キリコにABNORMAL BULUM@、コメント欄でも薦められた北関東スキルズ、ドクトルマチダと、
注目に値するメンツがいっぺんに見られるイベント「全日本ラップ殺人事件」。
電車を乗り継ぎ乗り継ぎ、もちろん鈍行普通車で、
2時間半以上かけて餃子の街に向かう。
改札を出た西口駅前では、久し振りにゆずモドキを横目に、
早速目に付いた餃子のチカチカ光る看板を睨みつけつつ、やや小走りに「NEST」に急ぐ。
駅から伸びる大通りをまっすぐに行き、パルコが見えたら、その向かいだと思っていたが、
そのパルコがなかなか見えない。
やがて見えてきた集団は特攻服に身を包んだレディースの方たち。
さすが宇都宮、とわけのわからないうなずきをひとりうちつつ、老体にムチをあてる。
ようやく見えてきたパルコのネオンサイン。
人が集まっているところに向かうと、入り口に列ができている。
盛況のようだ。
限定のCD-R(でも150枚っていうけれど、全員に行き渡る数はあるよね)を貰い、中へ。
ラウンジに入ると、数人いるものの、フロアはガラ〜ン状態。
ステージでサンプラーをいじっていた人がいなくなると、フロアは数人だけ。
【ドクトルマチダ】23:31〜22:45
"ハメルーンの笛吹みたいさ どんどん人が集まれば俺はすぐに始める 全日本ラップ殺人事件 こんな客引きみたいなラップをしたくないけど ライブやるぜ"
とラップしながら、さっきサンプラーをいじっていた人がラウンジからやって来る。
この人がドクトルマチダだったようだ。
KKのアルバム『
Light in a Fog』で初めて聴いて、かっこいいラップをやるMCだと注目していた。
でも、ラップが聴き取れない。トラックに声が負けている。
残念。
【Ahiru Records:キッコーマン、YASURI、イィゴ、社長(?)】22:46〜23:07
キッコーマンだけが出るものだと思っていたから、
このイベントで唯一の休憩タイムと目星をつけていた。
が、ひっどいキッコーマンのソロが1曲終わった後に、YASURIがステージに。
Ahiru Recordsオールスターでの1曲後、YASURIの
ソロ作品から「分類」。
"ポップとオタクとサグ カス 4つに分類されるラップ"
音源そのままの声の高さとフロウ。
逆にそのまますぎて、ライブならではの驚きがないほど。それはそれでつまらない。
次第に混み始めるフロア。続いて、イィゴと「ネオ麦茶」。
しかし、キッコーマンというMCの良さがさっぱり分からない。
"千葉・野田がふるさと 歌声まるで渡辺美里 西武球場でコンサート 俺の話す声まるで近藤サト 三時のおやつはたけのこの里 コーヒーは少し一、二杯・・・ビット(bit)"
「to」で踏んできて無理矢理"ビット"。周りでも失笑が漏れる。
【Da.Me.Records:ガスケン、メテオ、環ROY、ダースレイダー】23:08〜00:13
このイベントが楽しみだったのは、メンツもそうだけど、
ダースレイダーやメテオが主催者相手に、格闘技やプロレスの試合前の舌戦のように、
盛り上げていたのも面白かったのだ。
で、そのダメレコ勢の出番。
トップバッターは生きのいいガスケン。
三本締めに続いて、"日本発 世界に繰り出す これが日本の祭りだ"と盛り上げて、
「歩」にいくところで、マイク事故。熱いフリースタイルでカバーするのはさすがダメレコ。
次は「ドブホタル」。でも入りで失敗。もう一度。
"Yo! 兄弟"に"アーイ"というコール&レスポンスを繰り返して、「兄弟」へ。
立ち位置がはなびとかぶる。
二番手、メテオ。
さあ、何が出てくるか楽しみ。
昔からラップをやっている人を一概に悪いと言ってはいけません!という趣旨のことを言った後に、
"今の自分があるのも昔の人がいたからだと思う。だから殺人とかそういう殺伐としたことは本当にやなんだよ。勘弁してくれ。平和にいこうぜ"と言い、始めたのは、
"ジャパニーズ・ファッキン・サイコ・キラー"というリリックのある曲。
面白いからいいけど。
くだらなくて辟易することも多いのは確かだけど、メテオのラップは威勢がいいし、盛り上がる。
2分弱の短い曲を矢継ぎ早に3曲やったかと思うと、
曲よりも長いMC(ドラえもんネタ)をやってから1曲ラップして終了。
環ROY。
どこか聴いたことのある歌を歌っているなぁと思ったら、フィッシュマンズの「土曜日の夜」だった。
自らDJをしながら、ラップも。
リズムの乗り方がすごい。気持ちいい。
ビートの上にリリックが自由自在に踊ってる。
CDよりもずっといいのでは。
スーパーヒーローについての曲の次は、
アルバムから「東京holidays」。
締めは「midnight breaking fishman」。
ダースレイダー。
風邪をひいていたというけれど、存在感のある声はさすが。
この日一番盛り上がったライブはこの瞬間だった。
「俺たちはここにいるぜ」をテーマにしたフリースタイルで始めて、次も「俺の話を聴け、俺の歌を聴け」というフックのみが最初からあったというフリースタイル。
ここまでは素晴らしい。
けど、次にメテオとふたりでやった2曲──糞尿に性器ネタはげんなり。
面白ければいいけれど、最初の2曲に比べれば完成度が格段に落ちているし。
最後の曲はガスケンとブラック・サバス(?)ネタのトラック。
これが格好いい曲。
フリースタイルではなくて、ちゃんと曲として完成されているラップをじっくり聴いてみたいな。
盛り上げ方もラップも本当にうまい。
【北関東スキルズ】00:13〜00:49
6MCでいいのかな。
初めて聴く。ソロでも活躍しているドタマが頭ひとつ飛び抜けている。
細身で眼鏡、といういかにもいじめられっ子みたいなスタンスも好感がもてる。
他には、灰色のニット帽を被っていたGULLは飛び道具みたいで愉快だし、NONは高音ボイスで結構面白い声だ。
ただ、ステージ上はもう動物園のサル山のよう。
または、文化祭でよくある、やっている当人たちだけが楽しんでいるバンド然としている。
フロアも閑散とし始める始末。
ラップが伝わらなければ、聴く側も楽しめないし、
かといって、内容が分からなくても楽しめるラップでもない。
【Ari1010】00:52〜01:26
何かに対して怒っているのは伝わってくるけれど、ラップが不明瞭で、よく分からない。
普通のヒップホップの言葉とは異なる特異な言葉をたくさん放射しているのに、もったいない。
北関東スキルズの後半でようやく増え始めたフロアが再びまばらに。
トラックはいいんだけど。
特に2曲目と、"(死の)瞬間に立ち会ったときに、少年時代に感じたことを曲にしたものです"
と始めた4曲目は(聴き取れる)リリックも含めビートが素晴らしい。
"なんかこう、みんな、営業といいますけどね、ラップしていると。
どこどこへ営業行きますと。俺の場合は布教していく"
とMCで語るが、布教されてもいいから、刺激的であろう言葉をもっともっと浴びたい。
【DEJI、TROY the 3rd & DJ H!ROKi】01:26〜01:43
Ari1010が踏ん張って増やした観客が再び減。
デジの太く、よく通る声はリリックを正確に耳に届かせる。
でも、言葉をビートにのせるときのもたつきは、個性なのかもしれないけれど、私には気持ち悪く感じてしまう。
それと、繰り返し繰り返し"手を挙げろ"というのもうんざりだ。
ライブが良ければ、みんな自然と手も挙がるよ。
しかも新曲とはいえ、1曲目から"東京東京"言ってるのはどうなのだろう。
【MCバトル】01:43〜02:10
ダースレイダーの仕切りは素晴らしい。
いつまでもグズグズ言ってる奴に"出てけ!"と怒鳴りつけたのは立派。
このイベントで一番フロアが埋まって、熱気に包まれた時間だ。
どこにこんな人がと思うほどすし詰めに。
<北関東スキルズ> vs. <南関東スキルズ>
○NON(後攻) メテオ(先攻)×
○GULL(後攻) SABO(先攻)×
×ドタマ(先攻) DEJI(後攻)○
×華乱(先攻) 鎮座DOPENESS(後攻)○
×MOPPY(後攻) KATOMAIRA(先攻)○
○DUFF(後攻) キッコーマン(先攻)×
延長戦
○ドタマ(先攻) メテオ(後攻)×
華乱の早口ラップに対し、後攻・鎮座DOPENESSのフロウが最高。
"い〜や 北関東スキルズは早口でホント参る
あ〜んまな〜に言ってるのかホント聴き取れ〜ん
**〜はトレーに入った、なんつ〜んだろ〜挽肉みたいな感じ?
ホントあんま喰った気しないからさ〜ちゃんとやって〜"
スローモーに小馬鹿に8小節。
次の攻撃は一転、怒ったオヤジみたいにがなり立てるフロウに。
余裕の貫禄勝ち。
KATOMAIRAの出だしも素晴らしい。
"オイ 2時過ぎに呼び出して33のおじさんにバトルはねぇだろ"
ジャンケンで勝ったドタマが先攻を選んだ延長戦がやはり一番白熱。
相手はカトマイラだったけれど、メテオが自ら志願。
いきなり、ドタマがふっかけたライムでフロアが大盛り上がり。
"メテオさん、「(高音で)俺がメテオ テケテケテケ」昔のスタイルではやらないんですか
あの頃が懐かしいぜ ホームブリューワー出ていた頃の方が尖っていたと俺は思う
だからちょっと丸くなったんじゃないですか メテオさん"
これにはメテオもタバコの吸い過ぎで高い声が出なくなったと逃げるしかなく、
反撃は例によって下ネタで、童貞・包茎・短小疑惑でねじ込むのみ。
ドタマの華麗な先攻逃げ切りで、まさかの北関東スキルズの勝利。
【ABNORMAL BULUM@】02:10〜02:33
MONCHIの高音ラップが聴き取れないし、
NAGAN SERVERも期待していたほどではない。
ただ、何かがドス黒く渦巻いて、耳にこびりつき、思わず体が動き出すトラックは最高だし、
3MCによる言葉のグルーヴも素晴らしいものがある。
これで、ラップがはっきり聞こえれば言うことなし。
ラストにやった「ココニスワッテ」を聴いていると、毎回Twigyの曲を思い出す。
で、ツイギーと比べるのはあれだけど、高い声で早口でもツイギーは確実に耳に届かせる。
勢いだけではないライブが見たい。
【キリコ】02:38〜03:02
約1年前に見た
インストアライブより、さらにフリーキーになったラップとトラック。
ラップについていえば、フリーキーというより、過激にフロウを壊す方向に進んでいる。
前回見た時の方が、伝えたいことを素直にラップしていて、確かに変わったラップではあったけれど、伝わってきた。
ステージアクションは暗いことをいいことに、足を上げたり、長髪をぶるんぶるん振り回したり、可愛いポーズをとってみたり、もうやりたい放題。
少し一休みといいながら、プリントアウトした紙を片手にやった自虐MCが大うけ。
"俺見てんだよ 2ちゃんねるに書き込んでるのは誰だ オイ 俺のスレッド パート3までいってるぞ
誰だ〜いるだろ確実に 今日キリコはどうだったとか書く奴 そこでフード被っているBボーイか
それともそこで腕を組んでいる女の子かなぁ もしかして君じゃないよねぇ うん?
あまりにもさぁ悲しいよね 813番の訴える名無しさん「僕はブックオフに出したけど」
547番の訴える名無しさん「キリコだせえや。氏ねや」
誰かなぁ 君かなぁ 優しそうな顔をしているけど
「トラックが良い」これはマサオ君かなぁ それともフラグメントかぁ 俺は知ってるぜ BBOY PARKに行ってお前らがデモを渡しまくっていてYA-KIMにも渡したことを トラビットはねぇよ
「キリコ頭悪そう」「降神のパクリ 全然良くない」「ラップであってもヒップホップではない」
「金にならないことこそ素晴らしいみたいなことを言うならCDを売るな 矛盾だらけ」
酷いよねぇ"
フロアからは"それ以上読むな"の声も。
でも"もっとすごいの言って"という声も飛ぶ。
"「要はラップいらないだろう」「一緒に街を歩きたくないタイプ」「びっくりするぐらい才能ない」
「キリコの中身はダースです」"
フロア爆笑。
"俺さぁ〜11月にアナログ出すんだけど、もしも売れなかったらダメレコに入れてくれよ"
"とにかく俺はディスられてばっかりさ 僕は評価されない音楽家"
といううまい入りで、アルバムタイトルでもある「僕は評価されない音楽家」へ。
かなりアクが強いし、好き嫌いがはっきり分かれるラップだけど、
キリコのスタイルは彼独自のスタイルで、誰かの真似をしているわけでもない。
いとうせいこうの言うヒップホップそのもの。
しっかり届けるラップをしている。
【kochitola haguretic emcee's】03:02〜03:42
鎮座DOPENESSが繰り出す音が深くて重い。
ズドンと腹にくるビート。めちゃくちゃいい。
さらにラップも融通無碍なフロウ。
自由に動き回っているビートと言葉を捕まえるのがこんなに楽しいとは。
機材トラブル中も明るい3人というのもいいね。
"俺のギャングスタぶりを見せてやる"と言い始めたフリースタイル(?)はディスなのか。
"工場勤務のハスラー 時給千円 ユー・ノー・セーン"
語尾を上げるSEEDAのようなフロウに、"ギャングスタ"から"カップスター"へ繋げる言葉遊び。
本気なのか茶化しているのか。
生で聴いた「生打精製」の破壊力はすさまじい。
一度入りを失敗して、環ROYの手伝いで再び始めたときの鎮座DOPENESSも面白い。
"環ROY ファーストアルバム 結構評判超悪かったりする だけど俺は 超マジリスペクトだぜ
マジホント千円で買える代物じゃないぜ 2ちゃんねらーの奴らに四の五の言わせないぜ
俺のマイメンだぜ Yeah メンコだぜ 表だぜ裏だぜ YO レッツ・ゴー"
という意味のよく分からない再スタートを切ったすぐ後で、
"意味なんて他の奴に求めてくれよ"
と言い放つ。
リズムと相思相愛の鎮座DOPENESS。いやぁ、いい。
【ORIGINAL SOUL CREW】03:43〜04:02
ついに最後のグループ。2MCに1DJ。
今日の出演者の中では一番オーソドックスなラップスタイル。
フックがいい。
が、ヴァースがきつい。
いや、韻を踏んでいるし、しっかりラップをしているけれど、粗い。
もっと丁寧にラップをすればいいのに。
せっかくライムスターを彷彿させる踏み方やフロウをしているのだから。
"所詮たかだかBボーイ されどBボーイ"や、"そのフンドシ 締め直して"、
"酒がなければやってらんねぇ と叫ばなければやってらんねぇ"
という異様にキャッチーなフックは楽しいし、
去年リリースのファーストアルバムが某雑誌で音楽ライターから
「2006 MOST UNDERRATEDALBUMS(最も過小評価されているアルバム)」に選出された、
という話(彼らのHPから)もなるほどとうなずける。
宇都宮タワーレコードのヒップホップ売り場のバイヤーという主催者仙波氏(a.k.a.やさい)の
締めの言葉とメテオの例のよってグダグダのスピーチに、
これでは如何と出てきたダースレイダーがその混沌をきれいにまとめてお開き。
DJタイムもない、日本語ラップだけの濃密な6時間。
それぞれがこれこそが自分のスタイルだと貫いているラップスタイルで、まさに百花繚乱。
個性的なメンツが揃ったゆえに、どのアーティストも見逃せないし、
ずっとフロアに釘付けにされた。
最後まで飽きがこなかったし、ずっと楽しんで見られた。
宇都宮まで行った価値はあった。