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インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌 / Inside Llewyn Davis

67点/100点満点中

コーエン兄弟が監督・脚本・編集・製作した音楽ドラマ。2013年の第66回カンヌ国際映画祭で最高賞パルム・ドールは『アデル、ブルーは熱い色』に譲るも審査員特別グランプリを受賞。主演は『ドライヴ』でキャリー・マリガンのムショ帰りの夫を演じていたオスカー・アイザック。共演にはそのマリガンやジャスティン・ティンバーレイク、前途有望な歌手役に『トロン:レガシー』で主演したギャレット・ヘドランド、ジョン・グッドマンら。製作費1100万ドル。2014年公開作品。

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1961年冬、米国ニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジ。フォーク歌手ルーウィン・デイヴィスは自信作『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』をリリースし、ソロとしてのキャリアを歩み始めたものの、金も家もなく知人の家を転々とする。ある日、泊めてもらった家の飼い猫を逃がしたことをきっかけに猫を抱えたまま行動することに。さらに、友人ジムの彼女であるのに、ついつい手を出してしまったジーンからは妊娠したと責められる。
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目先の欲に溺れ人生を狂わせる人間を愛情深くユーモアを持って描いてきたコーエン兄弟は前作ではついに西部劇まで手掛けるようになり、乾いたコメディや犯罪映画とはまた違う巨匠としての風格を身に纏い始めた印象すらあった。今回はまた違う路線で音楽ドラマだ。以前の作り手との距離が近い親密な雰囲気が戻ってきている。

ボブ・ディランが故郷ミネソタの大学を中退し、ニューヨークに出てきたのが1961年の冬だという。当初は"グリニッジ・ヴィレッジ周辺のフォーク・ソングを聴かせるクラブやコーヒーハウスなどで弾き語りをしていた"そうだ。本作の主人公ルーウィン・デイヴィスのモデルになっているのが、そのディランの5歳年上にあたり、すでに界隈では評価されていたデイヴ・ヴァン・ロンク(簡単な略歴とYouTubeにフルでアップされている彼の音源)。

実在の人物がどのような人生を送ったのかはともかく、本作で描かれるのは確かに才能はあるのだろうが正当に評価されない現実に苦悩するアーティストであり、同時に才能とは別の話で人間的にロクデナシではあるのだけど、もがき続ける男の話でもある。音楽家という特異な職業を扱ってはいるものの、人生を賭けた目標に到達できなかった時に生まれるドラマがある。コーエン兄弟らしい笑いがそこかしこにあり、彼らのファンならああ見て良かったとなる良作だ。

主演のオスカー・アイザックが実際に弾き語りしたそうで、その歌声は味があり、演奏面でも満足できる。一方で、コーエン組筆頭のジョン・グッドマンが活躍するといえ、シカゴパートがロードムービーとしてもやや物足りず退屈だ。きっとそれは、そこまでのルーウィンとキャリー・マリガン演じるジーンとの丁々発止なやりとり(というよりもマリガンの罵倒か)が心地良すぎるせいかもしれない。

ジーンの恋人でルーウィンを引き立ててくれる最良の仲間であるジムのように売れ線曲(とはいえ映画内で一番楽しめたのはこの曲。正直今の私の気分ではフォークは飽きる。黒人のスウィングやグルーヴが欲しいと思ってしまう)に手を出すことができず、彼は自分の信じる音楽に頑固であり続ける。音楽を商売と考えた時に、圧倒的な才能を持たない(例えばディランのように)限りは、別の能力がきっと必要なのだろう。限界を悟り見切りをつけようとするルーウィンは創造的な仕事をしていなかったとやや軽蔑にも似た感情を抱いていた元漁師の父親を見舞う。息子は父の前でお互いに好きだったニシン漁の歌を歌う。そこには結局父と同じ職に就く自分、分かり合えないできた父との関係など様々な想いが渦巻くとてもいいシーンなのだけど、そうやすやすと感動劇にさせないコーエン兄弟が素晴らしい。だからこそ彼らを信用するのだ。

ラストシーン。ルーウィンの後にステージに上がるのはこの後世界中に大きな影響を与えることになる若き日のディランなのだけど、大事なのはそこではない。同じ日々と失敗をおそらくその後も繰り返し続けるルーウィンがそこにいて、しかもそれは彼だけではなく、数えきれないほどたくさんいる売れない自称ミュージシャンたちの姿でもあるのだ。ただ、売れないからダメな音楽なのではない。当たり前のことだけど。デイヴ・ヴァン・ロンクのような先達がいて、ディランが続けたのだ。

アーティストの生き様を、人としてはどうしようもなくてもそれでも自分の信念に純粋であろうとする男を、ユーモアと悲哀のさじ加減を絶妙にコーエン兄弟は描いている。いい映画だった。



【追記】2014.11.26
・音楽についての解説→記事
・アシスタント音楽プロデューサーとして参加したMumford and Sonsのマーカス・マムフォード(キャリー・マリガンの旦那とは知らなかった)の簡単なインタビュー動画
2014.06.11 Wednesday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
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2019.08.20 Tuesday 23:58 | - | - | -
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