86点/100点満点中
カート・ウィマー監督・脚本、クリスチャン・ベール主演による2002年のSFアクション映画。製作費2000万ドル。
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感情は争いの要因となるために、精神に作用する薬プロジウムが開発された第3次世界大戦後の世界。国民に毎日投薬することを義務づけ、徹底した管理国家体制を敷いた。反乱者は、"クラリック"の称号を持つプレストンを中心とした警察に厳しく処罰された。ある日ガン=カタ(銃の型)の達人であるプレストンは誤ってプロジウムの瓶を割ってしまい、薬投与なしに仕事を続けてしまうことに。
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こんな面白い映画があったとは!人によってはアホ映画認定確実な作品でしかないだろうが、どのカットにもいやというほど監督の美学が刻印され、そのいびつな情熱の注がれ方によって異形の絵が生まれている。そんな作品にこそ愛すべき笑いと至福を見出す身にはたまらない1本だ。
ウィキペディアによれば、アメリカでの宣伝文句は「Forget "The Matrix"!」。1999年公開の『マトリックス』1作目は大好きな作品で、珍しく劇場に2回見に行った。衣装のスタイリッシュさや雰囲気、世界観、ガンアクションの独特さなどは似ていないこともない。本作は日本公開されたが、宣伝が不十分だったこともあり、1ヶ月ほどで打ち切られたとの話だ。しかし、その後口コミで評判が広がり、評価されるに至ったという。
私が手に取ったのも、"絶対ハマる!SF映画"とのお題で映画監督の松江哲明と映画評論家・有村昆が互いのお薦めを紹介するテレビ番組のコーナーで、松江が本作を挙げていたからだ。ちなみにこの時、有村が推したのは『
サマータイムマシン・ブルース』だった。
『マトリックス』はワイヤーアクションとバレットタイムと呼ばれるカメラワークを駆使し、異形の絵を見せてくれたが、本作は中国武術を取り入れてウィマー監督自身が考案したガン=カタ(ガンの型)という華麗なガンアクションを楽しめる。厳しい訓練を積んだ"クラリック"のみが使える戦闘術であり、科学的な根拠に基づき、銃弾の当たらない位置と効果的な攻撃ポジションを見つけ、最小限の動きで素早く移動し、目にも止まらない手技と二丁拳銃で敵を制圧する。
だから、至近距離で敵に囲まれても慌てることなく一瞬のうちに殲滅してしまう。漫画だ。ただ、それがかっこいい。やや粗い編集がまた味を出している。これは大スクリーンで見たかった。
『リベリオン』世界では一切の人間的な感情が悪とされ、薬によって排除されているわけだが、その治安を守る冷酷なクラリックのひとり、主人公プレストンを演じるクリスチャン・ベールがはまり役で、気高さと同時に冷たさを併せ持つ端正な顔立ちは一切の感情を排した非情さをまとう。サイボーグではないけれど、それに近い。
その彼がレジスタンスと出会い、感情によって生み出される表現の結晶である美を愛でることを知り、少しずつ人の心を取り戻し、意識が変化していく物語となる。そのきっかけが子犬であったりするのはあまりに安直であり、、そもそもの世界観にも無理があるとは思うものの、低予算を逆手にとった演出や美術担当の頑張り、あるいはロケが行われたベルリンの雰囲気も手伝い、疑問がそれほど噴き出すことなく見られる。
それよりもガン=カタや日本刀を使った殺陣の迫力、あるいは子供を使うことでよりいやらしさが伴うサスペンス要素などがマイナス部分を打ち消す。
監督がコメンタリーモードで影響を受けた映画を列挙している。『華氏451』『ガタカ』『2300年未来への旅』『ブレイブ・ニュー・ワールド』『1984』『
THX-1138』『アルファヴィル』『時計じかけのオレンジ』『意志の勝利』。彼自身が気に入っている作品であり、大なり小なり影響を受けたかもしれないが、"無関心"と"検閲"というふたつのテーマは自分だけのものと話す。
そのふたつもSF作品ではさして珍しいものではないが、やはりこの映画が素晴らしいのはテーマではなく、アクションであり見得の効いた絵にある。物語としては稚拙であっても、ガン=カタを考え出し、その魅力を最大限に発揮した銃撃シーンを映像化しただけでも十分評価されるべき作品だ。