すばらしくてNICE CHOICE

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2021.02.10 Wednesday | - | - | -
アメリカを売った男 / Breach

64点/100点満点中

個性派名脇役として知られるクリス・クーパーが主演を務めた2007年の実話に基づくサスペンスドラマ。

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FBIの訓練捜査官エリック・オニールは上司ケイト・バロウズに呼び出され、組織内でもトップクラスの捜査官ロバート・ハンセンの監視を命じられる。ハンセンの直属の部下となり、行動を共にするオニールだったが、不審な点が見当たらない。任務に不満を持ち始めたオニールはバロウズからハンセンにスパイ容疑があるという衝撃の事実を告げられる。
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前日に見た『ラストサマー』出演のライアン・フィリップが、クリス・クーパー演じるロシアの二重スパイ、ロバート・ハンセンの監視を命じられるFBI訓練捜査官エリック・オニール役なのはただの偶然。本作を手に取ったのは、「スティーヴン・キングが選ぶ2007年映画トップ10」で4位に付けていたからだ。うすうすとは気づいているのだけど、彼が好む作品と私が好きなそれとはやや傾向が異なるよう。

ソ連/ロシアの情報分析官(1979〜2001)として20年以上トップの地位にいながらも、アメリカの国家機密を漏らし、米政府が送り込んだ50人以上のスパイを売り、そのうち3人を殺させ、1400万ドル以上を現金やダイヤモンドの形で受け取ってきた米国史上最悪の裏切り男ロバート・ハンセン。

アメリカの長年の宿敵だったソ連にFBI捜査官が国家機密を渡し続けた事実は、確かに米国民を震撼させたのだろう。映画としては逮捕される2ヶ月前から当日までが描かれるために、すでに希代の二重スパイ・ハンセンは定年による退職が目前という理由で本部に戻され、彼の監視チームが完璧に包囲するなか、閑職に就かされている。あとは彼が尻尾を出すのを待っている状況だ。用心深い彼の懐に飛び込み、外部からの監視行動では得られない生の情報を得るべく、最初は偽の任務をいいわたされ、彼の部下となるのがオニールとなる。

つまり、同じスパイものであっても007シリーズのようなアクションとは違い、屋内での心理戦がメインとなる。しかもハンセンはすでに袋のネズミ状態であり、緊張感のある心理戦の応酬とも異なる。彼の外出時にカバンの中を漁り、目当ての物を彼が戻るギリギリのところで戻すといったハラハラがメインだ。

ハンセンの現役時代、幾度も苦い思いを味わわされてきたFBIが最後の最後でペーペーのオニールに全てを託そうとするのもよく分からない。彼が起用された理由は理解できても、その未知の能力にこれまで苦労して積み重ねた状況を任せようとする根拠が最後まで示されないので、FBIもずいぶんと綱渡りをしたものだなという感想しかない。

また、オニールの視点で語られるために、若者の成長物語という側面は映し出されはするが、結局のところ犯罪者ハンセンの動機が語られず、唯一感情が露わになる、"私は価値のある男だ"に全ては集約されるのだろうけれど、それ以上の踏み込みがないのも不満。終身刑に服しているらしいが、裁判でもほとんど動機を語っていないのだろう。ドキュメンタリー要素の強い作品なだけにその点も物足りない。

とはいえ、クリス・クーパーの演技は素晴らしい。何を考えているのか分からない能面を貼り付けながらも、時にまなじりを上げるだけでとてつもない形相に早変わりする。迫力がある。多くの作品に脇役として登場し、一度見たら忘れられない顔であり、そんな彼が主演を務めるというのは何とも嬉しい話だ。
2011.05.31 Tuesday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
ラストサマー / I Know What You Did Last Summer

54点/100点満点中

1996年の大ヒット・ホラー『スクリーム』の脚本家ケヴィン・ウィリアムソンが次に手掛けたサスペンス映画(1997年)。ウィリアムソンは同年『スクリーム2』も担当し、さらに翌年にはロバート・ロドリゲス監督の『パラサイト』でも脚本をしている。製作費1700万ドル。

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7月4日の独立記念日で盛り上がる漁師町。車で遊びに興じていた4人の若者は、その帰り道でひとりの男をひいてしまう。怯えた彼らは男の死体を海に投げ捨て、他言無用の約束を交わす。それから1年、彼らのもとに原題でもある"I know what you did last summer(去年の夏お前たちが何をしたか知っているぞ)"という手紙が届く。
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『スクリーム』と同時期に数多く作られた、青春を謳歌する若者グループがザックザクと殺されていくお手軽ホラーという印象があり、長い間見なくてもいいだろうと思っていた作品。軽いB級ホラーが見たくなって手に取ったが、ホラーというよりも無理矢理な謎解きで消化不良を起こしそうなサスペンス映画だった。

かぎ爪男が海から上がってきて若者を惨殺するという怪談を序盤で主人公たちが話すことで、ホラーっぽい雰囲気は生まれるものの、結局は終始けたたましい声で叫ぶだけの女優陣と定番のカメラワークが野暮ったく、音楽までださいという、時の風化に耐えられなかった映画であることを証明してしまった。Kula Shakerの「Hush」がこんなにも古臭く聞こえる時代が来るとは当時想像もしていなかった。

先日見た『クライモリ』と同じく、スタッフや俳優たちの名前を今では目にしないなと思ったら、主演の女子大学生ジュリーを演じた栗鼠みたいな顔立ちが愛らしいジェニファー・ラヴ・ヒューイットは、地上波で放送されているテレビドラマ「ゴースト 〜天国からのささやき」の主演を張っているそうだ。

金髪美人のヘレンを演じたサラ・ミシェル・ゲラーはその後2002年に、本作ではジュリーの恋人レイ役だったフレディ・プリンゼ・Jrと結婚。旦那のキャリアはいまいちだが、ゲラーの方は『呪怨』のハリウッド・リメイク版『THE JUON/呪怨』で主演を務めた。

1億ドル越えのヒットが追い風となり、それぞれ羽ばたいたわけだが、一番伸びたのがヘレンの恋人で荒れた若者バリーを熱演したライアン・フィリップかも。オスカーを獲得したこともある女優のリーズ・ウィザースプーンと1999年に結婚し2007年に離婚したものの、アカデミー作品賞受賞作『クラッシュ』や『父親たちの星条旗』など話題作に出演している。

しかし、カニまみれの死体をあんなわずかの時間でどうやって始末したのだろう。
2011.05.30 Monday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
クライモリ / Wrong Turn

67点/100点満点中

特殊メイク・特殊効果の第一人者スタン・ウィンストン製作(当然特殊メイクも担当)の2003年のスプラッタホラー。製作費1260万ドル。

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米国ウェストヴァージニア州。事故で大渋滞の州道を避けるべく、就職面接に向かう医学生クリスは鬱蒼とした森の中を走る未舗装の抜け道を選択。最初は快調に走らせていたが、脇見をした直後、道路の真ん中に停められた車に衝突してしまう。キャンプに来た大学生5人の車だった。仕掛けられた棘付きのワイヤーに引っかかり、タイヤがパンクしたのだ。深い森の中で立ち往生した6人はひとまず公衆電話があるところまで歩き始めるが・・・。
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題名ぐらいは知っていたし、シリーズになっているのを見てはいたのだけど、テレビゲームに似たようなタイトルがあった気がして、それの映画化なのかなと思い、ずっと手に取ることがなかった作品。つい最近、スティーヴン・キングが2003年のナンバー1に挙げていたと知り、慌てて見ることに。

森の中の怪しげな一軒家に乗り込んだ際に、大学生グループのひとり、陽気なスコットは監督の代わりにあらかじめ弁明する。状況が映画『サランドラ』のようだ、と。ウェス・クレイヴンの1977年の作品で、私は未見だが、そのリメイク作の『ヒルズ・ハブ・アイズ』は見ている。ニューメキシコの旧核実験場で暮らす、放射能により姿形が変わった上に食習慣まで変化してしまった一族の物語だ。

サランドラ』(『ヒルズ・ハブ・アイズ』)の舞台が砂漠なら、本作は森であり、向こうが放射能ならこちらは近親相姦となる。そうなると、2005年の『ディセント』も同じ系譜だったのだなと気づく。これらの恐怖に共通の泉はフランケンシュタイン辺りに行き着くのだろうか。それとも日本なら『桃太郎』なのかな。古事記や日本書紀を紐解くともっとさかのぼれそう。

いずれにしても、食人を嗜む異形の(元は人間であり、時代が経れば経るほど倫理的な問題を抱えそうだけど、ここはあえて)クリーチャーたちは、彼らの縄張りに飛んで火に入るなんとやらのごとくのこのことやって来た若者をパクッとしてしまう。考察の真似事をするならば、未知なるものへの原初的な恐怖が描かれている。

森の中ということもあり、クリーチャー視点が『プレデター』ぽいと思ったら、製作と特殊メイクを担当したスタン・ウィンストンという人はその道の大家で、その『プレデター』はもちろん、ジョン・カーペンターの『遊星からの物体X』、『ターミネーター』、『エイリアン2』(アカデミー賞視覚効果賞受賞)、『シザーハンズ』、『ターミネーター2』(アカデミー賞視覚効果賞&メイクアップ賞受賞)、『ジュラシック・パーク』(3度目のアカデミー視覚効果賞)、『アイアンマン』等々で活躍した人(もう故人だけど)で、映画ファンとしては知らないと恥ずかしい人だったようだ。『プレデター』ぽさは監督のウィンストンへの敬意なのだろう。

そんな彼が関わった作品ということもあり、森の中で最初に殺される女性へのその手口や、樹上で斧を一閃させる場面などが特に見所となる。ただ、その樹上シーンは全体的に画面が暗すぎてスリリングさに欠けるのが残念。また、ホラーでは当然のことではあるのだけど、いささかご都合主義的な展開が目に付き、愛嬌といえばそれまでではあるが、不満を覚える。でも、スプラッタ表現は多めではあるものの、真っ当に人を怖がらせようと一生懸命努力している好感の持てる作品ではある。
2011.05.28 Saturday 23:59 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
JPRAP.COM presents "The Se7en Deadly Sins"
日本人ラッパーのキングともいえる大御所ジブラに対し、若手有望株のひとりと目され、ジブラ当人もその実力を認めていたRAU DEFが突如反旗を翻したのが先日の争い(参照: "RAU DEF vs. ZEEBRA"への同業者の反応)だったわけだが、それを持ち出すまでもなく、ここ数年国産のヒップホップは若手の台頭が著しい。聴き手というパイが大きくなっているわけではないのに、録音機材や発表の環境が整備されてきたこともあり、演者人口は増え続け、才能豊かな若手が次々と頭角を顕している。下が膨れあがっているのに、いつまで経ってもうだつの上がらない上が大きな顔をしてのさばっている。不満の声を挙げたくなるのも頷ける話ではある。

地元でのイベントやパーティにこそヒップホップがあるとする"現場"重視の風潮は以前として強い。しかし、本場アメリカがそうであるように、遠く離れた街で暮らすアーティスト同士がインターネット上のやりとりのみで楽曲を制作し、そのままネットにアップ、またストリーミングだけではなく、時に無料配信の形で音源を発表することも増えてきた。先月だけでも単曲で200曲以上を落として聴いている。もちろん玉石混淆だが、原石を探す楽しさがある。

そんなフリーダウンロード曲やYouTube等に上げられた新曲を収集し、一手に紹介している国産ヒップホップ・ポータルサイトがある。JPRAP.COM(β)だ。ブラックミュージックに限らず、紙媒体の音楽メディアが衰退していくなか、インターネット上のそれはますます充実していく。そのなかでも日本語ラップ好きにとって最も頼りになるサイトがJPラップコムといえる。

作品をリリースするアーティストあってのサイトではあるが、JPラップコムの主宰者benzeezyの情報収集能力は賞賛に値する。あるラッパーの呟きが強く印象に残る。彼は曲を動画サイトに投稿し、さて次はTwitterで告知しようと思ったら、すでにJPラップコムがニュースとして流していたというのだ。ベンジージーこそまさしく"dope."だ。

JPラップコムはフリーダウンロードやリリース情報をかき集めているだけではない。国産ヒップホップの裾野を広げるべく仕掛けている姿勢も評価できる。今年3月、「"dope."MC Contest」が行われた。SKY BEATSの新作ビートに募集をかけて集まった72人のMCたちがラップを乗せ、ユーチューブで一斉公開。その再生回数で勝敗を決めるというリスナー本位の画期的なコンテストだった。



前置きが長くなったが、本記事で扱うのはJPラップコム企画の第2弾となる「The Se7en Deadly Sins」だ。山梨のトラックメイカーOtowaのビートの上で、今最も気になる若手ラッパーが1曲ずつ7日間連続で発表していくというものだ。プロジェクト名はキリスト教の用語である"七つの大罪"であり、それぞれの曲には、"Pride(傲慢)"、"Envy(嫉妬)"、"Wrath(憤怒)"、"Sloth(怠惰)"、"Greed(強欲)"、"Gluttony(暴食)"、"Lust(色欲)"という7つの罪が銘打たれている。ブラット・ピットが主演した映画『セブン』のアレだ。


「The Se7en Deadly Sins」

2011年4月25日から5月1日まで7日間連続で発表。[DLサイト]

ベンジージーが選出したラッパーを紹介する前に、7曲全てを手掛けたトラックメイカー・オトワについて。新潟出身で現在は東京在住のラッパーLBと共に「LBとOtowa」としても活躍する彼は山梨県在住であり、昨年末に行われたL-VOKALとAKLOによるユニットBETTER HALVESのシングルリミックスコンテストでは、Amebreak賞のPRODUCER部門で見事優秀賞に輝いた実績を持つ。
                 LBとOtowa『FRESH BOX(β)』
      2011年3月17日アップの無料配信ミックステープ。
                             [DLサイト]

【Gluttony】
SNEEEZE「Evolution」
ひとり目は神戸の23歳スニーズ。2010年12月から自身のトゥイッターで洋物トラックにラップを乗せたリミックス曲を発表し始め、少しずつ注目を集めているラッパー。JPラップコムが特に推している若手であり、この夏には初めてのミックステープ『Device』がリリース予定と先日発表があったばかりだ。ベンジージーのお眼鏡にかなっただけあってラップは巧い。が、声質やフロウでS.L.A.C.Kを彷彿させる。その点だけが残念だが、まだまだ成長過程であり、試行錯誤の段階だろうし、何より常にリミックス楽曲を発表し続けている姿勢は素晴らしい。

【Greed】
KOJOE「Ii (Good)」
4月26日火曜日に登場したのはバイリンガルラッパーのコージョー。現在彼はその火曜を「KOJOE TUESDAY」とし、毎週フリーで曲を配信している。今週で13週目となる。過去にはB.I.G JOEやDABOを客演に呼んだ楽曲もあり、楽しみな企画だ。

コージョーは17歳でニューヨークに渡り、Rawkus Recordsが2007年に行った「Rawkus 50」という企画でデジタル配信のみのアルバムリリース経験を持つ。選出された50組の新鋭アーティストのなかで、日本人は彼ひとりだけだったという。

             KOJOE『MIXED IDENTITIES 1.0』
      2010年9月11日アップの無料配信ミックステープ。
                             [DLサイト]
全29曲収録され、2時間を超える。正直胃もたれを覚えるが、英語と日本語を巧みに駆使したラップを存分に味わえる。曲名は忘れたが、飛行機嫌いの曲が面白かった。

【Sloth】
SALU「Sunday Afternoon」
SEEDAがインタビューで"白帯で黒帯の実力"と評した新人ラッパー。昨年末にリリースされたSCARSのミニアルバムに抜擢され、さらにはシーダのライブに「不定職者 Remix」で客演までしている。発表されている作品がまだ少なく、実力の程ははっきりとしないものの、今回の楽曲ではそのスライミーのように鼓膜にべっとりと張り付く潰された声質が面白く、声だけでも十分目立っている。この企画に選出されたラッパーにもいえることだけど、最近の若手MCたちは軽やかにビートに乗ることは長けていても、リリックが空疎で、パンチラインを生み出せないという印象をどうしても抱いてしまうのだが、この曲の彼にはそれが当てはまらず、その前向きさがじわじわと染み込んでくる良いリリックだ。

【Lust】
GASFACE×MATCH「Hello Sunshine」
ふたりのラッパーが参加した唯一の楽曲。ガスフェイスの経歴等は不明だが、シーダのブログに寄稿しているMoNDoHによれば、"ham-R、RioR、Show-Kも含め、『Doc:Raw』ってクルーで"活動していたという。ハマーといえばラウ・デフをけしかけジブラとビーフさせた黒幕だし、ショックは昨年HAIIRO DE ROSSIとのビーフで一躍有名になったラッパーだ。RioRもまた時々フリーダウンロード曲を発表している。今となってはスタイルの異なる4人がかつて繋がっていたというのは興味深い。その彼は昨年10月に無料配信ミックステープ『NEW TYPE VIRUS』をアップしている。現在は視聴のみ可能だ。

一方のマッチは沖縄は普天間出身の22歳。今年1月にGUNSMITH PRODUCTIONSのJIGGが全面的に関わった全国流通のファーストアルバム『Greedy』をリリースした。実績でいえば、新世代ラッパーのなかでも一歩抜きんでている。

【Pride】
MoNDoH「Every Dog Has His Day」
上でも登場したマンドゥはニューヨーク・サウスブロンクス在住のプエルトリコ人。なぜか巧みな日本語でラップするラッパーである。最初にその名前を聞いたのは2009年のシーダのアルバム『SEEDA』に先行する形で無料配信されたマイクリレー曲「God Bless You Kid」だった。同曲にも参加していたハマーの紹介だったらしい。じっくり聴くと日本語の発音にごまかしがあったりするが、それでも声に強い腰があり、耳を惹きつける。

【Envy】
KLOOZ「Livin' In The Future」
本記事を書くきっかけはなんといってもこの曲での彼のリリック、ラップが素晴らしいからだ。それだけを伝えたいがためといっても過言ではない。多分今年のベスト10曲を決めるとしたら余裕で上位にランクインする勢いだ。

日本語ラップレビューブログ「RATID」の遼さんがラウ・デフとジブラのビーフ時に呟いていた指摘が的確だ。"新世代対旧世代という図式で見るなら、ZEEBRAたちベテランが必死こいて作った駄曲「Butterfly City」をAKLO達がサクッとジャックしてあっさり飛び越えていったあの日から勝負は決してる"。

その「Butterfly City Remix」は権利者からの申し立てで現在はユーチューブから削除されている。アクロとクルーズ、それに彼らの仲間のBANでものの見事にビートを乗りこなし、原曲の潜在能力を大きく引き出していただけに残念だ。代わりといってはなんだが、ダボとKREVA、ANARCHYという不思議な組み合わせだった「I REP」もクルーズとアクロはリミックスしていて、それはまだユーチューブにアップされているので、リンクを張っておく。すでに彼らふたりの楽曲のようだ。

クルーズの良さは軽さだ。"軽薄"には侮蔑の意味が含まれてしまうが、軽妙さや軽やかさ、いい意味で彼のラップは軽い。本作にも、"だからいわれんだ KOOZY浮いてない?"というリリックがある。もちろん、その前の節の、"右肩上がり過ぎ 地に足着いてない"を受けてのものだが、彼のミックステープのジャケットも下敷きにしている発言だろうし、ついでに彼の日本語ラップ界における立ち位置をも表していそうだ。

彼はそんな指摘を物ともせずに、"さぁ乗りなHomeis 燃料は夢だけ / あのStreetDream 俺達が証明"といってのける。"オレ夢見るため 起きるEveryday"。こんなにまで自信満々に突き進まれてしまうと、惚れ込むしかないだろう。

シーダが本格的に評価され始めた2000年代後半は、やさぐれた生活や不幸な幼少期という"真実"の物語を売りにしたラッパーが多く出てきたが、今はその反動やアメリカの影響もあり、純粋に技術だけを武器にしたラップが増えてきている。日本語でラップすることは難しいとするヒップホップ黎明期の言説を余裕で過去のものとするほど、彼らはビートに的確に日本語を当てはめ、グルーヴをつくる。唯一の難点はラップの内容が乏しい傾向にあることだ。パンチラインと呼ばれる強く耳を惹きつける一節も少なめだ。

しかし、クルーズは違う。きらめく言葉を振りまき、重たい不幸人生に囚われることなく、華麗に飛翔する。ビートへの適性と言葉のセンスだけで聴く者の首を振らせるのだ。だからかっこいい。

                    KLOOZ『NO GRAVITY』
      2010年4月23日アップの無料配信ミックステープ。
            [DLサイト(直リン)][視聴(bandcamp)]
必聴盤。本作を聴いていない日本語ラップファンがいるとしたら信じられない。フリーDLでここまでの品質はすごいのひと言。もちろん洋楽トラックのリミックスが多いわけだけど、このしなやかなラップを前にすると"KLOOZY浮いてない?"って言葉がこれほど当てはまることもないなと思ってしまう。

【Wrath】
YAMANE「Freestyle」
最終日5月1日はLOW HIGH WHO? PRODUCTION所属のヤマネだ。かつてはヒップホップグループTOP SHELFの一員として活躍し、『アングラの詩的な進化論』にも参加している。2008年にグループは解散、以後はソロとして4枚のフリーダウンロードアルバムを発表し、昨年初の全国流通となるファーストアルバム『アオソラ』リリース。当時のロウ・ハイ・フー?所属のアーティストとしては珍しく外に出ていくタイプのようで、シーダとDJ ISSOによる「CONCRETE GREEN」シリーズのVol.6から参加している。MINTが2009年発表した「SUPER FREE」にも加わっていて、最初は「少年大人」のヤマネと同一人物と気づかなかった。

エフェクトをかけたマシンボイスも特徴的だが、古いSF映画のPC音声のように独特の区切りがあるラップも面白い。ただ、それが奇を衒っているとは映らず、意外に耳馴染みよく聴かせてしまうあたりは実力なのだろう。

                       山根顕人『「名前」』
   2010年9月11日アップの4枚目の無料配信アルバム。
                             [DLサイト]
現在ロウ・ハイ・フー?の"FREEDOWNLOADS"ページで落とせるヤマネの作品は本作のみだが、このコーナーには他にもELOQやasamiyaのフリー作品をダウンロードできる。イエローQも注目のラッパーのひとりだし、またアサミヤは素敵な音を紡ぐトラックメイカーであり、それぞれ聴き応えのある作品に仕上がっている。



「The Se7en Deadly Sins Lil'諭吉 Remixies」

2011年5月2日から5月8日まで7日間連続で発表。[DLサイト]

間髪入れずに始まったのがLil'諭吉による「The Se7en Deadly Sins」全7曲のリミックス。リル諭吉はいわずと知れたCherry Brownのトラックメイカー名義であり、他にもYuuyu Aensland名義を使い分け、さらにはBIG RONの弟RICHEE率いる3人組ヒップホップグループJACK RABBITZのメンバーでもある。今年2月にグループのファーストアルバムを出している。今では猫も杓子も状態の無料配信ミックステープだが、その草分け的存在であり、すでに5本の作品を発表している。彼の良さはアメリカの音とラップを直輸入させつつも、ヒップホップの人とも思えない趣味(アイドルやアニメ)を加味することで、全く異質な世界観を創り上げることだ。聴けばすぐに彼と分かるラップも魅力。

       Cherry Brown『Where's Tha Lovvve :<?』
2010年8月21日アップの5本目の無料配信ミックステープ。
                            [DLサイト]
聴けば分かるがとにかく自分が好きなものに対して素直だ。その自由さが聴く側にも伝わるから自然と笑顔になってしまう。無邪気ともいえる制作スタンスは簡単そうでいて、しかしそれに品質を伴わせるとなるとかなり難しいと思う。チェリー・ブラウンのミックステープにはその奇跡がある。予定されているファーストソロアルバムは楽しみだが、今のスタンスのままでいて欲しいとも思ってしまう。なお、他の4本のミックステープはブログ横からDL可能。5本目以降の曲でいうと、「I'm 沢尻エリカ」[YouTube]やクルーズとの「ツンツンミクチャン」[YouTube]が最高だ。




「The Se7en Deadly Sins Acapellas」

2011年5月9日、ヒップホップ中心の音楽配信サイトDr.PAPでアカペラの無料配信が始まる。



「The Se7en Deadly Sins Dada Remixies」

2011年5月10日から17日にかけてアップされたリミックス。[DLサイト]

Dadaは1ヶ月ほど前にも「頭狂いそうだから歌う」というラップ曲を無料配信している[DLサイト]。落ち着いた声質と共に歌メロが心地良い楽曲だったが、今回はトラックメイカーとしての才能をいかんなく発揮。魅力的なメロディを着せたリミックスのおかげもあって、正直オトワやリル諭吉のトラックよりも琴線に響く音が多かった。

5月18日には7曲分のインストが1週間限定で配信されたが、こちらは現在終了している。


「The Se7en Deadly Sins O-DELA Remixies」

2011年5月16日にわずか6時間限定で無料配信されたリミックス集。[blog]視聴のみ可能

DJ オカワリ a.k.a O-DELAは名古屋を拠点に活躍する20歳のトラックメイカー。ヒップホップグループ國枝URBAN CAMPの一員でもあり、自身のブログにて隔週で「FREE ORDER」と題されたミックステープを精力的に無料配信している。シンセ音をベースにしているのは他のリミックスと同じだが、一番サンプリング色が強い。SALUのラップを一番上手に調理している。アコースティックギターの音色を生かしたトラックは、あの曲のフックがこんなにもポップなものだったのかと驚かせてくれる。全体的にビートの線が細いのが残念な点だけど、一番もったいないのはたった6時間しか無料配信させなかったことだ。良リミックスだらけなのだからもっと広く聴かれるようにすればいいのに。

翌日の17日からは7曲分のインストが配信されている。[DLサイト]


「The Se7en Deadly Sins SAI BEATZ TAKASAKA Remixies」

2011年5月19日から順にアップされている現在進行形のリミックス。

埼玉在住のトラックメイカーSAI BEATZによるもので、以下にリンク先を列挙するが、それぞれ1週間限定での無料配信となるため、すでに期限切れのものもあるかもしれない。

SNEEEZE「Evolution SAI BEATZ TAKASAKA Remix」[DLサイト]
KOJOE「Ii (Good) SAI BEATZ TAKASAKA Remix」[DLサイト]
SALU「Sunday Afternoon SAI BEATZ TAKASAKA Remix」[DLサイト]
GASFACE×MATCH「Hello Sunshine SAI BEATZ TAKASAKA Remix」[DLサイト]
MoNDoH「Every Dog Has His Day SAI BEATZ TAKASAKA Remix」[DLサイト]
KLOOZ「Livin' In The Future SAI BEATZ TAKASAKA REMIX」[DLサイト]

本シリーズの数日前にはクレバの最新シングルのリミックスも発表していたが、とにかくバランスの良いリミックスをする人で、ビートも太く、安心感がある。7曲の中で最も不満を覚えたガスフェイス・マッチ組の「Hello Sunshine」を実はかっこいいラップだったのかもと思わせてくれたのは彼だ。


「The Se7en Deadly Sins Remixies」
7曲全てを手掛けるのではなく単発でリミックスされたものを以下でまとめる。動画サイト等にアップされ、ストリーミングのみの作品も多々あるのかもしれないが、私はダウンロードし、PCの前ではなく自分のiPodで自分の時間に聴きたいのでそういった視聴のみの作品は普段から聴くことが少ない。よって、無料配信されている楽曲のみの列記となる。

・SNEEEZE「Evolution Remix」[DLサイト]
・KLOOZ「Livin' In The Future Remix」[DLサイト]
横浜在住のトラックメイカーGESUBEATZによる、今回一番早く公開されたリミックス。KREVAのシングル曲のリミックスなどもいち早くアップするなど最近よく目にする。名前とは違い、直球でかっこいい音を出す。オリジナルのインスト曲には繊細さもあり、気になるトラックメイカーだ。

・SNEEEZE「Evolution (stenfisk Remix)」[YouTube]残念ながらDLリンクは期限切れ
兵庫県西宮市のトラックメイカー兼ラッパーstenfisk。神戸の神門と繋がりがあるよう。先日発表したキングギドラの「空からの力 Remix」もなかなか良かった。[DLサイト]こちらはまだ可能。

・SNEEEZE「えヴぉりゅーしょん (Evolution ばにしゅ☆でじょんRemix)」[DLサイト]
兵庫県は姫路市のトラックメイカー兼ラッパーのDa.Iによるリミックス。MC芸術歌とのヒップホップデュオ・ツインビーで「CONCRETE GREEN」シリーズにも参加していたらしいが、私が知ったのは昨年無料配信されたミックステープ『Remake Top Chart Song』でだった。

              Da.I『Remake Top Chart Song』
      2010年9月14日アップの無料配信ミックステープ。
                             [DLサイト]
2009年のオリコンシングルチャートで月間1位の12曲だけを素材にトラックを構築してしまったという作品。元ネタの面影はほとんどなく、そういう意味で物足りなさはあるものの、面白い試みだ。地元姫路のラッパーが多く参加しているのも新鮮。

・KOJOE「Ii (Beats Zan Remix)」[DLサイト]
・MoNDoH「Every Dog Has His Day (Beats Zan Remix)」[DLサイト]
18歳のトラックメイカーBeatz Zanによるリミックス。

・KLOOZ「Livin' in the future Remix」[DLサイト]
手掛けたのは栃木県は佐野市で暮らす26歳のトラックメイカーDJ CRUNK a.k.a IWACCHI。クルーズのリミックスは数多くあり、ラップも強度があるからどれも楽しんで聴けるのだけど、レトロフューチャーな趣がある本作が一番好き。これすごくいい。

・KLOOZ「Livin' In The Future (soratok Remix) (Update Ver.)」[DLサイト]
詳細不明のトラックメイカーによるリミックス。



最後は今回の"七つの大罪"プロジェクトを批判した曲を。
・MM Jackerz(mikE maTida×Morrow)「Livin' In The Future Remix」[DLサイト]

モローが、"っつーか退屈だったぜ7日間"と切り出せば、マイク・マティーダは"題材は確か七つの大罪? ヘタレがシーンに不法滞在w / オレのこのキャラは計算外? 許すぜ、七つの軽犯罪w"と腐しながら、オトワ製トラックにさらりと乗ってしまった1曲。こういう遊びは楽しい。

モローはクルーズとアクロがやっていたお遊び「Like A Game」でもRioRと共に参加していた東京のラッパー[YouTube]。オトワがプロデューサー部門で優秀賞を勝ち取ったBETTER HALVESのシングル・リミックスコンテストで、モローもまたAmebreak賞MC部門で栄冠に輝いている。一方、マイク・マティーダは大分出身で現在東京は杉並在住のソロラッパー。昨年は3本のミックステープを発表し、「Suginami Livin'」という杉並アンセムを作った男だ。ラップもかっこいいけど、硬軟織り交ぜたリリックが持ち味。

              mikE maTida『Hey Mikee Vol.3』
2010年12月30日アップの3本目の無料配信ミックステープ
                            [DLサイト]
上記した「Suginami Livin'」収録の『Hey Mikee! Vol.1: Deluxe Edition』はこちらから。さらに『Hey! Mikee Vol.2』もDL可能!3枚ともかなりの力作。



今回「The Se7en Deadly Sins」について書き始めたら、また無駄に長くなってしまったわけだけど、でも気づいたら昨年リリースされた刺激的なフリーダウンロード・ミックステープをほとんど書き連ねていた。これこそがベンジージーの戦略なのかもしれない。それはそれとして、ここまできたらハマーとアクロの作品も付け足そう。

ハマー自身は今回の企画に対して(おそらく)、モローやマイク・マティーダとは違い、本気の中傷ツイートをしている。"ギャグでラップ再開しよかな。若い世代みたいなのもみんな結局つるみだして、きもいことになってるし笑 ノリでまとめて全滅させよう♪最近カスな曲フリーでネットにバンバン上げるの君らの間で流行ってるみたいだけど、何それ?お前ら一人もSWAGなやつなんかいねーし笑 本気と書いてマジで"。そのぶれない姿勢、まさにswag。

ham-R『Stay Hungry Stay Foolish』
2010年9月11日アップの1本目の無料配信ミックステープ。
[DLサイト]
                    ham-R『Seven Demos』
2010年10月11日アップの2本目の無料配信ミックステープ。
                             [DLサイト]
DJ RIE & ham-R『Free Lil Wayne Mash Up』
2010年11月5日アップの3本目の無料配信ミックステープ。[DLサイト]
             ham-R×Y.G.S.P『Future Vintage』
2010年11月20日アップの4本目の無料配信ミックステープ。
                             [DLサイト]
ham-R『Milestones』
2007年11月27日アップの3本目の無料配信ミックステープ。[DLサイト]
昨年9月に1本目のミックステープ『Stay Hungry Stay Foolish』を出してからのham-Rの快進撃は驚異だった。それまではシーダ周辺のアーティストという認識だったわけだけど、多彩なフロウを駆使したラップ、鋭いトゲのあるリリック、思わず笑ってしまうストーリーテリング、トラックメイクの才まで持ち合わせている。しかもほぼ毎月出していたわけだが、それぞれに別のテーマを掲げ、毎回それまでのイメージを刷新させる企画力があった。圧倒されっぱなしだ。思えば9月、10月、11月は至福の3ヶ月だったといえる。

『Stay Hungry Stay Foolish』から2本目『Seven Demos』への変化にはのけぞったし、その後の『Free Lil Wayne Mash Up』にそういうことかと納得し、『Future Vintage』では、ICE DYNASTYからアクロ、マンドゥ、ZONE THE DARKNESS、SQUASH SQUAD、はてはSky-Hiまで参加させた豪華な1枚になった。尖りまくりのY.G.S.Pのビートも最高だ。そのわずか1週間後にはそれまでのシンセ音厚めの楽曲から音数を一気に少なくし、マイルス・デイヴィスの上でラップするスキットを挿入した『Milestones』を発表。予想の斜め上を行くアーティストだと分かっていたのにまたもや目を回した。

完璧に地ならしをした2010年後半だったわけで、2011年は正規版リリースかと思ったら、"RAPはとっくに飽きています やはり一瞬マイブームみたいな感じでした …時間かけなくてよかったあ"と呟き(2月21日)、がっかりさせられた。ただ早くも4月末には新しいレーベルを立ち上げ、ラップも再開するとツイート。8月リリースのアルバム告知までしている。ラウ・デフとのビーフでジブラすらも手のひらで転がした策士ぶりからも、今年はさらに楽しませてくれそうだ。


AKLO『2.0』
2010年2月9日アップの2本目の無料配信ミックステープ。[DLサイト]
AKLOは単曲でアップされた曲はかっこいいし、楽しみにしているのだけど、本作はピンと来なかった。ボーナストラックが良かったぐらい。2009年の1本目はここでDL可能。
2011.05.26 Thursday 23:59 | 音楽 | comments(3) | trackbacks(0)
Togetter - 「"RAU DEF vs. ZEEBRA"への同業者の反応」

2011年5月18日に始まり、23日に収束した21歳のRAU DEFと大御所中の大御所ZEEBRAのビーフ。そのラップに対する感想や意見はまた別の機会に書くとして、当初から気になっていたのはジブラ周辺の演者たちの反応だった。Twitterで宇田川(渋谷)辺りの強面ラッパーたちがキレて、ラウ・デフ包囲網が築かれてるといった呟きを読んだからだ。

SEEDAとGUINNESSの2年前のビーフでも、ギネスはラップではなく腕っぷしに頼ろうとする気配を見せた。しかし、シーダに見事一蹴され、何より2PacやNotorious B.I.Gを襲った悲劇を思えば、愚かなことは明白であり、まさか日本でそんなことが起こるとは想像したくないけれど、それでも気になり調べてみた。

国産ヒップホップの演じ手のツイートだけを集めることにしたのだが、アーティストをほとんどフォローしていないので誰がトゥイッターをやっているのか分からない。"RAU DEF"で呟き検索すれば、たくさんのツイートが並ぶものの、それだけでは演者なのか聴き手なのかの判別が困難だ。アカウントの頭に"DJ"とあれば、本職かどうかは別にして目印にはなるが、ラッパー、さらには裏方となるともうお手上げ。

そこで、日本語ラップポータルサイトAmebreak主宰者11zeroのアカウントを見てみると鍵がかかっていて呟きまでは見られないけれど、"フォローは知り合いの方のみ承認"とある。つまり彼がフォローしている人は業界関係者となるはず。覗き見しているようで行儀悪いが、フォローリストを拝見させてもらい、そこから当たりをつけ、今回のビーフに言及しているツイートを引き抜いた。また、1年ほど前に作成された日本語ラップ界のトゥイッター名簿(http://bit.ly/kKznUs)も参考にした。

リツイートされていたT2Kのやや乱暴な呟きが特に気になっていたわけだが、それ以上に暴力を示唆しているものはなく、正直拍子抜けした。直接的なものいいから日本語ラップ村の暗渠を覗けるかもという目論見は崩れた。もちろん集めきれなかった呟きは多くあるはずだけど。そんな結果だったので、ボツネタかなとも思ったのだけど、調べていく中で驚いたのは、ある程度名の通ったラッパーの多くが今回の件をスルー(あるいは公式RTだけ)していることだった。

まとめ記事を見れば一目瞭然だが、有名ラッパーの呟きはほとんどない。無料配信曲で話題を集めようとしているまだまだ無名の若手や、それぞれの地元で根を張り活躍しているアーティストたちが生き生きと呟いているのが印象的だ。好き嫌いで簡単に判断し、好き勝手に批評分析し、憶測するといったリスナーが持つ自由さは少ないものの、業界トップのラッパーへの配慮や距離の置き方、ラウ・デフの2本目以降の流れの変化など興味深かったのでアップすることにした。

http://togetter.com/li/138983
2011.05.24 Tuesday 01:20 | 音楽 | comments(0) | trackbacks(0)
第64回カンヌ国際映画祭

2011年5月11日から22日にかけて開催された同映画祭の受賞作。

コンペティション部門
審査員長はロバート・デ・ニーロ。

<候補作>
私が、生きる肌』 (スペイン)
『ある娼館の記憶』 (フランス)
『Pater』 (フランス)
『Herat Shulayiml』 (イスラエル)
『昔々、アナトリアで』 (トルコ)
少年と自転車』 (ベルギー)
アーティスト』 (フランス)
『ル・アーヴルの靴みがき』 (フィンランド)
『朱花の月』 (日本) 河瀬直美監督
『スリーピング ビューティー/禁断の悦び』 (オーストラリア)
『パリ警視庁: 未成年保護部隊』 (フランス)
ツリー・オブ・ライフ』 (アメリカ・フランス)
『La source des femmes』 (フランス)
一命』 (日本) 三池崇史監督
ローマ法王の休日』 (イタリア)
『少年は残酷な弓を射る』 (イギリス)
『ミヒャエル』 (オーストリア)
きっと ここが帰る場所』 (イタリア)
『メランコリア』 (デンマーク)
『ドライヴ』 (アメリカ)

パルム・ドール
ツリー・オブ・ライフ

グランプリ
『Bir Zamanlar Anadolu'da』
少年と自転車

審査員賞
『パリ警視庁: 未成年保護部隊』

監督賞
ニコラス・ウィンディング・レフン監督 『ドライヴ』

男優賞
ジャン・デュジャルダン 『アーティスト

女優賞
キルスティン・ダンスト 『メランコリア』

脚本賞
ヨセフ・シダー 『Hearat Shulayim‎』

パルム・ドッグ賞
アギー 『アーティスト

カメラ・ドール
『Las Acacias』


ある視点部門

<候補作>
『The Hunter』 (ロシア)
『Halt auf freier Strecke』 (ドイツ)
『アウトサイド・サタン』 (フランス)
『マーサ、あるいはマーシー・メイ』 (アメリカ)
『キリマンジャロの雪』 (フランス)
『Skoonheid』 (南アフリカ)
『次の朝は他人』 (韓国)
『Bonsai 〜 盆栽』 (チリ)
『TATSUMI』 (シンガポール)
『アリラン』 (韓国)
『Et maintenant on va ou?』 (フランス)
『Loverboy』 (ルーマニア)
哀しき獣』 (韓国)
『Miss Bala』 (メキシコ)
『Trabalhar Cansa』 (ブラジル)
『永遠の僕たち』 (アメリカ)
『大臣と影の男』 (フランス)
『Toomelah』 (オーストラリア)
『Oslo, 31. august』 (ノルウェー)

ある視点賞
『Halt auf freier Strecke』
『アリラン』
2011.05.23 Monday 23:55 | | comments(0) | trackbacks(0)
スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団 / Scott Pilgrim vs. the World

82点/100点満点中

ショーン・オブ・ザ・デッド』『ホット・ファズ』のエドガー・ライト監督の最新作。ラブコメアクション。主演は『JUNO/ジュノ』のマイケル・セラ。製作費6000万ドル。2011年公開作品。

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インディーズバンド"セックス・ボブオム"のベーシスト、スコット・ピルグリムは、女子高校生ナイブスと付き合いながらも、ミステリアスなラモーナにひと目ぼれしてしまう。そんな彼の前に突然謎の男が現われ、戦いを挑んできた。男の正体はラモーナの最初の彼氏マシュー・バテル。ラモーナと付き合うには、7人いる元彼たちを全員倒さなければならなかったのだ。
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カナダの漫画『スコット・ピルグリム VS ザ・ワールド』の実写化。原作は日本のサブカルチャーの影響が強いらしく、本作でも格闘シーンでは世界的にも大ヒットした対戦型ゲーム「ストリートファイターII」の形式が用いられたり、擬音や擬態語による効果音がスクリーンに現れたり、人物の所作によく見かけるものがあったりと、確かにそこかしこに見慣れた演出が散らばる。

ひと画面の情報量がやや多くなる傾向にあり、さらに編集はやりたい放題で、ファンタジー方面にがむしゃらに突き進む。そのために遅れを取らぬようかなりアップアップしながら集中して見ることを強いられる。ただ、登場人物のキャラクターの濃さや分かりやすい類型化のおかげもあって、それほど置いて行かれることなく楽しめるのはエドガー・ライト監督の手綱さばきの妙だろう。

マコーレ・カルキンの兄キーラン・カルキンが演じた主人公スコットの同居人にしてゲイのウォレスが特にいい塩梅だ。音楽はレディオヘッドのプロデューサーで、"第6番目のメンバー"ともいわれるナイジェル・ゴドリッチ。そういった細かいところでのくすぐりが多い作品であり、DVD向きなのかもしれない。しかし、マイケル・セラはナードタイプの俳優なのに、たいていがモテる役柄を演じていていつも不思議に思う。

ホット・ファズ』のように万人が笑えるコメディではなく、『ショーン・オブ・ザ・デッド』に近い見る者を選ぶ映画を6000万ドルの製作費を掛けて撮って、アメリカのランキングでは初登場5位に終わったわけで、次があるのか少し心配になるところではある。邦題を最初に聞いたときは、ふざけるなと憤ったけれども、見終えてみると意外に悪くないなという印象。"元カレ"ではあるのだけど。
2011.05.22 Sunday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
屋敷女 / A l'interieur

90点/100点満点中

『ベティ・ブルー』のベアトリス・ダルがサイコさんを演じる2007年のフランス産スプラッタホラー。監督は本作がデビューとなるジュリアン・モーリーとアレクサンドル・バスティロ。製作費300万ドル。

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クリスマス・イヴの夜。4ヵ月前に事故で夫を亡くしたサラは、臨月のお腹を抱え、自宅でひとり安静にしていた。夜半過ぎ、見知らぬ女がドアをノックする。不審に思ったサラは拒否するが、女は態度を急変させ強引に侵入を図る。サラが警察を呼ぶと女は消えていた。不安を覚えながら床につくサラだったが、この時すでに女は家の中に忍び込んでいたのだった・・・。
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83分間ずっと緊張を強いられる作品。すごいことだと思う。映画としては短いが、これだけとてつもないプレッシャーだと見ているだけでも非常に疲れる。映画館だったら不安を煽る低音がもっと効いていただろうし、さらに圧迫感が倍増していたことだろう。

渋谷にあった「ライズX」で公開していたのは知っていたのだけど、当時読んだブログ記事か何かで画面が暗すぎて何が何やら分からないと書かれていて、確かに「ライズX」は鑑賞環境としては貧弱だったし、邦題や"この女、凶暴につき。"といった宣伝文句から伝わる力の入れてなさ具合からも、インディーズ然としたマニアックな作品なのかなと思い、スルーしてしまったわけだが、今さらながら悔やんでいる。先日の『マーターズ』といい、フランスのホラーは本当に素晴らしい。

緊張感の持続のさせ方が巧妙だ。物語的にはほとんどが屋内("屋敷"と呼べるほどではないにしろ一軒家)であり、見ているこちらが思わず背後に気をつけろ!と突っ込みたくなるほど、ドアが開けっ放しだったりするわけだけど、そういった初級の緊張感からそこにナイフの切っ先を入れるのかという、それをやったら表現として外道だろうと思えてしまう一手までためらうことなく選択してくるから、終始あわわと取り乱すことになる。

しかし、それでいてある意味きれいにオチをつけるのだから新人離れしている。序盤の事故は当然、病院のベンチでの会話まできれいに回収する。単なる"隣のサイコさん"の物語にせず、人として、女性としての性みたいなものまで表現しているのが見事。

最後の階段のシーンでもやもやと黒い影みたいなものが血だらけの場面にかぶさるが、ぼかしなのかどうかすぐには分からなかった。

ウィキペディアを見ると、"日本劇場公開版とレンタルDVD版では、クライマックスのあるシーンが、黒いぼかしで修正されている。これは映倫からオリジナル版が審査を拒否されたため、日本の配給サイドで自主的に修正を加えたものである(映倫を通していない映画は殆どの映画館で上映を拒否されるため)"とある。なお、"無修正の映像はアンレイテッド(未審査)のセル版DVDのみで鑑賞が可能"とのこと。

レンタルDVDで見たので、実際の映像は見られなかったわけだけど、あれぐらいは普通に流される程度のグロさなのかなと想像する。そんなに酷いのか?スプラッタものにはもっと酷いものがありそうだ。
2011.05.21 Saturday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
マーターズ / Martyrs

96点/100点満点中

2008年のフランス産バイオレンスホラー。パスカル・ロジェ監督・脚本による2作目。製作費280万ユーロ。

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1970年初頭のフランス。行方不明となっていた少女リュシーは監禁場所の廃墟ビルから決死の脱出を果たし、保護される。性的虐待はなかったものの全身に無数の生傷を負っていた。犯人は見つからず、養護施設に収容されたリュシーは激しいショックから心を閉ざすも、同じ年頃の少女アンナの献身的な支えによって少しずつ癒えていく。その15年後、猟銃を手にしたリュシーはある屋敷のドアをノックする。
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内容を全く知らずに、レンタルDVD屋のPOPだけを頼りに借りたら、すごい内容の作品だった。あらすじも何も知らなかったので、物語の展開が少しも読めず、圧倒されっぱなしだ。

裸同然の女性が力なくよろめきながら逃げるオープニングは、同時期のやはり仏ホラー映画『フロンティア』を彷彿させ、あんな感じでスプラッタ路線なのかなと思いきや、動きの速いゾンビのようなクリーチャーが登場し、かと思ったら15年の月日が一気に流れ、仲の良い家族の団欒が映し出され、はたまた次の瞬間にショットガンが火を噴き、スクリーンが血に染まる。

ただ、急激な方向転換があっても展開には無理がなく、意表突かれるものの、全てに意味があり、脚本は演出同様秀逸だ。音楽も抜かりない。そして、意外なところに見つかる"階段"から徐々に真相が明らかになっていく。リュシーは幼い頃に何故囚われていたのか。激しく虐待され衰弱しながらも生き長らえている女性とは・・・。

マーターズは"殉教者"の意であり、カルトとはいえ宗教まで説得力を持たせながら絡ませるのは本当に見事な手腕。信教が出てくると途端に鼻白むことが多々あるが、本作でのそれは当人たちの狂い方が異常すぎであり、また彼らが目的のために行ってきた所行・実験をつぶさに見せつけられるという段階を踏んでいることもあり、そこにはある種の純粋さや崇高さを感じられなくもない。明らかに間違っていると知りつつも、だ。

女性たちが受ける数々の拷問の苛酷さは、映画と分かっていても目を背けたくなる(特に頭部に鋲とか)。序盤のクリーチャーなどただのこけおどしに思えてきてしまうほど、おぞましさの度合いは確実に上昇していく。昔話の例のウサギを思い出すクライマックスに至っては正視に耐えない。しかし、あそこまでやせ細った女性は本当の拒食症の人でも連れてきたのだろうか。

宣伝文句は、"残酷ホラー映画が遂に到達した究極の新境地「最終解脱」!これは本当に公開して良いものなのか!?"というものらしいが、本作を公開したというのは立派というか、どうして上映されたのを知らなかったのだろうと今激しく後悔している。やっぱり「渋谷シアターN」でやったのだろうか。



*****************
<パスカル・ロジェ監督作品>

1971年生まれ
2004年 MOTHER マザー 【監督/脚本】
2008年 マーターズ 【監督/脚本】
2012年 トールマン 【監督/脚本】
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2011.05.19 Thursday 23:58 | 映画 | comments(4) | trackbacks(0)
スネーク・フライト / Snakes on a Plane

89点/100点満点中

監督は『デッドコースター』のデヴィッド・R・エリス。主演はサミュエル・L・ジャクソン。タイトルそのまんまな、2006年のB級パニックホラー。製作費3300万ドル。

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ショーン・ジョーンズはハワイでリンチ殺人を偶然目撃してしまう。大物ギャング、エディ・キムが自分を立件しようとしている検事を殺害する現場だった。唯一の目撃者ショーンをLAで証言させるべく、FBI捜査官ネヴィル・フリンが護衛につく。しかし、キムはショーンの口を封じるため、彼が乗り込んだ飛行機に大量の毒ヘビを忍ばせて・・・。
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本作も前日の『スリー・キングス』と同じく、「スティーヴン・キングが選ぶトップ10」に入っていた映画。日本での公開当時はどうせ蛇がたくさん出てくるバカバカしいパニック映画で、敢えてB級映画好きを狙ったものでしょ、ぐらいに思い、劇場に見に行く気はさらさらなかったのだけど、これがなかなか面白い作品で失敗だったかもしれない。

監督はスタントマン上がりのデヴィッド・R・ハリス。「ファイナル・デスティネーション」シリーズの中でも傑作といっていい2作目と冗長な4作目を監督した人だ。2004年には『セルラー』なんていう箸にも棒にもな作品もある。自分の中での評価がなかなか一定しない監督だ。

内容は、高度1万メートルの機内に突如として大量の毒蛇が出現し、人々を襲う。いってみればそれだけなのだけど、見せ方が巧みだ。フリン役のサミュエル・L・ジャクソンの存在感は相変わらずとてつもないものがあるのだが、それ以外の客室乗務員だったり、一般客の性格付けがしっかりなされていて、見せ場は一瞬だけだとしてもひとりの人間として描けているのが良い。また毒蛇からの目線というのも描写のアクセントになっている。

残酷表現はとことんえげつなく、押さえるべきお約束はお約束としてこなし、おそろしい事態にもかかわらずユーモアを忘れず、恐怖を蛇一辺倒にせず、展開にメリハリが効いているのが良い。主題歌のPVっぽいエンドロールを含め、最後まで楽しめる映画だ。
2011.05.04 Wednesday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
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今日も愚痴り中