76点/100点満点中
『フローズン・タイム』のショーン・エリスによる2本目の監督作(脚本も)。2008年のサスペンスホラー。
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ロンドンに暮らすX線技師のジーナは、恋人ステファンや弟カップルと共に父のサプライズ誕生日パーティを催していた。そんな中、突然大鏡が大破。戸惑いつつも"鏡が割れると7年間不幸が続く"という迷信を話しながら後片付けをする。翌日、ジーナは帰り道に自分と同じ車に乗る自分と瓜ふたつの女性を目撃。衝動的に後を付けるのだが・・・。
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これは良くできたホラー映画だ。ファッション界でカメラマンとしても活躍する監督らしく、細やかに神経を行き渡らせたカメラワークがかっこよくきまり、また青を強く意識した画面からは冷え冷えとした怖気が伝わってくる。前作はコメディタッチの青春物だったが、今回はホラー。異なるジャンルなのだけど、絵についての確固とした美意識と同じように、監督は物語ることにもその才を発揮していて、見事な上質ホラー作品に仕上がった。
主人公ジーナは自分とそっくりな存在に気づいた直後に車で大事故に遭う。それからは彼女だけではなく、家族の周辺でも異変が起き、はっきりとは姿を現さないものの、何か不気味なものが忍び寄ってくる気配だけを感じるようになる。
話は飛ぶが、ジョン・カーペンターの作品に『ゼイリブ』(1988)という風刺ホラーがある。あるサングラスを掛けると、人間に擬態しているエイリアンを見抜くことができるという設定が面白かった。本作でのX線写真がいってみればそのサングラスだ。『ゼイリブ』のように、X線写真を使ってどうこうするという話ではないが、物語の核は少しずつ人間ではない何モノかに取って代わられていくというもので、鏡を使った「ボディ・スナッチャー」ともいえる。病院の医師やジーナの弟ダニエルの上階に住むアジア系夫婦は静かに観察している。もし『ゼイリブ』のごとく戦うとなると、彼らを見抜くのはかなりやっかいだろう。
エリスが上品なのは彼らが何モノなのかを最後まで明らかにせず、ホラー映画らしい惨殺シーンも少な目にし、ただ人類が静かに侵食されつつあるという不気味さだけを描いたところだ。想像力に訴えかけるのは良かった。車の大事故でジーナの記憶が飛んでしまうという設定も、分かりにくさに拍車を掛けてはいるが、最後まで見ればそれはそれで別の物語を生み出していて、実に巧妙だ。
分かりにくさは確かにある。90分弱の短い作品なのに、一度見ただけではよく分からず、早送りをしながらもう一度見てようやく納得できた。その点では減点だが、背筋を伝う恐怖を描ければ、ホラー映画としては成功だと思う。
描かれていることの分かりにくさよりも、鏡の向こうから忍び寄る彼らの発生条件に説明がないのが気になった。説明しすぎて興を削ぐのは愚の骨頂だろうし、現実社会でも"最悪"は何の前触れもなく訪れるものだ。それはそうなのだが、映画としてジーナたちが襲われる因果関係に少しも説明がないのは不親切だと思う。