自然体女性ラッパーCOPPU主催の「ナガレ」に行ってきた。0時58分、フロアに降りていくとまだDJタイムで早く着いたようだ。ビールを調達した後に聴くともなしに聴いていると、般若がかかり、続いてTOKONA-Xときて、KICK THE CAN CREWの「マルシェ」と繋いでいた。軽い驚きを味わう。そのままRIP SLYMEの「FUNKASTIC」〜「楽園ベイベー」といって、何か忘れたけど1曲挟み、DA PUMPのだいぶ古い曲を流していた。ずいぶんと自由な雰囲気だった。
さてさて、ライブの1発目はS.L.A.C.K.から。参考にしている日本語ラップブログでもかなり好意的に書かれていて、気になっていたラッパーではあった。ただ、ジャケットが自由すぎて購入意欲が湧かないのだけど。
【S.L.A.C.K.】 01:21〜01:38
白い無地のTシャツにベースボールキャップをかぶった小柄なMCが出てきて、ダレ気味にラップを始める。中学や高校だったならばさしずめ"学校行事なんてかったるくてやってられっかよ"タイプだ。年季の入った反抗期を楽しんでいるよう。ラップは何をいっているのかほぼ聴き取れない。音源は評価されてもライブ自体はアマチュアレベル。菅野美穂がどうたらというラインだけは辛うじて記憶に残っている。
我慢して聴いていたのは、バックDJを務める実兄punpeeが時に裏声のコーラスを入れたりしながら楽しげに音をいじくっていたから。トラックも全てパンピーに任せているのかは知らないけれど、ボトムの重い曲が多く、その点では楽しめた。
ああ、そういえばどうにも邪魔な助太刀ラッパーがひとり加わっていて、なんでも明朝早くからバイトが入っているにもかかわらず来たのだいう。何と迷惑な話だろう。
【EI-ONE】 01:39〜01:51
彼のライブを見るのはかれこれ3回目ぐらいだけど、うまいラップをすると毎回感心させられる。だみ声なんだけど、フロア中に響き渡る声で、リリックも聴き取りやすいし、音にも乗っているし、何よりライブならではの熱さがステージから放射されているのが分かる。でも、何か新しい表現を模索し生み出すタイプではなく、器用貧乏のイメージを拭い去ることができない。パーティには欠かせないラッパーだとは思うけど。
【COPPU】 01:52〜02:12
コップのライブを見るのは初めて。足元は可愛らしくビーズの付いた金色のバレエシューズタイプの靴、ブルージーンズ、黒のパーカー、中はTシャツ。当然ヘソ出しなんてなし。髪はそっけなくポニーテールにまとめて、ただ私のラップだけを聴いてスタイルだ。6月中旬に出るミニアルバムからの曲を中心にライブをしていたのだけど、正直ビートには乗れていないし、言葉の選択にハッとさせられることもない。日記の延長のようなリリックを真摯に吐き出し、ひとりひとりに届かせようとしている姿勢には好感が持てた。これはこれでアリなのかもしれないとも思った。
再びDJタイム。今度はDJ 49。硬派な日本語ラップを中心に回していて、途中で何を思ったかbonobosの「THANK YOU FOR THE MUSIC」を流した。音楽ファンのアンセムと思っていたが、さにあらずのようで誰ひとりとしてハンドクラップをせず、戸惑った表情を浮かべていたのが印象的。ドン・ドン・パ、ドン・ドン・パってフェスなら絶対にすごいうねりになるはずなのに。最後に流していたBUDDHA BRANDの「DON'T TEST DA MASTER」が一番盛り上がっていた。
【降神】 03:11〜03:54
そしていよいよ真打・降神の登場。まずDJがひとりだけ出てきて、テクノっぽい音を繰り出す。闇がしだいに深まっていく(単に照明が落とされただけともいう)。DJが音を鳴らし始めて4分が過ぎた頃、ステージ左手よりなのるなもないが姿を現した。
パフォーマンスをしているのは分かるのだが、内容までが伝わってこない。なのるなもないの魅力のひとつ、深く豊かな声が影を潜めている。以前に比べれば最近は頻繁にライブをしているようだけど、どうしたのだろう。うねるように絡みつくように言葉が吐き出される曲だっただけに、存分に彼の声と言葉を浴びたかった。
右手から志人が現れ、鳴り渡るのは「EUFORIA」のイントロ。志人は安定した声で安心する。
いつも通りアカペラでのふたりのやりとりを経て、水の音に導かれて始まったのは初めて聴く曲。志人は冒頭で歌う。"ねぇ忘れてしまったことばかり この星を置いていくのかな"。トラックはひたすらシンプル。浮遊感のあるキーボードと水音、リズムを置くためだけのビート。しかし、"いつか地球になる前に いつか宇宙になる前に いつかひとつになる前に"とフックで歌われるように、その上に乗る言葉は徐々に壮大になっていく。メロディのある"歌"が曲をほぼ占め、またふたりの歌い方のせいかどことなくTHE BOOMを彷彿とさせた。最後は、"浮かび上がるたまゆら"で終わる。
【追記】2013.11.22
この曲は「アイオライト」。
4曲目の「今此処 〜Here Now〜」は志人の今月頭に発売された
シングルのカップリング曲だが、それほど高速ラップに思えないのだけど、どうも舌がもつれている印象で言葉をファンブルし続ける。志人には珍しい。パフォーマンスしにくい曲なのか。
"ムカデに、トカゲ、木陰に隠れて おしゃべり土砂降りの雨が止んだら 〜"とアカペラで歌い上げるなのるなもない。張りのある太い声が戻ってきた。
短いアカペラに続くのはまたしても新曲。最近のふたりにしては主義主張がそれほど強くなく、"海帰りの体に心地良いよ 海と風の匂い"などどこか郷愁をかき立てるリリックが続く。なのるのもないの"大人になったな坊主 昔はこんなに小ちゃかったんだぞ"のラインは志人っぽさがある。とても短い。
間髪入れずに和のテイストがやや強めのシンプルなトラックの新曲が始まる。もしかしたら上と一緒の曲なのかも。TempleATSのトラック陣のセンスの良さを実感できる。"寂しいと悲しいが襲ってきたけど 嬉しいと楽しいを思い出して追い出した"というなのるなもないの一節はパンチライン。志人は"発電所が建つんでしょ"とあるように最近のモードである自然志向がやや顕著に。
次は、ライブでは必ずといっていいほど披露されるJemapurの「Birds Sanctuary」を使った曲。小鳥がさえずり続けるトラックで、いい加減曲タイトルを知りたいものだ。たたみ掛けるように歌われる"風がそよぎ草は踊る 春の夜に〜"のところで、なのるなもないが再び苦しそうに声を出す。もしかして体調が悪かったのか。
8曲目は中野で志人の
ソロライブを見たときに13分と長尺バージョンでやっていた曲。最初に、"どの時代も人類が憎しみ合い殺し合いを止めないのは望みがない 〜"という演説で始まる。今回はなのるなもないのヴァースも入ったバージョン。昨年のGeshi Fes.でもやっていた(自分の
過去記事を見て確認)けれど、あの時もふたりバージョンだったのかな。フックは、"踊ろうよ 全ての命と 望もうよ 壮大な世界を 誇ろうよ 後悔のないよう この世は君が主人公"。
締めはお馴染みの「帰り道」。最後はなのるなもないの"さよならはいわずにまた会いましょう"で終了。
久し振りの降神のライブだったのでかなり楽しみにしてはいたのだけど、先日の高円寺で行われた志人のソロライブの評判を聞いていたので、戦々恐々な気持ちもあって、不安と渇望が渦巻いていた。でも始まってしまえば、いかにも降神としかいいようがない独特のパフォーマンスと空気感に圧倒され、また志人の環境保護・平和希求のメッセージはなのるなもないがいることである程度中和されていたようにも感じた。ただ、そのなのるなもないが本調子でなかったのが残念。いつもパーフェクトに近いライブを見せる降神なだけに非常に珍しい事態だった。
初めて聴いた曲もあったし、アルバム1枚分ぐらいはもう余裕でたまっていると思うのだけど。オリジナルアルバムが難しいなら、曲間のアカペラもしっかり収めたライブアルバムを出して欲しい。切に願うよ。
降神とは関係ないが、DARTHREIDERが降神のライブ中ずっとしゃべり続けていたのが迷惑だった。後輩だか知り合いだか知らないが、その彼がダースレイダーの知り合いのダンスの先生の教え子においたしたことに、それはどうなんだと説教まがいの口調で話し続けていたわけだ。まあ、クラブが彼らにとっての職場であり社交場だということは分かるけど、込み入った話は外でやって欲しい。せっかくのすばらしいライブが披露されているのだから敬意を払うべきだ。
1.新曲 / なのるなもない
("人生は待ったなし"、
"誰もが止まらない列車の中")
2.EUFORIA / 志人
3.アイオライト / なのるなもない with 志人
4.今此処 〜Here Now〜 / 志人
5.新曲 / 降神
6.新曲 / 降神
7.?(Jemapurの「Birds Sanctuary」)
8.新曲 / 降神
9.帰り道 / 降神
【CHIYORI】 03:57〜04:23
何回かライブを見ているけれど、毎回思うことはひとつ。声がうるさい。表現力なんていう高い次元にはまだまだ到達できず、声を張り上げるものだから耳を塞いでやり過ごすしかない。ただ、トラックがとても良い。行きの電車の中でSLUM VILLAGEの2枚目を聴いていて、ひとつひとつのビートにこれほど表情を付けられるのかと感嘆していたわけだけど、彼女の「悲海」を聴いていると、それに近いことができていて、彼女を取り巻く環境の良さに感心してしまう。