何気なくらっぷびとのブログを見ていたら、このイベントの案内が出ていて、SUIKAのATOMに、TAK THE CODONAの新しいグループ・呪煙 a.k.a JUGEMが出演するとある。しかも体に優しいデイイベント。これは行くしかないだろうと止める声を振り捨て足を運んだ。
18時41分過ぎに「family」に到着し、階段を下り重い扉を開けるとすでに第1部のライブは始まっていた。学園祭レベルのラッパーが声を張り上げていた。
【YOSROMANTIC】 18:46~19:07
中学2年生の頃からラップを始め現在27歳という、町田を拠点に活躍するラッパー。キャバクラ嬢に恋をしたり、ラッパーを恋人に持つ女性の気持ちを歌ったり、当人は変わったテーマを扱っているつもりのようだが、如何せんラップが拙い。最後の曲で客演したふたりのうち、帽子の方の彼の声は好み。身内の団結が強いらしく、不思議なほど盛り上がっていた。
【KAPPE (PIGEON)】 19:08~19:51
DJタイム。PIGEONというグループのこのDJは直前に出たYOSROMANTICのバックDJも務めていて、同じ町田出身。日本語ラップを中心に流し、途中で挟んだサザンオールスターズの「愛の言霊」でフロアは大盛り上がり。"B"な格好をした"ヘッズ"も熱唱。気持ちの良い光景だった。PIGEONを知らなかったので検索してみたら、町田の氣志團だったので音も聴かずにとりあえずウィンドウを閉じた。
【Pentaphonic】 19:52~20:11
ヒップホップ版RAG FAIR。揃いの衣装で決めた4MC1DJのグループで、これも初耳。結構な勢いでフロアが沸いていた。そのことよりも、DJの女性が爪を黒く塗っていたことに、自分の狭量なヒップホップ的価値観を気づかされ、動揺した。
【らっぷびと】 20:12~20:31
ようやく知っている名前のラッパーが出てきて、ひと安心。
以前見た渋谷VUENOSでは会場の音の悪さも手伝って、あまりいい印象を持たなかったが、今回のfamilyではそれほど下手だとか声量がないだとかは感じなかった。あれから音源を何枚か出してライブを多くこなすようになったのが良いように作用しているのだろう。
ただし、リリック自体に面白味がないのは変わりようがないわけで、好みか好みではないかに分ければ圧倒的に後者に向かう。
音が軽いのがラップの技術以上に気になった。もともとクラブやライブハウスで聴かれることを想定していないトラックなのかもしれないが、鳴りが貧弱でライブならではの低音が希薄すぎる。でも、それはらっぷびとに限らず、これまで出ていたグループ全部にいえることではあるのだけど。
1.INTRO -Start up-
2.Rap Music 2009
3.high-technology
4.basic stance feat. 普通/FUTOO
5.人として軸がぶれているらっぷ
6.OUTRO -オトマビキ-
【ATOM (SUIKA)】 20:32~20:47
アトムのソロでのライブは初めてで、どういう音を出すのか想像もつかなかったのでかなり楽しみだった。
DJブースに立ったアトムは、
先日のFlying Booksでも披露していた天狗の歌で始める。前回と同じようにアカペラ。ちょうど高尾では天狗祭りがあったらしい。この日もレッドウィングを履いた彼は空を歩いていた。
続いて自らCDJをポチッと押すと流れ出してきたのは、BPM早めのブレイクビーツ。こう来るのかという軽い驚き。でもレイヴ好きな人に受けそうな音であり、どこか納得できた。そのビートの上に、完成品といえるリリックから、スイカの「ピクニック」から自分のヴァースだけを抜き取り、巧みにグルーヴを編み上げていく。
最後のMCで、"ソロライブとしてがっつりやるのは生まれて2回目"と話していて、えっーてなものだった。もちろんSpritual Juiceやスイカでのライブは数え切れないぐらいやっているのだろうけれど。もったいない。アトムのスタイルは独自で、硬直しがちな日本語ラップの中で不思議な浮遊感と自由度を持ったラップであり、希有な存在なのだからもっと絡めば面白くなるのに。それより何よりまず作品としてまとまったものが聴きたい。
最後はMySpaceにもアップされている「image」で終了。
【呪煙 a.k.a JUGEM】 20:48~21:10
894はフリースタイル気味のラップで始め、TAK THE CODONAは持ち込んだカホンを叩きつつ、ゆるくゆるくスタート。
1曲目の「撲殺チェーンソー」のタクザコドナ・ヴァースが始まると途端に場が張りつめる。タクザコドナの特徴のある鼻声と明瞭に聴き取れるリリックに耳を奪われた上に、耳の奥のツボまで刺激してくれるラップはソロでもグループでもやはりすごい。
このグループでは基本的にゆるさを担当するのが894のようで、ASTROでのラップが良いと思ったことはこれまで一度もないのだけど、今回のようなズブズブしたトラックでのラップはタクザコドナとの対比もあり、味になっている。
どの曲も良かった。
ミックスアルバムで聴けた新曲も悪くなかったし、4月にリリースされるアルバムは期待大だ。
ああ、そうそう、DJのDELMONTEがやけに男前で驚いた。KREVAのあの目立つエラを削り、シャープにした顔立ちで、キリッとした眼差しの持ち主だった。
1.撲殺チェーンソー
2.ハンティングワールド
3.Metalic Heart
4.Crazy For You (?)
5.?
6.呪煙の穴
7.?
8.補助輪
(アルバムが未聴で題名とリリックからの連想なので結構間違っているかも)
【SHOTO (Nu:Essence) & ECCY】 21:11~21:56
SHOTOというDJが最初回していたが、やがてECCYが現れてふたりで回し始める。スピーカーの性能を試すかのようなECCYの音はビートの質がどうとかではなく、前半のまだるっこい音圧を吹き飛ばす爽快さがあった。
haiiro de rossiのまだ聴いたことのない曲を2曲ほどかけていて、フックに"ニューエイジアン"と歌われる曲はラップそのものはこれまでのハイイロデロッシなのだけど、男性のソウルフルなボーカルが入ったトラックが心地良かった。
【Nu:Essence】 21:57~22:17
このグループも初見。たいていのイベントは目当てのアーティスト以外で大当たりに出会すということはないのだけど、これは久し振りに当たりかなと思えるグループだった。
Cigerという1MCに、EichiとSHOTOというふたりのDJ兼トラックメイカーによる3人組で、この日はEichiが不在だった。ファーストアルバムを2月に出したばかりだという。仙台出身で今は東京で活動しているらしいのだが、GAGLEの影響を色濃く感じる。特にCigerのラップスタイルはところどころでHUNGERになる。ただ、影響からの脱却も意識しているようだし、何より日常を切り取るタイプのリリックがとても自然でいい。
1MCということもあり、たった20分間なのにフロウの単調さから中弛みが感じられるところもあったが、SHOTOの叩くMPCをバックに吐き出した荒々しげなフロウなどもあるようだし、構成次第でもっと楽しめるラッパーだと思う。
リリックに対して、音に対して、フロアに対しても、真摯に向かい合う姿勢が伝わってきた。
【Ritzzz (闇鍋)】 22:17~22:27
飛び入り参加の奈良のラッパー。何でも闇鍋というグループのMCらしい。次がトリというところに飛び込んできた空気の読めなさもさることながら、それでもこちらが唸るほどの技術があれば問題なかったわけだけど、残念なことに東京の人の冷たさにかわいそうなことになっていた。劣化版Shing02。でも彼にはフォロワーらしいフォロワーがいないわけで、リリック面でしっかりすれば面白ことになるかも?
【シマダカズユキ】 22:30~22:44
EccyとあるぱちかぶととでThe Reservoir Voxxというグループを組んでいるシマダカズユキのライブ。名前の知らない相棒との2MCスタイルでいきなりノイズ責め。楽器を与えられた子供が無邪気に鳴らすノイズであり、そこに既存のヒップホップを壊してやろうとか再構築してやろうとかいう意思が感じられず、ただ面白いからという自慰行為にしか思えない。ノイズに美しさがないのが致命的。こういうのはスタジオか自宅でそっとやって欲しい。最後の最後でまともなラップを披露していたが、できるなら最初からやればいいのに。
イベント自体は終始盛り上がりを見せ、インディーズ色に偏ることのない硬軟織り交ぜたい出演陣は、好みを別にすれば非常にバランスが取れたものだったし、思わぬ発見や新たなアーティストを知ることもでき、大いに楽しめた。