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2021.02.10 Wednesday | - | - | -
アミスタッド / Amistad

91点/100点満点中

1997年のスティーヴン・スピルバーグ監督作。1839年の「アミスタッド号事件」を描く歴史物。主演は本作が映画デビューとなり、後に『ブラッド・ダイヤモンド』や『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』に出演する西アフリカ出身のジャイモン・フンスー。共演にマシュー・マコノヒー、アンソニー・ホプキンス、モーガン・フリーマン、『それでも夜は明ける』で主役ソロモン・ノーサップを演じたキウェテル・イジョフォーもアフリカ生まれの英国軍人役で出ている。オスカーには4部門で候補になるが無冠。船名のアミスタッドはスペイン語で"友情"の意。製作費3600万ドル。

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1839年、キューバのハバナを出航したスペインのラ・アミスタッド号の黒人奴隷53人たちはシンケをリーダーに蜂起する。船を乗っ取った彼らの目的は母国アフリカ西海岸に帰ること。6週間の漂流の末、北米ロング・アイランド沖でアメリカ海軍に拿捕され、コネチカット州ニューヘイブンに連行される。黒人奴隷が白人を殺したことで死罪、あるいは所有者への返還が確実視される中、同地で始めった裁判で、奴隷制度廃止論者ルイス・タパンと黒人活動家ジョッドソンに雇われた不動産訴訟専門の弁護士ロジャー・ボールドウィンが彼らを助けんと尽力する。
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第6代アメリカ大統領にして、史上ただひとり大統領後も下院議員として政界に留まったジョン・クインシー・アダムズを演じるアンソニー・ホプキンスがようやくその貫録を発揮する場面。先達者たちによって定められた独立宣言にある尊い理念、"基本的人権の尊重"を思い出させてからこう語る。

"今こそ我々は正義を行う勇気が必要であり、そのための内乱なら起こるがよい。それがアメリカ独立戦争の最後の戦いとなるのです"

最高裁での発言であり、史実を忠実に再現したと誇るメイキング映像からも実際に彼が語った言葉でいいのだと思うが、ともかく後にスティーヴン・スピルバーグが『リンカーン』を制作したのは、唐突にエイブラハム・リンカーンの物語が生まれたわけではなく、本作があった上での彼なりの決着でもあるのだと知れたことは興味深い。そうなると、彼が奴隷解放令を宣言しても、その後約100年近くも公の場での差別が続いたわけで、その間の物語も彼は描くのだろうか。もしそうならかなり楽しみだ。


映画は冒頭から嵐の中アフリカ人たちが船上で起こす暴動の様子が迫力十分に映し出される。しかも彼らはアフリカ西海岸の部族であり、当然英語でも白人船員が話すスペイン語でもない。リアリティ重視は結構だけど、この映画一体どうなるのだろうと思っていると、やがて彼らが連行されたアメリカでの法廷劇となる。

裁判では船とその積み荷(つまり黒人)の所有権を巡る争いになる。スペイン船籍ということで、まずはスペイン女王イザベル2世が声を挙げ、本来の奴隷商人も自分のものと当然主張し、ホラバード地方検事、拿捕した米海軍士官のふたり、さらには奴隷制度廃止論者たちは黒人たちは本来の奴隷制度内の奴隷ではなく、アフリカから拉致されてきた被害者(奴隷商人はハバナで買ったとしか認めない)だと自説を発表し、互いに相容れぬ主張を述べ合う。そこに第8代大統領ヴァン・ビューレンの再選という政治が絡んできてしまうためにより厄介になる。黒人を守ることは南部の怒りを買い、票集めに不利となり、反対に南部のいう通りにすると北部で進む廃止論が一層過激になる。しかも、南部のジョン・カルフーン議員からは内戦の可能性まで示唆される。

必然、"単純な事件に抽象的な重みを積み上げてしまう"ことになる。つまり、法の正義とその独立性、あるいは基本的人権の尊重をどう守るのかという、単なる黒人の所有権だけの問題(当事者にとっては"単なる"では済まされない話で、モーガン・フリーマン演じるジェッドソンが同志で白人のルイス・タパンに怒りを露わにするのは当然だ)ではなくなり、国のあり方に関係してくるとても大きな物語となる。


実際に当時の街並みを再現した撮影は素晴らしく(反対に砦破壊などのCG感あふれるシーンはがっかり)、俳優たちもよく熱演している。ボールドウィンに扮するマシュー・マコノヒーは本作の1年前の現代劇『評決のとき』でも黒人の権利を守る弁護士を演じていたが、今回は長いもみあげのせいか、すぐに判別できなかったが、ひょうひょうとした人物を好演する。実際の彼は後に政界に進出したそうだ。アンソニー・ホプキンスはもうさすがとしかいいようがない演技で、反対にモーガン・フリーマンは控えめだ。ただ、アフリカ人奴隷の末裔であるが、白人から教育を受けたフリーマンの演じるジョッドソンが、シンケに政府が上告したと伝えるのに帯同するシーンで、同じ肌の色をしているものの、西洋社会とは別の世界で生きてきたシンケが爆発させる活力に圧倒される時の表情は印象的だ。

TVドラマシリーズ『ルーツ』でもアフリカ西海岸から拉致された黒人たちが奴隷船に乗せられ、過酷な船旅を強いられるという描写はあったが、本作は映画であることもあるのか、さらにむごたらしい光景が広がる。そこをしっかりと描く努力があるから、アミスタッド号に乗船させられた黒人たちの怒りをしかと理解できるし、制度そのものが間違っているというアダムズの言葉にも説得力が生まれる。ただ、その船上シーンはスペイン語の白人たちだったこともあるし、裁判が行われたニューヘイブンが北部だったことも影響しているのか、不思議とNワードが出てこない(もちろんレイティング問題を考慮してというのもあるだろうが)。そういえばリンカーン』はどうだったのだろう。まだその点を意識して鑑賞してたわけではなく、記憶にない。


映画を見れば、「アミスタッド号事件」の流れやその意義を理解できるが、結審までにどれぐらいの時間がかかり、彼らは何年間拘留されていたのか具体的な数字としては分からない。そこでウィキペディアを参考にすると、船がスペイン領キューバ・ハバナの港を出港したのが1839年6月28日。7月2日にはシンケが蜂起し、その後8月26日ロング・アイランド沖でアメリカ海軍のワシントン号に拿捕される。39年9月ニューヘイヴンの地方裁判所で審議が始まる。40年1月、地裁は奴隷廃止運動家の主張を認める判決を下す。

しかし、政府は"巡回裁判所へ即時抗告"を行い、1840年4月巡回裁判所は"地方裁判所の判決を支持しつつも、国際的重要性を鑑みて、最高裁判所へ案件を送致"する。1841年3月9日最高裁はシンケたちアフリカ人の自由を認め、翌1842年彼らは故郷に帰還できた。


ところで、余計な口出しをするスペインの女王イザベル2世を演じるのは、1993年の『ピアノ・レッスン』でわずか11歳ながらアカデミー助演女優賞を受賞したアンナ・パキンになる。女王は米国の政治家たちから11歳のわがまま娘といった具合に罵倒される存在と描かれので(実際彼女は最後までそうだったらしい)、何かの皮肉なのかしらと捉えてしまいそうになる。
2014.11.28 Friday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
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2021.02.10 Wednesday 23:58 | - | - | -
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