すばらしくてNICE CHOICE

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それでも夜は明ける / 12 Years a Slave

70点/100点満点中

アメリカ南北戦争以前に北部で平和に暮らしていた黒人男性が突然拉致され南部で12年間奴隷生活を送った実話を『SHAME -シェイム-』のスティーヴ・マックィーン監督が映画化した時代物。黒人監督の作品として初のアカデミー賞作品賞に輝く(脚色賞も獲得)。主演は『レッドベルト』『ソルト』のキウェテル・イジョフォー。共演には、本作でオスカー助演女優賞を受賞したルピタ・ニョンゴ、『SHAME』で主演だったマイケル・ファスベンダー、サラ・ポールソン、ベネディクト・カンバーバッチ、製作も兼ねたブラッド・ピットら。製作費2200万ドル。2014年公開作品。

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1841年、ニューヨークで暮らす音楽家ソロモン・ノーサップは解放奴隷としてふたりの子供にも恵まれ妻と幸せな家庭を築いていた。ある日、2週間の興行に誘われた彼は興行主に騙され拉致された末、ニューオーリンズに運ばれ、プラットという名前で奴隷市場に送られてしまう。大農園主フォードに買われた彼はその有能さを認められ、温厚なフォードにも気に入られるが・・・。
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とても教育的な作品。映画としては面白味を覚えないが、歴史を知ることはとても大事であり、本作の意味はそこにある。先日発表された第86回アカデミー賞では、作品賞を『ウルフ・オブ・ウォールストリート』と争ったわけだけど、不道徳極まりないヤク中証券マンの映画が政治的に正しい本作に勝ることなどとうてい困難だというのは鑑賞してよく分かった。ただ、面白さでいえば断然スコセッシ・ディカプリオ組に軍配だ。


他国の時代物なので、ウィキペディアを参考にして簡単にその周辺をひも解いてみる。1492年にコロンブスがカリブ海に浮かぶ西インド諸島に辿り着いて以降、ヨーロッパが新大陸の存在を知るところとなる。1607年にはバージニア州に最初の入植地ジェームズタウンが建設された(テレンス・マリック監督が『ニュー・ワールド』でその辺りを描いている)。その12年後の1619年、オランダ商人によって最初の黒人奴隷が北米にもたらされる(それ以前よりヨーロッパ・西アフリカ・西インド諸島における三角貿易は行われていた)。当初、彼らの労働力は重視されていなかったが、1680年代より輸入が増加する。

奴隷貿易の最盛期は18世紀。"推計では16世紀は90万人、17世紀は300万人、18世紀は700万人、19世紀は約400万人が奴隷として("アメリカ大陸"へ)売買されたといわれている。概算1500万人とされるが、大西洋横断中の死亡率を考慮すると、近年では最大でも1100万人程度と推定"されている。

こうした安価な労働力を得て力を付けた各植民地は、1775年のアメリカ独立戦争を経て、1783年パリ条約で"アメリカ合衆国"として正式に独立を果たす。

舞台となる1841年とは日本でいえば天保12年にあたる。東北地方に甚大な被害をもたらした天保の大飢饉はこの3年後の天保15年に始まる。大塩平八郎の乱は4年前だそう。懐かしい歴史単語。米国はフロンティア魂を発揮し、西部進出を進め、1819年フロリダを買収、30年インディアン移住法成立、45年にはテキサスを併合し、46年ついに西海岸にまで達した。そのまま太平洋にも乗り出した結果、53年のペリーの黒船来航となる。黒人バイオリニスト・ノーサップが囚われていたのはこの時代だ。一方、その後の歴史の経過はというと、61年に南北戦争が勃発する。スティーヴン・スピルバーグ監督作『リンカーン』でも描かれていたように翌年エイブラハム・リンカーン大統領が奴隷解放宣言を発表し、65年国を二分した内戦がようやく終結する。


まあそういうわけで、ノーサップが"ニガー・プラット"となり、"進歩的"な北部人は嫌悪しながらも南部で依然として行われていた黒人奴隷の労働力を土台としたプランテーション経営や彼らの生活がどういうものだったのか白日の下にさらしていく。

黒人は白人に売り買いされる所有"物"でしかなかったこと、キリスト教によって正当化され白人のみならず当の黒人たちも受け入れていたこと、そうせざるを得ないほど苛烈極める扱いの実態があり、白人にとって口を利く程度の家畜でしかなかった。理不尽な暴行が繰り返され、若い女性は主人の慰み者となるといったことから、黒人たち自体にもランク分けがあった事実(同じ黒人でも意識の差が大きい)や、同胞が罰せられ"奇妙な果実"状態になっている中で子供たちがはしゃいでいるといった象徴的な光景が切り取られていき、当時の状況をとても分かりやすく伝える。言葉で説明しなくても映像を見るだけで理解できるようにどのシーンも意図されている。

現代に生きる私たちは"正しい"価値観でもって170年前の出来事を見てしまうが、その時代に生きていれば、黒人を養い仕事を与え、神の御心を"家畜と同等の"黒人に教えることこそが"正しい"行いだった。ただ、黒人監督が撮っているからといって、被害者意識を全面に押し出し声高に白人を告発しているわけではない。ただ、こうした悲しみの歴史が、しかも長期間あった。それが事実だと伝えることに徹している。そのフラットな視点こそがより悲劇を増幅させるわけだけど、同時に物語の閉じ方にしても12年間の苦しい生活を抜け出し、家族と感動の再会を果たすことができたという一黒人の数奇な運命を伝えることに徹しているため、黒人だけの映画にはならず、白人も私たち日本人であっても見られる作りになっていることはありがたい。

白人によるブルースロックからブルーズ(まあCDで持ってるのはロバート・ジョンソンぐらいだけど)を聴き、ヒップホップやソウルを楽しみ、最近はようやくジャズを聴き始めた身には、そうしたジャンルの原型である労働歌を歌いながら黒人奴隷たちが苦しい日々をどうにか耐え忍ぼうとしているシーンには思うところが大きい。黒人霊歌「流れよ、うなるヨルダン河よ / Roll Jordan Roll」が歌われる場面(黒人としての自分を受け入れるここでのキウェテル・イジョフォーの演技はすごくいい)では、サビでロックンロール黎明期の名曲「ジョニー・B.グッド / Johnny B. Goode」がどうしても再生されてしまって、そういうことなんだなと感じ入ってしまった。
2014.03.14 Friday 23:57 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
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2019.08.20 Tuesday 23:57 | - | - | -
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