2011年9月7日リリースの7枚目のアルバム。
/5点中
国産ヒップホップの勃興期から活躍し、常に進化し続けるソロラッパーTwigyがJazzy Sportから3年ぶりに発表した作品。ジャジースポート入りが発表されたのは前作『
baby's choice』の翌年となる2009年1月。ツイギーは1998年のファーストアルバム『
AL-KHADIR』以来ほぼ毎年のように何かしらのまとまった作品を出し続けてきたラッパーであり、しかも老害と揶揄されることの多いさんピンCAMP世代にあって、毎回新しいコンセプトを打ち出すことを恐れない稀有な存在であり続けている。孤高という言葉すら似合ってしまう趣きをその風貌からも漂わす。そんな彼のジャジースポートへの移籍は、COMA-CHIが同レーベルに所属することよりも驚きはなかったし、『
baby's choice』でのソウル路線から次はジャズなのだなと安易に想像できる動きではあった。
しかし移籍はしたものの、一向に新作の気配はなく、ビジュアルバンドへの客演(PV[
YouTube]、[
YouTube])だったり、雷での新曲(PV[
YouTube])とお茶を濁してきた。2009年が駆け去り、2010年も走り抜け、気づけば3年もの月日が過ぎ、ようやく届けられたのが本作だ。しかも、ツイギー名義ではなく、ツイギー・アル・サラームとかいう名前で。1枚目のタイトルもイスラム教の聖典コーランに登場する聖者アル・ハディルに由来するらしいし、彼のイスラム趣味は今に始まったことではないのだろう。
ジャズをほとんど聴かない私ですら知っているジャズの名盤をあしらったジャケット(CD本体のデザインやジャケット裏も)をジャジースポートから出し、1曲目からコテコテのジャズトラックが展開されると、かなり鼻白むものがある。3年待ってこれかという思いだ。ほぼ毎年新作が発表されるにも関わらず、毎回趣向を変え、新しい切り口で楽しませてくれるという表現者の鑑のようなラッパーだったのに、あまりに予定調和だ。ひとり勝手に裏切られた感を強く抱いた。
が、聴けば聴くほど良いのだ。悔しいことに。レコード仕立ての本作はシークレットトラックを抜かせば全10曲で、時間にして46分。
前作ではお馴染みのベテランからSEEDAや鎮座DOPENESSなどの若手実力派までを幅広く招き、彼自身は裏方に徹しつつも陽光の下という印象の華やかな舞台を作り上げていた。今作では一転し夜の暗がりで大人たちが淫らな言葉を交わしている。ツイギーのラップは相変わらず意味が不明瞭だが、その断片から伝わるイメージや声質が伝えるイマジネーションは豊潤であり、ついつい聴き入ってしまう。
grooveman SpotやBottom Fly、GAGLEのMitsu the Beatsといったジャジースポートの面々やorigami PRODUCTIONSのmabanuaが作り出すトラックはまるで生音を使っているのではないかと思うような生々しさがあり、しかもいかにもなジャズトラックはM1「Rain」のみで、それ以外はヒップホップとして昇華されたジャジートラックであったり、R&B的なものが多い。特にM7「Spot」は、小沢健二が『
Eclectic』で見せたネオソウルの解釈と似ていて、あのアルバムが好きな私にはたまらないアレンジだ。へたにジャズに行くよりもこちらの路線で1枚作って欲しかったと思ってしまうほど。この曲では女性3人組ヒップホップグループDERRELAのMACCSYがワンヴァース任され、艶のある歌声を響かせている。アルバム全体でもコーラスとしてツイギーを支えていて、アルバムのメロウさに一役買っている。
M7に続くM8「Zoo」はツイギーの盟友YOU THE ROCK★の2009年のアルバム『ザ・ロック』に収録されていた「マヨナカノ動物園」のリメイクであり、今回はユーザロック・ヴァースが抜かれ、ツイギーとSyzzzy Syzzzaのヴァースも順序が逆になっている。DJ YASプロデュースのオリジナルも魅力的だったが、本作でのジャズピアノが軽快に踊るアレンジも捨てがたい。
本作が2009年の移籍後すぐにでも出されていたら、第一印象はもう少し変わっていたかもしれないが、聴き込むほどにその良さが見えてくるのは他のツイギーの諸作と同じであるし、また数年後に聴いても色褪せない魅力を放っていることは想像に難くない。で、結論はやっぱりツイギーいいね!というとても安直なものだ。常に変わり続け、さらなる進化を求める表現者はかっこいい。
<インタビュー>
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Amebreak
BentheAceのいう通りだよ。SIMI LAB周りまで聴いてるのか。
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Musicshelf
歌詞、ラップという歌唱法。
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Motion Blue
"何年か前からvegan(完全菜食主義)でして、動物性のもの以外でしたら何でも食べる"。
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clubberia
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Hennessy
プロデューサーmabanuaと一緒のヘネシー企画のインタビュー。
<ヘネシー企画のシークレットセッションの動画>
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Hennessy
バンド形式でのセッション。披露されるのは「Spot」!新しいヴァースも加えられている。以前は同音源が無料配信されていたが、すでに終了しているよう。
<APPLEBUM 2011A/W Model Shooting>
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vimeo
鎮座DOPENESS、DABOに続いてツイギーも登場。かっこいい。