2010年10月27日リリースの9枚目のアルバム。
うん、傑作!話題になっていた印象が皆無なのが奇異。こんなに力の入った作品が売れないのが不思議。オリコンの2010年11月8日付アルバムチャートでは1.5万枚で初登場10位。翌週には33位。そのまま順位を下げ、5週目で100位外に消えて行った。発売1ヶ月の売上枚数は2.4万枚。聞くところによると、コンサートでは空席が目立つらしい。勝手に悔しくなる。これほどの力作が売上という形で報われないのはどこかおかしいだろうとひとり憤ってみたくもなる。
そうはいっても、私自身聴いたのはこの時期という体たらくだ。年初に発表した2010年の
ベスト10枚に選べなかったのは残念だ。
前作が凡庸なアルバムで、それからわずか1年5ヶ月での新作発表。デビュー15年の中堅にしてはあまりに短い期間だったので、聴かずして疑っていたところがあった。
が、あに図らんやものすごい作品に仕上がっていた。声を大にしていいたい。本作は間違いなく傑作!すでに実力も名声も得ているミュージシャンがそれに甘んじることなく、武器であるギターの演奏技術と歌唱力、作曲力、卓越した作詞能力を極めてシンプルな形で凝縮させ、練り上げ、作り上げたまぎれもない名盤だ。
アルバムの題名にあるホーボー(Hobo)とは、ウィキペディアによれば、19世紀の終わりから20世紀初頭の世界的な不景気に襲われたアメリカで、土地から土地へ移動していた渡り鳥労働者のことを指す。彼らは無賃乗車で列車に乗り込み、時には迫害され、結果的に米国人が本来持っていた自由なフロンティア・スピリットを体現していたことで、多くのアーティストが彼らに憧れと共感を覚えたとのこと。
ともかく1曲目の1音目から重量のある衝撃に打ちのめされる。右のステレオからブルースハープを響かせ始まる。そこから歌が入ったときのパンチの強さは圧倒的だ。これだけ多くのアルバムを作っていながら、少しも倦んだところがない。粒の立ったギターカッティングは新鮮そのもの。ギターと歌。そのふたつが全面に出るように録音されているおかげもあるのだろうけれど、でもそのふたつの要素こそが頭だけではなく体全体を揺さぶる。
M1「シングルマン」だけではない。M2「君と見てた空」もそうだし、ブルーズに寄るM3「創世歌」、ファンクといってもいいぐらいのグルーヴを生み出しているM4「Introduction」。歌声の力強さやカッティングの見事さに加えて、メロディも立っている。そして歌詞も良いという。なんていうか完璧すぎる。
M5「Let's form a R&R band」の開放感にひと息ついて、そこから再び密度の高い歌の世界に没入していく。ストリングスが入るも、その軽やかにして不思議な音使いに魅せられるM6「ぼくのオンリー ワン」、生き方を歌う歌詞の秀逸さにさすがと唸らされるM8「HOBO Walking」、終盤のファルセットに宿るやるせなさに言葉もない絶品ブルースM9「ブランコ」、すぐさま4つ星を付けたバラードM10「花火」。最後のM11「I'm sorry」ではハープの音と共に再び旅を再開すべく足を踏み出す。
全11曲。時間にしてたった41分30秒。なのにこの濃密さ。何度繰り返しても飽きないのは、演奏の腕やメロディの良さだけではなく、アレンジ能力の高さの証明でもあるだろう。派手な音はなく、音数自体は少ない。丁寧に考え抜かれた音のおかげで幾度も再生してしまう。これを聴かずにいるのは本当にもったいないことだと思う。