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不可思議/wonderboy『さよなら、』

2012年7月7日リリースのリミックスアルバム。
/5点中

不可思議/wonderboyの新作。彼が所属していたLow High Who? Production(以下、LHW?)主宰者Paranelが彼の新しい作品をこの日に必ず出すと宣言していたのを実際に聞いてはいたが、本当に届けられると感慨深いものがある。

不可思議/ワンダーボーイは昨年5月に念願だったファーストアルバムを発表し、そして翌月この世を去った。ラッパーであり詩人だった。身を削り生み出された言葉は聴き手の心を突き刺す。粗削りさの残るラップはだからこそ惹かれるという不思議な魅力を持っている。確実にいえるのは、彼が望んでいたようにラップで食べられるようになったかは別にして、将来が楽しみな表現者だったということだ。独善的な難解さにふけるのではなく、自分が歩む人生そのものを普通の人にも伝わりやすい言葉で表現することができる詩人だった。

日本語でのヒップホップが広く受け入れられる世界が来ることは良いことなのか悪いことなのか分からないが、リスナーを奮い立たせる彼の言葉は一般的な意味でのヒップホップとは異なるが、そのいわば死角から、ジャンルを超えた訴求力を持ち得たかもしれないと夢想することもできる。もちろん、若くして亡くなった人間に背負わせる夢であり、安易な過大評価なのかもしれない。それでも、彼のパフォーマンスを音源なり動画で一度でも聴けば、そうした夢想もあながち間違っていないことが理解できるだろう。


生前に残した彼の単独名義の作品は、2009年のミニアルバム『不可思議奇譚demo.ep』と昨年のファーストアルバム『ラブリーラビリンス』、それと50枚限定の震災チャリティーシングル『生きる』の3点となる。昨年6月のリリースパーティでは、「火の鳥」と「雨降りの金曜」という新曲2曲が披露され、前者はその時点ですでに録音済みと語り、その年の9月LHW?のコンピレーションアルバムに収録された。出来上がったばかりで歌詞を読みながらのパフォーマンスとなった後者が本作での唯一の新曲となる。

具体的に収録曲の内訳の続きを書いていくと、ライブではたいてい「Pellicule」の直前に神聖かまってちゃんの「ロックンロールは鳴り止まないっ」に乗せて歌われていた「ポエトリーリーディングは鳴り止まないっ」がオリジナルトラックを付けられ、音源初収録となっている。これは嬉しい。

他には、彼がソロになり初めて書いたM10「暗闇が欲しい」と最新曲M12を繋ぐインタールードとしてYuji Otaniのピアノインストが挟み込まれている。M10はファーストの特典CD-Rや2010年のLHW?コンピにリミックスされて収められていた曲でもあるが、正規盤には初めて収録されることになる。M8「世界征服やめた」は相対性理論の「バーモント・キッス」のリミックスとしてミニアルバムに入っていた、いわば彼の出世作ともいえる楽曲だ。

上記6曲に、『ラブリーラビリンス』のラップ曲全9曲を加え、最後にシークレット曲1曲を収録した全16曲がアルバムの全容となる。

ほぼ新曲扱いといってもいいM3「火の鳥」を含めたほとんどの曲でトラックが差し替えられている。発表済みのバージョンがそのまま使われたものとしてはM13「未知との遭遇」がある。これは以前ユージオータニが「未知との遭遇 Yuji Otani Final Remix」としてSoundCloudで無料配信していたものだ。また、シークレットトラックも以前発表されたものと同じになる。


ラブリーラビリンス』は彼がそれまで続けてきた音楽活動の集大成となる作品ながらも、同時に24歳当時の彼の苦しい状況が結果的に綴られる形にもなった。そうした全てを背負いながら、最後の曲で彼は自らが選んだ道に毅然として踏み出す決意を固め、インタールードも含めて、全11曲で完結している作品となった。それと比較すると、今作は彼の初期曲から最新曲まで、初音源化となる楽曲をも盛り込み、ベストアルバムといえる内容は雑多さにも繋がるわけだが、本作はオリジナルアルバムに引けを取らないし、不可思議/ワンダーボーイというアーティストにこれから出会う人にとってはもしかしたらこちらの方が最適なのかもしれないと思わせるほどの完成度を誇っている。

それは差し替えられたトラックの仕上がりが素晴らしいからだ。驚くことにほとんどの楽曲で原曲を手掛けたトラックメイカーがそのまま新しい音を作り上げている。それというのは自分の過去の音と対峙し超えたことでもある。ファーストアルバムは十分聴き応えのある音が詰まっていたし、聴くことで彼を甦らせようと再生ボタンを押し続けたかねてよりのファンにとってオリジナルの音と言葉はそれはもう不可分の関係にあるはずだが、そんな思い込みをやすやすと突き崩し、本作に軍配を上げたくなる曲が多いのだ。

もちろん不可思議/ワンダーボーイの言葉の強度が今なお色あせていないことが前提としてあるわけだけど、彼を支えることへのトラックメイカーたちの想いの強さや責任といったものがまざまざと感じられる。M1「Pellicule (Apres Cela)」やM2「もしもこの世に言葉がなければ」のアレンジは涙なしで聴くのは難しい。特にM1でのオルゴールを巻くSEはそのまま時を巻き戻す音でもあり、その音に導かれて始まるトラックはどこか卒業式を思い出させる。冒頭から泣かせにかかる卑怯さに、最初曲目リストを見てただのベストアルバムではないかと思ってしまった不安はあっけなく霧散する。

突飛なものいいかもしれないが、不可思議/ワンダーボーイのアルバムではあるが、同時に彼を支えてきた仲間たちの作品でもある。彼らの音がより進化を遂げ言葉をさらに高い次元に持ち上げていることが、ひいては不可思議/ワンダーボーイというアーティストが持っていた稀有な才能だったり、あるいは人柄の良さだったりというその非凡さを証明しているのだ。


新曲M12「雨降りの金曜」からM13「未知との遭遇」の流れも気に入っている。"多分、本当に好きでした"と絞り出すように歌われるM12があのリリパ当時の彼のまぎれもない気持ちであり、望みのない恋愛を綴った曲ではあるのだけど、その曲が"ベタベタで気持ち悪いラブソング"と彼自身が形容していたM13に繋がることで、諦めの気持ちも乗せてM12を作ったその後にまさかの逆転ホームランが飛び出し、彼女に気持ちが通じ、希望に満ちた未来に踏み出せたように映るからだ。曲の順序を変えるという編集の妙味でしかないが、すごく素敵な展開に思える。


才能がありながらも急逝したアーティストの歌を聴いているわけで、悲しみを覚えるのは当然なのだろうが、それ以上に嘆きの色を濃くするのは死を織り込んだ歌詞の多さだ。

"自由ってやつがいかに醜くて、稚拙で、ダサくて、不自由かってことをぜんぶわかった上で挑むスカイダイビング。余裕で死ねる"、"彼は音のなる踏切をくぐったのだった"、"生死の間に境は無い"、"すごく控えめに言って死んだ方がましだと"、"死ぬくらいの覚悟で"、"いつかは死ぬとわかっていながら 永遠なんてないとわかっていながら それでも人は愛するということ"。

これらの言葉はもちろん死にたいという後ろ向きな姿勢から生まれたのではなく、「火の鳥」で歌われるように、"死ぬ為に生きているワケないじゃん!死後の世界には興味が無い"わけで、最後に持ってくるフレーズ、"死ぬ気でやれば生は輝く"という想いこそが彼の信条なのだろう。生を強く意識させるための死の利用であることは理解できるが、それでもこんなにも早く逝ってしまった現実を前にすると、また別の響きに聞こえてしまう。それが間違っているのは分かってはいるのだけど。


交差点に出るたび左に曲がり続けて迷子になってしまった男が仲間に支えられて生み出されたアルバムだ。本作の紹介を遅刻し続けている本人の口から聞けないのは残念だけど、間違いなく傑作といえる。あの小さなスピーカーを脇に置き、手元のポータブルMP3プレイヤーのリモコンでピッっと鳴らしながら音出しをして、ステージなんて特別なものはなく、客席と同じ畳の上で懸命に言葉を吐き続けるリリースパーティを今回も見られたらなと思ってしまう。




<初回限定生産盤収録の未発表詩集>
1.寝る前に羊を数えてる
2.22歳
3.上司はまだ気付くまい
4.軍艦島に取り残された少年の話
5.歌うんならベッドで
6.折りたたみ式ストローを口先で引っ張る仕草ってセクシーオトナジャンー
7.先生、あのね
8.ニヒリズムーからっぽだったころの隙間に
9.灰色の世界
10.地球よ
11.世界を変えられると
12.花火
13.人殺しのカクテル
14.断片
15.アフガニスタンの少女の瞳に映る風景がたとえ真実だとしても
16.今日も死なない程度に生きような
17.祈り
18.タイム
19.クラゲとオーロラ
20.インディアンの話
21.朝起きると雨が降ってたんだ
22.夏を走る

歌詞カードもそうだが、相当に文字が小さいため、拡大コピーして読んだ。7や21は彼が参加していた詩の投稿サイトでも発表されていたもので、YouTubeに7を読んでいる2009年の動画が残されている。13はミニアルバム収録曲の歌詞だが、一ヶ所異なる部分がある。ラップ曲の中盤以降にある"殺したはずの彼女がそこに立ってたんだ"が、詩では"死んだはずの彼女がそこに立ってたんだ"になる。最終篇22は彼の2010年7月17日付のブログに掲載されている。

それ以外は遺族からパソコンを預かったパラネルが発見した本当の意味での未発表詩になるのかもしれない。

楽曲として結実した歌詞に比べてしまうと、大方の詩は習作といった印象を抱くが、後半の16から19までの4篇はいい。16は記憶を取り戻すために詩を読むという、自分のしていることへの肯定を歌う。"街が記憶喪失を患う"というモチーフは8にも出てくる。同じように、10で描かれる"明けない夜はない"を逆手に取った世界観は12に続き、両篇に出てくる印象的なフレーズは14にも登場する。

昨年のクリスマスに送られてきたLHW?のメールマガジンにも掲載されていた17は不幸な少年の話。他人と繋がりたいという切なる願いを綴った18には、"生きていればだれも気づかないよ 死んじゃえば多少気づかれるかも"とずいぶんな一文がある。少女が窓の外に見た光景を描く19は言葉の力が強く、その幻想的な絵を脳裏にしっかり思い浮かべることができる。

Perfumeのコンサートで設営スタッフとして働き、シュールな展開を辿る21は、のっちの恋愛報道について触れているので2010年の作品なのだろう。

4もまた2010年のはずだ。リリパでのMC通りであれば、"軍艦島に取り残された少年"は不可思議/ワンダーボーイ本人で、タワレコ・HMV特典CD-Rのライブ音源にも収録されている早稲田のライブハウス茶箱でステージがあった日に、そこから高田馬場駅方面にもう少し向かったところにある軍艦島というバーのオーナーに突然声を掛けられ意気投合し、数時間後には別の場所でパフォーマンスしたそうだ。その縁で『ラブリー・ラビリンスリリースパーティが軍艦島で行われたのだ。「火の鳥」が生まれたのもそのオーナーとのやりとりからだという。


<タワーレコード・HMV限定特典CD-R『SPECIAL LIVE DISC』>
1.君 〜 もしもこの世に言葉がなければ @早稲田茶箱 (2010.09.26)
2.Talk @神戸LHW?忘年会(2010.12.29)
3.ポエトリーリーディングは鳴り止まないっ / 俊読 @渋谷クロコダイル(2011.01.24)
  →(神聖かまってちゃん "ロックンロールは鳴り止まないっ" Remix)
4.Talk @恵比寿Redbook(2011.02.26)
5.銀河鉄道の夜 / 40分 @新宿MARZ(2011.03.25)

イベント「俊読」でのパフォーマンスを記録したM3はユーチューブ上にもアップされてはいるが、神聖かまってちゃん使いの「ポエトリーリーディングは鳴り止まないっ」を音源として手元のiPodで聴けるようになるのは嬉しい。M2とM4の"Talk"とは文字通りライブ中のMCで、前者では同じLHW?所属のラッパーYAMANEとの絡みが記録されていて、後者は恵比寿というよりも中目黒に近い、小さなカレー屋で行なわれたインストアライブでの模様となる。懐かしい。

こうして映像なしのライブパフォーマンスを耳だけでじっくり聴くと、不可思議/ワンダーボーイ独特の熱さが伝わり、目頭が熱くなるのだけど、同時に彼の言葉が持つ豊かさだったり温かさ、鋭さを少しも損なうことなく聴き手に伝えようとするその技術の部分においては、おそらく本人がもっと頑張らなければと考えていただろうなと思わせるものがある。ファーストアルバムを出したばかりの新人ラッパーで、技術的なことよりも気持ちの部分での強さや熱さ、勢いこそが大事であり、それ以上を求めるのはせんないことと分かってはいる。が、パフォーマンス面でも完全に開花したならばどうなっていたのだろうと想像してしまうのだ。


<LHW? STORE限定特典CD-R『SPECIAL INST DISC』>
1.風よ吹け Instrumental
2.タマトギ Instrumental
3.いつか来るその日のために Instrumental
4.生きる Paranel Remix Instrumental
5.銀河鉄道の夜 Instrumental
(この特典は盤が手元にあるので、リミックスしたいラッパーがいましたらご連絡下さい。)


<DISK UNION・wenod等特典CD-R『SPECIAL acappella DISC』>
1.世界征服やめた acappella
2.タマトギ acappella
3.人殺しのカクテル acappella
4.偽物の街 acappella
5.ポエトリーリーディングは鳴り止まないっ acappella
2012.07.18 Wednesday 23:59 | 音楽 | comments(0) | trackbacks(0)
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2017.04.19 Wednesday 23:59 | - | - | -
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