すばらしくてNICE CHOICE

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風立ちぬ

88点/100点満点中

2008年の『崖の上のポニョ』以来となるジブリ・宮崎駿監督作品。太平洋戦争中の海軍主力戦闘機"零戦"の設計で知られる航空技術者・堀越二郎の半生に、作家・堀辰雄の『風立ちぬ』を織り交ぜた彼自身の手による同名漫画(月刊模型雑誌「モデルグラフィックス」に2009年から連載)が原作。2013年公開作品。

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群馬での幼少期から、東京大学で学んだ学生時代、妻菜穂子との出会い、技術者としての挫折や栄光という堀越二郎の半生。
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1941年生まれの宮崎駿は今年で七十二だ。テレビアニメ時代を含めると70年代前半から日本人を楽しませてきたことになる。劇中の台詞に、"創造的人生の持ち時間は十年"とある。夢の中で堀越二郎が大師匠といえるイタリア人飛行機設計者カプローニに何度も投げかけられる言葉だ。宮崎の心の内にはクリエイティヴに富んでいたのはこの期間だと確信する十年があるのかもしれないが、一ファンとして、本作にはここにきてもまだ彼は進化するのかという驚きがある。『耳をすませば』や息子の宮崎吾朗が監督した2011年の『コクリコ坂から』といった青春ドラマの脚本を手掛けてはいたものの、自身の監督作でそれまでの作り慣れた冒険活劇を脱し、こうも見事な人間ドラマを描き出すとなると、あなたの持ち時間は何十年あるのか問いたくなる。


堀越少年が自宅の屋根から自作飛行機で飛び立つシーンで始まる。飛翔は彼のトレードマークといえる描写であり、これまで幾度となく見てきているが、それでも先端のプロペラが回転し出し、機体が浮くか浮かないかの緊張感とその解放には清新な躍動感があり、良い物語になるという期待を抱かせるに十分だ。

上京する列車の中で1923年の関東大震災を経験し、東京帝国大学の工学部航空学科で幼い頃からの夢である航空技術を学ぶ日々などを通し、正義感が強く誠実な人柄だったり、わき目もふらず研究に打ち込む姿勢が描かれていく。卒業後は三菱重工業の前身、三菱内燃機製造に就職し名古屋勤務となる(駅前に大きな看板を出している"カブトビール"とは当時東海地方で一番飲まれていた地方ビールだそうだ)。

年代や具体名ははっきり明示されないものの、少しずつ近代化していく街の様子や人々の風俗、特高がやってきたといったエピソードで分かるようになっている。

日本軍からの要請で欧米から20年は遅れている飛行機の設計を始めるが、堀越は革新的なアイデアを生み出しながらも挫折を味わい、軽井沢での失意の休暇中に妻となる菜穂子と運命的な出会いを果たす。ヨーロッパへの留学を経験し、さらなる研鑽を積むと共に、時代/軍の強い働きかけで列強に伍する戦闘機の一刻も早い開発が望まれるようになる。"時代に翻弄される"とまではいかないが、それでも根詰める堀越と彼を支える菜穂子の生き方には別の道があったことも確かだ。

堀越は主翼に特徴がある九試単座戦闘機をついに完成させ、その後に有名な零戦も開発し、そして戦争が終わり、映画も幕を下す。


堀越の学友で同僚の本庄の台詞がある。"俺たちは武器商人ではない"。この言葉は零戦に殺された人が聞いたら笑止千万な言葉でしかなく、一開発者も同罪だろう。ただ、そういう時代だったのだ。皮肉なことに科学技術の進歩は戦争時に飛躍的に進む。国家が莫大な予算をつぎ込み開発するのだから当然といえば当然だ。その時代に空を飛ぶことに幼い頃からとりつかれていた技術者が、要請されるままに純粋に持てる英知を集め、欧米に負けない機体を製作することは仕方ないのだろう。弱いエンジン部を補うためにできるだけ軽量化を図り、ついに目標の飛行速度を超え得る機体を考え出すが、そのためには戦闘機としては一番大事なライフルを外す必要があるとするエピソードはまさに飛ばすことだけを考えていた堀越を象徴する。

本作では描かれていないが、戦後、日本のメーカーが初めて開発した旅客機YS-11の設計に彼は参加したそうだ。西武新宿線の航空公園駅前で屋外展示されているあの機体だ。


本作と同じくモデルグラフィックス誌で連載していた漫画を原作にした『紅の豚』に端的に表れているように戦闘機や兵器への強い愛着が宮崎作品ではしばしば見られる。同時に『風の谷のナウシカ』や『もののけ姫』では反戦や反原発への彼の思想がよく出ている。今回最初に零戦の開発者の半生を映画にするとだけ聞いた時、基本的には平和主義の宮崎が何を考えているのか分からなかった。原作があることも知らず、堀越二郎がどういう人生を送ったのかも当然不明だった。しかし、こうして見終えてみると、本作でも変わらぬ反戦の思想が貫かれていることに安心するし、無駄を省き人を殺す道具として研ぎ澄まされるが故に簡素で美しくもある兵器に対し、その存在を否定しながらも惹かれる気持ちを素直に表すことに、"らしさ"を覚える。


他にも宮崎作品らしさ(風を切って飛行機が飛ぶし、"風が運んでくれた"という菜穂子の台詞はナウシカを彷彿させ、堀越の妹加代の泣き顔はメイを思い出させる)を随所に出しながら、悪と戦うヒーローやヒロインを登場させず、荒れ狂った戦争の時代に生きた一技術者の人間ドラマは、いってみればフランス映画のそれのように芳醇な物語に仕立て上げられていて本当に良い作品だ。子供に向けて作ったという『崖の上のポニョ』から一転、大人のためのアニメ作品になったわけで、だからこそ大粒の涙がブワッと溢れるといったアニメ的な表現はない方が良いと思う。

最近携帯電話のCMに映画監督・庵野秀明が起用されているのをよく見る。彼が普通にテレビに出ているのがなぜだか激しい違和感しかないのだけど、そのおかげで本作に出ていることは知っていたが、まさか主役の堀越役とは最後まで気づかなかった。決して巧いわけではない。しかし、誠実な人柄の堀越の声音にうまくはまっている。庵野自身もそうだとは、エヴァンゲリオンで煮え湯を飲まされてきたファンには思えないだろうが。



【追記】
ウィキペディアの「映画製作に至る経緯」に興味深いエピソードがあった(wiki)。

原作漫画の映画化をプロデューサーの鈴木敏夫に提案された際、宮崎は"アニメーション映画は子どものためにつくるもの。大人のための映画はつくっちゃいけない"と、当初は"内容が子供向けでないことを理由に反対していた"。"鈴木は戦闘機や戦艦を好む一方で戦争反対を主張する宮崎の矛盾を指摘し「矛盾に対する自分の答えを、宮崎駿はそろそろ出すべき」"と再度映画化を促す。そして、"映画版の企画書の中で、宮崎は製作意図について「この映画は戦争を糾弾しようというものではない。ゼロ戦の優秀さで日本の若者を鼓舞しようというものでもない。本当は民間機を作りたかったなどとかばう心算もない。自分の夢に忠実にまっすぐ進んだ人物を描きたいのである」と述べている"。だからYS-11の作るエピソードが盛られなかったのか。
2013.08.01 Thursday 23:57 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
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2019.08.20 Tuesday 23:57 | - | - | -
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