すばらしくてNICE CHOICE

暇な時に、
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2021.02.10 Wednesday | - | - | -
無料配信ミックステープ1月号(2012)
「無料DLミックステープの出来早見表」という不遜なタイトルを付けて、以前はTwitter上で呟いていた月一恒例行事をブログに移行してみた。最近は滞り中だったし、また再開しても本数が多すぎてタイムラインを独占してしまうからだ。いつまで続けられるのか分からないけれど、とりあえず2012年1月分が以下になる。知るのが今になった関係で去年の作品も含まれている。

ヒップホップという文化には"ディグ"と呼ばれる、自分で作品を探すことが尊ばれる慣習があるらしい。でも、そういうのはよく分からないので、列挙したミックステープのほとんどは奇特な日本語ラップ愛好家の方が日々懸命に掘り起こし、ホームページやトゥイッターで発信している情報を頼りにしている。よって、JPRAP.COM2Dcolvics、そして@KSK1988さんには本当に感謝です。もちろん、無料でこんなにも多くの音源をアップしているアーティストにも大きな感謝です。


てっとり早く良作だけ教えてという人には上の3枚がお勧め。左はニューヨーク帰りのバイリンガルラッパーKOJOEの2作目のミックステープ。フリーDLを撒き餌と認識し、売れるための戦略をしっかり練り上げている数少ないラッパーのひとり。真ん中は普段は個々で活動している平成生まれの3人が集まり1日で作り上げた作品。右のは今回初めて耳にした福岡天神を拠点に活動するというラッパーふたり組の作品。画像クリックでそれぞれのDLリンク先へ。


【△】BudaMunk『Resolute Dragon Beat Tape』
2012.01.01 / 全5曲14分 / 160kbps / bandcamp
2011年はひょっとしたらSICK TEAMでの同僚S.L.A.C.K.よりも働いていたかもしれないトラックメイカーのお年玉音源。いかにもお正月でございといったビート集。それ以上でも以下でもない。


【△】soakubeats『SCARFACE VS GODFATHER』
2012.01.01 / 全9曲33分 / 320kbps / bandcamp
昨年夏頃からすごい勢いでビート集を発表し始めたソアクビーツの年始一発目が本作。17本目になるとのこと。山下達郎リミックスが続くなと思っていると、最後は安藤昇「男が死んで行く時に」のリミックスで終わるという先の読めなさ。面白い。


【△】RUDEBWOY FUNK『お年玉フリーダウンロード』
2012.01.01 / 全5曲15分 / 128kbps / HP(終了)
大阪のレゲエクルーたちの音源。三が日だけの限定配信。「雪月夜」はさすが大阪の人たちらしく全力で笑わせにかかる曲で、初笑いさせられた。全体的に湘南乃風のフォロワーといった印象。ただ、NOISEの「のんだくれ2012」はドヤ街のうらぶれた漢の唄で素晴らしい。


【×】MC松島『Swagger Like 松』
2012.01.01 / 全13曲41分 / 128kbps / blog
2010年のUMBでは東京での決勝戦にも出場した北海道のフリースタイラーの初ミックステープ。どうしようもなくくだらないことをだらだらとフリースタイル気味にラップする。あるあるネタのRGを真似する環ROYを真似した印象。客演に駄菓子が並ぶので面白い感じに仕上がっているのかと期待したらバカを見る。時間が余っている人向け。


【○】SUIKA『スイカ夜話 dbs private remix』
2012.01.04 / 全13曲64分 / 192kbps / SoundCloud
『スイカ夜話』全曲リミックス!オリジナルを聴き込んでるため、かっこいいビートがはめ込まれているのに、どうにもしっくりこない前半に疑問を覚えるも、スロウな曲調になってからはかみ合い始める。M7「DRIPDROP dbs remix」からの3曲は正解だろう。


【○】虹夢『歩き続ける』
2012.01.09 / 全12曲43分 / 128,160kbps / blog
新潟生まれの18歳のラッパー。曲中でも語るように昨年2月3日にラップを始めたそうで、確かに過去2作は箸にも棒にもなミックステープだったが、本作では見違えるほど向上している。フロウにリズムを取り入れ、決してオリジナルではないものの、ラップに躍動感を生み出したことでずっと聴きやすくなった。ラップ始めて半年で1本目のミックステープを出すという行動力は若さだね。


【○】VA『MIND EXTRACTION』
2012.01.10 / 全8曲33分 / 320kbps / bandcamp
イベント出演者の作品をまとめたビート集。それぞれの音に派手さはないものの、良質の音がある。CAI-BEATZやbugseed、katafuta、Sinke Button-OといったフリーDLではよく見かけるトラックメイカーが集まり、RAMZAまで加わっている。そのラムザの曲が極上の質感で良い。1曲だけ歌ものがあり、そのナガタナオキという人が気になった。気の利いたビートを聴かしているfrogはJET CITY PEOPLEのマイクリレーにも参加していたDACRO BASSのFrogと同一人物なのかな?いずれにしても良いコンピ。


【△】寛治『心喰PACK.ep vol.2】
2012.01.11 / 全6曲22分 / 256,320kbps / YouTube
ネットでの無料配信を主体にした音楽レーベルStudio Cocoon所属のラッパー寛治の2作目。第三者を主人公にした不幸話をおどろおどろしくラップすることにどれほどの楽しみがあるのか分からないのだけど、変わっているという点では際立っている。音的には8th Wonder的でもある。LOW HIGH WHO? PRODUCTIONのCOASARUやnekozebeats等がトラック提供している。


【○】Headzy『Beats 2012』
2012.01.12 / 全7曲22分 / 320kbps / bandcamp
フリーダウンロードでビートを時折発表している京都のトラックメイカーのビート集。素材の良さがそのまま出ているために十分楽しめはするけど、どれも質感が一緒でたった22分しかないのに飽きるという不思議さがある。それぞれ単曲で聴いたらもう少し印象が異なったかも。



【○】Dodge Noledge『Dodger's Labo vol.1』
2012.01.14 / 全5曲20分 / 192kbps / YouTube
Gucci Mane、Talib Kweli、Redman & Method ManときてMariah Carey、さらにはSEEDAの「花と雨」まで、自己紹介的なパッケージングにするべく幅広い選曲がなされている。温かみのある太いビートを基調としているので、雑多な印象に陥らず、統一感があり、原曲のラップの良さも手伝い、楽しんで聴ける。これは良作。続きも聴きたい。


【○】Dodge Noledge『Super 8bit Bros.』
2012.01.14 / 全5曲19分 / 192kbps / YouTube
NasやJay-Z、あるいはGame、Cassidyをジャケットにあるようにゲーム音(8bit)を加えて料理してしまった逸品。びょ〜んというマリオのジャンプ音が飛び出せばどうしても喜劇となりそうだけど、そこはぶっといベース音を入れるなどして決して笑いに走っているわけではなく、曲としてかっこよく仕上げている。Ne-Yoでのコインを取り込む効果音は彼が「So Sick」でがっぽり稼いだことを想起させる。


【○】VA『Premiata White』
2011.12.30 / 全5曲24分 / 320kbps / HP
ピコピコなゲーム音を取り入れているといえば、昨年末にネットレーベルLowfer Recordsが"お歳暮EP"として発表したこのミックステープの2曲目に収録されているYasterizeの「Last Boss From 199X」は6分台と長いのだけど、ある世代には強烈に郷愁をかき立てる音で喉の奥がつーんと来さえする。一大叙事詩の様相を帯びる展開も良い。



【○】SNEEEZE『Is Ignored』
2012.01.15 / 全6曲17分 / 320kbps / bandcamp
興奮させられる曲はM1「Killing」ぐらいしかない(M5とM6がかろうじて及第点)が、3月11日の初アルバムに向けて年末にミックステープを出し、さらにこのタイミングでも新作を発表して畳み掛けてくる姿勢にワクワクさせられる。アメリカでは通常のリリースパターンになっているわけだけど、日本ではまだ数例しかないやり方なわけでうまくいって欲しいところではある。


【△】Sleptt『SlepttStrumentals vol.3 slept & screwed』
2012.01.18 / 全7曲28分 / 320kbps / bandcamp
昨年6月に無料配信されたビート集『SlepttStrumentals vol.3』(DL先)のスクリューリミックス版。この手の変化のさせ方に面白味を見出せないが、ラップ曲とは違いインストにこの処理がなされると、元々もったりした曲なのねと受け取ることができる。トラックメイカーのビート集も数多く発表されているが、スクリュー版も出している人はまだまだ少ない。これから増えていくのかな。それと今回初めて気づいたのだけど、オリジナル版のマスタリング担当にGivenと名がある。LowPassの彼だろうか。Sleptt自体その素性は知らないわけだけだが、その辺りとも繋がりがあるのは興味深い。



【△】Studio Cocoon『SNUFF』
2012.01.19 / 全15曲46分 / 128,320kbps / YouTube
上で挙げた寛治も所属しているフリーダウンロードでの作品発表を積極的に続けるネットレーベル、スタジオ・コクーンがこれまでに出した楽曲のリミックス集。このレーベルから出されるラップ曲は、部屋の隅で壁に向かってブツブツいってろ的な壁ラップが多いが、そうはいっても好みでもある抒情的なポエトリー系の曲も時折あり、侮れずチェックしてしまう。本作は性急なビートを組み合わせたものが多く、ラップを引き立たせるものではない。


【○】TOP BILLIN'『What More Can I Say?』
2012.01.21 / 全18曲58分 / 256kbps(m4a) / blog
ヒップホップグループTheGrasshopper SetのDJイーグル藤田が主宰するイベント名を冠したミックステープ。ATENE STUDIOのラッパー・雄大やHI-SOも参加し、既存曲のリミックスとHIRORONやイーグル藤田のオリジナルトラックを混ぜ合わせ、飽きの来ない作品に仕上がっている。ラップをしていた頃のCOMA-CHIを彷彿させる女性ラッパーYURIKAの存在感も大きい。



【△】金持ち兄弟『金持ち兄弟』
2012.01.22 / 全12曲28分 / wav / SoundCloud, 一括DL(直リン)
東京・国立を拠点に活躍するというdo or dieとGOD-machineによるヒップホップユニット。Thug Family・TOPがどれほど偉大だったかがよく分かるギャグハーコーラップ路線。こうしたラップをも受け付ける懐の深さが欲しいところ。スタイルは多様性に満ちていてこそ面白いのだから。


【○】maemon『12 MONKEYS』
2012.01.21 / 全11曲25分 / 256kbps(m4a) / blog
ニューヨーク在住の日本人トラックメイカーのビート集。作品1枚を楽しめるものにしようとバラエティに富んだ曲調を揃えていて好感は持てるのだけど、表題曲やM9「Stop」といったメロディの良さで聴かせるもの以外は印象に残りにくい。決して悪くないだけにもったいない。


【○】Contrastiv『The Wreckage Of Tapes』
2012.01.25 / 全7曲25分 / 320kbps / bandcamp
LightとSlepttによるヒップホップユニットContrastiv。またまたSleptt関連作品。ここでもLowPassのGivenが関わっていて、指摘されて初めて気づいたがロウパスのアルバムにふたりで参加している曲もあった。とても今っぽいラップでかっこ良いのに、トラックにもラップにもコレという強力な曲がなく、もったいないと思っているうちに終わってしまう。


【△】れと『FANCY for REAL』
2012.01.24 / 全7曲23分 / 160,192,256kbps / blog
れととX-hazeによる2MCのヒップホップデュオ10.010から、れとの初ミックステープ。発展途上のラップでこれから。ビート自体は軽快に鳴らされているのに、ラップが足止めしてしまうのがもったいない。


【○】SELLER『696の上で』
2012.01.25 / 全5曲14分 / 320kbps / Twitter
696Beatsが昨年無料配信したビート集(bandcamp)のトラックを使った5曲入り。MIDICRONICAの894、あるいはRHYMESTER『リスペクト』冒頭のエフェクトをかけたあの声を彷彿させるややクセの強いラップは聴く人を選びそうだが、客演がバランスよく配置され、それほど気にならないよう配慮がある。昨年のフリーDLミックステープ(bandcamp)が好評だったLOW HIGH WHO? PRODUCTIONのMomoseが1曲で参加。


【△】KANI『捨てレゴ』
2011.09.02 / 全7曲13分 / 192kbps / ニコニコ動画
上記のセラーが696Beatsを全曲で使っていて喜んでいたら、こんなのもあるよとトゥイッターで教わった昨年配信済みのミックステープ。ニコニコ動画を拠点に活躍するラッパーにありがちな歯切れの良いラップ。クセがない分、696ビーツのセンスの良さが生きているともいえる。セラーも1曲で参加しているが、やはり変わった声の持ち主だ。


【○】弘明 & 創『ATAG BEACH』
2012.01.26 / 全11曲25分 / 160kbps / blog
博多天神のふたり。天神親不孝周辺といえば、FREEZの影響下にあるラップが特徴的だけど、このふたりは関東よりのスタイル。弘明はNORIKIYO好きが高じたフロウ、一方の創ははやりを押さえつつも自然な日本語のイントネーションを心掛けているラップで、ふたりのキャラ分けがすでにできている。せっかくお互いに引き立たせ合うスタイルなのに、ソロ曲を3曲ずつも盛り込んでいるのは残念。CRAMという人のオリジナルトラックと既存洋楽トラックとの違和感もなく、次も聴いてみたくなるふたり組だ。


【◎】KOJOE『The "J" Mixtape』
2012.01.27 / 全15曲58分 / VBR / Twitter
"KOJOE TUESDAYS"と題して昨年3月から6月までの毎火曜日に発表していたフリーDL曲から7曲、そのシリーズ全18曲は後に2枚のミックスCDに分けられ発売もされたのだけど、そこに収録された未発表曲から6曲。Raekwonと道(TAO)と共に発表したシングルの1曲「Samurai Yaro」も収められている。「1LT」だけ分からなかったけれど、彼はラップだけではなく歌わせても素晴らしく、フックはR&Bらしいコーラスワークまで聴ける。次の「Seppa」もすごくいいし、徐々に熱を帯びていく様がたまらなくかっこいい1曲目の「Jokyoku (Overture)」もまたミックスCD収録の未発表曲なわけで、あの2枚は買いなのかもしれない。


【△】CRUCIBLE & DODGE NOLEDGE『Kidz From The Block』
2012.01.28 / 全6曲18分 / 192kbps / YouTube
"関西を拠点に活動するバイリンガルラッパーCRUCIBLEとトラックメイカーDODGE NOLEDGE"によるユニット。ドッジ・ナレッジは今月すでに2本の意欲的なリミックス集を発表しているトラックメイカーで、ここでは派手さはないものの、ラップが伝えきれていない感情を音で補佐している。クルーシブルはANARCHYの影響下にあるストロングスタイルのラッパー。ご丁寧にも京都・伏見の出身のようだ。端々にリリックの引用もある。背負っているドラマも色々あるようだし、アナーキーや神戸のYONGIが好きな人にははまるかもしれない。


【○】SUNNOVA『D.e.a.l. E.P.』
2012.01.30 / 全10曲18分 / 320kbps / bandcamp
LOW HIGH WHO? PRODUCTION所属のトラックメイカーのビート集。一定の美学の下に細切れにされたり、押しつぶされ、ひねられた音が毅然と並ぶ。1曲1曲が短いこともあり、だれることなく聴ける。最後にはなぜかD'angeloの声ネタ曲。復活記念?


【○】Enpizlab『Roughsketches』
2012.01.31 / 全12曲18分 / 192kbps / bandcamp
吉沼/yoshimuma、絶招、Dovestという積極的にフリーDL配信している若きラッパー兼トラックメイカーたちが1日で作り上げた作品集。絶招の解説記事にもあるように、互いに才能を刺激し合いながら取り組んだためか普段彼らがアップしている作品よりもずっと聴きごたえのあるものになっている。特にインストが魅力的でもう少し長くてもいいのにと思う曲がいくつもある。1枚の作品としてまとまりが感じられるのも好印象。とても良い。


【○】soakubeats『I have to work tomorow』
2012.01.31 / 全9曲29分 / 320kbps / bandcamp
18本目の無料配信ミックステープ。一般流通作品の制作期間に入るべく、フリーDLはしばし休止するようで、夏頃から続いていた猛烈な作品攻勢は今回で一旦打ち止め。正直書けば全作品を聴いているわけではなく、初期の数作と元旦の1枚だけなのだけど、以前は勢い重視のビートを鳴らしていた印象だったが、ここでの音は格調高いと表現してもいいような音の連なりであり、タイトルや曲名からはうかがい知れない端正なメロディがある。


【○】SAI BEATZ『This Is SAI BEATZ』
2011.09.30 / 全6曲17分 / 256kbps(m4a) / blog
昨年9月のビート集。今頃になって知るのもなんだが、やはりこの人のビートはかっこいい。JPRAP.COM企画「The Se7en Deadly Sins」の全曲リミックスを出した辺りから気になりだしたトラックメイカーで、その後もネット配信で目立った動きを見せるラッパーら(KENTZやMEKA、RANL等)に曲提供をしたり、リミックスを随時発表している。基本にある太いビートはまさにヒップホップのそれであり、どんな上音が来ようがかっこいい!となる。ブログ記事の説明にある通りなのだろうが、もっと変態になっても面白かったかも。
2012.01.31 Tuesday 23:59 | 音楽 | comments(2) | trackbacks(0)
書籍(1月分)
樋口有介『11月そして12月』

読了 2012.01.03
☆☆/5点中

1995年発表。制覇したつもりになっていた樋口作品だけど、やはりいくつか読み落としがあって、百円棚から回収してきた。就職せずにカメラ片手に町をぶらぶら歩く主人公"僕"が風変わりな女の子と出会い、互いに少しずつ人生が変わっていく青春小説。題名にもあるようにわずかな期間を描いてこともあり、殺人事件を今か今かと待ち受けるも最後まで起こらず仕舞い。いつものハードボイルド口調のセリフが良くて、ついつい読んでしまう。


伊園旬『東京湾岸奪還プロジェクト ブレイクスルー・トライアル2』

読了 2012.01.07
☆☆/5点中

第5回「このミステリーがすごい!」大賞で大賞を受賞した『ブレイクスルー・トライアル』の第2弾。どんな警備システムでも突破する腕を持ってセキュリティのプロとして活躍する門脇と丹羽のコンビが、今回は人質に取られた丹羽のひとり娘を取り戻すべく、いわれたミッションをこなす。何も考えずに読みふけることのできるエンタメ小説。ただ、会話文に難があって、誰が誰に語りかけているのか分からなくなる。地の文ではキャラが立っているだけにもったいない。


石持浅海『ガーディアン』

読了 2012.01.12
☆/5点中

失敗作。解説によると、現実世界に"一点の飛躍"を持ち込んだ推理小説だという。その一点の飛躍が主人公を守る守護霊"ガーディアン"の存在で、さしづめ漫画のJOJOシリーズでいうところの"スタンド"になるわけだけど、その設定うんぬんは面白ければ一向に構わず、ミステリなのに卑怯だとかなんだとかはならないが、登場人物たちの行動を逐一書き込まれるのが煩わしい。それが物語の中でとても大事なことならば当然気にならないわけだけど、行間で読ませれば良いことまで仔細に描写しまるで実験小説の様相すら帯びる。


道尾秀介『骸の爪』

読了 2012.01.18
☆☆/5点中

ホラー作家の道尾をワトスンに、霊現象探究家の真備をホームズに据えたシリーズ物なのかな。福島の事件が・・・と何度が出てきたので、多分第2弾なのだと思う。深夜に千手観音を見ると笑っていたり、血を流す仏像が出てきたりなどややゴチックホラーな装いをしつつ、それまで綴られた全てのセリフや動作が謎解きに関連付けられるという映画『ユージュアル・サスペクツ』的な最後のオチは、その強引さに引っかかりは覚えるものの、見事というべきか。


熊谷達也『氷結の森』

読了 2012.01.22
☆☆☆/5点中

『相剋の森』に始まり、2作目の『邂逅の森』では山本周五郎賞と直木賞をダブル受賞したマタギ3部作の最後。日露戦争に従軍後、故郷を捨て北に流れていった秋田県阿仁出身のマタギの話。舞台はシベリア出兵前後の樺太、ロシアとなる。序盤でのしっかり資料を読み込んで当時の樺太の様子を甦らせた筆力は圧巻だが、中盤以降どうもメロドラマ化していく。やや残念なオチではあったけれど、気合の入った一冊ではある。ニヴフ(ニヴヒ)やウィルタといった民族がかつては樺太で暮らし、アイヌ同様に日本人に(ロシア人にも)虐げられた歴史があることを初めて知った。
2012.01.31 Tuesday 23:58 | | comments(0) | trackbacks(0)
デビル / Devil

67点/100点満点中

インド生まれのM・ナイト・シャマラン監督が長年溜めてきたアイデアを気鋭の若手を使い映画化していくというプロジェクト"ザ・ナイト・クロニクル"の第1弾。監督はスペイン製ホラー『REC/レック』をハリウッドリメイクしたジョン・エリック・ドゥードル。脚本担当は『30デイズ・ナイト』や『ハード キャンディ』を手掛けてきたブライアン・ネルソン。サスペンスホラー。製作費1000万ドル。

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高層オフィスビルから男が墜落死したちょうどその時、互いに見ず知らずの5人の男女が乗り合わせるエレベーターが突然の故障で停止する。閉じ込められた5人が救助を待つ中、一時的に照明が消え、何も見えなくなった瞬間に若い女が背中を切られ負傷する。4人の内の誰かが犯人なのは明らかだ。その様子をビルの警備室で監視カメラ越しに目撃していた警備員は、整備担当を修理に向かわせると共に警察に応援を要請するが・・・。
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密室、それもエレベーターという極めて狭い場所に閉じ込められた5人が次々に殺されていく。警察は当然密室殺人だと判断するが、一方で中南米出身の警備員が幼い頃に信仰心の篤い母が話していた"悪魔"の仕業ではないかといい出す。現実的な犯行なのか。それとも超常現象によるお化け話なのか。題名からも"悪魔"だろうなとは思うのだけど、ギリギリのところまで、もしかしたらと思わせる演出がなされ、しかも80分と短いこともあり、意外に見せる作品にはなっている。

見どころは物語作りよりも特に前半で素晴らしいカメラワークの冴えを見せつけた日系2世のタク・フジモトの腕だ。シャマラン監督とは『シックス・センス』、『サイン』、『ハプニング』と組んできた老カメラマンで、『羊たちの沈黙』を撮った人でもある。エレベーターに乗り込むまでの長回しには躍動感がある。オープニングの逆さも良い。
2012.01.31 Tuesday 23:57 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
路上のソリスト / The Soloist

68点/100点満点中

イギリスの歴史物『プライドと偏見』や『つぐない』、最近ではアクション映画『ハンナ』も手掛けた英国人監督ジョー・ライトによる実話を基にした2009年の人間ドラマ。主演はジェイミー・フォックスとロバート・ダウニー・Jr。製作費6000万ドル。

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LAタイムズの人気コラムを連載する記者のスティーヴ・ロペスは、2弦しかないバイオリンで美しい音色を奏でるホームレスのナサニエル・エアーズと偶然出会う。男が名門ジュリアード音楽院に通っていたと知り、興味を抱き取材を開始する。路上の天才音楽家ナサニエルを紹介したコラムは大きな反響を呼び、連載を続けることにしたロペスはさらなる取材を重ねる中で、次第にナサニエルをなんとかして救いたいと願うようになるのだが・・・。
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神から与えられた才能がありながらもプレッシャーから精神に変調を来たし、神が彼のために築いてくれた光の階段を登ることなく降りてしまう。それから30年、今では故郷のオハイオ州クリーブランドからはるか離れたロサンゼルスで路上生活を送る。その男がひとりのジャーナリストと出会うことで、神のおわします天上の音の園に再び足を踏み入れる話。

ロサンゼルスが抱える9万人のホームレス問題なども多少は描きつつ、基本的にはロバート・ダウニー・Jr.演じる記者のスティーヴ・ロペスとジェイミー・フォックスが熱演する路上のソリスト・ナサニエルの交流の話だ。自身のコラム連載がきっかけでナサニエルが屋根のある部屋で暮らすことができるようになり、市からもいくばくかのホームレス問題対策費が捻出されるなど、ロペスはコラム執筆の意義を見出すものの、一方でナサニエル自身が本当に望むことを成しているのか悩み続ける。ナサニエルもまた突然の環境の変化と、それまで気楽に対峙していた音楽に対し、より多くのものを求められ、困惑し、若い頃に聞いた幻聴が再び顔を出し、狼狽していく。

ジェイミー・フォックスはレイ・チャールズの伝記映画『Ray/レイ』でオスカーを獲得しただけあって、さすがのなりきり演技を披露しているし、ダウニー・Jr.もまた『アイアンマン』のようなアメコミだけではないのだと証明できる機会を得たとばかりにずいぶんと張り切った演技を見せている。その甲斐あって見応えのある作品にはなってはいるのだけど、終盤でのふたりの和解がやや唐突過ぎる嫌いがあり、もう少しけれん味たっぷりに描いても良いように思う。奥ゆかしさこそがイギリス人らしいのかもしれないが。

オーケストラの素晴らしいアンサンブルを表現するのに、iTunesでいうところの"ビジュアライザ"機能のような演出がなされ、一瞬戸惑いを覚えるが、メジャー作でこの演出をするのもなかなかの勇気だ。



<動画>
・CBS「60 Minutes」YouTube / 12分
 ナサニエルとロペスへのインタビューや路上パフォーマンスの様子が見られる。
・ピアノ伴奏でのパフォーマンス YouTube / 3分
 技術的なことがどうのというよりも、演奏に、その外見も含めて、強く訴えかけてくるものがある。
 チェロの音色は深すぎず高すぎず、心地良い音を出す。弦楽器の中で一番好きだ。
2012.01.30 Monday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
帰らない日々 / Reservation Road

64点/100点満点中

『ホテル・ルワンダ』のテリー・ジョージ監督による2007年のサスペンスドラマ。主演はホアキン・フェニックスとマーク・ラファロ。共演にはジェニファー・コネリー、エル・ファニング。

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コネティカット州の小さな田舎町。大学教授のイーサンは、妻グレースとふたりの子ども、兄ジョシュと妹エマの4人家族で暮らす。ある夜、イーサンの目の前で息子ジョシュがひき逃げされ失う。逃走した犯人の弁護士ドワイトは、離婚した妻ルースとの息子ルーカスを門限までに送り届けようと道を急ぎ、スピードを出し過ぎていたのだ。彼は罪の意識に苛まれながらも自首できずにいる。そこに進展のない警察の捜査に業を煮やしたイーサンが独自に事故の調査を行おうとドワイトが所属する弁護士事務所へとやって来て、皮肉なことに彼が事件の担当者になってしまう。
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最愛の我が子を失った悲しみ、逃げた犯人への憎しみ、遅々として進まない捜査から警察へのいらだち。イーサン演じるホアキン・フェニックスは怒りを外へ向け、ジェニファー・コネリーによる妻グレースは自分の些細なひと言がなければ息子を失わなかったのではないかと悔やみ悲しみに沈む。夫婦仲は互いに分かっていながらも最悪に向かう。一方の犯人役であるマーク・ラファロ扮する弁護士ドワイトもまた息子と同学年の少年をひき殺してしまったことを悔やみ、自首するタイミングを計っている。

はっきり悪人と峻別できる人間は出てこない。最愛の家族を突然失う可能性は誰にもあり、その悲しみへの対処の仕方は人それぞれだ。意図しないのに誰かを殺めてしまうことも決してないとはいえない。どんなに注意深く生きていても、ひとり深い山の中で暮らしているわけではないのだ。自転車でさえ、運が悪ければ死亡事故を引き起こせる。遅刻しそうで急いでいる時にあの曲がり角から突然飛び出してきた老婆と接触し、打ち所が悪かったなんてこともある。だからといって加害者の責がなくなるという話ではもちろんなくて、誰にでも可能性はあるということだ。

まあでも、誰にでも起こりうる物語を映画にしたところで面白いかといえばさにあらずではある。本作がまさにそうだ。

『父の祈り』や、初監督作の前作『ホテル・ルワンダ』でもアカデミー賞脚本賞候補になっているだけあり、ドワイトとイーサンのふたりを弁護士と依頼者という関係で絡ませ、さらにイーサンが息子を失い、ドワイトには一緒に暮らせないものの共に大好きなメジャーリーグチーム・レッドソックスを応援できるというかけがえのない息子がいるとの構図を描くことで、よりドラマ性を高めている。学校でケンカをし相手に怪我をさせたと息子ルーカスが話すのを聞き、ドワイトがカッとなって怒り、正義感を発揮させる演出など分かりやすさがあり、丁寧にふたりの心情を映し出してはいる。

エル・ファニングは実姉ダコタ・ファニング同様に達者な演技をジョシュの妹エマ役で披露している。ジョシュを失い、夫婦仲も険悪になり、家族の繋がりが途切れそうになるのを必死に繋ぎとめようとする健気さが良かった。



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<テリー・ジョーンズ作品>
1952年、北アイルランド・ベルファストで生まれ。

1993年 父の祈りを 【脚本・製作総指揮】
1997年 ボクサー 【脚本】
2002年 ジャスティス 【脚本】
2004年 ホテル・ルワンダ 【監督・脚本・製作】
2007年 帰らない日々 【監督・脚本】
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2012.01.28 Saturday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
ペネロピ / Penelope

87点/100点満点中

2006年のクリスティーナ・リッチ主演によるファンタジーラブストーリー。監督は『ロスト・ストーリー 〜現代の奇妙な物語〜』のマーク・パランスキー。長編デビュー作となる。製作費1500万ドル。

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名家ウィルハーン家のひとり娘ペネロピ。ウィルハーン家にいい伝えられてきた魔法使いの恐ろしい呪いにより、彼女は豚の鼻と耳をもって生まれた。母ジェシカは生後すぐにペネロピが死んだことにし、以後屋敷から一歩も外へ出ることなく彼女は大人になる。18歳になった彼女は、真実の愛が呪いを解くとお見合いをさせられる。次々と現われる財産目当ての求婚者たちはペネロピの顔を見た途端、恐怖に駆られて逃げ出した。それから7年、ウィルハーン家が必死に守ってきた秘密がついに破られ、記者レモンはスクープ写真を狙い、名家の落ちぶれた青年マックスをペネロピのもとに送り込むが・・・。
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とても素敵なおとぎ話だ。現代の架空の都市を舞台に、魔法使いの呪いにより鼻が豚の鼻の形をして生まれてきた女性ペネロピの成長譚となる。作り込まれたファンタジックな世界観(特に内装)は『アメリ』にも近いが、本作はやや教育的であり、そこが鼻につくといえば確かに否定しようがないものの、久し振りに見るクリスティーナ・リッチはやはり麗しく(どうして最近映画に出演していないのだろう?)、豚鼻といえども彼女ならとてもキュートだ。

呪いを解くきっかけが男性から与えられるだけの"真実の愛"ではないのはとても現代的であるが、よくある設定といえばこれまた否定しようがない。ただ、不満はそこにあるのではなく、豚鼻の呪いが解けるシーンがもう少し劇的なものであって欲しかった。最も大きな見せ場だと思うのだけど、意外にあっさりとかわいいらしい鼻に戻ってしまい、拍子抜けする。

それでも明確なテーマの下、監督の描きたい世界観や見せたいショットがよく決まり、豚鼻という"ありえない事"を違和感なく映し出し、きれいにまとまった作品になっている。これなら劇場で見ても良かった。

新しい世界に自ら足を踏みいれることを決意したペネロピが出会う友人アニーを2005年の『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』でオスカーに輝いたリース・ウィザースプーンが演じていて、彼女は製作陣にも名前を連ねている。あと、『宇宙人ポール』、『パイレーツ・ロック』に続いてここでもニック・フロストを見ることになるとは思わなかった(マックスとポーカーをしている髭の男)。とはいえ、最後にクレジットを見るまで彼とは気づかなかったのだけど。
2012.01.26 Thursday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
パイレーツ・ロック / The Boat That Rocked

74点/100点満点中

大ヒット作『ブリジット・ジョーンズの日記』の脚本家で、『ラブ・アクチュアリー』では監督デビューも果たしたリチャード・カーティスの監督2作目(脚本も担当)。2009年の音楽青春映画。主演はフィリップ・シーモア・ホフマン。共演にビル・ナイ、ニック・フロスト、ケネス・ブラナー、エマ・トンプソン。製作費3000万ユーロ。

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ブリティッシュ・ロックが世界を席巻していた1966年。民放ラジオ局の存在しなかったイギリスでは、国営のBBCラジオはポピュラー音楽を1日45分しか流さなかった。若者の不満が渦巻く中、法律が及ばない領海外の北海に、24時間ロックを流し続ける海賊ラジオ局"レディオロック"が誕生。そんなレディオロック船に高校を退学になったカールが乗ることに。彼を更正させようと、母親シャーロットが旧友でもある経営者クエンティンに預けたのだ。一番人気のDJザ・カウントを始め、個性溢れる面々に囲まれ、自由な空気に戸惑いながらも貴重な経験を積んでいく。一方、レディオロックの不道徳な内容に不快感を露わにする英国政府のドルマンディ大臣は、何とか放送を中止させようと様々な方策に打って出るが・・・。
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公開当時に聞いていた60年代ロック好きは見た方がいいとの評判通りで、『スクール・オブ・ロック』などよりははるかに面白く、あの頃の音や風俗が好きな人間にはたまらない作品だ。当時の興奮やロック本来の反権力的な魅力を横溢させながら、かたやミュージカル映画のような演出もあり、正直に書けば、だらだらと続く狂騒という中だるみにはその時代に生きられて良かったね楽しかったろうよという僻みから冷めた見方をしてしまう部分もあるが、でも終わり良ければ全てよしというのも真理ではあり、フィリップ・シーモア・ホフマン演じるザ・カウントの演説からの一連のラストシーンに文句のつけようはずがない。

ホフマンは『カポーティ』でようやく注目するようになった役者だけど、本作を見て改めてすごくいい役者だなと感じた。もともと個性の強い顔立ちでありながら、作品ごとに異なった表情を作り出している。トム・クルーズの大作にも顔を出せば、日本公開もされないような低予算映画にも主演するというフットワークの軽さも素晴らしい。

ジミ・ヘンドリックスの傑作中の傑作、自分のオールタイムベストに必ず入れる『エレクトリック・レディランド』の英国使用のあのジャケを再現しているシーンは内容が内容だけに一瞬だったけど笑えた。レイティングが上がるだろうに、やりたかったんだね。1968年のアルバムで、ヘンドリックス本人は納得しないデザインだったらしいけど。

劇中で流れた全60曲を列挙しているサイト。場面も明記され、視聴もできる→HP
2012.01.25 Wednesday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
セブンデイズ / 세븐 데이즈

67点/100点満点中

2007年の韓国サスペンス。主演女優は米人気ドラマシリーズ「LOST」にサン役で出演していたキム・ユンジン。

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8歳の愛娘ウニョンのシングルマザー、ユ・ジヨンは驚異的な勝率を誇る女性弁護士として仕事に追われる日々を送る。ある日、大切な娘が誘拐される。犯人は身代金ではなく翌週に二審が開かれる殺人事件の裁判で、チョン・チョルチン被告の無罪を勝ち取れと要求。様々な証拠から、一審の有罪判決を覆すのは難しい状況だが、ジヨンに選択の余地はなく、幼馴染のキム刑事の力を借りながら大急ぎで事件の調査を開始する。
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誘拐犯は一体誰なのか、決定的な証拠が挙がらないものの明らかに犯人とおぼしきチョルチン被告に無罪を求める誘拐犯の意図は何なのか。そんな謎解きをメインに見ていくならば、どんでん返しが用意されていることもあり、本作を楽しめるのかもしれない。一方で、ミステリー要素に比重を置くよりも、人間ドラマにこそ力点を置いたエンターテインメントを求める向きには、作品に仕掛けられたトリックが複雑かつ強引に映り鼻白むことになる。

先日鑑賞した『生き残るための3つの取引』もそうだったように、エピソードを盛り込みすぎだ。小説ほどの尺が使えるならばまだしも、120分強の映画にするにはきつい。もちろん新事実が見つかり、既出の事実と関連付ける時には以前のシーンを再び流すという親切心はあるのだけど、それでも私には辛かった。

もうひとつの不満は性急なカット割りを多用し、今では安手のテレビドラマのようにしか見えないこと。オープニングロールからして、10数年前のデヴィッド・フィンチャー作品を彷彿させ、いささか不安を覚えたが、劇中もそんな当時の最先端映像がちりばめられている。
2012.01.24 Tuesday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
宇宙人ポール / Paul

79点/100点満点中

スーパーバッド 童貞ウォーズ』『アドベンチャーランドへようこそ』のグレッグ・モットーラ監督最新作。SFコメディ。主演は『ショーン・オブ・ザ・デッド』や『ホット・ファズ』でお馴染みのサイモン・ペグとニック・フロストのコンビ。ちなみに上記2作の脚本は監督のエドガー・ライトとペグが担当し、フロストは出演のみだったが、本作ではペグとフロストが担っている。製作費4000万ドル。2011年公開作品。

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アメリカの漫画業界最大のイベント"コミコン"に参加するため、イギリスからはるばるやって来たSFオタクのグレアムとクライブ。彼らのもうひとつの目的は、アメリカ西部に点在する有名なUFO関連の名所を巡ることだった。キャンピングカーをレンタルし早速ドライブに繰り出すが、車の事故現場に遭遇。様子を見に近づいたふたりは本物の宇宙人ポールと出会う。彼は60年前に不時着して以来、政府機関に囚われの身となっていたのだが、ちょうど脱走を図ったところで、ふたりは戸惑いつつも、彼を故郷の星に帰そうと一肌脱ぐことにするのだが・・・。
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2011年のベスト映画ランキングに選出されていることも多く、評価の高さがうかがえるが、なるほどそれも納得の出来だ。しかしまあ、『ホット・ファズ』ほどではないし、SFにはそれほど食指が動かず、どちらかといえばホラー好きなので『ショーン・オブ・ザ・デッド』に軍配を挙げたくなるが、それでも十分面白いコメディではある。

ケビン・スミスは「スター・ウォーズ」シリーズを信仰するろくでなしのふたり組を主人公に愛情あふれる作品を撮っていたが、本作は英国のふたり組がSFコミックやUFOの聖地ともいえるアメリカにやってきて、珍道中を繰り広げるというもの。昔から人類に親しまれているグレイ・タイプの宇宙人を助けることで、笑いあり、ドキドキあり、涙ありのエンターテイメントに仕上がり、SFの知識があればなお良いのだろうけれど、なくても存分に腹を抱え泣いてハラハラできる映画だ。

本作の何がいいってやはり宇宙人ポールの性格だろう。小さい頃からE.Tの造型が苦手で、大きくなるにつれて今度は作品のテーマに辟易するようになったが、本作のポールはE.Tを下敷き(当然そうであるはずという秘話も映画内で本人直々によって語られる!)にしていながらも、人間以上に人の心の機微に通じていて、口の悪さも手伝い、CGキャラクターでありながらも違和感を覚えない。記事を書くにあたり知ったのだけど、ポールの声はセス・ローゲン。それは面白いはずだ!

先にも書いたように、SFに造型が深いわけではないので、引用されているセリフのひとつひとつに笑えるわけではない。だけど、作り手のこのジャンルへの思いの深さは確実に伝わり、ほほえましくもなる。スピルバーグ御大まで登場させて、E.Tの製作秘話を開陳させるシーンなどは本当に嬉しかったのだろうなと思う。それと、宇宙人の天敵といえば、この人しかいないといった最適の人選がなされ、最後の大ボスとしてその姿を現すクライマックスもいい。聖書を文字通りに信じるキリスト教福音派をコケにするシーンが多々あり、これほど面白い作品なのに全米映画ランキングでは初登場5位だったのはそういうことなのだろうか。
2012.01.23 Monday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
ヒミズ

91点/100点満点中

古谷実の同名漫画を園子温が監督脚本で映像化。主演の染谷将太と二階堂ふみは第68回ヴェネツィア国際映画祭の新人賞に当たるマルチェロ・マストロヤンニ賞をダブル受賞。2011年公開作品。

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15歳の中学生・住田の夢は、誰にも迷惑をかけずに平凡な大人として生きること。クラスメイトの茶沢は彼に好意を抱き、住田の実家の貸しボート屋を手伝うなど積極的だった。疎ましく思いながらも、少しずつ心を解きほぐしていく住田だが、借金を作り蒸発していた父親が戻ってきたことで、その運命は大きく狂い始める。
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古谷実の原作コミックはどこまでも底に潜っていく物語を描いていた。妥協がなく、冷徹に、現実的というのとも違うが、安直な救いを排した作品だったと記憶している。覚えているといっても、例によって話の細部はもちろん、話の結末をも思い出せないという体たらくなわけだが。ただ、90年代の傑作ギャグ漫画といってもいい『行け!稲中卓球部』を生み出した古谷が、同じ路線としてはイマイチな『僕といっしょ』や『グリーンヒル』でファンを大きく落胆させた直後に、突然人間の業の深みを見せる物語を紡ぎ、ストーリー漫画家として大成してしまったことに驚かされたのはよく覚えている。まあ、その後に続く作品が『ヒミズ』の類似品に留まり、なかなか乗り越えられないという悲劇もあるわけだけど、別の見方をすればそれほど『ヒミズ』が偉大だともいえる。

その漫画を『愛のむきだし』や『冷たい熱帯魚』、『恋の罪』と衝撃作を撮り続けてきた園子温が実写化するというのだからかなりの期待を抱いて見に行った。

結果はといえば、これがもうすごい大きな物語に作り変えてしまっていて、2011年、2012年の今だからこそ見るべき作品になっている。冒頭スクリーンに広がる荒涼とした風景は津波が猛威を振るった被災地だ。吹きすさぶ風の音に混じり、ご丁寧にもガイガーカウンターのあのノイズ音までかぶせられている。園は『ヒミズ』に3.11後の世界を組み込んでしまったのだ。最初は信じられなかった。どれだけ製作費をかければできるのか分からないけれど、セットなのかとも思った。まさか被災地で撮影するとは思わないからだ。安直には使いたくない表現ではあるが、"不謹慎"という言葉さえ脳裏に浮かんだ。しかし、見終えた後に抱く思いは園監督の発するメッセージの強さだ。被災地でロケをする必然性があり、"頑張れ住田!"なのだ。

愛のむきだし』から見始めた、まだ歴の浅い園ファンなので、それ以前の作品がどうだったのかは知らないが、人間のエゴを過剰にさらけ出し、エロと圧倒的な暴力でもってエンターテインメントに昇華するその暴走気味な作風に魅せられてきた。明確な社会的テーマとは無縁であり、どちらかといえば個人的な関心事をエンタメの着ぐるみを着せ作り上げてしまう印象があった。その監督が今作では住田と3.11後の日本をくどいほどに重ね合わせる。一度ケチのついた人生でも頑張れば何とかなるんだよ、とヒロインの茶沢は住田に叱咤激励を送る。青春物語としても十分面白いが、この時代に生きる日本人には住田が悩みもがき歩き回る様は被災地の姿以外に考えられない。

ウィキペディアによれば、クランクイン直前に震災があり、急遽脚本を書き直し、物語に織り込んだのだという。だからなのか、住田家だけが家庭に問題があるのではなく、茶沢の両親もかなり病んでいる節があるが、最後まで茶沢家の方は回収されない。その意味では困窮する被災地、ならびに不安の中で暮らし続ける日本全体へのメッセージに重心を置きすぎる嫌いはなくもない。しかし、大災害と地続きのこの時代には些細な瑕疵だと思う。本作は住田の物語なのだ。中学生の住田が陥る泥沼から脱出するために、彼は文字通り泥まみれになりながらも何度も何度も立ち上がる。そうしたエピソードをこれでもかと描いた上で発せられるメッセージには、表層的な頑張れソングなどよりも心の奥深くに響く。

内容を覚えていないのにファンと自認するのはおこがましい気もするが、原作のファンとしては住田のボート屋がイメージ通りに再現されているのは嬉しい。オリジナルがある作品にはとても大事な配慮だと思う。登場人物たちは年齢設定が異なるそうだが、ほぼ記憶にないので違和感はないものの、茶沢だけはあんなおかしな性格だったかなと思いながら見ていた。

また、園ファミリーと呼んでも良さそうないつもの面々が出演しているのも楽しい。でんでんは相変わらず怖いし、『愛のむきだし』で主演を務めたAAAの西島隆弘なども思わぬところで顔を出して、ちょっと笑ってしまう。人気急上昇中の吉高由里子も出演しているが、後でクレジットを見てあの役の子かと納得したほど顔が違っていた。久し振りにその演技を見た窪塚洋介はやはり存在感のある役者だ。顏もいいし、そこにいるだけで華がある。園作品との相性も良さそうだし、主演として活躍するところを見てみたい。

ヴェネツィアで名誉に輝いた染谷将太と二階堂ふみのふたりは全力で挑んでいる。染谷は二階堂を本気で殴ったというエピソードをテレビでしていたのを見たが、後半に向けて狂気の度をますます強めていく住田を不気味さと切なさを合わせ持たせ、巧みに演じている。一方、時に舞台劇らしさを見せる園作品の要素を強く打ち出す格好になった二階堂は、自然さが信条となる映画の中にその演劇的な演技をすんなりと溶け込ませていて、本当に見事だと思う。雑誌モデル上がりの17歳で、ロックバンドの水中、それは苦しいが好きというウィキ情報を読むだに変わった子なのかなとも思うが、殴られても突き落とされても前を見つめることを止めない健気さは住田を救い、作品をも救う。だからこそ彼女にも茶沢家の家庭問題が片付く場面があっても・・・とやはりどこかで思ってしまう。

ともかく本作で園子温という監督がますます目が離せない監督になったことは確かだ。次はどう来るのか本当に楽しみ。多作であることも嬉しい。
2012.01.23 Monday 23:57 | 映画 | comments(2) | trackbacks(0)
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今日も愚痴り中