すばらしくてNICE CHOICE

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2021.02.10 Wednesday | - | - | -
2011年国産ヒップホップ・ベスト15&ミックステープ10選
昨年と同じく単曲でも選んでみた。今回はベスト15と、フリーダウロードミックステープ10本を選出。製品版の曲も含めたベスト10は日本語ラップ情報サイト「2Dcolvics」さんのところで発表しているので、ここではiTunesに作ったプレイリスト"free DL song 2011"に今年1年間放り込み続けた無料配信曲全2209曲から15曲を抜き出した。でもまあ、2Dcolvicsのも意識的にフリーDL曲から選んでいるので、変わり映えしないし、もっと深刻なのは夏の終わりにパソコンが天に召されたために、iチューンズのレート機能を使い、それまで細かく付けていた評価が吹っ飛んでしまうという痛恨の失態があり、深夜にTwitterで呟いてきたツイートは参考にしながらも、かなり印象レベルでのベストになっている。別の日に選べば別のベスト15が生まれるはず。


1位 S.L.A.C.K., TAMU, PUNPEE & 仙人掌「But This is Way」→YouTube(DL終了)
東日本大震災直後にユーチューブにアップされた高田兄弟とDOWN NORTH CAMPによる曲。iチューンズストアから1週間限定で無料配信され、後にS.l.a.c.k.のミニアルバム『この島の上で』に収録された。

2位 RUMI×BOOTY×FREEZ×REIDAM×NINETY-U×DAAKOH「PARTY NEVA DIE ver.2 (RAFFIN'TUFF MIX)」(DL終了)
フリーズのSoundCloudにアップされていたデモバージョンのひとつ。製品化されないのが不思議。ルミの貫録のラップに続いて、博多・親不孝通りの男たちが次々に重量のある言葉を繰り出していく。かっこいい。アップされていたサウンドクラウドも現在取り下げられているので、視聴もできない。

3位 Shing02×Hunger「革命はテレビには映らない」→HP(DL可) →記事
まさかのタッグ。ラップ巧者のふたりならではのヒップホップの面白さやカウンターメディアとしての使い勝手の良さが十分実証されている。

4位 VITO from SQUASH SQUAD「311 FREESTYLE」→YouTube(DL可)
今年も彼は数曲フリーDLのリミックスを発表したが、どれも印象に残る出来だった。
5位 Dada「頭狂いそうだから歌う」→SoundCloud(DL可)
センスの良いリミキサーとして活動していた印象だけど、これを聴くとラップもすごくいいわけで、2012年はラッパーとしての楽曲も聴きたい。

6位 KUTS DA COYOTE「4 MY CITY II [南相馬REMIX]」→YouTube(DL終了)
日本はもちろんのこと、世界にも知れわたった街を歌っている。厳しい現実を綴る言葉に寄り添う哀愁漂うフレーズがなんともいえない。ところで、DJ PMX製のこのインストは今でも無料配信されている(DL先)わけで、ウェッサイの人たちだけで楽しんでいるのはもったいない。

7位 きゃりーぱみゅぱみゅ「チェリーボンボン feat. Cherry Brown [Remix]」→YouTube(DL可)
チェリー・ブラウンがきゃりーぱみゅぱみゅをリミックス!ここからは楽しい曲に。

8位 RANLとLB「きゅーびっく☆るーぶ ("tengal6" 応援喝入れソング)」→YouTube(DL不可)
一般的にはフリーではないが、嬉しいことに頂けた楽曲。ユーチューブ版よりも冒頭のスキットがもう少し長く、そこではAmebreakのつれなさについてランルが嘆いている。そこがいいのだ。2012年も正体を明かすことなく二次元で大活躍して欲しい。

9位 tengal6 (リズムステップループス"tenga茶屋"MIX)」→YouTube(DL可)
ランルにアンサーしなかったヒップホップの風上にも置けないテンギャル6をリミックス。今年は前出のダダ同様、有能なリミキサーを多く知ることができたのも良かった。リズムステップループスが作り出すマッシュアップはどれも外しがなくて、毎回ワクワクさせられた。そんなわけで今は、テンギャル6の「プチャヘンザ! (リズムステップループス"JR東海"MIX)」(YouTube)が無料配信されるのを首を長くして待っている。

10位 KLOOZ「Livin' In The Future」→HP(DL可)
JPRAP.COM企画の「The Se7en Deadly Sins」からクルーズ×Otowaの楽曲。クルーズのかっこよさの全てが詰まっている。

11位 MEKA from 孔雀「Blown Long Hair Remix [Black Short Hair]」→YouTube(DL可)
istのフリーDL曲「Blown Long Hair」(YouTube)のリミックスが小規模ながら盛り上がり、どれも良かったのだけど、ここではMEKAのリミックスを。

12位 不可思議/wonderboy「未知との遭遇 Yuji Otani Remix」→SoundCloud(DL終了)
不可思議/wonderboyのファーストアルバムに3曲提供し、新たにLow High Who?入りしたYuji Otaniによるリミックス。

13位 C.O.S.A.「WHAT feat. CAMPANELLA (C.O.S.A. Remix)」→bandcamp(DL終了)
ラップはもちろん、トラックがとにかくかっこいい。

14位 RAU DEF「KILLIN EM!」→blog
これは衝撃だった。今年も散発的にディス曲は発表されていたが、これぐらいの意外性や対立軸の面白さが欲しい。ラウデフがけしかけられた被害者に思えるほど、ham-Rの黒幕っぷりも良かった。ただ、今年こそと思えた彼の音源が結局出なかったのは残念。

15位 Ethnic Blend「Gloria」→YouTube(DL終了)
プレイリストにピックアップしてランキングを作成しているために、1位からの15曲に文脈的なものができあがり(前半重めだけど)、そうなるとラウデフのディス曲だけはどこに入れても浮いてしまうわけだが、それでもこの曲がきれいに落としてくれる。


選外
・Mummy-D×KREVA×Perfume「HARDCORE 575 STARS」→SoundCloud(DL終了)
 技ありリミックス。
・tengal6「tengal6 (909state Remix)」→SoundCloud(DL終了)
 笑わない人いるの?
・ERONE from 韻踏合組合「PRAAAYYYY!!!!」→YouTube(DL可)
 この明るさは頼もしい。
・mikE maTida×Morrow「Livin' In The Future Remix」→YouTube(DL可)
 こうした遊び心は楽しい。
・SHU-THE from NostalgiaTrust「夕まずめに言うはずで・・・」(DL終了)
 どこにも音源がアップされていないので視聴もできないが、ポエトリー系の抒情ラップが良かった。



次は無料配信ミックステープ。直前の記事「2011年ベストアルバム」で10月以降の作品はしっかり聴けていないと書いたように、メジャーなもの以外を押さえられていない状況ではあるのだけど、まあ10枚選んだ。文字数は少ないものの、記事自体がいい加減長くなってきたので、さらりと。

1位 MINT『MMM(MINT MEGA MIX) Edited and Mixed by PsycheSayBoom!!!』→blog(DL可)

製品版メインのベストアルバムでも3位なわけで、ここで首位は当然。


2位 Nakaji『セピアポラロイド』→HP(DL可)

本作も1位のミンちゃんと同様当然。


3位 SNEEEZE『BELIEF』→bandcamp(DL可)

これまでの音源を主に、数曲の新曲を織り交ぜた神戸のソロラッパー・スニーズの初ミックステープ。彼は昨年末から精力的に洋楽リミックスを発表し、日本語ラップのフリーダウンロード界隈を常に刺激に満ちたものにさせてきたラッパーのひとりだ。スラックにも似た当初のラップから徐々に出自を含めた内面を言葉にし始め、アーティストとしての自信と成長を感じる。


4位 RANL『Service Time』→HP(DL可)

ベストアルバムに入れようかギリギリまで悩んだ作品。耳を疑うような悪態をつきつつかわいいアニメ声でハーコーなラップをあくまで"二次元"でし続けて欲しい。


5位 KAKATO(環ROY×鎮座DOPENESS)『KARA OK』→Tumblr(DL可)

脂の乗っている環ロイと鎮座ドープネスがふたり揃って、ふざけているようでいて、その実まじめにラップをしたら、それはもう間違いのない作品になる。


6位 KENTZ『Before KiDULTHOOD』→YouTube(DL可)

セカンドミックステープ『KiDULTHOOD』の直前にアップされた未発表音源集という位置づけ。本編で語られるテーマは真摯なものでそれはそれで悪くはないが、本作の方が楽しんで聴けてしまう。


7位 VA『The Se7en Deadly Sins Dada Remixies』→YouTube(DL終了)

JPラップコムの七つの大罪シリーズを全面リミックス。Otowaのオリジナルにしても公式リミックスのチェリー・ブラウン版にしても悪くはないのだけど、ダダの音が私にはしっくりきた。


8位 696Beats『FOR HIPHOP FREAKS』→bandcamp(DL可)

今年3枚のビート集を発表した696ビーツから初作を選んだ。もちろん他の2枚も素晴らしいし、本作と同様に彼のバンドキャンプから落とせる。2位に挙げたナカジのセカンドミックステープでは2曲で696ビーツのインストが使われ、そのうちの1曲は本作に収録されているもの。


9位 ROO-TIGER『HARAMASERO』→bandcamp(DL可)

名古屋のJET CITY PEOPLEからルータイガーの初ミックステープ。彼以外にもPsychedelic OrchestraからカンパネルラやZOOがフリーで発表し、カンパネルラの『DETOX』に至っては鷹の目がリミックス集まで出してみせた。主宰の呂布カルマは今年もUMBで本戦に出場を果たしたわけで、名古屋のこの勢力は確実にその名前を全国に轟かせつつある。


10位 VA『JPRAP.COM presents Free Mixtape "#Nibiru"』→HP(DL可)

全33曲。これを聴けば、今の日本語ラップ界の活きの良い若手をかなりのところまで網羅できる。




最後に、2011年に書いた無料配信曲関連の記事を列挙。
05.26 「JPRAP.COM presents "The Se7en Deadly Sins"」→記事
     2010年の主要フリーダウンロードミックステープについてもある程度まとめた。
09.30 「昨今の国産ヒップホップ・無料DLミックステープ事情」→記事
10.07 「VA『Fat Bob's ORDER vol.1』」→記事
     記事の最後に名古屋関連のミックステープのまとめがある。
2011.12.31 Saturday 23:59 | 音楽 | comments(0) | trackbacks(0)
2011年ベストアルバム
例年日本のポップス・ロック・R&B・ヒップホップを交えたランキングを作成しているのだけど、今年はなんとも不甲斐ないことにほとんどヒップホップしか聴いてこなかったことが丸わかりの選出で、おおよそ"ベスト"と呼べる代物ではないが、まあそれも私の2011年の歩みであり、仕方ないのだろう。

どうしてそんなに国産ヒップホップばかりを聴いていたのかといえば、2011年は前年以上に無料配信曲/ミックステープが増えたからだ。それもこれもJPRAP.COMが重箱の隅の隅の方まで丹念に調べ上げてくれたからこそ、そうした音源に出会えたわけで、この場を借りてbenzeezyさんにも感謝の言葉を贈りたい。本当にありがとうございます。

フリーダウンロードは形態として今年の前半までは単曲での発表が多かったが、やがてまとまった形でのミックステープが増えていった印象だ。9月11日とクリスマス前後はまさに"#MixtapeWar"だった。その9月までは順調に追えていたものの、残り3ヶ月でフリーDLの荒波に溺れる始末でどうにもままならない経験もした。2012年もこの調子で行くのであれば、もう少し割り切って聴く必要があるのかもしれない。JPRAP.COMもこれまでのように全ての無料配信曲を網羅する方針を取りやめるようだし、局面も変化するのだろう。

日本語ラップは才能豊かな若いアーティストがどんどん出てきていて、心底面白いといえる時代に立ち会えているわけだが、同時に年末に読んだツイートでは日本のロックも同じく有望な若手が出てきているようだ。2012年はロックもしっかり追いたい。数年前は洋楽もフォローしたいとかこの年末のまとめ記事で書いていたこともあったけれど、さすがに厳しくなっていく。でもまあ国内の音楽が面白くなっていくわけでとてもいいことなのだろう。

ランキングのひな型は国産ヒップホップ情報サイト「2Dcolvics」さんで発表した順位を基にして、若干の入れ替えを行っている。


第1位 SMRYTRPS『オレンジボヤジャーズ』&『パープルギガント』 →記事

それぞれ9月と12月にリリースされ、同時発売でも2枚組でもないわけで、まあ、ズル以外のなにものでもないのだけど、でもいってみれば2枚でひとつの作品でもあり、一時期はダークフォースに囚われ、暗黒騎士になりかけた彼らが体制も新たにかつての音を取り戻し、同時にわき道で得た経験も盛り込み、楽しくもドープなヒップホップグループとして復活を遂げたことは本当に嬉しい。


第2位 S.L.A.C.K.『我時想う愛』

昨年の2枚のミニアルバムが本作のための習作であることを完璧に証明してみせた作品。メロウさはスラックのキーワードのひとつではあったが、3枚目にしてここまで極めるとは思わなかった。しかもさらなる高みにもひょうひょうと登って行っているわけで末恐ろしい。


第3位 MINT『MMM(MINT MEGA MIX) Edited and Mixed by PsycheSayBoom!!!』 →記事

無料配信ミックステープ。ミンちゃんの作品であると同時にPsycheSayBoom!!!のミックステープでもある本作。震災直後のどうしようもなく暗かったあの雰囲気を一時でも吹き飛ばしてくれた心強いラップと音には本当に感謝しかない。ミンちゃんのセカンドアルバムの制作も順調のようだし、2012年は本作の第2弾も予定されているとのこと。楽しみ。


第4位 志人『微生物 EP』 →記事

限定生産盤ではあるものの、ファーストアルバム『Heaven's恋文』以来となる志人のまとまった音源。以前からライブでは披露され親しんでいた楽曲が徐々に音源になり始めて嬉しい。2012年3月には2度目のカナダに渡った成果をまとめたアルバムが出され、その後にも音源の予定があるようだし、数年前の状況が嘘のようなリリース攻勢だ。本隊の降神は・・・だけど。


第5位 S.l.a.c.k.『この島の上で』 →記事

震災後の言葉を詰めたミニアルバム。スラックは個の音楽を作り続けるアーティストだと思っていたので、本作には驚いた。確かに仲間と作った「But This is Way」(YouTube・当然本作にも収録)もあったわけだけど、1枚にまとめられるほどとは想像していなかった。図らずして新たな才能を開花させた作品。


第6位 EMI MARIA『BLUE BIRD』 →記事

なんとしてもヒップホップ以外からも入れたかったのだけど、思いつくのは本作ぐらいだった。DJ NAOtheLAIZAとのコンビは間違いのない音であり、どうにも先細りな日本の黒いR&Bをふたりで支え続けて欲しい。


第7位 不可思議/wonderboy『ラブリー・ラビリンス』 →記事

『タッチ』の上杉和也じゃあるまいし、まさにこれからというところで何死んでくれてんだよという気持ちにならないこともないが、たった1枚の正規アルバムだけでも残してくれたことを喜ぶべきなのだろう。ライブでの熱さと音盤でのそれに差のないアーティストだった。本当に惜しまれる。


第8位 Earth No Mad from SIMI LAB『Mud Day』 →記事

今年大躍進を遂げたヒップホップグループSIMI LABの中心人物QNのトラックメイカー名義の作品。フリーでも出していた作品を数に入れると日本のヒップホップ界では一番働いていたかもしれない。どの曲でもマイクリレーに仕立てたシミラボ本隊のアルバムよりもQNのリーダーシップが強く発揮されている本作に軍配。


第9位 Nakaji『セピアポラロイド』 →記事(中段)

無料配信ミックステープ。歌謡曲ネタを使うトラックメイカーCARRECが登場してきたように、ラッパー版となると彼になるのかもしれない。近江Records.に所属するナカジは12月に発表した第2弾のフリーDLミックステープ『音洒落吐露』ではその路線をさらに確固としたものにしている。かなり面白い才能だと思う。


第10位 LowPass『Where Are You Going?』

強く輝く才能の周りには同じように個性的なタレントが集まるようだ。QNの作品にも参加していて、シミラボ周辺のアーティストと認識していたヒップホップユニットの初作。シミラボも素晴らしいが、彼らもかなり良い。


選外
・Zeebra『BLACK WORLD / WHITE HEAT』
 彼のアルバムの中で一番楽しめるアルバム。
・享年夫『享年の人』 →記事(中段)
 無料配信ミックステープ。2010年の作品のため。
2011.12.31 Saturday 23:58 | 音楽 | comments(0) | trackbacks(0)
2011年ベスト映画
劇場で鑑賞した作品は昨年よりも若干また減ってしまい計43本。その中から特に楽しめた10作と選外5作品を選んでみた。DVDでも色々見たので、10本を選出。封切り前は絶対に見に行こうと思うのに、いざ始まってみると公開館数が少なかったり、時間が合わなかったりして、結局DVDでいいかと思ってしまうことが多い年だったように思う。映画館で見るのと自宅のテレビ画面とでは環境が全く違うのに年々その傾向が強まっていて、ダメだなとは自覚している。



1位 ブラック・スワン / Black Swan →記事

文句なしに1位。ナタリー・ポートマンのオスカー獲得も納得。サスペンスホラー的な意味で怖いと評されることが多いけれど、そうした怖さは感じられない。それよりも表現することへの主人公ニナのすさまじさに気圧されるし、同時にそこまでした表現こそが人を動かすのだろう。


2位 キック・アス / Kick-Ass →記事

封切りは2010年だったけれど、実際に見たのは今年の2月だったのでランキング入り。"ヒット・ガール"という魅力的なキャラクターが登場するだけでも十分評価できる作品ではあるが、演出・音楽・撮影・俳優とどれをとっても手を抜くことなく、なにより脚本がしっかりしていたのが良かった。続編が作られるらしいけれど、1作目がここまで良いと不安しかない。


3位 エンジェル ウォーズ / Sucker Punch →記事

CGをふんだんに盛り付けたけれんみたっぷりの映画。監督は『300』のザック・スナイダー。こういうおバカ映画は最高に好きだ。年に1本は公開されるので楽しみでならない。CGで遊ぶならとことん遊んだ方が良い。


4位 127時間 / 127 Hours →記事

一方のダニー・ボイルの新作はCGをほとんど使わず、腕を岩に挟まれたことで主人公は動けなくなり、場面は固定される。そのなかで緊張感を持続させ、さらには保つだけではなく、終盤に向けて極限まで高めていく演出は本当に見事だ。


5位 アンチクライスト / Antichrist →記事

これもすごい映画。エンターテインメント性はほぼないし、あまりに独善的すぎる。でもだからこそすさまじいパワーを秘めていて、人間の業を深くえぐっている。シャルロット・ゲンズブールとウィレム・デフォーのふたり劇といってもいいほどに互いががっぷり四つに渡り合い、こんな機会でもなければ直視したくない内面の深いところを映し出す。


6位 冷たい熱帯魚 →記事

5位の『アンチクライスト』と同様に人が心の奥底に秘めている悪感情を表にさらけ出す映画。こちらは激しい暴力を伴うことでよりスムースに表出させていて、ある意味でエンターテインメント性が高いともいえる。年末に公開された『恋の罪』も良かったが、誰にでも分かる暴力をより利用していたことで本作に軍配。


7位 SUPER8/スーパーエイト / Super 8 →記事

冒険活劇青春映画。ボーイ・ミーツ・ガールも夢も家族愛も友情も学校も怪物も軍隊も過激なアクションもなんでも出てきてハッピーエンドで締めくくり、これこそハリウッドといった作品。嫌いなわけがない。


8位 ミッション: 8ミニッツ / Source Code →記事

良くまとまっているSF映画。デヴィッド・ボウイの息子ダンカン・ジョーンズの長編2作目。製作費がもてるポテンシャルをギリギリのところまで発揮させている感がある。いい監督になりそう。ただこちらは、『SUPER8/スーパーエイト』とは違い、ハリウッド的エンディングにからめ捕られた印象のラストシーンがもったいない気もする。


9位 ゲンスブールと女たち / Gainsbourg (Vie heroique) →記事

伝記映画としては難があるのだろうが、私には楽しんで見られた。監督が好きなセルジュ・ゲンズブールに焦点を当て、余計な枝葉をはぎ取っているからこそ、可能になった演出が盛りだくさんで、こんな伝記作品もありなのかと目から鱗。


10位 ビー・デビル / 김복남 살인사건의 전말 →記事

未見のものも多いが、今年も韓国産のサスペンススリラーは充実していたようだ。辛うじて劇場で鑑賞できた本作は新人監督の作品とも思えない完成度で、相変わらず韓国はすさまじいと思わせてくれた。



<選外>
・アンノウン / Unknown →記事


・トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン / Transformers: Dark of the Moon →記事


・ザ・ファイター / The Fighter →記事


・アンストッパブル / Unstoppable


・恋の罪




<DVD鑑賞>
1位:
マーターズ / Martyrs →記事

フランスは小粋な人間ドラマだけではなく、ホラーもすごいと認識した作品。どんなオチが待ち受けているのか最後まで分からず、監督のなすがままだった。



2位:
屋敷女 / A l'interieur →記事

これもフランス産スプラッタホラー。アメリカ産のそれとは違い、変なギャグに逃げることはなく、終始イヤな緊張感を持続させ、見る側を圧迫してくる。怖い。



3位:
フィッシュストーリー →記事

伊坂幸太郎は大好きな作家のひとりなので、映画化されるとなるとどうしても期待度が高くなり楽しめないだろうとこれまで1本も見てこなかったのだけど、本作は原作越えを果している。中村義洋が監督するならこれからも見てみたい。



4位:
瞳の奥の秘密 / El secreto de sus ojos →記事

アカデミー賞の外国語映画賞を受賞したアルゼンチン映画。よく練られた脚本でメロドラマといってもいいような恋愛を絡めつつしっかりどんでん返しが用意されている。面白い。



5位:
ローラーガールズ・ダイアリー / Whip It →記事

ドリュー・バリモアが初監督した青春スポーツもの。主演のエレン・ペイジがかなり魅力的で、家族との葛藤や生き方の模索などのドラマ部分とスポーツ場面とのバランスも良い。



6位:
ナイロビの蜂 / The Constant Gardener →記事

ハードボイルド的に謎を一歩一歩明かしていく中で、社会の悪を暴くと同時に殺害された妻の献身的な愛情に気づくという趣向が良い。



7位:
リベリオン -反逆者- / Equilibrium →記事

エンジェル ウォーズ』のようなおバカ映画。SFとしては幾分ちゃんとした世界観を作り出してはいるが、何せ"ガン=カタ"である。嫌いになれるわけがない。



8位:
007 カジノ・ロワイヤル / Casino Royale →記事

久々に見た007シリーズ。精悍な顔立ちのダニエル・クレイグが演じるジェームズ・ボンドらしいアクションに次ぐアクションな娯楽大作となっていて、最後まで飽きさせない。



9位:
ゴールデンスランバー →記事

中村義洋監督による伊坂幸太郎作品の映画化第3弾。『フィッシュストーリー』とは違い、長編を原作にしているが、少しも不満を抱くことなく見られた。



10位:
ストランペット / Strumpet →記事

ダニー・ボイル監督が2001年に撮ったテレビ映画。シンプルな物語だからこそキャラクター造型が大事で、同時期に制作したテレビ映画の『ヴァキューミング』と同じくらいに強い印象を残す人物を生み出している。

2011.12.31 Saturday 23:58 | 映画 | comments(2) | trackbacks(0)
スティーヴン・キングが選ぶ2011年トップ20
2011年12月28日に連載中の米エンターテインメント・ウィークリー誌のコラムで発表された今年のランキング。昨年まではジャンルごとのトップ10だったが、今年はオールジャンルでのトップ20になった。

1.「ブレイキング・バッド」(TV)
2.『マージン・コール』(movie)
3.Mayer Hawthorne『How Do You Do』(album)
4.「Sons of Anarchy」(TV)
5.Paul Murray『Skippy Dies』(novel)
6.Fountains Of Wayne『Sky Full of Holes』(album)
7.『ペイド・バック』(movie)
8.Ready for Confetti『Ready for Confetti』(album)
9.T.C. Boyle『Talk Talk』(novel)
10.Philip Caputo『Crossers』(novel)
11.「リベンジ」(TV)
12.Linwood Barclay『The Accident』(novel)
13.『ツリー・オブ・ライフ』(movie)
14.『リンカーン弁護士』(movie)
15.Mikis Michaelides「Get that snitch」(song)
16.Justin Evans『White Devil』(novel)
17.『ファイナル・デッドブリッジ』(movie)
18.「The Hour」(TV)
19.「ウォーキング・デッド」(TV)
20.Adele「Rumor Has It」(song)


テレビシリーズと本業の小説が目立つが、映画は全部で5作。

2位 『マージン・コール
7位 『ペイド・バック
13位 『ツリー・オブ・ライフ
14位 『リンカーン弁護士
17位 『ファイナル・デッドブリッジ

リーマンショック前夜を描いたサスペンス『マージン・コール』は日本では劇場未公開で2月にDVDが出る。評判がいいだけに楽しみ。
2011.12.28 Wednesday 00:00 | | comments(0) | trackbacks(0)
KLOOZ『KLOOZ MOVIE DAY』

2011年12月24日Santa KLOOZが渋谷の街に配布したミニアルバム(CD-R)。

今年のクリスマスはすごかった。3連休ということもあったのか、23日からそこらじゅうで無料配信曲やフリーダウンロードミックステープがアップされ、あれもこれも落とさなければと強迫観念に囚われている人間にとっては嬉しくも辛くもあるような3日間だった。そのてんやわんやな感じがまた楽しいわけだけど。

そんな喧騒のさ中、以前から宣言していた通りにクリスマスプレゼント第2弾としてKLOOZの公式ブログで発表されたのが本作となる。第1弾プレゼントであるDIORI A.K.A. D-ORIGINUの「Blue Christmas feat. KLOOZ」をバックに、KLOOZ TVの一環として「Blue Christmas: Gifts for Everyone from Santa KLOOZ」と題された動画がアップされた。

KLOOZ TV "Blue Christmas : Gifts for Everyone from Santa KLOOZ"


"今年You TubeにあげたKMD音源をコンパイルし町中に隠して来ました。是非ゲットしてくださいね"と記事にある通りに、サンタクルーズが聖夜の渋谷に降り立ち、各所でお宝CD-Rを隠していく様子を動画は映し出す。粋な計らいだ。茶目っ気たっぷりな映像は見ているだけで楽しくなること請け合い。自分の名前が刻印されたブックエンドをわざわざ用意し、TSUTAYAに自分のコーナーを作ってしまうところなどは、同じくCD屋でちょっとしたいたずらをしてみせたBanksyのパフォーマンスをどことなく連想させる。

しかし、彼のまとまった音源を首を長くして待ち望んでいるファンとしては、彼らしい遊び心と手放しで評価ばかりはしていられない。実際に渋谷に行かないと手に入らないのだ。しかも蒔かれた数もごくわずか。まさにプレミア即決定な代物ともいえる。ブログ記事のアップが24日の20時32分。私が気づいたのは日付が変わり明石家サンタのドンキホーテで笑っていた頃。慌てて検索してみると、すでにツタヤに極秘裏に納められた数枚やクラブ脇のはなくなっているというツイートを見つけた。早起きして行ってみようかとも思ったのだけど、なんだかんだと理由を付けて早々に諦めてしまった(マンハッタンクローゼットに置かれた10枚のうち最後の1枚は25日の17時頃まではあったようだ)。

それでも日頃の行いが良いためか、サンタクルーズからは受け取れなかったが、データの形で首尾よく入手できた。ビーチでののんびり日光浴を好みそうなTwitter上の知り合いがクリスマスに賑わう街で根気よく捜索した結果、見事手にしたのだ。


1.Freestyle
2.No Play Boy (Play Boy Answer Remix)
3.Easy Like Sunday Morning
4.Beast feat. Y's
5.Freestyle feat. mikE maTida. KEN THE 390. AKLO, SKY-HI & DJ MASTER KEY
6.ツンツンミクちゃん feat. Cherry Brown
7.K.A.M.O.
Bonus Track
8.Livin' In The Future
9.I'm Your Mirror feat. IZAKU

ブログで説明されているように、本編の7曲は「アホな走り集」[YouTube]でも有名な映像作家・大月壮と組み、昨年末から月2回のペースで発表してきた映像作品「KLOOZ Movie Day」(KMD)シリーズからの収録となる。これまでに9本制作されている。そのKMDを以下にまとめた。

【KLOOZ Movie Day】
・2010年
12.05 #001: 「Freestyle」[YouTube]
12.19 #002: 「No Playboy (Playboy Answer Remix)」[YouTube]
・2011年
01.02 #003: KLOOZ & AKLO「2011 (A Happy New Year)」[YouTube]
01.16 #004: 「Easy Like Sunday Morning (produced by LIBRO)」[YouTube]
02.08 #005: KLOOZ & Y's「Beast【3D】」[YouTube]
02.20 #006: KLOOZ, mikE maTida, KEN THE 390, AKLO, Sky-Hi & DJ Masterkey
                                      「Freestyle」[YouTube]
03.07 #007: KLOOZ & CherryBrown「ツンツンミクチャン (produced by Lil'諭吉)」
                                              [YouTube]
04.17 #008: KLOOZ & 楽団ひとり「Q & A (Preview)」[YouTube]
09.04 #009: 「K.A.M.O (produced by Y.G.S.P.)」[YouTube]

曲としても映像としても楽しめる作品が並ぶ。特にチェリーブラウンとの#004では2次元への夢のダイブが見られる。アクロとスワッグを見せつける#003やまさかの飛び出す3D映像となる#005など見どころだらけ。本作はクリスマスプレゼントという趣旨のためか、アクロとの正月ものが外され、また石巻で被災したラッパー・楽団ひとりとの「Q & A」はチャリティーソングとしてすでに配信されているので収録されず、全7曲となっている。ボーナストラックの2曲はフリーDLの既発曲。

これまでは映像込みの楽曲として楽しんでいたので、クルーズのラップだけに集中できるのは新鮮。彼に惹かれるのは、確かな技術を持ち合わせている点はもちろんだが、ラップを判断する上で最も大事だと考える言葉の選択の巧さにある。何か立派な格言を述べるわけではないし、抜き出してみると他愛ないことではあるのだけど、彼がフロウすると言葉がその意味以上の勢いを持ち、海面から飛び出してくるトビウオが銀色に光るように、言葉の奔流の中をいくつもの印象的なフレーズがギラリとした輝きを放っていく。

例えば、遊び人はお断りよと歌う韓国ポップスにひとり乗り込んでいくM2では、"KloozylandでBig Pimpin"と溢れんばかりの魅力を振りまき、9人の女神を懐柔してしまう。なるほど、Dommuneで行われたFruit Ponchi企画の「女性口説きMC BATTLE」で優勝するだけのことはある([YouTube]映像はAmebreak NIGHTでの口説きMCバトルの模様。5分半過ぎからの対ERONE戦。11分50秒過ぎにはKEN THE 390のライブに客演している)。

また、特筆すべきフロウの柔らかさは、リミックスにしろ、リル諭吉らしい跳ねるデジタルトラックでも、Y.G.S.P.の攻めの音の上でも関係ない。どんな音の上でも柔軟に対応してしまう。そして実に楽しそうにラップをする。映像を見ても分かるけれど、まず本人が表現することを一番に楽しんでいるからこそ、それが受け手にも伝わり、自然と笑みが浮かんでくるのだ。軽すぎると思わなくもないが、彼の言葉が強い輝きを帯びるのは明らかに人生を楽しんでいるその瞬間をラップする時であり、"YASSO!"と叫ぶ時だ。だからこそ"無敵走りさドクタースランプアラレちゃん (んちゃ)"なんて強面ラッパーからは出てこないようなリリックも素直に楽しめる。


一方で、彼がこれまでに発表したまとまった音源は昨年4月のフリーダウンロードミックステープ『NO GRAVITY』だけとなる。少しずつフリーDL曲や製品版での客演は増えてきてはいるのだけど、彼に向けられた期待と比較すればまだまだ物足りない。何より願われているのはファーストフルアルバムだ。昨年蒔いた種は確実に成長を遂げているし、今年こそはアルバムの発表かと思われたわけだが、アクロ共々フリーDL界を一時は制したといってもいいふたりは足踏みしている。

そんな状況下だからこそ、本作は広く聴かれた方が良いと思うが、サンタクルーズはみんなをアッと驚かせ、楽しませるやり方を選択した。本当に面白いと思う反面、残念だなとも思ってしまう。



以下にクルーズがこれまで発表/参加した楽曲を分かる範囲でまとめた(KMDシリーズは省略)。

彼は2005年にU2KやPFB、DJ 惨我、DJ SHUHEIらと共に4MC2DJのサイコロ一家(S.I.K.R PRODUCTION表記も)を結成(参照。PRISTやSINSI-Tも所属するようだが、詳細は不明)。彼の地元埼玉が発信している動画プロジェクトに昨年出演した際には、DJ MASTERKEY主宰のTHE LIFE ENTERTAINMENTでインターンとして働いていると語っている。

2009.03.04 「No Pain No Profit feat. MONDOH & OVALOAD」
         from SEEDA And DJ ISSO『CONCRETE GREEN 10』
2009.07.25 PRIST「フリースタイル -MASS LOVE- feat. KLOOZ & U2K」
         from PRIST『ONE BIG SHOT』
2009.10.14 GANMA「Make it Hurry feat. 寿,PRIST,KLOOZ,於菟也,空也MC&THE JAC」
         from GANMA『RED EYEZ DIAMOND』
2010.01.17 KLOOZ「KLOOZ STATE OF MIND feat. Riia.B.swear」(PV[YouTube])
2010.01.29 KLOOZ「ILL NATURE. TRAILER KLOOZ ver」(PV[YouTube])
2010.02.09 AKLO「I LOVE MY NEWERA feat. KLOOZ」
         from AKLO『2.0』(無料配信ミックステープ) →DL先
2010.02.19 PRIST, SINSI-T & KLOOZ「Once Again Remix」[YouTube]
2010.04.23 KLOOZ『NO GRAVITY』(無料配信ミックステープ) →視聴先 / DL直リン
2010.05.01 AKLO, BAN & KLOOZ「BUTTERFLY CITY REMIX」
         from BAN『BROKEN LANGUAGE for DJ』(無料配信ミックステープ) →DL先
2010.07.04 KLOOZ & AKLO「I REP REMIX」[YouTube]
2010.07.19 MoNDoH「Them Kids feat. KLOOZ×AKLO」(PV[YouTube])
2010.08.18 GANMA, 空也MC, KLOOZ, 雷玄, NANCY & BUTTO「WILD EYED CITY」
         from VA『WILD EYED CITY vol.1』
2010.10.25 LB「とおりゃんせ feat. KLOOZ」[YouTube]
         from LB『Happy Monday!! Vol 1』(期間限定無料配信ミックステープ)
2010.12.24 Santa KLOOZ×Santa Mikee「DAIJOBU NIGHT」(PV[YouTube])
2011.04.30 KLOOZ「Livin' In The Future」(PV[YouTube])
         from JPRAP.COM企画 "The Seven Deadly Sins" →DL先
2011.05.13 KLOOZ & 楽団ひとり「Q & A」(配信シングル)
2011.08.11 mikE maTida「B.B.B. feat. KLOOZ & BAN」(PV[YouTube])
         from mikE maTida『HeyMikeeVol.4』(無料配信ミックステープ) →DL先
2011.11.23 DIORI A.K.A. D-ORIGINU「Green Light feat. KEN THE 390 & KLOOZ」
         from DIORI A.K.A. D-ORIGINU『SPREAD YOUR WING』
2011.10.30 TND「I'm Your Mirror Ft.KLOOZ & IZAKU」
         from TND『TND presents DIVER CITY EP』 →DL先
2011.12.05 KLOOZ「キキチガイRemix」[YouTube]
         from DJ OASIS『東京砂漠2011 DESERTIFICATION』
2011.12.21 DIORI A.K.A. D-ORIGINU「Blue Christmas feat. KLOOZ」(配信シングル)

無料配信曲のアカペラが音楽配信サイトDr.PAPを通じて同じようにフリーで落とせる。それを利用し制作されたリミックス曲も同サイト内にアカペラと一緒にまとめられている(→Dr.PAP)。他にも公式ブログの「KLOOZ On Music」というテーマ記事にリミックスされた曲が紹介されている。


<インタビュー>
JPRAP.COM
 KMDシリーズについてクルーズと大月壮が語る。インタビュア・微熱王子さんの質問が適切で興味深いやり取りが多い。クルーズのラップスタイルの変遷などもうかがえる。
2011.12.26 Monday 23:59 | 音楽 | comments(2) | trackbacks(0)
荒木飛呂彦『ジョジョリオン』第1巻

2011年12月発売。

1987年から「少年ジャンプ」で連載が開始された「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズの最新章となる第8部。第6部で壮大な終わり方をかまし、より自由を得た著者は続く第7部で19世紀末のアメリカを舞台に、ずいぶんと凝った設定のスタンドを登場させ、読者をけむに巻きながらも伸び伸びと好きなように描いていた。そして、最新シリーズとなる『ジョジョリオン』では第4部の舞台でもあった懐かしのS市(仙台)杜王町から物語が始まる。

3.11の大震災で町の一部が突然隆起した杜王町。"広瀬"康穂は一夜にして盛り上がった"壁の目"の近くで記憶喪失の青年を助ける。彼女の幼馴染・"東方"常秀とひと悶着あった後に、唯一の手がかりを頼りに、"吉良吉影"のマンションに向かう。

第4部とは"まったくリンク"していないと著者が最初に書いているわけで、どこか懐かしいこれらの名前も第7部と同じようなものなのだろう。第1巻では主人公の名前もまだ明かされないが、彼が使うスタンドの名前がプリンス由来という嬉しさも手伝い、面白くなりそうだ。でもとりあえず、まだ読んでいない「Steel Ball Run」の残り3冊をどうにかしよう。
2011.12.25 Sunday 23:58 | 漫画 | comments(0) | trackbacks(0)
アパートメント / L'Appartement

75点/100点満点中

2004年にジョシュ・ハートネット主演でリメイク『ホワイト・ライズ』も作られた1996年のフランス映画。ミステリー。主演は『ブラック・スワン』で舞台監督役だったヴァンサン・カッセル。そのカッセルと3年後に結婚する"イタリアの宝石"ことモニカ・ベルッチと1992年の『野生の夜に』と『伴奏者』で評価され、セザール新人女優賞を受賞したロマーヌ・ボーランジェが共演。製作費470万ユーロ。

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ニューヨークで商社マンとして成功、故郷のパリに凱旋し、美しい婚約者ミュリエルもいるマックス。カフェでの商談の途中、ボックス式の公衆電話からかつて熱愛の果てに失恋したリザの声を聞く。すりガラスで顔を確認できなかったものの、ホテルの鍵を残して消えた彼女の影を追うマックス。数少ない手がかりからリザのアパートメントと思われる場所に行き着くのだが・・・。
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3ヶ月ほど前に周回ブログで紹介されていた作品。ハリウッドリメイク版の『ホワイト・ライズ』は見ていて、内容は記憶にないが、当時の記事を読む限りでは駄作と断じている。が、この本家はかなり面白い。ヴァンサン・カッセル演じるマックスと舞台女優のリザ(モニカ・ベルッチ)の熱愛という過去の話と、マックスとリザを名乗る看護師との不思議な出会いという現在の話が複雑に交錯し、もつれ合い、ギリギリまでよじられ、緊張が頂点に達した時に一気に謎が解決されるかと思えばあにはからんや、現在の謎が過去によって、過去の秘密は現在によって明かされはするのだけど、その道行は複雑怪奇を極める。

作品の中間にあたる56分以降から謎が明かされていく演出は宮藤官九郎がドラマ「木更津キャッツアイ」でやっていたのに少し似ている。「木更津キャッツアイ」ほど親切ではないが。

そしてラストシーンでええーーーと叫ばされる。トリック上の不具合ではなく、ドラマとしてのオチにそれはありなのかと。試写会での一般のお客さんの意見を参考にし、最後を差し替えることさえあるハリウッドではおそらく許されないようなラストシーンに、さすがヨーロッパ産、大人だとよくも分からないのにしたり顔を決めたくなるほど。

現在と過去の移動がずいぶんと凝っていて、その点でのカメラワークに不満はないが、光の当て方に問題がある。それこそNHKのテレビドラマのようにスタジオ撮影であることがはっきりと分かり、興醒めを誘う。製作費などの都合もあるのだろうが、海外の映画にしてはセットや小物に現実味が薄いのは最後まで気になる。
2011.12.24 Saturday 23:59 | 映画 | comments(1) | trackbacks(0)
ミルク / Milk

83点/100点満点中

ガス・ヴァン・サント監督、ショーン・ペン主演の2008年作品。ゲイであることを公表し、アメリカで初めて選挙に選ばれ公職に就いた政治家ハーヴィー・ミルクの伝記ドラマ。脚本は本作で第81回アカデミー賞脚本賞を受賞したダスティン・ランス・ブラック。ショーン・ペンもまた主演男優賞に輝く。製作費2000万ドル。

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1972年ニューヨーク。金融業界で働くハーヴィー・ミルクは、40歳の誕生日の夜に年下の青年スコット・スミスと出会い、恋に落ちる。ふたりは変化を求めてサンフランシスコに移住。同性愛者が多く住む"カストロ地区"でカメラ屋を開業する。やがてミルクは、同性愛者を始めとした社会的弱者が抱える問題を改善するために積極的に政治活動にのめり込む。市の行政に直接関わるべく、市政執行委員選挙にも立候補。自由な空気漂うサンフランシスコとはいえ、同性愛者であるミルクの決断は周囲に大きな波紋を広げるが・・・。
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これはいい映画。128分とやや長いし、ミルクという人物への深い掘り下げはないのだけど、1972年のスコットとの出会い(ナンパ)から、サンフランシスコへの移住、ゲイ権利闘争へののめり込み、その過程でのいくつもの落選という苦闘や認められる難しさ、アメリカのゲイに対する宗教弾圧などを大局的な視点から抑えつつ、ペンの演技力の助けを借り短いエピソードで個を描いていく。見終えてみるとそのバランスの巧さにアカデミーでの脚本賞獲得も納得できる(他の候補作は『フローズン・リバー』や『ウォーリー』等)。

クリント・イーストウッド監督がついにレオナルド・ディカプリオと組む、来年初頭公開の『J・エドガー』の脚本家が本作のブラックであり、その手腕を出世作で確認しようと手に取ったわけだが、これは大丈夫そう。『ミルク』は実質的には数年の出来事しか描かれておらず、『J・エドガー』ではフーバーの長い半生を描写するものになるそうだが、話の肝をしっかり見極め、枝葉を厳しく排除できる脚本家のようだ。

日本でも最近はオネエブームということで、テレビでは以前よりもゲイの人が活躍し、徐々に市民権を得始めている。人間は色々で"そういう"生き方もあり別に悪いことじゃないという雰囲気が醸成されていくのはいいことだ。10年以上前の話になるが、金曜日の深夜だったかに新宿二丁目に迷い込んでしまったことがあって、その一角に入った瞬間、通りの両脇にびっしりと男性たちが思い思いの格好でくつろぎ話している光景に出くわしたことがある。そのリラックスした表情を見るに、この町やこの時間だけではなくて日本中どこでも自分の本来の姿で生きられる時代が来ればいいねと思った。今テレビでよく見るゲイたちもキワモノとしてのキャラ付けをされていることは自覚的だろうけど、本作のミルクのように政治の道を歩みその権利を主張するわけではないが、彼らの活躍を通して確実にその生き方は認知されていくはずだ。

しかし、そもそも衆道という文化(?)のあった日本以上にゲイに今でも厳しいだろうアメリカで、ミルク役に全力で取り組んだショーン・ペンは立派だ。それは彼にサンフランシスコ行きを示唆するスコットを演じたジェームズ・フランコやエミール・ハーシュら若手も同様なのだけど、でもその価値のある素晴らしい作品になっている。サマー・オブ・ラブの中心地のサンフランシスコであり、他の地域よりは開けた考えを受け入れる土壌があったとはいえ、その熱狂的も薄らいだ1970年代の風俗や文化を巧みに演出されているのも良い。見応えのある映画だ。
2011.12.23 Friday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
THE BAWDIES『LIVE THE LIFE I LOVE』

2011年6月8日リリースの5枚目のアルバム。
/5点中

日本人ばなれした歌声、しっかり間を生かしたギターリフ、ロックもロックンロールもブルーズもソウルもファンクも織り交ぜ、力強いグルーヴを生み出す演奏は本作でも健在。2011年の現代にこんな方法論で成功できるのかといぶかる古いスタイルでありながらも、音も歌も全てが文句なしに輝き、古いとか新しいとかいった価値観に冷笑を浴びせ、今この時の音として鳴らしている。かっこいいとしかいいようがない。

そうはいってもまがい物なしの純度100%のロックンロールであり、しかも英詩で歌われ、テレビにも出演しないわけで苦戦するかと思いきや、オリコンのアルバムチャートでは初登場6位、初動枚数も約2万枚と前作を上回る数字を叩き出している。

とかなんとか賞賛の言葉を色々並べることはできるのだけど、前作についての自分のブログ記事を読んだら、本作を聴いて感じたことと全く同じことが書かれていたのでアルバムについての詳細は割愛。ただ、先行シングルのM3「LOVE YOU NEED YOU」では日本のR&B歌手の中でも重量級に分類されるAIが参加していて、アルバムの構成に良い変化をもたらしている。他に前作との違いとしては些細な点だが、M10「WHAT YOU SAY」でボーカルROYのファルセットが聴ける。

セカンドアルバムから毎年アルバムを順当に出し続け、評価も実績も右肩上がりを記録しているわけだが、彼らはいつまでコピーバンドのままなのだろうか。黒人音楽と白人音楽が結びつきロックンロールを生み出したその黎明期の旨味を上手にすくい取り、変に日本人好みに変えるではなく、そのかっこよさを素直に音にしていることは評価できる。ネタはまだまだあるだろうし、今のスタイルを続行することも可能だろう。だけど、自分たちなりの新しい何かを創造したいとは思わないのだろうか。

と思ったら、これもまたサードアルバムの記事で書いていたことだった。
2011.12.20 Tuesday 23:59 | 音楽 | comments(0) | trackbacks(0)
情婦 / Witness for the Prosecution

84点/100点満点中

ビリー・ワイルダー監督による1957年の法廷サスペンス。アガサ・クリスティの短編小説を彼女自身が戯曲化した「検察側の証人」を原作に、ビリー・ワイルダーとハリー・カーニッツが共同脚本。製作費300万ドル。

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1952年のロンドン。金持ちの未亡人殺しの容疑者レナード・ボールは、老齢ながらロンドンきっての敏腕弁護士ウィルフリッド・ロバーツに弁護を依頼する。裁判が始まると、ウィルフレッドは検察の攻撃をことごとく跳ね返していくも、検察側の切り札として出廷したボールの妻クリスチーネが思いもかけない証言を始める。
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映画好きといいながらもモノクロ映画をほとんど見ていない不届き者で、本作でビリー・ワイルダー作品を初めて鑑賞するというふざけるにもほどがあるというありさまではあるのだけど、トゥイッター上で、"どんでん返し系の映画として、今まで同率一位だった『SAW』と『ユージュアルサスペクツ』を抜く勢い...ラスト15分で何回展開入れ替わってるんやろ…!!"という呟きを読んでしまっては見ないわけにはいかない。本作はミステリー映画の"最高峰に位置する傑作"らしいが、『ユージュアル・サスペクツ』はやはりリアルタイムで見て度肝を抜かれた作品なのだ。

ラストでの二転三転するどんでん返しは素晴らしい。どこに落ち着くのかハラハラしながらも、すごく気持ちの良いところに落とし込む辺りはさすがだ。2002年にワイルダーが亡くなった時に、三谷幸喜が新聞連載のコラムでいかに彼が素晴らしく、自分に多大な影響を与えてきたのかということを熱く綴っていて、いつか見なくてはと思っていたのだけど、なるほどと大きく頷くしかない出来栄えだ。

どんでん返しという派手な見せ方の一方で、会話シーンにも魅せられる。弁護士ウィルフレッド演じるチャールズ・ロートンと口やかましい付き添い看護師ミス・プリムソル役のエルザ・ランチェスターは夫婦だそうで、確かに息の合った演技を見せる。序盤ではうっとうしく思える看護師が次第に魅力的に思えてくるのも面白い。本作で夫婦そろってアカデミー賞候補にもなったそうだ。受賞はランチェスターがゴールデングローブ賞の助演女優賞を獲得している。

キャラの立っているふたりのやりとりももちろんいいのだが、弁護士と依頼人との普通の会話の場面でも惹きつけられるものがある。本作では血は一滴もたれない。どこで死体が発見されたのかという描写だけが会話の中に出てくるだけで、予算の都合もあるのだろうが、場面展開も少なくカメラワークも大人しい。前半は弁護士事務所だけでほとんど展開されていくのだけど、少しも飽きずに見ていられる。脚本の妙だろう。

ボールの妻クリスチーネを演じるのはマレーネ・ディートリッヒ。映画に出ているのを見るのは初めてだが、その冷ややかな眼差しはさすが大女優の貫録。この機会にウィキペディアでさらっとその半生を読んでみたが、まあすごいものだ。撮影時56歳だったというのも驚かされる。主演のタイロン・パワーは"ハリウッド・キング"と称された当時の2枚目スターだったという。本作で演技派としての新境地を開いたと評されるも、次作の撮影中に急死し、本作が遺作となったそうだ。

TSUTAYAが最近精力的にキャンペーンしている「発掘良品」の中にも入っているようだし、新しい作品もいいけど、こうした名作も見ていかないと。
2011.12.20 Tuesday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
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今日も愚痴り中