92点/100点満点中
ロバート・ロドリゲス監督(共同監督として右腕のイーサン・マニキス)のアクション映画。製作費2000万ドル。2010年公開作品。
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麻薬王トーレスに家族を惨殺されたメキシコの元連邦捜査官マチェーテ。それから3年、米国テキサスで復讐の機会を狙っていた。ある日、彼は謎のビジネスマンからその腕っ節を見込まれ、不法移民の弾圧を目論む悪徳議員マクラフリンの暗殺を高額の報酬で依頼される。しかしそれは巧妙な罠だった。からくも窮地を脱したマチェーテは不法移民を裏で支援する女性闘士ルースと、なまぐさ神父パードレの助けを借り、復讐へと乗り出すのだが・・・。
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これは文句なしに最高の映画だ。ためらいなく引かれるトリガー、肉体をきれいに切断するマチェーテ(山刀)に日本刀、本来の使われ方とは異なる日曜大工用品の数々。血が飛び散り、腸が伸び、ひとは簡単に呼吸を止める。そんな作品がおもしろいのかといえばひとそれぞれだろう。しかし映画館は笑いに満ちていたし、私も大笑いしながら見ていた。とても素敵な作品だと思う。彼はまたしても傑作を撮ってしまったのだ。すばらしい。
もともとは、クエンティン・タランティーノと共に作り上げた2本立て映画『グラインドハウス』の作中で使われた架空映画の予告編「マチェーテ」であり、彼の作品でお馴染みのダニー・トレホが復讐に燃え、政府に牙を剥くという、思わず本当かよとツッコミを入れたくなってしまう愉快さがあったのだが、それを見事に長編として完成させてしまったのだからすごい話だ。
小説にしろ、漫画にしろ、音楽にしろ、冒頭が大事だと思っている。入りでどれだけひとを惹きつけられるか。本作はそれが完璧だ。いきなり車中のむさいふたりの男が映し出され、緊迫した様子が伝わってくる。一方がダニー・トレホ演じるマチェーテ。大写しになる傷だらけの顔はそれだけで迫力十分だ。相棒は無謀な急襲作戦に怖じ気づいているものの、彼を信頼してどこまでも付いて行くことを誓う。そして、そのまま彼らは敵のアジトに突っ込んでいくが・・・。伏線というか死亡フラグがすぐさまやってくるその塩梅が最高で、一発で作品に引き込まれた。
掴みが本当に巧みな監督だ。
その後の病院のシーンでのアホらしさ(看護婦の裾丈、腸、花束等々)にいたっては感服するしかなかった。ここまで見てもうこの映画は元を取ったと確信したわけだけど、その後も爆笑の連続で見終えたときには多幸感に包まれていたと書いても誇張ではない。映画っていいもんだね。
本作のコピーは、"俺トレホ。豪華スターを押しのけ、こんな俺だけど激モテ。"というもので、確かに共演陣が豪華だ。差別主義者の議員を実に楽しげに演じたロバート・デ・ニーロは地位も名誉も得ている大俳優なのに、本当に偉いと思った。ある意味大物だとは思うものの、そのすごさを全く理解できないスティーヴン・セガールも得意の日本趣味を発揮していた。刀の持ち方がちゃんとしていたのが印象的。
一方、女優たちのB級具合もなかなかだ。『バレンタインデー』を見たかぎりでは出産後は魅力を失ったかに思えたジェシカ・アルバも意外に健闘。それよりも頑張っていたのは崖っぷち女優リンジー・ローハン。大ヒットした『ハングオーバー』にストリッパー役でオファーされたのに、"脚本がバカらしくて嫌い"と蹴っておきながら、もっとおバカな映画で脱ぎまくっているのもなんともな話だ。応援したい! でも最後まで彼女とは気づかなかったのだけど。いつもごついマシンガンを抱えている印象のたれ目女優ミシェル・ロドリゲスも良かった。
もちろん過激なアクションシーンだけがおもしろいわけではない。セリフまわしや小道具といった演出も気が利いている上に、泥臭さや汗の臭いが伝わる絵でありながらセンスの良いカメラワークもすばらしい。だから、2時間ドラマの最後に断崖絶壁で犯人がペラペラ話し出すように、いとも簡単に事件の真相を明らかにしてしまう短絡さやご都合主義といった本来はマイナス点であることも笑いに変わり、プラス評価に繋がる。車の上に登り、本気とも冗談ともつかないアジテーションをぶつアルバの晴れ舞台もまた、普通の映画だったらしらけるところだが、笑いの濁流に呑まれているので楽しまざるを得なかったほどだ。