ほんの少し仮眠をとるつもりが不覚にも熟睡してしまい、起きたら深夜0時半。電車もなく、自転車を走らせることに。0時スタートなので、どんな具合かまったく読めず懸命にこいでいたら1時19分に到着。31分は自己ベストだ。ちょっと嬉しい。
慌てて降りていき、エントランスをくぐるとステージではもうオロカモノポテチがライブをしていた。壁に貼られたタイムテーブルを見ると、dotamaは1番手だったようで見られずじまい。残念無念。
【オロカモノポテチ】 〜01:25
気を取り直して、オロカモノポテチのライブを見入る。先月の頭に学祭で見た悲惨な
ステージよりもずっとマシなラップをしていた。まあ、あれは条件が悪かっただけだとは思うけれど。満員のフロアはしっかりオロカモノポテチの声に反応しているし、辛口なトークも冴えていた。
"fragmentの正しいビートの乗り方はこうだ。聞いてるか、キリコ"との言葉で、「僕はラッパー」をやって終了。野外とは違いフラグメントのバキバキのビートは拡散することがないので、存分に楽しめた。
・よあけまえ
・僕はラッパー
【あるぱちかぶと】 01:25〜01:52
次は同じSLYE RECORDSから、オロカモノポテチの言葉を借りれば、"ポエトリーウェポン"こと、あるぱちかぶと。
アップルストアでの
インストアライブを春先に見たことがあったけれど、あのときよりもずっと良くなっている。丁寧にラップされた言葉のひとつひとつが確実に届く。真摯さが伝わってくる声質もすばらしい。
人の一生を1日にして描いてみたという「完璧な一日」ではこれまでとは違う、リズミカルなフロウが聴けた。降神の志人、特に「円都家族」辺りを連想させるフロウはなかなか魅力的だ。アルバムが待ち遠しい。
"毎日毎日ベロ出して、落ちてくる比喩を受け止めて、詰めてヴァースにした"という「故障かなと思ったら」はフラグメント・ビート。SLYE RECORDSの面々に行き渡っているよう。
"修正液で消した誤りを裏っ返して見透かそうとするようないやらしさだったり
骨折シーンにズームですり寄って スローにして見せるぐらい迷惑な計らい
持ち帰った冷たい期限切れの弁当の底くらい浅はかで くるぶしもつからない(?)
電線にとまるカラスぐらいあざとく ネズミ取りに明け暮れる白バイみたいにめざとい"
まず最初にアカペラで始めた。シンと静まりかえったPLUGのフロアに清々しいラップが響く。いくつもの印象的なフレーズが踊る。"21世紀の親指ぐらいせわしなくて"、"裁判みたいに進まない宿題ににらまれる"、"たんぼ道にポツンと佇んだ自動販売機のような孤独を紐解くと"、"黄昏の理科室のように心を揺さぶって"。この曲が残念なのはフックが弱いことか。ヴァースの良さがフックで木っ端微塵になる。
"行きずりの指切りが夜霧にふとよぎるとき〜"で始まる1ヴァースほどをアカペラで披露した後に、そのままMichitaの
アルバムに入っていた「頭"」へ。
やや硬質な声、しかしそれゆえに若さが持つ生真面目さといったものを内包させている。そして、あの時あの一瞬に抱くも、すぐさま身を翻し姿を消そうとする儚い感情の尻尾を懸命に捕まえんと言葉を繰り出し、リリックとして定着させている楽曲には言葉の重みが宿っている。とてもいい。
1.kalashnikov
2.完璧な一日
3.故障かなと思ったら
4.?(アカペラ)
5.頭"
【haiiro de rossi】 01:54〜02:11
このライブを見るまで、あるぱちかぶととhaiiro de rossiは自分の中でかぶるところがあった。最近ハイイロのアルバムをずっと聴いているので、あるぱちかぶとを紹介するオロカモノポテチの言葉──"ポエトリーウェポン"──を最初に耳にしたときは、それってハイイロのことを指すのではと思った。が、いざハイイロのステージが始まるとなるほどと納得できた。
ハイイロもまたクオリティの高いライブを見せた。音源で聴けるのと同じラップを披露し、
アップルストアの時とは違い、フロアにしっかり届かせていた。キャップを目深にかぶり、ジャケットを羽織った彼のライブは、CDの中ジャケを見たときにうすうす感じてはいたけれど、ナルシシストそうな性格がそのまま出ている。
かっこいいとは思う。言葉を鋭利な刃物のように尖らせ放つ。その様は非常に男前だ。私はソロアルバムしか聴いていなかったわけだけど、そこでの内省的な青年といった印象とは大きく異なり、自身のポテンシャルを知った上での傲慢さがどことなく嗅ぎ取れるパフォーマンスは華があった。見映えの良さもあり、売れるとしたらこういう人なのかもとも思った。
最後の曲に入る前に、"もしもヒップホップマナーみたいなものが日本にあるとすれば、俺ん中ではこういう場所に呼んでもらったんだから、俺はヤベー仲間を紹介することしかできないし"とのMCがあり、その言葉に導かれてぞろぞろと7人がステージに上がった。ソロアルバムに収録されていた「KAIROS」。彼らがRainy Channel Posseのようだ。どのラッパーもここまでの4曲でハイイロが作り出していた濃い空気を切り崩してしまうレベルしかなく、やや鼻白んでしまったのだけど、まあふたり目の"ドーバー海峡"云々とラップしていた人が良かったか。
最後の最後でアレってな感じになってしまったが、この時期のハイイロを見られたのは良かった。今後フロウがどう増えていくのかも楽しみ。
1.Jam & Butter
2.Soul Session
3.Turn of the tide
4.KAIROS feat. Rainy Channel Posse
【DJ DUCT】 02:11〜02:27
日本語ラップも織り交ぜつつの短めのDJプレイ(サイドMCとしてステージに立っていた村上水軍は仕事らしい仕事をせず。何のためにステージ上にいたのだろう)を経て、メテオタイムへ。
【メテオ】 02:27〜02:59
「気遣い気遣い」と「グアテマラの熱砂」は歌詞が飛んだのか1ヴァースずつ矢継ぎ早にやった後で、"「気遣い」からもう一度やっていいですか"とフロアに気を遣い、再び頭から始める。
声の張りは良いし、勢いのあるラップも絶好調を物語っているようだった。
けど、そんなときほど落とし穴はあるものだ。2回目の「気遣い気遣い」を無事に終え、キリコの勇気ある率直なリリックを讃え、「グアテマラの熱砂」を熱くアカペラで吐き出した後、たぶん軽い客いじりのつもりだったのだろうが、前列で腕組んで見ていた若者に声をかけた。
"何かそんなつまんなそうな顔をして俺に不満でもあるんスか"と語りかけ、その若者は"熱い"と答えたので、これはいいと思ったのか、さらに"刺されんのかと思ったよ。ナイフとか持ってないッスか"などの軽いやりとりがいくつかあった後に彼の名前を訊くと"207(ニイマルナナ)"と返事があり、メテオも"207に大きな拍手を"で締めて、そこで彼のことを絡めてフリースタイルをした。しかし、その最中に207は何を思ったのかいきなりステージに上がり、袖に置かれていたマイクを握ったのだ。
"俺は207〜"と始めてしまい、メテオは戸惑いつつも面白いと思ったのだろう普段のサイファ−のつもりでやりとりしようとするが、どうやら規格外の人──まさに"とんでもない"人を家に上げてしまった感じ──らしく全く噛み合わない。メテオも彼の耳に小声で段取りをささやくも焼け石に水状態。
前のめりな若手に翻弄される10年選手といった図がかなり面白く、フロアも大いに湧く。腹がよじれるかと思った。
どうにかステージを下がらせて、メテオが一席ぶった。"自分も昔、つ−かほんの4年ぐらい前まであんな奴だった。人のいうことなんか聞けねぇ。とりあえず自分が目立ちたい。昔グループやってたんだけど、そこにいたリーダーとかにもすげえ迷惑かけたし、自分だけがと思っていた。でも違うんだな。世の中いろんことがあって回ってる"。
しんみりいい話に持っていく辺りは経験がなせる技なのだろう。気を取り直して、acharuを上げて「食事と買い物」。さらにacharuのソロ曲「Touch The Sky」。甘いけど芯の強さそうな歌声がいい。
DEJI抜きでの「魔獄の分裂イントロ」。相変わらずイィゴのマイクの持ち方がいい。ラッパーらしくないところが素敵。
最後につっかえつっかえアカペラをやって終了。
これまで何度か見てきたライブの中で、この日のメテオが一番状態が良かった。それだけに207の出現は残念だった。面白いことは面白かったけれども、もっと曲に集中したメテオを見たかった。それと、リリック飛ばしなどはもう当たり前のようになっているけれど、本当にうまいラッパーたちにはそんなことはまずあり得ないわけで、その辺の練習不足に少し呆れたのも事実。ラップの勢いは良かっただけにもったいない。
1.気遣い気遣い 〜もてなし野郎のブルース
2.グアテマラの熱砂 〜日没から夜明け〜
3.207とのセッション
4.食事と買い物 feat. acharu
5.Touch The Sky/acharu
6.魔獄の分裂イントロ 〜絶叫物件の悪夢の玄関
feat. TAMU, AKIYAHEAD, WAX & イィゴ
7.?(アカペラ)
【YARMA】 03:02〜03:23
dixionareedsとしても活躍する群馬のYARMA。キリコのアルバムを聴いてたときは思い出せなかったけれど、Hisomi-TNPの
アルバムにも参加していたのね。しかもHisomi-TNPって結成当時のディクショナリーズに在籍していたらしい。
ライブの前半はヒップホップというよりもレゲエ。リリックの内容は趣味ではないものの、強引に割って入ってくるラップはメテオ以上の力があり、思わずステージに釘付けになる。うまいとかスキルがどうのとかそういった話ではなく、問答無用で聴かせる迫力がある。後半にひとり加わり、ディクショナリーズとしてやった曲も荒削りながらも息のあった掛け合いは見事だし、黒いグルーヴが良かった。
【オコジョnow+バルーンTHE200+生中】 03:24〜03:47
ステージにのそっと上がってきたのはバルーンTHE200。初めて聞いたMC名だったとしても、これほど名は体を表わす例もないだろう。まさにバルーン。モヒカンで、巨大サイズのTシャツから見え隠れしている左腕の刺青、かけているサングラスのツルはギリギリ耳に当たるだけ。冗談かと思うような風船人形。そういえばジャケもすごかった。
そのバルーンが、"俺がバルーンだぜ はっきょい残った"と始めるものだから笑いが止まらない。"服屋に行ってもサイズがない"だとか、"飯時になったら頑張ろう"、"改札通るの一苦労 斜めにならなきゃ通過不能"だとか巨漢ネタで貫き通す。大阪も面白い人材を送り込んでくるものだ。残念なのは脂肪で喉が圧迫されているのか、声が聴き取りにくいこと。
次も期待に違わぬオモロなラッパーだった。日の丸が縫いつけられた上着に、パンチ頭で、哀川翔声のオコジョnowが"て〜きや〜"と始めた。大阪は濃いなぁ。的屋とお客さんという寸劇までやってた。"おっちゃん、キリコ君のCD出たん?"、"出たでぇ"、"そんなら俺買うわ"。曲の最後では、"つべこべいわずに銭もってこい!"。大盛り上がり。
"お肉MC ファック・ベジタリアン アイム・ニクタリアン 野菜は食いもんじゃなくて吸うもん"と今度は肉ネタで攻めてくるバルーン。リリックが明瞭に聴き取れればもっと笑えるのに残念。豚肉のロースが一番好きらしい。
"ヒップがプリプリ"という小ネタを差し挟みつつ、かたときも笑いをなくさないステージングで、失敗したときの対応も早く、ライブ慣れしている。
演歌をサンプリングしたトラックの上でふたりでラップした後は、同じ大阪の後輩なのかな、ダブルドラゴンというふたり組が2曲を披露。フックアップも分かるが面白いラッパーを連れてきて欲しい。よくあるたぐいの不良ラップでつまらない。
最後は、DJブースにいたオコジョが、"オコジョといったら何がある やっぱり見たいあれがある キリコ君リリースパーティ 久々に俺あれやっちゃうよ"と言い放ち、素っ裸になってステージに戻ってきた。最後の最後まで飽きさせない。大阪名物芸人魂なのかな。そういえばヒロトもライブでよく脱ぐと聞くけど、このオコジョみたいに小指の先ぐらいに縮こまっているものなのかしら。
ま、それはさておき、演歌というよりも軍歌なのかな、そんなトラックをバックに、"裸で来いやぁ!"と叫んだ後に元気いっぱいでラップ。"君が代聴けば涙を誘われ"とラップするぐらいなので、最後の最後で股の間から顔を出し、己の菊の花をさらすというパフォーマンスまでサービス。偉いなぁ。さすがお笑いの街代表。
【キリコ】 03:55〜04:29
ようやく本日の主役登場。
ラップがうまかった。
セカンドアルバムを聴いていてもしかしたらと思っていたけれど、生で聴いても良かった。奇抜なフロウと思われがちだが、しっかりリリックを届かせる非常に高い技術を持っているし、何よりライブの構成がよく練られていて、フロウで聴かせつつ笑いをもしっかりとるという緩急の付け方に見ごたえがあった。
Shing02の「400」のフックを巧みにカバーして、笑いを誘いながらそのまま「MCバトルを観て思うこと」に入るくだりや、「freedom jazz dance」でのコールアンドレスポンスも堂に入っていたし、セイホーもそつなくこなしていた。
その「freedom jazz dance」に行く前に、Ill-Bosstinoが憑依したかのように、"あるアングラのクソMCが俺にこういってきたんだよ"と始め、ハイイロについて敬意を表した後で、"だけど俺はこういう道を選んだんだ"とかっこつけつつ、曲に入った。見た目がアレだから、そのハードボイルドな言い草とのギャップが最高に面白い。
MADLIBのTシャツを着たキリコと共に"ジャズヒップホップ"を連呼。楽しい。
"ブラストが読みたいよ"と大きく印字された紙を無言でフロアに見せ、「BLAST廃刊」に突入。"AMEBREAKはまた俺のインタビューを取ってくれなかった。BLAST、全く成長がないなぁ、お馬鹿さんだよ"とのこと。
そして恒例(?)の2ちゃんねるのキリコスレッドの読み上げ。"今回こんなのがあったぞ。245番の訴える名無しさん。マジきもい。声とか聴くと鳥肌が立つ。161番の訴える名無しさん。動きがおかまっぽい"。フロア、爆笑。"250番の訴える名無しさん。高橋名人に似ている"。賛同の声で満ちる。"36番の訴える名無しさん。同じぶさいくでもダースと違って根暗っぷりが伝わってくる。194番の訴える名無しさん。dotamaもきもい"。幸せな笑いに包まれる。
"どう思う?"とフロアに問いかけると、帰ってきた返事は"そう思う"。ここから再びイルボスティーノがキリコに取り憑く。"何いってんだよ。そんなこといってんからお前はいつまでも芽が出ねぇんだよ。ヒップホップはやることやってる奴が正義なんだよ。昔すごかったとかキャリアとかは関係ねぇの。なぁ2チャンネラー、ストーリーを続けようぜ"。
間髪入れずに「耳を貸すべきMC達」へ。人の言葉で正義を語り、そのまま人のパンチラインを借用した曲というのが大いに笑わせる。しかも音源とは違いライムスターをしっかりサンプリングしていた。
"ヒップホップは最近はトラックがメインで、ヒップホップやラッパーは喫茶店のバックミュージックに成り下がった。リスナーたちはライミングやフロウや言葉選びなど全く気にしない時代になってきているのかもしれない。ただ巻き舌で、アメリカっぽかったり、それっぽかっただけで評価がされて。See? おかしな時代になっちまったよな。楽しみ方を全くわかっちゃいない"。
真面目にMCをしていたし、いってることも若干ボスが入ってはいるものの、的を射ているので頷いていたのだけど、"See?"はいけなかった。クスクス笑いが広がる。
そして、ラストの「愛するが故に私が出来る事」に。この日唯一の山彦フロウが聴けた曲で、まだまだ健在なのだなと嬉しくなる。結構クセになるから不思議。
1.ブラスト創刊
2.RECORD SURPLUS
3.400/Shing02(フックのみ)
4.MCバトルを観て思うこと
5.HIPHOP JUNKIE
6.freedom jazz dance
7.JAZZMATAZZ feat. YARMA
8.ブラスト廃刊
9.ありがとう。名無しの2チャンネラー諸君
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10.耳を貸すべきMC達
11.愛するが故に私が出来る事
キリコ、疲れて息を整えるの図
トリのキリコは圧倒的なライブだったし、その他のメンツもスタイルがかぶることなく己のスタイルを追求しているラッパーたちばかりだったので、それぞれの味を楽しめた。メテオは不幸だったかもしれないが、他人のハプニングは蜜の味で大いに笑わせてもらったし、SLYE RECORDSの面々の成長ぶりも確認できた。大阪のふたりは強烈だったし、群馬のYARMAとその仲間も熱かった。いいイベントだった。満足。