BBOY PARKの2日目。14時過ぎに野外音楽堂エリアに到着すると、Mummy-D似の声が聞こえてくる。オオッとなりステージに駆け寄ると、ちょうどMELLOW YELLOWが盛り上げているところだった。
【MELLOW YELLOW】 〜14:13
ダンサーを従えての賑やかなステージ。MELLOW YELLOWは一度も作品を聴いたことがなく、KOHEI JAPANといえばどうしてもソロアルバム(とはいっても、
サードと最新作だけど)のイメージなわけで、その彼がパーティラップをしていることにどうも違和感を抱いてしまう。ベタ足の彼のラップはしっとりとした感情を歌い上げてこそはまるように思う。
最後にメロウイエローの活動休止を宣言したが、近くにいた女性ファンがいみじくも真理を突いた。"休止していたようなものじゃん"。
【ラッパ我リヤ】 14:14〜14:27
山田マンとQのふたりが力業で観客を沸き立たせた。もちろんキャリアや知名度の高さもあるのだろうけれど、ふたりがステージ上で作り出したラップの嵐がそのまま観客を巻き込んでいく様は圧巻。DJ TOHSIが繰り出すビートも鳴りが良く、嫌でも体を弾ませる。
1.YEAHと言え
2.ヤバスギルスキル
3.Do the GARIYA thing
【PRIST】 14:27〜14:38
今年のBボーイパークの傾向のひとつに、若手の出演が少ないことがある。そんな中で、PRISTが出るというのは大きな楽しみだった。アメリカではやりのトラックにラップを乗せた無料ダウンロード曲やフリーミックステープをコンスタントに発表し、さらにはビートへの日本語の乗せ方を格段に進化させているAKLOやKLOOZを筆頭にした新世代ともいうべき若手のひとりだからだ。
1曲目は挨拶代わりに自分の名前を連呼する曲で、続いてSEEDAの「花と雨」と同じのテーマの曲、最後の3曲目は、「サイコロ一家」の仲間でもあるクルーズと共に、Young Moneyの「Every Girl」のトラックを拝借したリミックス「Every Girls」を、ミニスカートからパンツを見せ見せ踊るおねえちゃん3人を引き連れて披露した。
アクロは最新曲「2.0」でこんなラップをしている。"つまり内容以前に できないのかな ラップ 自然に / そろそろマジで気づけ リズム感ない奴に投げろ手裏剣(略)誰か作れよマイク・ライセンス 基準はリアル なおかつハイセンス"。
プリーストはフリーDL曲を聴く限りではその"マイク・ライセンス"を所持しているラッパーに思えたのだけど、実際のライブを見てみると、初の大舞台で緊張し、100%の力を出し切れなかったのかもしれないが、新世代とくくれてしまうラッパーに特有のビートの上で遊んでいるような自由さを感じなかった。一方でクルーズは音源通りの柔らかさがあり、それを確認できたのには満足。そのクルーズのフリーミックステープ『NO GRAVITY』に収録されていた「Every Girls」はもともとアクロも参加していた曲で、できれば揃い踏みしたバージョンを見たかった。
【ICE BAHN】 14:39〜14:52
去年のBボーイパークではサブステージが設けられ、そこでもライブショーケースが行われた。メインに負けず劣らずの熱いライブが繰り広げられたが、そのステージに立ったグループで今年の舞台を踏めたのは、どういう基準で出演が決まったのかは知らないけれど、彼らだけだった。
このグループは韻の固さに定評があるが、リリックを知らないと楽しめないなと実感した。何いってるのかさっぱりだ。昨年のサブのような小さな所の方が本領発揮できるタイプに思えた。
1.CHECK RAVE
2.JACK HAMMER
3.足跡
4.クラウチングロケット
5.POKER FACE feat. TSUBOI
【DJ SARASA】 14:53〜15:00
DJ YUTAKAに、"めっちゃファンキーなDJプレイ"をする女性DJと紹介されてのスタート。
会場をぶらぶらする。さすが日曜日ということなのか
昨日よりも賑わっていた。ビールで水分補給するも、飲む端から汗となって流れ落ちてしまう。
【DAG FORCE】 15:01〜15:12
昨日は司会を務めていたDAG FORCEが今日はラッパーとして登場。アーティストとしての一面にはあまり興味が湧かないので、再び会場をぶらぶら。
【SHIZOO】 15:12〜15:21
トラックは派手で分かりやすく、ダンスミュージックとしてはしっかり機能し、体が自然と揺らされる。けれど、その音の上に乗せられたラップはこもり気味で単にリズミカルに音を発しているに過ぎない。彼である必然性を感じさせない。似た声の人が適当にビートに合わせて声を出していれば分からないだろう。
【MUNARI】 15:22〜15:37
この日のためにニューヨーク・ハーレムから帰ってきたというMUNARIが、ちょっとした機材トラブルの後に、セルフプロデュースの曲を軽く回し、すぐにPIT GOb登場。
1曲目は「渋谷のコンビ」。盟友"MUNARIに押された背中"といった決意の言葉が並ぶ。"もう後戻りはできないから"のラインはあの事件を思い出させる。力士・若麒麟と一緒に大麻の共同所持で現行犯逮捕。約20日間の拘留の末、嫌疑不十分の不起訴処分に終わったとはいえ、全国ニュースになり、社会的にレッテルが貼られてしまった彼だからこそ悲壮感を伴いつつも力強い言葉となった。
2曲目の「2度は書けないリリック」では、重苦しい現実を綴りながら、"ホントの自分さらけ出せ!"とまだまだ上に行くことを諦めていない姿勢を見せた。
古典的ヒップホップリアルストーリーはここからに佳境にさしかかる。
3曲目はBボーイパークのような大きなステージに立てるまでになったのはD.Oがいたからこそと、その感謝の念を歌った「DEAR D.O」。
2ヴァース目で、"D.O、お前の時代は過ぎ去った あの出来事と一緒に飛んで空に散った"とラップし、ずいぶんとまた踏み込んだことを歌うんだなと思っていたら、さらにたたみ掛けた。"超えるのは簡単じゃない。止まらない次は俺の番 *** ゆっくり休みな"。いい切ったなぁと思ったところで、なんと真打ちD.Oがおねえちゃんや仲間を伴って登場。
3ヴァース目を担ったD.Oのラップは幾分声に張りがないように思えるも、鼻をつまんでラップしているような独特な発声は健在。
"何も変わってねーぜ、俺は!くたばるまで俺はラッパー!今後どんなことが起ころうが つーかくたばっても俺はラッパー!"。長野のラップマシーンに聞かせたいパンチラインだ。
曲の終盤でのピットゴブとD.Oの掛け合いでは、ソロパートでは一部聴き取れないところもあったD.O節がついに炸裂した。"コカインでパくられた奴の話なんて誰も聞きたかねぇぜ"。"関わりたくねぇ関わりたくねぇ 口に出さないが、みんな思ってんだろ!"。ここはというところで飛び出すキャッチーなフレーズの数々。
"犯してきた罪と***の分、ライムして償います神様"。最後の最後で見事に場をかっさらった。ステージを去るときには、"Bボーイパーク、最後まで遊んでいきやがれメーン!"。そんなに好きなラッパーではないし、客演でのラップしか聴いたことないけれど、どうも憎めない。
さすが真打ちといった存在感を示したD.Oだったが、ピットゴブもこれほどやれるのかと思わせるパフォーマンスだった。昨年のあの事件まではD.Oのバーター的ラッパーという認識だった彼がヒップホップらしく逆境をひと皮剥く契機に変えたのは見事だ。
1.渋谷のコンビ
2.2度は書けないリリック
3.DEAR D.O feat. D.O
【晋平太】 15:38〜15:52
タイトなフリースタイルで始めた晋平太は声が強いし、どんなに早口でもリリックが聴き取りやすい。つまり実力はあるのだけど、楽曲となると途端に言葉の輝きが失われてしまう。それと、アイドルではないのだし、ミュージシャンに顔の造作は関係ないことは分かってはいるが、実際に顔を見てしまうと同情せざるを得ない。それを逆手に取ってのリリックなり曲の世界観があれば、話はまた別なんだろうけれど。でも、それなりに盛り上げていたのも事実。
【HAB I SCREAM】 15:52〜16:04
HAB I SCREAMが、SOUL SCREAMを1997年の段階で脱退したSHIKI(ハブアイスクリームとは十六からの付き合いだという)と共にステージに立つという情報は事前にTwitterで出回っていたものの、そのシキが車椅子姿でハブアイスクリームに押してもらい登場したのには驚いた。
とはいえ、マイクを握れば立っていようが、座ったままでいようが同じなわけで、相方のハブアイスクリームに比べれば声量はさびしかったが、ラップのキレは昔の音源で聴けるそれと遜色ない。ソウルスクリームの名曲「TOu-KYOu」に新たに付け加えた彼のヴァースからは"今日も過去最高気温を更新した"陽炎に歪む東京の街並みがくっきりと頭の中に立ち上がった。
ハブアイスクリームも昔の曲ということで、あの頃のフロウに戻っていた。やっぱりこのラップスタイルが一番合っている。長い間活動しているとそれ以外の方法論を模索する気持ちも分からなくはないが、リリックで熱い想いを伝えるにはこの頃のスタイルが一番適してる。あと「TOu-KYOu」のフックのリリックが変わっていた。
ふたりで作り上げたという新曲はBPM速めの勢いのある曲で、3部作を作って一番勢いがあった頃のYOU THE ROCK★を彷彿とさせる。"あまりにもいい時代ではない"この時を逞しく突き進めという曲だった。
ハブアイスクリームに押され、舞台袖に消えようとしていたシキは車椅子を止め、振り返りつつ、最後にこう叫んだ。"君はさ、どんな状況でも絶対負けるなよ!倒れても何度でも立ち上がれ!"。
1.ONE NIGHT SHOW feat. SHIKI / HAB I SCREAM
2.TOu-KYOu feat. SHIKI / SOUL SCREAM
3.新曲 / HAB I SCREAM & SHIKI
【MC漢】 16:05〜16:10
タイムテーブルではMSCとなっていたが、登場したのはMC漢ひとり。今年も遅刻したらしく、そのために持ち時間が削られ1曲しかやれないことをひとくさり愚痴った後に、会場にいる(らしい)私服警官にこれがヒップホップだぜと息巻きつつ、"取るなら今のうちに取っとけ 大変なことになるぜ"とファンを喜ばせるセリフも忘れない。
"光と影垣間見る 都会の片隅で見るちっぽけなサクセス"というラインのあるフックも、お得意のイリーガルネタを盛り込んだヴァースも特に惹かれることのない新曲だったが、"死んだ目してるなんていわれたって知ったこっちゃねぇ、新宿なんてどうせみんなこんなもんだぜ!"とハッとさせるリリックが飛び出すのはさすが。
【DJ KENBO】 16:13〜
最初に回したKanye Westの「POWER」はやっぱりかっこいいと思うと同時に、そのネタを選ぶカニエのセンスがすごいなと脱帽しながらも離脱。
水分補給に売店に向かう。ステージ向かいの売店脇の自動販売機で小銭が使えないというトラブルに見舞われるも、裏に回ったら誰も並んでいない自販機発見。来年はこっちで素早く買うことにしよう。
【RYUZO】 〜16:29
10分ほどしてからステージ前に戻ると、RYUZOが咆哮し、観客の拳を屹立させていた。"鎖を引きちぎれ"とラップした後に、"ファック偽物ファックバビロン"でお馴染みの「The R」へ。お子様向けラップではあるのだけど、テンションを一気に上げるあの声は認めざるを得ない。翌日声が出なくなりそう。
みんな仲良くファックユーとかTシャツとかダンスとかダンスとかダンスとか、それと犬。
【常磐勢】 16:30〜17:08
<JBM> 16:30〜16:40
トップバッターは松戸からやって来た強面だけど性根は優しい男JBM。この手の男臭さを売りしたラップは耳が受け付けないので、頭を低くしてやり過ごす。
短めとはいえ4曲もやり、最後となる5曲目の途中、いい加減にしてくれと思い始めた矢先に事件が起きた。
メロウな大麻礼賛ソングをラップしていると、ステージ左手から、白いTシャツの男がススッと走り出てきて、JBMのマイクをあっさり奪ってしまったのだ。男が舞台の左に延びる通路を上がるところから見ていたが、イベントスタッフだと思っていた。JBMもそう勘違いしたからこそ、ラップ中にも関わらず何の抵抗もなしにマイクを手放したのだろう。
マイクジャックに成功した男はマイクを握るも、そのラップは残念ながら意味不明だった。
逃げ回りながら何やらラップし続けるが、スタッフに取り押さえられた。不気味に近づくふたりは、赤いTシャツがDELIで、青い方がMIKRIS。この後、突き出されるようにして、男はステージ前の柵の内側に落ちた(飛び降りた)。ミクリスはすかさず持っていたペットボトルを全力で投げつける。
結果的に魔の手から逃れる形になった乱入者だが性懲りもなく、再びステージに上がった。"これもひとつのヒップホップ。逆に油断してマイク取られちゃった俺が悪いんだ"と話し、場を収め再開しようとしたJBMに何やら突っかかる。
見かねたDJユタカが飛び出してきて、彼を強引に右袖に引っ張り込み、騒ぎは一件落着した。
トゥイッターのフォロワーの人がこの後もBボーイパークを楽しんでいる彼を見かけ、話しかけたらしい。特に大きな怪我はなく、また実際はフリースタイルもできないレベルの人だったようだ。
晴れの舞台で顔に泥を塗られたJBMには同情するが、似たようなラップが続き、飽き飽きしていた身には面白い余興だった。
<M FINGAZ (MIKRIS & MARS MANIE)> 16:41〜16:52
マイクジャックされた当人は気分の切り替えを素早く行ったが、ミクリスはしばらく怒り心頭のようで、1曲目が終わった後も、"さっきの奴、超クソだぜ"と憤慨していた。
最後はデリが加わっての「オボレタ街 Pt.2」。ミクリスやマーズマニのヴァースにかぶせるデリの声の方が目立つというのはどうなのだろう。
<DELI> 16:52〜17:08
そのままデリのソロパフォーマンスに。背後を守るのはDJユタカ。前半は昔の曲を高音ラップでまくし立て、後半の2曲は最近のモードであるオートチューン使い。DJユタカがいるのだから、最新作からは「イツマデモ」ではなく「MONEY」を聴きたかった。
聴けば彼と一発で分かる記名性の高い声には貫禄が備わり、賛否両論があるのかもしれないが、歌を積極的に取り入れ、スタイルの幅を広げようとする姿勢はNITRO MICROPHONE UNDERGROUNDの一員とも思えない努力がうかがえる。
1.?
2.ココ東京
3.365
4.?
5.もしかしたら世界も笑う
6.イツマデモ
司会のMC RYUに導かれ現れたのは、6月に脳梗塞で倒れたDARTHREIDER。ヒップホップのおかげで医者も驚くほどの驚異の回復ぶりらしい。杖を突いてはいたものの元気そうだった。
【TETRAD THE GANG OF FOUR】 17:12〜17:29
NIPPS率いるTETRAD THE GANG OF FOURは、B.D The Brobusが他の3人のケツを叩く冴えたラップを見せるのだけど、基本はズブズブ、ウダウダ、ヘロヘロなラップに終始。それがヒップホップの一側面だと理解はするし、時折飛び出すニップスのパンチラインにはにやけるものの、すでにブースでスタンバイしているDJユタカが規定の時間を超えてもライブし続ける4人に対し、苦虫を噛み潰したような顔で仁王立ちしている姿についつい目が行ってしまった。ニップスは終わらせろとジェスチャーされても、大丈夫大丈夫といった調子で少しも慌てることなく舞台を回遊していたのも端から見れば面白い。後半の曲はほとんど呪文のようだったが、新曲だろうか。
【BIGZAM】 17:30〜17:46
遠目からもガタイの良さが分かるBIGZAM。ライブは音源ほどには悪くないが、恒例のお昼ご飯タイムに。今回は出かけに見ていた「男子ごはん」で国分太一とケンタロウがおいしそうに作っていたタコライスにした。失敗だったけど。
戻ってくると、デリとGORE-TEXも登場していて、DJユタカ名義の「New Era」を披露していた。
【THUG FAMILY】 17:46〜17:53
3年連続の出場となるTHUG FAMILYは年々酷くなる一方。今回はついにMCはひとりきり。一家離散でもしたのだろうか。どの曲も同じ調子のラップで、最後に「Beamer, Benz or Bentley」のリミックスに挑戦していたが、ただトラックが変わっただけで中身のラップはそれまでと同じだった。おかげで惨憺たる出来に。ブーイングをしないBボーイたちは本当に優しい。
【K DUB SHINE】 17:54〜18:09
ビグザム、サグファミリと続き、ずいぶんと人が減ったステージ前エリアにまた人が戻り、多分この日最初の満員になった。その人気の高さも驚いたが、女性からも黄色い声が飛び、"かわいい"といい交わしているのを聞き、ちょっとした衝撃を覚えた。
1曲目の「F.F.B.」から、K DUB SHINEが"そのハムみたいな"とラップすると、"背中のヒモ"と観客が後に続け、ケーダブシャインは後半部分を任せていく。みんなが歌えることに再度驚かされた。2曲目「24」と3曲目「これ超良くねぇ?」はradio aktive projeqt名義なので、DJ OASISがDJブースから出てきて、ステージ中央でマイクを握った。
代々木公園の広い空間を完全に掌握し、リリック飛ばしも明るい笑いに変えていた。15分間のライブをリラックスした様子で行う姿はまさに"渋谷のドン"だった。
1.F.F.B.
2.24
3.これ超良くねぇ?
4.オレはオレ
【SPHERE】 18:09〜18:22
あなたではなく、兄ZEEBRAを出してくれという思い、それだけ。シズーへの批判はまるっきり彼にも当てはまる。彼を中心にしたグループTokyo Southを引き連れての「ATTENTION (Please)」は、リーダーがリーダーなだけにお粗末のひと言に尽きる。
【KAMINARI-KAZOKU.】 18:23〜18:41
Bボーイパークのステージでは
2008年以来2年ぶりとなるKAMINARI-KAZOKU.。タイムテーブルではG.K.MARYANとなっていたが、事前に漏れていた情報通りに、今年2月に大麻所持で再逮捕され、懲役8カ月の実刑が確定したユーザロック★抜きの雷家族で現れた。
<RINO>
一番手はRINO。アコースティックギターの哀愁帯びた音色だけを伴奏に、「証言」、「東京鉄コン筋クリートジャングル」を披露。瞬発力のあるラップは後半で失速したものの、"メイクマネマネ"では大きなレスポンスを起こしていた。一度ちゃんとしたライブを見てみたい日本語ラップ・レジェンドのひとりだ。
<SHINNOSK8>
客演では何度か聴いてきたが、一度たりとも注目したことのないラッパーだったのに、今回生で聴いてみて興味を持った。フロウのギアの上げ下げが自在で、フックでは歌パートも飛び出し、1曲だけだったけれど、耳を奪われた。
<G.K.MARYAN>
G.K.MARYANもいいと思えてしまった。声に張りがあり、ビートに足を取られることもなく、彼らしい荒くれたラップを代々木公園の夕闇に響かせていた。あれだけの声があって、リズムにもしっかり乗れていれば、じっくり聴く音盤ではともかくとして、ライブ映えはする。良かった。
<TWIGY>
続いて登場したTWIGYはユーザロック★のアルバムに参加したときの「マヨナカノ動物園」をSYZZZY SYZZZAと共に披露。曲終わりには、ひと言だけいわせてくれと断り、"FREEEEE YOU THE ROCK★!!"と叫んだ。その後は雷家族の面々とひとりずつ抱擁を交わす。
最後は全員で代々木の地に「カミナリ」を轟かせて、今年中の再始動を予告し去って行った。ベテランの威厳を存分に示したライブだった。
【COMA-CHI】 18:42〜18:52
雷家族がぶち上げた後でも少しも臆することなく登場したのがCOMA-CHI。「perfect girl」や「Heaven」といった歌ものなしで、ラップ曲に徹したこともありすごい盛り上がりに。日本語ラップとの出会いを綴った「東京非行少女」の2ヴァース目をアカペラでやった後に、"みんなこれが聴きたかったんでしょ"と「ミチバタ」で締めた。
1.name tag (C-O-M-A-C-H-I)
2.B-GIRLイズム
3.東京非行少女
4.ミチバタ
【RHYMESTER】 18:52〜19:04
MCリュウが"RHYMESTER"と紹介した時の歓声といったらなかった。1曲目の「ONCE AGAIN」ではみんな口ずさんでいるし、後ろを見ると結構奥の方まで人で埋まっていた。毎年見る場所が違うから一概にはいえないけれど、この時間帯にあれだけの人が詰めかけているのを見るのは初めてかも。
2曲目の「K.U.F.U.」では東京Bボーイズが舞台で華麗なダンスを決める中、ふたりがさらなる狂乱をフロアに生み出していく。マミーDの2ヴァース目には身震いした。あのヴァースはすごいね。余計な装飾を省き、平易な言葉のみでドラマを見せ、しかもきっちり韻を落としグルーヴを作り、一直線に駆け抜けていく。圧巻だった。
1.ONCE AGAIN
2.K.U.F.U.
【いとうせいこう & 高木完】 19:05〜19:17
ライブショーケースのトリはいとうせいこうと高木完。バックDJはDUB MASTER X。日本語ラップ黎明期から活動している生ける伝説たちだ。
最初はいとうせいこうがひとりで出てきて、現在加入している口口口でのソロ曲「ヒップホップの初期衝動」でスタート。2曲目で高木完が姿を現す。掛け合い多めのラップに、極めてシンプルなビートというオールドスクールそのもの。ふたりのラップは何をいってるのかさっぱり分からないし、今の基準からいえば思いっきり下手なんだけど、それが味となり、かっこよく聴こえてくるのだ。
ダブマスターXの繰り出す音は太いビートと最小限の上音のみ。それでも体が弾む弾む。その音に乗るいとうせいこうの声は甲高い上に線が細く、もっと腹から声を出せと思ってしまう。口口口での活動も彼が邪魔に思えることが多いのだけど、この日のライブでは頭をガシガシ振らされたことも事実で、この音に合うのは彼しかいないと思えてくるから不思議。こんなスタイルだけがヒップホップだったら辛いが、理屈ではないところで思いっきり楽しめたライブだった。
"スッカラ カンカンカンカンカンカン高木完〜"を生で聴けなかったのだけが心残り。
1.ヒップホップの初期衝動
2.LAST ORGY
3.MONEY
4.東京ブロンクス
【U20 MC BATTLE】 19:18〜19:37
8小節2本勝負による20歳以下のMCバトル。司会は
昨日から引き続きの"世界中のデブとブサイクに夢を与える"NONKEYとB-BOY戦隊の緑。ノンキーの名司会っぷりはなかなかのものだ。ルール説明中、暴力は禁止とした後に、裏からG.K.マーヤンやサグファミリ、MC漢が出てくることになると付け足し、爆笑を誘っていた。
・準決勝
<掌幻 vs. Light>
先攻・掌幻で始まるも、Lightが小節を聞き間違えて、掌幻のターン中に入り込んでしまう。すかさず掌幻がそこを突く。2本目もライトは間違えたが、彼のフロウの面白さもあり、判定を2回行うほど接戦に。ノンキー判断で勝者は掌幻。個人的にはライトの勝ちだった。
<輪入道 vs. 菊丸>
先攻・輪入道が一語一語落とし込むようにラップすれば、反対に菊丸は軽やかにビートに乗り、言葉を連射。2本目で輪入道はそんなのお茶の子さいさいとばかりに菊丸のスタイルを軽々と真似してみせる。菊丸が2本目の冒頭で気持ち良く押韻を利かして盛り上げたこともあり、勝ちは菊丸に転がり込んだ。
・決勝
<掌幻 vs. 菊丸>
じゃんけんで勝った菊丸が後攻を選び、掌幻が口火を切る。開始早々に輪入道が勝ち上がらなかったことにキレるという変化球を投げた。一方、菊丸は般若の名前を出し、会場を湧かせるもまくし立てた言葉はどれも不明瞭。準決勝の2試合目もそうだったが、どっちもどっちという出来。判定はやや菊丸優勢。よって優勝は菊丸。
20歳以下の若者のMCバトルという点で見れば、
昨日のベスト8で敗退したラッパーたちも含め、みんな巧かった。ただ、
去年の同じバトルを見ているだけに、今年が小粒だったことは否めない。ラップの内容はほぼ相手への罵倒であり、しかも聴き取れないことの方が多く、勝負の分かれ目はどれだけ言葉を多く詰め込めたかや、リズムに乗れていたかなどしかなかったのは物足りない。
昨年のKOPERUの出現によって、この年齢のMCバトルであってもハードルが一気に上がった印象だ。
ここでMCリュウがBBOY PARK主催のMCバトル全国大会の開催を告知。10月から東海、東北、九州、そして関東は第1と第2に分けてブロック大会を開き、テレビ朝日の協力の下、本戦を来年1月に東京で行う予定とのこと。優勝賞金は200万円。今回のU20 MC BATTLEの優勝者菊丸は本戦のシード権を得られ、さらにBBOY PARK本部が選出した3人──FORK、晋平太、MC漢──もシード権を手にしているとのこと。この4人以外の12人を各ブロックから選ぶことになる。
ステージに並らんだ漢が晋平太に、"僕ら出るんだったら1回戦から出ないと賞金もらう気しないでしょ?"と話しかけ、ふたりでのフリースタイルが唐突に始まった。ノンキーがビートボックス。気を利かせたDJ BEATがビートを送り込む。漢は調子悪そうだったが、やはり晋平太はフリースタイルになるとよく光る。
ダンスバトル決勝まではDJビートが軽く回して場繋ぎ。贅沢に過ぎる。ほんの数分だけど最高だった。
【B-BOY BATTLE】 19:42〜20:01
毎年一応最後までいることにしているので、チーム対抗戦の決勝は何とはなしに見ているのだけど、今回はステージがよく見えたこともあって、かなり楽しんだ。優勝した向かって右側のチームは、個人技では若干左のチームに押されていたが、タイミング良く挟んでくるパワープレイが効果的で見映えが良く、チームとしてよくまとまっていた。
全てのパフォーマンスが終了し、最後に今回運営の中心となったDJユタカが締めの挨拶をした。前回の中心だったジブラが早々に降板し、今年は開催を危ぶむ声も上がる中で、ハイチの救済プロジェクトも同時進行つつの開催となり、その多大なプレッシャーからの解放もあるのだろう、ステージの真ん中に立った彼は実に晴れ晴れした表情を見せていた。暗くてしかとは確認できなかったが、瞳が潤んでいるようにも見えた。
そのDJユタカが盟友Crazy Aを呼び寄せた。昨年大麻所持で逮捕されBボーイパークの存続自体が危惧され、今年も同じように危機的な状況に陥ったことも含め、観客に向かい頭を下げた。来年もまだ前面に立たず、禊ぎの済んだ再来年から運営に携わることを明言。そして、"槍が降ろうが雨が降ろうが毎年Bボーイパークを開催します"と強い決意を述べ、20時5分、BBOY PARK 2010の幕が下りた。
結論から書けば、今年のBボーイパークは例年同様面白かった。連日真夏の太陽が照りつける下で立ちっぱなしで見続けることはある意味自殺行為だよと自嘲しながらも、それでも行って良かったと思えるイベントだ。
昨年導入されたタイムテーブルや司会者は今年も取り入れられていたので、おおよその流れが掴め、またメリハリのある進行が図られていた。ユニークだったのは
土曜日に女性R&B歌手を集めたことで、ヒップホップのイベントにそれはどうなのという声も理解できるが、普段見られないメンツだったのでそれはそれでありだった。JAMOSAがBボーイパーク初出演というのは驚きだ。彼女たちはいずれもラッパーとのコラボ曲があるわけで、3曲のうちで1曲ぐらいで登場していれば、さらに見応えが増したのかもしないが、まあそこは無料のイベントだし難しいのだろう。
不満は若手の枠が増えた印象の昨年から再びベテラン重視になったことだ。とはいえ、ライムスターが3年ぶりに代々木のステージに立ち(昨年もジブラやコマチの時に客演で出てたけど)、最強の盛り上げを見せたし、雷家族はグループとして1曲披露、まさかのいとうせいこう、高木完、それにダブマスターXというレジェンドたちの登場もあった。他にもD.Oの復活や久方振りに大きな舞台に戻ってきたシキもいたし、ダースレイダーの元気な姿も見られた。笑えるハプニングもあった。これだけ豪華なメンツが集うイベントもそうそうないわけで、ベテラン偏重になってしまうのも仕方ないのかなと納得する部分もある。
それを解消するために、サグファミリやシズー、スフィアといった実力不足なアーティストを切り捨てればいいのだろうけれど、そこには付き合いだ何だと横の繋がりがあって、またぞろ本来的には東京のBボーイたちのブロックパーティだからという内向きな話なってしまうわけで、そこは変えられない、変わらない点なのだろう。安易に考えれば、出場の場が増えればいいわけで、来年は昨年も設置したサブステージの復活を期待したい。
そろそろBボーイパークでSEEDAを見たいし、アクロやクルーズといった今が旬のラッパーたち、それとできれば地方の有力アーティストをひと組でいいから見たいものだ。
ジブラは来年のBボーイパークに積極的に関わる旨をトゥイッターで呟いている。ダースレイダーも復帰するだろうし、若手ラッパーへのチェックを怠らない彼らならワクワクするような企画と共に、この人を代々木のステージで見られるのかという驚きを提供してくれそうだ。
それと、今回はDJユタカが指揮を振るったのにも関わらず、DJ BATTLEがなかったのはどうしたのだろう。MCバトルを削ってでも実現させそうなものだけど。スポンサーが集まらなかったのだろうか。若手にとってのひとつの目標として最高の場だったろうに残念だ。
開催の1週間ほど前に発表されたラインナップを見た時は不安しか覚えなかったのに、いざ行ってみれば、各アーティストは短い持ち時間の中で凝縮されたプロ意識を存分に発揮したパフォーマンスを繰り広げ、中盤でいえばムナリ、ピットゴブ、D.Oからハブアイスクリームの流れ、終盤は雷家族、コマチ、ライムスター、そしていとうせいこうと高木完という展開はすごく楽しめた。