すばらしくてNICE CHOICE

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2021.02.10 Wednesday | - | - | -
無料配信ミックステープ6月号(2012)
2012年6月にアップされた国産ヒップホップ・フリーダウンロードミックステープ一覧。JPRAP.COM2Dcolvics、そして@KSK1988さんのおかげで半年間続けることができました。ありがたいことです。本当にありがとうございます。


てっとり早くお勧めを教えてくれという方には上の3枚!左端がまだ20歳のラッパーJinmenusagiの新作。Ghost Cheek名義でトラックメイカーとしても活躍している。聴いて損なし。真ん中はAKLOやKLOOZと肩を並べる実力とセンスの持ち主であり、CDデビューを一向にしない点でも似ているmikE maTida。今回はKREVAのビートの上で遊ぶ。右端はERAの『3 WORDS MY WORLD』をshot-arrowというトラックメイカーが丸ごとリミックスした作品。聴きやすさが増している。ジャケットクリックでDL先に飛びます。


【△】J-MAC『1street Mix Tape』
2012.06.02 / 全14曲28分 / 192kbps / JPRAP
配信終了。ツテも何もないからネットにフリーで音源をアップしてまず自分の名前を知ってもらうという姿勢こそは素晴らしいと思うが、語尾上がりのフロウを駆使したラップは次第に煩わしさを加速させ、中盤は幾分聴けるようになるものの、作品的には制作への意気込みを買うのみというのが正直なところ。


【○】sugarkane『Best Of JP Rap vol.1 -chopped & screwed』
2012.06.03 / 1枚ファイル49分 / 320kbps / SoundCloud
曲のピッチを落とすチョップド&スクリュードのリミックス手法で日本語ラップに次々と紫の魔法をかけている東京在住のトラックメイカー・シュガーケインによるお仕事まとめ集。基本的にはサウンドクラウドに上げている自身のリミックスを繋げたもので、ここでしか聴けないものもある。単に間延びさせたとしか思えず退屈な印象を抱きがちな手法ではあるが、選曲の妙(AKLOの「HARLEM」など)もあり、本作は最後まで楽しんで聴ける。


【○】Maah.『Hello!』
2012.06.04 / 全10曲36分 / 128kbps / 直リン
ラップ始めて1年という岩手在住のソロラッパー・マーのおそらく初音源。BACHLOGICが好きなのか、彼がプロデュースした曲のリミックスが多めだ。ただ、自分なりのフロウが完成されていないため、原曲のラッパーのフロウに引き寄せられてしまい、ただの物まねになりがち。それは何も彼だけではなく、ラップを始めたばかりのラッパーによく見られる事だ。ビートへの考え方を学べるなど良い点もあるのだろうが、独自性こそが強く問われるジャンルでもあるわけで、誰も使っていないオリジナルのビートが無料でたくさんアップされているのだから、それを使い、自分のフロウを探求していけばいいのにと思ってしまう。


【△】R's『The Album 2nd (demo)』
2012.06.04 / 全24曲94分 / 160,320kbps / blog
配信終了。札幌の23歳のソロラッパー・アールスによる24曲入り1時間半以上にもなる力作。"一年引きこもって作った"と書かれてしまうと批判するのをためらうが、稚拙な上に似たようなテーマの楽曲が並び、しかもきっちり3ヴァースあり、長くなるのも当然だろう。インタールードや短い曲で緩急をつけて、せめて40分ほどの長さにでもまとめないと、数寄者でも最後まで聴きおおせる人は少ないだろうし、何よりせっかくの努力が報われない。


【○】Hyrakane『Hyrakane Remix Vol.1』
2012.06.05 / 全8曲27分 / 320kbps / bandcamp
配信終了。Dj Takada名義でも活躍するトラックメイカーHyrakaneによる洋物リミックス集。何も知らずに聴くと正規リミックスかと思うぐらいに上質なビートを作り出している。Oh Noを手掛けたM2やDweleのM4が特に良い。それと、サウンドクラウドでは無料使用する場合アップロードできる曲の合計時間に制限があるため、ある程度まとまったらバンドキャンプに移して1枚の作品とするのはうまいやり方だ。


【○】NOIZE『REMIX ZIP』
2012.06.08 / 全9曲23分 / 320kbps / blog
北海道のソロラッパーの5枚目のミックステープ。インストやアカペラも収録さえているためラップ曲自体は6曲と少ないが、どれも良曲かつ路線が違うので楽しめる。特にM1はRAU DEFぽいと思っていたこれまでの彼のラップスタイルを速度を出すことで振り切ることに成功していて、次が見えているのかもと思わせる。日本の日曜の夕方にお馴染みの磯野家のサザエラップもいい感じの仕上がり。同曲はインストも入っている。


【○】maemon『Dark Gray EP』
2012.06.10 / 全9曲27分 / 256kbps(m4a) / Twitter
米国では地下でのみ脈々と受け継がれている90年代黄金期の良質なヒップホップを血肉化しているラッパーたちの比較的最近の音源を、ニューヨーク在住の日本人トラックメイカーがリミックスした作品。手掛けているのはSmif-n-WessunやLarge Professor、Mos Defといったレジェンドから若手のBluやRshadまで。特にM4がいい。でもまあとにかく、何いってるのか分からないにしても、ラップがストレスなく聴けるのがいい。


【○】Hyrakane『Hyrakane J-HipHop Remix Vol.1』
2012.06.10 / 全8曲32分 / 320kbps / bandcamp
配信終了。上の洋楽リミックス集と同じく、サウンドクラウドに上げていた日本語ラップ既発リミックスをバンドキャンプでまとめたもの。音雲発表時にもそのセンスに驚かされたけれど、改めて聴いても惹かれる。リリックを理解できない洋楽では分かりにくかったが、日本語だとラップを引き立たせる音作りを心掛けているのがより明快で、またしっかり低音を利かしている点にもフリーらしい音の貧しさがなく素晴らしい。


【○】Syldra『EP』
2012.06.11 / 全5曲16分 / 320kbps / bandcamp
NAO-K名義でも活動するトラックメイカーのビート集。タグにエレクトロニカとあるように単純にヒップホップにジャンル分けできない音ではあるのだけど、BUNにも通じる都会の夜の匂いがする。BUNが闇に沈む歩道のBGMであるならば、こちらは曲名の明るさに似合わず、暗渠に流れる黒い水だったり、アスファルトに下に埋設された光ファイバー網を連想させる。ジャケ同様にかっこいい音。


【○】OMSB(OMSB'Eats)『Kitajima "36" SubLaw』
2012.06.12 / 全36曲97分 / 192kbps / Twitter
SIMI LABのラッパー兼トラックメイカーのオムスビーツが、"今までサウンドクラウドにアップした曲に加え、一曲をプラスし"て発表したビート集。昨年7月に最初にアップされたM30から、本作発表時点での最新曲M7までを発表順とは関係なく収録している。実際は「San Andreas」(音雲)と奇怪な「My Song」(音雲)が収録されておらず、また昨年クリスマス直前にトゥイター上で公開された「X Day Massacre」が、曲名とは違いかなりの美曲だっただけに漏れたのは残念。新曲はM20とM26の2曲あるように思うが、こちらの勘違いかもしれない。

いずれにせよ、サウンドクラウドに発表されるビートは今やシミラボの屋台骨となったオムスビーツがその時々で興味を持った音をあれこれするための実験場だ。だから必ずしも良曲ばかりではない。特に初めの頃はシミラボに提供したトラックとの差に驚かされたもので、しかし試行錯誤をそのまま表に出す場と理解するようになってからは次は何が飛び出すのかと気楽に楽しめるようになった。最近は面白ジャケットを付けた興味深いビートを次々にアップするようになり、それに比例してDLリミット数の100に達するのが速くなっている。そんなわけなので、すぐに落とさないと手元で聴けなくなってしまう彼のビートをこうして改めて落とせる機会はありがたい。

最初にアップされたfirestorage版はほとんどの楽曲でビットレートが320kbpsだったが、やわと定評のあるストレージサイトなだけあってすぐに詰まってしまったために、容量を落としてsharebeastに上げ直された。それが上のリンク先となる。しかし、いくつかのファイアストレージではまだリミットに達していないため、320kbps版が落とせるようだ→その1その2


【○】DJ HARAKIRI『makibishi beat tape』
2012.06.13 / 全25曲52分 / 320kbps / bandcamp
新潟のトラックメイカー・DJハラキリによる"過去作から色々選んでまとめた"ビート集。同郷のラッパー舌坊とのコラボ盤や数々のリミックスワークをフリーDL音源としても精力的に発表している人だ。ただ、ここ数日サウンドクラウドに上げられている(おそらく)新作ビートが凡庸な出来栄えで、本作も不安に思えたものだが、際立った逸品には出会えないものの、それなりに楽しめる楽曲が揃っている。


【○】HAIIRO DE ROSSI『特に考え変わってなEP』
2012.06.14 / 全9曲35分 / 192,256kbps / blog
来月早くも4枚目のアルバムを出すソロラッパー、ハイイロ・デ・ロッシの、"以前からYOUTUBEにしか上がってない音源や、未発売の別テイクVer.の音源"をまとめた作品集。YAKKLEとShing02のコラボ曲のリミックスや24時間空手道場リミックス(SUIKAの遅筆ラッパーATOMがなぜか参加している)、show-kとのビーフ曲、またアルバム曲の別テイクが収録されていたりとファンには嬉しい1枚。


【○】Jinmenusagi『I MAY SICK』
2012.06.15 / 全7曲20分+全5曲15分(Bonus Track) / VBR / blog
次々に若手ラッパーが台頭する中でひと際才気走ってる感のあるジンメンウサギ。そんな彼のもう何枚目に当たるのか分からないぐらいに出ているミックステープの最新作。スキルがありすぎるがゆえに凡人には追いつけない/理解できないレベルにまで行ってしまうことがしばしばで、先のファーストアルバム(正規盤)はまさにそういう作品だったわけだけど、本作はややこちら側に降りてきてくれているラップを披露している。ラップを音楽として聴かせながらもメッセージの込められたリリックや魅力的なフックがある。こうなると自信を持っていえる、あなたはすごいよ、と。


【○】XenRoN『SPREAD MY WING』
2012.06.16 / 全12曲45分 / 320kbps / tumblr
DIORI a.k.a. D-Originuが昨年リリースしたソロ作を新進気鋭のトラックメイカー・シェンロンがマルっとリミックス。"十分伸ばしな君の才能を"と投げかけられて黙っていないのが若手だろうし、"自分の才能を十分開花させる"べく実際に音にすることこそがその才能の証明となる。そうしてこれまで実証してきた彼の相変わらずの創作ペースには舌を巻く。毎月のように何かしらの楽しみをもたらしてくれる。原曲ラップへの解釈の違いが興味深いし、M6に至ってはオリジナル越えも果している。ただ、決定的に後れを取っているのが音の深みだろう。プロとアマチュア。録音環境にかなりの隔たりがあることを考慮する必要はあるが、今回は原作を愛聴していたこともあり、その点での物足りなさが最後まで尾を引く。


【○】lee『past(a) ---2009-2010----』
2012.06.16 / 全7曲17分 / 320kbps / bandcamp
福岡のラッパー兼トラックメイカー、リーがバンドキャンプ開設記念にアップした、タイトル通りに過去の未発表音源をまとめたビート集。トラックメイク自体は2009年から始めたらしいので初期音源も含まれているのかもしれない。鍵盤を中心とした穏やかな音が並び、奇才とも称されるその奇天烈ぶりはそれほど感じられない。


【○】炎楽, fif & NipA『MADE IN MUSASHINO』
2012.06.17 / 全13曲39分 / 192,320kbps / ニコニコ動画
ネットレーベル・武蔵野RECORDSに所属している3人のトラックメイカーたちのソロ作をまとめたビート集。米国で暮らしていたこともある日本人トラックメイカー(先月には向こうのラッパーとのコラボミックステープ[DL先]も出している人と先日トゥイッター上でやりとりする機会があり、その時に彼が指摘したのが、日本人とアメリカ人との"根本的な音楽との向き合い方の違い"だった。"日本は大きい音で鳴らさない代わりにメロディー重視。向こうはドラムやベースなどのリズム重視で踊るのが前提"だという。いわれてみればもっともな指摘であり、それは良い悪いの問題ではなく、そういう国民性なのだ。ただ、ダンス音楽でもあるヒップホップにはもう少し強いビートが欲しいと思うことが日本人トラックメイカーの音を聴いて思うことが多々ある。話はそれているが、本作での3人の音は時に旋律を磨き時にビートを強調させるバラエティに富んだもので楽しめる。その一方で気持ちの良い低音の利きとは別にグルーヴを感じさせるビートがあればなお良いのにとも思うのだ。"踊る"こと、あるいはラッパーが思わずラップを乗せたくなるグルーヴだ。


【○】mikE maTida『"Katteni" FreeStyle Mixtape on DJ 908 a.k.a KREVA』
2012.06.18 / 全12曲44分 / 320kbps / Tumblr
クレバが2月にリリースしたインストミックスCD『BEST OF MIXCD No.2』を丸々使ってのミックステープ。クレバ自身がかなり手を加え、原曲の派手な装いを脱いだシンプルなトラックがその盤には収録されている。彼の親切設計な装飾過多な音にあきれがちなヒップホップファンも楽しめるはずだ。それはともかく本作の前半はフリースタイル気味なラップが続き、"実質、3日で全て作りあげた"というマイキーの言葉が謙遜ではなくただの予防線かと思わせるが、M6辺りからはさすがマイキー!という余裕とユーモアと鋭さの詰まったラップとなる。先月のLBのミックステープ(DL先)でも感じられたことなのだけど、フリーDLのミックステープであっても自分をアピールする作品として捉えると共に聴き手を楽しませるためにエンターテイナーであろうとする姿勢にすごく好感が持てる。それはとても当たり前なことなのだろうが、どこか気恥ずかしさが透けて見えるラッパーが多い中で、彼らがミックステープの完成度を格段に上げている要因のひとつだろう。


【○】狂四郎『demoCD kyousirou silly talk vol.3』
2012.06.18 / 全5曲17分 / 128kbps / Twitter
茨城県土浦市在住のラッパー兼トラックメイカー。しゃがれ声と言葉本来の意味でのもたつくラップはそれだけですでに独自色があり、語りたいテーマも経験もありそうだ。あとはそれを伝えるリリックが紋切型でなくなると面白いのかも。不幸な生い立ちのラッパーが綴るよくあるパターンに陥っている。


【○】ERA『3 WORDS MY WORLD shot-arrow REMIX』
2012.06.19 / 全11曲35分 / 192kbps / Twitter
新作も高評価なエラが昨年リリースしたデビューアルバムのフルリミックス作。MASS-HOLEのを含めると3作目の丸ごと改変盤。アルバムにも参加していたトラックメイカーたちが手掛けた公式盤も良かったが、本作は作り手が無名に近く、名に囚われれずに聴けることもあり、ラップと音とのすりわせの絶妙具合も含め、彼のラップがこれまで以上にすんなりと耳に入ってくる。


【○】WARUSHI『Dreamin' Dreamin'』
2012.06.20 / 全5曲17分 / 320kbps / Twitter
大阪のラッパー兼トラックメイカーによる4枚目のミックステープ。リミックスではなく、同じくフリーDL界隈で活躍するトラックメイカーからオリジナルのビートをもらっての意欲作。自らの技量を把握しているのだろう。誇大妄想や妄言などで無理することなく、今自分でやれることから精一杯表現しようと試みているのが伝わる。分類するなら神門タイプのラッパーだと思うのだけど、フロウで魅せる代わりに言葉で魅了させようとするわけで、そろそろ誠実さ以外の武器も必要かもしれない。


【○】大猫『軒並みEP』
2012.06.24 / 全5曲14分 / 320kbps / YouTube
ネットレーベルStudio Cocoon主宰のひとりでもある大猫の5曲入りミックステープ。これまでもラップは聴いていたが、それよりも注目するならトラックメイカーとしてだった。今回2曲で披露されるラップはこれまでの人生を語るという彼にしかできないリリックであり、惹かれるものがある。そして、やはりビートがいい。少ない音数でのループが太いグルーヴを生み出すM1や中盤での展開に視界が一気に開けるM5と素晴らしい。5曲と少ない(ボーナストラックもあるけれど)こともあり、非常によくまとまっている。


【△】オンレイ『ToyBox#3 -onrei remix-』
2012.06.24 / 全10曲36分 / 160kbps / ニコニコ動画
題名からすると3作目なのだろう。ニコニコ動画で活躍するラッパーが他人のトラックをリミックスした作品。ニコ動特有のあのラップスタイルを受け入れることができる人にはかなりドンピシャなラップをしている。ニコ動にアップされるミックステープを聴くようになり抱いた印象は、ダンス音楽としての側面もあるヒップホップを日本語にどう取り込むのかということに努力を重ねたのが主たる流れだとすれば、それとは別のところで、ラップという歌唱法を利用しながらも、その実早口で言葉を詰め込むという部分だけを特化させていき、結果的に日本独自の特異なヒップホップを作り上げてしまったのがニコニコ動画のラッパーたちなのかなというものだ。ラップとヒップホップは入れ替え可能な言葉程度に考えているし、これもそれもヒップホップだが、グルーヴの感じられないラップには不満を覚える。また、ないならないで言葉を磨けばいいわけだけど、本作にはそれもない。


【○】N▲OTO T△G▼CHⓘ『Silent Real.EP』
2012.06.25 / 全12曲15分 / 320kbps / bandcamp
7枚目のミックステープとなるOilworks Rec所属、東京在住のトラックメイカー・ナオトタグチのリミックス集。4月2本、先月4本とフリーで出しつつも、バンドキャンプ上では有料配信も始めいていて、目覚ましい活躍を見せている。本作はこれまでの作品に比べるとグッと聴きやすくなりありがたい。


【○】yΔGi『fL◇wErs EP』
2012.06.25 / 全8曲17分 / 320kbps / bandcamp
ILL.SUGIともコラボ作を出しているトラックメイカー・ヤギのビート集。冒頭から頭を押さえつける音の圧力が尋常ではなく、しかも同時に華やかさや上品さといったものまで内包している音が鳴らされ、あまりありえないような不思議な組み合わせに魅了される1枚。


【○】ICE 2 BLAST『ICE 2 BLAST』
2012.06.27 / 全8曲27分 / wav / blog
高音がSALUで、低い方がAK-69なふたり組。KCとS2-AKからなる新潟県長岡市のラップデュオ。S2-AKは昨年末にミックステープ(DL先)を出しているので、低い方が彼だと分かる。ビートにはよく乗れてるが、それだけでもある。言葉が驚くほど残らない。こうなると原曲の洋楽ラップを教えてくれる機会を与えてくれる作品と捉えることもできる。英語を織り交ぜる活きのいいラッパーにISH-ONEやKOJOEらがいるけれど、彼らは印象に残る日本語のフレーズをどの曲でも盛り込んでくるわけで、改めてすごいんだなという確認にもなる。終盤、特にM6とM8で低音が頑張ることもあり、不満は解消されつつ聴き終えることができる。


【○】DJ 大自然『空耳ックス』
2012.06.28 / 全37曲41分 / 160kbps / blog
"空耳アワード2012"の覇者DJ大自然による過去のアワード曲を盛り込みつつ伝説の空耳曲をミックスした作品。どうしてこれまでなかったのか不思議だ。もちろんあの面白映像があってこそ空耳度が強まるという側面は否定できないわけだけど、曲名欄に空耳された言葉が記入されているため、それがどこなのか探すのも楽しいし、テレビで流れた時にどんなビデオだったのか思い出すのも乙だ。通な方はきっと自分ならこんなVにすると想像力の翼を羽ばたかすことだろう。最高。ちなみに彼が栄冠に輝いた空耳曲はM3。いわずと知れたOl' Dirty Bastardの「Goin' Down」。
参考:空耳アワーのデータベースサイト→「空耳アワーアップデート


【○】Otokaze『O T O K A Z E』
2012.06.29 / 全9曲34分 / 320kbps / bandcamp
昨年4月にtaka a.k.a otokaze名義で発表したミックステープ『World Peace』に続く作品。そのテープではShing02やSEEDA「花と雨」のリミックスとオリジナルのインスト曲が半分ずつ収録されていたが、今回は全て彼のビートとなっている。四季をひと巡りする構成からも明らかなように和を強く意識した音作りになっていて前作よりもはっきりと個性が打ち出せている。MichitaやNomak好きな美メロファンにはたまらない1枚だろう。


【△】SheepHorse『Beat Jackin's』
2012.06.29 / 全曲37分 / 128,256(m4a) / Twitter
NYKとRAZUによる大阪のラップデュオ。2月頃から地道にサウンドクラウドにアップしてきた曲をまとめたもので、新曲はなし。ミチタやBLAZO、観音クリエイションなどの美メロトラックやおそらく彼らに多大な影響と希望を与えたであろうKICK THE CAN CREWのリミックスによる11曲。プロフィールに"日本語ラップ愛好家"と書いているように、最近はただのリスナーに甘んじるのではなく自ら積極的にラップをしようというムードがトゥイッターを中心にしておきていて、それは日本のヒップホップの裾野を広げる動きでもあり、良いことなのだろう。ただ、スリーコードを学んだからすぐに名曲を弾けるわけでも、写ルンですでいくら撮っても明日からHIROMIXになれるわけでもなかったように、どんな名曲トラックにラップを乗せたからといって偉大な曲になるわけではない。概してそうしたリスナー兼ラッパーたちは、本職ラッパーたちがひた隠しにする最初期の音源すらもそのまま表に出す傾向にあり、だからこそ急速に磨かれるという側面は否定しないまでも、まあよくやるよねと思ってしまう。本作も頑張っているのは分かる。


【○】092 A.K.A. Skunky『Think Twice EP』
2012.06.30 / 全7曲23分 / 320kbps / SoundCloud
和歌山のラップデュオ・アストニッシュから092が7曲入りのソロ音源を無料配信。アストニッシュでは2枚の作品があり、彼が参加した客演曲などでおそらくそのラップに触れてはいるのだろうけれど、ほ記憶にない。それなりの活動歴が示すようにラップの技術に不満はないが、パンチラインに乏しく、だからどうしたという印象に留まる。唯一面白かったのがM5ぐらい。韻シストのBASIが1曲で参加しているがこちらもかなり不満の残る出来。


【○】Yasuark『Y's Ark』
2012.06.30 / 全12曲分 / wav,256kbps(m4a) / blog
名古屋のソロラッパー。この人も活動歴自体は長いが、スタイルがいささか古臭く、ソロ曲では忍耐を必要とする。が、客演が入ると一気に聴きやすさが増す。名古屋産のビートが中心であることには好感が持てるし、先月同じくフリーDLミックステープ(DL先)を出したUNIVERSAL TOSHIKIも参加していて、勢いのある名古屋が気になる人には楽しめるかも。




【○】MNU『The Crecy』
2012.03.19 / 全6曲13分 / VBR / HP
Low High Who?が4月に出した無料コンピ『GOLDEN DEMO 2』(DL先)にも収録されていたラッパー兼トラックメイカーMNU/万年ユウの初作品。なぜかM3「Evanz」がない。先のコンピでは特に気に留めなかったが、こうしてまとめて聴いてみるとそのヌメッとした声質のラップはそれだけでもすでに特徴があり、オリジナリティを獲得している。ただ、クセの強い声質とトリッキーなラップ以上に魅せられるところがあるかといえば微妙ではある。




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<まとめ>
2010年〜2011年1月〜8月分 Tegetther
2012年1月分 blog
2012年2月分 blog
2012年3月分 blog
2012年4月分 blog
2012年5月分 blog

・「JPRAP.COM presents "The Se7en Deadly Sins"」 →記事(2011.05.26記)
  2010年の主要フリーダウンロードミックステープについてもある程度まとめてある。
・「昨今の国産ヒップホップ・無料DLミックステープ事情」 →記事(2011.09.30記)
  2011年前半の作品に焦点を当てて書いた記事。
・「VA『Fat Bob's ORDER vol.1』」 →記事(2011.10.07記)
  記事の最後に名古屋関連のミックステープのまとめがある。
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2012.06.30 Saturday 23:59 | 音楽 | comments(6) | trackbacks(0)
甘い人生 / 달콤한 인생

59点/100点満点中

2005年の韓国映画。『悪魔を見た』でもイ・ビョンホンと組んだキム・ジウン監督のサスペンスアクション。

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キム・ソヌはまだ若いにも関わらず裏社会にも絶大な力を持つカン社長の右腕としてソウルの高級ホテルを切り盛りしている。カンは、若い愛人ヒスに別の男がいるのではと疑い始める。そこで彼はソヌに彼女を監視させることに。浮気が発覚した際はすぐさま始末するか、あるいは出張中の彼に連絡するよう命じられるソヌだったが・・・。
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2004年から盛り上がる日本の韓流ブームの真っただ中に封切られた作品で、本作の買い付け額は3億円以上だったそうだ。それがどれだけすごいのかはよく分からないがウィキに書かれている。ハリウッド進出のきっかけともなる作品だったそうだ。その2009年の『G.I ジョー』は劇場で見ている。英語のセリフに違和感なく、容姿の面でも遜色のないイは確かにかっこよかったし、日本の若手に同じような存在がいないことを非常に残念に思ったのも覚えている。

まぁそれはともかく、本作自体はとても酷いものだ。イのファンのためだけの作品であり、彼らにとってはその魅力が余すところなく詰まっているのだろうが、韓国映画に求めるバイオレンス度は瞬間的には高い箇所もあるものの、イの甘いマスクがすぐさま中和していく。

前半の50分はできる男としてのイ・ビョンホンが描かれる。淡い恋らしき出会いもあるが、プラトニックなもので女性ファンを悲しませることはない。続くのは唐突なコメディパートとなる銃の取引。イを置きざりにする不思議なシーンで、後半の正義の味方(しかしイは正義を背負っているわけではなく、ある意味逆恨みに近い)が悪人の巣窟に単身踏み込んでいくというやや西部劇(ちゃんと見たことはないけれど)風の設定への導入部となる。銃撃シーンで流れる音楽のアレンジも踏まえれば西部劇を下敷きにしていると思うのはあながち間違った憶測ではないのかも。もちろんファン思いの彼は役としては死んだ後も再び生き返り、お別れのシャドーボクシングを披露してくれる。いつだってかっこいい男なのだ。

プロモーション映画と考えれば脚本などどうでもいい話で、イ・ビョンホンがひたすらかっこよく映っていれば十分だ。その意味では本作は間違っていない。ただ、彼が男前であることは認めつつも、映画としての完成度を思えばいくつもの不満が挙げられる。

まず、イ演じるソヌとボスのカン社長の情婦の関係だ。彼の年齢設定は分からないが、ロリコンのボスとは違い、もう少し成熟した女性を好みそうな印象を抱く。が、冒頭の意味深な師匠と弟子とのエピソードを持ち出すまでもなく、彼が彼女に少なからず心が動いたとされる。その理由付けが弱い。ソヌの内面やこれまでの人生がほとんど描かれていないからだ。過去に何かしら彼女と似た境遇の少女との出会いがあったとかいうベタなエピソードのひとつでも、あるいは殺伐としすぎる暴力浸りな人生を送ってきたので彼女のチェロの音が癒しとなり惹かれた(とはいえ基本的には彼はホテルマンだ)とかがあればまだ良かったのかもしれない。もちろん演技力で沈黙の人生を語らせてもいいわけだけど、昔裏切った仲間を非情にも罰したことや背中に刀傷があるなどといった描写に留まり、説得力がない。

生き埋めからからくも脱出できたと思われた直後に立ち去ったはずの兄貴分が待ち構えているシーンはそれなりに楽しめるし、その後の大立ち回りも悪くない。が、武器を手に入れた後、因縁のある敵との一騎打ちで、後半の大ボスとの闘いに赴く時にすでに手負いの状況というハラハラドキドキ度を上げたいがために、それまで不意打ち以外では圧勝してきた彼がちゃちな手に乗り重傷を負うというのもふざけた展開だ。他にも、街の親分衆が揃っているホテル内でサイレンサーもつけずに銃をぶっ放しながら敵の配下を排除し向かうというのがあまりに絵空事過ぎてげんなりさせられる。あと、格式高そうなバーのバックバーにイェガーマイスター置き過ぎ。

まあ、イ・ビョンホンの甘い表情から野性味あふれる凛々しい表情まで存分に堪能できる映画であることは確かだ。アクションだったりバイオレンスを求める向きにはやや難があるだけの話。
2012.06.29 Friday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
スカーレットレター / 주홍글씨

59点/100点満点中

2004年の韓国映画。サスペンスラブストーリー。主演は『シュリ』や『カル』のハン・ソッキュ。共演のイ・ウンジュは公開後の2005年2月に自殺し、本作が遺作となる。

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写真スタジオの店主が頭を割られ惨殺された状態で発見される。担当することになったギフン刑事は、第一発見者の妻ギョンヒを疑う。最初は簡単な痴情殺人と思われたが、捜査は遅々として進まない。そんなギフンは妻スヒョンがいながら、彼女の音大時代の親友でクラブ歌手のカヒと不倫していた。スヒョンの妊娠を機に、カヒとの関係を整理しようとするが・・・。
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白昼堂々と行われた写真スタジオでの殺人事件。被害者はスタジオの主。死体を見つけ連絡したのはその妻。不思議な魅力を放つ妻のギョンヒに不倫している男がいたのではないか、それを夫に咎められカッとなって殺したのではないかとギフン刑事は疑うが、確たる証拠はなく、また不倫相手と思しき人物との証言も信憑性に欠ける。上司からは捜査の進捗にはっぱを掛けられるものの、最初に抱いた印象よりも難しい事件であることが分かってくる。

その一方でギフン刑事の私生活ものっぴきならない状況に陥る。従順な妻のスヒョンが身籠るも、彼女の友達でもあるカヒとの関係を依然続けようとする。しかし、彼女の妊娠を知り、カヒは心穏やかではいられない。自分が日陰の身であり、またスヒョンはソロのチェリストとしてオーケストラとも共演しコンサートを行えているのに、自分はしがないクラブシンガーでしかないことを思い、ギフンに当たり散らす。

ミステリとしての物語はいつの間にか忘れ去られていき、物語はギフンとカヒの密室での愛憎劇でクライマックスを迎える。だから、どうにもどっちつかずな印象を抱いてしまう。写真スタジオ店主とその妻ギョンヒと男性客との関係が、ギフン・カヒ・スヒョンのそれと相似を描くものだったりするならばまだしも、そういう風には展開せず、ほとんど切り離されたふたつのエピソードになってしまっているのだ。狭いトランク内でのふたりの演技が鬼気迫る見事なものだけに余計に残念。ギフンが持つ強力な銃をもっと効率よく使えばあっさり脱出できるだろうし、カヒとスヒョンの関係(これがあるから序盤のふたりの対面が別の意味を持ってきて興味深い)まで言及しておきながら、スヒョンの中絶の過去などの詰め切れていない部分でも脚本の弱さが露呈する。


カヒ役のイ・ウンジュの自殺の原因は本作にあるとの報道があったようだ(→リンク [ネタバレな記述もあるので注意])。実際には遺書は公開されなかったようだけど、本作を見る限りではここでの演技で問題があったとは思えない。ヌードになったとはいっても胸から上のショットのみであり、オッきれいなお尻と思ったらギフン役のハン・ソッキュだったりと、巧みなカメラワークを用いての雰囲気重視な映像になっている。血糊まみれのラストシーンにしても、あの程度の演出が原因で死なれたら、映画製作側が困るだろう。ただ、若くて演技もできて脱ぐべき時にしっかり脱げるという女優は日本でもそうだけど、少数なだけに惜しい人を亡くした。

お人形さんのような固まった表情の演技ばかりをしていたスヒョン役のオム・ジウォンがチェロを弾くシーンは演奏経験が本当にあるのではないかと思うぐらいに堂に入ったものでうまい。

原題も"朱紅の文字"を意である。作中でカヒが自分の子供に"真珠(チンジュ)"、つまりパールと名付けたいと告白するシーンがある。ナサニエル・ホーソーンが著した19世紀のゴシックロマン小説『緋文字』で、若い人妻と牧師との間にできてしまった女の子の名前がパール。そして、"スカートレター"とは"姦通者が胸に付けさせられた緋色の布で作ったadulteryの頭文字A"を意味するそうだ。
2012.06.28 Thursday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
友へ チング / 친구

58点/100点満点中

2001年の韓国映画。青春ドラマ。主演には、先日見た『アタック・ザ・ガス・ステーション!』で"無鉄砲"役だったユ・オソンと、後に"韓流四天王"のひとりと称され日本でも熱狂的なファンを生み出したらしいけれど、私には日本人ラッパーの般若のリリックにある"ババアの待受けチャンドンゴン"でようやくその存在を知ったチャン・ドンゴン。

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1976年夏の釜山。ヤクザの親分の息子ジュンソクと葬儀屋の息子ドンス、優等生サンテク、お調子者のジュンホの4人の小学生は育った環境は違うものの幼なじみの大親友だった。小学校を卒業し別々の中学へと進学。高校で4人は再び顔を合わせるが、以前のような親密な仲にはならない。ようやく屈託なく笑い合えるようになった直後に事件が起き、ジュンソクとドンスは退学していき、4人は別々の道を歩み始める。
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韓国では1999年に大ヒットを放った『シュリ』や2000年の『JSA』の興行記録をあっさり抜き去り、2003年の『シルミド』に破られるまで歴代1位だった人気作。ドラマ「冬のソナタ」の大ヒットに始まった2004年頃の韓流ブーム以前の映画ではあるけれど、確か日本でも話題になったはずで(公開は翌年の2002年)、予告編が劇場で流れていたのを覚えている。

小学生だった1976年、高校で再会する1981年、1983年にはジュンソクとドンスのふたりとサンテク、ジュンホのふたりの歩む道にさらに隔たりができている。優等生サンテクと率先して笑いを取りにいくジュンホは高校を無事卒業し大学生に。ヤクザのひとり息子ジュンソクは麻薬に走り、ドンスは家業を嫌い渡世人となっていた。そして1990年。ジュンホは結婚し店を出し、本作の語り手でもあるサンテクはアメリカ留学を目前に控えている。一方で、別組織の若頭的存在にのし上がっていたジュンソクとドンスは対立し合い、チング(親旧。韓国での使い方のニュアンス→信頼と実績のYahoo!知恵袋から)だったはずのふたりは周囲の思惑もあり、修羅場に突入してしまう。

それぞれの年代の4人を描いていくが、言葉の端々に辛うじて体制の状況だったり、着ている服や音楽、あるいは街を走る車に当時の風俗が表れるだけで韓国という国自体の変化の流れはほとんど垣間見られない。あくまでも4人が歩む人生に焦点が当てられる。

映画を見る際、事前情報を得ることなく素の状態で鑑賞することにしている。が、本作に関しては監督が経験した実話をベースにしていると先に知ってしまっていたためか、どうにも追想にふけりがちな演出に辟易しがちになる。それでもラストシーンでのソンテクとジュンソクのやりとりには涙腺が危うくなるのは認める。それでもやはり本作を評価する気になれないのは自身の思い出を肯定するのは当然としても、ヤクザ者を美化し結果的に擁護しているように見えることだ。ヤクザであってもチングであり、ひとりの人間であるという思いがあるのだろうが、共感という評価基準を排除しているものの、最後の最後までヤクザとしての美学を誇る姿を感動的に描いてみせることに後味の悪さが残る。


そんなことをエンドクレジットを見ながら思ったわけだけど、みんなの知識の集積地ウィキペディアで、監督のクァク・キョンテが"映画のモデルになった暴力団組長に揺すられて多額の謝礼を支払った"と知り、ジュンソクが正しくヤクザであり、ちょっと嬉しい。

作品中で話題になる水泳選手のチョ・オリョンとは、"1970年と1974年のアジア競技大会で2種目連覇を果たし"、「アジアのオットセイ」とも呼ばれた名選手だそう。2009年に56歳の若さで亡くなるが、その前年には、"独島宣言文に署名した33人の民族代表"を讃えるという趣旨で、泳いで竹島(独島)を33周する"独島プロジェクト"を行っていて、なかなかの愛国者だったようだ。
2012.06.27 Wednesday 23:58 | 映画 | comments(1) | trackbacks(0)
公共の敵 / 공공의 적

49点/100点満点中

2002年の韓国映画。『シルミド』や『黒く濁る村』のカン・ウソク監督によるサスペンスアクション。主演はソル・ギョングとイ・ソンジェ。共演には『黒い家』で不気味な演技を見せたカン・シニルや、チンピラがまさにはまり役のユ・ヘジン(『黒く濁る村』『生き残るための3つの取引』)ら。DVDスルー作。

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韓国・ソウル東部に位置する江東(カンドン)地区の強力班所属の刑事カン・チョルジュンは、豪雨の中張り込みしている時に黒いレインコートを目深に羽織った男からナイフで切りつけられる。1週間後、その現場近くで老夫婦の惨殺死体が発見された。悲しみに沈むひとり息子でエリート会社員でもあるチョ・ギュファンと相対したカン刑事は自分の頬を切ったのも、両親殺しも彼だと確信するが・・・。
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見始めてすぐに失敗と分かる作品。映画として撮られているらしいが、テレビでの2時間ドラマの刑事ものといった趣なのだ。凡庸なカメラワークであったり、いかにもスタジオらしい安普請さだったり、照明の当て方、展開の安直さ、説明的な口調などなど。日本では劇場公開されなかったのも納得だ。

ヤクザから薬を強奪し密売しようと企てるなど、悪徳警官としてならすカン刑事が、ナチュラルボーンキラーな悪役ギュファランと相対する中で、本来あるべき警察の理想の姿"民衆の盾"に徐々に目覚めていくお話。そうはいっても、その直感だけを頼りにする強引な捜査手法は批判されてしかるべきだし、そもそもこの手の韓国映画での使えない警察を見るたびに毎回思うのだけど、韓国の人たちは相当に彼らに怒りをためていて、こうしてあんぽんたんとして描写することでその憤りを解消しているのかしらと邪推してしまう。

老夫婦の殺害された地区を岩寺(アムサ)というらしい。韓国の地理を全く知らないのだけど、坂道や細い路地の多い景色から、おそらく『チェイサー』の舞台と同じ一帯らしくて、雰囲気もいいし、一度実際に見てみたい。韓国映画を見ているとどうしてこれだけ近い国なのにいままで遊びに行こうと思わなかったのか不思議になる。

先日見た『アタック・ザ・ガス・ステーション!』にも出ていたユ・ヘジンが派手な服を着たチンピラ役で出演している。取り調べ中に様々な刃物を間近で見せられ目を輝かせるシーンなどがあり、ファンとしてはたまらない。
2012.06.26 Tuesday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
H [エイチ]

58点/100点満点中

2002年の韓国映画。サイコスリラー。『カル』ではヒロインの親友を演じたショートカットの似合うヨム・ジョンアが主演。大ヒットドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」のチ・ジニらが共演。

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ゴミ捨て場で女子高校生の死体が見つかる。妊娠中だった被害者の体内から胎児が引きずり出されていた。1ヵ月後、今度はバスの中で腹部を引き裂かれた臨月の女性の死体が発見される。どちらの犯行も1年前の連続猟奇殺人事件に似ていた。6人を次々に惨殺した連続猟奇殺人犯シン・ヒョンは自首し現在は刑務所に服役中だった。事件を担当する女性刑事キム・ミヨンと相棒のカン・テヒョン刑事は真相を探るべく彼との面会を試みる。
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残虐な描写やカメラワークなどは『カル』の野暮ったさからずっとアメリカナイズされて悪くないし、どの場面も強く印象に残る。女性を主人公に据えて服役中の連続殺人鬼に会いに行く設定など『羊たちの沈黙』を強く意識していながら、それだけに留まらない物語は評価するものの、残念なのはショッキングな冒頭のインパクトを最後まで引っ張れないことか。

1年前の連続猟奇殺人を犯人が模倣した真相が、"えっ、それ?"というあっけなさについては問わないでおこう。例えレクター博士ほどの怪物であっても無作法な隣人を咎めるのにかかった時間を思うと、ちょっと安直すぎかなと考えるにせよ、そもそも作り物のお話であり、それでいいと思う。

それよりもオチでの一撃が不満だ。観客にとっては驚きであるし、登場人物にとっては救いでもあるわけで、ハリウッド映画でこういう終わり方をされるとそれだけで結構高評価になるが、今回はどうしてその結論に行き着くのか根拠がどうにも薄弱で、監督や脚本家がただ驚きを与えたかっただけにも思えてしまうのだ。特にかつて救えなかった恋人を今回はどのような形であれ、生きるという意味では救うことができるのだ。ショートカットが似合うクールビューティとはいえ、吸い慣れてなさそうなくわえ煙草のドヤ顔ショットの連続にちょっと辟易していたという側面も否定できないが。
2012.06.25 Monday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
アタック・ザ・ガス・ステーション! / 주유소 습격사건

55点/100点満点中

1999年の韓国映画。コメディ。『生き残るための3つの取引』で不敵なチンピラ社長を、『黒く濁る村』でも端役ながら印象に残る演技を見せるユ・ヘジンが不良の親分役で出演している。顔立ちが今とあまり変わらないのですぐに分かる。歌やダンス、ドラムを披露しているのも面白い。

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深夜のコンビニでつまらなそうにカップラーメンをすする4人の若者。暇なので前夜に続き同じガソリンスタンドを襲撃することに。店側も警戒していたため大金を置いていない。仕方なく社長と3人のアルバイト店員を事務所に監禁。その間にも客がひっきりなしにやってくるので彼らは店員になりすまし給油をするものの、やがて生来のいたずら心がむくむくと湧きだし・・・。
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レンタルDVD屋で韓国映画の棚をア行から見ている時に初めて見るタイトルだけど気になり、手に取ってみたらパッケージにどこそこの映画祭で受賞とあり、思わず借りてしまった駄作。

暇を持てあました無軌道な若者4人組が深夜のガソリンスタンドを占拠し好き放題やる話。ガソリンスタンドなものだから当然給油を求める客がやってくるわけで、その面白楽しいやりとりや地元の不良高校生たちが来襲したりというドタバタコメディとなる。脚本のリズムが非常に悪く、また1999年ということもあるのだろうが、映像のセンス(逆さまに映る4人組のカットなど)が古臭く、演技力の面でも不満を覚えることが多々あり、何度DVDを止めようとしたか分からないほどだ。しかも113分と無駄に長い。ただ、リズム感の悪さが定石外しにもなっていて、不思議な味わいが生まれているのも事実。

捕えられた不良グループに歌わせたりする場面は楽しいし、またジャンケンをする際に次の一手を占うために手の甲に人差し指を当て出たそのシワの数で出す手を決めるという子供の頃に実際に自分もやっていたことが韓国でも行われているのを確認できてなかなかに興味深い。

それと、体罰の一環としての"頭を伏せる"というのも初めて見るもので気になった。まずハイハイの形になり、次にそのままの体勢で頭頂部が地面に付くようにし、さらに体を膝下ではなくつま先だけで支え、最後に両手を後ろで組むように持っていく。首の筋肉を鍛える体勢でもあると思うのだけど、"頭を伏せろ"と号令がかかると少年たちはもちろん中年のガソリンスタンド経営者も同じ姿勢を取ったので、向こうでは誰もが理解できる罰のひとつなのだろう。

外国の映画を見ていて面白いのはこういう風俗に触れることができるからだ。韓国なんてとても近いのに今まであまり馴染みがなかったわけで、歌から入るにしろ、映画からにしろ、とりあえず相手を知るということはとても良いことなのだろう。
2012.06.24 Sunday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
カル / 텔 미 썸딩

57点/100点満点中

1999年の韓国映画。サスペンススリラー。主演は『シュリ』のハン・ソッキュ。題名は韓国語で"刃物"の意

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3つのバラバラ殺人事件が発生。チェ刑事が猟奇殺人を追う中で被害者と過去に交際していた美女チェ・スヨンが捜査線上に浮かび上がる。
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アジョシ』を見て、韓国映画に今さらながら目を見張った身としてはサスペンスやアクション路線の流れぐらいは押さえておかなければいけないだろうと過去作を手を取ってみることにした。

殺人の追憶』に感銘を受けて以来ポン・ジュノの諸作はさすがにチェックしているし、同じように『オールド・ボーイ』に度肝を抜かれてからはパク・チャヌク監督のバイオレンス物は見ている。他には『チェイサー』や『哀しき獣』、『セブンデイズ』、『黒い家』、『映画は映画だ』、『息もできない』、『生き残るための3つの取引』、『悪魔を見た』、『パラレルライフ』、『黒く濁る村』、『ビー・デビル』と最近話題になったものはできるだけ見てきたつもりではいるので、それ以外でこの路線での傑作はないかなと受験生にも役立つ「Yahoo!知恵袋」を覗いてみると便利なQ&Aを見つけることができた。さすが知恵袋、助かる。これを参考にいくつか見てみようと思う。

とりあえずは一番古い『カル』から。さすがにタイトルだけは知っていた。何でも猟奇殺人ネタは"韓国映画界では御法度とされていた"そうだ。その真偽の程はともかくとして、アメリカ映画でいえば『羊たちの沈黙』や『セブン』の系統に大きく影響を受けている。冒頭の切断される人体はかなりリアルで恐ろしく、良作の雰囲気が漂う。

黒いごみ袋に入れられた何人分かのバラバラ死体が次々に発見される。どうにか被害者の身元を判明させると彼らがスヨンという女性の元恋人達だったことが明らかとなる。事件を担当するチェ刑事が彼女を事情聴取する過程で不幸な家庭環境などが浮き彫りになり、同時に彼女に寄せる想いも芽生えていく。その一方で容疑者と思しき人物を特定するもすぐに殺されてしまったりとミステリ要素も色濃く、監督が描く狭い視野での物語とはいえ惹きつけられるものは確かにある。しかし、カット割りなどの編集やカメラワークが非常にもったりしているために、10年以上前の作品で仕方ないにせよ、緊迫感に欠ける点は否めず、途中で危うく眠りに落ちかけるほど。

ラストシーンの、一応アッと驚く仕掛け(記憶の誤解と真犯人)はそこに至るまでの展開にスムースさがないこともあり、観客をただ驚かせたいだけの無粋さに鼻白むことになる。また、序盤でのチェ刑事とその同僚とのいざこざといったその後の物語で回収されない(刑事仲間の中で孤立し捜査が妨害されるわけでもない)エピソードなどもあり、そうしたすっきりしない脚本にも、もたつく映像同様に不満が残る。
2012.06.23 Saturday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
不可思議/wonderboy「所信表明演説」

「所信表明演説」(アカペラ)
作詞:不可思議/wonderboy

夜の九時半 まだいける もういけない もう無理だ もう行かなきゃなーー
夢と現の間を行ったり来たりしながらバイトに行く準備をする時の夜の九時半は
人生が最もどうでもよくなる瞬間です
ああもはや コンドームになりてーーーーーーーー
精子を受け止めるごとに一喜一憂しながら安らかに死んでいきたい
使い捨てられたコンドームのような気分で僕と僕の自転車は深夜のコンビニへ

おはようございます おはようございます 今日も一生懸命頑張ります
無愛想がモットーの接客で僕はスパスパレジを捌いていき
奥のレジでは賞味期限切れの弁当が次々と大量に積まれていくのです
その光景に 僕は僕の日常を重ねてみたりします

確かに廃棄の弁当を捨てるように毎日を過ごしてるなー
なんて考えてると ふとお客さんと目が合いました
"独特な世界観ですねー 凄く独特で独特な世界観ですよねー
いやなんていうか世界観が独特ですよねー いやもう独特が世界観ですよねー"

って独特独特うっせーよ!
全部ブルーハーブのパクリだよ!
ブルーハーブをパクり 降神をパクり 小林大吾をパクり それでも飽きたらずに
猫道さんや今村さんや石田百合さんや桑原滝弥さんやついには谷川俊太郎までをもパクり
鳥居みゆきをパクり 村上春樹をパクり 浅野いにおをパクり
今までに見聞きしたもの全てをパクり これ即ちwonderboyですけどなにか?

"見つけ出す宝のありか オレ壊してくバリア"とか
小学生の作文の語尾をダジャレにしたようなリリックでなにがヒップホップだよメーン!
なにがラップだよメーン!

"あのぉ 今度渋谷のどこそこってゆークラブでぇ 誰々ってゆー音源とかガンガン出しちゃってる
ヤバいラッパーと一緒にライブやるんでぇ マジ良かったら来てくださいよぉー"
っていう口調の奴は信用できない
つまりオレは信用できない
そういう奴に限ってmixiのプロフィールがまるでアーティストみたいで
あれ? 職業の欄 アーティストって書いてある!
あんなにライブ ダサかったのに?

あーー信用できない信用できない
もうPerfumeしか信用できない
「おいしいレシピ」の"上げたり下げたりしてください (オッケー☆)"
の"(オッケー☆)"のあ〜ちゃんしか信用できない

だいたいねー
ヒップホップなんて 大っ嫌いなんですよ!
ヒップホップなんてねえ
ええ
なに?
じゃあなんでお前はラップやってるのかって?

それは

それは

それは...

お お母さんが... やれっていうから

"つよしー 今日はちゃんとリリック書いたのー?"
"うるさいなあ今から書こうと思ってたとこ!"
"つよし リリックは書いたのかお父さんが見てやる"
"いいから いいから"

だからねー いいですかお客さん!
と 僕は面と向かっていってやったんですよ!
アンタはねぇ なにか勘違いされてるようだが
リアルだとか オリジナリティなんてものは 端からうちの店では取り扱ってないんですよ!
そんなものはねぇ どこか北の方の永久凍土の中を掘りに行くか
タイムマシーンで地球が生まれた頃にでも行ったらいいんですよ!

ってね

お後がよろしいようで
どうもwonderboyです

(ヨォワンちゃん)




「所信表明演説」
不可思議奇譚demo.ep』収録
音源版 →YouTube
ライブ版(『40分』@新宿MARZ [2011.3.25]) →YouTube

(参考)
Perfume「おいしいレシピ (live)」 →YouTube
2012.06.23 Saturday 10:25 | 音楽 | comments(0) | trackbacks(0)
チェイシング/追跡 / Tenderness

68点/100点満点中

2009年のラッセル・クロウ主演によるクライム映画。DVDスルー作。

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ニューヨーク州郊外。両親を殺した18歳の少年エリックは2年間の服役を経て出所した。担当刑事クリストフオロは、彼が未解決の少女殺害事件にも関与しているのではないかと疑う。16歳の少女ローリは、ニュースでエリックの姿を見た瞬間、強い衝動に駆られ家を飛び出し、エリックの元に向かう。そのエリックは服役中に知り合った少女と遊園地で会う約束をし、車で向かう。クリストフオロ刑事がその後を追う。
************************************

ラッセル・クロウ出演作品は彼の熱演もあり、あまりハズレがないのだけど、これは微妙だ。主演とはなっているが、ジョン・フォスター演じる両親を殺害した少年エリックとその彼につきまとう少女ローリの物語であり、ふたりの後を追う形で刑事クリストフオロ役のクロウが登場する。もちろん重要な役どころではあるし、映画に重みを確かに与えることには成功している。

原題は"Tenderness"、つまり"愛情"であり、その表し方を間違えている、あるいは他人や法律からは理解されない形でしか表せない、ある意味でかわいそうな少年(外見は完全に青年)の話となる。ただ、"かわいそう"ではあるが、犯罪行為であり、社会の規範からも大きく外れている。映画は同情的な視点で終始描いているために、どうなんだろうと思わないこともない。

ともかく邦題やDVDのジャケットはクロウがまた拳銃を持ってバンバンやる映画だと匂わせている点で残念なことは確かだ。ゆがんだ形でしか愛情を示せない少年と、その愛情を勘違いした少女、そして同じ物いわぬ肉体にも献身的に情を注ぐひとりの中年男性の物語であり、もう少し違った描き方があったのではと思うやや中途半端な出来だ。
2012.06.22 Friday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
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