すばらしくてNICE CHOICE

暇な時に、
本・音楽・漫画・映画の
勝手な感想を書いていきます。
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2021.02.10 Wednesday | - | - | -
つぐない / Atonement

82点/100点満点中

ジョー・ライトの監督デビュー作『プライドと偏見』(2005)に続いて再びキーラ・ナイトレイを主演に撮られた2007年の歴史ドラマ。第80回アカデミー作曲賞受賞。製作費3000万ドル。

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1935年英国。政府官僚ジャック・タリスの屋敷では、小説家を夢見る13歳のブライオニーが夏休暇で帰省する兄とその友人を自作の劇で歓待しようと準備していた。一方、姉セシーリアは身分差を自覚しつつも使用人の息子ロビーへの恋心に気づく。ロビーにほのかな想いを抱いていたブライオニーは、嫉妬心から姉とロビーの関係を誤解してしまう。そんな時、15歳の従姉妹ローラが敷地内で襲われる事件が起きる。現場を目撃したブライオニーは、ロビーが犯人だと告発、彼は警察に連行される。4年後、ロビーは第二次大戦真っ只中のフランスに一兵卒として送られ、セシーリアはロビーの無事な帰国を信じ、彼への手紙をしたため続けていた。
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前半で13歳のブライオニーを演じるシアーシャ・ローナンは実際も作中と同じ年齢(1994年生まれ)で、その年のアカデミー賞では史上7番目の若さで助演女優賞候補となる。それも納得の演技力を見せていて、2009年にはピーター・ジャクソンの『ラブリーボーン』で主演を、さらに最新作『ハンナ』ではジョー・ライトに主役として起用されることになる。

物語は、ブライオニーの幼い嫉妬心が生み落とした嘘が姉セシーリアと屋敷の使用人の息子でセシーリアとは大学の同窓生でもあったロビーとの恋を引き裂く。運が悪いことに第二次大戦が始まってしまい、ふたりの運命はさらに大きく狂う。5年後。英国はナチスドイツの空爆を受け、戦局は悪くなる一方だった。フランスを救うべく乗り込んでいったイギリス軍は撤退を強いられ、ロビーは命からがら北の海岸を目指す。かたや、セシーリアは看護婦としてロンドンの病院で働き、彼女との断絶をいまだ埋められないブライオニーもまた看護学校で学び、同じロンドンで実習中だった。

5年後の18歳のブライオニーを演じるのはフランソワ・オゾンの『エンジェル』では主役を張ったロモーラ・ガライなのだけど、それでも場面が変わった瞬間はローナンと比較すると若干見劣りする。子供らしい無邪気さや早熟さ、憂いといった表情を演じ分けるローナンはそこにいるだけで光がある。もちろん、幼い頃は輝くばかりの才能があっても、成長するにつれて・・・というのはよくある話で、13歳から18歳への変化も、姉とロビーのことが大きく影を落としているわけで、とても現実的といえるのかもしれない。ただ、ガライも全く悪いわけではなく、次第に慣れていく。

ドーバー海峡に接する北フランスの浜辺にようやくたどり着いたロビーたち3人を待っていたのは、帰国を切望する多くの英国兵たちだった。9日間で33万もの兵を救出したダイナモ作戦という史実を描くシーンなのだが、唐突に圧巻の長回しが始まり驚く。長回しなのでごまかしは利かず、エキストラの数は膨大であり、セットもかなり凝っている。戦争という悲劇がふたりをさらに窮地に追いやった一因であり、その無意味さを描写するためとはいえ、そこまでしてやる必要があるのかと思えるほどに気合の入った場面だ。

終盤、本作の物語は作家志望のブライオニーが後に執筆した小説からのものと分かる。そしてラストシーンでは叙述トリックに近い仕掛けも隠されている。13歳の少女がついた嘘が織りなすドラマは戦争の悲劇も加わり、思いもよらぬ着地点に到達するが、俳優たちの好演やセットの良さもあり、最後の最後まで楽しんで見られる作品だ。
2011.08.31 Wednesday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
L.A.コンフィデンシャル / L.A. Confidential

77点/100点満点中

ジェイムズ・エルロイの同名小説を映画化した1997年の犯罪ミステリー。監督は『ゆりかごを揺らす手』や『8 Mile』のカーティス・ハンソン。出演はケヴィン・スペイシー、ラッセル・クロウ、ガイ・ピアース、キム・ベイシンガーら。第70回アカデミー賞では、助演女優賞と脚色賞を受賞。製作費3500万ドル。

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暗黒社会のボスが逮捕され縄張り争いが激化する1950年代のロサンゼルス。深夜のカフェで元刑事を含む6人の男女が惨殺される事件が発生。殺された刑事の相棒だったバドが捜査を始める。殺された女と一緒にいたブロンド美人リンに接近。彼女は映画スターに似た女を集めた高級娼婦組織の一員だった。同じ頃、その組織をベテラン刑事ジャックが追っていた。野心家の若手刑事エドも事件を追い、容疑者を射殺。事件は解決したかに見えたが、彼ら3人は底なしの陰謀に巻き込まれていく。
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犯人逮捕のためなら暴力も厭わない荒くれ者の中堅どころ刑事バドと、清廉潔白を信条とする刑事課に配属されたばかりの新人エド、また麻薬課に所属し、人気テレビドラマの監修も務めるジャック。3人の視点からロスの闇社会が起こした事件を解決へ導く。

1995年の『クイック&デッド』でハリウッド進出を果たしたばかりのニュージーランド生まれのラッセル・クロウがバド役を熱演し、涼しげな顔のジャックにはケヴィン・スペイシーが、また高潔の男エドを本作でハリウッドデビューとなったガイ・ピアースが演じている。他にもタブロイド紙の記者役にはダニー・デヴィートがいるし、アカデミー助演女優賞を受賞したキム・ベイシンガーはその厚塗り化粧が自然ですらある高級娼婦リン役で、まさに適役だ。

俳優陣も豪華だが、138分と長めの上映時間をめいいっぱい使い複雑に入り組んだ事件を描く。評判の良い原作を未読なので比べようがないが、それなりに巧みに映像化しているのではないだろうか。役者のさすがの演技力でキャラクターに説得力をもたせていることも大きい。ラッセル・クロウの感情に走りがちではあるが、細やかな神経の持ち主でもあるという地そのままといった演技が光っていた。

気になるのは安っぽいセットだが、50年代ハリウッドという当時を意識してのものなのだろう。
2011.08.30 Tuesday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
フェイス/オフ / Face/Off

71点/100点満点中

ジョン・ウー監督がハリウッドに渡り、3作目にしてヒットにさせた1997年のアクション映画。ニコラス・ケイジ、ジョン・トラヴォルタ競演。製作費8000万ドル。

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テロリストのキャスター・トロイの狙撃で最愛の息子を失っているFBI捜査官ショーン・アーチャー。壮絶な追撃戦の末、ついにトロイを捕らえたが、LAのどこかに細菌爆弾を仕掛けている事が判明する。トロイは意識が戻らず、唯一の情報源は獄中にいるトロイの弟ポラックスだけだった。アーチャーは自分にトロイの顔を移植させ本人そっくりに変身し、刑務所にトロイとして入獄。ポラックスから爆弾のありかを聞き出す。一方、昏睡状態のトロイは覚醒し、保存されていたアーチャーの顔を自分に移植させてしまう。
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血の雨が降る直前に白いハトが舞い、二丁拳銃は銃弾をまき散らし、隙あらば男たちはスローモーションで横っ飛びを披露するという、まさにジョン・ウーらしい映画。今でもその評判を耳にする1997年の作品だが、同じニコラス・ケイジ主演の『コン・エアー』を面白いと評していた友人が当時勧めてきたので、これはスルーしても良いなとずっと見逃していた。

十数年経った今見てみると、銃撃戦も肉弾戦もいささか古びていることは否めない。また、宿敵の顔の皮膚を移殖させて刑務所に潜入、敵の弟から情報を得るという展開の無理やりさや、どこにでもタイミング良く登場するニコラス・ケイジなど、さすがジョン・ウー品質と揶揄したくなる出来ではある。

それでもクライマックスのボート追走シーンは繋ぎはめちゃくちゃだが、ぶっ飛ばしまくっていて、爽快感がある。
2011.08.29 Monday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
ツリー・オブ・ライフ / The Tree of Life

78点/100点満点中

2005年の『ニュー・ワールド』以来となるテレンス・マリック監督の最新作。本年度のカンヌ国際映画祭最高賞のパルムドールを受賞。人間ドラマ。主演はショーン・ペンとブラッド・ピット。製作費3200万ドル。2011年公開作品。

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成功した実業家ジャック・オブライエンは人生の岐路に立ち、自らの少年時代に思いをはせる。1950年代半ばのテキサスの小さな町に暮らすオブライエン一家。厳格な父は成功のためには力が必要だと、長男のジャックを始め3人の息子に理不尽なまでに厳しい態度で教え込む。一方、母親は子供たちを優しい愛で包み込むのだった。
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監督のテレンス・マリックは1973年の監督デビューからこれまでわずか5作と作品数が少ないにもかかわらず、本作のカンヌ・パルム・ドールを始め、同じカンヌで監督賞、ベルリン国際映画祭金熊賞と高い評価を得ている。劇場で見た彼の作品は金熊賞を受賞した『シン・レッド・ライン』だけだったが、今でもその時の感動を鮮やかに思い出せる。太平洋上の孤島で行われた日米の兵士による生々しい肉弾戦とそんなことは我関せずで静かに風に揺れる緑の原っぱ。戦争の愚かさだけが際立ち、カメラワークが本当に素晴らしかった。

その彼が、再びカンヌで輝きを放ったというのだから、しかも主演のひとりはブラッド・ピットだ、絶対に見たいと思った。しかし事前に耳に入ってくる評価は芳しくなく、どうやら体調を整えて見に行った方が良いとのこと。前日にしっかり睡眠を取り、新宿は歌舞伎町にある日本でも最大規模のスクリーンを擁するミラノ1番館に向かった(2週目だったけど、観客は数えるほど・・・)。


なるほど。難解だ。監督は前半で地球誕生からの生命の進化、まさに生命の樹(ツリー・オブ・ライフ)を映像化してしまおうと意気込む。それと同時に、現代と1950年代に暮らすアメリカ人5人家族の物語をクロスカッティングさせ、さらには芸術性の高いショットを放り込むものだから、順序立てて理解するというよりも、感覚で膨大なイメージを受け取ることになる。

次男を19歳でうしなう悲しみ、数十年後にショーン・ペン演じる長男ジャックが直面する様々な想い、経済的にまだ余裕があった頃のエピソード。そういった分かりやすいはずの家族ドラマも時系列がシャッフルされるものだから、隣から気持ちよさそうな寝息が聞こえてきたのもむべなるかなとは思う。

ただ、父と息子の葛藤、特に思春期に入り自分でも心の制御ができず、傷つけたくないのに思わず辛く当たってしまう長男とその父という家族ドラマは見応えがある。少しでも幸せになって欲しいと礼儀作法やより実践的な人生訓を息子に授けようとする父。それに比べるとやや理想的ではあるものの、子供の幸福を願うという意味では同等の気持ちを抱き、慈しみ育てる母親。どこにでもある話とはいえるが、とても大切な成長の過程を繊細に描いている。

しかし、やはり無理があるなと思うのは、俳優たちの熱演が繰り広げられているところに、地球創世の物語からユカタン半島に隕石が落ちるまでの進化の流れ、さらにはキリスト教への献身的な祈りも加わるものだから、イメージの氾濫が本当に大変なことになっていることだ。単細胞生物から多細胞への進化、恐竜の誕生から滅亡まで進むので、その先には人類の誕生と神の獲得の物語もあるのかなと思いきや、ユカタンで止まってしまうことには、不思議な旅が突然断絶された気分にもなる。

本作は詩だ。詩は抽象度の高い表現であり、受け手にも作品への積極的な介入を必要とする。また相性もかなり重要だ。ふいに挟み込まれるイメージ映像に託された監督の想いを観客がどう取り込み、どう組み立てるのか。私は家族ドラマを中心に見ていたこともあり、かなり楽しめた。流れていくイメージの断片も完全には理解できずともその映像美、特に人物を映し出す時の自然光の取り入れ方には魅了された。

カンヌ映画祭が選出する映画は私には理解できないことが多いが、本作は納得できたし、何より最高賞に選んだのだ。英断だと思う。やはり信頼すべき映画祭なのだろう。
2011.08.28 Sunday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
クレイジーズ / The Crazies

72点/100点満点中

ジョージ・A・ロメロが1973年に撮った『ザ・クレイジーズ/細菌兵器の恐怖』のリメイク。2010年のパニックホラー。製作費2000万ドル。

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米国アイオワ州郊外の小さな町オグデンマーシュ。保安官のデヴィッド・ダットンが町の異変に気づく。上流の川に墜落した飛行機の積み荷から漏れ出た毒性の成分が原因と判断。ただちに給水を遮断するも、時すでに遅く、住民たちは狂暴化していく。突如現れた軍隊が町を掌握する中、デヴィッドと彼の妻ジュディは保安官助手のラッセル・クランクと共に軍に拘束されないよう町からの脱出を決断する。
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米軍の細菌兵器を乗せた軍用機がアイオワの田舎町に墜落し、水を媒介にして広まってしまう。政府は軍による封じ込め作戦を実施。7月に公開された『SUPER8/スーパーエイト』の宇宙人が細菌になり、軍の動きがより現実的になった印象の作品だ。ロメロ版は未見なので比較しようもないが、楽しんで見られた。

2000万ドルほどとたいして潤沢とはいえない製作費だが、ごった返す避難民や集結するものものし軍隊の様子などが生々しく描かれているので臨場感がある。似た設定の『SUPER8/スーパーエイト』に負けていない。

一時離ればなれになってしまった妻を取り戻したデイヴィッドは感染者や軍から身を隠しながら、相棒のラッセルと共に郊外の集合場所を目指す。味方以外は全て敵といえる孤立感がとても良い。また少しずつ事態の把握ができ、忍び寄る恐怖に現実感が増し、それがアイオワののどかな田園風景とのギャップを生み出しているのも良い。

ただ問題は感染者の症状がうまく理解できないこと。主人公たちも分からず、彼らが襲い掛かってくるから闇雲に逃げているだけではあるが、軍が呼ぶところの"クレイジーズ"たちの症状や発症要因、潜伏期間等に個体差があり、それは観客をハラハラさせたいがための方便でしかないと思えてくるのは残念だ。

それ以外はオチも含めて、楽しめる作品だ。
2011.08.27 Saturday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
スプライス / Splice

70点/100点満点中

『CUBE』のヴィンチェンゾ・ナタリ監督による2008年のSF映画。主演はエイドリアン・ブロンディとサラ・ポーリー。製作費3000万ドル。2011年公開作品。

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天才遺伝子科学者のカップル、クライヴとエルサは人間と動物のDNAを掛け合わせて未知の生命体を創り出す禁断の実験に魅せられ、やがて現実にひとつの生命を誕生させる。"ドレン"と名付けたふたりは極秘に育て始める。ドレンは驚くべき速さで成長し、あっという間に美しい女性へと変貌を遂げるのだったが・・・。
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フランケンシュタインの系列に位置する、人がその英知でもって人ならぬものを造り上げてしまう物語。生み出すのは当然マッドサイエンティスト。本作ではフランケンシュタイン博士が男女のカップルであるところが肝となる。

誕生したばかりのクリーチャーは当初は丸裸の鳥でしかないが、やがて人間らしき体を獲得していく。そのSFXはなかなか見事だ。ドレンと名付けられた女の子は父親代わりのクライヴに恋慕の情を抱き、母であるエルサには相反する感情を持つようになる。この辺りのフロイト的心理学はオチでの急展開にも関係してきて興味深い。映像的にも人間の形からさらにその先の成長を遂げようとする様子は見物だ。

科学者の行いに対し倫理的制御は必要だ。しかし、技術的に可能であるならば、その知的好奇心を思うままに満足させてみたいという思いも当然のことだと思う。本作がホラーにならず、ただのSFになってしまったのは、その描き方が実験過程を淡々と映し出すことに重心を置き、恐怖という側面は人間の底知れぬ探究心以外にはほとんど触れていないからだろう。

『CUBE』の監督ということでどうしても過剰なホラー要素を期待してしまうが、前作『NOTHING ナッシング』もそうだったように、どうもそういう方面には進まないようだ。
2011.08.26 Friday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
ラスト・ハウス・オン・ザ・レフト -鮮血の美学- / The Last House on the Left

70点/100点満点中

1972年のホラー映画『鮮血の美学』をリメイクした2009年の作品。原作の監督ウェス・クレイヴンと製作ショーン・カニンガムによるプロデュース。DVDスルー。

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両親と一緒に湖畔の別荘にバカンスにやってきた17歳の少女メアリー。友だちのペイジに会うために町へ出た。ペイジのバイト先でメアリーたちふたりはジャスティンという青年と知り合い、彼に誘われるままに彼が泊まるモーテルへ。すると突然、ジャスティンの父とその仲間ふたりが現われ、メアリーとペイジは誘拐されてしまう。
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物語は原作をきれいになぞりつつ、終盤で決定的な違いを見せる。しかし、話の骨子はオリジナルにかなり忠実だ。17歳の女子高生ふたりが事件に巻き込まれるきっかけはマリファナで変更はないが、悪漢4人のひとりで下っ端のジャスティンは意図してふたりを罠に引っかけるのではなく、予想外の事態ということに変わっている。また原作のように知恵遅れ気味ではなく、内向的な性格の少年となった。強姦シーンはこの時代らしくしっかり描きながらも、生々しく描写していたふたりをいたぶる場面が短くなり、またあっさり止めをさしている。

その分、後半のメアリーの両親による復讐劇に時間を大きく割いた。ホラー映画として初めて登場させたというチェーンソーは今回活躍せず、目新しい殺戮道具があるわけではないが、先の作品よりも残虐さが増している。とぼけた音楽もなくなり、ドジな警察コンビも省かれ、真っ当なスリラーとなっている。

しかし、前作にしろ今作にしろ犯人グループはどうして偶然にも被害者の両親の家に行くのか説明されない。
2011.08.24 Wednesday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
ストランペット / Strumpet

84点/100点満点中

ダニー・ボイル監督が『ヴァキューミング』と同時期(2001年)にBBCで撮ったテレビ映画。DVDスルー。

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場末のカラオケバーで時折ポエトリーリーディングを披露する変人ストレイマンと、宿無し少女ストランペットが偶然出会い、音楽が生まれる。漏れ聞こえてくる音に粗削りながらも光るものがあると感じた隣人ノックオフは録音し、ふたりのマネージャーを買って出て、ロンドンのレコード会社に売り込む。
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ヴァキューミング』と同じく荒々しい映像が特徴的だ。そして別の意味で本作もストレートな音楽映画になっている。地方で埋もれていた才能が掘り出され、ロンドンで開花し、成功直前まで行くが、その寸前で降りてしまう。そして大事なものを見つけるというありがちな展開だ。でも、そこはボイル監督なわけで、キャラクターは強烈だし、彼らの持ち歌となるパンキッシュな歌は刺々しくも包容力のあるメロディと歌詞があり、ラストシーンでは激しく揺さぶられた。

男は自宅の壁一面に自分の詩を書きつけていた。女は幼い頃からギターをおもちゃ代わりに育った(そのわりには驚くほど下手なのだけど)。ふたりが出会い、曲が生まれた時、そこには夢も打算もなく、ただ純粋に音楽と歓喜だけがあった。ふたりともいつかは表に出そうと表現しようと思っていたことを思いもよらぬ形で、しかも予想の上をいく熱さを持ってこの世に誕生させることができたのだ。その満足感だけで彼らは十分だった。

けれど、その音に心を動かされた人間がもっと多くの人に自分と同じ感動を分け与えたい、同時にそこには野心や功名心も秘めているわけだけど、と考えて、ふたりをより広い世界に連れ出す。もともと偏屈な性格だった男は新しい環境に順応できず、軋轢が生まれ、スターになる才能があったにも関わらず、押しつぶされる前に、また相棒の迷惑になる前に去ることを決意する。

原石は結構転がっているのだと思う。それを商品という包装紙に包むためには、でっぱりを削ぎ落とし、欠けている部分には処置を施し、見栄えを良くする必要がある。そんなことをしなくても十分な圧倒的な才能も中にはあるのかもしれないが、まあまれだろう。そして、繊細な神経の持ち主でもある表現者はその過程で自我を失っていく。

そんなよくある物語が描かれている。BBC製作ということで、かの有名な音楽番組「Top of the Pops」が登場し、番組を壊してしまうのは、ボイルのユーモアだろう。

ストレイマンの人物像がドアーズのジム・モリソンを彷彿させるのも良い。それと、猫が出る映画は多いが、犬が自由に道路を走り回る作品は少ないように思う。そういう意味で前半の散歩風景はちょっと異様で面白かった。
2011.08.22 Monday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
BBOY PARK 2011(8月21日)@代々木公園野外音楽堂
さて、2日目。昨日は辛うじて天気は持ちこたえたが、この日は朝から降る気満々の空模様。行くことが義務になってないかと自問自答しないわけでもないけど、傘を手に出発。家でダラダラし過ぎたためか、車中でTwitterをチェックしたところ、すでにICE BAHNが終わったことを知る。代々木第一体育館を過ぎた辺りで、"Yes, yes, yes, ya'll"と聞こえてくる。14時35分到着。


【孔雀】 〜14:46

メインステージでライブ中だったのは町田を拠点に活動する若手ヒップホップグループの孔雀。ついこの間ミニアルバムを出したばかりだ。メンバーのひとり、菊丸は昨年のU20 MCバトルの優勝者ということで昨日はソロでライブを披露していたが、今日はグループでの出演。4MC1DJ1MPC。横一列となり、広いステージをものともせずに溌剌としたラップを聴かせていた。前列4人のキャラ立ちは悪くないし、フックをおろそかにしない楽曲も良い印象を覚える。訴求力のあるポップさを持ちながらも、アングラ臭さを忘れず、バランス感覚が良さそう。これからのグループ。


【Pentaphonic】 14:46〜15:04

赤、黄色、緑と色違いのシャツを着て登場したのはペンタフォニック。3MC1DJ。ポップなラップを嫌ういかにもなBボーイたちがアリーナエリアから引き上げていく。誰もが楽しめるラップを信条としているのだろうし、言葉が軽いことへの指摘は反対に彼らへの褒め言葉になるのだろう。これもこれでヒップホップのひとつのスタイルだ。ただ、フリースタイルバトルでも名を馳せている抹(イエロー担当)と他のふたりとの実力差があるのは気になる。


【DJ YUTAKA feat. 晋平太】 15:04〜15:30

この日最初のDJユタカのDJプレイ。途中からサイドMCとして晋平太ともうひとり名前の知らないラッパーが現れ、適度に盛り上げる。

【晋平太】 15:15〜15:29

晋平太がDJブースからステージ中央に進み始めた辺りからついに雨が降り始めた。晋平太のラップは間違いなく巧い。発声だとかフロウだとか振る舞いはもちろん、感情や使命感を素直に吐き出す言葉には人生という重みをしっかり乗せられるようになっている。でも、ワクワクさせられない。不思議。


【DJ BEAT】 15:30〜15:53

DJタイムはやはりアリーナエリアに隙間が目立ち始める。流してる音楽自体は客にこびるでもなく、お高く留まることもなく、単純に楽しめる流れを作ってはいるのだけど、アーティストライブが終わった途端にサッと引いていく。雨も弱まり始めたので、昨日よりは込み合う会場をグルッと回ってみた。






歩道橋の降り口から左奥のメインステージを眺めた図。この時点でも昨日よりは人出があるが、時間がもう少し進むともっと増えた。

上と同じく16時過ぎ。

車には全く興味を覚えないが、Bボーイには必須のラグジュアリーカー。毎年数台並んでる。

Tシャツにペインティング。美的価値観はひとそれぞれ。

お布施所。

被災地石巻のラッパー・楽団ひとりのブース。

若手のCD-R作品の即席販売所。気づいた時にはほとんどがすでに売り切れていた。こういうのは大事だ。MCバトルに出場して、かっこいいラップを16小節分だけでも披露できれば、ステージ上から売り場を告知するだけで売り切りも可能そう。式部のが欲しかった。

そこらじゅうにラッパーがいるのですぐさまサイファー。Bボーイパーク名物。

これまたBボーイパーク名物の飲み終えた空き缶を灰皿替わりにして、そのまま知らんぷり。



【DAG FORCE】 15:53〜16:10

再びアーティストライブへ。ひとり目は飛騨高山出身のダグ・フォース。彼のライブはこれで何回か見たことになるが、毎回冒頭に昨晩の酒が残り二日酔いだと話してから始める。その申告には何か意味があるのだろうか。ブルーズともいえる哀愁を帯びたメロディを織り込みながら、直接心に訴えかけるラップはもっと評価されても良さそうとは見るたびに思うのだけど、私の琴線には少しも引っかからず、今年もケバブ屋台に向かった。


【MR★黄鬼】 16:10〜

続いて飛び出してきた1MCは、ミスター★黄鬼。黄色い鬼で"キキ"だ。私は元気ですのかわいらしいキキとは大違い。無名でありながら、外見のあまりのコテコテぶりに良識あるBボーイたちは三々五々散っていく。中身もお粗末。2曲目で、それまでの強面スタイルから突然ポエマーになったのを笑ったところで、ダンスエリア方面を散歩することに。




アリーナフロア入口に張られていたタイムテーブル。あるならもっと目立つ所に大きく張り出さないと。昨日もあったのかもしれないけれど、全く気づかなかった。これによると、一番手がアイスバーンで、次にPRISTが出たようだ。

ダンスエリアの裏でひっそりと。ヒップホップ文化の一翼を担っているにも関わらず、普段は堂々と描けないのだから、こういう時こそ大々的に活躍できる場所を提供すればいいのに。


この日は団体戦だったのかな。相変わらずいつ行っても熱気に溢れている。



【SHUN】 〜16:36

16時23分頃メインステージに戻ってくると、すでに次のラッパーが舞台に上がっていた。昨日のアンダー20 MCバトルにも出場していた大阪のシュン。この間出たミニアルバムでDJユタカからトラック提供されていたこともソロ時間を持てたことに関係しているのだろうか。ラップから声質、ステージアクションに至るまでKREVAそのもの。後半で同じくU20 MCバトルに出場しているACEのいるヒップホップデュオSound Luckが客演で登場した。


【TETRAD THE GANG OF FOUR】 16:37〜16:46

シュンのステージの途中からDJ J-SCHEMEがブースで準備していたので、次がテトラド・ザ・ギャング・オブ・フォーだということは分かっていたが、いざ始まってみると出てきたラッパーはSperbひとりだけ。それでもテトラドだということでアリーナエリアがどんどん埋まっていく。ライブ時間の半分を過ぎた辺りでようやく残りの3人もステージに現れた。スパーブは何か罰ゲームでもやらされていたのだろうか。

4人揃えば、ラップにそれなりの音圧が生まれ、さすがNIPPS率いるグループだと思えるのだけど、昨年までの持ち時間を守らないだらだらとしたライブの反動なのか、たった1曲、時間にして10分もやらずに引き上げてしまった。


【楽団ひとり】 16:46〜17:02

続いて勢い良く飛び出してきたのは3月に起きた東日本大地震で甚大な被害を受けた石巻在住のラッパー楽団ひとり。生で聴く彼のラップは、初作『NOT FOR SALE』の印象通りに日本語ラップ好きのためのラップであり、そういう意味ではこの日一番のアンダーグラウンド臭がした。しかし、同郷の友人KICK-O-MANが助太刀に加わり披露された震災を歌った「NORTH EAST COMPLEX part 3.11」以降は、それまでの閉じた世界観から日本全体が共有できる感情を生み出し、降り出した小雨の中、観客もしっかりと聴き入っていた。

声はよく出ていたし、広いステージにおびえることなく、正面から向き合った堂々としたパフォーマンスだった。ヒップホップが廃れていく町の現状を憂えた曲にしても伝えたいテーマは確固として抱いているラッパーではある。大舞台でも初めて聴く人にリリックを届けるだけの力量が備わっていることは証明されたわけで、今回の出場を通して彼がより注目されるようになれば面白い。


楽団ひとり『UPDATED』
2011年3月25日アップの無料配信ミックステープ。→ここから
NOT FOR SALE』のリミックス集になっていて、話題の若手トラックメイカーらが手掛けている。曲数が少なくなった分テーマが凝縮され、オリジナルよりも聴きやすい。彼の出世作であり賛否両論を呼んだYOU THE ROCK★のリミックス「大麻取締法」がボーナストラックとして収録されている。


【CRAZY-A & DJ YUTAKA】 17:02〜17:05
震災後に現地でラップをし続けているラッパーがいると知り、Bボーイパークに招待したとクレイジーAが説明。本当は楽団ひとりのライブ前に出てきて紹介したかったらしいが、手違いで前後してしまったとのこと。楽団ひとりが最初に注目されたのは昨年ユーザロックが逮捕された時に、YouTube上で発表した「HOO! EI! HO! '98」のリミックス「大麻取締法」だったわけだけど、同曲で彼はSEEDAや漢、ILL-BOSSTIONOの名前まで挙げて、ヒップホップ界にはびこる大麻礼賛の風潮を批判してみせた。クレイジーAはこの曲も聴いた上での出演依頼だったのかな。


【LUCK-END】 17:05〜17:18

8本マイクの大所帯グループ。まだ活動していたのか。フックでの合唱はさすがに力強いが、ひとりずつマイクを握るヴァースになると途端に腰砕けとなる。


【DJ YUTAKA】 17:18〜17:26
2回目のDJプレイ。ライブでないと分かると見る間のうちにアリーナエリアにスペースができていく。


【KIN】 17:26〜17:36

活動休止中のMELLOW YELLOWのキンが完全な飛び入りで登場。誰だこいつは的な雰囲気に一瞬なっても、少しも動じることなく堂々とステージングしていく様はまさにベテランの貫録。しかし、やけに黒い。最後は、"次はMICHO 一丁4649"といい残して軽やかに去って行ったのにはさすがに驚きを禁じ得なかった。韻というレベルではなく、ただの親父ギャグだ。


【MICHO】 17:37〜17:50

先日フリーダウンロード・ミックステープ『恨み節』を発表したばかりの女性ラッパー。バックDJにはDJビート。サイドMCはミックステープ同様にひたすら野太い声で騒ぎ、煽り続けるJOE IRON。南部の音を基盤にしたフィーメルラッパーという立ち位置は興味深いものの、ミックステープを聴けば分かるように実力はないに等しい。


【YA-KYIM】 17:50〜17:59

Bボーイパークといえば、彼女たちヤキーム。このイベントと出会い、刺激され、グループを結成したという美談を売りに毎年のように出ている。が、センターに立つボーカルの声は弱く、また向かって左に位置するラップ担当もLEFT EYEには程遠く、唯一見応えあるのが今年も麗しいダンスを披露した右側担当のクールビューティだ。


【CLIFF EDGE】 17:59〜18:08

今年の出演陣の中で楽しみにしていたひとつが彼らだ。音楽ランキングで活躍している彼らはいわゆる日本語ラップは勘定されることはまずないといっていい。そんなグループが出演する際は、今までのBボーイパークならば土曜日が定番だったが、夕闇迫る日曜のこの位置での出番となったのは面白い。物珍しさも手伝ったのか、ポップグループの登場にも客は減らない。

曲そのものはストリングスで味付けしたいかにもな売れ線。ヴァースよりもフックに重きを置き、そのフックではタオルを頭上でグルグル回してみせた。やはり異質だ。生で見れば、作品からは伝わりにくいラッパーとしての本当の実力が分かるかなと期待している部分もあったが、かなり微妙だった。そんな彼らを食い入るように見ていたペンタフォニックの4人は何を考えながら見ていたのだろう。


【G.K.MARYAN】 18:08〜18:20

クリフ・エッジのファンとおぼしき若い女性の一群が引いた後に、のっそり現れたのがみんなのラップアイドル・G.K.マーヤン。「証言」のトラックが鳴ると、そこら中からBボーイたちが常夜灯に群がる蛾のように集まってくる。小林雅史というひとりの男がG.K.マーヤンと名乗ることで、ラップは少しも進歩せずとも、有能な仲間を持ち、必死でしがみついていれば、毎年Bボーイパークのメインステージに立つことができることを彼の広い背中が無言で語る。同時に、それはラッパーを目指す若手の励みにもなるだろう。腹からしっかり声を出し、身の丈に合った分かりやすい言葉を使いラップすることは技術よりもまず大切なことだと、彼が身を以て証明していた。


【PONY】 18:21〜18:36

stillichimiyaのポニー。この時間での出演とはずいぶんと出世した感があるものの、その器が備わっているとは思えない。下手ではないけど、聴いていてあまり面白くない。後半にD.S.Sが参加し、昨日と同じく「HARDWORKING」と、他に「THE TRUTH」の2曲を披露していた。


【K DUB SHINE】 18:36〜18:57

今年のアーティストライブのトリはケーダブシャイン。バックDJは当然DJ OASISなので、ZEEBRA抜きのキングギドラ、またの名はradio aktive projeqtだ。悠然とできた瞬間から観客エリア前方は大盛り上がり。ケーダブシャインのラップに全てかぶせていく強者までいた。同じく前列で見た2009年のBボーイパークのジブラのソロと同じ熱狂具合だった。ラップでこんなに盛り上げられるのかと感心する。

それだけ歓迎されれば、演者も気を良くするのだろう。6月に同ステージで見た時よりもケーダブシャインは声がよく出ていた(反対にDJオアシスがモゴモゴとしたラップで、マイク持つDJの名が泣いていた)。社会批判MCまでご機嫌に長々と開陳。雨は強くなるばかりなのに、反比例するように歓声が上がる。見ている位置的に確認できなかったが、2日間で一番集客したのではないだろうか。

期待していたキングギドラの再結成はジブラがやって来なかったために実現せず、ふたりだけの「アポカリプスナウ」となったのは残念。金の取れるグループだけに無料のイベントではもったいないのだろう。


【エキシビジョンマッチ(PONY vs. 菊丸)】 18:58〜19:08

昨日のNONKEYに代わって、司会進行はダグ・フォースと晋平太のふたり。準決勝を行う前にまずはエキシビジョンマッチとして昨年のアンダー20 MCバトルの優勝者・菊丸と今年1月に行われた「BBOY PARK MC BATTLE 2011 冬の陣」のチャンピオン・ポニーとの統一戦が開かれた。

先攻ポニーは気持ちが作れないのか、"ディスるだけのバトル"は嫌だと面と向かわず、フロウに逃げようとする。しかし、菊丸は、"聴きたくないんだよ昔の話"とばっさり切り捨て、先輩に闘争本能を持てよと促す。それでもつばぜり合いとまではならず、2本を終えたところで、晋平太が"まだまだでしょ"と断罪。さらには観客として来ていたR指定を名指しして、"R指定、しょぼいよな?"とむちゃぶり。続けてステージのふたりに向かって、"おい!お前ら本気出せよ!お前らが本気出さないとフリースタイラーがなめられるんだよ!"と煽った。この時の晋平太がこの日一番光っていたし、その後のふたりのバトルよりも盛り上げていた。"エキシビジョンだから火傷しないと思ってるだろうけど、悪いけど、そんなの関係ないよ"。自分がやらないものだからいいたい放題。

勝者ポニー。


【U20 MC BATTLE 準決勝〜決勝】 19:08〜19:33
先輩方の中途半端な戦いが終わったところで、アンダー20 MCバトルはいよいよ準決勝へ。

<ACE vs. 延暦G>
ストップ・ザ・延暦Gはやはりエースだった。軟体動物のごとくエースの体にまとわりつき、予想通り接戦にはなったけれど、ぎりぎりで突き放した形。
                                        <たまこぅ vs. えじゅく>
共に自分のスタイルを出した後の2本目、たまこぅは開口一番、"オイ オイ オタクとかどうでもええねん ラップがうまいかどうか"と巻き舌気味に関西弁で凄んでみせる。もちろん眼鏡をかけ、ひょろっとした体型の彼に迫力はないのだけど、別の意味で絡んではいけない危険な雰囲気が漂い、不思議な存在感で攻めていた。勝者たまこぅ。


<たまこぅ vs. ACE>

ついに決勝戦。バトル前のビートが流される時に、臨戦態勢に入ったたまこぅが脇目も振らず相手を睨みつけるポーズがいい。まず最初に、"東京対関西の決戦"で盛り上げた。が、これがいけなかった。幸先よくポイントを得たはずだったが、エースは、"何が東京と関西 俺ブラジルなの 分けわからん"と間違いを指摘してしまった。この後の優勝フリースタイルで1歳の時に来日し、ブラジル生まれの東京育ちと明かしてるわけで、あながち間違いともいえないのだけど、これでたまこぅのリズムが狂った。一方のエースは、"俺は勝って賞金でみんなにご奉仕"と意気軒高だ。

互いに2本終えたところで、まず1回目の判定。たまこぅへの歓声は皆無。

先攻後攻を入れ替えての決勝後半1本目では、エースはたまこぅにエールを送る余裕すらみせた。たまこぅはまたもや大阪・東京のフレーズを挟み込んでしまい、動揺を隠せない。後攻という優位を生かせず、自滅してしまった印象だ。悪くはなかった。ミスともいえない言葉のかけ違いを切り崩せずにずるずるといってしまった。



【BBOY BATTLE 決勝】 19:34〜19:59

東京は江戸川のチームと大阪のチームの戦い。ステージの床で回ったり跳ねたりポーズを決めたりするものだから、肝心なところが見えなかったりもするのだけど、でも熱気が伝わってくる。MCバトルよりも体を使う勝負なわけで、熱くなりすぎて諍いが起こりそうになる場面もあって、そのたびに周りが止めに入ったりして、ダンス以外のところでも見応えがある。


より魅せる踊りを展開していた大阪が優勝。


【閉会の挨拶】 19:59〜20:00

毎度お馴染みのクレイジーAの"これにて終了〜"で今年のBボーイパークも閉幕。




今年は久し振りに雨に降られたBボーイパークになったが、何はともあれ無事終了。行けば行ったで楽しいと思えるのは毎年のことだけど、若い才能に焦点を当てた今年も十分堪能できた。

やはり不満も多くある。ひとつは事前の情報の少なさだ。開催されるのかどうかすら直前になるまで分からなかった。7月中旬にトゥイッターでDJユタカがBボーイパークに関する見解を呟いているのを見て、今年も行うのかと初めて確認できたのだ。その後のホームページの作成も遅かったし、また最近は発表するようになっていたタイムテーブルもなかった。前日になってようやく出演者が公表された。さながら2009年以前のようだ。

ただ、実行委員であるDJユタカの呟きからもそれは意図したものであり、同時に限界もあったのだろうと推測される。

"今年のBBOY PARKは本当にやりたい奴だけでやれば良いと思ってる、だって元はホコ天のブロックパーティーだったんだしね,,,,,,そろそろ原点に戻る事が必要なんじゃない,,,,?もちろん俺は参加するけどね!Y鷹。"               2011年7月17日のDJユタカのツイート

"いよいよBBOY PARKまで後一週間,,,,,今年は誰が出ると言うよりも単純にHIPHOPを楽しみたいと言う事でやって行きたい!来年15周年と言う事で今年はあくまでも基本に戻るよ!楽しみたい人だけでも来てください!Y鷹。"        2011年8月15日のDJユタカのツイート

営利目的のイベントではないわけで、毎年拡大していかなければならない必要はもちろんない。何せ、無料なのだ。アーティストが運営しブッキングし出演まで果たす。演者側の負担が大きすぎる催しではある。だから、そもそものヒップホップを楽しむための集まり程度の規模に戻すということも理解できる。

でも、今年の1日目に行ってみて気づいたのは十代から二十代前半の若い客の多さだ。アンダー20 MCバトルがあったのでその仲間や友人たちが多く駆けつけたということもあるのだろう。その二十歳以下のMCバトルを行っているのも下の世代からしっかり盛り上げていこうという狙いの元だと思う。だからこそ、同時にヒップホップの面白さを伝えるベテラン、あるいは中堅どころの実力あるアーティストによるライブがもっと多くても良かった。

DJプレイもヒップホップだ。しかし、あの場では人気がない。ならそれをどう魅せるのか工夫が必要だ。ダンサーを入れてもいいし、サイドMCであってもいい。今年は休憩時間になっていた。

"元々BBPはBボーイ(ブレイクダンサー)のイベントだったのを、ヒップホップ全体のフェスにしようとしたのが違ったのかも。元々お手本にしたのはNYでも緩めなイベントのロックステディパーク。だからBBPはBBPとして運営すべきだし、フェスを求めるなら別に始めるべきなんだろう。"
                                 2011年8月21日のジブラのツイート

上のジブラの呟きを呼んでハッとさせられたのは、Bボーイパークをヒップホップのフェスと思ってしまっていたことだ。ますます興隆を極めるロックフェスのような整備され親切なイベントが念頭にあっての数多くの不満でもあった。

ジブラは直後に、"BBPは主催側の意図通り緩いイベントとして存続し、前にもつぶやきましたが来年からは新しいフェスも始まる予定です。自分はそっちの運営に関わっていきます"ともツイートしている。フェス型のイベントも魅力だ。でも、無料で誰でも気軽に見られるイベントこそが大事ではないのかなと思う。今年も普段はラップなんて聴かなさそうなカップルがミスター★黄鬼のライブを眺めていた。どう見てもかみ合わなそうな両者だが、そこにこそ容易に果たされている異文化交流の面白さがあると思うのだ。

ヒップホップファンだけではなく、アーティスト自身もしっかり楽しむイベントという大前提は大事だ。しかし、ロックに比べればまだまだ歴史が浅く、日本にしっかり根付いていないヒップホップ文化を分かりやすく体現する可能性を秘めているBボーイパークをもっと大切にした方がいい。1997年から続けられ、ゆるぎない看板となっているだけに利用しない手はない。
2011.08.21 Sunday 23:59 | 音楽 | comments(2) | trackbacks(0)
BBOY PARK 2011(8月20日)@代々木公園野外音楽堂
例年夏の高校野球決勝は13時にプレイボールとなるが、今年は震災の影響による電力供給問題のためか午前中に始まった。起きたらちょうど8回まで進んでいて、クソッと思ったけれど、スコアボードの表示は11対0。日大三高が青森代表を絶賛蹂躙中だった。雨雲レーダーを見ると絶対に雨降りますとなっているし、うだうだしているうちに14時も回ってしまった。ようやく出発の準備を始めて、家を出て電車に乗ったはいいものの、忘れ物に気づきひと駅目でUターン。それでも代々木公園に向かったのはきっと日本語ラップへの愛がなせる業だろう。


15時35分、NHKの裏手に当たる"聖地"代々木公園音楽堂に到着。ステージではNONKEYが何か話していたが、耳を傾けた瞬間に袖にはけてしまい、DJタイムへ。とりあえず、今年のBBOY PARKの土曜日はどんなものかと回ってみることにした。


今年のステージはこんな感じ。

昨年までこの場所にはPAブーステントが設置されていたが、今年はステージ上のみとなり、またテレビ局のカメラ用やぐらもなかった。

歩道橋からの眺め。左奥がメインステージ。写真左下でマットを敷いてダンスの練習をしているグループがあるが、この高架の下がダンスステージとなる。写真中央右にある青と白のテントの右脇で集まってる集団が「大森サイファー」。

歩道橋を下りたところ。メインステージは写真の左奥となる。

説明が難しいが、公式タオルやTシャツを販売している右列の青白のテントの奥に歩道橋がある。左列の緑白のテントは休憩所。今年からできたのかな。汚い地面ではなくベンチに座れるので女性に親切な試みだ。

右奥がメインステージ。木陰で集まる集団が、歩道橋からも見えたサイファー連中。

こころよく撮影に応じてくれたいかしたBボーイ。

もう少ししっかりしたスピーカーを用意すればいいのに。オロカモノポテチを最初に見たのもBボーイパークでのサイファーだったし、馴れ合いではなくて腑抜けたメインステージをジャックするぐらいの気合いを持ってやれば、もっと注目されるはず。

メインステージのアリーナエリアはDJタイムだとガラガラになるのでダンスし放題。

亀だって散歩できちゃう。

ダンスといえば、歩道橋下に設けられたダンスステージ。メインが閑散としてても、ここに来ると熱狂が渦巻いている。しかし、ステージを取り囲むのは仲間やライバルたちであり、つまりダンサーによるダンサーのためのコンテストとなってしまい、メインよりも閉鎖的だ。見れば圧倒されること間違いなしだが、見物人の壁が厚くほぼ見られない。

Bボーイパーク名物のゴミ。分別してから捨てるゴミステーションを設置してるのだけど、その手間を惜しまざるを得ないほど注目すべきライブが多く、Bボーイたちは忙しいのだ。




この2枚は歩道橋。階段がかっこうのベンチ代わりとなる。そう考えるともしかしたらこれらは食べ残しではなく、場所確保のための目印なのかも!




混み合いがちなアリーナエリアでも関係なくタバコを吸い始め、そしてポイ捨て。でも大丈夫!終演後にはみんなでゴミ拾いするから!!




【UNDER 20 MC BATTLE ベスト32】 16:00〜16:39

司会はご存知ハマのバナナマン日村ことノンキー。評判通りの仕切り具合で、つつがなく進行させていく。客いじりも堂に入ったもので、ステージ上での真剣勝負の合間に笑いを挟み込み、観客の集中力を巧みに持続させる。さすが。DJは豪華にもDJ BEAT。8小節2本勝負。判定は観客の手と声援。すでに先攻後攻は決まっていて、先攻がステージを正面に見て左側に立つ。

<ドイケン vs. あおりんご>
昨年までのアンダー20 MCバトルではメインステージに上がれるのはベスト8からだったが、今年はベスト32からに変更された。ということは16試合もあるわけで、印象に残った対戦だけを記していく。勝者ドイケン。
                                         <蝦夷 vs. レン(?)>
Fat slideの蝦夷が圧勝。丁寧に韻を踏もうとするレンも悪くないが、蝦夷の貫禄の前に霞んでしまった。蝦夷をステージ上で見るのは2009年の同舞台以来。いい顔に成長している。それと歓声の大きさにも驚いた。夜な夜なクラブ活動に明け暮れている成果だろうか。
<SHUN vs. たまこぅ>
清水翔太やKEN THE 390の作品に客演し、CDデビューも果たしている大阪のシュン。2009年にも出場し、同郷の女性ラッパー式部と対戦している。京都は宇治からやってきたたまこぅが、"KREVAのものまね"とあっさり切り捨てて終了。たまこぅはフロウに幅があり、言葉も鋭く、強烈だった。勝者たまこぅ。
                                      <TEEZY vs. KOPERU>
事前に行われた予選をトップの成績で通過したティージーと2009年の覇者コペルとの一戦は後攻コペルの勝利。ティージーのラップは聴き取りやすいが盛り上げられない。一方、コペルは本調子ではない印象だったが、2本目で一気に突き放した。判定は2回行われ、僅差だった。
<DOUBLE-P vs. IN-D>
インディ勝利。一本調子だが、ダブルPよりは聴き取りやすい分、マシだった。
                                       <ランド(?) vs. えじゅく>
     どっちもどっち。飽きてきた。えじゅく勝利。
<ユーロア(?) vs. アクティブ>
アクティブ勝利。みんな若いのにうまいとは思うけど、魅せるところまではいっていない。
                                       <フォックス vs. BigBird>
              狐と鳥は大差でBigBird。
<poodle vs. ワンちゃんビート>
プードルは第2試合に登場した蝦夷の相方で、2MC1DJのFat slide所属。猪突猛進するプードルをやってんモーンとRAU DEFを引用しながら軽くいなして、ワンちゃんビートの勝ち。
                                      <ACE vs. 萌黄(もえぎ)>
女性ラッパー萌黄と肌の黒いエースでは身長差も知名度もずいぶんと違うが、萌黄は果敢に攻め入る。しかし、ビート無視の罵倒は時流ではない。言葉は荒っぽいものの、エースへの応援するような言葉が飛び出した萌黄の2本目に、司会のノンキーが"母性を感じましたね"とコメント。勝敗を決した後にそのまま、萌黄がいいお母さんになると思う人と判定さながらに声を挙げさせてたけれど、まだまだうら若きお嬢さんだろうに気の毒。エース勝利。

<SHIN vs. クロス>
我楽駄crewのシンはやや練ってきた言葉のようだったが、互いに聴きやすい応酬だった。勝者はシンとされたが、歓声は五分に思えた。自分の中ではクロスに軍配。
                                    <マイクナゲッツ(?) vs. 式部>
式部も2009年以来。今年高校3年らしいが、観客をねめつける目がふてぶてしい。式部勝利。どちかといえば、式部が肝っ玉母ちゃんだ。
<音主(ねす) vs. 独歩>
スタイルがあることはわかるが、どちらも面白みが足りない。判定を何度も繰り返し、僅差で音主。
                                    <マスオマスター vs. クライム>
先攻のマスオマスターは2009年にも出ていた人。マスオマスターのTシャツに描かれたグワシをピースといってしまった時点で物を知らないクライムの負けは確定かと思ったが、シンと同じくガラクタクルーのクライムが勝利。
<キャンディ vs. 延暦G>
延暦Gのキャラ立ちが素晴らしい。SHINGO★西成がスニーカーで体を飾るなら、坊主頭に眼鏡の彼は数珠繋ぎにしたキャップをネックレスのように胸の前に垂らし、小柄な体を毬のごとく弾ませながら酔拳のようなラップをする。最近無料配信されたミックステープが好評なBUZZ BOXの一員のようだ。一方の対戦相手はラッパーではあまりいないタイプの悪羅悪羅系。さながらいじめっ子といじめられっ子。ラップの実力的にはどっちもどっちだが、キャラ立ちの甲斐あって延暦G勝利。

                                         <ノウハウ vs. マッド>
長かったベスト32も最後の組ということで、ノウハウが"最後の試合なら見せる化学反応"と始めたのに対し、町田出身のマッドは、"ここは最後のライブじゃねぇ おれにとってはまだまだ通過点"と言葉を違う意味に変えて、相手にネガティブな印象を与えたのは面白い。でもそれぐらい。"そんな感じ"を多用しすぎ。マッド勝利。

長い。これまでベスト8から見ていたので、若いラッパーたちのバトルとはいえそれなりの試合を見られたわけだけど、厳選されていない32人となると正直つらい。際立っていたのは蝦夷、エース、式部の3人。彼らはフロアをも引きこむ振る舞いをもって戦うので見栄えが良い。多少なりともエンターテインメントとして成り立っていた。他にはアクティブと延暦Gが印象に残ったぐらい。


【菊丸 (from 孔雀)】 16:40〜16:52

昨年のアンダー20 MCバトルで優勝した菊丸のソロライブ。ヒップホップを信じ、前向きで、仲間を大切にし、過去の遺産には敬意を払い、真摯にラップをしているのが伝わるライブだ。しかし、先のMCバトルと同じように、若いのにすごいねという注釈をどうしても加えざるを得ない。ただ、土曜日のBボーイパークとはいえ、そこそこ入った観客が見つめる中で立派にパフォーマンスしていた。それだけでも褒められることだとは思う。


【CRAZY-A & DJ YUTAKA】 16:53〜17:01

主催者クレイジーA御大とDJユタカ登場。20歳以下のMCバトル出場者が増え、さばききれなくなったために、ベスト32の試合からメインステージで行うことにしたとクレイジーAが説明。そのため1日目はアーティストライブを減らし、MCバトルを主役に据えることになったとのこと。ヒップホップを日本に根付かせようと黎明期から頑張ってきた生きる伝説たちは最近の層の厚さに感慨ひとしおのようだ。


DJユタカは、ヒップホップ文化を通じて若者たちが自分自身を表現して欲しいと考え、リアルなヒップホップを体現すべく長年Bボーイパークを続けていると語った。さらに、15周年となる来年は、この2年間彼が担ってきた実行委員の座をクレイジーAに返すと宣言。


【NONKEY】 17:01〜17:16

コミカルにポーズを取りながらステージ中央に進み、"ラップやるからみんな集まれ"と奇声を発した。AKB48の指原莉乃からはフェイバリットMCに選ばれ、"日本で二番目にモテるデブ"ことノンキーは、終始笑いの絶えないライブで、魅せるパフォーマンスとはこういうものだといわんばかりの千両役者ぶりを発揮した。半分を過ぎた辺りで仲間の村一揆からBEN THE SCIENCEと丸が加わり、それぞれのソロ曲を披露させたが、いわゆるヒップホップらしいライブになってしまった。ただ、地元賛歌を歌った丸のラップは悪くなかった。


【トミサトマリア】 17:17〜17:24

昨年はマリア名義で出ていた人。R&Bっぽい歌を歌っていた。


【D.D.S】 17:27〜17:42

司会進行のノンキーの紹介で登場したのは昨年のUltimate MC Battle沖縄予選代表のD.D.S。かなりかっこいいラップだった。英語を巧みに混ぜることで黒人なまりのフロウを獲得するスタイルがはやりだが、彼も英語を取り入れはするものの、重心を後ろに置くことで、より黒人のラップに近付けている。しっかり練りこまれた言葉のグルーヴに思わず頭が振れる。決定的なパンチラインがあるわけではないし、体全体を弾ませる陽気さがあるわけでもない。どちらかといえばパーカーのフードをすっぽりとかぶり、ドラム缶のたき火で暖をとりながら、首だけを重く振るという昔ながらのスタイルだ。華はない。しかし、それを日本語でやれてしまうのがすごい。特に最後に披露された曲はほとんどが日本語詞であるにもかかわらず、今となっては燻し銀と形容されてしまうヒップホップが本来持っていたかっこよさを守り抜いている。

DJ ISSO企画で7月にstillichimiyaのPONYとD.D.SとでミックスCD『THE JOINT』をリリースしている関係で、この日も1曲だけポニーが客演した。D.D.Sの初作ということで手に取ったその作品自体は、正直いえばそれほど面白い出来ではなかった。その中からも今回披露されたわけだけど、実践のほうが断然上だ。曇りとはいえ日中よりも夜のクラブが明らかに似合う音楽ではあるが、少しも動じることなくパフォーマンスしたのも立派だ。


1.NO PAIN NO GAIN
2.?
3.SHOW AND PROVE
4.?
5.HARDWORKING / PONY + D.D.S
6.Drop It(?)



【UNDER 20 MC BATTLE ベスト16】 17:43〜18:06
まずはベスト16から。バックDJはDJビートからDJユタカに。司会進行は信頼のノンキー。ところで、ここからは8月末にパソコンが逝ってしまったために全てデータが飛んでしまい、写真なしで。

<ドイケン vs. 蝦夷>
ドイケン2本目、"お前に足りないのはフロウの幅 俺とお前の差はプロとアマ"が鮮やかに決まった。蝦夷のがなりにはそれだけでも十分バトルを盛り上げる力があるし、年齢的にも際立っているが、ドイケンに分があった。ドイケン勝利。

<たまこぅ vs. KOPERU>
バトル前のひと言で先攻たまこぅは、"北朝鮮にはだまされるな"と軽く笑いを奪っていく。たまこぅは1本目でコペルとシュンが参加した「What's Generation」を揶揄してみせたが、コペルはお前のラップはつまらないと返すのみ。すかさずたまこぅは"お前合間空きすぎちゃう? まるで2001年のクレバみたいなこんなスタイル飽き飽き"と一刀両断。2009年の同ステージで圧倒的な飛翔力を見せつけ魅了したコペルの姿はそこにはなかった。コペルが所属するコッペパンでの相方R指定の名前は派手に聞こえてくるが、コペルの話は聞かない。バトルから遠ざかっているのだろうか。

<えじゅく vs. IN-D>
えじゅくの1本目はベスト32の時とは見違えるほどに良くなっていた。インディは2本目でグダグダになり自滅。それでも判定が割れて採決をやり直した。えじゅく勝利。

<BigBird vs. アクティブ>
両者とも目立った言葉を放てたわけではないが、気持良くビートに言葉をはめていくアクティブはやや鼻にかかった声が良くて、バトルよりも曲を聴いてみたい。アクティブ勝利。

<ワンちゃんビート vs. ACE>
エースはワンちゃんビートに合わせて、コミカルなスタイルを取りつつ、終盤で牙を剥いてみせたが、意に介さないワンちゃんビートは2本目ものらりくらり言葉を積み上げていく。そして最後に聞き逃せない疑惑を放り込んだ。"こいつのこと知ってるか? ホントは21だぜ!"。エースは2本目で"まだ俺は二十歳"と返すが、確かに彼は本当にこの枠で出場していいのかと思わせるほど完成されたスタイルとフロウの奥行きがある。エース勝利。

<式部 vs. SHIN>
大阪の式部と神奈川県は海老名市出身のシン。式部は先攻ということもあるのか1本目はずいぶん抑えめだったが、2本目に本性を露わにした。"私と同世代? ならもっとかましてこい!"。そんな挑発に対し、シンは満足に返せなかった。"俺とお前が同世代? そうお前はしとけよ同性愛 そんな感じだぜお前はレズビアン"。未成年だし仕方ないのかもしれないが、こんな言葉を吐いただけでも最悪だし、もちろん同性愛やレズビアンという言葉が相手への侮蔑の意味をなしているはずもない。ただ、最後に放った"俺はチワワじゃなくて大型犬 殺しに来ました大阪人"という節操のないラインが盛り上がり、シンの勝利。

<音主(ねす) vs. クライム>
クライムが音主のことをよく知っていると表明した後の2本目の音主のライン、"帰ったら速攻マイミクを切る"が目立ったくらい。いまだMIXIをやっているのかという驚きもあったが、両者似たりよったりだった。相手を称えつつというラップが評価されたのか、勝者はクライム。

<マッド vs. 延暦G>
延暦Gのスタイルは見た目重視だ。ラップはその動き同様にトリッキーであり、聴き取りにくい。マッチョイズムが横行するヒップホップの中で差別化を図るためにあえて取って見せた奇形スタイルは、ぱっと見は面白いが、そろそろ飽きてくる。しかし、"相手が悪けりゃ試合になりやしませんな"といみじくも延暦G自身が分析する通りに、マッドが追い詰め切れず、延暦G勝利。


【UNDER 20 MC BATTLE ベスト8】 18:06〜18:20
そのままベスト8に進む。

<ドイケン vs. たまこぅ>
"コペルのかたき討ちやってやるぜ"と鼻息荒いドイケン(なんでもコッペンパンの一員らしい)に対し、たまこぅは淡々と始めて次第に過熱していく。構成ができてる。しかし、ドイケンの2本目の冒頭。"いやぁやっぱり踏む 踏むねぇ 踏む踏む うんすごい踏む でもやっぱり言葉に重みが足んねぇ 今まで倒したやつらの重みちゃんと持ってるぜ"、と相手の猛攻をしっかり認めることで受け止めつつ、返す刀で切れ込んでみせた。かなり評価できると思ったが、観客は後攻に声援を送り、たまこぅ勝利。

しかし、どちらも初めて聞くラッパーたちだったが、関西の地力の高さを目の当たりにした気分だ。ただがむしゃらに前に出ていくのではなく、硬軟織り交ぜ、また相手と顔を突き合わせるなど動作ひとつとっても魅せるバトルを心がけている。これまでの試合の中でもベストな一戦だった。

コッペパンは近々作品をリリースするそうだ。ノンキーは、出場しているほとんどのラッパーを知っているのか、大舞台の上で自分のグループのリリース情報やイベントの紹介をするよう促すなど細かい配慮が行き届いていた。

<アクティブ vs. えじゅく>
やっぱりアクティブは声がいい。えじゅく勝利。

<ACE vs. SHIN>
後攻1本目で油断させて、相手が手出しできない2本目の中盤以降にたたみかけるシンの戦術は式部の時はドンピシャだったが、今回は盛り上げ切れなかった。練られた言葉(ガラクタ・鼻歌・かさぶた等々)とはいえ気持良く韻を踏んでいて印象は悪くない。エースは辛くも勝利した。

<延暦G vs. クライム>
"お前はただただ振り向かせただけのラップ"とクライムが的確なことをいっても、"実際俺は目立ちたいだけー"と糠に釘、さらにはいけしゃあしゃあと"ラップなんてそういうもんじゃねぇー"。ガラ空きの脇に、クライムはしっかり打ち込むのだけど、吸収されてしまう。延暦G勝利。勝敗を決した後に、"延暦Gみたいのを勝たしちゃうからヒップホップっていい部分でもあると思うし、みんながヒップホップに逃げてきちゃうのだと思うんだよね"とノンキーが評していた。人とは違うスタイルを受け入れ、称えられるのは素晴らしいことだは思う。しかし、延暦Gのラップは色物としては笑えるが、ベスト4に進ませるほどの実力があったのかはかなり疑問だ。



【DJ YUTAKA】 18:20〜
DJユタカのDJプレイが始まったところで、上野で行われたCASTLE RECORDSのインストアライブに向かった。なにせ、今日のBボーイパークにも出ていたD.D.Sや鬼、道(TAO)などが出演するというのだ。山手線でぐるっと回ることになるが、見逃す手はない。"ウラララ"と思わず聴き入ってしまいそうになる歌声を振り切り、原宿駅を目指した。

この後も残って楽しんでいた人の話によれば、DJユタカの後にもうひとりDJが回したそうだ。
2011.08.20 Saturday 23:58 | 音楽 | comments(0) | trackbacks(0)
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