2012年8月に発表された国産ヒップホップのフリーダウンロードミックステープの一覧。
JPRAP.COMや
2Dcolvicsから情報を得て、充実した音楽生活を送れています。本当に感謝です。
今月は1枚でも良かったのだけど、それではさびしいので残り2枚を選び、恒例の"てっとり早くお勧めを教えてくれという方のための3枚!"。左端がとりあえずダウンロードしておけば間違いのないKZ & doikenのミックステープ。路上サイファーで鍛えた確かな技術を単に表現するための道具とし、その先にある伝えたいテーマを持ったラップ、あるいは人生をしっかり言葉にしている。真ん中はANPYO & VANILLAの初作。FG好きにお勧め。右端はもっと注目されても良いトラックメイカー・Artbakelyによる日本語ラップリミックス集。ジャケットクリックでDL先に飛びます。
【○】DJ CAROLIECUT『Inside Out.ep』
2012.08.01 / 全7曲42分 / 320kbps /
bandcamp
配信終了。
サウンドクラウドにもフリーDL曲を発表しているDJカロリーカットのミックステープ。ヒップホップというよりはディスコサウンドであり、まあ夏は終わりかけだけど、熱く時折清涼感たっぷりに楽しませてくれる1枚。山下達郎「SILENT SCREAMER」のエディットも収録。
【○】LB『WooWeeDay Remixes』
2012.08.02 / 全6曲25分 / 320kbps /
YouTube
8月8日ついにファーストアルバム(フリーメガミックスは
こちら)をリリースしたLBとOtowaの"ラップの方"であるLBが地元のラッパー仲間と作り上げた作品。オリジナルトラックを制作したDJBAも新潟長岡の出身で、他5曲のリミキサーもRESTiBTRAXが福井と近く、ESMEは埼玉だがPOPGROUP繋がりで選ばれたのだろう。地元新潟の若手を起用するこだわりの強さがLBらしい。爽やかで楽しげな夏曲に彼の持ち味である独特の軽さがよく出ている。同じリリックでもリミックスされ別トラックに乗せられることで1枚を通して時間の経過が表現されているのもユニークだ。特にラストを担当したDJ松永による夕方/夜のビーチに似合いそうなアダルトなリミックスがオリジナルと同じぐらいに楽しめる。
【○】thamesbeat『Summer things』
2012.08.02 / 全5曲13分 / 320kbps /
SoundCloud
3月末にtofubeatsの紹介文付きで発表された『Portopia '81』(
DL先)に続くテムズビートの2枚目となるミックステープ。今回は"100円のレコードのサンプリングだけで"制作されたビート集となる。キラキラ度合いが高く、出だしは楽しめるが、やがてループの単調さにしぼんでいく。最後まで持つのはM4ぐらいか。
【△】ALIMATED『ALIMATED in da house!!』
2012.08.02 / 全7曲27分 / 320kbps /
ニコニコ動画
昨年夏にもミックステープ(
DL先)を発表していたRIPPOと、Kay-7によるラップユニット。リッポはもっとフットワークの軽いラップをしていたと記憶しているが、本作ではただの肥満ラップに終わる。一方のケイシチもニコ動ラッパーの域を越えず、舌だけがよく回るありきたりスタイル。696Beatsや、2年も前にアップされたDハマビーツの処女作、kerberosらのビートが使われていて、そういう意味では面白い出会いがある。
【○】Sugarkane『The Best Of JP RAP -Chopped & Screwed- Vol. 2』
2012.08.05 / 1枚ファイル55分 / 320kbps /
SoundCloud
6月の第一弾(
DL先)に続く、東京のトラックメイカー・シュガーケインが日本語ラップ曲をチョップド&スクリュード・リミックスさせたミックステープ。"Best"と銘打ちながらもここ最近の無料配信された楽曲を取り上げているため、比較的地味なラッパーの曲が並ぶ。元Romancrewの将絢のソロ曲に紫の粉を振りかけるM10はいい感じの酩酊状態を生み出している。ボーナストラックでは相模原ビーフでのNORIKIYOの2本目のアンサーに残った粉を全てぶちまけていると思ったら、紫だけではなく白いのも混じっていたようでそれはそれは恐ろしい1曲になっている。
【○】ANPYO & VANILLA『Sparring EP VOL.1』
2012.08.09 / 全9曲33分 / 160,320kbps /
Twitter
かつてはCOMPASSという日本語ラップサイトでライターとして活躍し、現在はラッパーとしてフリーDL曲を発表しているあんぴょうと、早稲田大学のその道では名門サークルGalaxyで結成され、延暦Gも所属するBUZZ BOXのバニラのふたりが結成したラップユニット。"FGが教科書"というだけあり、言葉遊びと韻を強く意識した小気味良いラップが展開する。その経歴を知ると見下してしまいそうになるが、不幸な人生をさらけ出し物語を共有することでラップを補強するSEEDA以降のスタイルではなく、純粋に吟味した言葉のみでラップを作り上げ、楽しませようという姿勢に揺るぎがなく、意外なほどの快作。
【○】ILL THE ESSENCE『Circus Beats』
2012.08.10 / 全18曲38分 / 320kbps /
bandcamp
配信終了。お題トラックをサンプリングし72時間でビートを作る企画でも注目されるBeat Train Recordingsの前代表で、熊本在住のトラックメイカー・イルジエッセンスが48時間限定で配布したビート集。"ドープ"という価値観が本来意味していた音を体現し、不機嫌な表情の楽曲が並ぶ様は実に壮観。
【○】Sly a.k.a 9llA Soundz『ZIP HOP3』
2012.08.11 / 全5曲19分 / 320kbps /
Twitter
1990年生まれ、兵庫出身のラッパー兼トラックメイカー。3月にはリミックス集(
DL先)を発表している。このシリーズ自体は昨年9月以来となる。2枚同時にアップされ、1曲を除き彼自身が音も制作する。本作は過去の有名曲のリリックを引用しつつ陽気な曲が並ぶ。仲間と海に行くM2が特に良い。
【○】Sly a.k.a 9llA Soundz『ZIP HOP4』
2012.08.11 / 全5曲17分 / 320kbps /
Twitter
『3』の最終曲で内省的なラップに踏み出し、続く本作では心の闇と向かい合う。陰と陽にテーマを分けたことで作品を2枚にするのは理解できるが、『3』でM5という橋渡しを置くのならば、1枚にまとめても変わらないのではと思ってしまう。その際全10曲ではなく7曲ぐらいに厳選すれば聴き応えも向上する。M2はヴァースでのリリックが鬱々として聴かせるのに、フックがなんともお粗末。『3』も同様だが、フックに歌メロを取り入れる際は、現状では外部に助けを求めた方が良い仕上がりになりそう。
【△】USOWA from SIMI LAB『Kong's Beat Tape vol.1』
2012.08.13 / 全7曲12分 / 192kbps /
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シミラボでラッパーとして活躍するウソワが作り上げた、"ドンキーコングのBGMだけ"を使ったビート集。"4時間ぐらいで作ったから細かいディティールは勘弁してね"とも呟いているように出来は想像通り。まあドンキーコングなんてゲームウォッチ版しか知らないので、こんなに多彩な音が使われているのねという驚きは味わえるが。5月末に無料配信されたラップ曲「Selfish」が悪くなかっただけに、トラック製作よりもQNの穴を補強すべくラップで頑張って欲しいところ。
【○】COBO『3.5』
2012.08.29 / 全6曲16分 / 192kbps /
YouTube
昨年末にアップされた『No Deal No Meal Mixtape Vol.3』(
DL先)の続編ということで、"3.5"なのだろうが、確かに4とできないのも頷けるほど、彼にしては収録曲が少ない。ユーモアのあるラップが持ち味だと記憶しているけれど、"結果が出ないこと"へのいらだちもあるのだろう、今回はシリアスなラップが続く。ラッパーがよく纏いたがる現実離れした雰囲気がなく好感が持てるものの、地味であることは否めない。
【○】骨川スネア a.k.a. SH BEATS『SUTRA -八尾のおっさん・門真のおばはん-』
2012.08.15 / 全11曲23分 / 128kbps /
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把握しているだけでは『BAD FEELING EP 1.5』『I Can Dip It』に続く大阪のトラックメイカー・骨川スネアの3本目のビート集。歌をセンス良く料理した1本目、鍵盤やベースを意識した2本目と来て、今作ではテレビドラマ(東京ラブストーリーしか分からなかったけど)やCM、アニメのセリフをサンプリングさせながら、ヒップホップとしての強度を失わずにファニーでキュートなビートを生み出している。そのセンスの高さがかっこいいに繋がる人は多いが、楽しいに向かうのはなかなか少ないように思う。
【○】ホシノコプロ『NATSU EP 2012』
2012.08.15 / 全5曲13分 / 320kbps /
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KREVAやRHYMESTERなどのフリーDLリミックスを発売後いち早く
サウンドクラウド上に発表している京都のトラックメイカー・ホシノコプロが、同郷のラッパーGRASSRIGHTを2曲に呼び完成させた、おそらくまとまったオリジナル音源として初となる作品。温かみのある素のビートよりもやはりラップが乗る曲の方が楽しめ、グラスライトのラップも癖のないフロウに嫌みのない言葉でビートによく合っている。
【○】Ryuei Kotoge『ARCHITECT EP』
2012.08.15 / 全9曲27分 / 320kbps /
bandcamp
神戸のトラックメイカーの新作ビート集。2月の『Soregashi EP』が22分間の直線に進む小旅行だったのに対し、本作ではリミックス曲が収録されていることもあり、作品全体で作り上げていた強固な叙情性が薄れ、スペーシーでエレクトロに振れる音になっている。また各曲が似通っているため、今回は円を描き上昇しているようでもある。ボトムがどのような音を鳴らそうとも鍵盤が生み出すメロディの強さはさすが。
【○】Andherpackage.『Lemoned Ep』
2012.08.16 / 全12曲17分 / 320kbps /
bandcamp
休むことを知らないNaoto Taguchiの新たなプロジェクト。50年代から80年代にかけてのジャズのレコードをサンプリングしたようで、古ぼけたピアノやサックス、オルガンの音色を現代のアレンジで調理するのだけど、どこか幕がかかったようなセピア色を保っているのが面白い。
【△】GOKU GREEN『Dirty Kids』
2012.08.17 / 全8曲23分 / 320kbps /
bandcamp
配信終了。昨年末の『HAPPA SCHOOL』(
DL先)に続くゴクウ・グリーンの2本目のミックステープ。先月にはファーストアルバムもリリースしている北海道は旭川市の高校に通う17歳高校2年生という素性には驚く。SALUと比較されることの多い彼だが、正規盤のアルバムとは違い、より自由度の高いミックステープでの楽曲となると言葉の垂れ流しに終わってしまう。その様子を見るにつけ、BACHLOGICのメロディメイカーとしての才に感じ入る。M5とM6ではLil'諭吉がプロデュースし、後者ではCherry Brown本人もラップしている。また注目の女性ラッパーYURIKAがM4で参加。
【追記】2012.09.17
MediaFireでwavファイルでの配信再開(
DL先)。
【○】VA『DJいじめ ダメ。ゼッタイ。feat. TAMOinai compilation』
2012.08.17 / 全15曲79分 / 320kbps /
bandcamp
稻井たもが
アップした声ネタ"DJいじめ ダメ。ゼッタイ。"を使い、yUuZa1が6月中旬に
発表したオリジナルミックスを発端に瞬く間のうちに広がったリミックスをまとめたもの。関西のクラブ摘発問題がとうとう東京に飛び火する中で、クラブDJ側からの意見表明。声ネタのかわいさにもくすぐられるけれど、何より問答無用で踊らせる楽曲が並ぶのが素晴らしい。特に後半に向かうほど体が動く。9分のロングリミックスM14がたまらない。
【○】HIGH5『MAJI尻A$$』
2012.08.18 / 全7曲29分 / 192,320kbps /
2Dcolvics
山口県岩国のヒップホップグループ・HIGH5が昨年リリースしたセカンドアルバムに収録され、ポチョムキンも参加しているお尻礼讃曲「SUKI SUKI ASS NOW」をGUNHEADやYuuyu Aensland、M.Hisataakaaといった豪華な布陣でリミックスし、さらには原曲やミックステープ(
DL先)に収められていた謎のカリスマトゥイッタラー・Konyagata Tanaka版までをも収録したお尻尽くしな1枚。元々強烈な曲だが、個性の強い各人が果敢に攻めることで、ただのバリエーションを通り越して、がっつり楽しめる仕上がりになっている。
【○】DJ AMAYA『RMX48 〜2ND STAGE〜』
2012.08.20 / 全13曲62分 / 320kbps /
HP
LA住まいの生粋のアメリカ人なのに、熱烈な日本のアイドルファンというDJアマヤがこれまでに発表してきたAKB48とその周辺のリミックスを、未発表分も含めまとめたもの。彼を知った時には豪快な音圧のビートでもってどんなに音痴な歌声でも強引にダンス曲に仕立て上げる剛腕ぶりに色めき立ったが、毎回似たアレンジで料理されているとさすがに飽きがきてしまい、以前ほどの期待感はないのだけど、でもまあ面白い存在ではある。
【△】LEF!!! CREW!!!『ATATA -BOOTLEG REMIXIES-』
2012.08.20 / 全9曲34分 / 320kbps /
HP
5人組ロックバンドATATAが今月出したファーストアルバムを、横浜の4人組DJグループ・レフ!!!クルー!!!が丸っとリミックスした作品。ボーカルは前にいたグループが解散した際、日本語ラップを指向しようとしたとのことだが、それがこのバンドの妙味になっているかどうかはリミックスされてしまい確認できない。本作の聴きどころはM9でSTERUSSのラップが聴けることに尽きる。
【△】1horse『2012夏e.p』
2012.08.21 / 全7曲24分 / 192kbps /
blog
昨年のUMB横浜予選の覇者ワンホースのミックステープ。前半は自らの過去曲をリミックスし、また2月リリースのセカンドアルバムの特典CD-R収録曲やフリースタイルセッションなどを盛り込んだ7曲入り。名前は知っていたが、初めてまともに聴く。今ここで韻を踏みましたよと強調する独特のクセがあり、それがMCバトルに参戦し続ける猛者としての思わぬ弊害なら不幸としかいいようがない。お城巡りラップは面白い。
【○】大村コウヘイ『ぴすまいせるふ』
2012.08.21 / 全16曲62分 / 320kbps /
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北海道の23歳のソロラッパー大村コウヘイの初音源(でいいのかな)。彼が曲中で"ソウルブラザー"と讃えている同じく札幌のR'sが6月に発表したミックステープにも参加している。
両者に足りないのは見せ方の工夫。アールスの全24曲90分強という大作は問題外だとしても、本作の62分も十分長い。曲のテーマの面でも攻撃的な中盤と生き方が大事とする終盤がぶつかり合う。例えばふたつに分けて2カ月連続で発表する方がもっと注目を集めるのではと思ってしまう。
M1は自分以外全て敵とでもいうように噛みつくラップで好感が持てる。一方、M2で"地獄の底の壁にタッチしてきた"と精神安定剤を服用している現状を早くも告白する。ここでももったいないと思ってしまう。M1の路線でしばらく突っ走り(M5からの数曲はその路線)、呂布カルマや般若のようなビートの力を借りずとも迫力ある生一本のラップの力を存分に提示してから、でも実は・・・と行く方が作品としての深みが増すと思う。
攻撃的なラップは申し分ない。しかし良い事を語り出すと途端に紋切型の言葉でよくある結論に至ってしまう。M1やZeebraに矛先を向けるM5、ひとり二役のM6、夜のアルバイトをする女友達への気持ちを綴ったM10と魅力的な曲がありながらも曲順や安直なメッセージによって損をしている。若手らしいがむしゃらさがあるだけにもったいない。
【○】UNIVERSAL TOSHIKI『BEST IS "C"HEAPEST -UNIVERSAL IS BACK- 裏ver.』
2012.08.21 / 全10曲34分 / 192kbps /
Twitter
名古屋のソロラッパー・ユニバーサルトシキが5月に出したミックステープ(
DL先)から4曲を新しい音でリミックスし、またアカペラ1曲分とインスト5曲分を収録した作品。特徴のある声質と粘りのあるフロウという個性の強いラップスタイルに引けを取らない強靭なビートが合わさり相乗効果で前作を良盤にしていたが、今回のリミックスには前作ほどの訴求力がないのは残念。
【×】Seanya『Hot Sturff Vol.1』
2012.08.22 / 全7曲22分 / 320kbps /
bandcamp
前半でZEN-LA-ROCKのリミックスをしているのだけど、1ヴァース目のゼンラロックのラップパートを残しているために、どうしても比較することになり、そうなるとシンヤのそれはただのカラオケにしか思えなくなる。後半の3曲は
サウンドクラウドに曲をよくアップしているdjsintaが手掛けるオリジナルトラックを使っているものの、やはりラップ始めて1ヶ月程(推定)の力量では、いくら無料のミックステープとはいえ辛い。
【○】gesubi『Seven Stars LP』
2012.08.22 / 全11曲44分 / 320kbps /
blog
コンスタントに作品を出し続けているゲスビの新作リミックス集。クレバのダブステップリミックスに始まり、日本語ラップはもちろんのこと、前田敦子やアニメ曲も取り上げているのだけど、今回はやや精彩に欠く。こちらが想定する音を上回るテンションで原曲に鞭を振るうのが彼の個性と思っているところがあるが、今回はよくある改変に留まる。一方で、しっとり仕上げのMEGのM9はこれはこれで面白い。
【△】RADOO & PEPCEE『Soul Surfer EP』
2012.08.24 / 全5曲19分 / 192kbps /
Twitter
大阪のヒップホップグループGhost Dogに所属し、4月にはソロでミックステープ(
DL先)を発表しているラドゥと、昨年末に同じくフリーDLで出し(
DL先)、4MCグループMADSの一員としても活躍するペプシのダブル名義作品。ラドゥの前作とは打って変わりビートがずいぶんと重く、ラップも同じように重量があるために前半は沈みがち。C-L-CのOOGAWAが参加するM4ぐらいに重さが迫力に結び付けばもう少し楽しめるのに。
【○】U.Z.W.K.K.B.A『Mad Erotica Beat Tape』
2012.08.24 / 全6曲13分 / 192kbps /
Twitter
盛岡のトラックメイカー・Re:dieuの別名義で、読み方は"蛆湧小蠅(ウジワキ コバエ)"とのこと。4月の『A CASE OF THE BEAT'S』(
DL先)に続く2本目のビート集。題名にあるエロさは分からないが、聴いていると喉を圧迫されるような感覚を覚えるビートの圧にはある種の怖さがあり、淀んだ不穏な雰囲気はなかなかのもの。
【△】OYSTAR『Nu-naissance』
2012.08.27 / 全9曲27分 / 320kbps /
bandcamp
神奈川県相模原市のトラックメイカー兼ラッパーのビート集第4弾。今回は投げ銭式。民族音楽が使われる前半では今までにない突き抜けた音があるも、後半でややだれる。今回は自作トラックの上でラップする曲が2曲収録されている。表題曲でもあるM1ではAmebreakを激しく批判する。それはいいのだけど、リリックで気になる点がある。"BLじゃない I'm正常 ミケランジェロ、ラファエロ、ダヴィンチを足して割らない感じ"。直前の小節で"New type作ろうとしてるやつ"とあるので、ここでの"BL"はバックロジックを指し、同時に"I'm正常"と続いていることからボーイズラブをも意味するのだろう。両義語として気が利いているように見えるが、自分は正常な人間なんだというヒップホップお得意の同性愛嫌悪の表明であり、最低だ。ルネッサンスに引っかけた曲名から偉大な三大巨匠の名前を続けて挙げるが、彼らが生涯結婚をしなかった事実や残された作品からも彼が嫌う性的指向にあったことが指摘されているのは皮肉でしかない。
【○】Artbakely『Vol.2 -BakeSonic-』
2012.08.28 / 全8曲29分 / 320kbps /
bandcamp
2月の『Vol.1』(
DL先)に続く、ジャズネタを得意とするトラックメイカーArtbakelyのリミックス集第2弾。直前には『Vol.1』で使用したビートをまとめた『Instrumental Vol.1』(
DL先)も発表している。洒脱なトラックに乗りたいラッパーにお勧めだ。今作で扱うのは絶招、TAKUMA THE GREAT、イルリメ、空也MCなどで前作と比較するとやや地味。8曲中新曲が2曲となり
サウンドクラウドにアップしていた既発曲をまとめた形になるのだけど、その新曲のひとつ、パブリック娘。のリミックスが素晴らしい。これまでも数多くリミックスされてきた曲ではあるが、敢えて逆のやり方で攻めているためタイトロープの上を危なっかしく歩く破目に陥りながら、その破綻ギリギリが不思議なグルーヴを生んでいる。それとベンジーを彷彿させる空也MCの青い声の魅力にも気づかされる1枚。
【○】Yuuyu Aensland×KNUX a.k.a. Mr.Austin『SPLIT EP』
2012.08.29 / 全5曲19分 / 320kbps /
bandcamp
横浜を代表するラッパーのひとりRICHEE率いる3人組ヒップホップグループJACK RABBITZの若手ふたりによるビート集。Cherry Brownの別名義ユーユ・アーンスランドとナックスが2曲ずつ持ち寄り、1曲で共作している。どの曲も単純に手足をバタバタさせながら踊りたくなるビートが詰め込まれていて、特にM3は聴いているだけでずいぶんと幸せな気持ちになれる。共作曲M4のきれいなメロディも魅力的。
【○】tofubeats『summer dreams』
2012.08.29 / 全9曲36分 / 320kbps /
bandcamp
1990年神戸生まれの気鋭トラックメイカー兼ラッパーのトーフビーツの新作。オノマトペ大臣との「水星」をヒットさせ、一方ではメジャー所属のバンド・ねごとやYUKIのシングルにリミキサーとして参加するなどあれよあれよという間に階段を駆け上がり始めた印象だが、その一方でこうして無料配信をしたりと、自分の出自を忘れることはないようだ。M1こそは過ぎ去る夏に思い馳せる彼らしい視点のラップ曲で期待させるものがあるが、その後はインスト曲が続く(音をかなり重ねていながらポップに聴かせるのはさすがだが)。M5やM6のラップ曲ではフリーDLだから試せるといったアレンジがなされていて、M1で抱いた期待は最後まで報われない。
【◎】KZ & doiken『Plain』
2012.08.31 / 全11曲42分 / 192kbps /
HP
大阪の若手ラッパーが梅田駅近くの歩道橋で毎週サイファーをしているという話は知っていたし、今年に入り
サウンドクラウドが作られ、無料配信もされていたのでよく聴いていた。路上でのフリースタイル音源がアップされるのかと思いきや、きっちり作られた楽曲でしかもそのクオリティはかなり高く、大阪はすごいことになってるんだなと思ったものだ。その中心人物(でいいのかな)が作り上げた本作は、今年一般リリースされた日本語ラップアルバムを含めて考えても、5本の指に入る出来といえる。
路上で鍛えられたラップの腕前は申し分ない。サイファーやバトル上がりのラッパーによく見られる、ただビートに乗るのが巧かったり、耳を惹くどぎついパンチラインを生み出すだけのフリースタイラーとは大きく違う。前半では定番のテーマとなる自画自賛曲となるが、意外なほど詩情溢れるフレーズが詰め込まれ、硬派な路線でいくのかと思えば甘い恋愛曲にも手を出すなど、テーマを幅広く取ることができ、自らを縛らない姿勢が良い。音雲でフリー配信されていたM8の素晴らしさは知っていたが、M9での畳み掛けには涙目にならざるを得ない。自分の足元を見つめ直したふたりが外にメッセージを発するM10と来て、最後には大阪らしくきれいなオチまで用意している。"お前スキー"なんてラップされたら、泣き笑いするしかないじゃないか。
KZとドイケンというふたりのラッパーはスタイルや育ちが異なるが、相方がいるからこそ自分のラップが生きることを知っているようだし、生き方を真摯に見つめる姿勢は横浜のSTERUSSを彷彿させる。そうステルスだ。無駄に尊大ぶることもなく、説教をしようとするわけでもなく、自分の歩いてきた道程を率直に語ることで聴く者を奮い立たせるラップはステルスを思い出させる。
大半の楽曲を手掛けたdio jの音には小細工することなく真っ向勝負の力強さがある。虚飾で装わずシンプルなビートだからこそふたりのラップもくっきりと浮き上がり、またふたりの背中を押すこともできる。
【○】koedawg『YOUR $MILE MAKE$ ME $MILE』
2012.08.31 / 全17曲60分 / 256kbps(m4a) /
Twitter
koedawgこと、こえだちゃんの初ミックステープ。本作にも収録されている「wash the dishes」という曲が本当に素晴らしくて、でもラップそのものはヘロヘロで、60分と長尺だとかなり辛いことになるのではと恐る恐る聴いてみたら、なんとまあ杞憂だった。確かに聴く人を選ぶラップやテーマではあるが、全編で満ち満ちる素敵なモラトリアム感をここまではっきりと打ち出せるとそれはもう芸だ。"うるせーばか死ね"と連呼したり、卑猥な言葉を敢えて使ってみたり、PUNPEEやチェリー・ブラウンのフロウを借りたり、EVISBEATSのアイディアを引用したり、どうしようもないクズっぷりを自ら大声で発表するのだけど、その一方で、"クズツイートをふぁぼったりしてれば 昨日でも今日でもない午前3時"とそのダメダメ生活を粋な表現で活写する一面を見せ、なかなかどうして侮れない。君の笑顔が僕に笑みを浮かばせるとのタイトル通りに誰かに何かをどうしても求めてしまうこえだちゃんの泣きや罵倒、憤慨、諦念が混乱した形で表現されるだけではなく、ポップミュージックとしてしっかりまとまった楽曲としても並んでいて、不思議な魅力を湛えた作品だ。
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<まとめ>
2010年〜2011年1月〜8月分
Tegetther
2012年1月分
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2012年2月分
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2012年3月分
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2012年4月分
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2012年5月分
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2012年6月分
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2012年7月分
blog
・「JPRAP.COM presents "The Se7en Deadly Sins"」 →
記事(2011.05.26記)
2010年の主要フリーダウンロードミックステープについてもある程度まとめてある。
・「昨今の国産ヒップホップ・無料DLミックステープ事情」 →
記事(2011.09.30記)
2011年前半の作品に焦点を当てて書いた記事。
・「VA『Fat Bob's ORDER vol.1』」 →
記事(2011.10.07記)
記事の最後に名古屋関連のミックステープのまとめがある。
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