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デヴォンシャー公爵夫人こと、ジョージアナ・キャヴェンディッシュを描いた2008年の歴史物。キーラ・ナイトレイ主演。製作費1350万ユーロ。
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18世紀後半のイギリス。スペンサー家の令嬢ジョージアナは名門貴族デヴォンシャー公爵と結婚。美しく聡明なジョージアナはたちまちロンドンの社交界の中心に。しかし、公爵は男子の後継者を作ることにしか関心がないという現実を突きつけられる。社交界の華として人々の羨望を集めながらも孤独が募るジョージアナは、湯治先のバースでエリザベス・フォスターと出会い、友情を築くのだが・・・。
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四の五のいわずとりあえず気になる俳優のコスチューム・プレイを見てみようシリーズの第5弾は、前回の『
プライドと偏見』に続いてキーラ・ナイトレイの主演作。
同時代を生きたマリー・アントワネットと比較されることもあるジョージアナはスペンサー家の出身であり、1997年に亡くなった英国元王太子妃ダイアナの生家にあたる。詳しくは、ジョージアナの弟の第2代スペンサー伯爵ジョージの直系子孫がダイアナだ。しっかりとした個を持った生き方やファッションリーダーとしての活躍、あるいは派手な男性スキャンダルなどが約200年後に活躍したダイアナに似ていることもあり映画化されたのだろう。
ジョージアナは1757年に生まれ、17歳の誕生日を迎える前日の1774年6月6日に、英国でも長い歴史を持ち、今でも連綿と続くキャヴェンディッシュ家の第5代デヴォンシャー公爵ウィリアム・キャヴェンディッシュと結婚する。9歳年の離れたデヴォンシャー公が彼女に求めるものは忠誠と男子の後継者。女子の誕生が喜ばれない時代に彼女はふたりの女の子を出産し、デヴォンシャー公が期待する男の子を産めずに苦しむ。
『
プライドと偏見』と同じ18世紀を舞台にする。田舎の中流家庭の次女は自分の恋心に素直に行動したが、本作のナイトレイは家と家の政略結婚に翻弄され、女性の自己表現はファッションの中でしか見出せないという男尊女卑の封建制度が残る時代を懸命に生きようとする。
公爵がしていた政治活動を手伝ったり、後に首相となる青年との関係など興味深い事柄はあるものの、抑圧された女性性が際立ってしまい(時代物を敬遠する理由のひとつ)、物語としては楽しめない。
デヴォンシャー公爵を演じたレイフ・ファインズ(「ハリー・ポッター」シリーズに出てくる鼻のない悪役)が、ジョージアナにつれない態度を取りながらも、憂い帯びた表情を時折見せることで、彼は彼で名家を背負うという重責に押し潰されそうになっていたことを表現していて、作品に幅が生まれている。
<いつものようにみんなの百科事典ウィキペディアで"その後"をお勉強>
ジョージアナは1806年に48歳の若さで亡くなった。映画の中でもシャーロット・ランプリング演じる母親のレディ・スペンサーに釘を刺されていたが、賭け事が好きだった彼女は借金まみれだったという記録があるそうだ。
1783年に生まれた長女ジョージアナとその2年後の1785年に誕生したハリエットはそれぞれ嫁いだが、待望の世継ぎのウィリアム(1790年生まれ・第6代デヴォンシャー公爵)は結婚せずに、子供を成さないまま1858年に死んでいる。
一方、デヴォンシャー公爵夫人との間にイライザ・コートネイ(1792-1834)をもうけたチャールズ・グレイは、後に第2代グレイ伯爵チャールズ・グレイとなる。ジョージアナより7歳若い彼は1764年に生まれ、22歳(1786年)の時に議員に選出される。ホイッグ党の代表だった1830年の選挙で与党トーリー党を破り、首相の座につく。1832年、第1回選挙法改正を成立させ、その翌年には奴隷法を廃止。1834年までの4年間首相を務めた。彼以後、今も続く"自由党(ホイッグ党の後身)と保守党(トーリー党の後身)の二大政党政治"が始まった。1845年、81歳で没。紅茶好きとしても知られていて、アールグレイは彼にちなんで付けられたといわれている。正妻との間には16人の子供がいたそうだ。
ちなみに、公爵夫人と後の英国首相となったチャールズの子供イライザは、1814年にRobert Elliceと結婚し、2男3女をもうけた。同じ名前を授けた次女のEliza Elliceは、英国下院議長を務めた政治家Henry Brandと結ばれ、5男5女の子供を産む。その長男Henry Robert Brandは、George Cavendish公爵の次女Susan Henrietta Cavendishと結婚。
もうひとつちなみに、スーザンの父ジョージ・キャヴェンディッシュ公爵は名前からも分かる通りに、キャヴェンディッシュの一族であり、本作で登場する第5代デヴォンシャー公爵の弟ジョージ・キャヴェンディッシュ(第4代の三男)の長男で政治家として活躍したウィリアム・キャヴェンディッシュの次男に当たる。つまり、ジョージアナの息子で第6代デヴォンシャー公爵ウィリアムのはとこだ。上述したようにジョージアナの息子は結婚しなかったために、爵位はスーザンの叔父が引き継ぐこととなった。
さて、ヘンリー・ブランドとスーザンは子だくさんで9人も子供を作った。その長女Margaretが1897年にAlgernon Francis Holford Fergusonと結婚する。1899年に生まれた次男Andrew Henry Fergusonの次男となるRonald Fergusonの次女が、ファーギーの愛称で知られるセーラ・ファーガソンその人なのだ。長かった。彼女は女王エリザベス2世の次男ヨーク公爵アンドルー王子の元夫人"ヨーク公爵夫人"。数々のスキャンダルを経て、1996年にアンドルー王子と離婚。昨年も王室に絡むゴシップネタで騒がせていた人だ。
ダイアナといい、セーラといい、英国王室の威厳を台無しにしかけた種子は200年前に蒔かれていたということのようだ。