すばらしくてNICE CHOICE

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2021.02.10 Wednesday | - | - | -
第83回アカデミー賞

2011年2月27日発表。

作品賞
英国王のスピーチ

<ノミネート>
ブラック・スワン
ザ・ファイター
インセプション
キッズ・オールライト
127時間
『ソーシャル・ネットワーク』
トイ・ストーリー3
トゥルー・グリット
ウィンターズ・ボーン


監督賞
トム・フーパー監督 『英国王のスピーチ

<ノミネート>
ダーレン・アロノフスキー監督 『ブラック・スワン
デヴィッド・O・ラッセル監督 『ザ・ファイター
デヴィッド・フィンチャー監督 『ソーシャル・ネットワーク』
コーエン兄弟監督 『トゥルー・グリット


主演男優賞
コリン・ファース 『英国王のスピーチ

<ノミネート>
ハビエル・バルデム 『ビューティフル BIUTIFUL』
ジェフ・ブリッジス 『トゥルー・グリット
ジェシー・アイゼンバーグ 『ソーシャル・ネットワーク』
ジェームズ・フランコ 『127時間


主演女優賞
ナタリー・ポートマン 『ブラック・スワン

<ノミネート>
アネット・ベニング 『キッズ・オールライト
ニコール・キッドマン 『ラビット・ホール』
ジェニファー・ローレンス 『ウィンターズ・ボーン
ミシェル・ウィリアムズ 『ブルーバレンタイン』


助演男優賞
クリスチャン・ベイル 『
ザ・ファイター

<ノミネート>
ジョン・ホークス 『ウィンターズ・ボーン
ジェレミー・レナー 『ザ・タウン』
マーク・ラファロ 『キッズ・オールライト
ジェフリー・ラッシュ 『英国王のスピーチ


助演女優賞
メリッサ・レオ 『ザ・ファイター

<ノミネート>
ヘレナ・ボナム=カーター 『英国王のスピーチ
エイミー・アダムス 『ザ・ファイター
ヘイリー・スタインフェルド 『トゥルー・グリット
ジャッキー・ウィーヴァー 『アニマル・キングダム


脚本賞
デヴィッド・サイドラー 『英国王のスピーチ

<ノミネート>
マイク・リー 『家族の庭』
スコット・シルヴァー, ポール・タマシー, エリック・ジョンソン, キース・ドリントン 『ザ・ファイター
クリストファー・ノーラン 『インセプション
リサ・チョロデンコ, スチュアート・ブルムバーグ 『キッズ・オールライト


脚色賞
『ソーシャル・ネットワーク』

<ノミネート>
127時間
トイ・ストーリー3
トゥルー・グリット
ウィンターズ・ボーン


撮影賞
ウォーリー・フィスター 『インセプション

<ノミネート>
マシュー・リバティーク 『ブラック・スワン
ダニー・コーエン 『英国王のスピーチ
ジェフ・クローネンウェス 『ソーシャル・ネットワーク』
ロジャー・ディーキンス 『トゥルー・グリット


編集賞
『ソーシャル・ネットワーク』

<ノミネート>
ブラック・スワン
ザ・ファイター
英国王のスピーチ
127時間


美術賞
アリス・イン・ワンダーランド

<ノミネート>
ハリー・ポッターと死の秘宝 PART 1
インセプション
英国王のスピーチ
トゥルー・グリット


衣装デザイン賞
アリス・イン・ワンダーランド

<ノミネート>
『ミラノ、愛に生きる』
英国王のスピーチ
『テンペスト』
トゥルー・グリット


視覚効果賞
インセプション

<ノミネート>
アリス・イン・ワンダーランド
ハリー・ポッターと死の秘宝 PART 1
ヒア アフター
アイアンマン2


メイクアップ賞
『ウルフマン』

<ノミネート>
『バーニーズ・バージョン ローマと共に』
『ウェイバック -脱出6500km-』


音響賞 (編集)
インセプション

<ノミネート>
トイ・ストーリー3
トロン:レガシー
トゥルー・グリット
『アンストッパブル』


音響賞 (調整)
インセプション

<ノミネート>
英国王のスピーチ
ソルト
『ソーシャル・ネットワーク』
トゥルー・グリット


歌曲賞
トイ・ストーリー3

<ノミネート>
Tom Douglas, Troy Verges, Hillary Lindsey "Coming Home" 『カントリー・ストロング』
アラン・メンケン, グレン・スレイター "I See the Light" 『塔の上のラプンツェル
A・R・ラフマーン, Dido, Rollo Armstrong "If I Rise" 『127時間


作曲賞
『ソーシャル・ネットワーク』

<ノミネート>
『ヒックとドラゴン』
インセプション
英国王のスピーチ
127時間


長編アニメ賞
トイ・ストーリー3

<ノミネート>
『ヒックとドラゴン』
『イリュージョニスト』


外国語映画賞
『未来を生きる君たちへ』 (デンマーク)

<ノミネート>
『ビューティフル BIUTIFUL』 (メキシコ)
籠の中の乙女』 (ギリシャ)
灼熱の魂』 (カナダ)
『Outside the Law (Hors-la-loi)』 (アルジェリア)


ドキュメンタリー長編賞
『インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実』

<ノミネート>
イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ
『Gasland』
『レストレポ 〜アフガニスタンで戦う兵士たちの記録〜』
『ヴィック・ムニーズ ごみアートの奇跡』
2011.02.27 Sunday 23:55 | | comments(0) | trackbacks(0)
不可思議/wonderboy@中目黒REDBOOK
本記事は、1週間前(2月19日)の模索舎でのライブ記事と同じく、不可思議/wonderboyが6月23日に亡くなったのを受けて、簡単なメモと下書き段階だった記事、それとかすかな記憶を頼りに書いたものです。


(写真は食べログから無断借用。ごめんよ)


20時から中目黒の小さなカレー屋でライブを行うという告知を彼のブログで見て、おそるおそる行ってみたら、本当に小さい店舗で、カウンターが7席ほど、テーブルは締めて3卓。関係者を抜かした純粋なお客さんがどれほどいたのか怪しいと思えるほどで、ただお店自体はいかにも中目黒といったお洒落な雰囲気を漂わせていた。内輪の空気が濃厚で入店するのに若干の気後れはしたが、ちょうど席も空いていたのですんなり収まったところで、didimo + Atsushi Itoという男女デュオの演奏が始めた。


【didimo + Atsushi Ito】 20:14〜20:31
1曲目の「みつめみるたび」は女性ボーカルのディディモによるギター弾き語り曲。どことなくCoccoを連想させる歌い方だなと思っていたら、最初のMCで沖縄の出身だと話していて納得。男性のアツシイトーはアコーディオン他を扱い、歌に広がりを持たせる。穏やかな曲が多く、声もいいし、メロディだって悪くない。音のセンスも良い。でも大きくはブレイクしないだろうし、それを望んでもいないんだろうなと思わせる良心的な音楽だった。


1.みつめみるたび
2.地球水槽
3.Venus As A Boy(Bjork)+シロギス(Original)
4.Blackbird(The Beatles)



【不可思議/wonderboy】 20:33〜21:30
続いて我らが不可思議/ワンダーボーイの出番。先週の模索舎にも来ていた客がちらほらいるということで、曲の入りに変化がなく、まるっきり同じになってしまうことを大袈裟に照れていたが、模索舎の時は遅刻して途中から見ることになったので、それはそれで運が良いと思えた。

"世界と僕は戦っている きっと世界が勝つだろう 僕に味方はいるのだろうか / 世界と君は戦っている きっと世界が勝つだろうけど 君は決して負けないだろう / 世界は今日もまた少し退屈になっていく"

ピッ!

そんな語りに導かれて始まったのは、後にリリースされるアルバムの冒頭を飾ることになる「もしもこの世に言葉がなければ」。

"手紙を読みます。1通は男の人から女の人への手紙。1通は女の人から男の人への手紙です。この手紙は22世紀に書かれたものです"。

ピッ!

もちろん人気曲「銀河鉄道の夜」。トラックは先週と違い、Yuji Otaniによるオリジナルトラック。しかし、曲を始める時に手元のMP3プレイヤーが発する電子音の無粋さはいかんともしがたい。せっかくのロマンティックな前振りが台無し。いざ、歌い出してしまえば、そんなことは忘れて、彼の物語る世界に没入できるとはいえ。

続いてNujabesトラックでの「生きる」。震災のチャリティシングルにもなったこの曲は3月11日を境にそのあり方、背負わされているものが大きく変わったけれど、曲そのものは関係なく輝きを放っている。いい曲だ。谷崎俊太郎の「生きる」だけではなく、「朝のリレー」を忍ばせてあるのもいい。

ここでセットリストにはなかった「未知との遭遇」をやるといい出した。店にカップルが多いということで、去年好きになった子に聴かせようと思って作った"ベタベタの気持ち悪いラブソング"「未知との遭遇」を急遽始めることに。彼の携帯MP3プレイヤーの中にはインストが用意されていなかったため、アカペラでの披露となったが、1ヴァース目の真ん中辺りでリリックが空に消え頓挫。アツシイトーがビートを出すことで、頭から再チャレンジするも、またもや1ヴァース目の終わりで挫けた。諦めない彼は、鍵盤で適当に上音を付けてもらい、続きの2ヴァース目から始め、飛び飛びの途切れ途切れ、必死でのたうち回りながらもどうにかこうにか最終節の"ハッピー・エンドレスな日々へ"に辿り着けた。

いつも練習しているやり慣れた曲に戻りますと「ポエトリーリーディングは鳴りやまないっ」。本人も自嘲していたように、確かに相当な安定感があった。Shing02が以前ライブでしていた話を思い出した。ラップは普通の歌と違い、筋肉のようなものだから練習をしていないと衰えてしまうそうだ。"作り込んできたMC"を経て「Pellicule」。

予定はここまでだったが、時間がまだあるということで、もう1曲という運びになった。しかし、その前にこの日が誕生日だという人にお店からケーキが贈られ、みんなでバースデイソングを歌い、ローソクが吹き消された。

「Pellicule」を終えてからの一連の流れは不可思議/ワンダーボーイにとってやや酷に見えた。普段はしないような大きなミスをしてしまい、精神的にもぐらついただろうに、全力でパフォーマンスし、全てを出し切った後に予定にはない1曲を求められ、そして歌い出そうとした矢先に主役の彼を蔑ろにする誕生日イベントが行われたのだ。

モチベーションを再度高めるためもあったのか、彼は冗談交じりに質問コーナーを設けた。彼のへりくだった物いいや時に慣れ慣れしいまでに親しげに振る舞う言動は彼なりの照れ隠しだったと思うのだが、この時間の彼は質問タイムといいながらひとりでよくしゃべった。

5月にリリースするファーストアルバム『ラブリー・ラビリンス』はこの日マスタリングが終わったという話。歴史的な名盤間違いなしとの太鼓判を自分で押すことはもちろん忘れない。また好きなアイドルは?との問いには間髪入れずにPerfumeのあ〜ちゃんと答え、映画よりも自分のペースで作品世界にひたれる小説の方が好みだと話していた。

最後の曲に対し、ライブを撮影していたLow High Who? Production主宰のParanelから「所信表明演説」はどうだとのリクエストがあるも、最近はライブでやっていないので厳しいと断っていたのが残念。結局あの曲を生で聴くことができなかった。

仕切り直しのトークを挟み、気持ちが戻ってきたのか、最後の1曲をやろうという段になって、再び邪魔が入った。誕生日の人がもうひとりいて、その人が近くまで来てるからもう少し延ばしてくれというのだ。そこで、名前の"wonderboy"の由来について質問が出た。大学生の時、酒が入ると思いっきりはしゃぐタイプでそれを見て回りがワンダーボーイだねといい出したのが始まりだという。学生の頃からその名前で活動していたようだ。

やっとその人も来店し、三度場が荒らされかかったが、マイクを握っている彼はある意味で怖いもの知らずな一面をのぞかせるようで、16分間の中断とも無理矢理なトークタイムともいえる時間を経たにも関わらず、"アルバムの中で唯一前向きな曲"という「いつか来るその日のために」を披露し、長かったこの日のライブを終えた。当初は25分を予定していたらしいが、終わってみれば1時間弱のステージになっていた。

立派なハコでのワンマンではなく、お店が主催するインストアライブということで、想定していない事態に出くわすことはこれまでもきっとあっただろうが、MCまで事前に考えているというきっちりとしたライブを行った先週の模索舎のステージを見ていたので、反対にこの日は緩さがあり、人柄まで垣間見られたライブになった。貴重なパフォーマンスを目撃できたわけで、結果的に良かったのだろう。


1.もしもこの世に言葉がなければ
2.銀河鉄道の夜
3.生きる (on Nujabes's track "reflection eternal")
4.未知との遭遇 Session with Atsushi Ito
5.ポエトリーリーディングは鳴りやまないっ
                (on 神聖かまってちゃん's track "ロックンロールは鳴り止まないっ")
6.Pllicule
トーク(16分間)
7.いつか来るその日のために
2011.02.26 Saturday 23:59 | 音楽 | comments(0) | trackbacks(0)
デュー・デート 〜出産まであと5日! 史上最悪のアメリカ横断〜 / Due Date

68点/100点満点中

ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』で大ヒットを飛ばしたトッド・フィリップス監督の新作。同作にアラン役で出演していたザック・ガリフィアナキスとロバート・ダウニー・Jrによるコメディ。製作費6500万ドル。2011年公開作品。

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待望の赤ちゃん誕生を5日後に控えた建築家のピーターは、妻の出産に立ち会うべく、アトランタで仕事を終え自宅のロサンゼルスへ急いでいた。飛行機に乗り込み、安堵したのも束の間、偶然後ろの席に座ったイーサンのおかげでテロリスト扱い、搭乗も拒否され、しかも財布も身分証も失ってしまう。帰る術をなくし、途方に暮れるピーターの前に、またしてもイーサンが現われ、LAまで車で行こうと持ちかけてくる。
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ロバート・ダウニー・Jr扮するピーターとザック・ガリフィアナキス演じる役者志望のイーサンによるアトランタからロサンゼルスまでの珍道中を描いたロードムービーでもある。建築家ピーターは大当たり作「アイアンマン」シリーズそのままのちょっと気取った印象なのだが、イーサンによって次第に壊れていく様が面白くもあり、最悪だったふたりの仲が変わっていく展開は感動的ですらある。

アメリカのコメディ映画としては悪くない。下ネタにしてもブラックジョークにしても笑える。ジェイミー・フォックスが登場した時の遺灰ネタは爆笑だった。でも、構成や笑いの質、意外な出演者や笑い転げたエンドロールといった細部に至るまで作り込んでいた前作『ハングオーバー!』が傑作すぎたために、どうしても見劣りしてしまうのは否めない。ザック・ガリフィアナキスの存在感を中和するのにロバート・ダウニー・Jrひとりでは弱かったかもしれない。

サプライズ出演というわけではないだろうけれど、有名どころなのにチョイ役で登場した俳優はジェイミー・フォックス以外にジュリエット・ルイスがいる。街の"薬"剤師役ははまり役だが、またずいぶんと老けた。序盤でいきなり出てきたRZAにもびっくりだ。ちょくちょく映画には出演しているが、アップで映されている印象がないので、今回はその長い顔をとくと拝めるのがちょっと嬉しかった。最後のドラマシーンでチャーリー・シーンも出ていたらしいが、これは全く気づかず。
2011.02.23 Wednesday 23:59 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
キック・アス / Kick-Ass

97点/100点満点中

ウォンテッド』の原作者マーク・ミラーが同じく原作を担当した同名アメリカンコミック(マーベル・コミックの子会社アイコン・コミックスより2008年出版)を基にしたアクションコメディ。製作費2800万ドル。2010年公開作品。

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アメコミ好きでスーパーヒーローに憧れるニューヨークの高校生デイヴは、ネット通販したコスチュームを身に纏い、勧善懲悪のヒーロー"キック・アス"として街でケンカの仲裁したところ、野次馬が撮影しYouTubeにアップした動画が評判を呼び、またたく間のうちに時の人となるのだが・・・。
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これは面白かった。公開と同時に見に行きたかったのだが、なぜかタイミングをことごとく逸し、公開終了間際なのに大入りの状態の映画館の補助席でどうにかこうにか見られた。昨年中に見ていたら、「2010年ベスト映画」に文句なしにランクインしていたはず。しかもかなり上位だ。


本作はヒーロー物の要素──冴えない男子学生、意中のかわいい女子、青春物語、秘密、誤解、強力な助っ人、まごう事なき悪、挫折・敗北、裏切り、大ピンチと起死回生の乱入、主人公の覚醒等々──をほとんど全て盛り込みながら、定石とは違う形で表現され、なおかつヒーロー物への悪意とも取れる冷ややかな批評視点もあり、でも最後の最後で全部引っくるめてカタルシスに繋げる。そこが本当にすばらしい。

学校では透明人間のように誰からも注目されない男子学生デイヴは、好きな女子に声も掛けられず、似たような同級生とつるむだけの生活を送る。ある日、誰もが一度は憧れる漫画や映画の中のスーパーヒーローにみんながどうしてなろうとしないのか疑問に思う。そして自分が弱き人間を助けるヒーローになろうと決意。緑の全身タイツのヒーロー、"キック・アス"の誕生だ。

しかし、そこは現実。漫画のようにはうまくいかない。生身の彼はスポーツも出来ず、もちろん武術の心得もない。ただマスクを付け、全身タイツの変人だ。その彼の苦戦と並行して、街のマフィアの壊滅を目論む本当のスーパーヒーローが存在することが明らかになっていく。その2本の線とマフィア親子の話はヒーロー物にあるはずの型をことごとく破るので思わぬ展開を見せる。

そのスーパーヒーロー親子が超人的な活躍を見せるたびに、実社会に仮にヒーローがいた場合、彼らが悪人に対して振るう暴力のえげつなさ・非道さがこれでもかとスクリーンに映し出される。やがて主人公デイヴは悟る。誰もが尊敬するスーパーヒーローになぜ誰もなろうとしないのか。しかし、各人の思惑がデイヴを再び渦中に呼び寄せ、迫力と笑いが満載のクライマックスへと導かれていく。

スーパーヒーローの漫画を多く出していることで有名な出版社から生まれた新たなヒーロー物にもかかわらず、その存在への批判的な眼差しを秘め、でも基本は青春物語とアクションで成り立ち、単純に楽しめる映画。古今東西のスーパーヒーローやアクション映画からの引用も多く、その過剰な演出に終始笑っていられる。クライマックスの書棚のシーンでの銃撃戦ではどうして白い鳩が飛び立たないのか不思議だった。音楽も最高。

有名な俳優はニコラス・ケイジぐらい。映画を選り好みしない彼が苦手なので久しぶりにスクリーンで彼を見たが、本作での"ビッグ・ダディ"役はとても良かった。しかし、神々しく光り輝いていたのは、その娘役"ヒット・ガール"を演じたクロエ・グレース・モレッツだろう。撮影当時は役柄と同じ11歳の1997年生まれ。物騒な台詞やナイフさばきとチャーミングな笑顔とのギャップが非常に漫画的でかわいらしい。『(500)日のサマー』で主人公のおしゃまな妹役をしていた子らしい。『ぼくのエリ 200歳の少女』のハリウッドリメイク版『Let Me In』にも出ているようで楽しみだ。

それほどの破壊力ある少女が活躍していながら、最後まで間抜けな闘い(その見事な対照に爆笑!しかも相手は『スーパーバッド 童貞ウォーズ』のバナナマン日村なあいつ!!)を繰り広げ、その存在感を失わなかったデイヴ役のアーロン・ジョンソンも良かった。ちょっと前なら『ソーシャル・ネットワーク』で本格的にブレイクしたジェシー・アイゼンバーグがやりそうな役柄で、最後の朝日のシーンではかっこいい男前な顔になっていたのも印象的だ。



************************************
<クロエ・グレース・モレッツ出演作品>

1997年、ジョージア州アトランタで、ドイツ系家族に生まれる。

2004年 堕ちた弁護士 -ニック・フォーリン- <TV> / 第3期17話・21話
2005年 マイネーム・イズ・アール <TV>
2005年 悪魔の棲む家
2005年 沈黙の脱獄
2006年 ラマだった王様 学校へ行こう! <TV> 【声優】
2006年 ゾンビ・ナース
2006年 100年後...
2006年 ビッグママ・ハウス2
2006年 デスパレートな妻たち <TV> / 第3期10話・13話
2007年 ダーティ・セクシー・マネー <TV> / 第1〜2期
2007年 プーさんといっしょ <TV> 【声優】
2007年 プーさんといっしょ/スーパー探偵団のクリスマスムービー 【声優】(YouTube: full)
2008年 アイズ
2008年 早熟のアイオワ
2008年 ボルト 【声優】
2009年 プーさんといっしょ/プーとティガーとミュージカル 【声優】(YouTube)
2009年 (500)日のサマー
2009年 リピート 〜許されざる者〜
2010年 キック・アス
2010年 モールス
2010年 クロエ・モレッツ ジャックと天空の巨人
2010年 グレッグのダメ日記
2011年 30 ROCK/サーティー・ロック <TV>
2011年 ヒューゴの不思議な発明
2011年 キリング・フィールズ 失踪地帯
2011年 HICK ルリ13歳の旅
2012年 パンクト <ドッキリ番組> / 第9期7話(YouTubeYouTube)
2012年 ダーク・シャドウ
2013年 ムービー43
2013年 キャリー
2013年 キック・アス/ジャスティス・フォーエバー
2013年 Girl Rising -少女たちの挑戦- 【ナレーション】
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2011.02.23 Wednesday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
不可思議/wonderboy&DOTAMA@新宿模索舎
本記事は2011年6月23日に若くして亡くなった不可思議/wonderboyのライブ記事である。記事の日付はこのイベントが行われた2月19日になっているが、書いたのは彼の死後だ。当ブログは昨年の中頃から更新が滞りだし、特にライブレポ物はまず書いてこなかったのだけど、彼の死は自分の中であまりに大きすぎて、気持ちの整理がつかず、通夜に参加し焼香をあげてみてもいまだもやもやしたものが溜まるだけなので、ブログを書くことで感情が収まるべきところに落ち着くのではないかと考えた。

当時のノートとすでに箇条書き程度には作ってあった下書き、それと許容量の小さい記憶を頼りに書いたものなので、もし事実と違うところがあったとしてもそれはそれ、本記事のレポこそが私の中の真実である。なお、ライブの様子はユーストリームで配信されていて、ここで視聴可能だ。



「LHW? Presents 模索舎インストアライブVol.2」に行ってきた。場所は新宿御苑近くにある"空を飛ばない本屋さん"模索舎。ここは、まあ思想的には偏ってはいるけれど(チェ・ゲバラはもちろん、連合赤軍Tシャツが売ってたりする)、硬派な書籍が揃っている古本屋で、昨年10月にも今回と同じくLow High Who? Production率いるParanel主催で「Vol.1」が行われていた。その時も不可思議/ワンダーボーイが出るというので行きたかったのだけど、ド忘れしてしまい、今回やっと参戦できた。

彼は主催レーベル所属のアーティストなわけで、出番はトリに近いだろうと予想し、少し遅れて新宿御苑前駅に着き、模索舎の場所を勘違いして覚えていたために若干さまよった挙げ句に、17時34分ようやく木の扉を開いたら、ちょうど不可思議/ワンダーボーイが宇宙で鉄道のレールを敷設する仕事に従事する男とその彼女の物語を紡いでいるところだった。


【不可思議/wonderboy】 〜17:50

宇宙と地球という膨大な距離を隔てて暮らしながらも、とてつもない心の強さを見せつけるカップルの話に続いて鳴ったのはNujabesの「reflection eternal」。美しい旋律に乗せて、谷川俊太郎の詩「生きる」を下敷きにし、狂おしいまで生を叫ぶ不可思議/ワンダーボーイがそこにはいた。この日のライブは時折詩が飛んでしまい、つっかえながらの披露となったが、"生きているということ 生きているということ 生きているということ 生きているということ"とたたみ掛ける後半はやはり強く心揺さぶられる。

"たった今この瞬間が過ぎて行くということ / いつかは死ぬと分かっていながら / 永遠なんてないと分かっていながら / それでも人は愛するということ / あなたの手のぬくみ / 命ということ"

クライマックスで、"それでも人は愛するということ"のラインを振り絞るように彼が発する時、陳腐なんて揶揄は簡単に吹き飛ぶ。そこには人が愛し愛されて生きていくことの尊さしかない。彼がいつでも全力で言葉に生を吹き込むからだ。20人も入ったらいっぱいになるような小さい店だけど、言葉が真摯に紡がれ、全体重が言葉に乗せられ、言葉を信じられないほど輝かせていた。

手元のMP3プレイヤーをピッと押すことで始まった次の旋律は、神聖かまってちゃん「ロックンロールは鳴り止まないっ」のあの印象的なピアノ。彼の曲は全て熱いのだけど、この短い「ポエトリーリーディングは鳴りやまないっ」は特別だ。声が裏返っても気にせず後半に向けて加速していく自分自身に向けた喝は、同じように聴く者をも奮い立たせる。

MCで話していたのは、5月にアルバムを全国発売するということ。でも毎朝起きるとラップを止めたくなるとも漏らした。"もう無理だもう無理だ"と思い始めてしまうが、しかしレーベルメイトや他の表現者、あるいは見てくれる客のひと言に支えられてどうにか続けていられると話し続けた。

そして、もうひとつ彼を支えているのが、サッカーをするためにタイに行った同級生だとの語りで始まったのが「Pellicule」。昨年末に不可思議/ワンダーボーイのパフォーマンスを代々木公園の夜空の下で初めて見た時にやっていた曲だ。あのときは詩人の会ということでアカペラだったが、この日はアルバムにも収録された観音クリエイションのトラックの上でだった。


評判に背中を押されて、wenodで『不可思議奇譚demo.ep』を手に取ったのが去年。代々木公園で偶然そのパフォーマンスを見たのが12月。そして、ようやくライブを見られたのがこの日だった。YouTubeでは路上ライブの様子も見ていたのだけど、道端ゆえにか声を無理に張ってライブする姿に正直不安はあったが、この日は場所が場所なだけに、声の勢いとほとばしる感情とのバランスがとても良かった。気持ちを伝えることを大切にしているのが伝わるライブだった。


・銀河鉄道 (on Chimp Beams's track "Menina")
・生きる (on Nujabes's track "reflection eternal")
・ポエトリーリーディングは鳴りやまないっ
                (on 神聖かまってちゃん's track "ロックンロールは鳴り止まないっ")
・Pellicule (original track)


【飯田華子】 17:51〜18:10
紙芝居。紙芝居を人に読んでもらうなんて何十年ぶりだろう。まあ、子供向けではなく、シュールな大人向け紙芝居ではあったけれど。面白かった。


【休憩】 18:10〜18:25


【DOTAMA】 18:26〜18:47

2008年の「ULTIMATE MC BATTLE」を制した般若がその東京予選の初戦で激突し、彼に正直負けたと思わせたラッパーがDOTAMAだ。眼鏡を掛け、頬がやや赤い色白の彼の見た目は実直な社会人そのものだが、MCバトルやサイファーで一度エンジンがかかると言葉の速射砲へと豹変する様は圧倒される。

ただ、音源となると微妙で、この日のライブで披露されたニューアルバム『ホーリーランド』はいまだ未聴だが、前作『音楽ワルキューレ』に少しも面白味を覚えず、言葉やテーマを大切にするラッパーであることは理解できても、どうにもこうにも馬が合わない。

独特なラップだ。とかく個性が求められるヒップホップではあるが結局は似たり寄ったりのラップになりがちな中において、甲高い声で独自のスタイルを持つ彼は目立つ。一度聴けば、すぐに彼だと分かる。しかし、どうにもこうにも声音が私にはアブストラクトすぎる。それはライブで実際に聴いてみても変わらなかった。

不可思議ワンダーボーイが持参していた、その名も"ワンダーアンプ"に繋げたMP3プレイヤーを操り、あらかじめ入れていたインストトラックを操作するわけだけど、その操作性の悪さから曲出しに手こずり、しかも『音楽ワルキューレ』のインストデータが認識されず、『ホーリーランド』からの曲のみのライブとなった。おかげで、BPMが速くライブするのは初めてという「future theory」が聴けたのは儲けものだったのかもしれない。


1.the return of abstract mc(?)
2.science fiction
3.神様になった少年
4.future theory
5.dreamday


【H&M(松田祥一&川連廣明)】 18:48〜19:00
道を歩いていると、想像することもできないような滑稽な恰好で道に倒れている男に出くわす朗読劇。お笑いコンビ・スリムクラブの漫才にも似た語り口で話されるオフビートなやりとりが面白かった。"ちゃっきりちゃっきりちゃっきりよ〜"。
2011.02.19 Saturday 23:59 | 音楽 | comments(0) | trackbacks(0)
パラノーマル・アクティビティ2 / Paranormal Activity 2

36点/100点満点中

製作費約135万円の超低予算ホラー映画『パラノーマル・アクティビティ』の本国版続篇。前作の監督・脚本を担当したオーレン・ペリは製作だけを務める形に。製作費300万ドル。2011年公開作品。

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2006年、田舎町で暮らすレイ一家に空き巣が入られる。大きな被害はなかったが、念のため各部屋にセキュリティ用監視カメラを設置。ところがその夜から、家の中では不可解な現象が立て続けに起こる。
************************************

シリーズ1作目の前作は同棲するカップルの家で怪異現象が起きたが、今回はダンとクリスティのレイ夫妻に年頃の娘アリと生まれたばかりの男の子、それと犬1匹が暮らすプール付きの豪邸が舞台となる。前作の大ヒットで製作費が200倍に跳ね上がったことが映像からもうかがえる。

登場人物の手持ちカメラで撮影するという疑似ドキュメンタリーでリアル感を煽り、恐怖をより身近にさせる手法は変わらない。ただ、今作は物語の冒頭で監視カメラを計6台設置することで、前作よりも観客の視界が圧倒的に広がる。反面、その6台のカメラからの映像が次々と切り替わるだけのスクリーンになってしまい、ただの手抜きとも映る。

登場人物が増えたとはいえ、展開はほぼ一緒。オチの驚かし方も一緒。私は最後の方でようやく気づいたが、ダンの妻クリスティ・レイは、前作の主人公ケイティの妹に当たる(ミカとケイティのカップルは序盤からずっと出ていたのだけど)。そのミカとケイティに前作で悪霊が取り憑いた原因が今作で明らかとなる。

しかし、ホラー映画として一番大事な恐怖が最後まで皆無なのは問題。原因が判明しても怖くなければ意味がない。それでも評価できるとすれば、何かが起きそうな空気が膨張していくというこのシリーズに共通する緊張感は確かにあること。けれど、結局何も起きなければ、観客の憤りしか生まない。

時系列的には前作の後日譚となる日本版『パラノーマル・アクティビティ 第2章/TOKYO NIGHT』が一番まともだ。しっかり恐怖を描こうと努力していた。ラップ音を突然鳴らせば、怖がるだろうという安直な演出だけには留まらなかった。
2011.02.19 Saturday 23:59 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
ZONE THE DARKNESS『THE N.E.X.T.』

2010年12月8日リリースのセカンドアルバム。
/5点中

1989年2月生まれ、東京都葛飾区新小岩在住のソロラッパーZONE THE DARKNESSの2枚目のアルバム。2008年暮れに行われたUMC東京予選でRUMIと当たり、MC名のダークネスに引っかけられ、"何か縁起悪いな"と攻撃されていたのをYouTubeで見て、その名前を知ったのが確か最初だった。生で見たのは翌年のBBOY PARK「UNDER 20 MC BATTLE」。決勝まで上りつめ、KOPERUに敗れはしたものの、好戦的なスタイルは強く印象に残った。

ただ、"好戦的"というのもものはいいようで、端的にいえば口汚く相手を罵倒するスタイルであり、好きになれなかった。だからその年にリリースされた1000枚限定の自主製作アルバム『心象スケッチ』もwenodで見かけはするのだけど、手に取ることはなかった。ただ、評判が高まる一方であり、昨年の早い時期だったかにものは試しとばかりに購入してみたら、MCバトルでのあの獰猛なラップではなく、丁寧なライミングと、表題通りに心のひだを丹念に言葉にしていくラップスタイルで同じラッパーなのかと驚いてしまった。

何でも、"2007年の冬、三度目の逮捕で少年院へと送致され"、"ラジオから聞こえてくるビートに合わせ、密かにリリックを書き溜める"というまさにストリート育ちの優等生そのものといった十代だったようだ。ファーストアルバムに収められた曲の大半はその頃の辛い心境を綴った曲となる。

本作は、沈鬱でモノクロームに包まれた前作の世界から一気に飛翔し、ジャケットからも明らかなように華やかな色彩を帯びた。EccyやYakkleといったStyle Recordsの音や、FragmentにMichita、PUNPEEという信頼のトラックメイカーのビートの上に、日本語のイントネーションを大切にし、パンチラインを炸裂させ、メッセージにこだわるラップが見事に着地する。これまで通りの精緻なライミングを捨てずに、さらにはSEEDAに近いフロウを試してみたり、また薬物汚染された「不思議の国のアリス」を生み出し、かたやShing02の「S02-2102」に肩を並べるSFストーリーテリングに挑戦していたりと目を見張る成長ぶりだ。

帯でHAIIRO DE ROSSIがいみじくも書いているように、ゾーン・ザ・ダークネスは"仲間や音楽に対して最高に真摯に向き合っている"。その熱意と歌詞カードがなくても伝わるラップは聴く者を奮い立たせる力がある。出自は真逆だし、リリックの内容も立ち位置も大きく異なるが、言葉に絶大な信頼を置くという点で神戸のラッパー・神門に近い。

もうひとつ、神門と似ている点がある。それはライブの方が良いということだ。彼のライブは上野のCastle Recordsで行われたインストアライブでしか見たことないのだけど、粗削りながらも、録音されたラップよりさらに体重が言葉に乗せられ、前のめりで突き進んだ40分間のライブではすごい量の熱がほとばしっていた。インストアライブだから、クラブとは違い、明るい蛍光灯の下で行われるわけで、スピーカーも満足できるものではないし、条件が悪いにもかかわらず、アルバムの曲をほとんど全曲披露していて本当に圧倒された。

それと比較してしまうと、整えられ聴きやすくなってはいるけれど、満足できずにいる。バラエティに富んだトラックにリリックを揃え、意欲作なだけに余計に残念だ。


キャッスル・レコーズでの購入者特典CD-R。

「僕と孤独と夜」(3"55)収録。
produced by fanfan

恋愛を綴った曲はアルバムの最後にミチタ・トラック(M13「You & Me」)で収められている。それと、未来SFストーリーテリング曲のM3「Tokyo25世紀」もまた最後に胸が熱くなるオチが待っている。しかし、この曲も収録した方が良かったのではと思うぐらいに突き刺さる恋愛歌であり、未収録なのはもったいない。

タワーレコード特典。
「Are You Ready? feat. O-JEE, バラガキ, ZEUS, T2K & Young Freez」(5"54)
produced by LostFace

前作同様に本作でも客演なしの男気溢れるワンマイクのアルバムとなったわけだけど、特典曲では東京の若手を集めた勢いのあるマイクリレー曲が収録された。M4「奮エテ眠レ」のリリックにも登場するオージーと、Yellow Diamond Crewからバラガキとゼウス、かつて渦中の人だったThe LoyalityのT2Kに、初めて名前を知ったLOCAL BABYLONのヤング・フリーズという5人と共にマイクを回す。
2011.02.15 Tuesday 23:58 | 音楽 | comments(2) | trackbacks(0)
呂布カルマ『四次元HIP-HOP』

2010年8月18日リリースのセカンドアルバム。


前作『13 Shit』から1年半で早くも2枚目となる名古屋のソロラッパー・呂布カルマ。2010年はトラックメイカー・鷹の目と立ち上げたレーベルJET CITY PEOPLEから、矢継ぎ早に無料ダウンロード曲の配信があり、またレーベルコンピのリリースと精力的に動いていた印象がある。

彼の1枚目はとにかく噛みついていた。ポップなヒップホップだけではなく、名指しこそなかったものの弱虫MCからハスラーラップまで、名古屋といえども日本語ラップ人口を考えればそれほど大きい街とはいえないわけで、不遜な言動は身に危険を及ぼさないのかと他人事ながら心配になる。しかも、相棒の鷹の目もまたそのトラック同様にTwitterでの呟きが辛辣で、なかなか刺激的なふたり組でもある。

呂布カルマのラップスタイルはさんピンCAMP世代の延長にある。悪ぶりながら我こそ一番との見栄をかっこよく切ってみせる古き良きMCのスタイルは、分かりやすい共通の仮想敵がいた90年代は成功できたが、一度持ち上げられたら最後、バブル後にその姿勢を保ち続けられるラッパーは激減した。新たなラッパー像を生み出せなかった彼らは見事なまでに迷走していった。決定的だったのは歩んできた人生の浮き沈みを率直に語るSEEDAたちの登場だ。

2010年代に入り、一時隆盛を誇ったそのハスラーラップも当事者が塀の中暮らしを嗜む事態となり、現在は下火だ。今はビートへの言葉の乗せ方に美意識を見出すスタイルが主流となりつつあり、リリックも健全なものに変わりつつある。

そこで、呂布カルマだ。絆創膏だらけの人生という強力な後ろ盾なしに、言葉のみで相手を挑発するスタイルは、"リアル"を基準に評価しがちなヒップホップというジャンルにおいて一段劣る印象を持たれるが、彼の言葉は押韻の固さとそのとことんまで研磨した切っ先で、相手を容赦なく袈裟懸けにする。"リアル"とはひどく抽象的なものであり、ヒップホップエリートな人生がなくても、ラップされる言葉に強度があれば、そこに"リアル"が宿ってしまう。もちろんそのためには韻やフロウといった補強は必要だが、呂布カルマはその技術も持ち合わせている。

本作の彼は早くも風格すらまとい始めている。鷹の目を始めとする提供されたトラックは一様にエッジの立ったブレイクビーツであり、その荒波の上を彼は易々と進み、余裕綽々だ。客演は前作に引き続き身内から選ばれているが、1枚目以上に気合いの入ったヴァースが吹き込まれている。M3「ショットガン・ジャブ」に参加している現場叩き上げのTOSHIやTYRANTのYUKSTA-ILL、M7「JET CITYの週末」でのCROSS BORN VANGUARDのふたり、M12「呪詞」ではPsychedelic OrchestraからZOOとBB9のB-eatが加わり、それぞれが主役に負けない確かな爪痕を刻んだ。

日本語ラップの面白さは英語と違って理解しやすい日本語のリリックによるところが大きい。ダンスミュージックとしての要素はフロウや韻に託され体が自然と反応し、かたや言葉は頭で理解し、そんな表現があるのかという驚きや痛快さを覚える喜びがある。ありがちなヒップホップ・イディオムに囚われていてはいつまでたっても到達できない高みに彼は悪態をつきながら、あるいはガンジャでぶっ飛びながら歩を進め、同時にふざけた同業者をいたぶりつつ、聴き手をもてなすことを忘れない。

彼を評価する声をあまり聞かないのが本当に不思議だ。東京でライブをしないからなのか分からないが、もっと支持されてもおかしくないラッパーだと思う。コンスタントに発表されている無料配信曲の状況からも、レーベルに勢いがあるし、"鉄板の2nd"に続く伝説のサードを間を置かずに聴けるかもしれない。楽しみだ。
2011.02.14 Monday 23:58 | 音楽 | comments(3) | trackbacks(0)
S.L.A.C.K.『SWES SWES CHEAP』

2010年8月4日リリースのファーストミニアルバム。
/5点中

本作の1曲目から鳴らされるのは、あの哀愁とも不穏とも感じられるGな音だ。日本ではいわゆる"ウエッサイ"な人たちが今も大切に継承している音だが、その音がもたらすメロウさをS.L.A.C.K.は自分のものにしようとする。

日本ウエッサイは、DJ PMXを念頭に置いて書いているけれど、匠による名人芸であるから、音は極めて高品質であり、機能性に優れている。が、スラックはジャケットからも分かるように、ウエッサイ畑が好む快適な高級車ではなく、燃費やエコを第一に考えていそうな大衆車だ。もちろん前輪が持ち上がり弾むこともない。しかも、セカンドアルバム『WHALABOUT』の延長線上にあるビートは、捉え方によってはサイドブレーキを引いたまま運転している印象でもある。

ぎこちない運転であってもドライブはドライブであり、ナイロン弦が爪弾かれるトラックや柔らかい音色のオルガンの切り出し、前作に続くBudamunkとの相性はずっと良くなり、彼はメロウに易々と蕩けることのない切っ先の立ったビートを送り込んでくる。最後は仙人掌を交えて、スラックなりの派手なGの音を出して終わる。

全9曲。うち2曲が短いインスト曲。1500枚の限定品。デビューの年に傑作アルバムを2枚も出し、ハードルをとてつもない高さにまで上げてしまったアーティストの作品としては満足できるものではないが、普通のトラックメイカーがM3「この道はどこへ」やM4「純粋」、M5「夢と現実の間 」のような音を出したら、文句なしで評価したかもしれない。それと、トラックはともかくとしてラップが音に溶け込みすぎていて、言葉が不明瞭になっているのが気になる。スラックはリリックも評価できるだけに残念だ。
2011.02.11 Friday 23:58 | 音楽 | comments(0) | trackbacks(0)
QN『THE SHELL』

2010年7月29日リリースのファーストアルバム。
/5点中

JABやEGOのファーストとは違い、結構期待してたからこそがっかりした1枚。

QNを中心とする神奈川県相模原のヒップホップクルーSIMI LABは、一昨年YouTubeにアップした「WALK MAN」ですでに注目を集めていたらしいが、私が知ったのは本作リリースの直前に発表された「The Stupid」のPVでだった。とてもかっこいいものだった。

地元の公園で撮影されたであろうそれは、アメリカのインディーズヒップホップが実践しているD.I.Y精神に溢れている。動画の編集が容易になったことで、簡単でもいいからとりあえず動画を作り、曲を親しみやすくし、作品の購買なりライブへの集客に結びつけようとする姿勢に忠実だ。ただ、撮影・編集自体は楽にできても、金をかけていないが故に粗削りなものとなり、素材の品質がそのまま露わになってしまう傾向にある。実力の有無が恐ろしいほど明白となるわけだが、彼らにはその心配は不要のようだ。

M6「The Stupid」のPVでは黒人が一番手で登場し、いきなり日本語でラップを始める。当時はQNの顔を知らなかったので、普通1ヴァース目を担うのは主役だし、これが噂のQNかと思ったのだけど、次のSnoop Doggのようなラップを始めた生意気そうな男が魅力的だった。ビートの上に軽やかに乗る。それをさも当たり前のこととしていて、音の微細な高低に瞬時に対応していくサスペンションは高性能そうだ。結局この男がQNでひと安心したわけだけど、曲の最後でモデルガンを片手にちびっ子ギャングスタがラップを始めたのも面白かった。ラップのかっこよさと同時にPVがひとつの作品としてエンターテインメントしていた。

本作発表時のQNは19歳とのこと。若い。ラップだけではなく、トラックも作る。アルバムにも参加しているEarth No Madは最初のうちはそういうふざけた名前のトラックメイカーが仲間にいるのかと思っていたら、いくつかの無料ダウンロード・プロジェクトを経るうちに、面倒くさくなったのか、彼の変名であることを明かした。本作には、他にもOMSB'Eatsというラッパー兼トラックメイカーや上記のM6で最初にラップしていたDyyp Ride、女性ラッパーMARIAといった具合に、いまだに構成人数が把握できていないシミ・ラボのメンバーが多く参加している。

19歳と若い上に、MCバトルでの実績や客演での活躍を耳にしたことがなく、いきなり名門FILE RECORDSからのリリースとあって、ハイプ臭を警戒してしまうところだが、そういうわけでもない。この1枚といくつかの無料DL曲を聴く限りでは、S.L.A.C.K.に近い感性を持ち、ラップの技術の高さだけではなく、その内容にも惹かれる。

本作にある空気感は上にも書いたがスラックに近い。厳しい現状を認識しつつ、音楽を楽しむ姿勢だ。"好きなようにやるよ しばし誰かの目誰かの耳より 俺らがただ楽しみたいだけ / 誰かみたく誰か気取りより 誰でもない俺でいたいだけ"とM6でラップする。様々な音を混ぜ込んだ良質なアングラビートと、しっかり作り込んでくるフック、力強さではなく、どんなビートにも対応できるよう殿馬のバットコントロールみたいなラップはひたすら軽快でいて、キャッチーさを内包し、聴いていても楽しいものだ。

それなのに低評価とするのにはふたつ理由がある。ひとつにはM7「SIRANAI SENPAI」でのオムスビーツのパンチラインがさんぜんと輝き、結局のところそのリリックしか記憶に残らないからだ。"リスペクトなしのディスです"。多くの言葉を尽くし、哲学を著してきたのに、オムスビーツはたった1ラインで強烈な印象を残す。ラップの面白いところであり、厳しいところでもあるのだろう。

もうひとつは、本作リリースと連動して行われた期間限定無料配信企画「Front Row」で発表された「Stain The Dark Side」が素晴らしすぎて、反対にどうしてアルバムに収録しなかったのかと憤りに近いものを覚えるからだ。実際はその企画で発表された5曲は"アルバム完成後に制作された最新録音源"であり、無理ないい分ではあるのだけど。

今はユーチューブで聴ける同曲を聴くと、エドワード・ホッパーの代表作「ナイト・ホークス」を連想する。静謐さと孤独が漂うあの絵を前にすると、人はダイナーの客となる。QNがあの絵の静かなる空間を求めてファミレスに入ったわけではないだろうが、同じ深夜営業のお店で彼の中の内なる「ナイト・ホークス」的世界と、実際の外世界(他の客)との間には軋轢が生まれる。ひとグループずつに悪態を吐くが、結局のところ自分に跳ね返ってくる。その深夜の内なる攻防には、状況は違えど、確かに静謐さと孤独がにじんでいる。この曲での彼はまさに路上の詩人だ。

そんなわけで、本作への私の評価は低いが、これからが気になるラッパーのひとりであることは確かだ。シミ・ラボ自体が興味深い。無料配信でのビート集を突然出したり、2月のミックスCDリリース、さらには秋口を予定していて遅れに遅れたアースノーマッド名義のアルバム『Mud Day』も3月に予定されている。最近はスラックを筆頭にAKLOやKLOOZといった作品が出るというだけでワクワクさせられるラッパーが増えて本当に嬉しい。
2011.02.10 Thursday 23:58 | 音楽 | comments(4) | trackbacks(0)
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