すばらしくてNICE CHOICE

暇な時に、
本・音楽・漫画・映画の
勝手な感想を書いていきます。
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2021.02.10 Wednesday | - | - | -
冷たい熱帯魚

81点/100点満点中

埼玉愛犬家連続殺人事件(1993年)を基にした園子温監督のスプラッタスリラー(間違ってないはず。アメリカではスプラッタ映画として公開されるらしい)。2011年公開作品。

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2009年1月14日。小さな熱帯魚屋を経営する社本信行とその妻・妙子は、万引で捕まった娘・美津子を引き取りに行ったスーパーで、激高する店長を取りなす村田幸雄と知り合う。村田も熱帯魚屋のオーナーであり、美津子を自分の店で預かってもいいと提案、継母である妙子との不仲に頭を痛めていた社本は、その申し出を受入れる。さらに村田は高級熱帯魚の繁殖という儲け話にも社本を誘う。口の上手さと押しの強さに、社本はいつの間にか村田のペースに呑み込まれていく。
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評判通りに今回も園子温はすごかった。見終えた後に言葉が出ない。『愛のむきだし』よりは上映時間が短い(それでも146分)ために、すっきりとした作品にはなっているが、暴力の連鎖が倍々ゲームで加速され、壮絶なスプラッタ修羅場と断ち切れない鎖の末端に囚われたままの人間が吐き出す悲しくも壮絶な言葉("やっと死にやがった")の前に立ちすくんでしまった。

私が偶然見に行ったテアトル新宿では楽日の1日前ということで、主な出演陣と園監督、共同脚本の高橋ヨシキによる舞台挨拶が上映後に行われ、かなり面白いエピソードが披露されたこともあり、どよ〜んとした気分が吹き飛んだのは幸いだった。

しかし、でんでんというおそらくこれまでも見てはいるのだろうけれど、ひとりの役者として初めてはっきりと認識できた彼の押し出しの強い演技は圧巻だった。その妻・村田愛子役だった黒沢あすかと共に豹変スイッチの入りがすばやく、またその牙を引っ込めるのも敏速で、作品の流れは完全に彼が演じる村田幸雄が握っていた。

暴力衝動というとても単純明快で、一度それに身を委ねると快感すら得られる強い感情は簡単に人にうつる。幼少期に身近にあれば、父から子への伝播はたやすい(そういえば、本作にはこの衝動に双子のごとく必ずくっついてくるアルコールがなかった)。一方、被害者ともいえる、吹越満演じる社本信行は、おどおどとした外見通りに人畜無害の仮面をかぶり続けるが、村田との強固な結びつき(擬似的な親子関係)を通し、突如変貌し、彼がというよりも、人間が普段は理性で覆い隠している醜悪な負の顔をこれでもかと暴いてみせ、物語を有終の美に繋げる。

『愛のむきだし』は、整理されていない作り手の感情のマグマを方々で噴出させる作品であり、その爆発力に驚かされたが、本作ではより分かりやすい物語になったことで、園監督のたぎった土石流には翻弄されなかったものの、キャラクターたちの感情のはじけ方は相変わらずすごいものがあり、楽しめた。


上映終了後の舞台挨拶には、園監督や高橋を始め、吹越、でんでん、黒沢、社本の妻・妙子役の神楽坂恵、社本の娘・美津子を演じた梶原ひかりらが登場。順番に感謝の言葉が述べられた後、観客からの質問コーナーに移った。最初に出た質問、"印象に残っているシーンは?"への答えが面白かったので、箇条書きにする。

吹越満(社本信行役)
撮影初日から殺害の手伝いを強制された翌朝にビールを流し込む場面で、まだどんな映画になるかも分からないまま朝7時に撮った。

神楽坂恵(社本妙子役)
終盤、娘が気絶してる脇で夫婦が抱き合うシーン。その撮り自体は早朝だったが、本当は前日の朝早くから撮影していたため丸一日続いた疲れから、最後の寝てるシーンで一瞬の睡魔に襲われてしまった。次に目を開けたらまだ撮影が続いていて、慌てて目をつむったがもう遅く、NGを出した。

梶原ひかり(社本美津子役)
撮影初日は、社本に振り回され彼氏の車に激突する場面。本気で押されたために鼻血が出たが、初日ということもありテンションが高く、カメラを止めてはいけないと自分で拭って、撮影を続けた。けれど、内心は鼻が痛いし、帰りたいと思ってもいた。また、撮影序盤は監督からのダメ出しが多く、"暗黒のクリスマス"を送った。

でんでん(村田幸雄役)
社本の妻・妙子との濡れ場で胸を揉みしだくシーン。神楽坂恵が何度もNGを出したので役得だったと役になりきった表現で会場を笑わせていた(地かもしれないけど)。フォローした監督いわく、神楽坂の演技に問題があったということではなく、ワンテイクで撮りたかったので数パターンか試し、でも結局最初のテイクを採用することになった。

黒沢あすか(村田愛子役)
三児の母親で、体型のことを考えると役をもらえるか不安だったが、役を得られた上に弁護士・筒井とのセックスシーンで、自分では難があると思っていた体型をカメラ位置を工夫し美しく撮ってくれたので、あのベッドシーンがお気に入りとのこと。続けて、撮影当日に監督から、"バック・騎乗位・正常位で"とリズムだけは良いが、その実あいまいな指示があっただけで、具体的にどうすれば良いのかと説明を求めると、いつもやってる通りでいいよとつれない答えが返ってくるだけで、仕方なく筒井役の渡辺哲と頑張ったとのこと。役者も大変だ。

高橋ヨシキ(共同脚本)
村田幸雄が社本にそのうちお前ひとりでやらなければいけないんだぞという、おぞましい解体シーン。繰り返し見れば見るほど笑えるとのこと。骨に醤油をかけて燃やしたのは、ベースとなった愛犬家連続殺人事件の供述に基づく。市街地で燃やしたため、臭いを考え、香ばしくなるよう醤油をかけた。

園子温(監督)
村田幸雄の勝新太郎、あるいは風呂場での脱腸がどうのという思わず笑ってしまう会話や鼻歌は俳優のアドリブであり、かなり助けられたとのこと。後半に時計がデシタル表記になる意味を問われると、ウィリアム・フリードキンの『L.A.大捜査線/狼たちの街』を若い時に見てかっこいいと思った演出であり、いつか自分の作品でもと考えていただけで、深い意味はないと答えていた。


45分ほどで舞台挨拶は終わり、最後には出口で監督・俳優が並び、ひとりずつ握手して見送られた。映画はできるだけ劇場で見ようとはしているけれど、舞台挨拶は初めてだった。結構面白いものだね。内容が内容だっただけに、弾む感じで劇場の外に出られたのは本当に良かった。
2011.03.30 Wednesday 23:58 | 映画 | comments(2) | trackbacks(1)
復讐者に憐れみを / 복수는 나의 것

58点/100点満点中

2002年のパク・チャヌク監督作品。復讐三部作(『オールド・ボーイ』(2003)、『親切なクムジャさん』(2005))の1本目。

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聴覚障害者のリュウは、重い腎臓病を患う姉のために自らの腎臓を提供しようとするが、検査の結果は不適合と判明。臓器売買の闇取引に望みを託すも、結局騙されてしまう。そんな折、病院からは移植ドナーが現われたとの連絡が。手術費用がないリュウは、女友達のユンミにそそのかされ、自分をクビにした工場経営者ドンジンの幼い娘を誘拐する。
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突然誘拐され、15年間も監禁されていた男がその理由を探り、復讐する『オールド・ボーイ』は傑作だった。当時、『ソウ』を見たかったのに劇場が満席で、仕方なく選んだ映画だったのに、幕が下りた時にはその圧倒的な暴力描写と演出に打ちのめされたのを今でもよく覚えている。本作はその原点ともいえる作品らしいが、あまりに粗削りで驚かされた。

人物の心理をいちいちモノローグにしたり、物事の推移を省略せず、分かりやすいカットを挟み込んでいく今の日本のドラマのような過保護ともいえる演出は、反対に見る側を馬鹿にしているとしか思えないが、省略しすぎて何が何やら分からない作品も問題だ。

パク・チュヌク監督の2009年の作品『渇き』では殺される夫ガンウ役だったシン・ハギュンが演じた今回の主人公リュウと、その女友達で社会革命を志すユンミ(『グエムル』『リンダ リンダ リンダ』『空気人形』のペ・ドゥナ)との関係が終盤に説明されるまで分からなかった。ほとんど登場しないリュウの姉と混同している時もあったほどだ。序盤の公園で縄跳びシーンで、楽しげに革命歌(?)を歌いながらジャンプしているユンミを微笑みながら見ている長髪の女性は誰だろうと思っていた。

本作での復讐する側は娘を誘拐されたドンジンを、リュウ役のシン・ハギュンと同じく、『渇き』で相変わらずの怖い演技を披露したソン・ガンホが務める。『殺人の追憶』や『グエムル』でもそうだったが、この人が出るだけでこの映画は大丈夫なのだという安心感が生まれる。

ドンジンが復讐を考えるのはリュウに対してだが、リュウもまた自分を騙した臓器売買の闇組織への復讐を画策する。最後にはもうひとつの組織が登場し、即座に無慈悲に完了されて終わる。普通に考えれば、鼻白むしかない唐突なオチではあるのだけど、邦題あるいは英語タイトル(Sympathy for Mr. Vengeance)を思い、また原題が"復讐するは我にあり"という意味だと知るに、なるほど復讐者たちの物語であり、必然なのかなと考えないこともない。

ただ、ドンジンがリュウを追う時にどうしてそれだけの手がかりで追いつめられるのかと疑問に思うことが多く、容赦のない暴力シーンこそは期待通りのものだったが、なんだかなぁという思いは最後まで拭えなかった。最後の復讐者が標的の居場所をどうやって知ったのかも不明だ。

遠目から撮影することで、暴力に客観性が生まれ、残忍さが増す演出は良かった。それと、前半での斎場の火葬炉に棺桶が送り込まれていくシーンを受け、後半のエレベーターが降りていく場面もきれいだ。切なげに指を絡めるところも見事。
2011.03.29 Tuesday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
スモーキング・ハイ / Pineapple Express

57点/100点満点中

セス・ローゲンが製作総指揮、脚本、主演をした2008年のコメディ。製作はお馴染みジャド・アパトー。「スパイダーマン」シリーズで注目されたジェームズ・フランコは本作の売人役でゴールデングローブ賞主演男優賞候補に。製作費2500万ドル。日本未公開作品。

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仕事中もマリファナでハイになる自然派の召喚状配達人デール。ある日、馴染みの売人ソールから、"パイナップル・エクスプレス"という極上レアものを手に入れる。ご機嫌で次の召喚状の届け先である麻薬王テッドの家に辿り着くと、テッドと女性警官がアジア系男性を射殺するのを目撃してしまう。慌てて逃げ出すが、落としてしまったマリファナから足がつき・・・。
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邦題が『スモーキング・ハイ』だったので分からなかったけれど、見ているうちにどうも知ってる内容だなと気づき、フロントガラスに大量のシェークがこぼれるシーンで、アメリカの映画ランキングを伝える番組「Showbiz」で予告編が流れていたのをようやく思い出した。売人と客が麻薬組織から一緒に逃げるというドタバタな設定に一瞬興味が湧いたものの、アメリカンコメディの常で結局ゆるい仕上がりなんだろう、見なくていいかもと思った作品だったが、見事的中していた。原題は劇中に登場する大麻の品名をそのまま付けた"Pineapple Express"。

セス・ローゲン演じるデールと売人のソールは、どこにでもある売人と客の関係だったが、やがておっかない街の元締めテッドに追われ始めると互いに助け合い、励まし合い、共にハイになって笑い合い、急速に仲良くなっていく。つまり、バディものとして進行する。そして、そのジャンルの定番といえる展開を踏み出ることはなく、終盤に向かい物語は徐々にアクションシーンを増やしていく。王道路線を歩むセス・ローゲンとジェームズ・フランコのふたりは、隙あらば体を張った笑いをねじ込むことを最後まで忘れない。

終盤のアクションは過度に大袈裟であり、有名作品のパロディも散見されるが、思ったよりも製作費が得られたのでちょっと火薬の量を増やしてみるかといった制作側の思惑が垣間見られるようだ。しかし、作品全体を覆う緩さは強固なもので、緊張感はほぼない。

抱腹絶倒とはいかないけれど、セス・ローゲンのろくでなしっぷりやふたりのハイっぷりに微笑みながら見ることはできる、米コメディ映画としては平均点レベル。
2011.03.26 Saturday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
ヒルズ・ハブ・アイズ2 / The Hills Have Eyes 2

45点/100点満点中

ウェス・クレイヴンの『サランドラ』(1977)をアレクサンドル・アジャがリメイクした『ヒルズ・ハブ・アイズ』の2007年の続編スプラッタホラー映画。監督はフランス人のアジャからドイツ人のマーティン・ワイズへと代わり、クレイヴン自身が息子のジョナサン・クレイヴンと共に脚本を担当。製作費1500万ドル。

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前作の舞台にもなったニューメキシコの16区と呼ばれる旧核実験場。前回の惨劇から2年が経ち、今度は米軍兵士が足を踏み入れ、再び食人一族の餌食となる。
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奇形の人食い一族が核実験の被爆者という日本人にとってどぎつい設定であるために公開が危ぶまれたシリーズであり、同じ理由から大手レンタルチェーンTSUTAYAでは販売・貸し出しを自主規制している。1作目は劇場で見られたものの、続けて公開された本作は結局行けずじまいだったために、ずっと熱望していて、ようやく見ることができた。

が、成功した1作目の続篇はたいていがクソという公式通りに本作もまごうことなき凡作。『ハイテンション』や『ミラーズ』のアレクサンドル・アジャが今回もメガホンを取ったものと勘違いしていたのもまずかった。彼は本作に全く関わっていない。

"今度は戦争だ"と『エイリアン2』のキャッチコピーを丸パクリした宣伝文句そのままに、米陸軍対食人たちの構図となるが、軍人側は上官ひとりを抜かしてほとんど新兵であり、"戦争"と銘打つほどのド派手な戦いはない。どちらかといえば、食人たちが暮らす洞窟内での描写が多く、『ディセント2』に近い。闇に紛れて襲撃されるために結局何が起きているのか分かりにくい。また、前作にもいた味方となる食人さんが唐突すぎて、興を削がれる。

最後の最後でスプラッタの名に恥じない、えげつない描写があるものの、総じてどこかで見たような映像や展開に留まり、3作目が制作されなかったのも納得だ。

面白かったのは、オープニングでの新兵ナポレオンと上官との会話。"大統領は嘘をつきすぎる"とナポレオンが抵抗すると、上官は答えて曰く、"だますのが大統領の仕事だ。トルーマン以来、真実(True)は語られん。彼の言葉を知ってるか?「最終責任は私にある」だ!"。(ハリー・S・トルーマンは第33代大統領[1945年4月12日〜1953年1月20日]。日本への原爆投下を承認し、国連の創設、朝鮮戦争を遂行した大統領でもある。劇中の発言は、"the buck stops here"であり、直訳は"ここで止まる"。つまり、"責任はホワイトハウスの執務机で止まる"という意味であり、劇中で訳された通り。以上ぜーんぶウィキペディアより)

それと、米ドラマ「新ビバリーヒルズ青春白書」のシルバー役ジェシカ・ストループが女性兵アンバーを演じているが、本記事を書くためにクレジットを調べるまで全く気づかなかった。
2011.03.22 Tuesday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
トイ・ストーリー3 / Toy Story 3

81点/100点満点中

前作から11年。2010年の「トイ・ストーリー」シリーズ第3弾はついに3D上映となった。前2作で監督を務めたジョン・ラセターは制作総指揮に回り、これまで編集に携わり、『ファインディング・ニモ』では共同監督も果たしたリー・アンクリッチがメガホンを取った。製作費2億ドル。

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1作目から10年後、17歳になったアンディは大学進学のために引っ越しすることに。一番のお気に入りだったカウボーイ人形のウッディだけを持って行くことにし、それ以外のバズやジェシー、スリンキードッグといったおもちゃは屋根裏部屋行きが決定した。しかし、手違いで危うくゴミに出される事態になった彼らは、ウッディの説得もむなしく、託児施設サニーサイドに行くことを決断。クマのヌイグルミ・ロッツォに迎えられ、新たな遊び相手が出来たことを喜ぶ一同だったが・・・。
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ウッディらの持ち主アンディは17歳となり、さすがに人形遊びをする年齢でもなく、おもちゃ箱の面々は寂しい思いをしている。前作から加わったカウガールのジェシーは、子供が成長するにつれておもちゃで遊ばなくなり、お払い箱となったおもちゃはやがて捨てられるという苦い経験を思い出す。実際に、前2作に登場したペンギンのウィージーやウッディのガールフレンド、ボー・ピープの姿は今はなく、おそらく処分されてしまったのだろう。残っているのはウッディ、相棒のバズ、ジェシーに、馬のブルズアイ、ポテトヘッド夫妻、ティラノサウルスのレックス、ブタの貯金箱・ハム、バネ犬のスリンキードッグ、大好きリトルグリーンメンという不動のレギュラー陣のみだ。

今回も例によってアンディの母親の勘違いから、アンディ以外のおもちゃは託児施設サニーサイドに向かうことになる。代替わりすることで遊んでくれる子供が決していなくならない託児所はおもちゃの天国に一見思えるが、その実態が次第に明らかとなる。一方のウッディはアンディのおもちゃであるとの強い信念から彼のもとに帰ろうする。が、その帰路で4歳児のボニーに拾われてしまい、彼女の部屋に行くことに。彼女の人形たちからサニーサイドに巣くう恐ろしいボスの存在を聞いたウッディは、アンディの家に帰るのではなく、サニーサイドにいる仲間の救出を決意。

サニーサイドからの脱出劇やその後の展開ではアクションシーンの連続で、前作『トイ・ストーリー2』よりも冒険活劇度合いがさらに増し、手に汗を握る。3D上映になったことも影響したのだろう(レンタルで見たので関係ないけど)。ミセス・ポテトヘッドの片目の活躍は意外な伏線で面白いし、リトルグリーンメンがついには自分たちでクレーンを動かすという笑える展開は、唐突だっただけに呆気にとられるけれど、実は彼らの仕業だったというオチに思わず許せてしまう。

本シリーズは教育的なメッセージが強いものの、決して押しつけがましさがなく、物語のなかに見事に溶け込ませているのが良いところなのだが、本作では作り手の主張がやや露骨に出てしまっているのが残念だ。おもちゃはそれを大切に楽しく遊ぶことのできる子供の手にというオチはとても素敵だし、よく練られた脚本だとも思う。だからこそ露わになっているメッセージが無粋であり、鼻につく。でもまあ、大きなスクリーンで作品に完全に没入していたら、ラストシーンではハンカチを手放せなかったことだろう。
2011.03.20 Sunday 23:59 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
クレイジー・ハート / Crazy Heart

66点/100点満点中

主演のジェフ・ブリッジスは第82回アカデミー賞とゴールデングローブ賞で主演男優賞2冠に輝き、また主題歌「The Weary Kind」も同じくそのふたつの賞で歌曲賞を獲得した2009年の作品。俳優としても活躍するスコット・クーパーの初監督作。製作費700万ドル。

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57歳のカントリー歌手バッド・ブレイクは、昔はヒットを飛ばしたこともあったが、今では場末のバーをドサ回りする日々が続く。新曲も書けず、かつてのサイドマン、トミー・スウィートの活躍を苦々しく思い、酒びたりの毎日だ。ある日、地方紙の女性記者ジーン・クラドックの取材を受けることになるが・・・。
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カントリーミュージックについてほとんど知らない。が、Taylor Swiftの名前やその曲はさすがに聴いたことがあるし、相変わらず勢いのあるR&Bやヒップホップの隙を突くように、ビルボードでもカントリー音楽が以前に比べれば上位に食い込み始めている。実際に2010年のCD売上データを見ると、デトロイトのラッパーEminemが340万枚で首位だったものの、2位はカントリーのLADY ANTEBELLUMで310万枚、3位はテイラー・スウィフト300万枚となっている。

劇中では、昔ながらのスタイルを守り続けるバッド・ブレイクに対し、女性記者ジーンが最近のポップな要素を取り入れたカントリーミュージックをどう思うかと質問する場面がある。今のカントリーの盛り返しはそうしたポップ要素が受けてのことなのだろう。そして、本作はより若い層にも受け入れられ、市場が大きくなっている現状を踏まえて作られた映画なのかもしれない。

とはいっても、音楽を描きながらも、基本はひとりの男の挫折と再生の物語だ。本作の少し前に公開されたミッキー・ロークが老いたプロレスラー役を熱演した『レスラー』に近い。『レスラー』の場合は、ミッキー・ロークの生き方と重ね合わせて見てしまうというとてつもない強みがあったが、本作はジェフ・ブリッジズの演技力だけが支えとなっている。ただ、どちらにもいえることだけど、主演の生き様や演技力に頼り切ってしまい、脚本は一本調子でメリハリがなく、どこかで見たようなドラマが続くのは同じだ。アメリカの雄大な風景や本当に歌っているのかと疑いたくなってしまうような年季の入ったブリッジスの歌声がなければ、寝入ってしまうところだった。

再起したブレイクが作った「The Weary Kind」よりも、施設を出た後にまず酒場で歌った「Brand New Angel」に惹かれた。迫力のある低い歌声は魅力的だ。あと、ジーン役のマギー・ギレンホールがずいぶんと顔立ちが面白くなっていて、その普通のおばさんらしかったところが本作に微妙なリアリティを加えていたように思う。
2011.03.19 Saturday 23:59 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
MINT『MMM(MINT MEGA MIX)』
はじめに。2011年3月11日14時46分、太平洋三陸沖を震源とするマグニチュード9.0の東北地方太平洋沖地震が発生した。その被害の甚大さは連日のテレビや新聞報道、あるいはTwitterなどを通して広く伝えられているところであり、おののくばかりだ。

東京住まいのためにほとんど被害を受けていないとはいえ、今まで経験したことのないゆらゆらといつまでも続く大きな揺れに軽く酔い、頻発する余震に怯え、テレビから突如発せられる緊急地震速報の音にまごつくことしきりだ。もちろん、被災地の苦労や悲しみ、怒り、恐怖といったものには及びもつかないわけだが、刻一刻と悪化の一途を辿っている福島の原子力発電所の異常事態もあり、以前はずいぶん安穏とした日々を送っていたのだなと気づかされている。

直接的な地震被害がなかった身としては、被災地に役立つことをやれることからしていこうと思う。アーティストたちも自分たちができることを、ということで次々と動き始めている。人気漫画家が被災地を勇気づけるイラストを公表し、ミュージシャンたちはYouTubeなどに自作曲をアップしている。

その中でもラッパーのHAIIRO DE ROSSIは、いち早く「PRAY FOR JAPAN」を発表した。最近の彼の動きはデビュー時の印象からずいぶん変わり、いわゆるコンシャス・ラッパーとしての側面を強くしている。新聞の見出しを読み上げるだけの社会派ではなく、足元の現実からじわじわと射程を伸ばし、自分の言葉で時事問題をラップするので、ただの報道に陥らない。その点にも強く"意識的である"彼のリリックは頼もしい。

トゥイッターのタイムラインに流れてきた順で、地震被害地/被災者に捧げられた曲を列挙。

・HAIIRO DE ROSSI
  「PRAY FOR JAPAN」[YouTube](リミックス用アカペラを彼のアカウントからDL可)
・S.L.A.C.K., TAMU, PUNPEE & 仙人掌
  「But This Is Way」[YouTube]
・不可思議/wonderboy (LOW HIGH WHO? PRODUCTION)
  「生きる」[YouTube]
・Paranel (LOW HIGH WHO? PRODUCTION)
  EP『smile』[HP]
・MITO (クラムボン)
  「312 (a song dedicated to all the victims of east Japan great earthquake)」
・Mura-T a.k.a. Mulatino                               [YouTube]
  mixtape『0311 and 0314』[SoundCloud]
・写楽 (岩手県盛岡のラッパー)
  「2011/3/11」[YouTube]
・ホフディラン
  「スマイル」[blog]
・EL NINO(Olive Oil + MC FREEZ)
  「Love and peace to people on all the earth from Fukuoka」[YouTube]
・S-SENCE (ex.LIFE ART VISION)
  「20110311 (track by 130beats)」[blog]
・Small Circle of Friends
  「mountain top」[blog]
・FESONE (ラッパー)
  「Changes」[YouTube]
・YuuyuAensland aka Cherry Brown
  mixtape『#LSM0314_Yuuyu Aensland_Mix』[HP]
・狐火
  「被災地のあなたへ」[YouTube]


被災地最前線から届けられた写楽のラップの生々しさとその気持ちの強さ。乱れる今の感情を丸ごとリリックに封じ込め、下を向くのではなく上を見ようと自ら奮い立たせるエッセンス。谷川俊太郎の詩を元にラップした不可思議/ワンダーボーイの「生きる」は今このタイミングで聴くと、背中をさらに強く押してくれる。スラックとパンピーの高田兄弟を中心にDOWN NORTH CAMPの面々が作った「But This Is Way」には言葉もない。内に向けて歌われるスラックと、外に向かう兄パンピー。本当に素晴らしい曲だと思う。


さて、本題。


MINT『MMM(MINT MEGA MIX) Edited & Mixed By PsycheSayBoom!!!』

2011年3月10日アップの無料ダウンロード・ミックステープ[blog]。
25種類のカバージャケットが封入されているので、そのうちの8枚を選択。
/5点中

本当は独立した記事にしたかったのだが、震災被害のための曲と合わせて書く方が良いと思い、一緒にした。ミンちゃんの『MMM』は震災後さらにヘビーローテーション化している。本作は上に挙げた曲と同じぐらいに強く励まされる作品だからだ。11日以降聴いているのは他にもTony Kontanaの2本のミックステープやRIP SLYMEやMichitaの新譜があるけれど、落ち込む一方の気分を高揚させたい時はミンちゃんに限る。

ミンちゃんことMINTを簡単に説明すると、大阪を代表するヒップホップグループ韻踏合組合の一員でもあった神戸のラッパーであり、2004年に同グループを脱退してからは、2007年にソロでファーストアルバムをリリース。2009年5月に無料DLアルバムとしてMINT&Girlz N' Boyz名義で『SUPER FREE』を、さらに2010年元旦にはフリーDLアルバムの第2弾として『Girlz N' Boyz Presents sex, lies, and download file vol.1』を発表している。昨年は無料配信曲をコンスタントに出し、ネット上で常に注目されているラッパーのひとりだ。本作は2009年の『SUPER FREE』から2010年のDL曲までをメガミックスさせたものとなる。

ただメガミックスとはいっても、サイケセイブーム!!!の名前がエディットとミックスで表題にクレジットされていることからも分かるように、元々の形がどうだったのか判別できないほどに編集の手が入っている曲が並ぶ。ダブルネームにしても良かったのではと思うぐらいで、そのミックスと編集手腕は気持ち良いほどに独善的だ。"緑のクサとか白い粉 紫のクスリとか必要ねー"と、"ジタニカ(自宅2階の意)"でラップするミンちゃんを強引にクラブに連れ出し、白い粉でも含ませて踊らせラップさせてしまった感すらある。つまり、ぶっ飛んでいる。


ミックステープの前半は、一昨年に出された『SUPER FREE』や2010年初頭の『sex, lies, and download file vol.1』からの曲が並ぶ。BPMが格段に跳ね上がり、目を回さんばかりのミンちゃんのラップが続く中、Cherry Brownが顔を出すM6「なんもない」辺りからその変態度も加速される。無地Tシャツがいかに素晴らしいかを力説するM7「Muji Tee (Remix)」ではベシベシと叩き付けられるベースがかっこよすぎる。そして白眉はやっぱりM9「おまんちょ」。卑猥な言葉が脳内でとろけ、もう放送禁止でも何でもないんじゃないと思い始めるところに、さらに脳の融解を促すシンセサイザーが挿入される。原曲も本作を予感させるクラブ寄りの音だったM10「No More Game」ではファミコンからの牧歌的なサンプリング音をここぞとばかりにどやしつけている。ここの流れは最高だ。

大ヒットアニメ「けいおん!!」の曲をリミックスしたM13「No Thank You (Remix)」やM14「ごはんはおかず (Remix)」は駆け足で過ぎ去り、数発の銃声を響かせてから始まるM15「Yeahでごまかしてる」はミンちゃんの曲の中でもリリックが際立って良いとあらためて実感できる。例えメロウだった原曲が加速させられていてもだ。

ミンちゃんが取り上げたことでAKB48への悪感情が大きく変わるきっかけとなったM17「Beginner」はもともとの曲のテーマを見事に自分のものとしている。"あの頃のあの音とミンちゃんはもう死んだんだけど / 閉鎖的なシーンだけの価値観で 適当に韻だけを踏んでりゃそれでいいんだけど / どうしてもそれじゃ納得いかねー"。続くM18「WHAT'S NEXT?」でも強いメッセージを発していて聴き応えがある。

Perfumeの「FAKE IT」をキャバ嬢物語に変えたM19「FAKE IT (キャバキャバRemix)」から、ももいろクローバーというアイドルグループの曲を実に楽しそうに歌い上げる流れの中に、再集結した韻踏合組合の曲を持ってくる面白さと、その違和感のなさが何ともすごい。さらにはM22「よりどりみどりー (ver.MINT的なん)」にJackson 5をかぶせ、しれっとPerfumeの「ナチュラルに恋して」をぶち込む力業から、そのまま同曲のリミックス曲(M23)へと繋ぐ手腕には喝采だ。そして、最後のM24「SUPER FREE」では吹き荒れる暴風雨になすがままとなり、43分間があっという間に過ぎて行ったことに気づく。

圧巻な後半の流れに、"もう戻ってこられへんようになっても知らんで"というミックステープ冒頭のミンちゃんの言葉を思い出すしかない。


楽曲を大きく作り替え、完全にダンスミュージックに仕立て上げてしまったサイケセイブーム!!!には脱帽する。それと同時にやはりみんちゃんもすごいなと思うのだ。ラッパーという言葉を用いて自己表現するアーティストが、その大切な言葉を決してないがしろにされているわけではないにしろ、踊るという機能性の前に屈した形になっているメガミックスであるにもかかわらず、自分の名前を冠した作品として許可を出したのだ。それには相当な勇気を必要としたはずだ。

ただ、その勇気は根拠のない自信から出てきたものではない。どんなにラップが早回しされても、ミンちゃんのラップだという高い記名性は失われることはないという強い確信があるからだろう。確かにリリックの内容からもラップスタイルもリミックスに選ぶ曲からも、曲が激変しているが、(振り返れば)ミンちゃんがいる。


サイケセイブーム!!!が創り出す無敵の高揚感とその陰に垣間見えるミンちゃんの勇気は、直接的な被害がなかったにもかかわらず、いつの間にか暗い気分に陥りがちなところを救ってくれる。音楽を聴くことでお腹が満たされることはないし、負ってしまった物理的な傷を癒すことも、減る一方のガソリンタンクをいっぱいにすることもできない。でも、ミンちゃんの新作は最初に列挙した曲たちと同じように、私の心を軽くしてくれる音楽だ。それは本当に尊いことだと思う。


1.いんとろ
2.イキそだもー 
3.何者だよ! (怒) 
4.noninonino feat. MINT / YAMANE 
5.あげてイイん? (Remix) feat. DJ KOSSIE & VECTOR
6.なんもない feat. ROM君 & Cherry Brown 
7.Muji Tee (Remix) feat. MINT / Cherry Brown 
8.売れないヘンタイ feat. MINT / Cherry Brown
9.おまんちょ / MINT & Cherry Brown 
10.No More Game feat. MINT / SEXY-SYNTHESIZER 
11.変形合体 
12.ッてか、社長!! 
13.No Thank You (Remix) feat. MINT / 放課後ティータイム 
14.ごはんはおかず (Remix) feat. MINT / 放課後ティータイム 
15.Yeahでごまかしてる 
16.翼をください 
17.Beginner feat. MINT / AKB48 
18.WHAT'S NEXT? / MINT VS DJ USYN 
19.FAKE IT (キャバキャバRemix) feat. MINT / Perfume 
20.ココ☆ナツ (Remix) feat. MINT / ももいろクローバー 
21.前人未踏 / 韻踏合組合
22.よりどりみどりー (ver.MINT的なん) 
23.ナチュラルに恋して (Remix) feat. MINT / Perfume 
24.SUPER FREE (The Lasttrak Dubstep Remix) / MINT×The Lasttrak

from 『Girlz N' Boyz Presents sex, lies, and download file vol.1』(2010)
from 『SUPER FREE』(2009)
ミンちゃんのSoundCloudで2010年に逐次発表されてきた単曲
M5 from 『DJ KOSSIE & VECTOR Presents SEX, LIES, AND SUPER DOWNLOAD
M8 from Cherry Brown『98% ちぇりー』                    FILE』(2010)
M21 from 韻踏合組合『都市伝説』(2010)
M24 from MINT×The Lasttrak『だぶ☆すてEP』(2010)
2011.03.14 Monday 23:59 | 音楽 | comments(6) | trackbacks(0)
アンチクライスト / Antichrist

85点/100点満点中

『ダンサー・イン・ザ・ダーク』や『ドッグヴィル』で知られるデンマーク人監督ラース・フォン・トリアーの2009年の作品。サスペンス、というより恐怖を撮っているという意味ではホラーに近い。主演はシャルロット・ゲンズブールとウィレム・デフォー。シャルロットは本作でカンヌ国際映画祭主演女優賞を受賞。製作費1100万ドル。2011年公開作品。

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夫婦が激しく愛し合う最中に、目を離していた幼い息子がマンションから転落死してしまう。妻は深い悲しみと自責の念で精神を病む。セラピストの夫は、自ら妻の治療に当たるべく、彼女を人里離れた森の奥の山小屋に連れて行くが・・・。
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この記事を書くにあたり、監督が『ダンサー・イン・ザ・ダーク』の人と知り、深く納得した。まあ、それが分かったところで、本作から受けた衝撃を全て受容することは難しいのだけど。もう一度見たいかと問われたら、頭を頑なに振るつもりだが、こういう映画・表現もあるのだ、可能なのだと知れたのは有意義なことだろう。

語る言葉を多く持つ人間には謎解きのしがいがありそうだ。"反キリスト(教義)"との表題が付けられているわけで、高校で学んだ西洋史と小説・漫画、あるいは映画を通してため込んだ知識レベルではとうてい深いところまでは理解が及ばない。その点で十二分に本作を堪能したとはいいがたいが、打ちのめされたことは確かだ。よくは分からないがともかくすごかった。


本作は"プロローグ"と"エピローグ"に挟まれる形で、"悲嘆"、"苦痛(カオスが支配する)"、"絶望(殺戮)"、"3人の乞食"の4章があり、全6章で構成されている。プロローグでは荘厳な歌曲が流れる中、夫役のウィレム・デフォーと妻役を演じるシャルロット・ゲンズブールが獣のように互いを求めむさぼる様がモノクロームとスローモーションで優雅かつ猛々しく描かれる。互いに夢中になっているために、ようやく歩けるようになったばかりの我が子ニックが窓から墜ちてしまったことに気づかない。

妻は悲劇を受け入れることができず苦しむ。セラピストでもある夫は必死に看病するが、一向に好転する兆しが見えない。前半でのゲンズブールの感情を剥き出しにした演技は迫力がある。20歳頃の彼女の作品を見て、すてきだなと思っていた時期があったので、相手役のデフォーのようなシワを張り付かせた彼女(撮影当時35歳ぐらい)にやや戸惑いはするものの、表情によっては当時を思い起こさせる幼さもあったりし、またそうした穏やかな表情から一転して鬼の形相に変化するなど不安定な感情を巧みに演じきっていることにも驚く。

やがて、舞台は"エデン"と彼らが呼ぶ森のはるか奥に建てられた山小屋に移る。デフォーの献身的なセラピーのおかげもあり、徐々に回復していくゲンズブール。しかし、デフォーはあることに気づいてしまう。妻も夫の様子がおかしいことに気づき、ふたりは阿鼻叫喚の惨劇へと向かう。

映画の冒頭で修正箇所があるとの案内が出る。その通りにいくつかの重要なシーンで無粋なボカシが入ってしまう。だから、すぐに何が行われているのか分からないのは残念だ。阿部定的な展開になっているのかと一瞬勘違いしてしまう。

狂気と混乱、多くの血と殺意が吹き荒れた後に、若干の正気を取り戻したかに見えるゲンズブールは瀕死状態のデフォーの隣で、今度は自分があることを思い出してしまう。欲望への貪欲さ、快感の波に押し流される罪深さ、その業の深さに自ら断とうとする。だいぶ前からあまりに辛い痛い映像が続くので思わず膝を抱え込みながら見入っていたわけだけど、この辺りはもうなんていうか、確かにアフリカの部族に伝わる慣習にそういうのがあるという知識はあったし、実際に写真でも見たことあったものの、あまりに苛酷な物語に組み込まれると、余計に凄惨さが倍増し、目を覆いたくなった。

我が子を失った悲しみ、心のこもった看病、ふと芽生えた疑惑、ふたりが繰り広げる狂乱。その末に、これまで抑え込んでいた記憶が開封され、自ら罰するという人間ドラマはそのサスペンス要素やふたりの高度な演技力のおかげでそれなりに理解しながら見ていられる。だが、時折挿入されるファンタジックな動物のシーンやエデンに託された宗教的要素を含むだろう暗喩をどう解釈していいのか分からない。それとラストに映し出される大勢の女たち。


不明な点も多々あり、本作を完全に楽しんだとはいいがたいし、ドキュメンタリーのように揺れるカメラワークや急なズームなどの煩わしさはあるものの、生々しさと美しさを伴った映像美や不安をかき立てる音楽、またふたりの文字通りぶつかり合いしのぎを削る演技に魅了された。過激なセックスシーンが話題になっているが、確かに露骨ではあるものの決してエロではない。というか、恐ろしい。それを期待して見るなら思い止まった方が良い。最悪なものを目撃することになる。


ウィキペディアによると、"カンヌの映画市場では過激なシーンをカットした「カトリック版」とノーカットである「プロテスタント版」の2バージョンが売られた"とある。カソリック版は108分で、プロテスタントバージョンは100分から104分だという。日本公開版は104分となっている。ということはあれよりもえぐいシーンがあるということなのか。見たいような見たくないような。また、お披露目となった2009年のカンヌ映画祭で、上映後に行われた記者会見での開口一番の質問が、"この映画を作った自己弁護と釈明をしてください"というものだったらしい。いいエピソードだ。
2011.03.09 Wednesday 23:59 | 映画 | comments(2) | trackbacks(0)
シリアスマン / A Serious Man

58点/100点満点中

バーン・アフター・リーディング』(2008)に続く2009年のコーエン兄弟作品。ブラックユーモアに包まれた人間ドラマ。製作費700万ドル。2011年公開作品。

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1967年のミネソタ州郊外にあるユダヤ人コミュニティ。大学で数学を教えるラリー・ゴプニックは平凡な人生を送っていた。心配な事といえば、大学が終身雇用を受入れてくれるかどうかと、2週間後に控えた13歳の息子ダニーのユダヤ教の成人式ぐらいだった。しかし、彼は思いも寄らぬ災難が立て続けに見舞われる。
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どこにでもあるありふれた人生を送る人々が、ふとしたきっかけで不幸が連鎖していく悲劇を笑いを交えながら描くことを得意とするコーエン兄弟の新作は、彼ら自身が実際に少年時代を過ごしたミネソタのユダヤ人社会を舞台とする。

大学教授のラリー・ゴプニックは妻から離婚話を突然突きつけられ、ふたりの子供は不満とわがままばかりを口にし、居候の弟アーサーは一向に出ていく気配がなく、平然と敷地境界線を跨ぐ隣人とはいがみ合い、また職場では学期末試験の結果を不服とする生徒が現れ、大金と共に不正を働けと持ちかけてくる。学究の徒であり、物静かなラリーは自分の主張を上手に表に出すことができず、内に抱え込んでしまう。ひとつひとつは些細な問題(離婚は違うけれど)であり、時間をかければ解決できたかもしれないが、それらは短時間で降りかかってきたものだから、彼は多大なストレスを抱えこととなる。

ユダヤ教徒らしく、ラビに助けを求めるも、満足のいく教えを受けられない。そうこうしているうちに問題は加速度的に積み上がっていき、事態は思わぬ展開を見せる。そして、自分たちの作品のファンなら、これまでのような明快なカタストロフィがなくても分かってくれるだろうとばかりに迫り来る巨大たつまきに全てを託し、名監督らしからぬ投げっぱなしジャーマンを決め、エンドロールを迎える。

終わり方はともかくとして、決してつまらない作品ではない。昨年末のM-1で例えれば、『ソーシャル・ネットワーク』が普通の漫才だとすれば、本作はさしずめスリムクラブだ。間を生かした笑いに館内でも結構クスクス笑いが漏れていた。しかし、その一方でその間のおかげで空調の音がずいぶんと気になりもした。舞台俳優が多く、いわゆる映画スターがひとりもいない。その分演技力でもって、個性的かつ魅力的なキャラクターを演じる演技力の高さを堪能できる。

2009年の作品ながらなかなか日本公開されず、評価の高い最新作『トゥルー・グリット』に合わせる形でようやく日本でも陽の目を見たことに少し憤りを覚えたけれど、実際に見てみたら、一般的ではない内容な上に、やや宗教色が強く(だからこそ興味深くもある)、納得できてしまった。
2011.03.09 Wednesday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
Tony Kontana『Utada Hikaru V-Mix』&『Hikaru Drops』
『Tony Kontana's Utada Hikaru V-Mix』

確か2011年2月14日前後にゲットした激ヤバミィィィィーークステープ。

こいつはかなりヤバイ。何がってジャケ見れば一目瞭然。"きしむベッドの上で優しさを持ちよ"ったふたりが寄り添っている。これはもうそういうブツだ。作ったのはカリスマツイッタラー・Tony Kontana。カリスマの名に恥じない有益な情報から爆笑ツイートまで、彼がTLにいればその日一日愉快に過ごせること間違いナシ。そのトニー・コンタナが愛の告白日ヴァレンタインに照準を合わせて作ったのが、このブツだ。

ヒカルを後ろからそっと抱く微笑み男のミックスは全編宇多田曲。1999年のメジャーデビューから昨年まで、ヒットシングルからアルバム曲まで万遍なくミックスされている。首尾良く入手できた日は東京でも雪が積もり、激サムな日が続いてたけど、こいつを聴いていると緑芽吹く春を感じた。宇多田の声の繊細さや展開の巧さといった良さを引き出すテクニックや、下ネタを挟みつつも相手を思いやるトーク・・・、いや優しい繋ぎは憎らしいほどだ。

初期の宇多田は好きだったが、最近のアルバムのプロダクションには疑問を持っていたわけだけど、こいつを聴いてこんな良い曲だったのかという発見をできたことは自分の中で大きかった。とにかく宇多田への愛に溢れたミックスであることは疑いようがない。白Yシャツでダンディかつエレガントに選曲し、DOMMUNEに集ううるさがたリスナーを虜にした宇多田ヒカル激ラブなイケメンDJも認めるほどの逸品。

惜しむらくはビットレートが128kbpsってことか。まあでも長さもあるし、お手軽なファイルサイズを考えれば仕方ないとこなのだろう。違法なブツも扱う男気溢れるディスクユニオン辺りで、Rでいいから盤にして売って欲しい。wenodでもいいけれど。



『Tony Kontana's Hikaru Drops』

で、これがまさかの第2弾。昨日ゲトった。『V-Mix』ほどには聴き込めていないが、しっとりした曲が並んでいる印象。結構素早く繋いでいく前半は特に切なさ満載で、宇多田の声に聴き惚れてしまう。


トニー・コンタナ。ホントに粋な男だぜ。ここまでUtada名義の曲は使われていない(Foxy Brownとの曲はあったけど)し、瞬殺のデビュー曲「Autmatic」も未収録。ということは第3弾も期待して良いのだろうか。っていうか、期待するしかないだろう!マジ楽しみ。
2011.03.06 Sunday 19:25 | 音楽 | comments(7) | trackbacks(0)
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