2010年4月21日リリースの5枚目のアルバム。
/5点中
前作『音楽の子供はみな歌う』をどういうわけかスルーしてしまい、ずいぶんと久しぶりのサンボマスター。彼らのすばらしさに変わりはないようだ。迷いもない言葉と音は力強く胸に迫る。スピーカーの前の聴き手はもちろんのこと、世界中の誰も彼もをも奮い立たせようと意気込むまっすぐさはひたすらまぶしい。ブルーハーツがかつてそうだったように、率直に自分の気持ちを歌う山口隆は、落ち込んだ人間を包み込むライナスの毛布のようであり、メソメソするな全力で蹴飛ばしてくれるありがたいキックだ。
そんな山口がM1「ラブソング」でいきなりむせび泣く。ストリングスが導入されたこのはかない失恋歌は昨年の
シングル曲でもあり、どうして爆発的ヒットにならなかったのか本当に不思議な曲だ。サザンオールスターズのラブソングのごとく個人的であると同時に深い共感を呼ぶ歌詞があり、親しみやすいメロディもあるのに。そんな曲を頭に持ってくるのは何ともずるい。
M1と同じくM5「僕の好きな君に」もまた"美しすぎた人"に向けて歌われる。アコースティックギターによる弾き語りから中盤から加わるバンドサウンド。その構成も良いのだが、メロディの良さと歌詞の切なさのおかげで6分と長尺なのに飽きがこない。
いつまでも泣きっ面なのは似合わないとばかりに、続くM6「愛とは 愛とは」では、"待ってたぜトラウマたち お前を返り討ちにすんぜ"と威勢良く叫び、"愛とは 愛とは 悲しみにくれることじゃないよ"とサビで歌い上げる。輪郭のはっきりしたメロディに元気いっぱいの山口のボーカル、小手先のテクを省きコンパクトにまとめた演奏。もっともっと評価されても良いバンドだ。
悲しみを振り切って走り出した彼は、次曲M7「君を守って 君を愛して」で、"僕はそばにいたいんだ 君の涙を全て 受けとめる"と人の悲しみも受け入れようとする。
彼らは本作で何度も何度も"愛してる"と歌う。山口の熱の入った声は、その種のことを歌われるときに伴う胡散臭さを一瞬で吹き飛ばす。愚直に歌われる"愛"という言葉や行為がどれほど尊くはかなくもろく守っていかなければいけないものなのかよく知っているからだ。
一概にロックやポップスとラップミュージックを比較することはできないが、前者よりも言葉を多く駆使するラップはなぜ愛や恋を正面から捉えることができないのか不思議に思うことがある。こと恋愛に関してサンボマスターと同じぐらいまっすぐに表現できる日本人ラッパーは神門だけだ。恋愛をラップするなんてチャラチャラしているというどうしようもない風潮があるのだろうが、サンボマスターや神門を聴けば、自己の確立をテーマにするのと同じぐらい大切な題材だと気づくはずだ。
失恋の痛手から立ち直ったはずの山口は、M9「スローなディスコにしてくれ」で"あの日の思い出 どこに捨てたらばいいだろ"と再びのたうち回る。"You so beautiful beautiful beautiful"。これだけ美しすぎると連呼されると、どれほどきれいな人だったんだよと興味も湧くが、別れたその恋人にとってみても悪い気はしないだろうし、縒りを戻そうかしらと思い直しそうだ。
"あなたの傘になりたかった"と歌うM11「傘にさせてくれ」を最後に美しすぎた人への想いを断ち切り、最後の2曲では片想いを歌い、好きな君と一緒にいたいんだと上向きな曲で終わる。aikoの新作『
BABY』も本作と同じように別れを引きずる歌詞に彩られていた。あちらは最後までトンネルを抜け出られなかったのと比較すると本作にはかなりの救いがある。
音の足し算をほとんどせずにスリーピースバンドとしてそのままの音で体当たりを続けている彼らは"愛"というかなり陳腐に思える言葉を大真面目に歌うことのできる数少ないバンドだ。アルバムを5枚出してもいまだに色褪せていないことが嬉しい。