2012年7月に発表された国産ヒップホップのフリーダウンロードミックステープの一覧。
JPRAP.COMや
2Dcolvics、そして
@KSK1988さん(最近呟いていなくて心配です)から情報を得ているおかげで、毎月首尾良く落とせています。感謝です。
今月S.l.a.c.k.のミックステープが出された時に再生できないという呟きを多く見た。ウィンドウズとマッキントッシュとの互換性に原因があるらしく、フリーダウンロードではよく起きる現象ではあるのだけど、困っている人もいたので対処法を記しておく。
上の画像(クリックで拡大)はそのスラックのzipファイルをウィンドウズで落とし、解凍ソフトで開いた直後のもの。上のバーにある"種類"の欄を見ると通常の"mp3ファイル"とただの"ファイル"が混在していることが分かる。この"ファイル"が問題となる。ただ、ファイル名("名前")の欄では末尾が"mp3"になっている。つまり拡張子が機能していないからmp3ファイルと認識しないわけで、ひとつひとつ手作業で"mp3"の前に半角でドット(".")を打ち込むと通常のmp3ファイルになる。jpgも同様。文字化けに関してはiTunesで読み込めばしっかり表示されるはずだ。
てっとり早くお勧めを教えてくれという方には上の3枚!左端は滋賀県のNakajiというラッパーの2.5枚目。基本的には昨年の作品のリニューアルだけど、音質も向上し、さらに魅力的な作品になっている。真ん中が福岡在住の18歳とまだまだ若いラッパー・NF Zessho(絶招)の2本目のミックステープ。最後右端は神奈川を拠点にしているCBSというグループで廃れつつあるヒップホップ美学を思い出させてくれる。ジャケットクリックでDL先に飛びます。
【○】N▲OTO T△G▼CHⓘ『Thug Life.EP』
2012.07.01 / 全12曲17分 / 320kbps /
bandcamp
今月も勢いが止まらないナオトタグチのビート集。現在日本で一番量産しているトラックメイカーのように思う。収録時間も短いし、結構聴き込むのだけど、いまだに彼の音の良さを理解できない(全く琴線に引っかからないということではなく、十分かっこいいとは思うのだけど)のはヒップホップの本質を理解できていないからだとは思う。
【×】黄昏ビーツ aka SHIDO『ユーグレスクエアEP Beta Ver. MegaMix』
2012.07.01 / 全17曲60分 / 128kbps /
SoundCloud
大阪在住のトラックメイカーのビート集。主にニコニコ動画で活躍しているよう。ただ、ニコ動のトラックメイカーにしてはきれいな上音を追求するのではなく、ボトムに力を入れている印象だが、モヤモヤした音になってしまい、曲全体がしゃきっとしない。当然展開も少ないものだから眠気を誘う。しかも60分と長い。
【○】NONKEY『NONKEY Pon Di Riddim』
2012.07.01 / 全5曲15分 / 192kbps /
blog
配信終了。イベントでの名司会ぶりも際立つ横浜のラッパー・ノンキが昨年8月に続き今年もミックステープを配信。M2のみ既発。M1では定番テーマの"自画自賛"であっても才能あるラッパーの手にかかればこんなにも見違えて楽しくなるというまさに見本。弟子にあたるアイドルの窮地を言及したフリースタイルで始まるM3では現代政治を切ってみせるが、どの曲でも面白おかしく聴けることが基本にあり、さすがのひと言。
【△】舌坊『過ぎゆく日々と追いかける未来的な』
2012.07.02 / 全11曲30分 / 320kbps /
Twitter
新潟出身、現在は都内で暮らす"たんぼ"と読むソロラッパー。『どうもです』(
DL先)、『crush and build』(
DL先)に続く作品。DJ HARAKIRIトラックが順当に減少し、本作では2曲のみで、残りは本人の手による意欲作。ビートに乗りきれないラップが微妙。また愚痴を歌うことは結構だが、ただこぼすだけでは本当に愚痴でしかなく、表現者なのだからハッとさせられるフレーズが欲しい。立ち上がることをテーマにする最後の曲でさえも、"光指す場所に向かってる"と手垢まみれの言葉が並ぶ。生音を利かした開放的なトラックの上で緩い歌フロウを乗せ、RIP SLYME的ともいえるM4やM7のフックなど耳を惹く曲もある。
【○】Oddbose『OddEye EP』
2012.07.03 / 全10曲20分 / 320kbps /
bandcamp
OtomitsuとTakuanのふたり組のビート集。共同プロデュースではなくスプリットであり、前半がオトミツ後半をタクアンが担う。サンプリング色の強いヒップホップからR&Bへと向かうオトミツと、もはやヒップホップとは関係ない場所で音と戯れるタクアン。バンドキャンプ上には他にオトミツのミックステープが2本アップされている。
【◎】Nakaji『音洒落吐露(改)』
2012.07.04 / 全16曲45分 / 320kbps /
bandcamp
滋賀県を活動拠点にする近江Records.のナカジが昨年出した2本目のミックステープ『音洒落吐露』(
DL先)に新曲7曲を加えて再アップした作品。和のスウィングを意識的に使い、艶のあるテーマを積極的に盛り込んでみたりと、その辺のラッパーとは一線を画すスタイルを確認できるとともに、新曲ではNARAPAGOS所属のT2Rの音の上で遊び、風営法に異議を唱えたりと幅をさらに広げている。また、格段に音が鮮明になったことで、既発曲の印象も以前聴いた時とずいぶん異なる。特にM3が加えられたことで、小名浜のラッパー・鬼を彷彿させる攻撃性がより際立つ。
このラッパーは本当に面白い。ヒップホップはアメリカが本場ということでどうしてもそっちに目が行ってしまう。その距離感にそれぞれが気を使い、今はできるだけ近づいたスタイルが主流となっているわけだけど、反対により日本に、しかも古いポップスを取り入れつつヒップホップをすることは可能だと思うのだ。現に、鬼がそうだし、降神の志人も童謡に近い素朴なメロディを意欲的に取り込み、リリックには古語まで忍ばせている。特に志人の最近のラップを聴いていると、日本のラッパーがまだ気づいていない鉱脈をひとりで掘り続けている印象がある。話がそれてしまうが、誰もが同じすわっぐなラップをしていても面白くないのだ。正しいイントネーションの日本語を使っても、流れるフロウは生み出せるし、押韻だって可能だ。ワビサビなんていうものも日本語を使っていれば自然と備わる。いい過ぎかもしれないが、彼には国産ヒップホップの新たな可能性を感じさせる。
歌詞欄にある案内によれば、年内中にファーストアルバムを発売するという。楽しみだ。
【△】Majikichi Crew『R-MKC』
2012.07.05 / 全16曲79分 / 160kbps /
Twitter
HAIIRO DE ROSSIを中心にしたHOOLIGANZのアルバム『S.K.I.L.L.Z.』からEeMuがプロデュースしたグループ名と同名の楽曲を、トゥイッターで親交を深める素人ラッパーたちがリミックス(M1)。その5分弱のマイクリレー曲をフリーDL界隈で活躍するトラックメイカーたちがさらにリミックスした15曲を収録。従って時間と気持ちに余裕のある人向け。ホシノコプロやBeatPoteto、Artbakelyらの奮闘ぶりを楽しむのもありかも。
【○】N▲OTO T△G▼CHⓘ『Dope Chef EP』
2012.07.05 / 全15曲20分 / 320kbps /
bandcamp
ナオトタグチの今月2本目。先々月にCD-Rでリリースされたアルバムの
紹介文を読むと、海外レーベルからも作品を発表したりしている活動歴の長いアーティストとのことだ。権威に太鼓判を押されるとそうなのか!となる悪いクセがあるのだけど、"輪郭がぼやけた独特の質感と煙たさを放つロウで図太いビート"というのはなんとなく分かる。
【○】BeatPoteto『MASHED UP POTETO BEATS(320)DL
2012.07.05 / 全8曲36分 / 320kbps /
HP
フリーDL楽曲を多く配信するトラックメイカーの中でも打率の高いビートポテトのマッシュアップ集。ももクロとダブステップを組み合わせ、かわいらしいアイドルソングを蹂躙し、あるいはPerfumeにHouse of Painを掛け合わせジャンプさせてみたり、間違いなく踊らせるダンスミュージックを作り上げている。日本語ラップからはKTCCとSaori@destiny、nobodyknows+とsupercellがあり、どれもテンションの高い仕上がり。
【○】Cherry Brown『Where's Tha Lovvve NODJ VERSION』
2012.07.07 / 全25曲74分 / 192kbps /
blog
トゥイッターのフォロワー数が4千人突破したのを記念してようやくアップされた、2010年発表の5本目のミックステープのNO DJ版。チェリー・ブラウンのラップは正直巧いとは思わないし、トラックメイカーとしての最近の目覚ましい活躍を見れば、ビート作りにこそその才が発揮されると考える。ただ、彼のラップは楽しい。音楽に対する姿勢や洋楽とのバランス、選ぶテーマのセンス、それよりなによりラップすることの楽しさがリスナーに素直に伝わってくるからだ。不思議な魅力だと思う。
現在の彼は正規盤を出すべく四苦八苦しているところだが、一般発売されることで自由なラップスタイルが失われるとしたらそれは非常に悩ましいことだ。アメリカで始まった現在のミックステープ文化をいち早く日本で取り入れた彼こそが商業的にも成功を収めることが理想ではあるが、呼吸するように日々のよしなしごとをラップしてしまう今のスタイルも保ち続けて欲しい。
25曲も収録され74分と長尺なのだけど、M9の中盤以降急激に聴きどころが増えることもあり、それほど長さを感じさせない。
【○】VA『KREVA Remixies〜「Connect to Connect」』
2012.07.07 / 全11曲46分 / 320kbps /
blog
asahiyanやBeats Zan、gesubi(GESUBEATS)、muzi9uestといったフリーDLでリミックスを頻繁に放出しているトラックメイカーたちによるクレバのシングル曲リミックス集。おかしな冒険をせずにクレバのラップが生きるよう作られた楽曲が並ぶ。その中でも「音色」のM4と、「C'mon, Let's go」のM9は新鮮だ。「OH YEAH」を改変したM11は原曲の眠さが消えていい塩梅。曲のかぶりがなければなお良かった。
【○】okadada『When The Night Falls』
2012.07.09 / 全9曲35分 / 320kbps /
bandcamp
2009年のクリスマスイブ深夜。ユーストリームでのDJプレイで多くの孤独な人間を熱狂させた男のビート集。夜も更けてから聴くのが似合う音で、連日続く熱帯夜に冷房でキンキンに冷やした室内で流せば、男女の睦ごともはかどりそうだ。ただ、機能性だけを追求しているわけではなく、美学も主張されていて、後半はややアーティスティックになりすぎな気もする。M5のような語りかけてくる楽曲などはもっと長い物語で聴いてみたい。
【△】OMSB『Shaolyn Smellz (笑)』
2012.07.09 / 全6曲14分 / 320kbps /
Twitter
SIMI LABのOMSB'Eatsが先月の『Kitajima "36" SubLaw 』(
DL先)に続き今月もビート集を出してくれた。邦題は"少林の腐臭"とのことで、本人の呟きによれば、"昔ヤケクソで作ったWuっぽいと自分で思ってる"ビートらしい。確かにその雰囲気は感じられなくもない。聴き所があるとすればM5とM6。
【○】Momose×Gotakozo『Tuesday EP』
2012.07.10 / 全7曲17分 / 320kbps /
bandcamp
LOW HIGH WHO? PRODUCTIONに所属するラッパーMomoseと同じ長野在住のトラックメイカーGotakozoとのコラボ作。昨年の『Monday EP』(
DL先)に続く1年ぶりのフリーDLミックステープで期待していただけに嬉しい。センスの良いトラックと心地の良い文系ラップの組み合わせは今回も変わりなく楽しませてくれる。特にM2の前に進めない現状を憂えるラップやM3のビートは完全に好み。特徴のある声質や丁寧に音を構築しているビートが良いだけに、だからこそもう少し引っかかるアクの強さがあってもいいのかも。
【○】釈迦坊主『蜜柑と二郎と腐食 EP』
2012.07.10 / 全9曲30分 / 192kbps /
HP
アクの強さでいえば評価するしないは別にして釈迦坊主はすごい。4月の作品(
DL先)に続き早くも2作目。確固たる世界観が確かにあって、それを理解できているわけではないのだけど、ヒップホップは独自であることが尊ばれるわけで、そういう意味では面白いことをしているラッパーといえる。少し変わったラップとビートが聴きたい人にお勧め。Jinmenusagiやハシシらが客演していることもあり、前作より聴きやすい仕上がりになっている。
【○】N9nety-One『Waste of Early Afternoon』
2012.07.11 / 全11曲30分 / kbps /
blog
GACOとSWITCHIの2MCを中心にしたナインティ・ワンが来月発売のファーストアルバムを前に4本目のミックステープをアップ。すわっぐなフロウと幅のある曲調やテーマ、高揚感を持ち合わせるオリジナルトラックと、なるほど正規盤を出すのも納得な巧さがあるが、肝心要のラップが誰々風にしか聴こえない。1作目を聴いた時にも忌避感を抱いたが、いまだその時の印象を拭えない。最初は物まねでもそれを続ければやがては自分の物になるのかもしれない。ただ今のままではアルバムに手を出そうとは思わない。
【○】K-One & Sanada『Dirty Soul EP』
2012.07.17 / 全6曲15分 / 320kbps /
bandcamp
新潟のラッパーKワンが、トラックメイカーOsamu Ansaiとの4月の無料配信シングル(
DL先)に続き、今度はサナダというトラックメイカーと組んだ6曲入りのミックステープ。ジャジー主体のトラックに乗せられるラップは黒さを志しつつも寡黙よりはソウルフルを選ぶようだ。また、基本的にはままならぬ人生に憤るリリックがある中で、アニメ好きを告白したりとよく聴くと一風変わったラップをしている。
【○】supple『EASY PACK EP』
2012.07.17 / 全9曲25分 / 320kbps /
bandcamp
山口県生まれ現在は神奈川県相模原市在住、ヒップホップグループCBSの一員でもあるサプルのビート集。前半は大方の楽曲を手掛けたCBSのトラックとは違い、意外なほどキラキラとした上音がかぶせられた楽曲が並ぶが、やや単調だ。M4からのラップを乗せやすそうな落ち着いた路線はさすが聴きやすく、M8での味のあるループは素晴らしい。かっこいいビートが揃っている。
【○】SOARA『SOARA the BEST MIXTAPE 2010-2012 Mixed By DJ NOLI』
2012.07.18 / 全24曲45分 / 192kbps /
Twitter
神奈川のソロラッパー・ソアラの楽曲を客演曲やコラボ曲も盛り込みDJノリがまとめたもの。最近の曲を聴くと以前のような物まね臭さが減少し、ずっと良くなっているが、ラップの軽さは変わらず。軽さはポップさでもあり、変にヒップホップヒップホップしている路線より、普段ラップ音楽を聴かない層の受けは良いのかもしれない。DJが各曲を繋ぐ構成のためスキルともいえない無駄なひけらかしが随所に差し挟まるのが余計。
【○】Ghost2Ghost『Red Tape』
2012.07.18 / 全16曲20分 / 320kbps /
bandcamp
昨年末にファーストアルバムを出し、間髪入れずに配信限定で11ヶ月連続EPリリースを続けているLHW?所属のイームの別名義Ghost2Ghostのビート集。無愛想極まりないボトムがおかしな気持ち良さに繋がるM1に始まり、とにかく無駄な音がないからこそ音が上下左右ななめに伸びていき、聴き手の想像力も浮遊し始める音が並ぶ。最後は夏らしく芸人・島田秀平(でいいのかな?)の"ゾッとする話"で締め。
【○】De La Mare『Magnitude X』
2012.07.19 / 全13曲28分 / VBR /
SoundCloud
昨年夏にアルバムとミックステープ、フリーDL曲を立て続けに出した渋谷を中心に活動するヒップホップグループX&TRICKSからDe La Mareがソロとして発表。巧そうな雰囲気のラップではあるが、リリックに耳を澄ますとふわふわしていてさっぱり。リリックの埋め込みに気づき、慌てて見てみると結構世間に物申す的な言葉が並んでいる。そうなると、伝わらないラップは一体何のための表現なのだろうとなる。録音状態も悪い。以前はバックにham-Rがいたが、今回関わっていないようだ。
【○】mocsmall『long long line』
2012.07.19 / 全8曲24分 / 320kbps /
bandcamp
この人もLHW?所属のトラックメイカー。今月の彼らの活躍ぶりはすごい。本作は"2009年あたりに作ったけど公開していなかった"ビート集とのことで、鍵盤主体のゆったりめの楽曲が並ぶ。音の重なりや響きは面白かったりするが、やや単調なため実際の曲の長さよりも長く感じる。
【○】SUPER SONICS『SUPER SONICS THE MIXTAPE: SUMMER GIFT』
2012.07.19 / 全37曲47分 / 320kbps /
blog
夏らしい新旧の洋楽ヒップホップやR&BをDJ威蔵が繋いでいく中で、相棒のTARO SOULがホストMCとして振る舞い、うち7曲でリミックスし日本語でのラップを乗せる。かつて「HIP HOP HOORAY 2008」で原曲フロウを日本語に翻訳していた巧みさはここでも発揮されているが、M5はさすがにバカにしているようにしか聴こえない。それ以外ではユニットを組んでからの好調さを証明するかのように勢いに乗った彼のラップを短いながらも堪能できるわけで、もう少しリミックス曲があると嬉しかった。
【○】COASARU『融合』
2012.07.19 / 全10曲23分 / 160kbps /
HP
LHW?主宰Paranelのトラックメイカー名義コアサルの新作。周辺のラッパーを招集しリリースされたセカンドアルバム『分裂』の"2.1 ver."に当たるという。『分裂』は未聴なので、本作がリミックスなのか完全新作なのか不明で、しかも客演が表記されていないため、参加ラッパーの詳細は分からないが、YAMANEやELOQ、daoko、丸らがいるようだ。ひりつくような切迫感のある音の上にLHW?が文系集団ではもう括れないような勢いのあるラップが乗せられる。パラネル名義での音を聴く機会が多かったので、コアサルでの暴力ともいえる音に驚かされたし、同時にかなり魅力的だ。
【○】Ghost2Ghost『Ghost2Ghost (REMASTER)』
2012.07.20 / 全18曲46分 / 320kbps /
bandcamp
先の『Red Tape』の評判を受けて、イームが2010年に無料配信した作品をリマスタリングし直し再アップ。"架空のホラーサウンドトラックをイメージ"したものということで、『Red Tape』の最終曲とはまた別の意味で耳で聴いて涼しさを味わえる楽曲が収録されている。曲名からもイメージが広がる。欧米ホラーを連想させる音だが、もし彼が日本式ホラーのあの生理的に嫌悪感を抱かせる音を制作したとしたら、夜中には聴けない作品になりそうだ。M17は怪談でゾワッとさせられる。締めはもちろん山崎ハコ「呪い」。
【○】雪猫『思い出.zip』
2012.07.20 / 全5曲15分 / 160,320kbps /
YouTube
配信終了。愛媛の18歳のソロラッパーの作品。M1の冒頭、"初恋はおかあさん"とあり、その率直な吐露ぶりはある意味パンチライン。描かれる貧乏物語が実話か創作かはともかく、せっかくの重いテーマをその本来の重量を保ったまま伝えられていない。セラピー的なものだとしても表現の核があるだけにもったいない。その一方でその不器用さや不安定な録音状態こそが生々しさに繋がっている面も否定できないわけで難しいところだ。
【△】3&ONE『Back to Da 23rd』
2012.07.20 / 全6曲21分 / 320kbps /
bandcamp
配信終了。一部で話題になったjjjjも所属するFive Star Recordsに籍を置く、東京練馬在住のソロラッパー・スリーワンの6曲入りミックステープ。派手さはないが堅実そうなラップは好感が持てる。が、使われているビートとの相性に疑問を覚える(特に前半)。男臭い濃いヒップホップが好きな人にお勧め。
【○】Y.A.S『Groove Room』
2012.07.20 / 全5曲15分 / 320kbps /
Twitter
配信終了。UMBで活躍していたというソロラッパーY.A.Sが2006年にリリースしたミニアルバムを今回無料配信。ジャケットから受ける洒脱さはなく、SEEDA以前によくいたタイプの日本語ラップ。MCバトルでは違うのだろうが、言葉を光らせるパンチラインがほとんどなく、フロウで辛うじて持たせている。
【○】OHRAL×DJ HARAKIRI『あゝ無情』
2012.07.20 / 全9曲15分 / 192kbps /
YouTube
LBが製作総指揮をして、町工場スタジオが関わっているのに、このラップスタイルは何故と思ったら、オーラルがDJハラキリ共々新潟出身で、LBと同郷だからか。LBにも通じるユーモア溢れるスキットを挟みながら、DJハラキリの分かりやすい明るさのある音と、表面を取り繕うも暗い内容という対比は面白いが、オチも含めて聴き手としてはどういう気持ちで聴けばいいのか分からない。シリーズ第1弾らしいけれど、これが続くの?
【○】daoko『初期症状』
2012.07.20 / 全6曲16分 / 160kbps /
HP
1997年東京生まれ。LHW?の秘蔵っ子15歳の女子高生ラッパーの初期音源集。不可思議/wonderboyの
新作で印象的な歌声を響かせていたが、本作でもその危うさを内包する声はやはり武器となる。ただ、トラックに耳が行きがちでラップは音として自然に処理してしまう。とはいえ15歳なのだ。その前途は可能性しかないし、しかも才能ある若手の発掘に実績あるパラネルが太鼓判を押しているわけで、きっと大成するのだろう。
【○】5lack『情』
2012.07.20 / 全9曲30分 / 160kbps /
blog
5lack(あるいは"娯楽")名義で最近活動しているS.l.a.c.k.の初となるミックステープ。フリーDL全盛の国産ヒップホップにあって、自作曲を無駄に配布することなく全てしっかり値札を付ける毅然としたアーティストという印象があったが、さすがに全編久石譲の曲をサンプリングしているだけあって売り物にするのは難しいと判断したのかフリーでの発表となった(無料であっても訴えられる可能性はあるわけだけど)。
ビートだけかと思ったらきっちりラップを乗せられている。が、昨年の傑作アルバム『我時想う愛』と比べてしまうと、楽曲としていささか頼りなく、位置づけとしてはセカンドアルバム『
WHALABOUT』とサードの間に出された2枚の習作ミニアルバムに似ている。海外のトラックメイカーCES2や、PSGの盟友GAPPERとのコラボ作を経て、自身が尊敬しているという久石譲の曲をいじり、次に向かう場所がどこなのか分からないが、フルアルバムで見せてくれる新しい景色が今から楽しみだ。
【○】K-One『Fuxxxxxxckkkk ILL EP』
2012.07.20 / 全5曲9分 / 320kbps /
bandcamp
3日前にアップされたコラボ作に続き、今度はソロ作。トラックも本人の手による。自分を罵倒しろと煽る曲で始まり、部屋に誰かがいると怯えてみたり、自分は正常だといい張ったり、やや神経衰弱気味なラップが並び、最後にアコギのさわやかな旋律に乗せて俺は狂ってのかと自問自答する。少し不思議な言語感覚やテーマの選択もあり、どこから本気でどこまでがギャグなのか分かりにくい面白さがある。
【○】Y.G.S.P『2012 Essential Mix』
2012.07.22 / 1枚ファイル57分 / 320kbps /
SoundCloud
SchumaとYossieからなるプロデューサーチームが2010年からの3年間に手掛けたプロデュース曲やリミックスを1時間にまとめたもの。最近の邦楽ポップスをリミックスするシリーズも興味深かったし、ICE DYNASTYとの仕事も充実したものだった。特にここに収められている日本語ラップをリミックスしたときの音は相当に刺激的だ。そんなコラボがあったのかという未発表曲(片方の旬はずいぶんと過ぎているけれど)も収録されている。しかし、ham-Rの復活はまだなのか?
【○】N▲OTO T△G▼CHⓘ『Dirty South Loop In Sgm EP』
2012.07.23 / 全7曲8分 / 320kbps /
bandcamp
今月3本目となるナオトタグチのビート集。一度日本語ラップをネタにした作品も聴いてみたい。
【○】Osamu Ansai『Longtime Romance』
2012.07.23 / 全7曲28分 / 320kbps /
bandcamp
上でも紹介しているように、新潟のラッパーKワンとのコラボ作(
DL先)も出している同じく新潟のトラックメイカーのビート集。以前に角松敏生のエディットも無料配信していたが、アーバンミュージックということで連想させる音が並ぶ。okadadaの先のビートよりも本作の方が典型的な都会音楽といえるし、機能的だ。
【○】hi-def『stand alone complex』
2012.07.24 / 全9曲25分 / 160kbps /
HP
北海道のヒップホップグループCIAZOOの創立メンバーのひとりで、2010年末にリリースしたファーストアルバムではアンダーグラウンドビジネスを紹介していたラッパー兼トラックメイカーのhi-defも、ついにミックステープ戦線に参戦してくれた。スラックのところにも書いたが、この辺りの一定の評価を得ているアーティストは、自作を安売りしない印象を持っていたので意外だ。アルバムには裏街道を熱心に歩く人間らしくハッとさせるパンチラインを散りばめていたが、本作にはそれがないため、北の偉人から受け継いだカタカナ英語を駆使したラップはただルーズなだけにしか思えない。前日に発表され、idealというグループを一緒に組むことになったERAが1曲で客演している。
【△】ハハノシキュウ『hahanoshikyu nitchR Remixes』
2012.07.24 / 全7曲32分 / 320kbps /
bandcamp
沈黙を語る人が全曲プロデュースし、5月にリリースされたハハノシキュウのファーストアルバム『リップクリームを絶対になくさない方法』のリミックス集。日本語ラップファンにはMCバトルでの活躍で知られる沈黙を語る人は、"日本のハードコアテクノ黎明期(90年代中盤頃らしい)から活動する"アーティストのようで、リミキサー陣にはそのツテで選ばれたと思しき耳慣れないアーティスト名が並び、しかも音が相当に暴力的だ。耳が痛い。ただ、時折聴こえるラップもDotamaに輪を掛けた狂暴性をはらんでいるし、必然の組み合わせなのかも。なお、ハハノシキュウのアルバムの全曲インストもフリーで配布されている→沈黙を語る人『リップクリームを絶対に隠さないことに決めた』(
DL先)。
【○】NF Zessho『092 EP』
2012.07.24 / 全9曲24分 / 320kbps /
YouTube
ラッパーとしては絶招を、トラックメイカー名義ではGudamanssを使い、精力的に曲を発表している18歳の若者が久し振りに地元福岡に帰郷し制作したミックステープ。名義は"ナチュラルフリークス絶招"の意でこれからはソロ作の時に使っていくそうだ。絶招の方がシンプルでいいと思うが・・・。
以前フリーで出した『DEMO EP』や、通販で限定発売していたフルアルバム『let you know EP』を"今すぐデスクトップのゴミ箱へ!"と語るほどの意欲作であり、確かにその2作よりも印象に残る曲が収録されている。それがM4とM6で、スラックの魅力のひとつだった何でもない日常を何か特別なものに見せる魔法を彼も使ってみせている。M6の歌ものフックも魅力的だ。
その一方で、素人目にも分かる大きな変化があるのかなと期待しただけに、M4と6以外に見出せない点で残念に思う。福岡行きの深夜バスに乗り込むM1に始まり、最後の曲で故郷に挨拶を送ってみせるが、もっと具体的にこの半年で得た心境や環境の変化をリリックに織り込んでも良かったと思う。ただ、その2曲が本当に素晴らしく、しかもそうした名曲の作り方を会得した感があり、これから楽しみなラッパーだ。
<インタビュー>→
SCUBA
【○】CBS『2010-2011』
2012.07.25 / 全11曲36分 / 320kbps /
bandcamp
4月に500円の値段を付けてバンドキャンプにアップしたものの、4DLしかなく今回無料配信となった作品。メンバーのサプルは上にあるようにすでにビート集を発表しているが、神奈川県・青葉台を拠点とするらしい彼らのグループとしての全体像は検索しても全然出てこない。しかしそんなことは関係なく、ジャジー気味のサンプリングビートの上で男たちがゆるくマイクを回す、正しくヒップホップマナーに則ったスタイルは素直に気持ちいい。
【○】将絢『NO COMMENT』
2012.07.29 / 全10曲31分 / 320kbps /
blog
7月2日に突然
ブログ上でRomancrewからの脱退を発表し、衝撃と共にひとりでやれるのかという心配もさせた将絢が早くも行動を起こした。しかもA$AP RockyやBig Sean、Soulja Boy、あるいはLil Wayneといった今の米国ヒップホップの曲をリミックスしている。これは意外。もっと驚かされたのはどの曲も彼の男前の声が乗せられると完全に彼の曲になっていることだ。ロマンクルーとしてラップは正直いえば苦手だったが、本作で聴ける独特の間を生かしたフロウは魅せるものがある。
【○】10.010『00.000』
2012.07.29 / 全7曲28分 / 160,256kbps /
blog
1月にソロでミックステープを発表していたれとがX-hazeと組んでいるラップデュオ10.010の初音源集。れとの作品はラップへの不安が先立ったが、本作はラップに溌剌さがあり、トラックの良さとも相まって意外なほど聴ける。ニコ動ラッパーのような早口で韻だけを細かく踏んでいくスタイルは苦手だけど、それが彼らの売りであり、M3などは音も含めて楽しめる。
【△】KYU『THE PRESSURE DRUNK EP』
2012.07.31 / 全7曲27分 / 320kbps /
bandcamp
お題となるインストを使い72時間で曲として完成させ競い合う"Urban Sampler Session"を企画していたBeat Train Recordingsの新企画で、そのセッションを通して繋がった全国のトラックメイカーから毎月ひとりを選び音源を出していくという。1回目の今回はBTRの新代表になった熊本在住のKYU。リマスタリングした過去音源はシンプル過ぎるループ曲が並び、もう少し展開に変化が欲しいところ。
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<まとめ>
2010年〜2011年1月〜8月分
Tegetther
2012年1月分
blog
2012年2月分
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2012年3月分
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2012年4月分
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2012年5月分
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2012年6月分
blog
・「JPRAP.COM presents "The Se7en Deadly Sins"」 →
記事(2011.05.26記)
2010年の主要フリーダウンロードミックステープについてもある程度まとめてある。
・「昨今の国産ヒップホップ・無料DLミックステープ事情」 →
記事(2011.09.30記)
2011年前半の作品に焦点を当てて書いた記事。
・「VA『Fat Bob's ORDER vol.1』」 →
記事(2011.10.07記)
記事の最後に名古屋関連のミックステープのまとめがある。
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