本記事は、1週間前(2月19日)の模索舎での
ライブ記事と同じく、不可思議/wonderboyが6月23日に亡くなったのを受けて、簡単なメモと下書き段階だった記事、それとかすかな記憶を頼りに書いたものです。
(写真は食べログから無断借用。ごめんよ)
20時から中目黒の小さなカレー屋でライブを行うという告知を彼のブログで見て、おそるおそる行ってみたら、本当に小さい店舗で、カウンターが7席ほど、テーブルは締めて3卓。関係者を抜かした純粋なお客さんがどれほどいたのか怪しいと思えるほどで、ただお店自体はいかにも中目黒といったお洒落な雰囲気を漂わせていた。内輪の空気が濃厚で入店するのに若干の気後れはしたが、ちょうど席も空いていたのですんなり収まったところで、didimo + Atsushi Itoという男女デュオの演奏が始めた。
【didimo + Atsushi Ito】 20:14〜20:31
1曲目の「みつめみるたび」は女性ボーカルのディディモによるギター弾き語り曲。どことなくCoccoを連想させる歌い方だなと思っていたら、最初のMCで沖縄の出身だと話していて納得。男性のアツシイトーはアコーディオン他を扱い、歌に広がりを持たせる。穏やかな曲が多く、声もいいし、メロディだって悪くない。音のセンスも良い。でも大きくはブレイクしないだろうし、それを望んでもいないんだろうなと思わせる良心的な音楽だった。
1.みつめみるたび
2.地球水槽
3.Venus As A Boy(Bjork)+シロギス(Original)
4.Blackbird(The Beatles)
【不可思議/wonderboy】 20:33〜21:30
続いて我らが不可思議/ワンダーボーイの出番。先週の模索舎にも来ていた客がちらほらいるということで、曲の入りに変化がなく、まるっきり同じになってしまうことを大袈裟に照れていたが、模索舎の時は遅刻して途中から見ることになったので、それはそれで運が良いと思えた。
"世界と僕は戦っている きっと世界が勝つだろう 僕に味方はいるのだろうか / 世界と君は戦っている きっと世界が勝つだろうけど 君は決して負けないだろう / 世界は今日もまた少し退屈になっていく"
ピッ!
そんな語りに導かれて始まったのは、後にリリースされるアルバムの冒頭を飾ることになる「もしもこの世に言葉がなければ」。
"手紙を読みます。1通は男の人から女の人への手紙。1通は女の人から男の人への手紙です。この手紙は22世紀に書かれたものです"。
ピッ!
もちろん人気曲「銀河鉄道の夜」。トラックは先週と違い、Yuji Otaniによるオリジナルトラック。しかし、曲を始める時に手元のMP3プレイヤーが発する電子音の無粋さはいかんともしがたい。せっかくのロマンティックな前振りが台無し。いざ、歌い出してしまえば、そんなことは忘れて、彼の物語る世界に没入できるとはいえ。
続いてNujabesトラックでの「生きる」。震災のチャリティシングルにもなったこの曲は3月11日を境にそのあり方、背負わされているものが大きく変わったけれど、曲そのものは関係なく輝きを放っている。いい曲だ。谷崎俊太郎の「生きる」だけではなく、「朝のリレー」を忍ばせてあるのもいい。
ここでセットリストにはなかった「未知との遭遇」をやるといい出した。店にカップルが多いということで、去年好きになった子に聴かせようと思って作った"ベタベタの気持ち悪いラブソング"「未知との遭遇」を急遽始めることに。彼の携帯MP3プレイヤーの中にはインストが用意されていなかったため、アカペラでの披露となったが、1ヴァース目の真ん中辺りでリリックが空に消え頓挫。アツシイトーがビートを出すことで、頭から再チャレンジするも、またもや1ヴァース目の終わりで挫けた。諦めない彼は、鍵盤で適当に上音を付けてもらい、続きの2ヴァース目から始め、飛び飛びの途切れ途切れ、必死でのたうち回りながらもどうにかこうにか最終節の"ハッピー・エンドレスな日々へ"に辿り着けた。
いつも練習しているやり慣れた曲に戻りますと「ポエトリーリーディングは鳴りやまないっ」。本人も自嘲していたように、確かに相当な安定感があった。Shing02が以前ライブでしていた話を思い出した。ラップは普通の歌と違い、筋肉のようなものだから練習をしていないと衰えてしまうそうだ。"作り込んできたMC"を経て「Pellicule」。
予定はここまでだったが、時間がまだあるということで、もう1曲という運びになった。しかし、その前にこの日が誕生日だという人にお店からケーキが贈られ、みんなでバースデイソングを歌い、ローソクが吹き消された。
「Pellicule」を終えてからの一連の流れは不可思議/ワンダーボーイにとってやや酷に見えた。普段はしないような大きなミスをしてしまい、精神的にもぐらついただろうに、全力でパフォーマンスし、全てを出し切った後に予定にはない1曲を求められ、そして歌い出そうとした矢先に主役の彼を蔑ろにする誕生日イベントが行われたのだ。
モチベーションを再度高めるためもあったのか、彼は冗談交じりに質問コーナーを設けた。彼のへりくだった物いいや時に慣れ慣れしいまでに親しげに振る舞う言動は彼なりの照れ隠しだったと思うのだが、この時間の彼は質問タイムといいながらひとりでよくしゃべった。
5月にリリースするファーストアルバム『ラブリー・ラビリンス』はこの日マスタリングが終わったという話。歴史的な名盤間違いなしとの太鼓判を自分で押すことはもちろん忘れない。また好きなアイドルは?との問いには間髪入れずにPerfumeのあ〜ちゃんと答え、映画よりも自分のペースで作品世界にひたれる小説の方が好みだと話していた。
最後の曲に対し、ライブを撮影していたLow High Who? Production主宰のParanelから「所信表明演説」はどうだとのリクエストがあるも、最近はライブでやっていないので厳しいと断っていたのが残念。結局あの曲を生で聴くことができなかった。
仕切り直しのトークを挟み、気持ちが戻ってきたのか、最後の1曲をやろうという段になって、再び邪魔が入った。誕生日の人がもうひとりいて、その人が近くまで来てるからもう少し延ばしてくれというのだ。そこで、名前の"wonderboy"の由来について質問が出た。大学生の時、酒が入ると思いっきりはしゃぐタイプでそれを見て回りがワンダーボーイだねといい出したのが始まりだという。学生の頃からその名前で活動していたようだ。
やっとその人も来店し、三度場が荒らされかかったが、マイクを握っている彼はある意味で怖いもの知らずな一面をのぞかせるようで、16分間の中断とも無理矢理なトークタイムともいえる時間を経たにも関わらず、"アルバムの中で唯一前向きな曲"という「いつか来るその日のために」を披露し、長かったこの日のライブを終えた。当初は25分を予定していたらしいが、終わってみれば1時間弱のステージになっていた。
立派なハコでのワンマンではなく、お店が主催するインストアライブということで、想定していない事態に出くわすことはこれまでもきっとあっただろうが、MCまで事前に考えているというきっちりとしたライブを行った先週の模索舎のステージを見ていたので、反対にこの日は緩さがあり、人柄まで垣間見られたライブになった。貴重なパフォーマンスを目撃できたわけで、結果的に良かったのだろう。
1.もしもこの世に言葉がなければ
2.銀河鉄道の夜
3.生きる (on Nujabes's track "reflection eternal")
4.未知との遭遇 Session with Atsushi Ito
5.ポエトリーリーディングは鳴りやまないっ
(on 神聖かまってちゃん's track "ロックンロールは鳴り止まないっ")
6.Pllicule
トーク(16分間)
7.いつか来るその日のために