2009年11月11日リリースのサードアルバム。
ファーストアルバムの『
HELL me Tight』、セカンド『
Hell Me WHY??』に続く、3部作の完結編。情けないことにリアルタイムで聴く初めてのアルバムとなったのだけど、驚くほどの傑作で慌てた。最近、傑作傑作ばかり書いているので、自分でもいい加減とは思うが、これまでの強烈な2枚の良盤があるにもかかわらず、それを上回る出来なのだから、傑作といわず何と評すればいいのか分からない。
アルバムジャケット(今年一番のかっこよさ)を見ても一目瞭然なように、分かりやすく変わったのは音の明るさだ。ビートはしっかり低音を維持しているが、その上に乗る音の風通しが格段に向上し、派手さも増した。
音にこれまでのアングラ臭が薄れたのは、ラップするテーマがより広がったためだろう。最も顕著なのが社会批判・政治批判の度合いを強めたM6「銃口の向う」であり、曲に込められたメッセージに入り込みすぎて時にフロウが破綻しかかるほどだ。子供ひとり救えない社会や政治、宗教に憤り、返す刀でメディアをも、"事実を歪曲せずに伝えろ グロテスクな現実を見せろ"と切り捨てる。K DUB SHINEに代表される紋切り型の社会批判は時々耳にするが、Shing02を彷彿とさせる冷静な視点からのこうした曲を久しぶりに聴けたのは嬉しい。
これまでの2枚のアルバムがそうであったように、多数派に付くのではなく、少数派であることを貫く姿勢は本作でもはっきりしていて、中でもM3「A.K.Y」での"KY(空気読めない)"を皮肉るラップは痛快だ。EVISBEATSによるストリングスの入ったフックと、ルミの毒々しい可愛さが相まって、ついつい口ずさんでしまう。
M6で最大限に尖らせたトゲは次のM7「a tiny song for my friend -SKIT-」で一旦落ち着きを取り戻す。とはいえ、ピアノだけを伴奏にシンプルなメロディを切々と歌うこの曲は森田童子そのもので、M3のように"inspired by"とでも入れなくていいのかなと心配してしまう。ただ、彼女がもともと持っていた祈りは森田の曲に宿るものと似た色合いを秘めているので、はまりすぎの曲となっている。
続くM8「サボテン」はM7の発展形。アルバムの終盤は三十路となった自分を自嘲気味にラップしたり、あるいは吹っ切れた心境を表明したりと自分語り的な要素が強くなるが、そうした年齢や経験の積み重ねから生まれたリリックやある種の悟り、他者への優しさといったものがこれまで以上に強く表現される。
トラックが明るくなったからといって、それはセルアウトと安易に切り捨てられる次元の曲ではなく、ラップ自体はこれまでよりもタイトかつ押韻を意識したものになっている。また、音自体の明るさ以上にポップさを際立たせているのが歌メロだ。そのおかげで、普段からラップを聴き慣れていない人でも多分受け入れやすくなっていると思う。文章もそうだけど、難しいことを難しいまま書くのはとても簡単だが、難しい事柄を分かりやすく記述するのは難しい。本作に貫かれた彼女の信念はこれまでと何ら変わらない。
1作目が特にそうだったが、内向きにこもりがちだった表現はアルバムを重ねるごとに分かりやすさが増し、外に開かれてきた。そして巧みに自分の核を伝えられるようになった本作では受け手と正面から向き合うルミがいる。傑作アルバムでしょ。
【追加】2010.01.18
・インタビュー
<CDJournal.com>
http://www.cdjournal.com/main/cdjpush/rumi/1000000357
このインタビューは面白かった
<wenod>
http://www.wenod.com/shop/special/hellmenation/hellmenation.html
<TOWER RECORDS>
http://www.bounce.com/interview/article.php/5610/ALL/
<Amebreak>
http://amebreak.ameba.jp/interview/2009/11/001148.html
昨年のULTIMATE MC BATTLE東京予選・決勝のエピソードがかわいい。
オフィシャルHPにある『Hell Me NATION』の特設サイト。曲解説あり。
http://www.pop-group.net/rumi