すばらしくてNICE CHOICE

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2021.02.10 Wednesday | - | - | -
無料配信ミックステープ8月号(2012)
2012年8月に発表された国産ヒップホップのフリーダウンロードミックステープの一覧。JPRAP.COM2Dcolvicsから情報を得て、充実した音楽生活を送れています。本当に感謝です。



今月は1枚でも良かったのだけど、それではさびしいので残り2枚を選び、恒例の"てっとり早くお勧めを教えてくれという方のための3枚!"。左端がとりあえずダウンロードしておけば間違いのないKZ & doikenのミックステープ。路上サイファーで鍛えた確かな技術を単に表現するための道具とし、その先にある伝えたいテーマを持ったラップ、あるいは人生をしっかり言葉にしている。真ん中はANPYO & VANILLAの初作。FG好きにお勧め。右端はもっと注目されても良いトラックメイカー・Artbakelyによる日本語ラップリミックス集。ジャケットクリックでDL先に飛びます。


【○】DJ CAROLIECUT『Inside Out.ep』
2012.08.01 / 全7曲42分 / 320kbps / bandcamp
配信終了。サウンドクラウドにもフリーDL曲を発表しているDJカロリーカットのミックステープ。ヒップホップというよりはディスコサウンドであり、まあ夏は終わりかけだけど、熱く時折清涼感たっぷりに楽しませてくれる1枚。山下達郎「SILENT SCREAMER」のエディットも収録。


【○】LB『WooWeeDay Remixes』
2012.08.02 / 全6曲25分 / 320kbps / YouTube
8月8日ついにファーストアルバム(フリーメガミックスはこちら)をリリースしたLBとOtowaの"ラップの方"であるLBが地元のラッパー仲間と作り上げた作品。オリジナルトラックを制作したDJBAも新潟長岡の出身で、他5曲のリミキサーもRESTiBTRAXが福井と近く、ESMEは埼玉だがPOPGROUP繋がりで選ばれたのだろう。地元新潟の若手を起用するこだわりの強さがLBらしい。爽やかで楽しげな夏曲に彼の持ち味である独特の軽さがよく出ている。同じリリックでもリミックスされ別トラックに乗せられることで1枚を通して時間の経過が表現されているのもユニークだ。特にラストを担当したDJ松永による夕方/夜のビーチに似合いそうなアダルトなリミックスがオリジナルと同じぐらいに楽しめる。


【○】thamesbeat『Summer things』
2012.08.02 / 全5曲13分 / 320kbps / SoundCloud
3月末にtofubeatsの紹介文付きで発表された『Portopia '81』(DL先)に続くテムズビートの2枚目となるミックステープ。今回は"100円のレコードのサンプリングだけで"制作されたビート集となる。キラキラ度合いが高く、出だしは楽しめるが、やがてループの単調さにしぼんでいく。最後まで持つのはM4ぐらいか。


【△】ALIMATED『ALIMATED in da house!!』
2012.08.02 / 全7曲27分 / 320kbps / ニコニコ動画
昨年夏にもミックステープ(DL先)を発表していたRIPPOと、Kay-7によるラップユニット。リッポはもっとフットワークの軽いラップをしていたと記憶しているが、本作ではただの肥満ラップに終わる。一方のケイシチもニコ動ラッパーの域を越えず、舌だけがよく回るありきたりスタイル。696Beatsや、2年も前にアップされたDハマビーツの処女作、kerberosらのビートが使われていて、そういう意味では面白い出会いがある。


【○】Sugarkane『The Best Of JP RAP -Chopped & Screwed- Vol. 2』
2012.08.05 / 1枚ファイル55分 / 320kbps / SoundCloud
6月の第一弾(DL先)に続く、東京のトラックメイカー・シュガーケインが日本語ラップ曲をチョップド&スクリュード・リミックスさせたミックステープ。"Best"と銘打ちながらもここ最近の無料配信された楽曲を取り上げているため、比較的地味なラッパーの曲が並ぶ。元Romancrewの将絢のソロ曲に紫の粉を振りかけるM10はいい感じの酩酊状態を生み出している。ボーナストラックでは相模原ビーフでのNORIKIYOの2本目のアンサーに残った粉を全てぶちまけていると思ったら、紫だけではなく白いのも混じっていたようでそれはそれは恐ろしい1曲になっている。


【○】ANPYO & VANILLA『Sparring EP VOL.1』
2012.08.09 / 全9曲33分 / 160,320kbps / Twitter
かつてはCOMPASSという日本語ラップサイトでライターとして活躍し、現在はラッパーとしてフリーDL曲を発表しているあんぴょうと、早稲田大学のその道では名門サークルGalaxyで結成され、延暦Gも所属するBUZZ BOXのバニラのふたりが結成したラップユニット。"FGが教科書"というだけあり、言葉遊びと韻を強く意識した小気味良いラップが展開する。その経歴を知ると見下してしまいそうになるが、不幸な人生をさらけ出し物語を共有することでラップを補強するSEEDA以降のスタイルではなく、純粋に吟味した言葉のみでラップを作り上げ、楽しませようという姿勢に揺るぎがなく、意外なほどの快作。


【○】ILL THE ESSENCE『Circus Beats』
2012.08.10 / 全18曲38分 / 320kbps / bandcamp
配信終了。お題トラックをサンプリングし72時間でビートを作る企画でも注目されるBeat Train Recordingsの前代表で、熊本在住のトラックメイカー・イルジエッセンスが48時間限定で配布したビート集。"ドープ"という価値観が本来意味していた音を体現し、不機嫌な表情の楽曲が並ぶ様は実に壮観。


【○】Sly a.k.a 9llA Soundz『ZIP HOP3』
2012.08.11 / 全5曲19分 / 320kbps / Twitter
1990年生まれ、兵庫出身のラッパー兼トラックメイカー。3月にはリミックス集(DL先)を発表している。このシリーズ自体は昨年9月以来となる。2枚同時にアップされ、1曲を除き彼自身が音も制作する。本作は過去の有名曲のリリックを引用しつつ陽気な曲が並ぶ。仲間と海に行くM2が特に良い。


【○】Sly a.k.a 9llA Soundz『ZIP HOP4』
2012.08.11 / 全5曲17分 / 320kbps / Twitter
『3』の最終曲で内省的なラップに踏み出し、続く本作では心の闇と向かい合う。陰と陽にテーマを分けたことで作品を2枚にするのは理解できるが、『3』でM5という橋渡しを置くのならば、1枚にまとめても変わらないのではと思ってしまう。その際全10曲ではなく7曲ぐらいに厳選すれば聴き応えも向上する。M2はヴァースでのリリックが鬱々として聴かせるのに、フックがなんともお粗末。『3』も同様だが、フックに歌メロを取り入れる際は、現状では外部に助けを求めた方が良い仕上がりになりそう。


【△】USOWA from SIMI LAB『Kong's Beat Tape vol.1』
2012.08.13 / 全7曲12分 / 192kbps / Twitter
シミラボでラッパーとして活躍するウソワが作り上げた、"ドンキーコングのBGMだけ"を使ったビート集。"4時間ぐらいで作ったから細かいディティールは勘弁してね"とも呟いているように出来は想像通り。まあドンキーコングなんてゲームウォッチ版しか知らないので、こんなに多彩な音が使われているのねという驚きは味わえるが。5月末に無料配信されたラップ曲「Selfish」が悪くなかっただけに、トラック製作よりもQNの穴を補強すべくラップで頑張って欲しいところ。


【○】COBO『3.5』
2012.08.29 / 全6曲16分 / 192kbps / YouTube
昨年末にアップされた『No Deal No Meal Mixtape Vol.3』(DL先)の続編ということで、"3.5"なのだろうが、確かに4とできないのも頷けるほど、彼にしては収録曲が少ない。ユーモアのあるラップが持ち味だと記憶しているけれど、"結果が出ないこと"へのいらだちもあるのだろう、今回はシリアスなラップが続く。ラッパーがよく纏いたがる現実離れした雰囲気がなく好感が持てるものの、地味であることは否めない。


【○】骨川スネア a.k.a. SH BEATS『SUTRA -八尾のおっさん・門真のおばはん-』
2012.08.15 / 全11曲23分 / 128kbps / blog
把握しているだけでは『BAD FEELING EP 1.5』『I Can Dip It』に続く大阪のトラックメイカー・骨川スネアの3本目のビート集。歌をセンス良く料理した1本目、鍵盤やベースを意識した2本目と来て、今作ではテレビドラマ(東京ラブストーリーしか分からなかったけど)やCM、アニメのセリフをサンプリングさせながら、ヒップホップとしての強度を失わずにファニーでキュートなビートを生み出している。そのセンスの高さがかっこいいに繋がる人は多いが、楽しいに向かうのはなかなか少ないように思う。


【○】ホシノコプロ『NATSU EP 2012』
2012.08.15 / 全5曲13分 / 320kbps / Twitter
KREVAやRHYMESTERなどのフリーDLリミックスを発売後いち早くサウンドクラウド上に発表している京都のトラックメイカー・ホシノコプロが、同郷のラッパーGRASSRIGHTを2曲に呼び完成させた、おそらくまとまったオリジナル音源として初となる作品。温かみのある素のビートよりもやはりラップが乗る曲の方が楽しめ、グラスライトのラップも癖のないフロウに嫌みのない言葉でビートによく合っている。


【○】Ryuei Kotoge『ARCHITECT EP』
2012.08.15 / 全9曲27分 / 320kbps / bandcamp
神戸のトラックメイカーの新作ビート集。2月の『Soregashi EP』が22分間の直線に進む小旅行だったのに対し、本作ではリミックス曲が収録されていることもあり、作品全体で作り上げていた強固な叙情性が薄れ、スペーシーでエレクトロに振れる音になっている。また各曲が似通っているため、今回は円を描き上昇しているようでもある。ボトムがどのような音を鳴らそうとも鍵盤が生み出すメロディの強さはさすが。


【○】Andherpackage.『Lemoned Ep』
2012.08.16 / 全12曲17分 / 320kbps / bandcamp
休むことを知らないNaoto Taguchiの新たなプロジェクト。50年代から80年代にかけてのジャズのレコードをサンプリングしたようで、古ぼけたピアノやサックス、オルガンの音色を現代のアレンジで調理するのだけど、どこか幕がかかったようなセピア色を保っているのが面白い。


【△】GOKU GREEN『Dirty Kids』
2012.08.17 / 全8曲23分 / 320kbps / bandcamp
配信終了。昨年末の『HAPPA SCHOOL』(DL先)に続くゴクウ・グリーンの2本目のミックステープ。先月にはファーストアルバムもリリースしている北海道は旭川市の高校に通う17歳高校2年生という素性には驚く。SALUと比較されることの多い彼だが、正規盤のアルバムとは違い、より自由度の高いミックステープでの楽曲となると言葉の垂れ流しに終わってしまう。その様子を見るにつけ、BACHLOGICのメロディメイカーとしての才に感じ入る。M5とM6ではLil'諭吉がプロデュースし、後者ではCherry Brown本人もラップしている。また注目の女性ラッパーYURIKAがM4で参加。

【追記】2012.09.17
MediaFireでwavファイルでの配信再開(DL先)。


【○】VA『DJいじめ ダメ。ゼッタイ。feat. TAMOinai compilation』
2012.08.17 / 全15曲79分 / 320kbps / bandcamp
稻井たもがアップした声ネタ"DJいじめ ダメ。ゼッタイ。"を使い、yUuZa1が6月中旬に発表したオリジナルミックスを発端に瞬く間のうちに広がったリミックスをまとめたもの。関西のクラブ摘発問題がとうとう東京に飛び火する中で、クラブDJ側からの意見表明。声ネタのかわいさにもくすぐられるけれど、何より問答無用で踊らせる楽曲が並ぶのが素晴らしい。特に後半に向かうほど体が動く。9分のロングリミックスM14がたまらない。


【○】HIGH5『MAJI尻A$$』
2012.08.18 / 全7曲29分 / 192,320kbps / 2Dcolvics
山口県岩国のヒップホップグループ・HIGH5が昨年リリースしたセカンドアルバムに収録され、ポチョムキンも参加しているお尻礼讃曲「SUKI SUKI ASS NOW」をGUNHEADやYuuyu Aensland、M.Hisataakaaといった豪華な布陣でリミックスし、さらには原曲やミックステープ(DL先)に収められていた謎のカリスマトゥイッタラー・Konyagata Tanaka版までをも収録したお尻尽くしな1枚。元々強烈な曲だが、個性の強い各人が果敢に攻めることで、ただのバリエーションを通り越して、がっつり楽しめる仕上がりになっている。


【○】DJ AMAYA『RMX48 〜2ND STAGE〜』
2012.08.20 / 全13曲62分 / 320kbps / HP
LA住まいの生粋のアメリカ人なのに、熱烈な日本のアイドルファンというDJアマヤがこれまでに発表してきたAKB48とその周辺のリミックスを、未発表分も含めまとめたもの。彼を知った時には豪快な音圧のビートでもってどんなに音痴な歌声でも強引にダンス曲に仕立て上げる剛腕ぶりに色めき立ったが、毎回似たアレンジで料理されているとさすがに飽きがきてしまい、以前ほどの期待感はないのだけど、でもまあ面白い存在ではある。


【△】LEF!!! CREW!!!『ATATA -BOOTLEG REMIXIES-』
2012.08.20 / 全9曲34分 / 320kbps / HP
5人組ロックバンドATATAが今月出したファーストアルバムを、横浜の4人組DJグループ・レフ!!!クルー!!!が丸っとリミックスした作品。ボーカルは前にいたグループが解散した際、日本語ラップを指向しようとしたとのことだが、それがこのバンドの妙味になっているかどうかはリミックスされてしまい確認できない。本作の聴きどころはM9でSTERUSSのラップが聴けることに尽きる。


【△】1horse『2012夏e.p』
2012.08.21 / 全7曲24分 / 192kbps / blog
昨年のUMB横浜予選の覇者ワンホースのミックステープ。前半は自らの過去曲をリミックスし、また2月リリースのセカンドアルバムの特典CD-R収録曲やフリースタイルセッションなどを盛り込んだ7曲入り。名前は知っていたが、初めてまともに聴く。今ここで韻を踏みましたよと強調する独特のクセがあり、それがMCバトルに参戦し続ける猛者としての思わぬ弊害なら不幸としかいいようがない。お城巡りラップは面白い。


【○】大村コウヘイ『ぴすまいせるふ』
2012.08.21 / 全16曲62分 / 320kbps / Twitter
北海道の23歳のソロラッパー大村コウヘイの初音源(でいいのかな)。彼が曲中で"ソウルブラザー"と讃えている同じく札幌のR'sが6月に発表したミックステープにも参加している。

両者に足りないのは見せ方の工夫。アールスの全24曲90分強という大作は問題外だとしても、本作の62分も十分長い。曲のテーマの面でも攻撃的な中盤と生き方が大事とする終盤がぶつかり合う。例えばふたつに分けて2カ月連続で発表する方がもっと注目を集めるのではと思ってしまう。

M1は自分以外全て敵とでもいうように噛みつくラップで好感が持てる。一方、M2で"地獄の底の壁にタッチしてきた"と精神安定剤を服用している現状を早くも告白する。ここでももったいないと思ってしまう。M1の路線でしばらく突っ走り(M5からの数曲はその路線)、呂布カルマや般若のようなビートの力を借りずとも迫力ある生一本のラップの力を存分に提示してから、でも実は・・・と行く方が作品としての深みが増すと思う。

攻撃的なラップは申し分ない。しかし良い事を語り出すと途端に紋切型の言葉でよくある結論に至ってしまう。M1やZeebraに矛先を向けるM5、ひとり二役のM6、夜のアルバイトをする女友達への気持ちを綴ったM10と魅力的な曲がありながらも曲順や安直なメッセージによって損をしている。若手らしいがむしゃらさがあるだけにもったいない。


【○】UNIVERSAL TOSHIKI『BEST IS "C"HEAPEST -UNIVERSAL IS BACK- 裏ver.』
2012.08.21 / 全10曲34分 / 192kbps / Twitter
名古屋のソロラッパー・ユニバーサルトシキが5月に出したミックステープ(DL先)から4曲を新しい音でリミックスし、またアカペラ1曲分とインスト5曲分を収録した作品。特徴のある声質と粘りのあるフロウという個性の強いラップスタイルに引けを取らない強靭なビートが合わさり相乗効果で前作を良盤にしていたが、今回のリミックスには前作ほどの訴求力がないのは残念。


【×】Seanya『Hot Sturff Vol.1』
2012.08.22 / 全7曲22分 / 320kbps / bandcamp
前半でZEN-LA-ROCKのリミックスをしているのだけど、1ヴァース目のゼンラロックのラップパートを残しているために、どうしても比較することになり、そうなるとシンヤのそれはただのカラオケにしか思えなくなる。後半の3曲はサウンドクラウドに曲をよくアップしているdjsintaが手掛けるオリジナルトラックを使っているものの、やはりラップ始めて1ヶ月程(推定)の力量では、いくら無料のミックステープとはいえ辛い。


【○】gesubi『Seven Stars LP』
2012.08.22 / 全11曲44分 / 320kbps / blog
コンスタントに作品を出し続けているゲスビの新作リミックス集。クレバのダブステップリミックスに始まり、日本語ラップはもちろんのこと、前田敦子やアニメ曲も取り上げているのだけど、今回はやや精彩に欠く。こちらが想定する音を上回るテンションで原曲に鞭を振るうのが彼の個性と思っているところがあるが、今回はよくある改変に留まる。一方で、しっとり仕上げのMEGのM9はこれはこれで面白い。


【△】RADOO & PEPCEE『Soul Surfer EP』
2012.08.24 / 全5曲19分 / 192kbps / Twitter
大阪のヒップホップグループGhost Dogに所属し、4月にはソロでミックステープ(DL先)を発表しているラドゥと、昨年末に同じくフリーDLで出し(DL先)、4MCグループMADSの一員としても活躍するペプシのダブル名義作品。ラドゥの前作とは打って変わりビートがずいぶんと重く、ラップも同じように重量があるために前半は沈みがち。C-L-CのOOGAWAが参加するM4ぐらいに重さが迫力に結び付けばもう少し楽しめるのに。


【○】U.Z.W.K.K.B.A『Mad Erotica Beat Tape』
2012.08.24 / 全6曲13分 / 192kbps / Twitter
盛岡のトラックメイカー・Re:dieuの別名義で、読み方は"蛆湧小蠅(ウジワキ コバエ)"とのこと。4月の『A CASE OF THE BEAT'S』(DL先)に続く2本目のビート集。題名にあるエロさは分からないが、聴いていると喉を圧迫されるような感覚を覚えるビートの圧にはある種の怖さがあり、淀んだ不穏な雰囲気はなかなかのもの。


【△】OYSTAR『Nu-naissance』
2012.08.27 / 全9曲27分 / 320kbps / bandcamp
神奈川県相模原市のトラックメイカー兼ラッパーのビート集第4弾。今回は投げ銭式。民族音楽が使われる前半では今までにない突き抜けた音があるも、後半でややだれる。今回は自作トラックの上でラップする曲が2曲収録されている。表題曲でもあるM1ではAmebreakを激しく批判する。それはいいのだけど、リリックで気になる点がある。"BLじゃない I'm正常 ミケランジェロ、ラファエロ、ダヴィンチを足して割らない感じ"。直前の小節で"New type作ろうとしてるやつ"とあるので、ここでの"BL"はバックロジックを指し、同時に"I'm正常"と続いていることからボーイズラブをも意味するのだろう。両義語として気が利いているように見えるが、自分は正常な人間なんだというヒップホップお得意の同性愛嫌悪の表明であり、最低だ。ルネッサンスに引っかけた曲名から偉大な三大巨匠の名前を続けて挙げるが、彼らが生涯結婚をしなかった事実や残された作品からも彼が嫌う性的指向にあったことが指摘されているのは皮肉でしかない。


【○】Artbakely『Vol.2 -BakeSonic-』
2012.08.28 / 全8曲29分 / 320kbps / bandcamp
2月の『Vol.1』(DL先)に続く、ジャズネタを得意とするトラックメイカーArtbakelyのリミックス集第2弾。直前には『Vol.1』で使用したビートをまとめた『Instrumental Vol.1』(DL先)も発表している。洒脱なトラックに乗りたいラッパーにお勧めだ。今作で扱うのは絶招、TAKUMA THE GREAT、イルリメ、空也MCなどで前作と比較するとやや地味。8曲中新曲が2曲となりサウンドクラウドにアップしていた既発曲をまとめた形になるのだけど、その新曲のひとつ、パブリック娘。のリミックスが素晴らしい。これまでも数多くリミックスされてきた曲ではあるが、敢えて逆のやり方で攻めているためタイトロープの上を危なっかしく歩く破目に陥りながら、その破綻ギリギリが不思議なグルーヴを生んでいる。それとベンジーを彷彿させる空也MCの青い声の魅力にも気づかされる1枚。


【○】Yuuyu Aensland×KNUX a.k.a. Mr.Austin『SPLIT EP』
2012.08.29 / 全5曲19分 / 320kbps / bandcamp
横浜を代表するラッパーのひとりRICHEE率いる3人組ヒップホップグループJACK RABBITZの若手ふたりによるビート集。Cherry Brownの別名義ユーユ・アーンスランドとナックスが2曲ずつ持ち寄り、1曲で共作している。どの曲も単純に手足をバタバタさせながら踊りたくなるビートが詰め込まれていて、特にM3は聴いているだけでずいぶんと幸せな気持ちになれる。共作曲M4のきれいなメロディも魅力的。


【○】tofubeats『summer dreams』
2012.08.29 / 全9曲36分 / 320kbps / bandcamp
1990年神戸生まれの気鋭トラックメイカー兼ラッパーのトーフビーツの新作。オノマトペ大臣との「水星」をヒットさせ、一方ではメジャー所属のバンド・ねごとやYUKIのシングルにリミキサーとして参加するなどあれよあれよという間に階段を駆け上がり始めた印象だが、その一方でこうして無料配信をしたりと、自分の出自を忘れることはないようだ。M1こそは過ぎ去る夏に思い馳せる彼らしい視点のラップ曲で期待させるものがあるが、その後はインスト曲が続く(音をかなり重ねていながらポップに聴かせるのはさすがだが)。M5やM6のラップ曲ではフリーDLだから試せるといったアレンジがなされていて、M1で抱いた期待は最後まで報われない。


【◎】KZ & doiken『Plain』
2012.08.31 / 全11曲42分 / 192kbps / HP
大阪の若手ラッパーが梅田駅近くの歩道橋で毎週サイファーをしているという話は知っていたし、今年に入りサウンドクラウドが作られ、無料配信もされていたのでよく聴いていた。路上でのフリースタイル音源がアップされるのかと思いきや、きっちり作られた楽曲でしかもそのクオリティはかなり高く、大阪はすごいことになってるんだなと思ったものだ。その中心人物(でいいのかな)が作り上げた本作は、今年一般リリースされた日本語ラップアルバムを含めて考えても、5本の指に入る出来といえる。

路上で鍛えられたラップの腕前は申し分ない。サイファーやバトル上がりのラッパーによく見られる、ただビートに乗るのが巧かったり、耳を惹くどぎついパンチラインを生み出すだけのフリースタイラーとは大きく違う。前半では定番のテーマとなる自画自賛曲となるが、意外なほど詩情溢れるフレーズが詰め込まれ、硬派な路線でいくのかと思えば甘い恋愛曲にも手を出すなど、テーマを幅広く取ることができ、自らを縛らない姿勢が良い。音雲でフリー配信されていたM8の素晴らしさは知っていたが、M9での畳み掛けには涙目にならざるを得ない。自分の足元を見つめ直したふたりが外にメッセージを発するM10と来て、最後には大阪らしくきれいなオチまで用意している。"お前スキー"なんてラップされたら、泣き笑いするしかないじゃないか。

KZとドイケンというふたりのラッパーはスタイルや育ちが異なるが、相方がいるからこそ自分のラップが生きることを知っているようだし、生き方を真摯に見つめる姿勢は横浜のSTERUSSを彷彿させる。そうステルスだ。無駄に尊大ぶることもなく、説教をしようとするわけでもなく、自分の歩いてきた道程を率直に語ることで聴く者を奮い立たせるラップはステルスを思い出させる。

大半の楽曲を手掛けたdio jの音には小細工することなく真っ向勝負の力強さがある。虚飾で装わずシンプルなビートだからこそふたりのラップもくっきりと浮き上がり、またふたりの背中を押すこともできる。


【○】koedawg『YOUR $MILE MAKE$ ME $MILE』
2012.08.31 / 全17曲60分 / 256kbps(m4a) / Twitter
koedawgこと、こえだちゃんの初ミックステープ。本作にも収録されている「wash the dishes」という曲が本当に素晴らしくて、でもラップそのものはヘロヘロで、60分と長尺だとかなり辛いことになるのではと恐る恐る聴いてみたら、なんとまあ杞憂だった。確かに聴く人を選ぶラップやテーマではあるが、全編で満ち満ちる素敵なモラトリアム感をここまではっきりと打ち出せるとそれはもう芸だ。"うるせーばか死ね"と連呼したり、卑猥な言葉を敢えて使ってみたり、PUNPEEやチェリー・ブラウンのフロウを借りたり、EVISBEATSのアイディアを引用したり、どうしようもないクズっぷりを自ら大声で発表するのだけど、その一方で、"クズツイートをふぁぼったりしてれば 昨日でも今日でもない午前3時"とそのダメダメ生活を粋な表現で活写する一面を見せ、なかなかどうして侮れない。君の笑顔が僕に笑みを浮かばせるとのタイトル通りに誰かに何かをどうしても求めてしまうこえだちゃんの泣きや罵倒、憤慨、諦念が混乱した形で表現されるだけではなく、ポップミュージックとしてしっかりまとまった楽曲としても並んでいて、不思議な魅力を湛えた作品だ。



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<まとめ>
2010年〜2011年1月〜8月分 Tegetther
2012年1月分 blog
2012年2月分 blog
2012年3月分 blog
2012年4月分 blog
2012年5月分 blog
2012年6月分 blog
2012年7月分 blog

・「JPRAP.COM presents "The Se7en Deadly Sins"」 →記事(2011.05.26記)
  2010年の主要フリーダウンロードミックステープについてもある程度まとめてある。
・「昨今の国産ヒップホップ・無料DLミックステープ事情」 →記事(2011.09.30記)
  2011年前半の作品に焦点を当てて書いた記事。
・「VA『Fat Bob's ORDER vol.1』」 →記事(2011.10.07記)
  記事の最後に名古屋関連のミックステープのまとめがある。
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2012.08.31 Friday 23:59 | 音楽 | comments(2) | trackbacks(0)
パラノーマル・アクティビティ3 / Paranormal Activity 3

31点/100点満点中

2011年の人気ホラーシリーズの第3弾。製作費500万ドル。

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ミカとケイティーの同棲カップルが事件に巻き込まれる1作目も、ダニエルとケイティーの妹のクリスティ夫妻に起きた事件を描いた2作目もどちらも2006年の出来事だった。『』の冒頭で夫妻の家に泥棒が入るが、実はケイティーが夫妻宅に以前持ち込んだ彼女たちの幼少期を映した大量のホームビデオも盗まれていた。そのビデオには18年前の1988年9月10日からの2週間に、カルフォルニア州サンタローザの自宅で、姉妹と母親ジュリー、その彼氏デニスに降りかかる恐ろしい出来事が映されていた。
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前作『パラノーマル・アクティビティ2』でダニエルとクリスティの間に誕生した男の子ハンターが、過去に一族の遠い先祖が悪魔と交わした契約により、悪魔に差し出される運命にあったことから2006年にふたつの家で超常現象が起きた。今作ではケイティーとクリスティの幼い頃に起きた不可思議な出来事が描かれる。

今回のカメラ担当は母ジュリーのボーイフレンドで同居するデニス。普段から結婚式等でカメラマンとして活躍するが、2作目のように部屋の各所にカメラを設置できるほどまだ格安でもない時代であり、扇風機にカメラを取り付けて一定の速度で左右に動く仕掛けを自作したりする。

姉のケイティーは快活な子供だけど、クリスティの方はイマジナリーフレンドを持つやや内向的な性格で、こちらが主に夜中に家の中を歩き回ることで前半の驚かし役となる。展開は前作前々作と同じで、ラップ音や家具を落としてみたりと定番な恐怖描写だ。今回は自宅での鑑賞となったので映画館で味わえる低音を利かした緊迫感を体験できないこともあり、描写のお粗末さがさらに際立つ。

あまりに不気味な現象が起きるために、ジュリーの母親の家に4人は身を寄せる。何か物音がして、カメラ担当が三脚からカメラを外し、肩に抱えたらもう終盤の合図だ。そしてこれまで通りのひねりのない最後の脅かしがあり、終幕となる。

後日11月公開の『4』のチラシを映画館で見て驚いた。まだ続編を作るのかと。300万ドルだった前作に比べれば急増したとはいえわずか500万ドルで製作した本作が、過去2作よりも多い興行収益となる2億ドルを突破したわけで、映画会社は笑いが止まらないだろうよ。事件の真相を小出しに、前半は据え置きカメラでちょっぴり脅かして、後半でちらりと思わせぶりな映像を流す。それだけで十分稼げるのだから。ぼろい商売だ。
2012.08.31 Friday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
スクリーム4: ネクスト・ジェネレーション / Scream 4

73点/100点満点中

2000年の前作から11年ぶりとなる「スクリーム」シリーズの続編。監督は当然ウェス・クレイヴン。脚本も1と2のケヴィン・ウィリアムソンが復活。シリーズの生き残り組ネーヴ・キャンベル(シドニー)、コートニー・コックス(ゲイル)、デヴィッド・アークエット(デューイ保安官)はそのまま続投。製作費4000万ドル。

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カリフォルニア州の田舎町ウッズボロー。10年前の連続殺人事件の生き残りシドニーは、事件のトラウマを克服すべく自叙伝を書き上げ、作家として成功する。自著の宣伝に故郷へと戻ってきたシドニーの前には、事件の恐怖はすっかり過去のものとなり、映画やキャラクターグッズとなって人々を楽しませている光景が広がる。保安官デューイと結婚した元レポーターのゲイルとも再会。しかし女子高生ふたりが惨殺され、10年前の悪夢が新たな世代を巻き込み、再び甦る。
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ホラー映画は一度当たるとその後もだらだらと駄作な続編を続けるのが定番なのだけど、ファンながらそういうのには付き合わないようにしている。本作もホラー界の巨匠と称されながら近年はヒット作がないクレイヴン監督や、「スクリーム」シリーズが当たり役過ぎてその後活躍できていないキャンベルやコックス、デヴィッド・アークエットらが"スクリーム"という看板にまたもやすがっただけの新作とばかり思っていたのだけど、意外なほど真っ当な「スクリーム」らしいミステリーホラーになっていて驚く。認めたくないというのもおかしいけれど、結構面白い。シリーズの1と2を担当した脚本家が復活したのが功を奏したのかもしれない。そのウィリアムソンもまた最近は製作側に回ることが多く、溜まっていた創作意欲が一気に噴き出したのだろう。

冒頭から00年代の大ヒットシリーズ「ソウ」の批評に始まり、殺され役のここ10年の変遷への指摘があるなど「スクリーム」らしさがちりばめられ、生き残る警官はブルース・ウィリスだけだといった小ネタもそこかしこに盛られているのが愉快だ。「スクリーム」シリーズ内のヒットホラー映画「スタブ」の上映会が催されるシーンでは1作目の監督にクレジットされているのがロバート・ロドリゲスというのも笑えるネタだ。『パラサイト』の脚本は本作のウィリアムソンが担当している。実際に彼が「スクリーム」シリーズを手掛けるとどうなるのか見てみたい気はする。

映画のテーマは猫も杓子もリメイク状態は結構だがオリジナルの改悪は駄目という至極真っ当なものだ。見ている側がそんな冗談を口にできてしまうほど、今回は絶好調だ。庭で椅子に縛り付けられるシーンや、ホラー映画への薀蓄、犯人像等々過去作をしっかりオマージュしつつ、怪しげな登場人物を出して観客を攪乱し、新旧のキャラクターの描き方もバランスが良く、蘇える犯人という定番ネタも当然盛り込み、意外な真犯人を現出させ、ミステリー(動機の点でもシリーズに倣っているのか)としても十分見応えのある作品になっている。

惜しむらくは映画クラブの人間がネットを使った生中継を行うのだけど、それがあまり活用されていない点か。回線を介して広く世界に伝わるネットとウッズボローという狭い町で起こる凶行という妙味が噛み合わないと踏んだためかもしれない。それと、10年代のヒットホラーシリーズ「パラノーマル・アクティビティ」を意識した作り込みは次回だろうか。
2012.08.30 Thursday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
ジョン・カーター / John Carter

45点/100点満点中

スペースオペラの原点ともされるSF小説の古典「火星」シリーズの第1作『火星のプリンセス』の実写化。SFアクション。『ファインディング・ニモ』や『WALL・E/ウォーリー』などでCGアニメ監督として実績のあるアンドリュー・スタントンによる初の実写映画。主演はほぼ新人といえるテイラー・キッチュ。日本では本作と同日公開されたこれまた大作映画『バトルシップ』でも主役として活躍。他に有名どころではウィレム・デフォーも出演。製作費2億5000万ドル。2012年公開映画。

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1881年、元南軍の英雄にして後に富豪となったジョン・カーターが急逝し、甥のエドガー・ライス・バローズに一冊の日記が託される。そこには驚くべき彼の冒険譚が記されていた。1868年、カーターはアリゾナ山中の洞窟で不思議な力により未知なる惑星"バルスーム"へ瞬間移動した。バルスーム=火星は赤色人の国ヘリウムとゾダンガが争い、いくつかの部族に分かれる緑色人らが暮らす星だった。マタイ・シャン率いる謎の一団が現れ、ゾダンガ国に肩入れしたことで両者の均衡が崩れる。そんな星にいきなり飛ばされたカーターは緑色人に助けられ、またヘリウム王国の王女デジャー・ソリスと出会い、火星に平和をもたらして欲しいと懇願される。
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「スター・ウォーズ」シリーズや『アバター』の原点と大掛かりにオンエアされているCMにそそのかされて手に取ったというわけでもないのだけど、でも今この機会に見ないと例えレンタルで旧作扱いになっても鑑賞することはないだろうなと思い、借りてみた。

公開当時からダメ映画の臭いを放っていた。実際に見てみるとその予感が外れることもしばしばだが、さすがに今回は当たりだ。嬉しくもないけれど。「ターザン」シリーズの生みの親エドガー・ライス・バローズが初めて認められ1912年から雑誌連載を始めたデビュー作『火星のプリンセス』の映画化となる。「ターザン」もこの「火星」シリーズも未読だが、登場人物や舞台設定、キャラクター造型の点からも確かに「スター・ウォーズ」や『アバター』の面影がある。ただ、後世のSF映画に比べてしまうと、非常に素朴な物語だ。原作がそもそもそうなのか、それとも長い話(かどうかも知らないが)であるがゆえに映画が単なるダイジェストになってしまっているのかは不明だ。

他のSF映画との比較やもろもろの原点であるという観点を抜きに、本作だけを単純に見た場合、地球人が火星に瞬間移動し、その弱い重力下の元で大活躍するという突拍子のなさはファンタジーとしては別に悪くないものの、その展開やセリフ回しがお粗末な上、俳優陣の演技力に難があり(火星のプリンセスを演じるリン・コリンズがとにかく酷い)、従って各キャラクターの魅力に乏しく、ただのCG映画で終わっている。しかもそのCGの出来も大スクリーンで見ればまた別の印象を持つのかもしれないが、「スター・ウォーズ」シリーズの頃と変わらないレベルだ。

楽しんだのはジョン・カーターが最後に仕掛けたトリックと、オープニングでディズニー映画のシンボルマーク・シンデレラ城が本作に合わせて火星にあること、火星版の犬といえるウーラの愛嬌ぐらい。原作を読まずとも本作を見たことで『火星のプリセンス』を分かった気になろうと思うが、原作ファンの評判はどんなものなのだろう。
2012.08.29 Wednesday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
ザ・ウォード 監禁病棟 / The Ward

67点/100点満点中

2001年の『ゴースト・オブ・マーズ』以来9年ぶりとなる2010年のジョン・カーペンターズ監督作。サスペンスホラー。ガイ・リッチーの「シャーロック・ホームズ」シリーズでモリアーティ教授を演じるジャレッド・ハリスも出演。製作費1000万ドル。

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1966年。20歳のクリステンは燃え盛る農家の前で呆然としていたところを放火容疑で逮捕され、ノースベンド精神病院の監禁病棟に収容される。監禁されたことに納得のいかないクリステンだったが、不気味な何者かの気配に身の危険を感じ始める。一緒に監禁されている4人の少女たちを説得し、脱走を試みようとするが・・・。
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スプラッタ映画の最初期作品であり、殺人鬼の視点を取り入れた独自性も評価される『ハロウィン』や、『ザ・フォッグ』、リメイクの『遊星からの物体X』 、『ゼイリブ』、『光る眼』といったホラーに軸足を置き低予算ながらも斬新なアイデアで良作を生み出してきた巨匠ジョン・カーペンターズの新作である本作への評価を、これまでのキャリアと比較して行うのか、あるいは映画単体でするのかによってずいぶんと変わりそうだ。

カーペンターズの作品として見れば面白くはない。結構高齢な印象だったが、2012年現在で64歳とまだまだ若く、もっと意欲的な攻めた映画でも良かったのかなとは思う。今回は脚本や音楽を他人に任せ、いつになくきっちり撮られている。だからこそ普通のよくあるサスペンスホラーで終わっているのだ。

一方でカーペンターズの名前を忘れてみると、オペラ座の怪人ならぬ監禁病棟の怪人に立ち向かう『エンジェル ウォーズ』の面々といった見方もでき、前後の記憶がないヒロインのクリステンがなぜ放火をしたのかという謎が最後に明かされる展開は素直に楽しめる。1966年というこれまたよくある時代設定によって精神病患者へのいきすぎた治療法が恐怖を描き出すことにも成功している。

基本に忠実なホラーであり、オチの脅かし方も含め、ある意味で安っぽさがあるもののしっかり種明かしも行うわけで安心して見終えることができる作品。
2012.08.28 Tuesday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
灼熱の魂 / Incendies

76点/100点満点中

2010年製作のカナダ映画。ミステリードラマ。2010年第83回アカデミー賞外国語映画賞候補作(受賞はデンマークの『未来を生きる君たちへ』)。製作費680万ドル。

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中東系カナダ人女性ナワル・マルワンが亡くなり、公証人ノタリ・ジャン・レベルから遺された双子の姉弟ジャンヌとシモンに遺言が伝えられた。父親と兄を見つけ出し、それぞれに宛てた母からの手紙を渡して欲しいという内容だった。死んだと思い込んでいた父ばかりか、存在すら知らなかった兄がいることに当惑するふたりだが、姉ジャンヌは遺言に従い、中東の母の祖国へと旅立つ。
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映画見る際、事前に内容を把握せず、オープニングからその作品世界に徐々に没入していく感覚が好きだ。現実から非現実へ。小説も音楽もそういうものだとは思うが、特に映画の場合はその空想世界への飛翔感を強く覚える。ただ、そういう見方をしていると、本作のようなほとんど基礎知識を持たない世界を描いた作品に出会うと、だいぶまごつくことになる。もちろん歴史の知識がないからどうだという映画ではないし、どの国の悲劇を描いてもその伝えんとすることは同じではある。

現在はカナダで暮らすレバノン生まれの劇作家の戯曲を原作とするという情報を少しでも知っていれば、作品内に国名は出てこないが、なるほどレバノンが舞台なのかという、知っていることから生まれる一応の安心感が得られる。その情報すら入れてなかったので、フランス語を話す双子の主人公たちをフランス人と思い込み、その仏国が関係するアラブ国といえばアルジェリアかな、という詳細な歴史を知らないが故の安易な発想に結び付く愚を犯すことになった。姉ジャンヌがどこから来たのかと問われる場面で、カナダと答えた時にえーっと驚いてしまうこともない。

まあこれらは映画を見る時の自分の心掛けというか、こだわりみたいなものなので映画の本質とは全く関係ない。母の遺言によって双子の姉弟はそれぞれに兄と父親を探し出そうとする。その旅を通して波乱に満ちた母親の人生と、レバノンという国が辿った悲劇が浮かび上がる。その構図は『サラの鍵』に似ている。ナチスドイツによるパリ占領時、迫害を受けたユダヤ人の少女サラの足跡を追う中で様々な事実が浮き彫りになる作品であり、レンタルショップで隣り合って置かれているのにも納得がいく。

遺言状によって初めて知った兄と、死別したと思っていた父の存在。言葉や文化、宗教の違う異国で40年以上前の事実を探し出そうとする。姉ジャンヌがかすかな証言を頼りに母ナワルの足跡を辿るのと並行し、40年前のナワルの行動が描かれていく。母子で似通っていることもあり、最初のうちは過去と現代が並走する演出にとまどいを覚える。ナワルの人生は想像以上に過酷なもので、ジャンヌはひとりでその過去を抱えることができず、弟シモンをレバノンに呼び寄せる。

1975年に始まるレバノン内戦の悲惨さをあぶり出しながら、同時に彼女たちの兄や父は一体誰なのか、彼らは生き延びているのかというミステリー要素が意外なメロドラマ(言葉は悪いが)として決着を見る。本作の公式ホームページに寄せられている評論家だかの短い文章に"ギリシア悲劇"とある。代表的なギリシア悲劇のあらすじをいくつか読んでみて、なるほどそういうことなのかと理解した。

実は借りる時にパッケージの背面に載っていた一応映画評論家のおすぎのコメントをチラリと見てしまい激しい後悔に襲われた。"63年、映画を見てきて、これほど衝撃を受けたラストはありませんでした。そのあとに胸が張り裂けるほどの感動が押し寄せてきました。必見の映画です"。コピペかと思うほどに紋切り型のおすぎの文章であり、確かに衝撃のラストではあるものの、2000年以上前にすでにギリシャで親しまれてきた物語の骨格を借りるもので、悲劇を強調し、またミステリーとしての意外性を高めたいがための安っぽいドラマと感じてしまうのも事実だ。

ただ、こうしたエンターテイメント作品を通して、レバノンという国に少しでも関心が生まれ(一向に沈静化しないシリアの隣国であり、密接に関わり合ってきた歴史がある)、また武力が結局は何も生まないという当然ともいえる結論にも行き着くわけで、決して間違いではないだろう。
2012.08.27 Monday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
ドリーム・ホーム / 維多利亜壹號 Dream Home

66点/100点満点中

2010年の香港映画。スラプラッタホラー。主演のジョシー・ホーはジョニー・トーの『エグザイル/絆』にも出演していた女優(4人の男に狙われる男の妻役)で、スティーヴン・ソダーバーグの『コンテイジョン』にも出ていたそう(記憶にないけど)。

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1997年に中国に返還された香港はそれから10年の月日が流れるも、平均所得が伸びずに住宅価格は高騰、格差が広がるばかりだった。投資銀行勤務のOL・チェンは湾岸エリアの超高級マンション"ビクトリアNo.1"で暮らすことを夢見ていた。あらゆるものを犠牲にし、ついに資金を用意し、いざ契約という段になり、所有者のわがままから白紙に戻されてしまう。諦めきれない彼女は強硬手段に出るが・・・。
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1842年から1997年までイギリスの植民地として発展した香港は現在は中国に返還されている。北海道札幌市とほぼ同じ広さの土地に700万人(札幌は340万人)が暮らし、その住宅事情はずいぶん大変なようだ。

海に面した高級マンション"ビクトリアNo.1(原題でもある)"の警備室に何者かが忍び込み、勤務中にも関わらず眠りこける警備の人間を絞め殺すところから映画が始まる。族は上階に上がり、無慈悲にも住民を次々と殺していく。映画のチラシによると、"香港のタランティーノ"、あるいは"次世代のウォン・カーウァイ"と称されている監督のようで、カーウァイかどうかはともかくとして、ユーモアにあふれた殺戮を嬉々として披露してみせる点では確かにタランティーノらしいといえるのかもしれない。

ナイフでのメッタ刺し、掃除機を利用した窒息死、手近な木材を使ってみたりとその手口はアイデアに富み、評価できると共に殺され役の演技力も素晴らしい。彼ら彼女たちが迫真の演技を見せるからこそ、それが(本当に酷い感想ではあるが)クスリと笑える事態であっても、凄惨さと緊張感が同居するという不思議な場面を作り出す。

"ビクトリアNo.1"で夢のマイホームを手に入れるために殺人鬼となるチェンのその一連の所業と並行して彼女の幼少期からの人生が開陳されていく。それが描かれるからこそ何故残酷な行動に出たのかが一応理解できる(できないけれど)仕掛けにはなっている。一方で現在進行形の殺戮と過去を同時に描く演出は緊迫感を削ぐことにもなる。だからといって時代順に展開したとしても前半は退屈極まりないだろうし、並行させるのが正解なのだろうとは理解するが、難しいところでもある。タランティーノならどう撮るのだろうか。

映画の登場人物に共感を抱くか抱かないかで作品の評価が左右される人にとっては駄作だろうが、同じパターンを繰り返さない創造性のある殺し方やそこはかとなく漂うブラックユーモア、大げさな殺され方、現実社会でも珍しい女性殺人鬼、しょうもない殺害理由と下品にまとめ上げた手腕はなかなかのもの。


"かわいいわ"という日本語がそのまま中国語に取り入られているのに驚いた。韓国映画でも一度聞いたことあるように記憶していて、この機会に信頼のウィキペディアで調べてみたところ(wiki)、"kawaii"は"2009年時点で「二十一世紀に入って世界にもっとも広まった日本語」とする意見"があるようだ。日本語の"かわいい"のそのままの意味だけではなく、"かなり広い範囲の意味を持つ包括的な概念と考えるほうがよいともされ"、そこには"「日本」「東京」チックなものに対する評価が含まれている"とのこと。

他にも休暇に新宿歌舞伎町に遊びに行こうと相談するシーンがあるなど、日本を身近に感じてもらえているようで面白い。
2012.08.26 Sunday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
パーフェクト・センス / Perfcet Sense

54点/100点満点中

ユアン・マクレガー主演によるイギリス製作のSF映画。一応世紀末もの。『007 カジノ・ロワイヤル』のボンドガール、エヴァ・グリーン共演。製作費1000万ドル。2012年公開作品。

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嗅覚が突然失われる原因不明の感染症"SOS"が瞬く間に全世界へと蔓延する。しかも、それは嗅覚だけではなく味覚、聴覚など五感の全てが順次奪われてしまうのものだった。人類存亡の危機に直面し、原因究明に奔走する感染症学者スーザンは、自宅アパートの前にあるレストランのシェフ、マイケルと知り合う。ほどなく恋に落ちるふたりだったが、彼らもまた感染症の脅威から逃れることはできなかった。
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なかなか不思議な質感の世紀末もので、いきなり視覚が奪われる『ブラインドネス』のように危機に陥る人類がそのエゴをむき出しする醜さと恐怖を描くのではなく、ユアン・マクレガー演じるシェフのマイケルと、エヴァ・グリーン扮する科学者スーザンのふたりを中心に描くことで、人類の窮地を叙情的に描いている。

そもそも悲嘆に暮れることが嗅覚を失う契機になるという設定自体がよく分からないし、味覚を奪われる際も闇雲な恐怖に襲われ、続いてとてつもない空腹を覚え手当たり次第に身の回りのものを口にする病状は喜劇ですらある。しかも静止画の細かいカット割りには世紀末ものに不似合いなオシャレ感が漂い、ますます駄作の色合いを濃くする。

コンテイジョン』のような優秀なリーダーも幸運さも得られない本作では人類はなすすべもなく途方に暮れる。事態が進むにつれて道路にゴミが散乱し、馬が車道を闊歩し、荒廃の度を増していく。ここにきてようやく世紀末ものらしくなる。

一方で、人類が以前のような暮らしや生き方ができなくとも、日常生活を維持しようと不断の努力を重ねていく姿を描いているのは面白い。嗅覚を奪われても、食べ物の味が分からなくなっても確かに呼吸し生きているのだ。自暴自棄な人間が活躍するこのジャンルの他の作品とはひと味違う描写が多い。

人間の醜い裏の面だけではなく、同じように人は善の部分を持っていることを忘れずに描き、最後にはずいぶんとファンタジックなところに着地する。ネットの発達した現代社会にあって、遠方の顔の知らない人であっても容易に繋がれるようになった。同時に身近な愛する人と触れ合う幸せを忘れがちとなり、その温もりこそが大事であるという本作のいわんとすることは大切なことだとは思う。が、ディザスタームービーとして見てしまうために私には本作はいささか甘すぎる。
2012.08.25 Saturday 23:59 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
降神、志摩参兄弟&田中光@あわのネ(千葉)

千葉県房総半島の南端に位置する館山市。その東京湾側にある無人島・沖ノ島で開催された野外フェスティバル「あわのネ」に行ってきた。娯楽が少ないのなら自分たちで作ろうと地元の若者が企画し、町おこしとしても機能させようというイベントのようで、今年で3回目だという。

もちろん目当ては降神。数年ぶりにそのライブを見られるというのでいそいそと準備をし、いざ出発という日、起きたら11時40分過ぎだった。タイムテーブルを見ていくつか気になる出演者がいたし、無人島という立地もユニークで、じっくり楽しもうと思い、13時までには館山に着く予定だった。千葉から館山行は1時間に1本。そうなると予定では最寄駅を9時半過ぎに出る列車に乗るのがベストだったわけだけど、時計の針は無情にも11時40分をとうに過ぎていた。1時間どころの遅刻ではない。途方に暮れたが、久し振りの降神のステージなのだ。何物にも替えがたい。

車酔いしやすい体質なので端から除外していた高速バスを利用すれば、幾分早く行けることを思い出した。東京駅八重洲口から出ている"なのはな号"に希望を見い出し、そそくさと身支度を整え、列車に飛び乗る。なんとか出発ギリギリのなのはな号に駆け込み、次回からはチケット売り場で切符を買ってから乗車をお願いしますねとかなんとかいわれながら席を無事確保。しかしバスにしたおかげで、東京湾アクアラインを初めて体験できたのは嬉しい誤算だった。何もない大海原の中を道路が一直線に伸びている光景を想像していたので、三方に陸地が見える実際の景観にややがっかりしたものの、東京湾に巨大な橋を架けたのだからそれはすごいことなのだろう。海霧の時などは安全を考慮しなければ幻想的で良さそう。橋の部分よりはその直前にあるどこまで行ってもトンネルという9.6キロの直線道に、その掘削工程を思い馳せ、感心した。

前を置きがひたすら長いが、どうにかこうにか14時50分頃に館山駅に到着し、フェス会場の沖ノ島までの無料送迎バスも発見でき、15時10分前には沖ノ島の入り口に立てた!

ドーン。目の前に海の家があるのでよく分からないが、正面のこんもりとした森が沖ノ島。砂浜で繋がっていて、その砂浜自体も海水浴場となっている。ちなみに沖ノ島の(写真で見て)反対側は海上自衛隊の基地となる。


「あわのネ」の入り口。今年から有料となったが、2日間通しで2000円(当日券)と親切価格だ。しかも館山近郊の指定店舗で使える500円分のクーポンが付いてくるために、実質1500円。遠いけど。アクセスも悪いけど。でも地元の若者が頑張っている。


ゲートをくぐってすぐのところにある"アコースティックステージ"。心地良い海風を受けながら爽やかな音を浴びることができる(んだと思う。先を急いだので見ていない)。


アコースティックステージを抜け、本部テントを後目に島の中に入っていく。緩い上り坂。


ここが案内板にもあった"森ステージ"。風(ルン)というディジュリドゥ奏者のパフォーマンス中だった。


島を貫くメインストリートには様々なお店が並んでいて、手作りのアクセサリや有機なんたらの化粧品だとかコーヒー、アート作品などが売られている。


森ステージからそんな道を2分も歩くと、沖ノ島を縦断したことになり海に出る。



【田中光 & MASAYA YONEYAMA】 〜15:41

"海ステージ"でライブしていたのは田中光 & MASAYA YONEYAMAという1MC1DJのユニットで、初めて聞く名前だったが田中光は今年のUMBの千葉予選優勝者とのこと(YouTube)。押韻よりもいいたいことを感情のままに吐き出し、田中光という人間をむき出しにしていくラップスタイルは気持ち良いほどに青臭く、結構好みだった。すでに作られているリリックなのか、それともその場でのフリースタイルなのか分からないぐらいにヒップホップらしさの証明にもなる韻を踏まず、その歌詞はどこに向かいどこに辿り着きたいのか聴いているこちらが不安になる危うさがあり、それもまた魅力なのかもしれない。ライブでこそ光りそうなラッパーだった。



高台から見下ろした海岸。奥の白い屋根が海ステージ。

海ステージ。

スケートランプもあって、送迎バスでもスケートボードを小脇に抱えた人たちが何人もいた。




【降神】 15:59〜16:53

いよいよ降神のステージ。今回のバックDJは志人と絡むことが多いDJ DOLBEE。まずなのるなもないがひとりステージに上がった。うつむき加減に右手でマイクを握り、左腕を徐々に上げていく。

"いつの間にこんな遠いところへ来ていたんだろう ふいに 始まりも昨日のことのように感じたんだよ"

抑揚を効かせ、深みと親しみさを同居させるなのるなもないのアカペラ。その声は青空の下、深く深く高く高く波のように寄せては返し響いていく。調子良さそうだ。そして山に分け入り山菜を採る時に使うような籠を背負った志人が舞台正面左手の定位置に立った。ディレイを効かしたマイクを通し、「ひかりごけ」の最後の一節を朗々と詠唱し始める。"国の字(あざな) 逆さ富士"のところで彼が指差した先に見えたのはその通り相模湾を隔てそびえ立つ富士山だ。

そのままジャズピアニスト・スガダイローとの共作アルバム『詩種』に収録された「珠算遊戯」の狸と狐の丁々発止な口喧嘩部分を披露し始めた。ほとんど方言で語られ、歌詞カードを見ても分かりにくい歌だが、それをいきなり持ってくる辺りが挑戦的だ。バンドとのセッション形式で聴いていたものをアカペラで聴くのも新鮮。

次は降神の未発表曲。3年前にすでに聴いた記憶があるので新曲ではないだろう。"この村どこから来たりゃんせ きっと近くてずっと遠くさ"という志人によるフックが耳に残る楽曲で、なのるなもないのヴァースに出てくる"海帰りの体に心地良いよ 風鈴と風の匂い"がこの日のステージに合う。

アカペラでの「いざよいうた」を経て、「EUFORIA」に向かうのだけど、『詩種』収録の「わとなり」の"朝露に濡れた烏瓜 傾く陽眺むる真夏日"から"置きざりの記憶が静かに動き出したよ"までが2ヴァース目として取り込まれていた。これが完成形なのだろうか。トラックも浮遊感のあるものに変わっている。

"いたずらな光 からかうかのようにそこかしこに乱反射"とまずはアカペラで始まったのはなのるなもないの新曲。"なのるなもない"や"SL-1200のターンテーブル BPM66星雲 33回転する記憶にない〜"といった印象的なフレーズが並ぶ。そのまま同じ曲なのか新曲なのかは不明だが、ふたりの掛け合いが始まる。"いつか地球になる前に いつか宇宙になる前に いつかひとつになる前に"というフレーズに挟まれるようにこの曲でも『詩種』の「道 〜たまゆら〜」の一部が取り入れられている。互いのヴァースがあるし、もしかしたらこちらがオリジナルなのかもしれない。

【追記】2013.11.22
"いたずらな光"で始まるアカペラは「宙の詩」の2ヴァース目で、「アイオライト」のトラックが始まり、ふたりの掛け合いを経て、なのるなもないのラップは同曲から。ただ、志人のは違う。

"まばらな星 半分は月 下ろされたシャッター 絵にならない絵を描く芸術家"と新たな物語を紡ぎ始めるなのるなもないに寄り添うように志人は籠から取り出した縦笛を吹く。"夜見るより夢よりもヤバい冒険"、"君の髪なんていい匂いなんだろ"、"〜といってくれたなら俺はもう・・・人生に勝ったようなもんさ"、"末端冷え性の林檎の木に手袋をかぶせる君の話 面白かったよ"などなど。"こぼしてはいけない日々の営み"をストリングスを使ったトラックの上でいくつも丁寧に描くこの曲は本当に良かった。愛する人への真摯な想いが詠み込まれている。こういう曲があるなら、配信の形でもいいだろうし、すぐに発表すればいいのにと思ってしまう。

【追記】2013.11.22
"まばらな星"で始まるポエトリーリーディングは「波乗りのリーシュ」。新作『アカシャの唇』と同じく「アルケミストの匙」に繋げる。

続くのは志人の最新の名曲「満月」。

雰囲気を変えるようにギターの爪弾きに暴力的なベースを加えたアブストラクトなトラックが流れ、"夏の海は母 冬の海は父"というなのるなもないのラップが始まる。"機械になりたいなんて正気かい?"の一節で思い出したが、代々木公園で行なわれたいつかのポエトリーリーディングのイベントで聴いたことがあった。

志人は「ニルヴァーナ」の前半をアカペラで披露し、「わとなり」で初めて音源に収録されたふたりの掛け合い、"私たちは泣き 笑い 踊り 騒ぎ 花開き 学び合い〜"を経て、降神の未発表曲「return to the childhood」へ進む。"踊ろうよ 全ての命と 望もうよ 壮大な世界を 誇ろうよ 後悔のないよう この世は君が主人公"のフックはついつい口ずさんでしまう魔力がある。ふたりの声が絡まり合い蒼空に昇っていく。この曲の最後でディレイを目一杯かけて"リターン"という演出は初めて聴いたかもしれない。

志人は幸せな昭和の核家族の一日を「円都家族」として描き、なのるなもないのアカペラに繋ぐ。そして、"だからじゃあね の前に お前にあなたに また会える日まで旅を続けよう 野を越え 山を越え 谷を越え 川を越え ありがとへ さよならへ おかえりへ ただいまへ"の輪唱が始まれば、それはふたりのパフォーマンスの最後を飾る「帰り道」の合図だ。最後の最後でなのるなもないが、"未来永劫へ繋げていこうぜ"と語り、50分強の降神のライブが終わった。

【追記】2013.11.22
「円都家族」に続くなのるなもないのアカペラは「アカシャの唇」の1ヴァース目とフック。そこから輪唱へ。

昨年末に志人のパフォーマンス中になのるなもないが客演し「帰り道」を1曲披露したのを見ているが、彼らのライブをまともに見るのは多分2010年10月のスイカ夜話第16夜以来だと思う。志人はアルバムもリリースし、頻繁に行われるライブにも時々行っているのでどんな調子なのかは分かっているが、なのるなもないは依然として沈黙したままで1年に数曲客演でその声を聴ければ恩の字であり、ふたりのライブにやや不安も覚えていたのだけど、見ながらずっと思ってたのはやっぱりふたりは降神でやってこそ生きるのだなという当然といえば当然な思いだった。

totoさんの呟きによれば、なのるなもないは最近本格的にレコーディングを始めたようで、そのおかげもあるのか一時期本気で心配していた、声が出ないということはなく、音源で聴けるなのるなもないのあの温かみラップを野外ステージでもいかんなく発揮していた。

下記の曲目リストを見れば一目瞭然なように、降神として発表した2枚のアルバムからは1曲も披露せず、それ以降にライブでやってきた未発表曲と、それ以上に多かったのがソロ曲だ。ただ、志人の曲でもなのるなもないが被せたりしていて、それが非常に効果的だった。志人の力強い声にはなのるなもないのしなやかな声が合い、その逆も然りだ。

後半でDJドルビーの元へ志人が直接行き、おそらく音への注文を付けるなど、めったに見られない事態があったように練習が足りないのかなと思せる箇所もあったが、それも降神として頻繁に活動していた時期との比較であり、一般的なヒップホップグループより強固で演劇的ともいえる彼らの一体感は健在だった。

降神のサードアルバムをいつまでも待つつもりだが、それはともかくとしてふたりでのライブを定期的にやって欲しい。降神の持ち味はライブでこそ最大限に発揮される。ソロで色濃く出る個性もふたりだと中和され、より高いレベルでのエンターテインメントとして結実する。

いずれにせよ久し振りの降神のライブは圧倒的でずっとファンをやってきて良かったと思えるものだった。


1.? (acappella) / なのるなもない
2.ひかりごけ 〜 珠算遊戯 / 志人
3.未発表曲 / 降神
4.いざよいうた / 志人
5.EUFORIA / 志人
6.宙の詩 / なのるなもない
7.アイオライト/なのるなもないw/志人
8.波乗りのリーシュ / なのるなもない
9.アルケミストの匙 / なのるなもない
10.満月 / 志人
11.? / なのるなもない
12.ニルヴァーナ / 志人
13.return to the childhood / 降神
14.円都家族 / 志人
15.アカシャの唇 / なのるなもない
16.帰り道 / 降神






画家さん。

子供だって負けてない。

水煙草屋さん。

ROOM DJエリア。


海ステージ1日目トリのズクナシがサウンドチェック中。


宇賀大明神社の鳥居とその先に海。社殿はこの写真の後ろ。


写真を撮ったりしながら島をぐるっと2周ほどして森ステージに戻ってくると、DJが小気味良くスクラッチを入れている。おしていた志摩参兄弟のライブが始まったようだ。

【志摩参兄弟】 17:36〜18:02

京都を拠点に活動している生音ヒップホップバンド。名前だけは知っていたし、去年無料配信された「せい人」という楽曲も結構気に入っていて、この日見られるのをちょっと期待していたのだけど、その期待をはるかに上回る満足を得ることができた。

我凡とアグラ神楽という2MCをフロントに、ギター、ベース、ドラム、サックス、DJ、それと三味線が作り出すバンドサウンドはヒップホップバンドにありがちなジャジー路線ではなく、どちらかといえばミクスチャロックに近い躍動感がある。ロックのようにリズムを切るのではなくしっかり腰のあるうねりを生み出しているのがたまらなくかっこいい。

ふたりのラッパーには5人の音に負けない強さがあり、スタイルも大きく違うことで曲に幅が生まれている。ヒップホップバンドというと生音に頼りきり、ラッパーが物足りないといったパターンに陥ることもあるが、ふたりは例え簡素なサンプリングトラックの上であっても変わりなく盛り上げることができるスキルがありそうだ。

他の夏フェスにも出演しているようで、7人のコンビネーションは抜群で30分弱の時間を一気に走り抜けた。森ステージのトリなのにその持ち時間の少なさに憤慨してしまうほど楽しい時間だった。久し振りにヒップホップを聴いてはしゃいだ気がする。


【ズクナシ】 〜18:25

海ステージに戻ってくると女性ロックバンド・ズクナシがまだ演奏していたのでそのまま楽しむ。代々木公園で行われるEarth Dayでそのパフォーマンスを見たことがあって、その時もいいバンドだなと思ったのだけど、やっぱりこの日も少ししか見られなかったとはいえ、気持ち良くロックしてロールしてシャウトするステージを堪能できた。以前は70年代までのクラシックロックからの影響を強く感じたが、今回はアレサ・フランクリンといったソウルにもルーツがあるように思えた。単に来ている衣装がそう感じさせただけかもしれないが。陽が落ちていく中、海風も心地良く、アルコールもいい感じに回っているし、幸せな気分になれた。



ズクナシのライブが終わる頃には陽も沈み、夕焼けがきれいだった。少年の足元に富士山。

18時45分過ぎには送迎バスで島を離れ、JR館山駅に戻った。

が、電車がない。18時55分発のがすでに出てしまったために、次の千葉行は19時53分。しかしそこは貰ったクーポン券の使いどころ。でも徒歩圏内の駅周辺でクーポン券が使えるお店でまだ閉店していないのは1軒だけ。きっとこうなるだろうと事前に一応調べておいたのが本当に功を奏した。駅東口、歩いて3分ほどのコーヒー専門店「茶房はたやま」に行き、おいしいコーヒーとレアチーズケーキで腹を満たし、コーヒーの馥郁たる香りに包まれてゆっくり読書までできた。


手作り感のあるいいフェスだった。まあ音楽フェスなんてほとんど行かないので比べようもないのだけど、音楽だけで楽しませるのではなく、島の恵まれた自然そのものが大きな魅力になっている。予定通りに早い時間に到着してもっと色々見たかったなと後悔もしている。少し遠いし交通の便も悪いけれど、出演者次第では来年も行きたい。ヒップホップアクトがこの日だけで3組も出ているし、是非ともSUIKAやSTERUSSのような野外でも実力を発揮できるグループのパフォーマンスを見てみたい。



ヨーヨーはスタンプラリーの特典。
2012.08.25 Saturday 23:58 | 音楽 | comments(4) | trackbacks(0)
破壊された男 -誘拐犯との死闘- / 파괴된 사나이

59点/100点満点中

2010年の韓国映画。サスペンス。『目には目、歯には歯』でゲイバーのオーナー役だったイ・ビョンジュンが本作では刑事役として出演。邦題は原題通り。DVDスルー作。

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牧師チュ・ヨンスの5歳になる愛娘ヘリンが誘拐される。身代金の受け渡しに失敗し、神への祈りも通じず、娘が帰ってくることはなかった。神に失望した彼は牧師を辞し事業を始める。一方、娘が生きていると信じ、妻ミンギョンは探し続けた。ヨンスの事業が暗礁に乗り上げた8年後、一通の電話がかかってくる。娘ヘヨンが生きていて誘拐犯と一緒に暮らしているという・・・。
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もったいない映画。誘拐犯は少女をさらっては身代金を要求し、しかしそれで親元に返すのではなく非情にも殺してしまうという残虐性があり、しかも囚われの少女にはじんわりと虐待し、突然キレてナイフを振り回すなどキャラ立ちは悪くない。定番のクラシック音楽好きでもある。

主人公の元牧師チュ・ヨンスは妻が懸命に娘を探し続けるのとは反対に、事業に邁進し事件を忘れようと努める8年間だったが、娘が生きていることを突然知らされ、懸命に追いかける。しかし後手後手に回ってしまう。誘拐犯が取り立てて狡猾というわけではないが、捜査に素人のヨンスにとってはなかなか追い詰めることができない。

その辺りの展開に息詰まる緊迫感がもう少しあれば印象が違うものになったはずだ。ヨンスがかつては医学部の優秀な学生だったという過去も事業に生かされているだけで、物語に絡むことをしない。最後に真顔で嘘を付くシーンすらもだからどうしたで終わってしまう。

チェイサー』のような強烈な印象を残す韓国映画ともしかしたら肩を並べる可能性を秘めていながら、ほどほどのところに着地してしまうのはなんとも残念だ。
2012.08.23 Thursday 23:58 | 映画 | comments(2) | trackbacks(0)
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