2007年7月25日リリースの27枚目のアルバム。
日本盤の発売前から、イギリスでは「新聞の付録」として配布されるということで、
話題になっていた今作。
何でも、保守的でミドルクラスから労働者階級までの読者層を持つ英タブロイド紙
「The Daily Mail」の日曜版「The Mail On Sunday」の7月15日版に本作を無料で添付。
同紙は1部1.4ポンド(約350円)。
プリンスに一定の金額を払うことで、配布の権利を勝ち取ったといわれている。
(The Guardian紙によれば、制作費、広告ライセンス料として25万ポンド(約6200万円))
これにより同アルバムの流通を行うはずだったSony/BMGグループは英国でのみ販売を中止。
レコード店などからは「彼の作品をサポートしてきたショップに対する侮辱」、「狂っている」
などとプリンスに対する批判が相次いだ。
しかし、当のプリンスは
「これは直接的なマーケティングで、この混乱した時代のレコード会社の投機的なビジネスに、
付き合う必要はない」
とコメント。さらに、彼の代理人も
「プリンスは彼の音楽を聴きたいと望むより多くの人に直接それを届けたいだけだ」
という声明を発表した。
結果、午前中に売り切れた売店が続出し、通常発行部数250万枚に50万枚を増刷された。
プリンスはもともとファンの手元に直接音楽をという考え方をいち早く取り入れ、
レコード会社とも争ったし、自分のサイトからのみアルバムを発売したり、
mp3形式でのダウンロード販売も結構早くから行っていた。
だから、今回の戦略は目の付け所にさすがと思ったけれど、驚きはなかった。
それよりも、90年代初頭に自身の映画がこけ、アルバムの評価も低く、低迷していた時期
──ペイズリー・パークを売りに出さなければならないほど瀕しているという報道がされていた頃に
比べるとずいぶんと羽振りが良くなって良かったねというのを思った。
思えば、2004年の音楽収益で1位だったのはプリンス。
Rolling Stone誌の発表によれば、約59億円。
要因としては、好調な米国ツアーの収益と、プラチナアルバムに輝いた『MUSICOLOGY』の
製造コストダウンの成功によるらしい。
今回もイギリスでのライブチケットにもCDが付いてくるという特典があり、
早々とソールドアウトになる会場もあるようだし、
ツアー収益で十分に元が取れるだけ人気が回復し、稼げるということなのだろう。
何にせよ太っ腹。
まあ金の下世話な話はさておき、最新アルバムの中身はというと、これがたいしたことない。
正直言えば、つまらない。
前作『
3121』が黒い音に包まれ、スリリングだったのに比べ、
今作はポップな音が多く、刺激が薄れている。
M2「Guitar」にしても、やっつけアルバム『chaos and disorder』収録曲の方が、
よっぽどロックでソリッドなギターが満載だし、
M4「The One U Wanna C」だったら「Raspberry Beret」を聴いた方がいい。
今作の曲はどれもプリンスの手あかが付きまくった曲調が多いのが不満だ。
過去のプリンスのアルバムの中にはここに収録されている曲よりも、
もっと素晴らしく、ポップで、エロティックで、ワイルドで、美しい曲があるよ、と言いたい。
だからプリンス入門編としてベストアルバム以外の作品を紹介するのにはいいのかもしれない。
プリンスの要素はまんべんなく込められている。
良かったのは、M8「Chelsea Rodgers」。
こんなファンクをやられたら、弱い。
ベース、コーラス、カッティングギター、ホーン、どれも素晴らしい。
M5「Future Baby Mama」からM6「Mr.Goodnight」の流れも良かった。
こんなみだらな雰囲気だけの曲をシームレスで繋げたアルバムを聴いてみたい。
「Pussy Control」のようなへなちょこラップが聴けたのも嬉しい。