86点/100点満点中
マーティン・スコセッシ監督によるThe Rolling Stonesのライブムービー。2008年公開作品。
2006年に行われたストーンズのスタジアムツアー「A Bigger Bang Tour」の真っ直中、10月29日と11月1日の2日にわたってニューヨークは「Beacon Theater」という1927年に元々は映画館として建てられが、現在はコンサートホールとして使われることが多い、キャパ2800人の小さな会場にカメラ18台を駆使して撮影され、ストーンズの魅力を余すことなく伝える作品。
いやぁ、すごい。そのひと言につきる。彼ら4人は化け物だ。デビューしてから40年以上、必ずしもずっと一線で活躍していたわけではないけれど、アルバムはもちろんツアーに出れば必ず話題になるバンドである。これを見ればその理由がよく分かる。いまだに、六十を過ぎた男たちの奏でる音がかっこいいのだ。
花道を突進してくるミック・ジャガーはイグアナにしか見えなかったり、キース・リチャーズは妖怪、あるいはおばちゃん化しているし、チャーリー・ワッツはもう老亀だ。唯ロン・ウッドだけはしわは確かに深くなったが、昔より今の方が男前なのが不思議。
でも音が、あのリフがならされた瞬間、そんな容貌の変化なんてものはすっ飛び、生音でもないのに体が弾み、気づくと腕がギターを弾くキースの決めポーズを真似ている始末。新宿武蔵野館という音環境の悪い映画館で見たのだけど、それでもリフの切れ味の鋭さ、歳月を積み重ねても色褪せることのない動きの溌剌さ、歌いたくなるメロディ、踊りたくなるグルーヴは直に伝わってきた。微動だにせず見ている人が信じられなかった。六本木で公開していたのかは知らないが、外国人が多めの劇場だったらもっとハイテンションの場内になって面白かったんだろうと思う。絶対「Sympathy for the Devil」ではフッフーってやってたはず。
ロックンロール。この言葉を文字通り体現しているバンドだ。ロックしてロールする。黒人が作り出す(まあ、ベースのダリル・ジョーンズは黒人だしね。彼も長いな)のと同種の粘っこいグルーヴが渦を巻いているのだ。その混沌に秩序とさらなる歓喜を与えるべくミックが華麗なダンスで煽り、時に鋭い視線で会場を確認し、一方でキースはグルーヴのスープをこれでもかとかき混ぜる。
最高のロックバンドだ。ビートルズも好きだけど、やっぱり続けたもん勝ちなのかなと見終わった今は思う。いつまでも転がり続けていることに対し、どれだけ批判されようと、この120分間に映し出されていた彼らは、彼らの音には説得力があった。
ライブ映像だけではなく、この企画の立案から本番当日まで繰り広げられた監督とバンド(というよりもミック)との意見の衝突や、昔のニュースフィルムを引っ張ってきてストーンズの軸がぶれていないことを明らかにするというドキュメンタリー的な側面もある。ミックがセットリストを監督に渡さず、開始ギリギリにモニターの前に座るスコセッシの元に伝わるシーンなど演出もあるのだろうが、面白い。笑い転げた。巨匠とも称されるスコセッシを一スタッフのように扱えるのはストーンズぐらいでは。当日のリハーサルの段階でメンバーが演奏する曲を知らないというのもすごい話ではあるが。
見所は全て。3組のゲスト──Christina Aguileraが結構歌えていたのに驚いた。ブリちゃんだったら大変なことになっていただろう。The White StripesからJack White。そしてBuddy Guy──はそれぞれ違う持ち味でストーンズの多様な側面を引き出していた。なかでもバディ・ガイとのセッションはハイライトのひとつ。強烈な歌声を披露するバディ・ガイに、ブルースハープのミック、キース、ロニーがステージの中央で音で会話するジャムには震えが走った。
私はデッカ時代から1974年の『It's Only Rock'n Roll』までと、60年代70年代のストーンズがよみがえったかのような1994年の『Voodoo Lounge』しか聴いたことがないライトユーザーなので、70年代後半から80年代の楽曲はほとんど知らないのだけど、古い曲も多く演奏されて楽しめた。一番ぐらいに好きな『Sympathy for the Devil』はイントロに音源のように鋭角的なギターのフレーズがなかったことだけが残念。残念ついでに書けば、「Jumpin' Jack Flash」や「Paint It Black」、「Honky Tonk Women」もやったんなら『Some Girls』収録曲を少なくしていいから入れて欲しかった。
※映画内で演奏された曲リスト(ほとんどの楽曲は2日目の11月1日の映像らしい)
1.Jumpin' Jack Flash (『Through The Past, Darkly (Big Hits Vol.2)』1969)
2.Shattered (『Some Grils』1978)
3.She Was Hot (『Undercover』1983)
4.All Down the Line (『Exile On Main St.』1972)
5.Loving Cup (with Jack White) (『Exile On Main St.』1972)
6.As Tears Go By (『December's Children (And Everybody's)』1965)
7.Some Girls (『Some Grils』1978)
8.Just My Imagination (『Some Grils』1978)
9.Far Away Eyes (『Some Grils』1978)
10.Champagne & Reefer (with Buddy Guy) /Muddy Watersのカバー
11.Tumbling Dice (『Exile On Main St.』1972)
* Band introductions
12.You Got the Silver (lead vocal by Keith Richards) (『Let It Bleed』1969)
13.Connection (lead vocal by Keith Richards) (『Between The Buttons』1967)
14.Sympathy for the Devil (『Beggars Banquet』1968)
15.Live with Me (with Christina Aguilera) (『Let It Bleed』1969)
16.Start Me Up (『Tattoo You』1981)
17.Brown Sugar (『Sticky Fingers』1971)
18.(I Can't Get No) Satisfaction (『Out of Our Heads』1965)
19.Shine a Light (audio only) (『Exile On Main St.』1972)
※実際のセットリスト
<Sunday, October 29, 2006>
1.Start Me Up
2.Shattered
3.She Was Hot
4.All Down The Line
5.Loving Cup (with Jack White)
6.As Tears Go By
7.I'm Free
8.Undercover of the Night
9.Just My Imagination
10.Shine A Light
11.Champagne and Reefer (with Buddy Guy)
12.Tumbling Dice
13.You Got The Silver
14.Little T& A
15.Sympathy For The Devil
16.Live With Me (with Christina Aguilera)
17.Paint It Black
18.Jumpin' Jack Flash
アンコール
1.(I Can't Get No) Satisfaction
<Wenesday, November 1, 2006>
1.Jumpin' Jack Flash
2.Shattered
3.She Was Hot
4.All Down The Line
5.Loving Cup (with Jack White)
6.As Tears Go By
7.I'm Free
8.Some Girls
9.Just My Imagination
10.Far Away Eyes
11.Champagne & Reefer (with Buddy Guy)
12.Tumbling Dice
13.You Got The Silver
14.Connection
15.Sympathy For The Devil
16.Live With Me (with Christina Aguilera)
17.Honky Tonk Women
18.Start Me Up
アンコール
1.Brown Sugar
2.(I Can't Get No) Satisfaction