すばらしくてNICE CHOICE

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2021.02.10 Wednesday | - | - | -
無料配信ミックステープ4月号(2012)
2012年4月にアップされた国産ヒップホップ・フリーダウンロードミックステープ一覧。JPRAP.COMに、2Dcolvics、そして@KSK1988さんのおかげで今回も様々な作品と出会えることができました。毎回簡単に済ませていますが、本当にありがとうございます。それと、素晴らしい楽曲にも関わらず無料でダウンロードさせてくれるアーティストにも大きな感謝です。


てっとり早くお勧めを教えてくれという方には上の3枚!左は最近活躍が目覚ましい1988年生まれの東京在住のトラックメイカーXenRoNによるJay-Z『Black Album』のリミックスアルバム。かなり短時間で量産しているにもかかわらず、多彩な音を生み出している。すごい。真ん中は西東京を拠点にするKOOGIのトラックメイカー名義で仲間と共に出したミックステープ。前作同様に安定した品質で楽しめる。右端は今回初めて知った埼玉のラッパーで勢いのあるラップを堪能できる。ジャケットクリックでDLリンク先へ。


【△】VA『GOLDEN DEMO 2』
2012.04.01 / 全14曲44分 / 160kbps / HP
快進撃を続けるLOW HIGH WHO? PRODUCTIONに送られてきたデモ音源をまとめたもの。第1弾はずいぶんと楽しんで聴いた覚えがあるが、今回は小振りな才能が多い印象だ。LHW?に送られたものだけあって、レーベルカラーにあった楽曲が並ぶのだけど、その中で蝦夷の剛腕フロウは目立つ。他にも知っている名前がちらほら見られるが、各人とももっといい曲があったはずだ。ひとりポエトリーリーディングだった近藤孝次は雰囲気があって良い。でも何といってもY-クルーズ・エンヤが全てをかっさらっていく。LHW?に送るということは広く聴かれるということで折角のチャンスなんだからもっと気合の入った曲を送るべきだと思うよ。M13は突飛なテーマだけではなく、メロディもあるからこそ耳を惹く。


【◎】絶招×Kerberos『Remixed EP』
2012.04.01 / 全7曲17分 / 320kbps / bandcamp
配信終了。HAIIRO DE ROSSI主宰レーベルforteに所属するトラックメイカーKerberos(Pigeondustの別名義)が、昨年10月に出されていた絶招のフリーDLミックステープ『DEMO EP』の収録曲をジャジーな音でリミックスした作品。原曲を聴いた時はそれほど良いとは思わなかったラップがこれほどまでにかっこよく聴こえるようになるとはかなりの衝撃。リミックスとはこうあるべきという模範のような作品。


【○】ジャスタウェイ『Jazzical』
2012.04.04 / 全10曲37分 / 192kbps / YouTube
配信終了。夢僧とKing-jの2MCに、CLOWNの1DJによる名古屋のグループ。洒脱なジャズトラックの上に乗せられるラップの大半がそうであるように、ラップだけを取り出すとそれほど特徴はないが、ジャズを基調にしたヒップホップは最近では珍しく、音の雰囲気を壊さないラップといえないこともない。もちろんラップが下手なわけではない、ただ目立ったのが10曲の中で唯一挑発的な言葉を投げかけるM5というのは彼らにとってはきっと不本意だろうが、まあ耳を素通りするタイプの言葉の羅列になっているので仕方のない話。


【△】Shintalow『What You Here Is S』
2012.04.04 / 全7曲19分 / 160kbps / Twitter
NIHA-CやDJオカワリがいる名古屋の國枝URBAN CAMPに所属する3人組Ethnic Blendから、まずはラッパーのシンタロウがソロ作を発表。昨年末にフリーDLで出した「Gloria」(YouTube)の出来が本作への期待値を分不相応に上げてしまう。本隊と同じようにジャジーな音の上に真面目さが伝わるラップ。悪くはないし、伝えたいことも確かにあるのだろうが、言葉が上滑りし、結局何がいいたいの?となる。致命傷はファイル名にも曲名にも曲順が埋め込められていないため、正しい順番が分からない事。内容で勝負するアーティストにはとても大事なことだと思うのだけど。


【○】KILLASUGA『Sugar Free Vol.1』
2012.04.06 / 全7曲24分 / 192kbps / Twitter
"俺がキラシュガァ 今日もどでかく稼いでるぜぇ"で始まるラップは誇大妄想気味のラッパー特有のそれであるが、"現場"という価値観がいまだ重視されているヒップホップにおいて実戦で盛り上がるならそれは正義なのだろう。使われている洋物トラックともよく合っている。池袋のクラブbedを中心に活動しているF.E.S(FarEastSiders)というクルーに所属しているそうだ。


【○】Radoo『Sky Berry』
2012.04.08 / 全11曲39分 / 192kbps / Twitter
ラッパーのBBとDJのWarkarと共に大阪でGhost Dogというグループを組んでいるラドゥのソロ作。直前の1週間に毎日1曲ずつ配信することで期待を煽り、米国産のように裏ジャケまで用意し作り込んでいる。オリジナルトラックを揃えた意欲作だし悪くはないが、大阪らしいアクの強さが消臭されているためか、渋谷宇田川辺りのすかした印象を受ける。音も派手だし、フリーだからという安っぽさがないのに、もったいなさは最後まで残る。


【△】DJ 49『Da Cypher』
2012.04.09 / 全28曲53分 / VBR / Twitter
配信終了。2004年のリリースパーティ時に配布されたミックスCDをアップしたもの。1997年から5年間に渡りJ-WAVEで放送された「J-Wave Hip Hop Journey -Da Cypher-」(詳しくはここ)から、Shing02に始まり、KREVA、ラッパ我リヤ、K.O.D.P、K DUB SHINE、ニトロ勢などがゲストで来た際に録り下ろしたフリースタイルをミックス。当時のCMをスキットに挟んだり、感動的な最後の挨拶なども収録されていて、国産ヒップホップの歴史を感じさせる。が、現在のフリースタイル技術の劇的な向上を考えると、ここで聴けるそれはあまりに化石然としていて(シンゴ2に至っては黒歴史)、歴史的価値以上のものは見出せない。懐かしい人にはたまらないだろうけど。


【○】Jay-Z『The Black Album XenRoN Remix』
2012.04.09 / 全14曲51分 / 192kbps / Twitter
これはちょっとすごいね。オリジナルを聴き込んでいないこともあるのだけど、こんなトラックが並ぶなら一発で気に入る。耳を惹きつける明るい旋律の脇をいくつも補足するラインを走らせたりして、音を追う耳の心地良さといったらない。音をいくら飾リ立てても、ラップそのものに華やかさがあり、過剰だということにはならないが、抜くところではしっかり抜くし、そのメリハリも含めて、ここ数カ月でいきなり登場したトラックメイカーとは思えない。


【○】Jay-Z『American Gangster XenRoN Remix Tape』
2012.04 / 全15曲54分 / 128kbps / Tumblr
猛烈な勢いで洋邦問わずリミックスを発表し続けているシェンロンによる、こちらはジェイZの2007年のアルバム『American Gangster』の全曲リミックス作。聴き手を飽きさせない音で構築され、全く琴線を震わせなかったオリジナルよりもずっと楽しめる。ただ、上記のブラックアルバムはラップに力があるため、本作よりも上に思える。


【△】歪瞳『サ行LP bootleg』
2012.04.11 / 12曲32分 / 128kbps / Twitter
配信終了。ワイドウと読むニコニコ動画で活躍するソロラッパーの海賊版ミックステープ。直前のツイートに、"勝手に動画から音源ブッコ抜いて勝手に解説つけてZIPにして横流しする"とあったので、詳しくは不明だが、出す出す詐欺に憤った友人が発表したもののよう。私がイメージするニコ動ラップそのもので誉める点を探そうにも見つからない。まさに肉。曲名だけユニーク。


【△】SNEEEZE『Humility』
2012.04.13 / 全20曲30分 / 320kbps / Twitter
2月の『Feel So Good』、3月配信限定アルバム『DEVICE』に続く4本目のミックステープであり、本日(30日)配信のミニアルバム『MIND』の露払い的作品でもある。まあよくリリックを書いている。ただ、少々飽きてきたのも事実で、目立つのはアルバムにも収録されていたM11ぐらい。客演が必要かも。あるいはSALUの『In My Shoes』の丸々リミックスとか。同時期に出てきて、似たようなスタイルで、互いに思うところはあるだろうし、同じビートに乗っかり自分がどれほどやれるのか、リリックでは勇ましいけれど実際に証明できる良い機会かと。


【○】NORI aka Takachang『a multiple personality』
2012.04.13 / 全20曲35分 / 128kbps / blog
東京のラッパー兼トラックメイカー。昨年9月にソロ名義で最初のミックステープを発表し、本作でついに3本目となる。その間、クルーのN.R.Bでも1本出し、仲間のMI'zの作品では大半のトラックをプロデュースした。本作はリミックスを主体に例のぬめったラップを聴かせる。お世辞にも巧いとはいえないし、ミックスも微妙で、狭い日本語ラップ界隈でも話題にならないのは仕方ないにしても、二十歳前の若さでこれほどの行動力は評価できる。


【○】KO35H32『RONIN BEAT TAPE PT5』
2012.04.10 / 全10曲33分 / 320kbps / HP
大阪のトラックメイカーのシリーズ最終章となるビート集。情感豊かな和のテイストをしっかり重いヒップホップビートに落とし込んでいるのが面白いし、短編小説のようなさらりとした展開にも妙味を覚え、私のようなインストが苦手な耳にも物語を感じさせる音がある。ただ、はまらないのはそれはもう単純に相性の問題だろう。


【○】れと『FANCY for REAL+2 〜INST〜』
2012.04.13 / 全7曲24分 / 256kbps / Twitter
配信終了。れと名義の1月の7曲入り初ミックステープ『FANCY for REAL』から、栃木のトラックメイカーAhosによる5曲と、彼がリミックスしたMIDCRONICA「rust」のインストや番crewの楽曲のリミックスインストの2曲を加えた、いわばアホスのインスト集。1月にも書いたようにビートはあっけらかんと軽快に打ち鳴らされる。強い個性があるわけではないが、小難しいことを考えず、まず音を作ってみよう出してみようという姿勢が吉と出ている。


【×】C.W.C『DEMO』
2012.04.12 / 全6曲25分 / 160,VBR / Twitter
配信終了。C.W.Cは"Castle West Crew"の略で、茨城県は龍ヶ崎のグループだそう("城西"由来かと思ったらそういうことでもないのか。あの辺の人たちが好きそうなネーミングだけど)。確かに常磐線周辺な90年代ニューヨーク好きです武骨ですみたいな雰囲気を醸し出している。今もまだこんなグループがいるのね、温故知新って素敵と思えるのは耳が復活したからで、曲順は振られていないし、何より音量調整最大値という罠にはまり、鼓膜直撃を食らった。作品として最悪。


【○】釈迦坊主『中二病 LP』
2012.04.14 / 全9曲34分 / 192kbps / HP
東京在住のラッパー兼トラックメイカー。レイトのような不幸ラップを得意とするようだが、彼は世界の不幸を自分に引き寄せていたのに比べると、釈迦坊主は伝え方がイマイチなため(ビートを強調しすぎて、音のバランスがラップと対等になっている)、どこにでも転がっている不幸物語で終わってしまっている。言葉やテーマが重要になってくるスタイルだけにビートを従とした方がいいし、できない早口ラップも同じ理由から止めた方が良い。


【○】Beats Zan『Beats Zan Remixies Vol.3』
2012.04.15 / 全12曲49分 / 320kbps / YouTube
2月のVol.2は洋楽リミックスだったが、第3弾の今回は日本のヒップホップやR&B編。しかもKREVAやm-flo、RHYMESTER、安室奈美恵、AIと大物を手掛けている。NORIKIYOファンも存分に楽しめる。原曲から大きく改変しているわけでもなく、雰囲気を大事にしているのでどの曲も違和感なく聴けるし、もしかしたらこっちの方がいいかもしれないという曲もある。


【○】VA『Japanese Lyrics VS Underground Musics』
2012.04.15 / 全10曲48分 / 320kbps / Tumblr
ネットレーベルedsillforRecordingsがアップしたコンピ。IDMやブレイクコア(前者はインテリジェント・ダンス・ミュージックの略で、後者はウィキによると、"高速ブレイクビーツにディストーションをかけたスネアキック"を特徴とする音楽ジャンル)に分類される作品を出しているレーベルで、今回は日本語ラップを題材に大幅に改変していて面白い。NMRをネタにしたM7なんてまず曲名が秀逸すぎる。少し前に話題になったミルクラッパーの曲も登場したりするが、基本的には日本語詞に対していい意味で敬意を払わず好き勝手やっているので、新鮮な驚きがある。


【○】Kicker & Reason『1986: The EP』
2012.04.20 / 全8曲24分 / 320kbps / bandcamp
岐阜のヒップホップクルーBEAT CONNECTION CREWに所属するラッパー・キッカーと、思い出したように木曜日にフリーDL曲を発表していた名古屋のトラックメイカーReezy"B"によるコラボ作品。リリックの内容自体はたいしことはなく大方は麻についてで、重心を後ろにややずらしたフロウで聴かせるスタイルのキッカーのラップがソウルフルな音の上に乗る。平坦になりがちなラップを多彩なトラックで支えている感はなきにもし非ず。


【○】ILL BLOCK CORNER MUSIC『NATURAL RE:BORN』
2012.04.20 / 全15曲40分 / 192kbps / Tumblr
Greedy、Khaos、Hadesという3MCのグループ。インパクトのあるジャケットそのままの不良ラップ。こういう機会でもなければ聴かないたぐいのスタイルであり、笑ってしまうのは事実だが、フリーDL界隈にこの手のラップはまだまだ少なく、幅が広がるの良いことだ。しかもノーDJ版だけではなく、BEERTMAN JUNIORがホスト役をしている版や1枚ファイルになっているものまで3種類も仕様があるのは見かけによらず聴き手に優しく、見習うべきことが多い。


【○】RUMCHOP『Play Ya Color』
2012.04.20 / 全20曲54分 / 192kbps / Twitter
ラッパー・コージのトラックメイカー名義ラムチョップが西東京の仲間を集めて作った2本目のミックステープ。さしずめ上のIBCMが成長したらこうなるといったスタイルだが、M2でいきなり社会派の側面を見せたりしているのは興味深い。1年前の1作目(DL先)同様によくまとまっている1枚で、M8での和みやコージのM14はかなり聴かせる。女性ラッパーMIChinoも良いアクセント。地味に人気のある元ICE DYNASTYのKNZも参加している。


【○】CORVET『BEAT COMPANION SERVICE』
2012.04.20 / 全13曲29分 / 320kbps / bandcamp
"遂にMPCと結婚しちまったイカしたトラックメイカー"と刃頭も注目する大阪在住のコルベットのミックステープ。マイケル・ジャクソンで遊んだM1で始まり、軽やかにポップでお洒落らしさも演出され、外に向けられた音が並ぶ。が、曲自体は短いにも関わらず単調であるためにやや飽きが来やすいのだけど、鍵盤が小気味良いM8から尻上がりに良くなる。


【○】XenRoN『KREVA Remixes&Instrumentals Mixtape』
2012.04.22 / 全5曲17分 / 192kbps / Tumblr
聴きやすさと同時にアクの強いクレバのラップにいささかも負けることなく渡り合っている音作りは立派。リミキサーの個性だけを全面に押し出すことで曲に新しい表情を付けるのもリミックスの面白さだが、素材となるラップの良さ(クレバだから可能という一面もあるが)を引き立たせつつ同時に音の構築の妙も表現。残念なのはサウンドクラウドで連日発表してきた曲だけをまとめているため新作がなく、逐一チェックしている身には物足りないこと。


【○】KITAKANTO SKILLZ『URAKANTO -CHOPPED & SCREWED mix-』
2012.04.22 / 全18曲72分 / 128kbps / blog
昨年最も勢いがあったとされるヒップホップクルーSIMI LABよりも衝撃だったとの声も聞かれる北関東スキルズ。そのファーストアルバム『BUFFALO REPORT CODE:』以前に自主流通させていた3枚からなる「ILLAKANTO」シリーズの曲をチョップド・アンド・スクリュードさせたのが本作。韻踏合組合が『紫盤』を先日発表していたが、いまいちこの改変の面白味が分からない。ただ、何か1曲でも引っかかると意外に楽しめてくるのはいつものことで、M7での間延びしたラメラメに不思議な酩酊感を覚えるとその後の数曲がいいなと思えたので、聴き込めばはまるのかも。


【△】Sweet William『WILLDONE BEATSTRUMENTAL FOR DANCERS』
2012.04.22 / 全7曲12分 / 160kbps / HP
配信終了。今月上旬に出たシンタロウに続き、名古屋のエスニック・ブレンドから今度はトラックメイカーのスイート・ウィリアムがソロ作となるビート集を発表。"FOR DANCERS"となっているわりには全くもってグルーヴを感じさせない。作り手の部屋の中だけで完結してしまっていて、頭を振ろうという気にもならないが、もしかしたらヒップホップよりも電子音楽好きに好まれる音なのかもしれない。


【○】trinitytiny1『wasted wasted wasted wasted』
2012.04.23 / 全19曲78分 / 320kbps / bandcamp
タイで広告マンとして働く日本人ツイッタラ―・trinitytiny1の初音源。ERAのスクリュー版や旧来の意味でのミックステープを昨年辺りから精力的に発表する一方で、少しずつ出していたオリジナル作やリミックスを新曲と共にまとめたもの。最近はやりの薄く引き伸ばしたような音を特徴とし、前半こそはその眠気の前に屈服してしまうものの(M2は別)、M9からの3曲のチキチキに覚醒させられ、次第に心地良くなる。


【○】Boz Bug & PEACE『Starter』
2012.04.25 / 全12曲40分 / VBR / YouTube
配信終了。ボズバグとピースによる福岡のヒップホップデュオ。ふたり共高校3年生とのこと。ボズバグについては2月に発表されたフリーDLのシングルやノリ aka タカチャンのミックステープで見かけたが、まあふたりともお世辞にもラップがうまいとはいえない。ただ、"やりたいことをやる、ただそれだけ!"との意気込みは立派だし、なにより"全曲ビートジャック、レコーディングはアイフォン"という行動力は賞賛に値する。


【○】Nasty Ill Brother S.U.G.I.『BOREDOM EP』
2012.04.25 / 全13曲23分 / 320kbps / bandcamp
神奈川のトラックメイカーILL.SUGIが別名義(?)で出したビート集。後半3曲はRapper Big PoohやJ-LIVEといったヒップホップの良心ともいえそうな良質ラップのリミックス。M7を頂点にしたキラキラさと、音の黒さのバランスが素晴らしく、それぞれの曲自体は短いにも関わらず、自分の美学をきっちり表現できているものだから、短くとも確かな聴き応えがある。


【○】Naoto Taguchi『Nameless.Ep』
2012.04.26 / 全8曲11分 / 320kbps / bandcamp
福岡Oilworks Rec所属、東京在住のトラックメイカーが2枚同時に発表したビート集の1枚。1分半前後のそっけないビートが並ぶ。M4のように分かりやすいメロディがあると楽しめるのだけど。


【○】Naoto Taguchi『Anticlocks.Ep』
2012.04.26 / 全8曲11分 / 320kbps / bandcamp
もう1枚が本作。こちらは歌ものであり、その波状攻撃ともいえるエディット(?)具合にはよく利いた低音のおかげもあり、悪酔いしそう。



【○】Osurek Bertop『THE OSUREK SHOW Vol.1 Nepal Invasion』
2012.04.26 / 全11曲22分 / 320kbps / bandcamp
上に書いたケルベロスと同じく、ハイイロデロッシのレーベル・フォルテ所属のトラックメイカーのビート集。そのハイイロのリミックスではダークなトーンを基調とする音を浮遊させていた。その印象が強かったので、ネパール・ポップスを全面使用することで異国情緒を醸し、同時にどこか日本の歌謡曲っぽさも忍ばせ、明るく開放的な音になっていることに驚く。外国の濃厚な音を使っても安易に染まらず、冷たさを含ませている辺りは先のリミックスに通じる。


【○】JUSTY ACE a.k.a JA飛龍『JUSTY ACE -street album-』
2012.04.27 / 全12曲45分 / 192kbps / Twitter
SIMON JAP a.k.a KAMIKAZ、GRACE a.k.a 竜巻G、DJ HIROTO a.k.a DJ犬神の3人組グル―プによる2008年までに収録され、お蔵入りとなっていた音源。さんピンCAMP直系の悪ぶったラップだが、2007年、2008年といえばSEEDAの『花と雨』に始まるもっと真実味のあるワルを詩情豊かにラップするスタイルが一世風靡した時期であり、この古臭いラップを世に出さなかったのは賢明な選択だった。それから4年の月日が流れ、シーダ達にかつての勢いはなく、また英語風の発声を取り入れたフロウ重視のスタイルが流行となっている中で、あえてこの塩漬け音源を出すことは、それが手垢まみれのライムや声音であっても、さんピンのスタイルは日本のヒップホップの源流でもあるわけで、変わることのない普遍のスタイルとして今だからこそ素直に受け入れられるのかもしれない。


【△】Uncle Texx『Route 23 EP』
2012.04.29 / 全6曲20分 / 320kbps / blog
最近よく目にするJuke/Footworkと呼ばれるシカゴハウスを源流に持つダンス音楽を制作する三重のトラックメイカーの音源。この直前に短い紹介動画を見て知った気にはなったものの、実際は理解していない例のパターンに陥っている。動画での本場の音は間断なくチキチキが鳴らされ激しい踊りとの相性の良さが納得できたが、本作はそうではない。色々あるのだろう。それはともかく日本でこの音がはやったらみんなあのダンスを踊るのかな。


【○】himeshi『KURAYAMI NIRAI KANAI ep』
2012.04.29 / 全6曲21分 / 320kbps / bandcamp
埼玉は浦和のソロラッパー・ヒメシ。初めて聴くのだけど、こんなかっこいいラップをする人と容易に出会えるのだから、現在のフリーダウンロードブームは素晴らしい。M3のようなグライムも良いが、M2やM4、M6のどこかTAK THE CODONAを思わせる若干スピードを落としつつも前に出てくる毒のあるスタイルはラップの素直なかっこよさを体現している。いい。


【○】soakubeats『粗悪忠臣蔵』
2012.04.29 / 全13曲40分 / 320kbps / bandcamp
我慢しきれなくてやはり出してきたソアクビーツの20本目となるビート集。前半のイケイケドンドンなビートが好みだが、今作は日本人にお馴染みのあの物語を音で綴った一大音絵巻であり、最後の一音が鳴りやんだ時、粗悪内蔵助、あなたがいたことを私たちは忘れないと呟いてしまうコンセプチュアルな仕上がりこそを楽しむべきだろう。いつも以上に音を読み解く一助となる歌詞欄の言葉が面白い。人気役者・今夜が田中もカメオ出演!


【△】VA『Urban Sampler Session #7』
2012.04.29 / 全34曲101分 / 320kbps / bandcamp
与えられたお題インストを使いわずか3日間(72時間)で曲として完成させるという恒例企画の第7弾。どうにも面白味を覚えずスルーしていたらもう7回もやっていて驚く。32人もトラックメイカーが参加しているということで、収録時間が長いのも敬遠してしまう要因のひとつ。EeMuやogopogoといったLHW?勢からフリーDL界隈でよく耳にする人たち、あるいは九州の奇才leeに至ってはラップを乗せているのでそれだけでも聴く価値はあるかも。




【△】MI'z『Nervous System In Brain』
2012.03.30 / 全13曲38分 / 128kbps / blog
配信終了。本作の大半のトラックを手掛けているノリ aka タカチャンの作品や彼を中心としたヒップホップクルーN.R.Bの一員としても活躍するラッパーみっづの初ソロ作。大事なことを教えてくれる作品。素晴らしすぎてただで落とすことが申し訳なくなるようなミックステープが当たり前のように発表されている中で、でも同時にこのネットでの無料配信はラップ素人たちの腕試しとしての場でもあるわけだ。本作はそのことをとくと思い出させてくれる。


【○】VA『HAPPY BOOTLEG PARTY vol.1』
2011.12 / 全12曲65分 / 320kbps / Tumblr
高校生トラックメイカーHerrokkinのアカウントを見ていて存在に気づいたコンピ。昨年クリスマス頃に発表され、今の季節とは合わないが、オザケンリミックスがなかなか楽しい出来栄えだったり、続く竹内まりやのも悪くなく、パブリック娘。のリミックスまであるので紹介。ヘロッキンは坂本龍一の例のクリスマス曲を手掛けていて、良い仕上がり。ただ、次曲も同じネタでずいぶん酷な印象もあるが、雰囲気が異なる改変具合で反対に面白い。




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<まとめ>
2010年〜2011年1月〜8月分 Tegetther
2012年1月分 blog
2012年2月分 blog
2012年3月分 blog
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2012.04.30 Monday 23:59 | 音楽 | comments(5) | trackbacks(0)
ヒットマン / Hitman

51点/100点満点中

同じ年に良作バイオレンスホラー『フロンティア』を発表しているフランス人監督グザヴィエ・ジャンの2007年のデビュー作。同名のガンアクションゲームの映画化。主演は2010年のリメイク版『クレイジーズ』や『パーフェクト・ゲッタウェイ』で主演していたティモシー・オリファント。スキンヘッドなのでずいぶんと印象が異なりパッと見分からない。共演には『007/慰めの報酬』でボンドガールとなるオルガ・キュリレンコ。製作費2400万ドル。

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謎の組織により冷酷かつ優秀な暗殺者として育てられたエージェント47。新たなターゲットであるロシア大統領ミカイル・ベリコフを首尾よく狙撃するも、罠だったことを知る。事件の鍵を握る娼婦ニカと出会い、陰謀の首謀者を突き止めるべく、ニカを連れて復讐に乗り出すが・・・。
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最近はハズレ映画に出会うことがなく、気を良くしていたのだけど、こういう駄作に出会うと本当にがっかりする。もちろん原作ゲームをしているわけではないが、映画であるからには映画単体でも楽しめる方が望ましい。大して複雑ではない物語を下手にこねくり回し、意図的に複雑なように見せようとするので、不満がたまるばかりだ。一方で売りのはずのアクションは、銃弾を使ったシーンはそれなりに見られる。ジョン・ウーばりの二丁拳銃でシンメトリーを意識している辺りからも影響を受けているのだろう。ただ、肉弾戦となると途端に素早いカット割りや近接でのカメラワークに切り替わり陳腐極まりない。

フロンティア』に続くグザヴィエ・ジャンの新作が6月に公開されるということで処女作となる本作を見てみたが、予告編で見た時の地雷との直感が的中してしまった。
2012.04.26 Thursday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
賢く生きる恋のレシピ / Smart People

47点/100点満点中

2008年の恋愛映画。主演はデニス・クエイド。共演にサラ・ジェシカ・パーカー、エレン・ペイジ。DVDスルー。

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男やもめの大学教授ローレンスは、明晰な頭脳を持つがゆえに相手を思いやる感情に乏しく、その独善的な性格は年取るごとに拍車がかかっていた。ひょんなことで負った傷で病院に運ばれたローレンスは、元教え子の医師ジャネットと出会う。そして帰宅した彼を待っていたのは、突然転がり込んできた義理の兄弟チャック。ジェームズとヴァネッサというふたりの子供とチャック、ローレンスの生活が始まる。
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エレン・ペイジ出演作を見よう第2弾。テレビドラマシリーズ「セックス・アンド・ザ・シティ」を大ヒットさせ、本作と同じ年に公開された映画版第1作目も当然のようにヒット、一方でエレン・ペイジも前年に主演した『JUNO/ジュノ』でその演技が賞賛され、日本でも話題になった。デニス・クエイドは確かに地味な役者で、メグ・ライアンの元旦那(ウィキで知った)という経歴が今となっては目立つぐらいで、しかも時の流れは速く、ライアンも今はもう過去の人になりつつある。

それはともかく顔の長いパーカーとコケティッシュなペイジが出ていながらDVDスルー扱いで終わっているのにはそれなりの理由がある。邦題に"恋"だの"レシピ"だのここ数年のはやり言葉を使い、賢く生きようと努力するOL層にアピールしようとしているが、華やかかつかわいらしいラブコメを想定して見たとしたら、それはもう罵詈雑言の嵐なはずだ。

本作の素晴らしい点は95分で終わることだ。エレン・ペイジの愛らしい演技を見たければ、51分過ぎのチャックとのやりとりを見れば十分事足りる。YouTubeに上げられているトレーラーにそのシーンがある。1分34秒過ぎがそれだ。編集が大雑把過ぎてよく分からないが、ここでのペイジの作り笑いからの怒りの表明は本当にキュートだ。

本作は基本的にはデニス・クエイド演じる大学教授ローレンスが、元教え子との拙いやりとりを通し、家族の支えもあり、他者への思いやりを取り戻し、義理の弟との関係を改善させ、ふたりの子供ともうまくいくようになるという成長の物語だ。
2012.04.17 Tuesday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
アメリカン・クライム / An American Crime

57点/100点満点中

キャサリン・キーナー主演による2007年の犯罪実録ドラマ。共演にエレン・ペイジ。キーナー演じるガートルード・バニシェフスキーの年若い愛人としてジェームズ・フランコも出ている。DVDスルー。製作費200万ドル。

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1965年に実際に起き、"インディアナの犯罪史上で最も恐ろしい犯罪"とも評された事件を裁判所での証言を基に映画化。
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エレン・ペイジ出演作品を色々見ていこうとして、『JUNO/ジュノ』と同じ年に公開された本作を選んだのだけど、このネタだと知っていたら最初から見なかったと思う。シルヴィア・ライケンス事件(バニシェフスキー事件とも)と呼ばれる半世紀も前の事件で、ジャック・ケッチャムのおぞましい小説『隣の家の少女』が題材とした事件でもある。本作を見てウィキペディアで読むまで元ネタがあったことは知らなかったのだけど。そのケッチャムの方も同じ2007年に映画化されている。ただ小説がえげつなかっただけに、映像になったものまで見る気が起きず未見のままだ。

16歳の少女シルヴィア・ライケンスとその妹で1歳違いのジェニーの両親は移動遊園地の働いていた。巡業でしばしば家を空けなければならず、この時は知り合ったばかりでシングルマザーのガートルード・バニシェフスキーの家に預けられることになった。バニシェフスキー家には姉妹と年の近いガートルードの子供が7人もいて、すぐに友達になり温かく迎え入れられたが、些細なすれ違いからしつけと称したガートルードによる虐待が始まってしまう、それが次第にエスカレートしていき・・・という凄惨な出来事が翌年に行われた裁判所での証言シーンを交えながら描かれる。

『隣の家の少女』ほどには陰惨ではないものの、ウィキに書かれている概要をある程度端折りながらも忠実に再現している。思わず眉をひそめたくなる仕打ちについても同様だ。

ただ、乳飲み子を抱え長時間の仕事に就けず、体調も慢性的にすぐれず、当然お金もなく、でも上は高校生になる7人の子供を育てなければならないガートルードのいい分を汲み取っているため、確かに公正な視点ではあるだろうが、作品としてのパンチは弱くなる。見守り育てなければならない大人による無理解からくる一方的な押しつけや、子供特有の無邪気なまでの残酷さ、集団が作り出す雪だるま式に膨れ上がる悪意の数々。よくあるといってしまえばそれまでだけど、ひとりの少女が受けるには過酷すぎる虐待なわけで、パンチが弱いで片付けて良いはずはないが、シルヴィア役のエレン・ペイジが長期間酷い仕打ちを受けているのに最後まで健康的とまではいわないけれど、それほどやつれた姿にはならず迫真さが足りない。

それはある意味で『隣の家の少女』のように扇情的にならず、冷静な視点で描こうとする表れだと好意的に捉えることができるわけだけど、そうなるとクライマックス直前のシルヴィアの逃走という演出は、彼女の悲劇さが増すにせよ、悪趣味だ。
2012.04.16 Monday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
機動戦士ガンダムUC episode 4: 重力の井戸の底で

福井晴敏の原作小説をアニメ化した「機動戦士ガンダムUC」シリーズ第4弾。2011年12月2日発売。

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バナージ・リンクスが搭乗するユニコーンガンダムはガランシェール隊と共に地球に降下する。同時に地球上で散らばっていたネオ・ジオン残党軍は連邦政府の首都ダカールを急襲し、陽動作戦を実施。一方で、オードリー・バーンことミネバ・ザビと共にいち早く地球に降り立った連邦軍のパイロット、リディ・マーセナスの父親でもある大物議員ローナン・マーセナスは"ラプラスの箱"の開放を阻止するべく、ロンド・ベル隊司令ブライト・ノアに接触。バナージたちは、"箱"が新たに示した座標・トリントン基地を目指すが・・・。
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オープニングのダカールを襲うネオ・ジオン残党軍と防衛する連邦軍との戦闘シーンからして見て良かったと思わせる仕上がり。ジュアッグやゾゴックといった子供の頃にプラモデルで作っていた機体が活躍するのだから感涙もの。もちろんただ懐かしいからというだけではない。アニメなんだから超人的な動きをしても大丈夫だろうと考えているであろう今のガンダムの作り手とは違い、リアルさを感じさせる動きを心掛けているようで、AGEがどれほど視聴者をバカにしているのか考えさせられる。

そもそも本シリーズを見ようと思ったのは、本作のCM広告でブライト・ノアが出てくるシーンがあったからで、少しふっくらしたものの、青い清潔感をまとったままの印象で古い友人と再会した感すらある。アニメに登場するのを見るのはそれこそ『逆襲のシャア』以来となるわけで22年ぶりか。続くミネバ・ザビのエピソードも彼女の覚悟がしっかり描かれていて、まだまだ若いのに背負わなければならない使命の重さ感にその成長ぶりにひとり嬉しくなってしまう。
2012.04.15 Sunday 15:13 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
アリス・クリードの失踪 / The Disappearance of Alice Creed

55点/100点満点中

2009年のイギリス製クライムサスペンス。監督・脚本は、『ディセント2』の脚本家でもあり、本作が長編デビュー作となるJ・ブレイクソン。出演は『SWEET SIXTEEN』でリアムを演じたマーティン・コムストンに、ガイ・リッチーの「シャーロック・ホームズ」シリーズではレストレード警部役のエディ・マーサン。

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刑務所で知り合ったヴィックとダニーは富豪の娘アリス・クリードの誘拐を計画。周到に準備し、問題なく拉致監禁にこぎつける。身代金は200万ポンド。首謀者のヴィックが練り上げた計画に抜かりはなく、順調に進むかに見えたが・・・。
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登場人物がたった3人でありながらも、ストーリーが二転三転する緻密にして緊張感溢れる作品であり、批評家受けも良いとのチラシの宣伝文句を読み、昨年劇場公開された時は是非とも見たいと思ったものの、結局行けず仕舞いで悔しい思いをしたが、今は劇場で千いくらものお金を払わないで良かったと胸をなで下ろしている。

ヴィック(エディ・マーサン)とダニー(マーティン・コムストン)のふたりが無駄口を叩かずにてきぱきと誘拐の準備をしていくシーンから始まる。アリス・クリードを要領よく拉致し、用意したアパートに連れ込み、両手両足を鎖で縛りつけ、袋で顔を覆う。あっという間に舞台は揃う。

その状況の中から、思わず"えっ?"と声が漏れてしまう、ある意味衝撃的な演出があり、そのおかげでふたりの計画の歯車が狂っていくわけでもあるのだけど、ただ人間の本来的な感情ではあるし、違和感(あるにはあるけど)はないものの、でもちょっとずるくないとも思うわけで、釈然としないまま進んでいく。一方の関係性が自然で強固なだけに、もう一方の関係を同じぐらいに強化しないと力のバランスが取れず、確かに悪くはない演出だなとは思う。意外性はかなりのものだ。

ある一点の無理が功を奏し、終盤では互いに向けられる拳銃が火を噴くタイミングは読めず、また物語の行先すらも推測できず緊張感は生まれている。ただ、3人しか登場しないことに無理は感じられないものの、才気走り過ぎた感もぬぐえない。アリス・クリードを演じたジェマ・アータートンがもう少し魅力のある顔立ちだったら印象が異なっていたかもとも思う。
2012.04.10 Tuesday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
スーパー! / Super

88点/100点満点中

2010年のブラックコメディアクション。『ドーン・オブ・ザ・デッド』や「スクービー・ドゥー」シリーズの脚本を担い、『スリザー』で監督デビューを果たしたジェームズ・ガンの監督2作目(脚本も)。主演は『メタルヘッド』で妻の死から立ち直れない父親を演じていたレイン・ウィルソン。共演にエレン・ペイジ、リヴ・タイラー、ケヴィン・ベーコン、さらには神の声役でロブ・ゾンビ。製作費250万ドル。

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冴えない人生を送る中年男フランク。唯一の誇りは、美しいサラと結婚したこと。ところが、彼女は麻薬に再びはまり、家を飛び出し、売人ジョックと付き合い始めてしまう。苦悩に沈む彼は神の啓示を受け、最愛の妻を取り戻すべく、正義のヒーローとなり悪と戦うことを決意。自作衣装の"クリムゾンボルト"に変身した彼はレンチを武器にチンピラ退治を決行する。そんな彼の前に漫画専門店のオタク店員リビーが現われ、勝手に相棒"ボルティ"として名乗る。
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こういう映画は大好きだ。好みすぎるからこそ反対に書けることが少ないのだけど、シニカルでファニーな笑いと残酷なアクションシーンとのギャップがたまらない。有名俳優たちが動員されていながら、結構手酷い扱いをしている辺りも良い。

アメリカン・コミックのヒーロー物の実写化はハリウッドで今最も勢いのある流れであり、そのスーパーヒーローたちへの惜しみない愛を送りながらも、同時に皮肉ってみせる視点は『キック・アス』と同じだ。無謀な正義感に目覚めてしまったか弱き青年が、本作ではしみったれた中年男となり、不恰好な衣装を着て"クリムゾンボルト"となるものの、現実世界でのスーパーヒーローはやはり困難を極めるわけで、その落差が笑いを誘う。また、作中の言葉を借りれば、漫画の"コマの外"で起きることがしっかり描かれているのだ。ヒーローたちも楽ではない。

ただ、『キック・アス』では後半に向けて次第に現実からファンタジーの世界に紛れ込んでいき、青年の成長を描いてみせた。一方、本作はとなると、どこまでも現実的な物語に終始する。もちろん本家のスーパーヒーロー物と比較しての話ではあるが。

映画中盤辺りまでは、ひょっとしたらこの作品のハイライトはオープニングのアニメではないかと思うほどに、フランク/クリムゾンボルト演じるレイン・ウィルソンの冴えない活躍が続くのだけど、イメージの脱却を図りたいのかエレン・ペイジがものすごく頑張った演技を見せ、"ボルティ"が奮闘し始める辺りから痛快度はグングン上昇していく。そこであんたが死ぬのかという映画館で見てたら思いっきり笑ったであろう、ご都合主義をあざ笑う展開を含めて、アメリカの片田舎で小悪党相手に命を懸け妻を取り戻そうと躍起になる男の涙ぐましい冒険譚は悲哀に満ちた笑いを作り出し、そもそものフランクの一世一代の決断も神からの啓示という宗教すらも笑いの一要素に落とし込んでいるわけで、たいしたブラックコメディぶりだ。
2012.04.09 Monday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
アイ・スピット・オン・ユア・グレイヴ / I Spit on Your Grave

73点/100点満点中

『発情アニマル』(ビデオ時には『悪魔のえじき』)との邦題で日本ではポルノ映画扱いされた1978年のヴァイオレンスサスペンスを2010年にリメイクした作品。製作費200万ドル。

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小説家のジェニファーは新作執筆のために森の奥に位置する別荘に籠ることにしたのだが、ガソリンスタンドでひと悶着あった地元の男たちに狙われることに・・・。
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106分の長さの中、前半は別荘で執筆するジェニファーの整った外見や危い状況を十分描いた後に見るのもきつい強姦シーンがあり、後半はその復讐のために男をひとりひとり捉え、拷問死させていくだけの作品。レイプが凄惨を極めるからこそ、その後の拷問がどれほどエグくてもざまーみろと受け入れることができるし、その手口にはアイデアもあり(原作は未見なのでもしかしたらやり口はそのままなのかもしれないが)、楽しむのとは違うけれど、痛そうだなとおののきながら見ることができる。

映画に限らず作り物の物語はとことんまで描写された方が面白いというのが持論ではあるが、それが人の尊厳を奪う凌辱をネタにしているわけで、ジェニファーがどれだけ復讐を果たそうと後味の悪さは拭えない。まあ、強姦する人間は死んで当然だし、非常に教育的ではある。

レイプ復讐物として同じく括られそうな1972年の『鮮血の美学』でも、男たち側のひとりとして存在したやや知恵遅れでしてはいけないことだと分かっていても犯罪に加わってしまうという役柄で出演していたマシュー役のチャド・リンドバーグの演技がずいぶんと光っている。
2012.04.06 Friday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
ロスト・アイズ / Los ojos de Julia

96点/100点満点中

現代スペイン映画といったらこの人、ギレルモ・デル・トロ製作による2010年サスペンスホラー。彼が同じように製作総指揮した2007年の傑作ホラー『永遠のこどもたち』でも主演を果したベレン・ルエダが主人公フリアを演じる。撮影は『永遠のこどもたち』のオスカル・ファウラ。製作製作費500万ユーロ。

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先天的な眼の病気で視力を失いつつあるフリア。先に視力を失った双子の姉サラが自殺したことを知らされ驚愕する。その死に不審なものを感じたフリアは、独自にサラの周辺を調べ始める。驚きの事実が明らかになるのと時を同じくして視力も急速に失われていき・・・。
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似たようなタイトルで移植された眼が見せる生前の殺人事件などといったスピリッチュアルホラー作品もあり、デル・トロ製作とはいえ失敗か思いながら借りたわけだけど、これがまた素晴らしい。『永遠のこどもたち』も傑作といっていいホラー作品だったが、本作も負けていない。

主人公フリアの視力が弱まり、満足見られなくなった状況で、鑑賞側も同じように重要人物の顔を見ることができない演出は心憎い。わざとらしさはなく、巧みなカメラワークでその物が見えないという恐ろしさを生み出し、同時にそれがミステリにもなる。

後半にはある意味本当の狂人が現れる(あまり活躍することなく退場するのがもったいなくもある)こともあり、前半の怖さとは趣きが一変し、最後にはロマンまで演出させている。ひとつの映画の中でひと味だけに留めず、なめ続けると次々と味を変えていく辺りは『永遠のこどもたち』にも通じ、思っていた以上に楽しめる作品だ。
2012.04.06 Friday 23:57 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
猿の惑星: 創世記(ジェネシス) / Rise of the Planet of the Apes

74点/100点満点中

2011年のSFアクション映画。1968年に始まり、6作を数える「猿の惑星」シリーズの最新作。リブートでありオリジナル脚本。ジェームズ・フランコ主演。ヒロインには『スラムドッグ$ミリオネア』のフリーダ・ピント、「ハリー・ポッター」シリーズのトム・フェルトンは今作でも悪役で登場。製作費9300万ドル。

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米サンフランシスコ。アルツハイマー治療の研究者ウィル・ロッドマンの開発した新薬がチンパンジーの知能を驚異的に発達させるが、その実験体は突然暴れ出し射殺される。プロジェクトは中止されるも、射殺されたチンパンジーが妊娠中だったため、彼は生まれたばかりの赤ん坊をシーザーと名付け、自ら育てる。シーザーは次第に並外れた知性を発揮するようになる。成長したシーザーは隣人とトラブルを起こし、類人猿保護施設に送られてしまう。
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「猿の惑星」シリーズはSF映画の金字塔として名高い1作目と、10年以上前にティム・バートンが監督し、原作をより忠実に映像化した『PLANET OF THE APES/猿の惑星』を見ているだけなので、特に思い入れのあるシリーズではないが、新たなシリーズの幕開けとなるらしい本作は評判通りに楽しんで見られるSFアクションに仕上がっている。

全5作となる旧シリーズの内の第4作目『猿の惑星・征服』から着想を得て制作されたそうで、ウィキペディアで見てみると、『猿の惑星・征服』は確かにチンパンジーのシーザーが人類への反乱を決起する物語らしい。大筋で同じだが、本作は邦題に"創世記"とあるように、旧シリーズ1作目のオチでもある猿が地球を支配するというシリーズの大元のコンセプトの前日譚となる。

展開のテンポが良い。新薬の実験動物だった母猿から産まれたシーザーは生まれながらにして知能が高く、研究者ウィルの手によって自宅で育てられるが、些細な行き違いから隣人に暴力を働いたことで類人猿保護施設に収容される。そこで群れのリーダーとなっていく物語と、シーザーの飼い主ウィルとその痴呆症の父親、恋人のキャロラインの話、また実験中により強力に開発された新薬を吸ってしまい、容体を悪くしたウィルの同僚のエピソードなどが少しも淀むことなく描かれていく。

子猿の時のCG臭さはいささか気になるところではあるが、大きく成長してからのシーザーは俳優が演じていることもあり("「ロード・オブ・ザ・リング」のゴラムなどで高い評価を受けたパフォーマンス・キャプチャー演技の第一人者アンディ・サーキス"とのこと)、映画に確かな真実味を与える。ゴリラとオランウータンが共に蜂起するという設定も楽しい。また、シーザーの立ち姿がいちいち男前であることも含めて、カメラワークの見栄が各所で決まっている。

巨大吊り橋上でのクライマックスまで派手なアクションが控えめだった分、一気に盛り上げに掛かる辺りもメリハリが利いていて、ヘリコプターの一連の流れは映画館のスクリーンで見たら最高だろうなと想像する。

今後作られるであろう2作目で描かれるのかもしれないが、猿が人類に歯向かう最初の1歩が描かれるのみで、その動きと並行して着々と侵攻しているウィルス感染についてはずいぶんと描写が少ないのが気になる。大作にしては無駄に長くない分(106分)、スムースに見られるのだけど、その一方で小さくまとまってしまっていることは不満だ。まあ、今回はシリーズの序章であり、キャラクターの紹介めいたものと割り切れば良いのだろうけれど。それと、旧シリーズが時代を反映させた社会派的なテーマをも含ませていたのと比較するとずいぶんと娯楽大作にはなっていて、その戦略は間違っていないと思う。
2012.04.05 Thursday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
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