渋谷区は恵比寿にあるヒップホップレコード/CD専門店wenodで行われたShing02のインストアライブに行ってきた。DJ Icewaterによるシンゴ2の英詩曲のみを使ったミックステープ『FOR THE TYME BEING Part 2』の先行発売を記念してのイベントではあったのだけど、この日は歩いてほんの数分のところにあるリキッドルームで彼が出演するライブもあり、実戦的準備体操でもあったのだろう。とはいえ、ずいぶんとリラックスした雰囲気でパフォーマンスするシンゴ2は普段とは表情を異にしていて面白かった。
開始予定とされていた15時半にウィノッドに到着し、静かに扉を開けた。ギリギリの時間だったので、すでに満員で熱気ムンムンの店内には入れないかもしれないという危惧は一応あったのだが、なんてことはない、呆気にとられるほど人がいなかった。10人ほどが当てもなく棚のCDやレコードを眺めていた。雑居ビルの一室なわけでそれだけいれば十分な広さではあるのだけど、数時間後に行われるリキッドルームのイベントの目玉のひとりになっているシンゴ2を迎え入れるのにはちょっと寂しすぎるだろうという気はした。
備え付けのPCからこの日だけダウンロードできた2曲──Shing02、Seph One、Cav3名義での未発表曲「Manowar」と「The Coupling Rmx feat. Emi Meyer (Ice Blend)」──を首尾良く手に入れ、欲しかった作品を2〜3枚見繕い、しばらく待ってみるが、始まらない。やがてスタッフからライブは20〜30分遅れますの声。外で待つことにした。
外でたたずむことしばし。やがてシンゴ2ご一行が現れ、店内に入っていくので、同じように道路脇で待っていた人たちと共に再度入店。結局30人ちょっとだろうか。それでもウィノッドは満員に近くなった。左右の人とは汗で濡れた腕は当たるが、前後とはぶつからないだけのスペースがあり、ほどよい感じだ。
16時12分、ステージ代わりのレジ奥にシンゴ2が立ち、傍らにはPCを操るDJアイスウォーター。レジを正面に見て左手前にはギターのソウイチロウが椅子に腰掛けた。
"全く計画なし"とはいいながらも、まずはオリジナルトラックでの「Battle Cry」をフルヴァースで披露。続いて、アイスウォーターにパッドを叩かせ、その場でビートを生み出しながら、アコースティックギターの音色を生かしたセッション風の「F.I.L.O」。終わった後に、ギターのプラグが繋げられるということが判明し、ならもう一度やりましょうよとのシンゴ2の声で、本日2回目の「F.I.L.O」がフルでパフォーマンスされた。ギターがさらにくっきりとした音を発し、アイスウォーターのカットと巧みに絡み合い、生音の躍動感がウィノッドの店内を満たす。
この日一番驚いたのは、観客にリクエストを募ったこと。"聴きたい曲ある人?"の問いかけに、まず新曲の「虹の橋」が飛び出すが、"書いたばかりなのでさすがに生は辛い"と却下(残念!)、さらに「抱擁」、「旋毛風」とぽろぽろと希望曲が挙げられるも、シンゴ2はひと言。"みんな難しいなぁ"。
ひとまず「旋毛風」をやってみることにしたが、1ヴァース目の途中でリリックが飛び、それでも懸命に続けたが、2ヴァース目でも同じ事態に陥り、ダメだと諦めた。次までに練習しておきます、と。"ラップというものは綱渡りみたいなもので筋肉が動いてないと落ちてしまう"と話していた。別のラッパー(ILL-BOSSTINOだったかな?記憶が曖昧)がリリックは頭で覚えるのではなく、何度も繰り返して、口の筋肉に覚えさせると書いているのを読んだ覚えがある。そういうものなのだろう。
"リキッドにいけない人のために"と始まったのがLuv(sic)メドレー。pt.1とThe Notorious B.I.G.の「Big Poppa」を使ったpt.4はフルで、2と3は1ヴァース目とフックのみだった。pt.3からはEmi Meyerが登場。間のMCでシンゴ2が"インストアなんですけど、サウナも兼ねてまして、アカスリも自分でできるというお得なセット"と下手な冗談が飛び出すほど蒸し風呂と化していた店内に涼しい歌声を響かせた。
DJ BAKUとのコラボ曲「GOOOOOOOOOOOAL!!!!!!!」はワールドカップ中に発表されたHonda Pyramid Remixで。懐かしの「東京の通り」は1ヴァース目だけ、しかし次の「誰も知らない」はフル!これは嬉しかった。ほぼ新曲の「Parallell Universe」はLASTorder Remixの方がパフォーマンスされた。このリミックしたラストオーダーという人はまだ高校生らしく、この日ウィノッドに駆けつけていた。人なつっこいメロディをなぞる生ギターの音が心地良かった。
最後の「Survival Mode」のアカペラの前にシンゴ2が少し時間をとって演説。
今の経済状況やシステムに絡め取られるのではなく、視野を広く持ち、自分自身が何をしたいのかという本音の部分を探すべきで、そうしないと厳しい環境に潰されてしまう。自分が実践し体験した自分なりの思考や解釈が大事であり、それが表現となる。ヒップホップが教えてくれたことは、誰ひとりとして同じ人間はいない。その個を大切にし、互いを高めあっていけば、より高次元でぶつかり合える。そうしないで、他人の価値観に従うだけでは、自分たちの存在意義や独自性は失われる。現在の危機的状況のなかでどうやって生き残っていくのか。それは自分たちで互いを助け合うことだ。他人に教わるのではなく、自分たちで知恵を出し合い、教え合う。それが大事だ。
コミュニティという言葉はなかったが、昨年の代々木公園での「
Kodomo Music & Art Festival」でも同じような話をしていた。横の繋がりを大切にし、下の世代をフックアップし、より良い社会を作ろうと。
「Survival Mode」を終えて、16時57分、45分間のインストアライブ終了。
去年6月に同じ場所で見た
インストアライブと同様に楽しい時間だった。「F.I.L.O」のプラグバージョン辺りからエンジンが入り、苦手なLuv(sic)シリーズでも自然と体が揺れるグルーヴがあり、耳に馴染んでいる昔の曲では思わず口ずさみそうになったし、まさか「東京の通り」を聴けるとは思わなかったわけで、全身から汗が噴き出る蒸し風呂状態のなかで最後まで楽しんだ。
収容人数900人を誇るリキッドルームでのライブを目前に控え、たった40人弱を相手に、しかも無料であるにもかかわらず、何ら手を抜くことなくきっちりパフォーマンスするのはすばらしいことだと思う。
1.Battle Cry
2.F.I.L.O (unplugged ver.)
3.F.I.L.O (plugged ver.)
4.旋毛風
5.Luv(sic)
6.Luv(sic) pt.2
7.Luv(sic) pt.3
8.Luv(sic) pt.4
9.GOOOOOOOOOOOAL!!!!!!!
10.東京の通り
11.誰も知らない
12.Parallell Universe
13.Survival Mode (a cappella)