すばらしくてNICE CHOICE

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希望の国

66点/100点満点中

園子温監督の最新作。反原発映画。出演は夏八木勲、大谷直子、村上淳、神楽坂恵、清水優、梶原ひかり。2012年公開作品。

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東日本大震災から数年後の日本。酪農を営む小野泰彦は、妻の智恵子と息子夫婦の洋一といずみと共に長島県大葉町で暮らしていた。ある日巨大地震が発生。長島第一原発が事故を起こし、原発から半径20km圏内が警戒区域に指定される。ギリギリで圏外となった小野家に対し、隣家の鈴木家は強制退避を命じられる。泰彦は自らは残る決断をするが、将来のある息子夫婦には自主避難するよう説得する。その避難先で妊娠が判明するもいずみは次第に放射能への恐怖を募らせる。一方、避難所生活を強いられた鈴木家では、長男ミツルが恋人ヨーコと一緒に行方不明の彼女の両親を探して津波に襲われた浪岡町を彷徨い歩く。
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前作『ヒミズ』で震災を描いた園子温が今作では原発事故がもたらした最悪そのものと真正面から向き合う。ここには血糊をあれだけ愛していた園の姿はなく、反原発という一点に絞り、これでもかこれでもかといつもの過剰さでもって執拗に描いていく。大気中を浮遊するセシウムや家庭内にも打ち込まれる杭といった、これまでついぞ見たことのないイメージ描写まで盛り込まれ、その鬼気迫る熱意には圧倒される。

鑑賞前に雑誌「ROCKIN'ON JAPAN」に掲載された園のインタビューを偶然立ち読みした(普段は見る前にそうしたものに触れない)。忌野清志郎の反原発曲を引き合いに出し、当時の彼がその曲に抱いた感想や、こうして事故が日本でも実際に起き、それなりに発言力が大きくなっている現在の自分を鑑みて、今やれることをやろうと思ったと率直に語る記事は興味深かった。それを読んでいることもあるが、3.11からまだ2年も経ていないこの時期に、人々の感情はもちろん作り手の表現すらもしっかり昇華できていないにも関わらず、まず撮ってみて、今この瞬間の一日本人としての想いを作品として表そうとすることは、本当に難しいことだろうし、怖くもあるだろう。作品への評価はともかくそれをやり遂げてしまう園子温という監督への信頼はさらに高まったことは事実だ。

私は本作で描かれているように、また報道で伝えられているように、普通の人間の生活が突然崩壊してしまう危険性が少しでもある限り、原子力による発電は即時止めるべきだと考える。意図するものが違うとしても、小学校低学年で広島の原爆投下直後の記録フィルムを見せられ、そのあまりの恐ろしさに部屋を暗くして寝ることができなくなったり、その後チェルノブイリ事故を目撃するに今の人類では扱えない力であることを改めて認識をした。しかし、生活していく中で電気は必要不可欠だ。いつしか反原発などという考えは青臭いものとみなすようになっていた。六ヶ所村の事故にしろ、地震による柏崎の異常事態にしろ、その兆候はこれまでもあったのだけど、関東からは遠い場所で起きた不幸な出来事程度にしか思っていなかった。

そして3.11が起きて、福島第一原発が吹っ飛び、自分たちの電気に頼る生活があまりにも危ういものの上に立っている楼閣なのだと気づかされた。本作で描かれるのはフィクションだ。だけど、ひとつひとつのエピソード自体は園が体験者から聞いた話を基にしている。過疎化しお金のない地方につけ込み原発を建て、結果的にその土地を不幸にする。それは何も原子力行政だけではなく、沖縄の米軍基地問題も同じだ。不幸を地方に押しやって中央が安心を得ることの不公平さに否の声を挙げることは青臭いと自嘲することだけは自分の中では止めたい。

本作は原子力発電への考え方を改めて考える契機になる映画だ。たった1年と8カ月しか経っていないのに、電気代の値上げでもって再稼働への機運を高めさせようとする各電力会社の浅はかさにはうんざりさせられるし、無策としかいいようがない政府にもため息だが、電気代が高騰するなら再稼働も仕方がないとする空気が徐々にでき始めている今の日本は、本作で大谷直子が演じていた痴呆症の智恵子そのものだ。もちろん痴呆症はなりたくてなった障害ではなく、ここでおとしめるのはどうなのかとは思うが、しかし現実問題としてこの狭い国土の日本にいつの間にか54基もの原発が作られていることに驚き、そのひとつが爆発したことすらすぐに忘れ去り、あれほど上がった不平不満も忘却の彼方へと消えていく。

しかし、メッセージを発信することに向かいがちで、場面場面での絵には力があるものの、季節が前後したり、徒歩での逃避行なのに非現実的なほど遠くに行ってみたりと、物語として疑問に残る点が多い。私が見た回では終了後に拍手する人がいたけれど、そんな気にはなれなかった。伝えたいことは確かに受け取ったし、愛だけあれば大丈夫なんていう、これまでの園監督作品からしたら笑止千万なセリフを真顔でいえるようになった園は無敵への一歩前進を果したのだろう。ただ、テーマに比重を置き過ぎる路線はこれ1本に留めて欲しいというのは園ファンとしての切実さな望みだ。今回の事故を取り上げる者が映画界にいないと危機感を語っていたが、純粋な暴力映画を撮れる監督も日本にはもう園子温しかいないのだ。
2012.11.01 Thursday 23:57 | 映画 | comments(2) | trackbacks(0)
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2017.04.19 Wednesday 23:57 | - | - | -
コメント
お久しぶりです。
大学が忙しくて久々のコメントです。記事はちょくちょく拝見させて頂いてます。

本作は未見なのですが、園子温監督の過去作はヒミズ鑑賞後にDVDでいくつか観てみました。エロや暴力の過剰さがしっかり娯楽になっていて良いなと思いました。細かい感想やメッセージを汲み取る前に、まずは「すごく面白かった!」がくる感じです。

>今回の事故を取り上げる者が映画界にいないと危機感を語っていたが、純粋な暴力映画を撮れる監督も日本にはもう園子温しかいないのだ。

他に似たような人が何人かいればいいんですけどね。そう考えると韓国は園監督のような人が多数いるわけで、改めてすごいと感じます。

園監督の次回作(「地獄でなぜ悪い」 2013年3月公開)ではエロ&暴力路線に戻るみたいですね。あと先日読んだ去年末のインタビューでは、津山三十人殺し(戦前に岡山県で起きた大量殺戮事件)を題材に「ビー・デビル」のようなエログロ映画をいつか撮ってみたいと話していました。実現したら凄いことになりそうです。
幸い多作な監督、しかも最近特に脂が乗り出している人なのでこれからが楽しみです。

今度、「自殺サークル」観てみようかと思ってます。(自分が観たのは「紀子」「むきだし」「ちゃんと」「熱帯魚」「恋の罪」「ヒミズ」です)
過去作で、もしおすすめがあったら教えていただけるとありがたいです。「壺さぐり」が気になってますw ではでは。
eddie | 2012.11.14 Wed 20:37
eddie様

こんにちは。
お久しぶりです。相変わらずの返信遅い体たらくぶり申し訳ないです。

> 園監督の次回作(「地獄でなぜ悪い」 2013年3月公開)ではエロ&暴力路線に戻る

朗報です!徹底的にやって欲しいですね。3月が楽しみです!

> 去年末のインタビューでは、津山三十人殺しを題材に「ビー・デビル」のような
> エログロ映画をいつか撮ってみたいと話していました

ああこれもまたはまりすぎです。ただ、今なら兵庫の例の事件も彼好み(というか、本当に怖いですし)ですよね。三池崇史の新作『悪の経典』がなかなか良いとの評判を聞きますし、ぜひとも韓国に負けない、こってりヴァイオレンス路線を日本でも作って欲しいものです。

> 過去作で、もしおすすめがあったら教えていただけるとありがたい

初期作以外はひと通り見ましたが、eddieさんがすでにご覧になった作品が普通に楽しめる映画かなと思います。『性戯の達人 女体壺さぐり』はとりあえずピンク映画を撮ってみたといった感じで、エロ中心ですが、通常の作品の方がよっぽどむき出しのエロがあるかと。それ以外だと『奇妙なサーカス』はとてもらしさがありましたね。『気球クラブ、その後』の青春群像劇風は意外でした。栗山千明がお好きでしたら、若干のテレが入ったホラー映画『エクステ』かと。
gogonyanta | 2013.01.14 Mon 17:20
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