2011年7月20日リリースのファーストアルバム。
/5点中
耳の早いヒップホップ愛好家たちが今一番注目しているラッパーともいえるERAのフルアルバム。D.U.Oというグループに所属するらしいが、本作の直前にBUSHMINDとそのデュオのメンバーでもあるDJ HIGHSCHOOLの手によるフリーダウンロードミックステープを聴くまで名前すら知らなかった。先日アルバムを出したばかりのSIMI LAB勢が今年は何かと話題になり、盛り上がっているけれど、エラの本作こそが今年のベストとする意見もちらほら散見され、しかもそうした人たちは私から見たら感覚の鋭い人たちが多く、シミラボほどの知名度はまだないものの熱狂的に迎え入れられている印象がある。
評判を聞きつけ早々に手に取り、聴き続けてはいるのだけど、私にはどうにもピンとこない。全12曲で40分弱と短いために幾度も試すのだが、評価する人のあの熱意から遠ざかる一方だ。
エラのラップは頼りない。ミックステープを聴いた時にまさかこのへなちょこラップが客演ではなく主役なのかと驚いたほど。とはいえ、次第に慣れていくし、意外に耳に馴染む声質の持ち主でもある。最近は英語を話せなくても、英詩だけはさもバイリンガルっぽい発音でラップするのが主流だが、エラはそれ以前のカタカナ英語を駆使し、英語も日本語も非常に聴き取りやすい。
実のない虚勢を張らず、街を歩きながら、情景や心情を切り取っていく。環ROYが描く街の描写にも近い。彼女や仲間は記号として登場するに留め、彼はたいていひとりだ。言葉は彼のためだけに消費される。O.I.やOS3といった初めて名前を知るラッパーが客演として加わっても、互いに影響し合うことなく、ひとりの世界にいるのも興味深い。
バブルが弾け、経済は後退に後退を重ね、ようやくの政権交替があっても大差はなく、政治家たちは醜態をさらし続け、そこに未曽有の大災害が降りかかったものだから、かつての繁栄の陰でなあなあで済ましてきたツケまで支払わなければならないという、まさにぺんぺん草も生えない夢の跡に立つ若者は、満たされない現状に嘆くでもなく、かといって過度な富や名声を追い求めるのでもなく、組織に頼ることも忌避し、瞬間の自由という感覚を大切に、個として生きているように思う。それが本作からもうかがえる。
と、世代論めいたことを綴っても、実際にその世代がどう考えているのか知らないし、上で書いたことも新聞か何かで読んだことを雑に切り貼りしたものでしかないわけだが、彼のリリックの端々から垣間見えるのはしなやかな個人のあり方だ。レーベルが作成した紹介文に、"HOOD MUSIC"という言葉が使われている。ヒップホップ用語のひとつでもあるこの"フッド"という単語はいまだ消化しきれていないのだが、エラのラップに特定の土地をイメージさせることはなく、そこから派生する"仲間"の姿も希薄だ。端から他人に期待せず、日々を生きている人間の言葉が並んでいるように思う。
そうした生き方自体は性に合うが、写実的に情景を描写し瞬間を活写するリリックは、彼の語彙を使うなら、私と"FEEL"しない。切り取られた情景が淡々と並ぶリリック。その切り取るという作業に向かう視点に意味があり、あいまいさを内に秘めざるを得ないが、その一方で深読みを誘う言葉たちでもある。その行間にこれまでのラッパーが語ってこなかった何かがあるのかもしれない。ただ、私にはうまく読み込めない。彼と私とでは歩く速度が違うようだ。
ERA『D.U.O introducing ERA mixed by BUSHMIND and DJ HIGHSCHOOL』
2011年6月25日アップの無料配信ミックステープ。→
DL先
アルバム以前の曲で構成されているが、エラのラップがどういうものか端的に分かる40分強のミックステープとなっている。
<インタビュー>
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wenod
ぼんやりと来歴が分かる感じ。