言葉はそっくりそのまま彼に当てはまるのではと思ってしまった。


1.COAST 2 COAST 2
2.MAINLINE
3.C2C4
4.野良犬
5.北風 (WIND FOR WIN)
6.JAPANESE HIPHOP AND ME
7.BOSSIZM
8.SUPER STUPID
9.BROTHER
10.THE WAY HOPE GOES
11.未来は俺等の手の中



【ZEEBRA】 22:23〜23:02

四十間近の男はフラッと現れたといわんばかりの気負いのないかっこうでステージに登場した。昨年のBBOY PARKと同じように、名曲たちを1ヴァース目+フックで繰り出していく。「真っ昼間」に「Parteechecka」、「MR. DYNAMITE」。"がっつり今日はクラシックでいくんだぜ。ナーミーン?"。MCは少なめだ。「Neva Enuff」。この男の"いえよ!セイ、ホー"は強度が違う。「SUPATECH (what's my name?)」で彼の名前を連呼する歓声が大きかった。

「Touch the sky」後は最近の「Butterfly City」に一気に飛ぶ。DOULBEのパートまで流したので、比較的長めに尺を取り、続いてフルヴァースでの「FIRE」。DEXPISTOLSとのコラボ曲だ。ギターリフがうねる派手なダンスミュージックの中で、ジブラは結構刺激的なリリックを書いているのだが、意味は気持ち良く置き去りにされ、言葉のグルーヴに体を委ねたくなる曲に仕上がっている。その前の「Butterfly City」もそうだが、華のある人にはこういった派手な曲こそがよく似合う。

「Jackin' 4 Beats」では、「証言」パートから本当に"証言4番 大判小判に目眩み〜"と始まり、その後はキングギドラの曲へ!「未確認飛行物体」と「大掃除」はフックのみで繋ぎ、「見まわそう」もそうなのかなと思ったら1ヴァース目をフルでラップ!"K DUB呼ぼうかと思ったんだけどさ、さすがにそれは反則だろうと。ドリームマッチ そういうのも反則だと思ったんだよ。だからひとりでやってみました"。役者が違う。そんなに聴き込んだつもりがなくても、かぶせられるもんだね。楽しかった。翌日声が枯れていた。

"ビガップ、ブルーハーブ。長い間かけて今日初めて会ったぜ"と語ってから始めたのは、DJ Mitsu the Beatsの新譜に収録された「ONE HIP HOP」。"ONE"繋がりで、フックで"ONE"のコール&レスポンスがある「I'M STILL NO.1」。「Street Dreams」は当然フル尺。最後は締めにふさわしい「Last Song」。この日は最後まで1MC1DJスタイルでパフォーマンスし、バックDJとのコンビネーションは揺るぎないものだったが、この曲だけなぜかオケの音が大きめだった。

"これがヒップホップだぜ"。最後のフックの前のタメでそういい放ったジブラは少しも迷いのない目をしていた(サングラスかけてから見えないけどね)。


長年一線で活動を続けてきたという経験値の高さもあるのだろうが、ブルーハーブと違ったのは気負いのなさだ。もちろんそれは力を抜いていたとかそういうことではない。彼の日頃の言動からは日本のヒップホップを背負っているという自負を十二分に感じられるわけではあるが、後進たちの中でも群を抜く実力者たちが集まったこのイベントであっても、おかしな力みを見せたり、キングとして振る舞ったりするのではなく、数多いクラシックを惜しげもなく披露しフロアを楽しませるライブに徹した。それが成功に繋がっていたし、同時にその余裕ともいえるステージングは彼がいまだに日本のトップに座していることを証明しているようにも思えた。

Bボーイパークの記事でジブラのライブを見るたびに書いていることだけど、彼を最初に知ったのはDragon Ashとのコラボ「Grateful Days」だった。当時その2ヴァース目のリリックには失笑を禁じ得ず、また、その後リリースされたシングル『MR. DYNAMITE』を深夜の音楽番組で歌っているのを見て、なんてださいのだろうという思いをますます強くした。しばらく彼をそんな風に捉えていたのだが、印象を大きく変えたのもやはりテレビだった。その年だったか、翌年だったかのBボーイパークでのステージが放映され、ブラウン管を通してもはっきり伝わってくる有無をいわせない存在感や華があることは認めざるを得なかったのだ。

熱唱するファンにもみくちゃにされながら見た昨年のBボーイパークではそのカリスマ性の一端に触れた気がしたが、この日のジブラのステージからはあの日テレビにくっきりと映し出されていた存在感を実際に自分の目に焼き付けることができた。


1.真っ昼間
2.PARTEECHECKA (Bright Light Mix)
3.MR. DYNAMITE
4.Neva Enuff
5.SUPATECH (what's my name?)
6.Touch the sky
7.Butterfly City
8.FIRE
9.Jackin' 4 Beats
10.証言
11.未確認飛行物体接近中 〜 大掃除
12.見まわそう
13.ONE HIP HOP
14.I'M STILL NO.1
15.Street Dreams
16.Last Song
2010.08.29 Sunday 23:59 | 音楽 | comments(19) | trackbacks(0)
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2021.02.10 Wednesday 23:59 | - | - | -
コメント
ゆっくりと読み込める記事が続いて嬉しい限りです。
2番 | 2010.09.02 Thu 22:54
2番様

こんにちは。
コメントありがとうございます。
そういってくださると本当に嬉しいんですけど、なんだか最近普通の記事を全く書いていなくて、それもいけないなぁと思っていたところでした。バランス良くいきたいです。
gogonyanta | 2010.09.04 Sat 14:32
はじめまして、私は地方に住んでいるので東京のライブレポートいつもありがたく拝見しています。
SHINGO☆西成はMSCとの競演はもうしないのでしょうか?
紫の弟 | 2010.09.04 Sat 19:12
行きたかったですコレ。

何を隠そうgogonyantaさんのブログを初めて読んだのがZEEBRAの作品のレヴュー記事だったもんで、その時のZEEBRAに対する論調と今回のそれとの差に少なからず驚いてます。

やっぱりライヴ、パフォーマンスを見て感じるものは大きい、ということですね。

あぁ行きたかった。
尻Ass | 2010.09.05 Sun 16:20
紫の弟様

こんばんは。
コメントありがとうございます。
返事が遅れまして、すみません。

> SHINGO☆西成はMSCとの競演はもうしないのでしょうか?

どうなんでしょうねぇ。SHINGO☆西成は何度もLIBRAに感謝の言葉を贈ってました(まあ出ていく方はそういうものかもしれませんが)し、良好な関係は保たれているのかなという印象は受けました。



尻Ass様

こんばんは。
お久しぶりです!返事が遅れまして、すみません。

> その時のZEEBRAに対する論調と今回のそれとの差に少なからず驚いてます。
> やっぱりライヴ、パフォーマンスを見て感じるものは大きい、ということですね。

そういうことですね。彼は自分の見せ方が巧いですね。エンターテイナーだと思います。そういう意味ではこの日に出演したラッパーはスタイルの独自性はもちろんですが、魅せ方に工夫をこらし、自分の持ち時間を最後まで飽きさせないパフォーマンスをしていました。

ジブラはライブは楽しくて、好意的な言葉を並べましたが、作品になるとまた辛口になるような気がします・・・。
gogonyanta | 2010.09.18 Sat 01:33
うわー、すごい。MCまでよく覚えていますね。
すぐに携帯でメモしたりしてるんでしょうか?それとも録音とかですか?
自分は興奮しすぎてすぐにセットリスト忘れちゃいます。
たろ | 2010.09.19 Sun 06:59
神田リバサイの歌詞を良かったら教えていただけないでしょうか?
自分で聞き取るのは難しくて・・・
ねも | 2010.11.03 Wed 19:34
たろ様

こんばんは。
すみません。
ブログもお返事も長らくさぼっていました。せっかく頂いたのに申し訳ないです。

MCはノートにメモったりしています。あと、携帯電話も便利でいいですね。



ねも様

こんばんは。
コメントありがとうございます。

歌詞の聴き取りをしているサイトがあるので、そういうところに依頼するといいと思いますよ。
gogonyanta | 2010.12.04 Sat 21:52
初めまして、Google検索からアクセスしました。ライター真っ青なコメントが半端じゃないですね。このイベントは是非、行きたかったんですが当日はどうしても行けなくて、トラックリストから解説まで、抜かりの無い、レポートを見られて、良かったです。

自分はかつてはライターとして、幅広いイベントのレポートやアーティストインタビュー、対談を行って来ましたが、楽曲に関する知識等は、恐れ入る所さえ、感じつつ、拝見させて頂きました。 最近は多忙の為、サイト運営を休止していますが、参考までに一応、リンクも入れておきます。

http://www.s-vibez-ent.com/attitudegame/index.html

今日はこのページの拝見だけに留めますが、また、寄らせて貰うと思いますので、また、熱いレポートを書き続けて下さい! Bigga Up!
T-Murder Tha Hustler a.k.a. T. Omura (Attitude Game / BMYLEGEND / O.G.F. MUZIK) | 2011.02.03 Thu 13:51
T-Murder Tha Hustler a.k.a. T. Omura様

はじめまして!
コメントありがとうございます。

本職の方に読まれると、なんともお恥ずかしいって話なんですけど、もったいない言葉を色々いただき、素直に嬉しいです。

> Attitude Game

あそこはT-Murderさんのサイトだったんですね!SATOMI'の記事を書いた時にあまりに情報がなくて、検索していたら巡り逢った覚えがあります。ずいぶんと突っ込んだ骨太なインタビューで、面白い!と思ってました。

> サイト運営を休止しています

そうなんですか。残念です。日本人アーティストのインタビューコーナーのまだ掲載されていないMINTやANTY THE 紅乃壱が気になりますし、掲載予定のSEEDAのも読みたかったのですが・・・。

> また、寄らせて貰うと思います

ヒップホップ好きの方にとっては、お気に召す記事だけではないと思いますが、これからもよろしくお願いします。
gogonyanta | 2011.02.04 Fri 12:37
ヒップホップカルチャーで思い出す
KOUJI.MISHIMA a.k.a MiSO | 2011.05.14 Sat 15:51
KOUJI.MISHIMA a.k.a MiSO様

はじめまして。
何を思い出されたのかは存じ上げませんが、せっかくのコメントなのに返信が遅いブログですけど、今後ともよろしくお願い申し上げます。
gogonyanta | 2011.10.20 Thu 02:46
すごくよかったです。
あー | 2012.04.30 Mon 00:58
DOPE!!
あー | 2012.04.30 Mon 01:00
ブルーハーブをよく知らない人は彼らを語るな
あ | 2012.05.25 Fri 10:11
あー様

こんにちは。
お返事遅れてすみません。
コメントありがとうございます。しかもdope認定まで!感謝です。



あ様

はじめまして!
コメントありがとうございます。
THA BLUE HERBは人気ありますね。
gogonyanta | 2012.06.03 Sun 17:08
ブルーハーブにしか興味ない。
teru | 2013.06.13 Thu 23:20
teru様

こんにちは。
あらためて彼らの人気の高さに驚いています。熱いライブをしますよね。
gogonyanta | 2013.06.14 Fri 18:04
只のジブラファン乙
D | 2015.11.05 Thu 14:29
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