すばらしくてNICE CHOICE

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わたしを離さないで / Never Let Me Go

82点/100点満点中

ブッカー賞作家カズオ・イシグロの同名小説を原作とした2010年のSF映画。主演は前年に『17歳の肖像』でアカデミー賞主演女優賞候補になっているキャリー・マリガン。共演には次期スパイダーマンのアンドリュー・ガーフィールドと、マリガンの映画デビュー作『プライドと偏見』で主演を務めていたキーラ・ナイトレイ。他にシャーロット・ランプリングも出演していてビシッと画面を引き締めている。製作費1500万ドル。

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郊外の緑豊かな自然に囲まれた寄宿学校ヘールシャム。外界から完全に隔絶され、徹底した管理の下、教育が行われてた。その学校でキャシーとルース、それに男の子のトミーは幼い頃からずっと一緒に育てられてきた。やがて18歳となった3人はヘールシャムを卒業し、"コテージ"で共同生活を送ることに。3人は初めて接する外の世界に不安や喜びを感じる。しかし、ルースとトミーが恋人になったことで3人の関係も終わりを迎え・・・。
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世界観はSFだが、紡がれる物語は淡い恋の芽生えであり、嫉妬にさや当て、ひとり立ちという成長話でもあり、惹かれあうふたりが長い時を経てついに結ばれるラブストーリーでもある。つまるところ青春物語なわけだけど、中心となるキャシー、ルース、トミーの3人に突きつけられる現実はとてつもなく重く深く彼らの未来を閉ざそうとする。かといって悲恋や悲劇を抒情的に描くのではなく、そのつらいはずの運命を淡々と受け入れ、美しいイギリスの風景の下で展開させるので見ている側にとって余計に染み入る物語となる。

原作は未読だが、著者のイシグロ自身が製作総指揮として関わっている以上、テーマが大きく逸脱していることはないのだろう。小説を尺の短い映画にするのに大事なことは割り切った省略だと思っている。全てのエピソードを映像化することはできないし、したらしたでひどく間延びしてしまう。小説ではおそらくしっかり書き込まれてるだろうSF設定は、このジャンルの他の映画と比べて非常に少ない。私たちの世界とは違う世界であることを示す材料はほとんどないといってもいい程だ。

1952年に画期的な発明がなされ人類の平均寿命が100歳になったとこれから描かれる世界の原則が文字でもって作品冒頭に提示される。が、前半の舞台となる1970年代後半の寄宿舎の様子は私たちが思い描く70年代のそれであり、もっといえば古き良き教育のあり方からはさらに古い年代を舞台にしているのではないかとも思わせる程だ。ただ、子供たちが校舎から校庭に出る時に不思議な動作をする。壁に備え付けられた機器に腕のバンドを押し当てると電子音が鳴るのだ。スキー場のリフト乗り場のような設備であり、年代物の校舎の中でそこだけSF感を漂わせ、グロテスクに映る。

3人は成長し、やがて学び舎ヘールシャムを卒業。街にほど近い"コテージ"で暮らすことになる。この頃になると3人は自分たちの存在の意味を悟る。見ている側もはっきりとその意味を突きつけられる。複雑に動く電動式アームが手術をしたり、宇宙船に乗って戦うなんてこともなく、外を走る車はいたって旧式なもので、映画の中の人々は私たちと地続きの生活様式を保っているように見えて、その実冒頭で掲げられたわずかな言葉で作り出された世界観がどこまでも映画を覆い尽くす。

見終えた後にバイオ技術の倫理やあるいはもっと単純に人類が食すためだけに生まれ育てられ屠殺される家畜たちに想いを馳せないでもない(彼らの選択肢に自殺はないのだ)けれど、近い将来本作で描かれていることが費用対効果の問題はあるにせよ、実現してしまう可能性が大きく、それで救われる命も多々あるだろうし、決して必要のない技術だとは思わないが、それでも3人の悲しみを思うと、アンドロイドが活躍する『ブレードランナー』を見終えた時とはまた違う深い感情を抱かざるを得ないことに気づく。不思議な味わいの作品だ。
2012.02.06 Monday 23:58 | 映画 | comments(2) | trackbacks(0)
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2018.11.21 Wednesday 23:58 | - | - | -
コメント
この映画を観てから、原作も読みました。
カズオ・イシグロの小説は、村上春樹も出るたびにすぐ読んでいるとのことです。
「私たちの生きているこの世界もまた、ヘールシャムではないのか」と私は感じました。
私のブログにこの映画批評を書いています。
よろしければ、ご覧下さい。
『キネマ旬報』の<読者の映画評>に投稿たものの、一次選考通過どまりでしたが・・・
 → http://ameblo.jp/k-ikuro/
下呂のイクロー | 2012.02.19 Sun 23:19
下呂のイクロー様

こんばんは。
こちらにもありがとうございます。

原作ありものの映像化作品は確かに元の小説も気になりますよね。佐藤亜紀が酷評したというのも読んでますます気になりました。
gogonyanta | 2012.02.23 Thu 02:32
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