「無料DLミックステープの出来早見表」という不遜なタイトルを付けて、以前はTwitter上で呟いていた月一恒例行事をブログに移行してみた。最近は滞り中だったし、また再開しても本数が多すぎてタイムラインを独占してしまうからだ。いつまで続けられるのか分からないけれど、とりあえず2012年1月分が以下になる。知るのが今になった関係で去年の作品も含まれている。
ヒップホップという文化には"ディグ"と呼ばれる、自分で作品を探すことが尊ばれる慣習があるらしい。でも、そういうのはよく分からないので、列挙したミックステープのほとんどは奇特な日本語ラップ愛好家の方が日々懸命に掘り起こし、ホームページやトゥイッターで発信している情報を頼りにしている。よって、
JPRAP.COMと
2Dcolvics、そして
@KSK1988さんには本当に感謝です。もちろん、無料でこんなにも多くの音源をアップしているアーティストにも大きな感謝です。
てっとり早く良作だけ教えてという人には上の3枚がお勧め。左はニューヨーク帰りのバイリンガルラッパーKOJOEの2作目のミックステープ。フリーDLを撒き餌と認識し、売れるための戦略をしっかり練り上げている数少ないラッパーのひとり。真ん中は普段は個々で活動している平成生まれの3人が集まり1日で作り上げた作品。右のは今回初めて耳にした福岡天神を拠点に活動するというラッパーふたり組の作品。画像クリックでそれぞれのDLリンク先へ。
【△】BudaMunk『Resolute Dragon Beat Tape』
2012.01.01 / 全5曲14分 / 160kbps /
bandcamp
2011年はひょっとしたらSICK TEAMでの同僚S.L.A.C.K.よりも働いていたかもしれないトラックメイカーのお年玉音源。いかにもお正月でございといったビート集。それ以上でも以下でもない。
【△】soakubeats『SCARFACE VS GODFATHER』
2012.01.01 / 全9曲33分 / 320kbps /
bandcamp
昨年夏頃からすごい勢いでビート集を発表し始めたソアクビーツの年始一発目が本作。17本目になるとのこと。山下達郎リミックスが続くなと思っていると、最後は安藤昇「男が死んで行く時に」のリミックスで終わるという先の読めなさ。面白い。
【△】RUDEBWOY FUNK『お年玉フリーダウンロード』
2012.01.01 / 全5曲15分 / 128kbps /
HP(終了)
大阪のレゲエクルーたちの音源。三が日だけの限定配信。「雪月夜」はさすが大阪の人たちらしく全力で笑わせにかかる曲で、初笑いさせられた。全体的に湘南乃風のフォロワーといった印象。ただ、NOISEの「のんだくれ2012」はドヤ街のうらぶれた漢の唄で素晴らしい。
【×】MC松島『Swagger Like 松』
2012.01.01 / 全13曲41分 / 128kbps /
blog
2010年のUMBでは東京での決勝戦にも出場した北海道のフリースタイラーの初ミックステープ。どうしようもなくくだらないことをだらだらとフリースタイル気味にラップする。あるあるネタのRGを真似する環ROYを真似した印象。客演に駄菓子が並ぶので面白い感じに仕上がっているのかと期待したらバカを見る。時間が余っている人向け。
【○】SUIKA『スイカ夜話 dbs private remix』
2012.01.04 / 全13曲64分 / 192kbps /
SoundCloud
『スイカ夜話』全曲リミックス!オリジナルを聴き込んでるため、かっこいいビートがはめ込まれているのに、どうにもしっくりこない前半に疑問を覚えるも、スロウな曲調になってからはかみ合い始める。M7「DRIPDROP dbs remix」からの3曲は正解だろう。
【○】虹夢『歩き続ける』
2012.01.09 / 全12曲43分 / 128,160kbps /
blog
新潟生まれの18歳のラッパー。曲中でも語るように昨年2月3日にラップを始めたそうで、確かに過去2作は箸にも棒にもなミックステープだったが、本作では見違えるほど向上している。フロウにリズムを取り入れ、決してオリジナルではないものの、ラップに躍動感を生み出したことでずっと聴きやすくなった。ラップ始めて半年で1本目のミックステープを出すという行動力は若さだね。
【○】VA『MIND EXTRACTION』
2012.01.10 / 全8曲33分 / 320kbps /
bandcamp
イベント出演者の作品をまとめたビート集。それぞれの音に派手さはないものの、良質の音がある。CAI-BEATZやbugseed、katafuta、Sinke Button-OといったフリーDLではよく見かけるトラックメイカーが集まり、RAMZAまで加わっている。そのラムザの曲が極上の質感で良い。1曲だけ歌ものがあり、そのナガタナオキという人が気になった。気の利いたビートを聴かしているfrogはJET CITY PEOPLEのマイクリレーにも参加していたDACRO BASSのFrogと同一人物なのかな?いずれにしても良いコンピ。
【△】寛治『心喰PACK.ep vol.2】
2012.01.11 / 全6曲22分 / 256,320kbps /
YouTube
ネットでの無料配信を主体にした音楽レーベルStudio Cocoon所属のラッパー寛治の2作目。第三者を主人公にした不幸話をおどろおどろしくラップすることにどれほどの楽しみがあるのか分からないのだけど、変わっているという点では際立っている。音的には8th Wonder的でもある。LOW HIGH WHO? PRODUCTIONのCOASARUやnekozebeats等がトラック提供している。
【○】Headzy『Beats 2012』
2012.01.12 / 全7曲22分 / 320kbps /
bandcamp
フリーダウンロードでビートを時折発表している京都のトラックメイカーのビート集。素材の良さがそのまま出ているために十分楽しめはするけど、どれも質感が一緒でたった22分しかないのに飽きるという不思議さがある。それぞれ単曲で聴いたらもう少し印象が異なったかも。
【○】Dodge Noledge『Dodger's Labo vol.1』
2012.01.14 / 全5曲20分 / 192kbps /
YouTube
Gucci Mane、Talib Kweli、Redman & Method ManときてMariah Carey、さらにはSEEDAの「花と雨」まで、自己紹介的なパッケージングにするべく幅広い選曲がなされている。温かみのある太いビートを基調としているので、雑多な印象に陥らず、統一感があり、原曲のラップの良さも手伝い、楽しんで聴ける。これは良作。続きも聴きたい。
【○】Dodge Noledge『Super 8bit Bros.』
2012.01.14 / 全5曲19分 / 192kbps /
YouTube
NasやJay-Z、あるいはGame、Cassidyをジャケットにあるようにゲーム音(8bit)を加えて料理してしまった逸品。びょ〜んというマリオのジャンプ音が飛び出せばどうしても喜劇となりそうだけど、そこはぶっといベース音を入れるなどして決して笑いに走っているわけではなく、曲としてかっこよく仕上げている。Ne-Yoでのコインを取り込む効果音は彼が「So Sick」でがっぽり稼いだことを想起させる。
【○】VA『Premiata White』
2011.12.30 / 全5曲24分 / 320kbps /
HP
ピコピコなゲーム音を取り入れているといえば、昨年末にネットレーベルLowfer Recordsが"お歳暮EP"として発表したこのミックステープの2曲目に収録されているYasterizeの「Last Boss From 199X」は6分台と長いのだけど、ある世代には強烈に郷愁をかき立てる音で喉の奥がつーんと来さえする。一大叙事詩の様相を帯びる展開も良い。
【○】SNEEEZE『Is Ignored』
2012.01.15 / 全6曲17分 / 320kbps /
bandcamp
興奮させられる曲はM1「Killing」ぐらいしかない(M5とM6がかろうじて及第点)が、3月11日の初アルバムに向けて年末にミックステープを出し、さらにこのタイミングでも新作を発表して畳み掛けてくる姿勢にワクワクさせられる。アメリカでは通常のリリースパターンになっているわけだけど、日本ではまだ数例しかないやり方なわけでうまくいって欲しいところではある。
【△】Sleptt『SlepttStrumentals vol.3 slept & screwed』
2012.01.18 / 全7曲28分 / 320kbps /
bandcamp
昨年6月に無料配信されたビート集『SlepttStrumentals vol.3』(
DL先)のスクリューリミックス版。この手の変化のさせ方に面白味を見出せないが、ラップ曲とは違いインストにこの処理がなされると、元々もったりした曲なのねと受け取ることができる。トラックメイカーのビート集も数多く発表されているが、スクリュー版も出している人はまだまだ少ない。これから増えていくのかな。それと今回初めて気づいたのだけど、オリジナル版のマスタリング担当にGivenと名がある。LowPassの彼だろうか。Sleptt自体その素性は知らないわけだけだが、その辺りとも繋がりがあるのは興味深い。
【△】Studio Cocoon『SNUFF』
2012.01.19 / 全15曲46分 / 128,320kbps /
YouTube
上で挙げた寛治も所属しているフリーダウンロードでの作品発表を積極的に続けるネットレーベル、スタジオ・コクーンがこれまでに出した楽曲のリミックス集。このレーベルから出されるラップ曲は、部屋の隅で壁に向かってブツブツいってろ的な壁ラップが多いが、そうはいっても好みでもある抒情的なポエトリー系の曲も時折あり、侮れずチェックしてしまう。本作は性急なビートを組み合わせたものが多く、ラップを引き立たせるものではない。
【○】TOP BILLIN'『What More Can I Say?』
2012.01.21 / 全18曲58分 / 256kbps(m4a) /
blog
ヒップホップグループTheGrasshopper SetのDJイーグル藤田が主宰するイベント名を冠したミックステープ。ATENE STUDIOのラッパー・雄大やHI-SOも参加し、既存曲のリミックスとHIRORONやイーグル藤田のオリジナルトラックを混ぜ合わせ、飽きの来ない作品に仕上がっている。ラップをしていた頃のCOMA-CHIを彷彿させる女性ラッパーYURIKAの存在感も大きい。
【△】金持ち兄弟『金持ち兄弟』
2012.01.22 / 全12曲28分 / wav /
SoundCloud, 一括DL(
直リン)
東京・国立を拠点に活躍するというdo or dieとGOD-machineによるヒップホップユニット。Thug Family・TOPがどれほど偉大だったかがよく分かるギャグハーコーラップ路線。こうしたラップをも受け付ける懐の深さが欲しいところ。スタイルは多様性に満ちていてこそ面白いのだから。
【○】maemon『12 MONKEYS』
2012.01.21 / 全11曲25分 / 256kbps(m4a) /
blog
ニューヨーク在住の日本人トラックメイカーのビート集。作品1枚を楽しめるものにしようとバラエティに富んだ曲調を揃えていて好感は持てるのだけど、表題曲やM9「Stop」といったメロディの良さで聴かせるもの以外は印象に残りにくい。決して悪くないだけにもったいない。
【○】Contrastiv『The Wreckage Of Tapes』
2012.01.25 / 全7曲25分 / 320kbps /
bandcamp
LightとSlepttによるヒップホップユニットContrastiv。またまたSleptt関連作品。ここでもLowPassのGivenが関わっていて、指摘されて初めて気づいたがロウパスのアルバムにふたりで参加している曲もあった。とても今っぽいラップでかっこ良いのに、トラックにもラップにもコレという強力な曲がなく、もったいないと思っているうちに終わってしまう。
【△】れと『FANCY for REAL』
2012.01.24 / 全7曲23分 / 160,192,256kbps /
blog
れととX-hazeによる2MCのヒップホップデュオ10.010から、れとの初ミックステープ。発展途上のラップでこれから。ビート自体は軽快に鳴らされているのに、ラップが足止めしてしまうのがもったいない。
【○】SELLER『696の上で』
2012.01.25 / 全5曲14分 / 320kbps /
Twitter
696Beatsが昨年無料配信したビート集(
bandcamp)のトラックを使った5曲入り。MIDICRONICAの894、あるいはRHYMESTER『リスペクト』冒頭のエフェクトをかけたあの声を彷彿させるややクセの強いラップは聴く人を選びそうだが、客演がバランスよく配置され、それほど気にならないよう配慮がある。昨年のフリーDLミックステープ(
bandcamp)が好評だったLOW HIGH WHO? PRODUCTIONのMomoseが1曲で参加。
【△】KANI『捨てレゴ』
2011.09.02 / 全7曲13分 / 192kbps /
ニコニコ動画
上記のセラーが696Beatsを全曲で使っていて喜んでいたら、こんなのもあるよとトゥイッターで教わった昨年配信済みのミックステープ。ニコニコ動画を拠点に活躍するラッパーにありがちな歯切れの良いラップ。クセがない分、696ビーツのセンスの良さが生きているともいえる。セラーも1曲で参加しているが、やはり変わった声の持ち主だ。
【○】弘明 & 創『ATAG BEACH』
2012.01.26 / 全11曲25分 / 160kbps /
blog
博多天神のふたり。天神親不孝周辺といえば、FREEZの影響下にあるラップが特徴的だけど、このふたりは関東よりのスタイル。弘明はNORIKIYO好きが高じたフロウ、一方の創ははやりを押さえつつも自然な日本語のイントネーションを心掛けているラップで、ふたりのキャラ分けがすでにできている。せっかくお互いに引き立たせ合うスタイルなのに、ソロ曲を3曲ずつも盛り込んでいるのは残念。CRAMという人のオリジナルトラックと既存洋楽トラックとの違和感もなく、次も聴いてみたくなるふたり組だ。
【◎】KOJOE『The "J" Mixtape』
2012.01.27 / 全15曲58分 / VBR /
Twitter
"KOJOE TUESDAYS"と題して昨年3月から6月までの毎火曜日に発表していたフリーDL曲から7曲、そのシリーズ全18曲は後に2枚のミックスCDに分けられ発売もされたのだけど、そこに収録された未発表曲から6曲。Raekwonと道(TAO)と共に発表したシングルの1曲「Samurai Yaro」も収められている。「1LT」だけ分からなかったけれど、彼はラップだけではなく歌わせても素晴らしく、フックはR&Bらしいコーラスワークまで聴ける。次の「Seppa」もすごくいいし、徐々に熱を帯びていく様がたまらなくかっこいい1曲目の「Jokyoku (Overture)」もまたミックスCD収録の未発表曲なわけで、あの2枚は買いなのかもしれない。
【△】CRUCIBLE & DODGE NOLEDGE『Kidz From The Block』
2012.01.28 / 全6曲18分 / 192kbps /
YouTube
"関西を拠点に活動するバイリンガルラッパーCRUCIBLEとトラックメイカーDODGE NOLEDGE"によるユニット。ドッジ・ナレッジは今月すでに2本の意欲的なリミックス集を発表しているトラックメイカーで、ここでは派手さはないものの、ラップが伝えきれていない感情を音で補佐している。クルーシブルはANARCHYの影響下にあるストロングスタイルのラッパー。ご丁寧にも京都・伏見の出身のようだ。端々にリリックの引用もある。背負っているドラマも色々あるようだし、アナーキーや神戸のYONGIが好きな人にははまるかもしれない。
【○】SUNNOVA『D.e.a.l. E.P.』
2012.01.30 / 全10曲18分 / 320kbps /
bandcamp
LOW HIGH WHO? PRODUCTION所属のトラックメイカーのビート集。一定の美学の下に細切れにされたり、押しつぶされ、ひねられた音が毅然と並ぶ。1曲1曲が短いこともあり、だれることなく聴ける。最後にはなぜかD'angeloの声ネタ曲。復活記念?
【○】Enpizlab『Roughsketches』
2012.01.31 / 全12曲18分 / 192kbps /
bandcamp
吉沼/yoshimuma、絶招、Dovestという積極的にフリーDL配信している若きラッパー兼トラックメイカーたちが1日で作り上げた作品集。絶招の
解説記事にもあるように、互いに才能を刺激し合いながら取り組んだためか普段彼らがアップしている作品よりもずっと聴きごたえのあるものになっている。特にインストが魅力的でもう少し長くてもいいのにと思う曲がいくつもある。1枚の作品としてまとまりが感じられるのも好印象。とても良い。
【○】soakubeats『I have to work tomorow』
2012.01.31 / 全9曲29分 / 320kbps /
bandcamp
18本目の無料配信ミックステープ。一般流通作品の制作期間に入るべく、フリーDLはしばし休止するようで、夏頃から続いていた猛烈な作品攻勢は今回で一旦打ち止め。正直書けば全作品を聴いているわけではなく、初期の数作と元旦の1枚だけなのだけど、以前は勢い重視のビートを鳴らしていた印象だったが、ここでの音は格調高いと表現してもいいような音の連なりであり、タイトルや曲名からはうかがい知れない端正なメロディがある。
【○】SAI BEATZ『This Is SAI BEATZ』
2011.09.30 / 全6曲17分 / 256kbps(m4a) /
blog
昨年9月のビート集。今頃になって知るのもなんだが、やはりこの人のビートはかっこいい。JPRAP.COM企画「The Se7en Deadly Sins」の全曲リミックスを出した辺りから気になりだしたトラックメイカーで、その後もネット配信で目立った動きを見せるラッパーら(KENTZやMEKA、RANL等)に曲提供をしたり、リミックスを随時発表している。基本にある太いビートはまさにヒップホップのそれであり、どんな上音が来ようがかっこいい!となる。ブログ記事の説明にある通りなのだろうが、もっと変態になっても面白かったかも。