2008年12月17日リリースのセカンドアルバム。
簡潔に書けば、ラップはいいけど、トラックがダメダメ。これに尽きる。M8「道」で客演を交えた他は神門の真摯な思いが積み重なり、言葉の重みを知った上でのリリックは非常に胸を打つ。が、ほとんどのトラックを担当したDJ NAPEYがあまりにひどい。安っぽい上にださい。神門に合わせてメロディアスなトラックに仕立て上げたりもするが失敗ばかり。
だからラップとトラックが共に良かったのは、M4「○月×日」、M11「零時」、M15「成長IV」、M17「さて、どう生きようか?」だけだ。しかもM17は唯一DJナペイではなくDJ YOKOIが作った曲である。
彼のトラックメイクの失敗はM16「HERE IS HAPPINESS remix」によく表れている。ライブで聴いたI-DeAバージョンはすごく良かったのに、DJナペイバージョンでは同じリリックなのに自分がどこで感動したのかすら思い出せなかった。だからもしかしたら、いやもしかしなくてもトラックを差し替えたらもっともっと輝き出す曲が本作にはあるに違いない。
M1「表明」でいみじくも神門自身がヴァースでラップしているように"いろんな俺"が"散りばめられた"作品であり、ファーストアルバム『
三日月』よりも聴きやすくなっている。『
三日月』は恋愛という誰にでも分かりやすいテーマをコンセプトにしたアルバムだったが、そのテーマのみを扱っていたため次第に重くなっていったことも事実で繰り返し聴くのは大変だった。今作は風通しが良い。
2枚目を作り上げたラッパーとしての決意表明をした後、M2「異種混合書闘技ヘビー級」では周りの仲間を含め、大麻に溺れているラッパー、地位に安住している先輩に中指を突き立てる。極めて正論であり、普通そんなことをラップされても鼻白むものだけど、神門の場合その真摯さから思わず聴いてしまう。音が抜かれて、フロウがよれているのが分かっても、それがマイナスになるのではなく、エモーショナルに聴こえてしまうのは役得だろう。
曲説明のスキットに導かれて始まるのが、ギターのワンループの上で、何かを始めたい人の背中を押すM4。補足する必要もないと思うけれど、リリックの下のところにこの曲は押韻なしで書きましたという説明が載せられている。伝えたいメッセージがあり、それがビートの上にがっちり乗っていればラップになるという見本のような曲だ。
お金はあるにこしたことはないけれどというM5「金金かね?」、酒での失敗を描き、酔いにまかせてフックを下手に歌い上げるM6「酔言」。この曲での"サンキュ・ザ・ポリス"が実に神門らしい。M7「訴えるワタシ」はキリコの「ありがとう。名無しの2チャンネラー諸君」と同じく、2ちゃんねるを始めとしたネットでの批判に対する決意表明。なかなか興味深いが、キリコほどユーモアがないのは残念。"MCは商品ではない"けれど、人間であるMCが作った音源は商品であり、ネットに限らずどの媒体どの状況でやいのやいのと取り上げられても仕方がないだろう。
逮捕された仲間を励ますM8はアルバム唯一の客演曲。そのネスタは捕まった仲間と同じグループに所属する相棒であり、特にうまいわけではないけれど、ドラマがあるから涙なしには聴けない。"無理だなんて誰が決めた? 前例がないなら先駆者になる"というパンチラインが眩しいM9「頂み」では自分を奮い立たせる。
DJナペイの特徴ともいえる平板な音像のインスト(M10)を抜けた後は、鬱なリリックが全編を覆うM11。アルペジオをつま弾くギターのワンループトラックで、珍しくラップとトラックが噛み合う。しかし、こういうテーマを扱えるのが神門の強みであり、人としても強いところなのだろう。ラップよりもトラックが良いという希少価値のあるM12「→―→」。彼にとっては意味がある曲なのだろうが、ここではベースラインを聴いてしまう。続くM13「カーテン (四時九九分)」は歌うようなフロウというより下手な歌であり、ベースと和風の音を基調としたトラックに耳がいく。鬱を表現するなら直接的にいうよりも、ここでのトラックのようにもっと病んだ感じにすれば面白い。
前向きに生きよう、明るく生きようという自己啓発なM14「五時」。生真面目に胸の内を語るが、語りすぎな感がなくもない。でもそれこそが神門なのだろう。歌ものフックが珍しいM15はピアノメインのトラックとも相性が良い。外でもラップを始めたのが2005年6月11日ということはたったの3年でここまで成長しているわけだ。タイトルナンバーは"IV"だけど、この数字が大きくなるごとに今以上に良くっていくのかと思うと期待が高まるばかりだ。
本編はここまで。ボーナストラックとしてDJナペイリミックスの「HERE IS HAPPINESS」が16曲目に収録されいる。DJナペイのトラックとしてはまともな方だけど、オリジナルがいいだけに開きが大きすぎる。
スペシャルボーナストラックがM18「さて、どう生きようか?」。赤裸々すぎるからこそ、誰の心にも響くリリックが秀逸。神門の吐き出す言葉はいくら重ねても薄まることはなく、反対に説得力が増していく。"ギャンブルをしない俺が唯一したハイリスクハイリターンな博打 / オッズは「富」「名声」「幸せ」 ベッドはたった一つ「人生」"。8分27秒と長尺の曲だけど聴き入ってしまう。
秋口に
ダメレコの4周年パーティで神門のライブを見たとき、迫力に圧倒された。一瞬の言葉の破壊力、説得力ならIll-Bosstinoにも負けていないと思った(まあ彼の場合は長丁場のライブができて、しかもその間ずっと爆弾を落とし続けられるわけで、比べるのも何だけど)。人生を嘘偽りなくリリックにしてしまうラップは本当にかっこよく、たった20分ほどのライブだったのにしびれたものだ。そこではこのセカンドからの曲を中心に披露していたということもあり、本作には過度な期待を抱いていた。だからこそ、トラックのしょぼさには悔しさすら感じてしまう。ラップは悪くない。捨て曲も少なくなった。それだけに残念な印象が残ってしまう。SEEDAの『ROOTS & BUDS』のように誰かにリミックスアルバムを頼むのも一興かと。